●失楽園 元々、人間は完璧な形で創生された筈だった。総ゆる祝福と愛を一身に受け、神に似せられたその存在の特別性を疑う理由は無いだろう。 永劫の楽園は『必要な』幸福に満ちていた筈だ。少なくとも、もし未来を理解し、時間をやり直せるのだとしたらば――人間(アダム)はかの誘惑の果実を口にしなかったに違いない。 「……理解するという事は、喪失する事にも等しい」 黒いカソック姿の神父は、特徴的な丸眼鏡の向こうの瞼を伏せ、静かな口調で呟いた。 悲鳴と怒号に満ちたその場所はまるで通常の状態を失っていた。時間がゆっくり過ぎるようなスイスの片田舎は、つい先程までは昨日までと変わらない平穏を湛えていたのに。嘘のような突飛さで、状況は最悪を極めていた。 「何故、人は理解しなければならなかったのか。 元来、自然界の営みには有り得なかった――善と悪なる概念を」 一面にぶちまけられた鉄分の臭気に神父は深い溜息を吐いた。 反吐が出る位に嫌いな『リベリスタ』が転がっているのは構わない。陰惨なこの現場を作り出したのが、自分達である事にも言い訳は無い。だが、彼は思案を巡らせずには居られないのだ。 悪逆の徒の走狗に身を落とし、知恵の実の定義した『悪』に手を染めている。だが、それを言うならば例えば――『彼等』の最初の行動は『善』だったのか。己の半生は、あの事件の時の決断は『悪』と謗られるようなものだったのか? 野生の獣は自らが生き永らえる為に他者を貪らずにはいられない。それを『悪』と談じるべきなのか。それも、『完全で完璧なる』神からの被造だというのに。 (……信仰(らくえん)に守られていた私の何と幸福だった事か) 己をせせら笑う程に強くなる嫌悪感は全く不可避のものである。 「神は死んだ」と語った哲学の巨人が何を考えてその結論に到ったかを神父は正しく理解しているとは思えなかったが――信じ切った世界が崩壊するその気持ちだけは、共有出来るものと思っている。 その癖、自分をこんな目にあわせておきながら――今更、魂を揺さぶるような目にもあわせるのだから、つくづく人間というものは業が深いではないか? 「……おいおい、神父さんよ。黄昏るのもいいが、仕事しちゃくれねぇか?」 ぶら下げた左腕の半ばから生えた宝剣を碌に振るおうともしない彼に、呆れたような言葉を投げかけたのは黒いスーツに身を包んだ細身の男だった。 「聖職者ってのは、これだからいけねぇや。傭兵は請けた分の仕事はするもんだぜ?」 男の気安さは同郷イタリアの出身だからなのかも知れない。 シチリア・マフィアの系譜に連なるこの男は神父と同じフィクサード。欧州で『黒い太陽』と畏れられる大魔術師の求めに応じて彼等は今回、リベリスタの町を襲撃した。彼等が持つ高純度の魔力の塊――『賢者の石』を奪取する為に。 「ミスタ・ジュリアーノ。私は必要に応じて仕事をしてきた心算ですが」 「ハッハ、確かにこんな木っ端アンタの出番じゃねぇか」 「遊んでるんじゃねぇよ」 軽快に笑うマフィア崩れ(カルミネ・ジュリアーノ)の一方で、不機嫌そうな顔を見せた男が居た。二メートルを超える巨躯にスキンヘッドが印象的な人物である。手にした巨大な鉄棒の先端には鋼鉄の棘が生えている。 「こんな高額の仕事滅多にねぇんだ。足引っ張りやがったら俺がテメェ等をブチ殺すぞ」 「おっかないねぇ、ホラーツの旦那は」 肩を竦めたカルミネにホラーツ・ゲラードは舌を打った。『牛飲馬食』の異名で知られる彼は、仕事も手段も選ばないフィクサードとして名高い。欧州最悪のビッグネームの下で仕事を遂行するこの三人がチームを組んだのはこれが初めてでは無かった。何れも一流と称して問題ないフィクサードである三人は、『黒い太陽』の実戦部隊としてエース格の存在であった。彼等は『黒い太陽』に忠誠を誓っている訳ではないが、報酬に対する仕事としては完璧なものを見せている。 「……しかし、歯ごたえの無い連中だぜ」 三人のフィクサードが急襲したリベリスタの町には凡そ百人を超える革醒者が存在していた。しかし、その戦力は限定的であり、彼等と彼等が引き連れたペリーシュ・ナイト――ウィルモフ・ペリーシュの兵隊とも呼ぶべきアーティファクト――に対抗するだけの実力は持ち合わせていなかった。 ホラーツは『遊んでいる』二人を恫喝したが、実際の所出番が無かったのは確かである。一方的展開で壊滅寸前の敵勢力に彼等の出る幕は無いのだから。 鼓膜を裂くような悲鳴が、間断無く続いている。防備の備えを持っていたリベリスタ達は良く健闘しているとも言えるが、それは彼等の寿命を引き伸ばしているに過ぎない。援軍の来ない篭城程無意味なものはなく、命運は既にほぼ決していた。 「さぁて、そろそろ仕上げるか!」 ホラーツの鉄棒が最後の砦となっていた教会の扉を吹き飛ばす。 「アレが今回のターゲットか」 『賢者の石』の存在を祭壇の上に確認したカルミネが唇を舐めた。 「チッ、面白くもねぇ」 中に居た数人の大人のリベリスタと小さな少女を確認するに、ホラーツは唾を吐き捨てた。 彼我の実力差は明らかで、それは試すまでも無い事である。何事か叫びながらホラーツに向かったリベリスタ達が一分も経たない内にモノ言わぬ肉塊に変えられた。 「こんな砂利、潰す価値もねぇけど、よ!」 恐慌し、ボロボロと涙を流す少女に獣のような男が歩み寄る。 「残酷なシーンだ」 顔を覆う仕草をするカルミネ。凶相を歪めるホラーツ。 「――お待ちなさい」 定められた運命に待ったをかけたのは神父の穏やかな制止だった。 「あぁ!?」 「……貴方は、『リベリスタ』なのですか?」 荒げられる声に構わず、四、五歳にしか見えない少女に神父は静かに問い掛ける。 少女は恐怖に表情を歪め、質問の意図を理解出来ずに首を振る。彼女が落ち着いて、真に答えを求めたならば――事実の方は知れなかったが。 「結構。では、この場を逃れなさい」 神父にとっては、その不明瞭な答えこそ――期待した通りのものだった。 「テメェ、何を勝手な事を……」 「我々の任務は『賢者の石』の奪取でしょう。 私がリベリスタを斬るのは、それが『嫌いだから』に過ぎない。 彼女は革醒者かも知れないが、リベリスタかと言えば……違うのでしょう?」 澱み無い神父の言葉にホラーツは顔を真っ赤にした。「おいおい」と苦笑するカルミネは、トラブルの予感に今日一番表情を引き締めていた。 「馬鹿馬鹿しい。そんな詭弁なんか知らねぇよ」 言い切ったホラーツが鉄棒を振り上げるのと、神父の切っ先が彼の喉を向いたのはほぼ同時の出来事だった。 「テメェ……」 「……私の結論は、告げた筈ですが」 「おいおい……マジかい」 反応は三者三様。 「裏切る心算かい、神父さん」 「いいえ? 『黒い太陽』のオーダーは、『賢者の石』を持ち帰る事です。 住人を壊滅させろと聞いた覚えはありませんからね」 カルミネの言葉に神父は首を振る。 『黒い太陽』は確かにチームの和等どうでも良いだろう。彼が期待しているのは結果に過ぎず、究極的には全ての駒の安否も些事に過ぎまい。状況の問題は――ホラーツがリーダーであること。ペリーシュ・ナイトの統帥権を有している方だ。 「どうやら――死にてぇらしいな」 「ええ、大分昔からね」 黒神父はそう言って――やや自嘲気味の笑みを浮かべた。 (成る程、人間というのはかくも欺瞞に満ちたるものか) 信仰を捨て、正義を唾棄し、この世の『善』に背いても――感情一つで揺れてしまう。自分を構成する全ての要素が『それ』にだけ拒否反応を示している。数多の人間を斬り捨てておいて、子供の一人だけ見逃したがるのは偽善に過ぎまいに。 禁断の実を齧ったその時から、人間(ひと)は永遠に安寧を失った。 単純(シンプル)に生きる事は最早、叶わず。 迷宮を彷徨う有様は無責任な苦痛にばかり舗装されているだろう。 「……まったく、善悪の彼岸はあな遠い」 深淵と称すれば、それまで。 しかし、人間は難しい。これではまるで―― ――都合のいい時だけ、大嫌いなリベリスタの真似事みたいではないか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月19日(日)22:30 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●此岸I 死と破壊なるこれ以上無い位に分かり易い破滅の蔓延した街は異様な気配に包まれていた。 リベリスタの仕事というものは多かれ少なかれそういった血生臭に塗れているものだが――今日、アークの精鋭というべき十人のリベリスタが訪れた場所はその中でも特筆すべき程の禍々しさを帯びていた。 本日のリベリスタ達に与えられた任務(オーダー)は『賢者の石』の獲得だ。この所頻発する同種の業務の多くと同じように、その競合相手は『黒い太陽』の異名を持つウィルモフ・ペリーシュという大魔道である。バロックナイツの『一位』としても知られる彼の歪んだ鬼才は改めて語るものでもない。詰まる所、多数の犠牲者が今日も否めなかったという――何処にでもある冗長な悲劇は、毛先程も特別なものとは言えないのだろうが。 「酷ぇ、よな。難しい事とか関係なしによ」 ポツリと呟いた『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)の言は非常な実感が篭っていた。 何が悪くて、何が良いか。哲学的に語るならば正義も悪も肯定も否定も途端に不定形に姿を変える。さりとて、人間が獣ならず生きて、考えて、行動する時に――少なくともペリーシュの行状は肯定されまい。 「どれだけ憤っても、どれだけ嘆いても――変わらないものは変わらない。 だけど、変えられるものはこの手で全て変えられる。きっと、そういう事なんだろうな」 普段は朗らかで人当たりのいい表情を鉄面のように硬くした『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の言葉は、現場で生じた吐き気催すまでの理不尽と、自己の正義へのアンチテーゼに少なからぬ怒りを燻らせていた。 アークのリベリスタ達が『賢者の石』抗争の現場となったスイス山間部の田舎町に到着したのはつい先程の話である。ブリーフィングの情報によれば、ペリーシュの自律型アーティファクト『ペリーシュナイト』十体を統率するのは『牛飲馬食』ホラーツ・ゲラード、『シチリア・ブラッド』カルミネ・ジュリアーノ、そして『黒神父』と呼ばれるフィクサード、パスクァーレ・アルベルジェッティの三名であるという。前二名は直接的にアークが相対するのは初めての相手だが、残るパスクァーレについてアークは決して浅からぬ因縁を持つ相手でもあった。 「……状況は、うん。大体想定してた通りだぜ」 「善とか悪とか。人の心はそんなのでは一概に割り切れるわけがない。 偽善だろうがなんだろうが、守りたいから守る、それは十分以上の理由だろ」 千里の魔眼を備えるフツに応え、状況を解した『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が実にシンプルに言い切ると、『足らずの』晦 烏(BNE002858)は静かに一つ頷いた。 「荀子曰く『人の性は悪なり、その善なるものは偽なり』ってな」 善は作為によって成されるもの。元来人には備わっておらず身につけるものであるからこそ根が深いと。 敵の総戦力は先述の通りだが、夏栖斗や烏の言葉はこの状況にアスタリスクをつけている。リベリスタ側にとって付け込む隙と言うべき事項は、ホラーツとパスクァーレがこの街の生き残りの少女の処遇を巡って一瞬即発の対立状態にある事だった。 「あの方らしいと言えば、らしいのでしょうが……」 多数の殺戮を肯定するような仕事を請けておいて、唯一人の少女の身柄に拘る辺りは偽善を通り過ぎて最早滑稽の領域だ。さりとて、曖昧な苦笑を浮かべた『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)はアークと神父のこれまでの関わりより彼が何故そういう行動に出たかを余りにも容易に理解し得た。 「……それも又、人間ですか」 恐らくは自身でも唾棄しているであろう神父のその惰弱は、フリークスならぬ人間を思わせる。 とは言え、敵は総じれば任務の遂行を意識している三名の有力フィクサードと十体のペリーシュナイトである事に変わりは無い。味方陣営は何れも劣らぬアークトップクラスのリベリスタが十名揃ってはいるが、単純戦力のぶつかり合いでこの敵を突破するのは難しい。リベリスタの動き次第でホラーツとパスクァーレの諍いもどう転ぶかは微妙な局面であるし、ターゲットである『賢者の石』がフツが見据えた教会の中――つまり敵の掌握するエリアにあるという部分も大きいと言えるだろう。 「綱渡りだね、何時もの事だけど」 従って、端的な夏栖斗の言葉はリベリスタ側の当然の結論だった。 純粋戦力と地の利の両面で劣るリベリスタ側が立案した作戦は緻密な奇襲である。唯でさえ少ない戦力を割る事はリスクを高める部分もあるが、彼等は外に存在する戦力の抑えにフツと快を置き、夏栖斗、ユーディス、烏を地上よりターゲットの教会へ突入させ、更には 『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)、『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)、 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)、『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)、『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)から成る肉薄強撃の主力を小夜の翼の加護で空から落とすという三段構えのプランを練っていた。 「……後はタイミング次第って訳さね」 烏が視線をやった彼方の空には首尾良く上空から教会上部へ回り込んだ仲間達の小さな影が佇んでいた。 敵側からすれば現状は『簡単な仕事のエンディング』に過ぎない。リベリスタ側にとって何より有利だったのは、敵側の警戒が非常に緩い事――フツの監視、戦力配置も含め自分達の仕事がつつがなく進んだ事だと言えるか。 「さっきはあっちにいた敵が、今はこっちに動いてるな……そろそろだ」 自律型と言えどそう高度なものではないのかも知れない。パターンを読んだ短いフツの言葉に仲間達は頷いた。 ペリーシュナイトの注意が逸れたその隙に教会までを駆け抜ける。 第一の関門は地上の戦力を可及的速やかに、可能な限り完璧に教会まで突き刺す事である。 「――行くぜッ!」 鋭い声と共にまず物陰から飛び出したのは――フツと快の二人だった。 ●此岸II 「邪魔はさせないぜ!」 一喝と共に魔槍深緋を振るったフツが戦場の空気を軋む程に縛り付ける。 頭上に展開した大呪の証より鞭のように呪念を伸ばした彼の一手が敵側の対応をこの時確実に遅らせた。 硬質同士がぶつかり合う鋭い音が響き渡る。 悲鳴と喧騒に満ちた悲運の田舎町の旋律は、僅かな切っ掛けだけを理由に勇猛な戦いのそれに姿を変える。 「行け――ッ! 相棒ッ!」 「サンキュー!」 異物の存在を知覚したペリーシュナイトが夏栖斗目掛けて放った矢を進行方向に入った快が弾き飛ばす。 同様に剣を構えて襲撃してきた個体を彼のラグビー仕込みのタックルが激しく阻止した。 僅か数十メートルの距離を全力で駆け抜ける。 フツと快、外の抑えを二人に任せて教会の扉を蹴破るのは夏栖斗、ユーディス、そして烏。 「どうも、正義の味方です」 冗句めいた夏栖斗、余りに派手なヒーローの登場に教会内の全員が咄嗟の視線を向けた。 「大丈夫だから、歩ける?僕たちは君を助けにきた、だから安心して」 夏栖斗が柔らかく少女に言う。彼女は神父やホラーツを前に動くに動けないのか頷く事でこれに応えた。 「何だテメェ等は――」 「……月並み極まる台詞ですね。あちらも、こちらも」 只ならぬ強敵の登場に殺気を強めたホラーツと、心の底からうんざりしたような神父の声は対照的だ。 リベリスタ達が何を考えてパスクァーレが現状の行動――少女を背後に庇うような真似――をとっているのか理解しているのと同じように、彼はアークが何故ここに居るのかを一瞬で看破していたと言えるだろう。 「無駄なお喋りと謗られるやも知れませんが……」 油断無く金の槍を構えたユーディスは意図的に誰ともなしに言った。 「本件は『異端抹消(チェネザリ)機関』の案件になったようです。 しかし、この場は我々がお相手するという事です」 「そうそう。誰がそうしたかって僕みたいな末端にはわっかんないけどね」 ピクリと眉を動かした神父は彼女が言わんとする所を鋭敏に察している。つまる所、それがチェネザリ枢機卿とアゴスティーノ枢機卿の『綱引き』の結果であるのは神父にとっては想像に難くない結論だろう。 「つまり、テメェ等は『ヴァチカン』の犬って事か」 「……そう単純な事態たぁ思わないけどねぇ」 直情径行なホラーツの結論にカルミネが肩を竦めた。 値踏みするように突入した三人を眺める彼は実に愉快そうに言った。 「『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨夏栖斗。『足らずの』晦烏。 もう一人のお嬢さんは直接知らんが――気配からして腕前は只者じゃない。 いやいや、アンタ等は『ヴァチカン』の犬じゃないだろ。そこん所どうなんだい、『お友達』の神父の旦那」 飄々としていながら抜け目は無い。カルミネのふざけた言葉に神父が「反吐が出る」と殺気を向けると、彼は「怖い怖い」と肩を竦めた。彼は事情を理解している節はあったが、ホラーツは限界のようだった。 「まずはコイツ等からだ。まさか異論はねぇな、クソ神父!」 獰猛に歯を剥き出したホラーツに応え、教会内部の四体のペリーシュナイトが動き出した。 「折角、お知り合いになれたけどな、有名人!」 「……ッ!」 カルミネの正確無比な連射が前衛に立った二人を削る。 教会の入り口付近に布陣した二人に怒涛のように攻めかからんとするペリーシュナイトの圧力は強烈だ。 だが―― 「――撃ち合いで遅れを取る心算は無いんでね」 その敵陣の機先を鼻差制して烏の放った閃光弾が敵陣の中心で炸裂した。 (ここまでは完璧さね。さあ、後はあちらさんと彼次第か――) 彼等の目的は『賢者の石』の奪取である。お喋りも搦め手も少数の戦力で敵を引き付ける為の手段に過ぎない。しかし、烏の素晴らしい直観は自身の放った閃光を紙一重外し、チラリと上を見た神父の挙動を見逃さなかった。 (……お互い様か。戦い慣れてるってのは難儀なもんだ) 神父はアークがどういう戦力体制で任務に及ぶかを熟知している。 詰まる所、この場に現れたのが三名ならば――消去法で奇襲が来る事は理解している。 しかし、今回は幸いに千里眼を有していなかったのだろう。それが何処からかを結論付けてはいない様子。 「……思ったより、やりやがる……!」 唸るホラーツが閃光に眼をやられながらも行動の束縛は受けずに動き出す。 彼を含めた敵戦力が入り口の地上班に前のめりになる時を――『彼等』はずっと待っていた。 ●此岸III 蒼穹より青い雷撃が降って来る。 一直線に、誰より速く。自由落下の時間は加速に加速を重ね。 唯一つの目標、薄皮の天井一枚が阻む宿敵への最短距離を渇望する。 「神速斬断――竜鱗細工ッ!」 誰よりも純粋にこの場を求めた鷲祐は己が運命に続く道をその手を以って切り拓いた。 「……ッ!?」 室内に降りかかる瓦礫にカルミネが怯んだ。 瓦礫の山の上、喧騒の中心に、言わずと知れた五人のリベリスタ達が着地する。 「リベリスタ、新城拓真。参戦する」 短い言葉に強い意志が込められていた。 「待たせたな」 鷲祐の言葉は、果たして仲間達に向けたものか。それとも。 「……フリーフォールとは、味な真似を」 何時かを思い出し、口元を僅かに歪めた黒き宿敵に向けられたものなのか―― 「『剛刃断魔』、参る」 一切に無駄な言葉も無く、唯結論だけを告げた臣が地面を蹴った。 小さな体のそのバネを最大限に生かす――生来不器用な彼の渾身の一撃は、初のそれにして終のそれ。腹芸も好まず、到底為し得ない――ある意味で姉達よりも更に蜂須賀らしい少年の一撃は、真っ直ぐに敵の首魁であるホラーツへ向く『120%』である。 「はッ――!」 「く、おおおおおおおお……ッ!?」 完全に不意を打たれる格好で臣の肉薄を受けたホラーツが反転し、辛うじて得物を噛ませる事でその威力を減衰した。だが、爆発的な威力を誇るデュランダルの一撃の余波は彼の巨体のバランスさえ大きく崩させ、それをよろめかせる事に成功していた。 「作戦通りに――」 小夜の視線が教会の隅で震える少女の姿を捉えた。リベリスタの任務は『賢者の石』の獲得であり、少女の保護ではないが――それは言うに野暮というものである。正義の味方が無辜の少女を救いたいと考えるのは何の不思議も無い事だ。 「……成る程」 一瞬、呟いた神父と小夜の目が合う。 ここは出し惜しみ無く、神の救済たる救いの呪を紡いだ彼女は油断無く彼の様子を見据えている。 一方で拓馬と竜一の二人は敵の混乱の隙を狙い、『賢者の石』の奪取を図る。 「止めろ、馬鹿野郎ッ!」 「……其方の相手は僕の筈だ!」 怒鳴るホラーツを臣が抑えている。 事これに到ればリベリスタ側の作戦と目的が何処にあるのかは明白だ。 圧倒的に不利な情勢から鮮やかな奇襲を決める事で一時的な混乱と挟撃を作り出した彼等ではあるが、外の戦力はフツと快の二に対してペリーシュナイトが六。長く持たせるのは至難の技なのだから、何れにせよ電撃戦は必要不可欠な想定である事は変わっていない。 「いちいちやかましい」 鼻で笑った神父が奇襲に怯まなかった分だけ、二人に僅かに先んじた。 『賢者の石』を黒鎖で絡め取らんとした神父を竜一の牙が狙っていた。 「女の子と石、どっちも大事。どっちも確保だ――!」 ある意味で誰よりも分かり易く、強固に結論を述べる竜一には揺らぎが無い。 その両の手に剣を構えた彼の二閃が強烈な力の閃光を撃ち放つ。神父は彼等パーティの中で優先的な攻撃対象では無かったが、状況から石の争いは彼とのものになったという事だ。 「……温いッ!」 左手より生えた魔剣が圧力の塊たる光の束を二つに裂いた。 着弾前に切り裂かれた一撃はその余波で神父に多少のダメージを与えるも、彼を止めるには到っていない。 「これからだろ?」 だが、二の矢たる拓真が狙う刹那のタイミングを竜一の一撃は十分に作り出していた。 縦に振り下ろされた神父の切っ先が構えに戻るより先に、 「……届くッ!」 転がるように飛び込んだ拓真の手が『賢者の石』を祭壇から弾き落とした。 「……く……!」 神父の対空砲火を潜り、紙一重の差で掴むに到らなかった赤い輝きが光を増していた。 「……あ……」 何故かを問う事は恐らく意味を成さないだろう。 未熟な革醒者は唯魅入られただけだ。赤い、その煌きに。 「……つまり、両方セットになったって訳だ」 嘯いた竜一が見たのは、その石を拾い上げた少女の姿である。 位置関係的に彼女は神父の後ろ。 刻一刻と状況を変化させる至上の乱戦状態となった教会内部は混乱に混乱を重ねている。 「全く、厄介な状況だが……やらねばならんのだから、仕方がないな」 剣を構え直した拓真は黒衣の神父を強く見据える。 (我ながら不謹慎極まるが――この剣士を前にして、滾らぬと言えば嘘になるな) 任務への忠勇と、己が武道への渇望の双方を湛えて、彼は腹の底よりせり上がる力感を否定し得ない。 「状況は随分単純(シンプル)になったな? パスクァーレ・アルベルジェッティ」 「驚異的だ。貴方達は驚嘆に値すると言っても過言ではない」 薄く笑む鷲祐、姿勢を戻した拓真、竜一を神父が見据える。 その唇に乗る賞賛は賞賛でありながら憎悪をも帯びていた。 「だが、ゆめ忘れるな。リベリスタ。貴様等が私を倒さぬ心算でも、私は貴様等を斬れるのだ。 この戦いは、争いは――感動的なヒューマンドラマでは終わらんぞ?」 ゆらゆらと揺れる黒色のオーラは、パスクァーレなる男の抱える妄執だ。 此岸にあるリベリスタと、彼岸に居るパスクァーレ。かつて信じたものが同じならば、堕落した己の姿に覚えるのは、己の過去を見るかのような光の眩さに覚える感情は――嫉妬とでも呼べば正しいのだろうか? ●彼岸I 「纏めて――止まれよッ!」 吠えた竜一の双剣が教会内を烈風に飲み込んだ。 鍛え上げられた彼の武技が為す大技は――些か乱暴に、些か無差別に周囲を荒れ狂い、破壊の渦を作り出す。 「……ったく、毎回毎回『いい相手』ばかりだな!」 堪えない竜一はそれさえ「上等」と笑っている。 伊達や酔狂でアークで一、二を争う程戦ってきた訳では無いのだ。 どんな絶望的な状況も、どれ程に不利な状況も、彼を折るには到らなかった。 それが間違いないたった一つの現実なのだ。 激しい乱戦は強烈な消耗戦の様相を呈していた。 「……もう少し、頑張って下さい……!」 パーティ側が乱戦を『作り出した』アドバンテージは最も小夜の存在に奏功していた。 不完全ながら挟撃を受ける格好となった敵教会内戦力は状況上、それぞれの連携を阻害されている。一方で己のタイミングで突入を果たした上空班は、パーティの要である小夜を比較的安全なポジションに置いて継戦能力を維持する事に成功していた。 (……しかし、状況は苛烈過ぎます……!) だが、実情は当の小夜が危惧する通りである。 初撃の混乱から立ち直った敵陣営は入り口側をカルミネ、ペリーシュナイト二体に任せ、後背をホラーツ、神父、ペリーシュナイト二体で対応する事で徐々に態勢を立て直していた。 小夜が如何に尽力すれども、敵側が本格的な攻勢に移れば近い綻びは否めまい。非常に危険である。 内部での戦闘状態は比較的拮抗しているが、外から敵増援が来るのは時間の問題だという部分も重い。 『そっちはどうだ!? こっちは……頑張る!』 『……っと、こういうのは十八番だからね』 『ウヒヒ、そういう事!』 通信機越しに伝わる戦況は音のみだ。しかし、フツと快が努めて心配をかけまいとしているのは分かる。多勢に無勢を奮闘し、事実ここまで妨害を許していない二人の奮戦は賞賛するに値するが、それも何時までか。 運命の掌の上を転がる赤い石の狂騒曲は少しずつテンポを早め、山場へと近付いていた。 こうなれば是非も無い。パスクァーレと戦わずして『賢者の石』を手にする術は無いのだ。 下手な手を打って少女を巻き込めば事態の行く先は更に不明になる。『少女』と『賢者の石』の双方を纏めて獲得出来る状況が作られたのは吉と出るか凶と出るか―― 「――シッ!」 鋭い呼気が間合いに弾む。 左右上下、鷲祐のステップが神父を翻弄せんと神速のビートを刻む。 「そこだ」と繰り出された左の魔剣が鷲祐の青い影を切り裂いた。「遅い」と応えた彼は瞬時に神父の後背を取っている。繰り出された爪牙を右の黒鎖が激しく弾く。「速いが、軽い」。 見事な応酬を演じるのは鷲祐だけでは無い。 「神父、あなたは……」 キン、と高く鋼が啼き喚く。 「以前のあなたはもっと研ぎ澄まされた刀剣の様だったが――今のあなたは随分と人間らしくなった」 拓真と剣戟を響かせる神父は自嘲気味の表情で告げる。 「それは、侮辱ですか。リベリスタ」 「いいや。人の剣には迷いがある。迷いの無い剣は――フリークスのものに違いない」 迷いを惰弱と切り捨てた過去の拓真ならば、それを認める事は苦痛に違いなかっただろう。 しかして、今の拓真はそれ程までには焦っていない。神父の剣が迷いで錆びたとするならば、迷いさえも認めた――人なる、己の道に受け入れた拓真のそれはその鋭利さを増していた。幾度かの攻防から、一撃が魔剣を跳ね上げた。すかさずの横薙ぎは浅く黒いカソックを切り裂いたが――鮮血を散らしても神父は苦痛の声も上げない。 「何してやがる……ッ!」 ホラーツの怒鳴り声が一同の鼓膜を揺らした。 彼が酷く苛立ちを強めている理由は、目前の臣にあった。 「はぁ、はぁ、は――」 「しつけぇガキだぜ……」 荒い呼吸と隠しようもないダメージは彼とホラーツの実力差を物語っている。さりとて、愚直なまでに屈しない彼の童子切も又、ホラーツに確かな痛打を刻んでいた。支援型のペリーシュナイトは教会内の戦力の建て直しを図っているが、流石にこの性能は小夜に比すれば劣るものだ。 「何をしているって旦那、何してんだっつーならそんな子供とっとと片付けておくんなよ」 踏み込んだユーディスの黄金槍の穂先を辛うじて避けたカルミネが抗議めいた。 「おっかないお嬢さんだね」 「素直に褒め言葉と受け取っておきましょう。しかし――」 「――逃がさないよ!」 「……ってぇな!?」 夏栖斗の蹴撃がペリーシュナイトとカルミネを纏めて貫いた。 技量に優れるユーディスと抜群の体力を持つ夏栖斗のダブルフロント、そしてその後方から精密極まる痛打を加える烏という陣形構えは少なくともこの挟撃が機能している限りは簡単に崩せないものである。 (……手強いですが、これならば何とか。やはり、神父の性格が幸いですが) 頭脳明晰なユーディスは状況を的確に把握している。 リベリスタ側も傷んでいるが、フィクサード側も苦労していないとは言えないだろう。彼女の考える通り、もし仮に強烈なスタンドアローンである神父が『他者回復』等を始めれば状況は一変するだろうが、この男(エゴイスト)の場合それは滅多に無い事である。 「まだ起き上がるんだろ?」 叩きのめしたペリーシュナイトを見下ろして不敵に竜一。 「何故、それ程までに戦うのですか? 他ならぬ貴方達ならば、この世界には救いも赦しも無い事は分かっているだろうに」 パスクァーレの言葉にホラーツの一撃に壁まで吹き飛ばされた臣が答えた。 「理由が、必要か」 運命を青く燃やし、血を吐くように言う。 「逆に僕が問おう、パスクァーレ。 何故、その少女を助けようとする心がありながら、何故黒い太陽などに加担するッ!」 「愚かな事を」 「何が愚かなものか!」 臣は両足に力を込めて立ち上がる。己より強大な敵を見据え、一歩も退く心算は無く。 「その研究が完成すればその少女や、それ以外の者にも多大な犠牲が出る事に疑いなどない。 それをわからない貴様ではないだろう!」 「全てが理屈で片付くならば、私は最初から惑っていない。 全てが理屈だけで片付くならば、私はとうの昔に自ら命を絶っていた筈だ。 少年よ、君は若い。憎悪というものが、どういうものだか分かっていない」 パスクァーレは諭す調子で言う。その顔に他ならぬ己への嘲りばかりを張り付けて。 「最初はリベリスタだけが憎かった。しかし、次は人間そのものが憎くなった。 フィクサードが憎くなった。やがて、この世界そのものが憎しみの対象になった―― 発端が何処かは関係ない。憎悪は増殖するウィルスのようなものだ。 そんな私が少女を手にかけたくない等と考えるのはくだらない感傷(わがまま)に過ぎないのだ」 彼はそれを「私はフィクサードだ」と否定する。 「くだらない感傷でも、大層な理想でも同じですよ……!」 疲労の色を隠せない小夜が口を挟んだ。 「人を救うのに、リベリスタかフィクサードかなんて関係ないです。 フィクサードにも守りたい人とか居てもおかしくないですし。 リベリスタでも時として弱き人を討つことはあります、その職責故に…… ……だから黒神父さんは何も悩む必要ないと思うんですけど、ね」 そんな優しくも残酷な言葉に神父の顔が歪む。 アリーチェ・アルベルジェッティは苦渋の末に処理された。 そんな事は当時から分かっていた。必死で謝罪しながら自身を追う友人の表情の意味を考えなかった訳では無い。リベリスタかフィクサードかの括りは必ずしも善悪の結論を示していない。 何故ならば――彼等は、自分達は人間に過ぎないからだ。 「人は弱いかも知れません。人の世は、美しいとは言えないのでしょう。ですが」 何故、自分達がここに居るかを――ユーディスは分かって欲しかった。 否。恐らくは神父自身分かってはいるのだろう。かの優しい恩師のその想いを。 「少女を助けたいと言う気持ちは尊いもんだ、ならそれで充分だろ。 相手が誰であろうとも、己が悪と断じたならば、躊躇う事無くそれを斬れ。 復讐は何も残さないが、だからと言って辞めろなんて言うのは筋違いだろ。 運命に裏切られた、正義に裏切られた君は恨み言を晴らす程度の資格はあるさね。 唯――な。唯、何だ。パスクァーレ神父、君のその『矛盾』をおじさんは否定しないのさ。 『矛盾』大いに結構。その選択は、味方したくなるモンだって事は覚えておきなさいよ」 「……くだらない」 ややあって、そう言った神父は次の瞬間には凄絶な修羅の表情を浮かべていた。 「我々は永遠に交わらぬ平行線だ。私に敵があるとすれば――それは貴方達に他ならないのだから!」 彼は問う。振り向かず、自身の背後で震えていた少女に問い掛けた。 「君は、リベリスタですか?」 「……はい」 混乱から立ち直った少女は小さく頷いた。 リベリスタの街の革醒者の生き残り。『彼女が何者であるか等、最初から神父は理解していた筈だ』。 短いやり取りは、神父にとって世界との隔絶さえ感じる程に重く痛い時間だっただろう。 「そうですか」と呟いた彼は左手の魔剣を高く掲げる。 「リベリスタ、貴方達の意志が私のそれを超えると言うならば、その実力で示すがいい」 その構えはリベリスタ達の初見では無い。己を含め――己の憎む全てを斬り伏せる殺意の風。パスクァーレ・アガペーは彼の周りの誰も逃さず、許さない。最大の危険。少女に敢えて問うたなら、それは。 しかし。 「司馬鷲祐、貴方は私より速いのでしょうね」 付け足された余計な一言が鷲祐の唇に笑みと高揚を刻ませた。 「無論」。そう応えた彼が飛び出したのと神父の殺意が爆発的に増大したのは殆ど同時だ。 「おいおいおいおい……!」 「チッ、暴れやがって……!」 カルミネとホラーツが舌を打つ。教会内で『そんなもの』を放たれればどうなるか分かっている。 流石の彼等もこれを受けるのは余りにも手痛い。近くのペリーシュナイトを盾に防御の構えを備えた。 だが、それは取りも直さず――敵の圧力が減じたという状況に直結している。 夏栖斗、ユーディス、烏。後背に入り口を背負う三人はすかさず神父から距離を取る。 「……っ……!」 「大丈夫。『俺』だ」 小さく怯えに息を呑んだ少女に鷲祐が優しく微笑む。 「後は――頼んだッ!」 「応、任されたッ!」 鷲祐、拓真の声が放たれたのと鷲祐の体が青くブレたのは同時だ。『大仰な構えで隙を見せた』神父の横を雷撃は一瞬で駆け抜けた。彼が少女をその背に抱えたのと、全周に殺意の嵐が吹き荒れたのはほぼ同時。 『教会そのものまでを滅多斬りにした』神父の一撃は建物自体を崩壊させ、そこを屋外へと変えていた。 誰より自身を痛めつける痛撃にパスクァーレがぐらりと揺れた。リベリスタ陣営も運命に縋るを余儀なくされたが――乱れに乱れたフィクサード陣営の様子は彼等にとって待ちに待った好機である。 「――退くぞ! つーか、こっからが肝心だ!」 「こうなれば、長居は無用です!」 状況を察知した竜一、小夜の声にリベリスタ達の動きは迅速だった。 「あっちの方角が手薄だぜ!」 撤退の為の戦いだったのだ。 ホラーツの怒号を背に――リベリスタ達は迷わない。当然、外のフツには一切の余念も無い。 ●彼岸II 正義に懊悩する人は言う。 「リベリスタだフィクサードだで争う俺達には、善悪の彼岸は遙か遠い」 己が無力さを噛み締め、それでも深淵の淵に留まる男は言う。 「俺はそんな彼方にある概念よりも、自身の内にある、そうあれかしと願う善意の方が尊いと思うよ」 守護神と呼ばれ、何一つ守れない事を知っているリベリスタは言う。遠く届かない彼に言う。 「想いに力は無い。想いだけじゃ何も叶わない。理想は残酷な呪いで――でも、それこそが人を動かすのだから。 時に衝突する。けどその中で。より良い『善』を模索し続ける事が、生きる事に課せられた使命なんだと思ってる」 新田快は言った。 「いいじゃないか、どれだけ惨めでも、無様でも――」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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