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卑劣な牙


 戦場の奏者。
 其の言葉は並ぶ仲間達の心を賦活し、性能を上げる。
 其の頭脳は如何なる状況であろうとも勝利に繋がる道筋を見つける為に止まらない。
 更には最善手ばかりを信仰せず、自らの知恵と策に溺れない。
 客観的な正解が、効率よく辿り着いた答えが、自分や仲間が真に求めたモノと時にずれてしまう事を知っているから。
 彼女、戦場の小さな指揮者、ミリィ・トムソン(BNE003772)は知恵と柔軟さを脳に、優しさを胸に、そして手には果て無き理想を握って。

 其れ等は決して彼女だけの武器では無いけれど、ミリィはアークでも有数の、延いては国内でも名の売れた戦闘指揮者の1人である。
 ある日そんな彼女に申し訳無さそうに託された一つの依頼があった。
 まだ未熟な年若いリベリスタ達を率いて発生した然程危険度の高くないエリューションを退治するという、精鋭の1人を引っ張り出すまでも無いような依頼。
 上位者の動きを見せる事で、本物の指揮を受けて戦う事で、彼等のレベルと意識を一段高いところへ引き上げたいと言う彼等の担当フォーチュナの願いに、彼女は一つ頷いた。
 しかしそれこそが悲劇の引き金。
 彼女がその道で名を知られていると言う事は、其の首には名の重みと同じだけの価値があると言う事なのだ。
 未熟なリベリスタ達を世話する、同じく未熟なフォーチュナには其の事実が読めなかった。故に其の先の未来も。


 一日が終わり、一日の疲れを拭う為の、一日を頑張った自分へのご褒美の、グラスに溢れんばかりに注がれ、受け皿代わりの升にすらなみなみと満ちた酒に手を伸ばすは新田快(BNE000439)。
 けれど、なのに、其の手を止めさせたのは突如として響く異音。
 月の下、緩やかな時を過ごしていた新城・拓真(BNE000644)と風宮 悠月(BNE001450)がアクセスファンタズムが鳴らす緊急コールに顔を見合わせる。
 更にはコンビニである雑誌を買う為に、女性店員が居なくなる瞬間を今か今かと待っていた御厨・夏栖斗(BNE000004)も……。
「何用だ?」
 そして誰よりも早く、驚かず、騒がずに、アクセスファンタズムの緊急コールに応じたのは酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)。
 無論何の用であるのかは問わずとも判っていた。
 まさかこんな時間にアークのフォーチュナである『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)がアクセスファンタズムで連絡を取ってくる以上、任務以外にあろう筈がない。それも緊急を要する。
 故に先の雷慈慟の言葉は逆貫の発言を促させる為の、余計な前置きは不要であるとの意図をこめて。
『ああ、察しの通り緊急の要請だ。諸君等も知るリベリスタ、ミリィ・トムソンが同伴した一隊が任務終了後に、そう、もう間も無くだが賊軍の残党に強襲を受ける。至急救援に向かって欲しい』
 だがそれに応じた逆貫が口にする案件は、動じぬ知恵者、雷慈慟の予想以上に逼迫した物だった。

 ミリィが同伴するリベリスタ達の、夜の地下鉄路線に発生したエリューション退治は何ら問題は起きず、寧ろ想像を超えてスムーズに完了した。
 本来ならば苦戦必至であろうエリューションに対して、けれどもミリィの指揮を受けたリベリスタ達は相手を圧倒してみせたのだ。
 避けられぬ筈の攻撃をミリィの咄嗟の指示で避け、戦場を奏でる指揮のリズムに合わせてみれば敵が反応できぬタイミングで攻撃が相手の身体に吸い込まれて行く。
 消耗らしい消耗もせずに任務を終えた彼等。

『けれどもそれでも彼等は不幸だったと言うしかない。何故なら今より彼等を襲うフィクサードの狙いは唯一つ、指揮者として名の知れたミリィ君の首であり、他のリベリスタ達はただ撒き沿いを受けるに過ぎぬのだから』
 ミリィ等を襲うのは賊軍残党は……、血の気の多い単純な暴力を好む物が多かった旧裏野部の中でも一風変わった他人を使う事を得手とする者。
 血が流れるを好む性質は他の裏野部達と何ら変わらずとも、血に酔わず、機を見るに敏であった彼はあの大戦から真っ先に逃れ得た。
 そして彼は今こそを機と見てミリィを狙う。名の知れた指揮者を破る事で己の価値を高める為に。
 他の組織に知恵を売るにしろ、闇に紛れて生きるにしろ、『戦奏者』を上回ったと言う評価はこれからの彼にとって大きな切り札になり得るから。
 未だ未熟なリベリスタ達を担当する未だ未熟なフォーチュナは、事件以外の情報を読み取り切れず、また敢えてアークの精鋭を標的とする敵が居るなど想像する事すら出来なかった。そして事件の担当者で無かった逆貫は、それが故に察知に遅れた。
 万華鏡を擁する事で情報戦に勝る筈のアークがまさかの後れを取ったのは、運命の揺らぎ以上に人的失敗が重なっての事。
『詳細情報はこの通信終了後にメールに添付して送る。至急現場に向かって欲しい。この窮地は我々のミスが招いた窮地だ。諸君等には大変申し訳なく思うがどうか彼等を救い、我々に彼等への謝罪のチャンスを与えてくれ』
 居酒屋のテーブルには、手をつけられなかった酒の横に紙幣が一枚置かれている。席の主だった快は一杯の酒を飲み干すよりも戦友の窮地を即座に選んだ。
 夏栖斗もエロ本を買うのにタイミングを窺っていた、先程までのおどおどした挙動不審な姿はどこへやら、夜道を駆けるその顔は歴戦の戦士。
 繋いでいた手を離し、拓真と悠月が並び立つ。夜闇が闘気に張り詰める。睦言を交える時間は中断された。けれど先程よりも強く絆を感じさせる、唯の恋人では無く幾多の死線を共に潜り抜けた者同士であるからこその、二人の強い信頼関係。
「委細承知」
 雷慈慟の言葉を最後に通信は終る。
 思うところがあったとしても、それを口にするのも時間が惜しい。頭脳がめまぐるしく動き出す。
 今宵、風が冷たさを帯び始めたこの夜に、月の光すら届かぬ地の底で、悪意の残滓が戦奏者に牙を突き立てるまでに、残された時間は恐らくもう決して多くないのだから。


 メールに添付された資料。

 リベリスタの小隊は枝分かれした地下鉄路線の行き止まりであるA地点に居り、退路を敵Aグループに塞がれている。
 A地点に向かう道は2つあり、其々を敵のBグループ、Cグループが塞いでいる。
 Bグループ、Cグループのどちらか片方のみが戦闘状態になった場合、戦闘状態にならなかった敵グループは目標であるミリィ・トムソンを狩る事を急ぐ為にAグループの増援に向かう。

 A地点のリベリスタ側戦力はミリィ・トムソン以外に4名。
 皐・宗次:アークリベリオン×ジーニアス 男性15歳。
 佳良・澄:クリミナルスタア×ジーニアス 女性16歳。
 宵戯・卓也:ダークナイト×ジーニアス 男性18歳。
 マイア:ミステラン×フュリエ 女性??歳。
 レベルは20、ランク1スキルは全て修得済み、初期段階での消耗は軽微で士気も高い。



 A地点の賊軍残党側戦力はリーダーである九・変と他4名。

 フィクサード:『卑劣』九・変
 犬のビーストハーフ、プロアデプトの賊軍残党フィクサード。
 高いレベルの戦闘指揮、鬼謀神算等を所持する他、一部のランク4までのスキルを使用する。

 部下はデュランダル、ソードミラージュ、スターサジタリー、ホーリーメイガス。戦闘能力はは35レベル相当で、ランク3のスキルも幾つか使いこなす。


 B地点の賊軍残党側戦力は岳業をリーダーとする土隠が合計で3体。

 土隠
 古い時代に封印されたまつろわぬ民と呼ばれるアザーバイドの一種で、動物の毛皮を被ってはいるが普通の人型の外見。
 面接着に似た力を持ちます。また糸により敵を捕縛し、捕まえた獲物を引き寄せる事が出来ます。
 毒、肉体を変形させて作った顎門で挟み潰すなどの攻撃も行ないます。

 多くの土隠達は賊軍の敗北後、再び封印の中へと戻って行きましたが今回出てくる3体は先の戦でアークに殺された同胞の無念を晴らす為に人の世に留まり、アークに一泡吹かせる機会として今回の話に乗りました。


 C地点の賊軍残党側戦力は窮奇をリーダーとする両面宿儺が合計で2体。

 両面宿儺
 古い時代に封印されたまつろわぬ民と呼ばれるアザーバイドの一種で、2つの頭に4本の腕、4本の足を持つ。
 力が強く、更に身軽で、左右に剣を帯び、四つの手で二張りの弓矢を用いる。左右の頭部はそれぞれ別の人格が宿る模様。
 ハイバランサーに似た力と再生能力を持ちます。また常時2回行動で、其の状態での戦闘に熟練しています。

 多くの両面宿儺達は賊軍の敗北後、再び封印の中へと戻って行きましたが今回出てくる2体は先の戦でアークに殺された同胞の無念を晴らす為に人の世に留まり、アークに一泡吹かせる機会として今回の話に乗りました。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年10月09日(木)22:37
 敗北条件はミリィ・トムソン(BNE003772)の戦闘不能。
 皐・宗次、佳良・澄、宵戯・卓也、マイアに関しては残りフェイトは少なく、フェイト使用による戦闘不能回避が可能な者と不可能な者が居ます。
 歪曲等は使用出来ず、フェイトが尽きた場合もノーフェイス化はせずに普通に死亡するだけです。
 彼等は初期は士気が高い状態ですが、言動や戦況によって士気が低下したり崩壊したりする可能性はあります。

 今回リベリスタ側が敗北した場合、ミリィ・トムソンには敗北の証が刻まれます。
 九・変に抉られて消えない大きな傷を刻まれるのか、片耳を削がれて持ち去られるのか、それとも果て無き理想が圧し折られるのか、敗北が確定するまでは未定ですがもしご希望があればその通りに。

 戦場は地下です。敵側は暗闇対策はバッチリです。
 非常に厄介な状況だと思います。


 リクエストありがとうございました。ご期待の方向に添えていたら嬉しいです。
 では頑張って苦しんで知恵を絞ってください。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ハイジーニアスマグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
サイバーアダムプロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
ハイジーニアスレイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)


 どこから間違っていたのだろう? それはきっと最初から。
 こんな事になるなんて想像出来る筈が無い。 でもそれでも責は彼女にある。彼女にしか背負えない。
 何故なら彼女は、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は指揮者だから。他人を率い、勝利へと導く責任を背負った者だから。
 だから、だからだからだから、ごろりと地に転がるアークリベリオン、皐・宗次の死体、彼の死は、紛う事無くミリィに責任があった。
 無論その責任を責める者など誰もいないだろう。死した宗次ですら責めはしない。他ならぬミリィ自身以外は。
 明らかに釣り合わないメンバーの任務に同行してしまい、そして万一の予想外にも備えられなかった。
 どこかに在った慢心、そして傲慢。例えそれは小さくても、ミリィだけは自らの中のその存在を思い知る。
 目を見開いたまま事切れた宗次の死体と目が合った気がした。闇を見通す暗視の力を持つミリィは兎も角、率いたリベリスタ達は暗視の力等を持たなかった為、……それに既に死んでいる宗次がミリィの顔を見ている事なんて在る筈がないのに。
 タクト、果て無き理想を握る手が震えて止まらない。

 今、戦奏者の想いとは裏腹に、戦場は無慈悲に悲劇を奏でる。


 地下鉄が通る路線、トンネルの壁に設置された頼りない光源しか無い暗闇、地下空間でのエリューション退治を終えたミリィや他リベリスタ達に入ったのは賊軍残党の襲来予知の報告。
 けれどその意味と脅威を正確に把握出来たのは、幸か不幸かミリィのみだった。
 今回ミリィの同行したリベリスタ達は未熟な者ばかり。それは決して実力のみでなく、精神的な、戦いに於ける心構え等もそうである。
 例えば、暗闇での戦いに碌に備えも無かった彼等は、暗視で暗闇を見通せるミリィの指揮が無ければ先のエリューション戦でも多大な苦戦を強いられただろう。
 何より欠けたるは実戦経験の数なのだ。
 アークの、先輩リベリスタの華々しい戦果ばかりを耳にし、未だそれを作った死線を潜らぬ彼等は賊軍の名にも恐怖を覚えない。先輩達に敗れ壊滅した連中の残党と言う事実しか知らない。
 其れは勇敢さではなく、その裏に在った犠牲に理解が及ばないと言う無知。
 後輩の不甲斐なさに僅かに眉根を寄せたミリィだが、しかしそれでも迫る脅威に心折れるよりは余程良い。
「敵が迫りつつあります。けれど恐れずに前を向きなさい」
 通信機から聞こえる声、非番だったが緊急要請に応えて救援に向かいつつあるアークの精鋭達の声を聞かせて、ミリィは言う。
 一人一人の目を見詰めて、例え相手から見返す事が難しいのは判っていても。
「勝機は、生き残る術は、確か私達の手の内にあります。だから今は私を、共に戦う仲間を信じてください」
 力が足りぬなら鍛えてやれば良い。心構えが出来ていないなら教え、導いてやれば良い。
 それが先達の役割で、この後輩達は未熟であろうと間違いなくリベリスタを志し、先輩の背を追う者達なのだから。

 尤もそれは、この場を生き残れたらの話ではあるのだけれど……。

「ハハハ、素晴らしい。この状況で勝機は私達の手の内にある。……いや中々言えたものじゃあない。流石は『戦奏者』と言ったところですか。まぁ本気で勝ち目があるとでも思っているなら正気は疑いますがね」
 嘲る様な嗤いと、そして殺気がやって来る。幾度と無く対峙した身なれば懐かしさすら感じるであろう、賊軍、或いは裏野部に所属する者達に共通していた、他者を踏み躙る暴力の気配。
 賊軍残党フィクサード、『卑劣』九・変と4人の部下達。


「ミリィさんがあの小さな肩に、どれだけの物を背負って戦ってきたかを俺は知っている。傷つけさせはしない」
 その言葉は誓いだった。身の内の全てを集めて力とし、目的を成し遂げる為の文言。
 救援の一人、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は武器を構える。
 眼前に立ちはだかるは土隠。裏野部に開放された古代のアザーバイドにして歴史の敗北者。
「ソレガ貴様ノ遺言カ。勇気在ル愚者ヨ」
 土隠のリーダー、岳業の言葉には快の勇気を褒め称える響きが半分、そして其れは勇気の領分を踏み超えたものであると飽きれ咎める響きが半分。
 何故なら3体の土隠に相対する快は、たった一人でこの場に居たから。
 目的は明白だ。現代の戦術には疎い土隠達にすら判る。この場を最小限の人員で引き付け食い止め、もう一方の通路に戦力を偏らせて突破を図るのだろうと。
 だが其れは余りに無謀。この場を食い止める役割の快を生贄に捧げる事と同義である。
 土隠は問う、オマエはあの娘の身が自分よりも大事なのかと。
「足止め一人残して行くつもりなら、そいつは各個撃破する。二人残しても片方倒せばあとは同じだ。さあどうする? お仲間を見捨てて奥に向かうかい?」
 一つ頷き、快が叫ぶ。
 それが挑発である事は理解していた。もしかすると万が一にも快は本気なのかも知れないが、だとすれば彼は自分達を、土隠を知らぬのだろう。
 無理も無い。彼の賊軍に協力した土隠は、その戦い方も現代のフィクサード達に合わせて戦う事になっってしまったから。
 彼等が土隠と呼ばれたるは穴に篭る、洞穴や地下を住処とした事に由来する。つまりこの場こそが土隠にとっては真の力を発揮できる、己のフィールドである。
 アークに一泡噴かせると言う目的を果たすなら、奥の小娘の首を狩りに行くのが一番だ。奴等が一番苦しむのは仲間が潰える事だろう。
 しかしこの眼前の勇気在る者を討たずして、真の土隠を知らぬままにして、散っていった同胞達の無念がどうして晴らせようか。
「三人で来いよ、まつろわぬ民。一匹残らず駆逐してやる」
「侮ルナ、アーク。勇在ル戦士ヨ貴様ニ土隠ヲ教エテヤロウ」

 戦場で、誰よりも先に動き出したのはミリィだった。
 速度に長ける敵のソードミラージュの反応速度すら越えて、投擲されるはレイザープレッシャー。
 暗闇を膨れ上がった閃光が満たす。炸裂する魔力を秘めた投擲爆弾はミリィの狙い通りに敵を最も多く巻き込める位置へと放たれ、デュランダルとソードミラージュに加え、スターサジタリーをも閃光と魔力で動きを封じた。
「おぉ、良い手筋だ。流石に判ってらっしゃる。安易に配下の強化なんぞに走られたら興醒めするとこでした。まあ、しかし、なんだ、矢張り其れでもリベリスタはヌルイと言わざる得ませんが、ね」
 しかし九・変の嘲りは止まらない。
 仲間の強化よりも敵を食い止める事を優先したミリィは正しい。
 確かにクェーサードクトリンで強化を施せば実力に劣る仲間達でも一時は敵配下に近しい性能を得ることが出来ただろう。
 しかし例え近しい性能を持った所でデュランダルやサジタリーといった敵なら実力に劣るこちら側のブレイクは決して難しい事では無く、そして付与を引き剥がされた所から集中攻撃を喰らって崩れて行くだろう。
 ならば敵配下達の動きを実力に勝るミリィの手で直接止める事こそが、連れて来た未熟な仲間達への攻撃を防げる手立てだったから。
 けれど其れは確かに仲間達への攻撃を数手遅らす手段にはなりえたけれど、賊軍残党の目的であるミリィへ伸ばす手を防ぐ最善手では決して無い。
 次なる手を放とうとしたミリィの身体の動きが止まる。幾重にも、幾重にも幾重にも、絡み付くは気糸。
 本当はミリィが自らの身を守ろうとするならば、最も止めねばならなかったのは唯一人。
 トリックバインドの糸でミリィを絡め取った九・変は嗤う。
「情に流された甘い蝶は我が糸が捕らえたり。さぁ、では一枚一枚その羽を毟って差し上げましょう」


 快は3体の土隠を見事に引き付け、ミリィはフィクサード相手に苦戦を強いられている。
 そして間に合うか間に合わぬかを決めるのは、快が向かった道とは別の道、リベリスタ達が出来る限りの戦力を割り振った本命の突破隊。
「リベリスタ、新城拓真。押し通る」
 名乗りと共に、道を塞ぎ立ちはだかる2体の両面宿儺、各部のパーツは人に似、けれども数と繋がり方が違う異形に対し、『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)と『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)が地を駆け、真正面より喰らい付く。
 拓真は腕の数こそ劣れど、剣の数では両面宿儺と変わらぬ双剣を、雷慈慟は彼方で戦うミリィや九・変等に劣らぬ指揮を武器にして。
 実際、雷慈慟の指揮の影響下にある拓真の動きのキレは、相対する両面宿儺のリーダーである窮奇をも上回るから。
 高速で接敵して来た二人に、待ち受けていた両面宿儺が刃を振るう。
 4本の腕で持つ二本の刃から繰り出された左右の斬撃に、冷静に見定めた雷慈慟は一方に対しては半歩のみ下がって其の身を軽く切らせ、刹那のみ遅れてやって来た本命のもう一方を展開したARM-バインダー、雷慈慟の思考に連動した可変シールドで受け止めてみせる。
 窮奇の攻撃を受ける拓真も雷慈慟程には上手くいなせぬ物の、直撃を受けたのは片方のみと出来うる限り被害を減らし、唯の一度で崩れかける様な真似は晒さない。
 崩れる訳には決して行かない。何故なら此れは、ニ体の両面宿儺の攻撃を引き付ける事は、ミリィに届ける希望の矢を放つ為の前提条件に過ぎないのだから。
「今だ!」
 雷慈慟の言葉に、脇を走り抜ける影が二つ。
 窮奇の攻撃を受け血を流す拓真と一瞬だけ視線を交わした『現の月』風宮 悠月(BNE001450)と、その悠月を庇える位置に立ちながら共に駆ける『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)だ。
 そう、彼らこそが希望の矢だった。より正確に言うならば悠月こそが、だ。
 高い火力を誇る範囲呪文を扱える悠月がミリィの元へと辿り着けば、唯の一人で彼の地の戦況を変えうるのだから。
 そして其の矢である悠月を確実に送り届ける為の盾が夏栖斗である。
 二体の両面宿儺が攻撃を終えた最高のタイミングで突破した二人の背中に、けれども見送る側である拓真の身体を怖気が走り抜けた。
 拓真も雷慈慟もきっちりと敵の攻撃を引き出した。悠月も夏栖斗も其の隙を完全に突いた。
 ……筈なのに、窮奇の、異形の癖に人と良く似た2つの顔は、何故に嘲りの笑みを浮かべているのか。
 不意に拓真は思い出す。両面宿儺とはじめて対峙したあの日、賊軍が生まれる切欠となった神産みの夜を。
 あの時、今の自分と同じ様に一人の仲間に両面宿儺の抑えを任せて駆け抜け儀式の阻害を目指したけれど、容易く振り切り追いついて来た両面宿儺に癒し手の少女が切り伏せられたあの様を。

 二体の両面宿儺が相対する雷慈慟と拓真に対して真っ直ぐ後ろへと大きく飛び下がって、二人の抑えが効く範囲から離脱する。
 もしこの敵達が並の相手、……例えば単なるフィクサードであったならば、離脱しようがもう一度前に進んで捕まえる事もできただろう。
 しかし今敵対するこの二体はアザーバイド、常識を超えた力を持つ異世界からの来訪者だ。
 両面宿儺達の恐ろしさは単に複数回の攻撃をして来る事には非ず。彼等の真の恐ろしさは、常人の倍の行動を可能にしている事に在るのだ。
 雷慈慟と拓真が追いかける、或いは拘束スキルを飛ばす暇さえ与えずに反転した二体の両面宿儺は夏栖斗と悠月の瀬に迫って行く。
 悠月だけでも送り届けんと反転した夏栖斗に両面宿儺の一体、部下である個体が余剰の手で組み付き剣を突き立てる。
 そして悠月には、ミリィの元へと届かねばなら無い希望の矢には、窮奇の刃が背から腹へと貫き通された。


 両面宿儺は複数回の行動を可能とする強力なアザーバイドである。
 しかし其れでも彼等は土隠と同じく過去に敗れた敗残者だ。
 その大きな理由が、彼等には両面宿儺の言葉で言う所の呪いの力、神秘属性の攻撃手段やそれ等に対する対抗手段が非常に乏しかった為なのだ。
 本来なら悠月は両面宿儺にとっては天敵とも言える存在の筈だった。
 何故なら彼女はあの四国の決戦でも両面宿儺の部隊が散々に苦渋を舐めたルーンシールドと言う名の鬼札を扱えるのだから。
 しかし悠月は術よりも先を急ぐ事を選んだ。否、そもそも其の手段にさえ思い至らぬ程に焦らされていた。
 彼女は両面宿儺の特性を把握していたのに、怜悧な思考を鈍らせたはミリィへの情。
 血を吐きながらも、運命を対価に倒れる事を拒み、けれども足は完全に止められた。
 悠月にトドメを刺さんとする窮奇の動きが雷慈慟のトリックバインドによって遮られる。
 幾重にも幾重にも、縛り上げる気で練った糸。
 窮奇の動きを完全に封じながらも、けれど雷慈慟は先のやり取りで悟ってしまった。今のままでは突破は出来ぬと。
 雷慈慟がトリックバインドで封じようとも、夏栖斗がアッパーユアハートで引き付けようとも、それを抜け出した両面宿儺は突破者の背に追いつけてしまう事に。
 両面宿儺はスキルの届かぬ距離まで一度に移動出来てしまうのだから。
 故に彼等は、リベリスタ達は、強引な突破を諦めて両面宿儺の数を減らすを選ばざる得なくなった。

 夏栖斗の極葬細雪、凍て付く厳寒の鬼気すら纏う美しい武技に両面宿儺が氷像と化す。
 拓真の秘剣、双剣式九吠狼翔閃が凍った両面宿儺の腕を砕き散らした。
 体表を覆う氷を砕いて抜け出した両面宿儺を、其れでも逃がさず雷慈慟の気糸は絡め取る。
 そして分厚い大地の底のこの場にすら悠月の怒りが、魔力で召喚された隕石、マレウス・ステルラが降り注ぐ。

 リベリスタ達の超一流といって差し支えの無い技の連打に腕の一本を失った両面宿儺の身体が揺らぐ。
 しかし攻撃の出来に、敵を追い詰めた事に、リベリスタ達は喜べはしない。
 彼等の胸中を、表情を支配するのは唯只管に焦り、焦り、焦り。
 突破の失敗に時間を損耗し、更には怒涛の攻撃で圧倒しては居るものの敵の両面宿儺は中々数を減らせず、漸く数を減らせた事で悠月と夏栖斗が奥へと向かうことが出来た時には……、彼等の焦り、不安、心配は、現実の物となっていた。


 転がったタクト、果て無き理想を拾い上げたのは九・変。
 そして辺りに転がる三つの死体、皐・宗次、佳良・澄、宵戯・卓也と、戦意を喪失して蹲り震えるマイア。
 異世界ラ・ル・カーナでリベリスタからフュリエに伝えられた勇気は、今無惨に圧し折られた。
 地に伏すミリィには、彼女に再び勇気を与える言葉が思いつかない。
 否、もう何も言わない方が良いのだろう。九・変の興味はミリィにしかなく、マイア等は路傍の石程度にすらも気に留めては無いだろうから。
 配下のフィクサード達はマイアに興味を示すかも知れないが、何時アークの増援がやってくるか判らぬ状況が故に見逃されて助かる可能性は充分にある。
 尤もミリィばかりはそうも行かないが。
「ゲームオーバーですね。『戦奏者』を下したという実績は私の今後に充分に役に立ってくれるでしょう。貴女の奏でた戦場は中々に良い音色でした」
 力尽き、地に伏せても尚諦めずに何らかの手段をと頭をめぐらせるミリィに、九・変は敬意と嘲りを半々に混ぜて嗤う。
 振り被ったタクトの先端がミリィに向けられる。九・変の笑みが深くなる。
「最後に貴女の悲鳴を聞かせて貰いましょうか。もう会う事も無いでしょうから、精々想い出に残る様に美しく鳴いて下さいね」
 そして、地下に響き渡る悲鳴が戦いの終わりを告げた。

 力尽きて倒れた快の傍らで、土隠達も其の叫びを聞く。彼等は快を殺さない。叫びを聞く快の身体が無力感に打ち震えている。
 真の土隠の姿は快の身体に刻まれたし、何よりこの勇在るアークの戦士が仲間を救えず嘆く慟哭こそが、同胞の魂を安らげる鎮魂歌となるだろうから。
 自分たちを相手に戦いぬいた相手に敬意と、それを喰い破った誇りを胸に土隠は地の底へと帰り行く。

 そして走り、走り、走り、辿り着いた夏栖斗が膝から崩れ落ちる。
 あまりの惨状に悠月の唇は固く結ばれ、其の端から血の雫が滴り落ちていく。
 漸く辿り着いたリベリスタ達の眼前にはミリィのタクト、果て無き理想を強引に身体に捻じ込まれ貫かれた、血溜まりに倒れる無惨な少女の姿が在った。



■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 お疲れ様でした。

 A地点の苦戦とB地点の手間取りがあわさりこの結果となりました。
 どちらかがひっくり返れば結果はまるで違ったでしょう。惜しかったと思います。

 判定の大体はリプレイ内にあると思います。
 リクエストありがとうございました。お気に召したら幸いです。