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逆凪★フィクサーズ

●沙織の依頼
「世の中は往々にして不条理に満ちている。
 とある困難な状況を解決する時、非常なる手段を必要とする事もあるだろう。
 背に腹は変えられぬと言うが、つまる所――選択肢が残っている内は幸福という事だ」
『戦略司令室長』時村 沙織 (nBNE000500) の難解かつ遠回しな言葉にリベリスタは首を傾げた。彼がブリーフィングにリベリスタを呼び出す時、そこには大抵の場合難しい問題が転がっている。それは分かっているのだが、それにしても沙織の調子は普段と違う。
「俺の仕事は厳密にはこの世界を守る事じゃない。
 だが、このアークが世界を守らんとしているのは当然の事実だ。俺も、お前達もこれまでそれに到る為の全ての努力を惜しまなかった筈だ。時にどんな犠牲を払っても危険(リスク)や代償(コスト)を払っても、な。
 ……ま、そもそもがアーク自体が時村が背負った業なんだから当然だが」
「……何が言いたいんだ、お前は」
 リベリスタは極めて歯切れの悪い沙織の調子から或る気配を感じ取っていた。
 経験則上、彼が話題に酷い煙幕を張る時はそう――
「何を企んでる」
 ――非常に『くだらない』事情を抱えている事が多いのだ。
「企んでるとは心外だな。俺の頼み事はアークに関わる重大事だぞ。
 事の発端は去年の夏。お前達は『親衛隊』との戦いと……
 ……後、あのキースが三高平に来た頃の事を覚えているだろ?」
 予想外に大きな話にリベリスタは頷いた。『鉄十字猟犬』リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターは非常に厄介な敵だった。キース・ソロモンは『魔神王』の異名を持つバロックナイツきっての武闘派である。彼の宣戦布告が当時のアーク――そして一年の時を経た現在のアークに与えた影響は小さいものではない。
「『親衛隊』との戦闘を控えていた当時、アークは大変難しい舵取りを迫られていた。逆凪をはじめとした国内主流七派は『親衛隊』と連携し、アークの隙を伺っていたし、その戦力は過大なものだった。更に続くキースとの交戦は当時のアークに致命的な状況をもたらす可能性が高かったと言える。
 そこで俺は七派のリーダー格である逆凪に交渉を持ちかけ、キースの宣戦布告を逆手に取る事でその動きを止めにかかった訳だが……」

 ※詳しくはBNEのあらすじを参照にしてね!

「……キースの脅威と時村の利権を黒覇にちらつかせて手を引かせたんだっけ?」
「そうだ。まぁ、それで今回重要になるのはそのちらつかせた利権の方なんだが。
 要するにこれは俺達の表のビジネスの話だ。神秘界隈に関係しない時村財閥と逆凪カンパニーの問題なんだが、このエネルギー共同開発事業に意見と見解の相違が出てな。まぁ、要するにどちらが主導権を握るかが中々ややこしい」
「そりゃそうだろうけど」
 リベリスタが知る黒覇と沙織の人物像はその状況を想像に易くする。
 元々時村と逆凪はライバルでリベリスタとフィクサードでは呉越同舟である。
「お前達には、その解決を頼もうと思ってる」
 沙織の唐突な話にリベリスタは苦笑した。
 リベリスタの大半は荒事を解決するのは得意だが、ビジネスがどうこうというのは門外漢だ。敢えてここに居るメンバーに話を持ちかけた沙織の意図が読めない。
 故にリベリスタは明敏だった。
「……だから何を頼みたいんだって」
 そう問う彼等の顔は何とも訝しいものに違いなかった。
 ここで沙織が戦闘を提案するならば、こういう切り出し方はするまい。
「野球の試合」
「ほら、な」
「逆凪黒覇と取り決めた妥協案だ。
 喧嘩別れは話がまずい、殺し合いじゃ元も子もない。
 せめても平和に勝った方が主導を取る――相手が相手じゃお前達以外には頼めないだろう?」
 涼しい顔の沙織はそれを『社会人野球』と称した。
 だが、リベリスタvsフィクサードではアレな漫画も真っ青か。
「ま、宜しく頼んだ。『時村アークス』!」
 酷い顔をしたリベリスタ一同に沙織は「優勝したしな」と良く分からない一言を付け足した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2014年10月16日(木)22:03
 YAMIDEITEIっす。
 若干特殊なルールがありますので御注意を。
 以下、シナリオ詳細。

●任務達成条件
 ・時村アークスの勝利
 ・誰も死亡しない

●時村スタジアム
 時村アークスvs逆凪フィクサーズの試合会場。
 センター120メートル、両翼98メートル、左右中間108メートルの野球場。
 観客席にはアーク本部職員や逆凪カンパニー社員が沢山居ます。
 神秘関係についての秘匿は行わないで構いません。

●逆凪フィクサーズ
 逆凪カンパニーが今回の勝負に供出したチーム。
 関係者は夕影ST、椿しいなSTに借りているものもいます。
 構成は以下です。括弧内は能力ヒント(?)です。

 監督:逆凪黒覇(プレイングマネージャー)

 一番センター:錦野晴臣(会長マジっすか!)
 二番セカンド:不知火淵華(婚期に焦っています)
 三番キャッチャー:凪聖四郎(――俺だよ)
 四番ファースト:逆凪邪鬼(力こそパワー!)
 五番サード:鳴神慎吾(チンピラ)
 六番レフト:カンパネッラ・ビュシェルベルジェール(ロリ婆)
 七番ショート:崎田竜司(苦労人)
 八番ライト:竜潜拓馬(俺HAEEEEEEEE!)
 九番ピッチャー:継澤イナミ(楽しいですか? プリンス?)

 控え:元漆黒生徒会メンバー三人(補充要員)

●ルール
 基本的には九イニング制の野球を行います。
 基本的には野球のルールに従いますが、多少の小競り合いは仕方ないよね。
 ビジネス的に問題なので殺し合いをしないコンセンサスはあります。
 メイン参加者は監督+プレイヤー九人です。ポジションは適当に決めて下さい。
 サポート参加者は『代走』、『守備固め』、『代打』、『リリーフ』の何れかから役割を選ぶ事が出来ます。
 監督役のPCは下記のルールに従う範囲で自由に作戦を組み立てられます。
 監督役のPCは作戦を相談しなくても構いません。(しても構いませんが)
 審判は極めてバランスの良い人が行います。

・打順は監督が決めてプレイングに書いて下さい。(ポジションはプレイヤーの希望に拠り、能力傾向はフィジカルが力強さ、テクニックが技、メンタルが精神力、キャパシティが運に相応します。又、例外的に副能力の速度・DAを足の速さに判定します)
・メインプレイヤーに交代を出せるのは七回以降である。
・誰かが何らかの事情によりKOされた場合はその限りではない。

 トンデモ野球なプレイング等或る程度かけてもオッケーです。
 あんま難しく考えないで下さい。


 優勝したし、仕方ないよね。
 以上、宜しければ御参加下さいませませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ハーフムーンソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
★MVP
フライダークホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
フライダークマグメイガス
雲野 杏(BNE000582)
ハイジーニアスデュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
ハイジーニアスクリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
アークエンジェソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)
ギガントフレームクロスイージス
白崎・晃(BNE003937)
ハイジーニアスホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
ハイフュリエミステラン
シンシア・ノルン(BNE004349)
■サポート参加者 4人■
ハイジーニアスマグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
ハイジーニアスクロスイージス
白石 明奈(BNE000717)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
アウトサイドアークリベリオン
水守 せおり(BNE004984)

●決戦!
 秋晴れの空の下に素晴らしい熱気と興奮が満ちていた。
 長野県に存在する時村スタジアムはセンター120メートル、両翼98メートル、観客収容二万五千を誇る本格的な野球場である。
「いよいよか」
 世紀の決戦の前、静かに口にしたのは誰だっただろうか。

 一番センター:錦野晴臣
 二番セカンド:不知火淵華
 三番キャッチャー:凪聖四郎
 四番ファースト:逆凪邪鬼
 五番サード:鳴神慎吾
 六番レフト:カンパネッラ・ビュシェルベルジェール
 七番ショート:崎田竜司
 八番ライト:竜潜拓馬
 九番ピッチャー:継澤イナミ

 一番:センター:『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)
 二番:ショート:『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)
 三番:キャッチャー:『破壊者』ランディ・益母(BNE001403)
 四番:ファースト:『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)
 五番:ライト:『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)
 六番:サード:『樹海の異邦人』シンシア・ノルン(BNE004349)
 七番:レフト:『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)
 八番:セカンド:『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
 九番:ピッチャー: 『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)

 センターバックスクリーンの上部に備え付けられた電光掲示板に合計十八人の名前が表示されると、地鳴りのような歓声が周囲を包んだ。秋風の吹くこの時期にプロ野球の公式戦は行われない。人気の高校野球も時期から外れてはいるのだが……観客はかなりの数だ。
「野球野球ー。やったことないけど、ルールはある程度把握してるよ? えっと、うん。短期決戦強くなぁれ☆」
「背番号七! ノムケンの現役時代のナンバーだからってわけじゃないわよ!
 ただのラッキーセブンよ! ホントはスリーセブンにしたいぐらいなんだから!」
 何やら西の方に祈念を飛ばしたアリステアの、もっと西に想いを馳せた杏の本意の方はさて置いて。
「さ、今年のCSはどうなるかしらね。
 出来るなら地元でファーストステージやって欲しいわね。そういえば去年と同じになるのは確定なのねぇ」
 さて置いて!
 言うまでも無く、これからこのスタジアムでは野球の試合が開催される。
 スタンドを埋める人々は何れも逆凪と時村(アーク)の強い関係者達である。
「……あの逆凪とスポーツで主導権争いとはな」
 しみじみと言った晃に『きな臭い状況』を自身も抱える――凪聖四郎が苦笑した。
 時村と逆凪は表でも裏でも強烈なライバル関係にあった。フィクサードと、リベリスタは本来こういう遊戯には興じ得まいが、この奇妙な状況は幾つかの偶然(ゆうしょう)と必然(うちょうてん)の末に今日という日を求めていた。『親衛隊』騒動の時の約束――共同ビジネスの舵取りを巡って『平和的解決』を模索した黒覇と沙織はこの舞台に決着を委ねたのだ。
「スポーツだろうが茶番だろうが勝負は勝負。負ける気なんざ欠片も無ぇ」
「社会人野球だと……フッ、愚かな――俺達には、利権も体裁も関係ないッ!」
 但し、本質的には目をギラつからせるランディや氷の如く燃ゆる鷲祐の言うこそが正解だろう。
 双方が名うての腕利き・ビッグネームを揃えたこの試合が代理戦争めいているのは言うまでも無い。
「気の進まない殺し合いより、楽しくやれるスポーツ。
 命を背負わないが故に、私は楽しく戦えます。いいですね、いいですね!
 燃えてきました! 全力で勝負しましょうね!」
「諸君の実力が十二分に見れると思えば、悪い話ではない。だが、我が社も負けんぞ?」
「黒覇さんとはこれで三度目ですね。貴方が勧誘し損ねた者の力、みせてあげましょう!」
「全打席場外に放り込んでやるぜ」
 ビシ、と言い放ったセラフィーナに豪快な素振りを見せた邪鬼が対抗する。
「ふっ、俺は勝つ為に来た!」
「言ってくれるな。『一人焼肉マスター』……いや? 今日は『縞パンマイスター竜』と呼んだ方がいいかな?」
「わざと言うのやめろ」
「監督挨拶とは、火花の一つも散らしておくものだぞ、結城竜一」
 メンバー表を交換する自分に思わずジト目を向ける 『縞パンマイスター竜』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)に黒いユニフォームを着用した黒覇は涼しい顔で応えてみせた。
 逆凪フィクサーズ監督は言うまでも無くこの黒覇、時村アークスを率いるのは竜一である。互いに高い名声を持つ二人は、直接絡んだ回数の有無によらず風聞を含めて互いをある程度は理解していると言えた。
「逆凪黒覇! 俺達が勝ったら、海依音ちゃんとの交際も前向きに善処してもらうぞ!」
「『昔から』何かと縁の多い――面白き御婦人である気は否定しないがね」
「きゃあ! きゃあ! 聞いた!? 聞きました!? やっぱり運命!!!」
 向こう側からウィンクを送る海依音の姿は必死そのものである。
(野球で爽やかに勝負して問題解決……とは行かんのだろうな……)
「福松きゅんは別腹!!!」と自分を揺さぶる彼女の様に達観した彼はとても嫌そうな顔をしている。
 竜一に言わせれば「獅子身中の虫のフォローから婚活の支援まで監督業は大変だ」。何処となく満更でも無さそうな黒覇の物言いはひょっとしたらば、『過去』の出来事が影響しているのかも知れない。その辺りは定かでは無いが……
「逆凪ふぁいと! いえぁ! お願いします。ワタシ、真剣に黒覇さんのおそばに少しでも長くいたいんです!」
 ……海依音が何故か普通に逆凪のベンチに向かっているのは非常にアレな光景ではある。
 彼女の名誉の為に言うならば、それは一応建前上は『スパイ』の類の心算ではあるのだが。
「……クッ……!」
 これまた婚期が炎上間近な逆凪社員・淵華が微妙な闘志を燃やしているのがいとおかし。
「前置きは、十分かな。実は結構尺が押してるんだ」
 整列して礼をした両チームを確認した審判が腕時計を眺めながらそう言った。
 そこに千堂遼一が居る事に今更突っ込みを入れる者は居ない。
「野球だね! 頑張るよ! ところで……野球ってなぁに?」
 だから、フュリエのシンシアさん!
「あ、皆でチア服着るんだっけ? 男の子な皆の分もあるよ!
 特に司馬さんはなんでもいいらしいから……Tバック? 福松さんには、紐水着!」
 い、いちいち突っ込みなんて入れないんだからね!!!

●CS I
 本日の試合は通常九回制で行われ、同点時は無制限の延長戦で対応される。
 監督を含めたベンチ入りメンバーはそれぞれ十四人。
 原則的には野球協約に沿うが、プレイヤーが超人である事も鑑みて……
 ルール上微妙な解釈になりそうな部分、盛り上がりそうな部分はバランス感覚の男に一任される。
 一回の表。まっさらなマウンドに堂々君臨出来るのは先発投手の特権である。
 時村アークスが大いなる期待を込めて送り出したその男は――福松だ。
「いいだろう、この超次元野球、受けて立とうじゃないか」
 少年のなりに滲むのは男の矜持。背に一番を負った彼は二度、三度と屈伸をして18・44メートル先の戦場を睥睨する。
「自らエースナンバーを背負ったんだ――きっちり仕事はこなして見せる!」
「俺トップバッターっすからね。描写確定。ラッキー!」
 対するのはかつて黒覇が組織した学生時代の親衛隊『黒龍学園生徒会執行部』――錦野晴臣。
 見た目通り軽薄そうな男だが、その実力は十数年を経た今、アークのリベリスタに劣るものではない。
「プレーボール」の声が掛かり、試合が始まる。
「行くぜ! 食らえ、オレのそこそこの制球力とそこそこのスピードを備えたストレート!」
 ……妙に説明的な台詞は紙面の都合として、福松の投手ぶりは中々堂に入ったものだった。生来から器用な彼は爆発的なフィジカルこそ持ち合わせてはいないものの、実に穴のない選手だ。
「超変則!?」
 本人の予想を裏切り晴臣があっさり三振にきってとられた理由は二つ。
 一つ目は……福松がスイッチピッチャーで左右に合わせて投げる腕を変えてきた事。(※アメリカにはたまに居ます)
 もう一つは今朝漫画で覚えてきたナックルが事のほか揺れて落ちる事だった。
「――会長が見てるのよ、観客席には営業部のエースの左近寺さんも!!!」
 女の執念でバットを振り抜いた淵華の痛烈な打球を遊撃に入ったセラフィーナが抜群の反応で捌いてみせた。
「私の守備を抜けると思わないでくださいね。ここに来た打球は全て、私のグラブの中です」
「こ、こむすめ……!」
 続く三番・凪聖四郎は温い微笑みを浮かべたまま見逃し三振。
 まずは難しい立ち上がりを綺麗に抑えた福松が息を吐く。
 付け焼き刃は彼自身のスペックの高さで通用したが、試合はこれからだ。
 一方で時村アークスの攻撃。試合は――意外な形で動きを見せた。

●CS II
 ――塁上を俺が駆ける時、青い稲妻がお前を責める――

「――BANG!」
「……何なんですか、あの男は」
 逆凪フィクサーズ先発の継澤イナミは驚愕していた。
 時村アークス先頭打者の鷲祐は唯のサードゴロを放ったのだが……
「何でホームに居るんだろうねぇ、彼は」
 マスクを被った聖四郎が苦笑をしている。
「フッ、アレは俺には『ホームラン』だ」
 嘯く鷲祐の異常と呼ぶ他無い走力は『守備側の送球より速かった』。
 実に懐かしくぴのってしまった逆凪守備陣形は貴重な先制点を実に不用意に与えてしまったのである。
(大丈夫、イナミ。落ち着けば大した打者じゃない。
 高めを中心に球威で押して――ゴロを打たせなければ彼の期待値を激減する)
 冷静な聖四郎のサインにイナミが頷く。
 これまた総合力で勝負する器用な先発のイナミは続くセラフィーナをセカンドゴロに、ランディにはフェンス際一杯まで運ばれたがライトフライに。
「ううう、何で私が四番なの!?」
 好きな選手にあやかって三十九を背負ったアリステア(野球初心者)は三振にきってとられる。
 彼女の四番を決めた監督の竜一はその様子にも不敵な笑みを浮かべるばかり。
 その理由が「可愛いから」以外にある事を割と皆真剣に願っているだろう。
 とはいえ、試合は時村アークスの先制。
 俄然士気を上げた彼等は先発福松の幻惑投球をバックの好守が支える形で逆凪側の攻撃を抑えていく。全打席場外弾を予告した邪鬼こそ捕球態勢に入ったセンター鷲祐をふっとばし、フェンスにめり込む三塁打を放ったが、全打席本塁打の宣言通り本塁を欲張った彼はカバーに入った晃、中継したセラフィーナ、そして本塁でブロックに出たランディの見事な連携の前に敢え無く憤死となっている。
「ほう、俺様の修羅邪王撃(タックル)に耐えるとはな……!」
「へ、へぼ過ぎる威力に欠伸が出そうになったぜ。蚊か、テメェは!」
「ほざきやがるな?」
「忠犬な次兄クンは頭沸かせて弟クンの作ったチャンス潰してねぇで少しは頭使ってやってみろよ。お兄様も言ってるだろ?」
「……次はぶっ殺す」
 防具を粉砕されたランディが額から流血しながら邪鬼とスポーツマンな会話を繰り広げているのは余談。
 一方で逆凪側の先発のイナミも出鼻こそ挫かれたものの、聖四郎の巧みなリードと内野守備の要である崎田の統率力にも支えられ、アーク側の攻撃を辛うじて零封する展開が続いていた。
 逆凪監督の黒覇は動じず、逆に時村監督の竜一は積極采配で状況をかき回す構え。
 頻りに肩や胸を触る仕草を見せ、サインごっこに興じている。(大体は選手の自主性に任せている)
 お互いに散発安打を放ちながらイニングは進んでいく。予想外に落ち着いた展開に多少焦れる。
「婚期。すみません、お先しちゃいますね」
 セカンド塁上で煽る海依音。
「フラフラしてない?」
「うるせぇよ、青びょうたん」
 本塁上の囁き戦術でランディを煽る聖四郎。
 まぁ、ホームラン性の打球であっても……
「――意地でも地面には着かせない。とってしまえば全部アウトよ!」
「クロスイージスである以上、守りは俺の本分だ」
「フッ、打球速度が遅すぎる!」
 ……背中の羽は伊達ではない、杏の。そして、『鉄心』に支えられた堅牢なメンタル、堅実でクレバーな守備力を発揮する晃、異常な守備範囲を誇る鷲祐の外野陣の前には中々ヒットにもならないのが現実という事である。
「ど、ドキドキする!」
 セーフティバントを試みた竜潜拓馬をちょこまかとチャージしたアリステアが何とか刺した。
 サード後方に上がった打球を食い止めたのは、
「えっと、地面に落ちる前に球を捕ればいいんだね? はい、アウト」
 ……あろう事か式神を利用して打球を『撃墜』したシンシアだ。
「あれは、鴉だね。偶然、ラッキー……」
 実際に鳥に当たってもインプレーはインプレーなのでその主張は間違っていないといえば間違っていない。
 互いのキャラクターを生かした双方のチームの実力は拮抗していた。
 そんな硬直した状況を動かしたのは――やはり野球の華であるホームランだった。逆凪側の四番の邪鬼が意地の一発で推定二百五十メートル弾を放つ。
「あー、もう! ロケット弾かっていうの!」
 翼を持つ外野杏はこれを追ったが、打球速度がその彼女を上回り場外に突き刺さったのだ。
「アタシのバットはギターよ。え、駄目? バットは形状にルールがある?」
 俊足巧打の杏は背番号七の現役時代もさながらにスピード&パワーで試合を彩る。退任、お疲れ様。
 動き始めた試合は互いに点を重ねる事でスコアブックを賑やかにしていく。
「全部まるっとお見通しですよ。ここです!」
 イナミの内角高めを振り負けぬセラフィーナが芸術的な流し打ちでライト前に運べば、
「絶殺! アルキャ打法! 死ねぇ!!!」
『ランナーがいるからミート重視の』ランディは邪鬼に負けじとセンターバックスクリーンの電光掲示板に驚弾を直撃させた。
 再び勝ち越した時村アークス。
「あ、そーれ! ファイオーファイオー☆」
「がんばれがんばれー」
「……」
 チアガール姿の明奈とせおり、何とも言えない表情の恵梨香が試合を盛り上げ、観客を盛り上げる。
「キラッ★」
 ポンポンを振る姿も堂に入っているのは、流石に見られる事が仕事の彼女の本領発揮。
「さぁ、野球でもいつも通り廻していくぜ」
 体力気力も晃がガッチリサポートする。
 だが、七回。応援虚しく疲れの見え始めた福松がここで捕まる。逆凪側はこれまで打席でボールを見る事に集中していた聖四郎の鋭いヒットを皮切りに見事な集中打で福松を攻略。
「ピッチャー交代! スク松から、えりちー!」
 同点、一死尚も満塁というシーンにたまらずベンチを飛び出した竜一はここでセットアッパーの恵梨香を投入。起用の期待に応えた彼女は、チアガールから投手に華麗に転身。
「いかせるかよ!」
 打ち上げたライトフライを晃の強肩が犠牲フライにはさせない。
 更に持ち前の直観力で崎田の癖を見破った彼女は『コネ』させて本塁をアウト。
 いよいよ終盤戦となった試合はここから怒涛の展開を見せた。
「まさかJKがチームで一番のフィジカルだとは思うまい! 私もさっきまで知らなかったくらいだし!」
 恵梨香の代打せおりがパワー溢れる打撃で左中間を破りツーベースを放つも、得点はなし。
「出番まではスコアラー。ピッチングに生かせない道理は無いわな?」
 マウンド上には、恵梨香をリリーフしたクローザー・不敵なる烏が仁王立つ。
 遂にイニングは九回裏。
 時村はここで、一走鷲祐が起死回生の走塁を見せる。
(フッ……いいだろう監督、ただし俺は、類を盗む前に……もう踏んでいるがな)
 サインに応えた鷲祐がイナミの見事なクイック、聖四郎の肩を掻い潜り――
「――この神速を以ってッ!」
 見事なヘッドスライディングで二塁を陥れる。
 セラフィーナがこれを堅実に送り、期待のランディ。しかし、ここは内野フライを打ち上げ凡退。
 全ての責任を背負うのはやはり四番、アリステアだ。
「なるようになるよー!」
 あどけない顔に気力を漲らせ。
 彼女はその外見からは信じられない位に強靭な精神力を持っている。
 一打サヨナラ。これ以上の舞台はこの試合にはない。
「黒覇さん」
(何故か)逆凪のベンチで戦況を見つめる海依音が黒覇に言う。
「ワタシは一途だけれども、貴方にそれを押し付けたりはしないわ。
 それに、逆凪のご老人に負けるような胆力の持ち主じゃ、あなたのお嫁さんたりえないでしょ?
 強かに可愛く。それがワタシなの」
 カウントはツーストライク、ワンボール。
(お願い!)
 祈る気持ちのアリステア。
「ヨルムンガンドと過去、二回もあなたに出会えたなんて、ワタシの人生も本当に幸福なのね。
 過去に行った分の十五年も、カウントしてもいいわよね。だから、黒覇さん」
 継投した漆黒生徒会成澤の投げたフォークを、小さな体を反応させたアリステアのバットが拾う。
「――抜けてっ!」
 低いライナーは崎田と淵華、二遊間のグラブの先を掠め――神速の鷲祐が三塁キャンバスを蹴り飛ばす。
 内野五人にも等しい超々前進守備の晴臣の正確で低い送球と邪鬼の迫力満点のブロックを、鷲祐の青い影が掠めた。
「ワタシをお嫁さんにしてください。好きです」
「まさか……本気か?」
 じっと前を見る黒覇の問いの本心は分からない。
 だが、固唾を吞んで見守る最後のシーン、千堂の両手が真横に開いた時。この激闘は終焉した。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。

●ヒーローインタビュー

 見事サヨナラ決勝打を放ったアリステア・ショーゼット選手です。

 Q:率直に伺います。今のお気持ちは?
 A:え、えっと。無我夢中で、兎に角一生懸命打ちました!
 Q:最後の球は何でしたか?
 A:多分フォークだと思うんですけど、背が小さくて良かったです!
 Q:低かったですからねぇ……

●個人スタッツ

 一番:センター:『神速』司馬 鷲祐 五打数二安打一走本塁打一打点一盗塁
 二番:ショート:『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル 四打数二安打一四球
 三番:キャッチャー:『破壊者』ランディ・益母 五打数二安打一本塁打三打点
 四番:ファースト:『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット 五打数一安打一打点(サヨナラ)
 五番:ライト:『立ち塞がる学徒』白崎・晃 四打数一安打一四球一補殺
 六番:サード:『樹海の異邦人』シンシア・ノルン 四打数二安打
 七番:レフト:『重金属姫』雲野 杏 三打数一安打一四球二盗塁
 八番:セカンド:『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂 四打数一安打サイン盗み
 九番:ピッチャー: 『ラック・アンラック』禍原 福松 六回1/3自責点四


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 シナリオ、お疲れ様でした。