●二戦目 「付き合って貰って悪いな」 そう言った『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)に仲間達は軽く笑って頭を振った。 「礼を言われる事じゃねぇよ」 「せやな。まぁ、『借り』は返さんと」 娘の前では見せない獰猛な気配を見せる『元・剣林』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)に、『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)が頷いた。 「さもなくば、紅椿の代紋が廃る……か?」 「……その冗談辞めにせぇへん?」 ククッと笑った『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)に椿が唇を尖らせて抗議をした。 「うちが言っとるのは、あくまで一般論としてのお話や!」 廃れた夜の神社に人気は無い。 鋼の鳴動を裂き、その命を青く燃焼させる剣士同士の争いには神前こそが相応しい。加えて流行らない場所で開けているから決闘には似合いの場所だ。 「静かですね。果たしてこれは嵐の前のそれなのか」 「それも良いでしょう。この静寂に、我々の『奏で』は良く響く」 『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の言葉が夜に溶けた。「付き合わせた」と口にした拓真が或る剣客に向けた果たし状に『承』の答えが返ったのが三日前の出来事。かくて因縁浅からぬリベリスタを中心に据え、この夜はやって来たという訳だ。 「因果は巡る……時に人為的に、という訳ですか」 「……ま、妾は面白ければ何でも良いぞ」 『柳燕』リセリア・フォルン(BNE002511)が静かに呟く一方で、鞘に収めたままの無銘の太刀で肩をポンポンと叩き、嘯く『狂乱姫』紅涙・真珠郎(BNE004921)に拓真は「貴方らしい」と応じて見せた。 「その点は保証しよう」 待ち人たる――『五十文』の剣の冴えをその脳裏に描く拓真はグルメな真珠郎の期待を自信を込めて請け負った。武闘派で鳴らす『剣林』においても相応の名を響かせる『一菱流』は、特にアークのリベリスタ達にとっては関わりの深い相手である。前回の戦いは偶発的な邂逅であったが、今回は違う。拓真の声は、師範代である刃桐雪之丞を名指ししたものだ。敵は強ければ強い程良い。「ふぅん」と薄笑みを浮かべた真珠郎にしても、彼がそこまで言うならば是非も無い所である。 憎悪は無く、敵意も無く、敬意に似た何かばかりがそこにある。 刻限までは――後、十五分ばかり。 闘争はより純化されて、リベリスタ達を待っている。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月03日(金)22:13 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●決闘I 「あの河原に劣らない『雰囲気』に空気もある。 蒼く冴え渡る月の下……神前の社を舞台に――さながら神楽の剣舞、という所でしょうか」 嘆息にも似た吐息を零した 『柳燕』リセリア・フォルン(BNE002511)の目の前に望んだ時が待っていた。 青く月光が冴える夜の神社に静謐にして厳粛たる空気が満ちていた。 平素人の寄り付かない寂れたその場所に十六人もの人間が集まったのは当然特別な用件あっての事だった。 「……ま、有体に言えば『リベンジマッチ』って奴だな」 此方に八人、彼方に八人。 境内の中心に線引いたように向き合う相手を眺めながら『元・剣林』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は、何処とない親近感すら感じさせる調子で視線の先に語りかけた。 「この前は負けちまったが今回は勝たせてもらう。ま、てめぇ等の答えは聞くまでもねぇけどよ」 アークに所属するリベリスタが国内で武闘派として鳴らす剣林のフィクサードと事を構える事は多い。 「再挑戦! 前回は結構早い段階で倒れてもうたけど、うちもあれから成長しとるしな…… 今回こそは剣林に勝たんとやね! ……って、まるで爽やかスポコンやけど、実際には死合いなんよな……」 日常の任務の中でかち合う事も多い組み合わせであるが、 『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)の言う通り、命のやり取りをする敵味方にしては両者の空気が気安いのは偶然や錯覚の類ではない。 「以前の仕合より、こうして再戦が出来る事を楽しみにしていましたよ」 「兎も角、宜しく頼むわ」 その表情に笑みを含んだ『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)に続き、短い言葉で状況を結んだ椿は何とも曖昧な苦笑いを浮かべていた。 今夜の対戦はリベリスタが望んだものだ。無論、立場を入れ替えての状況もこれまでにはあったが――今夜にイデオロギーのぶつかり合う余地は無い。 故に。 「……五十文。今一度刃を交えられる事、天に感謝するぞ」 言い放った『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)が口にした謝辞は実に心からのものだった。運命の配剤は好敵手同士を巡り会わせたという事だ。同じく剣に生きる者として――高みに上らんとするならば、その機会は余りに得難い。真に強き剣は、同じ剣によって鍛えられるものだから。 「何、礼には及ばぬ。天も同じく口にするであろう」 拓真の言葉の終わりを待って一人の男が重い口をゆっくりと開いた。黒い羽織の剣士は腰に二本の刀を差していた。リベリスタ達の視線と期待を一身に集めた彼を刃桐雪之丞という。『五十文』の異名で知られる彼は『一菱流』の師範代。響く剣客の一人である。 「我が望みも又、貴殿等に沿うものだったに他ならぬだけ。 そこに人間(ひと)以外の意志等介在し得ようか」 憎悪の無い殺意に相対する事は修羅場を多く潜るリベリスタ達にとってもそう多い機会ではない。彼等が屠った数限りない敵の中には、そういった『壊れた』人物も居たのは確かだったが…… 「……何故、貴方方はそれ程までに力を求めるのでしょうか」 静かに問い掛けた 『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の揺れる瞳が物語っている。 (その姿勢と強さは、祈りにも似て――純粋に興味を禁じ得ない) 信仰にも似たその強さは、敬虔なる聖女をして純然な悪とも断じ難い。 酷く孤高で、只管に求道的。敵に或る意味での感謝と敬意を抱かせる戦士は決して多いものでは無かろう。 「語るに落ちる言葉もあろう」 厳かな空気を壊さず、自身の殺気を緩める事も無く。雪之丞は年少のリリを諭すように口にした。 「剣を持った二者が居る。なれば、如何に言葉を尽くそうとも――この場の価値は高まりも薄れもせん」 「まったくじゃな」 雪之丞の言葉に破顔して首肯したのは 『狂乱姫』紅涙・真珠郎(BNE004921)である。 「風情だ何ぞと取り繕った処で己が臭いまでは誤魔化せん。 眼前の敵を倒し、己の最強を証明する。そんな獣の臭いじゃ。望む処ではあるがの――」 口角を持ち上げた女の凄絶な笑みは、むしろアークより剣林に寄ったものとさえ言える。一分も戦いにあらん唯一無二の理を疑う事は無いその様子に、雪之丞は目を細めて頷いた。 「違うかぇ、『五十文』」 「それは別腹としておけ、『狂乱姫』。良い夜だ。誰を斬るにも、斬られるにも」 生暖かい風が吹く。 「ええ。剣林、なんて素敵な夜でしょう。 私達に多くの言葉は不要。語るは己が鍛え上げた武技でのみ……そうですね?」 ミリィの言葉に剣林一同は歓喜して頷いた。 「さぁ、始めましょう。私達の戦いを。きっと、この夜は、戦いは――私達の奏でに良く響く」 神社の梢はざわざわ揺れて。 『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)は婉然としたままだ。 「負けっぱなしというのは性に合わない。 私は不甲斐なくも――こうして、君がこの場にある事を嬉しく思っているよ、刃桐君。 お蔭で、私はもう一度君と興じるチャンスを得たのだから」 煮詰められた緊迫感の先に、瞬き一つが生命を分かつ時間がある。 どちらからとも無く、全ての準備を整えた両者はそれ以上の言葉も無く――唯、月の下に影が舞った。 ●決闘II 実にシンプルな『決闘』のルールは最初から一つだけだ。 如何なる手段を用いようとも、敵を上回り、最後まで勝ち抜く事のみ。 (私は未だ遅い。 もっと速く、もっと疾く。 音よりも雷よりも光よりも――時さえも置き去りにして、『無刃斬魔』よりも尚疾く!) 見開かれた朔の目が敵陣を抉るように射抜いていた。 広い境内のフィールドも縦横に暴れ回る彼女にとっては狭小なる舞台に過ぎない。 間合いを一息で超える彼女は、まさに戦場に轟く鏑矢の如く――見定めた相手を狙い澄ましていた。 「――『閃刃斬魔』推して参る!」 幾度と無く繰り返した勇壮な名乗りは、今夜も変わる事は無い。 まるで愛しい恋人にそうするように『強敵』を慈しむ彼女が仕掛けたのは、しかし雪之丞に非ず。弟子のデュランダルだ。 間合いを詰めながら、全身に光を纏った彼女は地を這う雷撃のようである。 これを迎撃する構えを見せた敵を嘲り笑うかのように急加速し、残像と共にその防御を翻弄した。 「ふん、前座に時間等かける場合でも無かろうよ」 蜂須賀朔に続くのは紅涙真珠郎。 出し惜しみ無く、可能な限りの火力を傾けるのは――短期決戦が予測される本戦にとって最上最良の戦闘論理である。 ほぼ同時。先に仕掛けた獣に負けじと――弱った敵に群がり、貪り尽くさんとするその様は、『獰猛な鮫』をイメージさせた。否。朔にしても同じ事だが、他人が羨む美貌を持ちながら――蜂須賀であり、紅涙である事実は、より真珠郎の本質を示した『スキュラ』とする方が相応しいか。 「今夜の我は優しく無いぞ?」 綺麗な薔薇には棘がある。真珠郎の美女のなりに釣られたならば、犬に食い殺されるのは必至である。 犬歯を剥き、手にした両刃で死を刻む真珠郎は驚嘆すべき技量で一気に敵の喉を狙う。 (まずは、計算通り――) 状況を計算したミリィの読みは今夜も変わらず冴えていた。 先制打に動いた二人、パーティが目論んだのは敵の危険なダメージソースのカット。場で一番危険な敵が雪之丞である事は言うまでも無いが、本戦は集団戦である。高い技量を誇る朔と真珠郎のコンビネーションを辛くも凌いだ敵の姿を見れば、この場に弱兵等居ない事は分かり切っている。 「往くぞ、リベリスタ!」 第二陣。高速を誇る朔と真珠郎に続いて動いたのは雪之丞本人を含む敵ソードミラージュ三人だった。 掻き消えるように消失した弟子二人がそれぞれリリとミリィの至近に出現し、一撃を見舞う。 咄嗟の防御に出た二人だったが、完全な防御には到っていない。彼我の数が同じである以上は、反応に優れた側が己が狙いを遂行するのは必然である。その場に居るだけで味方を高めるミリィと、攻撃精度と制圧力について格別の能力を持つリリは要であると言っても過言では無いだろう。 「私の相手は――再び、貴殿か」 「――貴方は詮無い事と笑うでしょうが。再度の挑戦状に応えて頂き、有難う御座います」 だが、パーティもされるがままに素通しにする心算は無い。 然程の火力を持たない敵の動きを阻むよりも、二度目の抑え役となったリセリアが確実に雪之丞の相手役を取るのは重要だ。 「敗れて再度挑む……恥ではないけど我儘には違いない。これは、私の認識の問題です」 「左様か。ならば、期待は裏切るまいな?」 「当然、唯再戦するだけで無く。私達とて、あの時から遥かに腕を上げた自負はある――!」 短い言葉のやり取りは、鮮やかにして苛烈なる剣戟の音色に華を添えている。青い月光を出鱈目に跳ね返す刃の煌きの数々が、完成に近付く二者の剣士としての腕前を何より雄弁に語っていた。 「貴方に対し二度目を挑むに恥じぬ位には、研ぎ澄ませた心算です――刃桐殿!」 「良くぞ言った!」 雪之丞の双剣が空間を急激に冷却する。 氷気を帯びたその技は、リセリアにとっては見知ったものだ。 「は――ッ!」 鋭い呼気と共に打ち込まれたリセリアの一撃を腕を畳んだ雪之丞が辛くも弾く。 彼の表情が一層沸いたのは、先刻承知だった好敵手の腕と伸びを再認識したからだ。 「漸く俺も登る山の霧が少々晴れた所だ。以前とは少々勝手が違うぞ……!」 真夏の蜃気楼(そふ)との邂逅は負けじと動く拓真の剣に実に大きな転機を投げかけていた。 身を翻し、体を入れ替えるようにした真珠郎に代わり正面からデュランダルを叩きにかかる。 猛烈な威力を秘めた黄金の剣、備えた彼のガン・ブレードは今度こそ敵の一人を運命に縋らせた。 「大した邪剣よ」 「邪剣で結構! ……只、真似をしていた所で俺の剣が真の意味で完成する訳などないからな」 言葉でどう言い繕おうとも、拓真はこれまで真に己の剣を信じてはいなかった。 それを正してくれたのが――故人であった祖父だった事は情けなくも、皮肉でも。嬉しくもあった。 乱戦めいた場に敵陣も自陣も次々と己の技を繰り出し始めた。 これは文字通りの血戦である。最も剣林らしい闘争はリベリスタ側の首筋にも匕首を突きつけているようなものであった。 倒される前に倒すまで――言葉にすれば容易いが覚悟のある人間は多くは無い。この場に居るリベリスタ達が、フィクサード達が全て一流の戦士であるが故に成り立つ、至高の鍔迫り合いである。 「――流石は、剣林。やはり手強い。 しかし、強敵との戦い。こうして心が高揚するのは相手が彼らだからでしょうか?」 「退けば負けます」という『余り論理的ではない言葉』をミリィは敢えて口にしなかった。 研鑽を重ねた彼女が放ったプレッシャーの塊が敵の足元で炸裂する。動きの遅れたクロスイージスの一人の機先を制した一撃は彼の足止めには十分だ。 「さあ、『お祈り』を始めましょう」 生み出された隙に攻勢を仕掛けるのは『十戒』と『Dies irae』――二丁の聖銃。 制圧せよ、圧倒せよ 私の力(いのり)は、独りで戦う力でなく 誇り高き、全員での勝利の為 「今、私が力を欲するのは。自分の足で立ち、『私の』大切なものを守る為……!」 リリの青い瞳が一つの敵も見逃さぬと間合いに弾幕を撒き散らす。敵に仕掛けられた事も今夜に限れば望む所であった。全ての敵を捉えんと考えた彼女は敢えてフロントに立つ事さえ望んでいたからである。 自身の、自身の為の、自身に拠る――意志の力を理解し始めた聖女は或る意味で誰よりも過去より強くなっていた。 戦いは続く。 (うちらとしては、こちらの戦力が消耗する前に雪之丞さんを倒してまいたいんよな…… なるべくロスが無いよう、攻撃の分散は抑えんとやね) 椿の考える通り、この戦いには楽観視というものが許されない。 ミリィの指揮の下、事前の作戦を精度良くなぞるリベリスタ達は流石の戦い慣れである。だが、巨大なダムが蟻の一穴で崩れる事もあるように――プランはタイト・ロープの上を渡るようなものだ。 「ま、少しでも確率を上げんといかん訳やね」 椿の肩にかかる責任も大きいものがある。首尾良く敵の防御の要になるであろうクロスイージスをブロックした彼女は、無骨な敵を持ち前の技巧的な戦いで見事に抑えていた。 「前回のナイクリさんもそうやったけど、イージスさんには悪いと思うわ。でも、堪忍しといてな」 「そう言えば前の相手の名前聞いとらんかったな」。そう嘯いた彼女は実に厄介な使い手である。幾重にも敵を食い止める手段に長けた彼女はギルティドライブの『砲撃』と絶対絞首の『妨害』を見事に使い分けている。 「うちも本来、グーで殴り合うんは嫌いや無いけどな?」 一方で破壊の進撃――オーラを纏う虎鐵は椿に比すれば余りにも直球である。 その単純なる存在感、猛進はいよいよ何者にも止め難い。 「負けてられねぇよな……!」 吠えるように気合を発した虎鐵の剛剣がデュランダルの守りを弾き飛ばした。正面から叩き潰す事に限定するならば――彼の剣は究極の一つ。一事を鍛え上げるという意味合いにおいて別格。ずるりと崩れ落ちたフィクサードが「おお……」と感嘆の声を漏らしたのは、虎鐵を賞賛してのものである。 「鬼蔭虎鐵は、負けてられねぇんだよ。分かるか、刃桐雪之丞!」 その名にも負けぬ眼光はまるで飢えた獣のものである。 「あの時の俺とはもう違う……俺は……百虎と梅泉を越えねぇといけねぇんだよ」 眉をピクリと動かした雪之丞が良く知る二人の名に何を思ったかは定かではない。 「剣林であれば唯只管強さに貪欲になれ。そう教えられたからな」 「それは真理だ」 しかし、剣林であるからには虎鐵の言葉は肯定しない理由は無い。 「さぁ、見せてくれ。魅せてくれ――君の最大を!」 切り結ぶ朔の声が嬉々を孕む。 「私はまた強くなったぞ。君はどうだ『五十文』!」 戦いが加熱する程に鋭さを増す朔に、目前の剣林すら僅かに怯む。 もし、戦いの女神なる存在が居るならばそれは嗜虐的な美人に違いない。 それは危険な程、何時も誰かを魅了してしまうものだから。 ●決闘III 「舐めるな。『小僧』。そりゃ敬老精神のつもりか。すかしとらんで本気で来い」 リセリアの援護に入った真珠郎は額から流れ落ちた血を舐めて嘯いた。 相対するならそうでなければ意味が無い、喰い殺すならそうでなければ甲斐が無い。 敗北を、恐怖を心底から唾棄する女は何処までも――『紅涙真珠郎』以外の何者でも無く。 「命を惜しむな。刃が曇る」 十月の夜に吹雪が唸る。 白く視界を灼いたその光の正体をリベリスタ達は今度こそ確認した。 雪の獣が間合いを奔る。展開から集中打を受け、傷んだ雪之丞が繰り出した大技がリベリスタ達を襲う。 もし、彼等にそれを受け切る勇気が足りなかったならば、結末はリプレイしただろう。。 もし、彼等に更なる一歩を踏み込めぬ迷いがあったならば、幾度繰り返しても同じだっただろう。 だが。 「勝つのは私達です。私達に二度目の敗北は必要ないのだから!」 朗々としたミリィの宣誓は、この瞬間を予期していた。 この場を制する事は即ち勝敗。なればこそ、パーティはこの瞬間を待っていた。 早い段階で雪之丞を追い込む事で『雪神楽』を待ち受けていたのだ。 「『死牡丹』には危うく首を刎ねられかけましたが……」 同じなようでいて、まるで違う。『五十文』の剣は恐らくは正統に『一菱』を極めているのだろう。 故に。 「――貴方の剣は、美しい」 韻と爆ぜ割れた白嵐より、リセリアの影が飛び出した。 「――この新しい力、神をも殺す魔弾が、以前敗れた貴方に何処まで通ずるか。 武器は違えど、同じ二刀を振るう者として……その強さへの興味は尽きません!」 その後方で、運命を燃やし、己に張り付いた凍気さえ跳ね除けた。 自身らしからぬ熱量を帯びたリリが放ったのは、大いなる魔弾の狙撃(ピリオド)だ。 構えを取った雪之丞の動きが彼らしからず精彩を欠く。同じように傷付いたリベリスタ達は、しかしてこの機が自身等に与えられた最初にして最後の、そして最大の好機である事を知り過ぎる程に知っていた。 「何人倒れようと己が倒れるまで戦い切る! 望んでここに来たのだ。二度も負けるなどどは、死などよりもよっぽど我慢ならないではないか!」 朔の速力が猟犬の如く影を追う。 「全く、上を見れば見るほど際限が無い。剣の道とは面白い物だ」 呟いた拓真は敵の力を知っていた。個の力では未だ及ばぬ敵を知っていた。 だが、力の抜けたその言葉からはかつてのような脅迫観念めいた気負いは無い。 「俺に最強の称号は必要ない。飛翔する鷹が如く、この命のあるがまま……果てを目指し飛んで行く!」 迷いの無い斬撃が、雪之丞を襲う。 よろめいた彼にリセリアが迫った。 執念めいた力を発揮し、正面から彼女を迎撃した彼と彼女が交錯する。 胸躍る 雪舞う青き 夜長月 さだめ散るとも 握るは刃 「……見事」 先に崩れ落ちたのはリセリアだった。 しかし、唇に歌を乗せた朔は呟いた彼の胴を彼女が捉えた刹那を見切っていた。 ――私は、幸運だった―― この夜に出会えて。 奇しくも崩れ落ちる雪之丞と朔の想いは全く同じ。 一人の男の最期の剣と呟きが、この夜の趨勢を決めたのを最早疑う者は居ない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|