●蠱毒の竜帝 源竜拳。 聞くだに痛い名称を持つその武術は、人に竜を降ろすと言う詭弁を始原とする。 そも、竜とは何ぞ。竜とは即ち、最も尊く、最も気高く、最も猛々しく。 最も力強く、最も硬く、最も恐ろしい、神との獣ともつかぬ神秘の総称である。 であれば、其を人に降ろすとは何と言う傲慢か。 人々は彼の流派を心置きなく嘲笑った。人が竜へと変じるとは良く詠った物であると。 馬鹿馬鹿しいにも程が有る。師父は幻想に憑かれておられる。 武術家として一定の地位と名誉と、何より実力を鍛え上げた自負と共に生きて来た男は、 それに酷く傷付いた。比喩であろう、隠喩であろう。例え話であろう。 己が拳は竜の如く、尊く、気高く、猛々しく在りたいと。その意思を。理想を。 何故嘲笑われなければならないのか。 けれど、武に長じる者の多聞に漏れず。彼の男は弁に優れる方では無かった。 想いを言葉にしようと伝わらず、祈りを文へ綴ろうと取り合われず。 気付けば男は武術家ですらなく、法螺吹きとして名を馳せていた。 天に唾を吐く愚か者。度し難い虚言の徒として。望まぬ蔑視を向けられる。 彼に従う徒弟も日々減って行った。その様な虚構の流派に属していられるかと言うのである。 かくして、竜を目指した男は滝を登る鯉にすらなれずに水中へ没する。 世俗の垢。世論の妙。人々の悪意と言う分かり易くも容易い壁に阻まれて。 男は終生己が身を鍛え、鍛え抜き、研ぎ澄ませたが、 その名が武名として上がる事は遂ぞ無かった。死の淵まで嘲笑われ続け、孤独に死んだ。 けれど、彼には最後までその道を共にした弟子が1人だけ残っていた。 今際の際、男は彼に言って聞かせた。高過ぎる理想など語るべきではない。 人は何時でも他人を蹴落とす機会を狙っている。想いは秘める物。 声に出した瞬間に、その夢は、希望は、毒となって己を蝕む。 人はそれをこう呼ぶのだ。“妄想”だと。そうであった方が都合が良いから。 叶わぬ夢など見ぬ方が、生き易いのだからと。故に、師父はこう告げた。 己が幻想を語る事を禁ず。ただ黙々と。誠実に。力だけを研ぎ澄ませと。 其処に心の鍛錬と言う要素は含まれていなかった。さもありなん。 心をも鍛え上げたと信じていた師父すらが、他人の弁に勝利し得なかったのだ。 彼に一体何が教えられただろう。失意の内に、師父はこの世を去った。 唯一人残された弟子は、師の遺言に従い己が拳を鍛えた。 鍛えて、鍛えて、鍛え上げた。その間胸中を吹き荒れていた感情などは置き去りに。 そうして幾年月が過ぎた。何時しか男は人の領域を大きく逸脱していた。 人里離れた山奥で、無我夢中で竜を目指し続けた男の拳には竜の刻印が。 誰あらん、修行中思い立ち男が自分で彫ったのである。何てことを。 男の両目には万里を見通す千里眼が宿る。 勿論、男がそうであると思い込んでいるだけである。どうしてこうなった。 そして、男の中に宿る竜の王、竜帝の意思が男へ告げる。 これより百の武芸者を倒し、百の魂を捧げよ。さすれば男は真なる竜へと転じよう、と。 言うまでも無い。妄想である。幻聴である。何かそんな気がしているだけである。 男には、文字通り類稀なる才能があったのだ。 自分の世界を構築する才能が。こんなの絶対おかしいよ。 師の言葉はどうも上手く伝わってはいなかった。弁に劣るとこう言う事も有るらしい。 弟子は妄想を言葉にしなかった。が、言葉にしないだけで一層酷い事になっていた。 かくして、此処に立派な厨二病戦士が誕生する。 恥とか外聞とか自覚とかも無い本物である。これは流石にどうしようもない。 但し、男の運命を決定的に捻じ曲げた物。 それが師から受け継いだ黒い石である事だけは、間違えようもなかった。 師のお守りであったその不思議な石は、まるで導かれる様に己が主を選択する。 そして、2つの石は惹かれ合い、新たな戦いの幕が、切って落とされる。 ●アーク所属の邪気眼さん達、出番です。 その日、ブリーフィングルームへやって来たリベリスタ達へ開口一番。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が資料を読み上げる。 「くくく、遂に此処までやって来た様だな だが、貴様が倒してきた奴は我々の中でも一番の小者!」 あの、和泉さん? 天原和泉さーん? 大丈夫ですかー? 「え、あ。きゃあ!? ち、違うんですよ!? これはイヴちゃんから読み上げる様に言われただけで、本当ですってば!」 慌てた様に釈明するも、自分が何を読まされていたのか理解したのか、 頬が朱に染まっている。あの無表情ロリなにしてるし。 けれど流石はプロ。気分をすぱっと切り替えては事情説明である。 「今回、皆さんにはこのアーティファクトを防衛して頂きます」 差し出される、黒い石。見る人が見れば分かる。アーティファクト『ドリームジュエル』。 人々の妄想を部分的に具現化すると言う能力を持つ恐ろしいアーティファクトである。 その、色々な意味で。 「どうも、このアーティファクト幾つかばら撒かれているらしく。 オルクス・パラストの方でも1つ確保していると言う報告が入っています。 一体全部で幾つ有るのかは不明ですがその内1つの所有者が、 アークへ襲撃を仕掛けてくると言う未来がカレイドシステムに引っ掛かりました」 ドリームジュエルは持ち主の基本的な能力を大きく引っ張り上げる。 石の恩寵を全力で受けた場合、駆け出しフィクサードですら一人前のリベリスタを陵駕し得る。 勿論、其処まで大きな影響力を及ぼす以上、リスクは存在する。 ドリームジュエルの効果範囲は半径10m全周無差別。敵も味方も強化する。 場合によっては、ドリームジュエルの加護を上書きされる事すら有り得る。 そう、ドリームジュエルの世界で求められるのは能力の多寡ではない。 妄想の深さ。邪気眼の強烈さである。その点――今回の敵は、難物で有ると言えた。 「今回やって来るのは『蠱毒の竜帝』劉・天雷 リュウ・ティエンライと読む見たいですね。 あ、自称です。本名不明、出身地も不明なので。クラスは覇界闘士。 対人経験は殆ど有りませんが、戦闘能力だけ見ればかなりの実力者です」 それをドリームジュエルが後押しすれば、 格闘能力だけでなく、防御面でも鉄壁に近い守備力を得る事だろう。 生半可では、通じない。良くも悪くも、妄想力の限界に挑む必要が有る。 「ただ、現状では正直実力だけ比較しても勝率が厳しいと言う事で、 ドリームジュエルにはドリームジュエルを。こちらも使うことにしました」 差し出される黒い石。貸与にしても破格の条件である。 同一のアーティファクトを使って同じ土俵に立つ。後は互いの地力勝負。 「相手の狙いもこのアーティファクトなので、誘導効果も期待出来ます。 皆さんのその……愛と、勇気と、希望で、この苦難を打破して下さい!」 上手く誤魔化した和泉の言葉はさておき、さて。 何の因果か今一度、アーク所属の邪気眼さん達の出番である。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月21日(日)21:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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