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【ドリームワールドへようこそ!】竜帝襲来

●蠱毒の竜帝
 源竜拳。
 聞くだに痛い名称を持つその武術は、人に竜を降ろすと言う詭弁を始原とする。
 そも、竜とは何ぞ。竜とは即ち、最も尊く、最も気高く、最も猛々しく。
 最も力強く、最も硬く、最も恐ろしい、神との獣ともつかぬ神秘の総称である。
 であれば、其を人に降ろすとは何と言う傲慢か。
 人々は彼の流派を心置きなく嘲笑った。人が竜へと変じるとは良く詠った物であると。
 馬鹿馬鹿しいにも程が有る。師父は幻想に憑かれておられる。
 武術家として一定の地位と名誉と、何より実力を鍛え上げた自負と共に生きて来た男は、
 それに酷く傷付いた。比喩であろう、隠喩であろう。例え話であろう。
 己が拳は竜の如く、尊く、気高く、猛々しく在りたいと。その意思を。理想を。
 何故嘲笑われなければならないのか。
 けれど、武に長じる者の多聞に漏れず。彼の男は弁に優れる方では無かった。
 想いを言葉にしようと伝わらず、祈りを文へ綴ろうと取り合われず。
 気付けば男は武術家ですらなく、法螺吹きとして名を馳せていた。
 天に唾を吐く愚か者。度し難い虚言の徒として。望まぬ蔑視を向けられる。
 彼に従う徒弟も日々減って行った。その様な虚構の流派に属していられるかと言うのである。

 かくして、竜を目指した男は滝を登る鯉にすらなれずに水中へ没する。
 世俗の垢。世論の妙。人々の悪意と言う分かり易くも容易い壁に阻まれて。
 男は終生己が身を鍛え、鍛え抜き、研ぎ澄ませたが、
 その名が武名として上がる事は遂ぞ無かった。死の淵まで嘲笑われ続け、孤独に死んだ。
 けれど、彼には最後までその道を共にした弟子が1人だけ残っていた。
 今際の際、男は彼に言って聞かせた。高過ぎる理想など語るべきではない。
 人は何時でも他人を蹴落とす機会を狙っている。想いは秘める物。
 声に出した瞬間に、その夢は、希望は、毒となって己を蝕む。
 人はそれをこう呼ぶのだ。“妄想”だと。そうであった方が都合が良いから。
 叶わぬ夢など見ぬ方が、生き易いのだからと。故に、師父はこう告げた。
 己が幻想を語る事を禁ず。ただ黙々と。誠実に。力だけを研ぎ澄ませと。
 其処に心の鍛錬と言う要素は含まれていなかった。さもありなん。
 心をも鍛え上げたと信じていた師父すらが、他人の弁に勝利し得なかったのだ。
 彼に一体何が教えられただろう。失意の内に、師父はこの世を去った。

 唯一人残された弟子は、師の遺言に従い己が拳を鍛えた。
 鍛えて、鍛えて、鍛え上げた。その間胸中を吹き荒れていた感情などは置き去りに。
 そうして幾年月が過ぎた。何時しか男は人の領域を大きく逸脱していた。
 人里離れた山奥で、無我夢中で竜を目指し続けた男の拳には竜の刻印が。
 誰あらん、修行中思い立ち男が自分で彫ったのである。何てことを。
 男の両目には万里を見通す千里眼が宿る。
 勿論、男がそうであると思い込んでいるだけである。どうしてこうなった。
 そして、男の中に宿る竜の王、竜帝の意思が男へ告げる。
 これより百の武芸者を倒し、百の魂を捧げよ。さすれば男は真なる竜へと転じよう、と。
 言うまでも無い。妄想である。幻聴である。何かそんな気がしているだけである。
 男には、文字通り類稀なる才能があったのだ。
 自分の世界を構築する才能が。こんなの絶対おかしいよ。
 師の言葉はどうも上手く伝わってはいなかった。弁に劣るとこう言う事も有るらしい。
 弟子は妄想を言葉にしなかった。が、言葉にしないだけで一層酷い事になっていた。
 かくして、此処に立派な厨二病戦士が誕生する。
 恥とか外聞とか自覚とかも無い本物である。これは流石にどうしようもない。

 但し、男の運命を決定的に捻じ曲げた物。
 それが師から受け継いだ黒い石である事だけは、間違えようもなかった。
 師のお守りであったその不思議な石は、まるで導かれる様に己が主を選択する。
 そして、2つの石は惹かれ合い、新たな戦いの幕が、切って落とされる。

●アーク所属の邪気眼さん達、出番です。
 その日、ブリーフィングルームへやって来たリベリスタ達へ開口一番。
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が資料を読み上げる。
「くくく、遂に此処までやって来た様だな
 だが、貴様が倒してきた奴は我々の中でも一番の小者!」
 あの、和泉さん? 天原和泉さーん? 大丈夫ですかー?
「え、あ。きゃあ!? ち、違うんですよ!?
 これはイヴちゃんから読み上げる様に言われただけで、本当ですってば!」
 慌てた様に釈明するも、自分が何を読まされていたのか理解したのか、
 頬が朱に染まっている。あの無表情ロリなにしてるし。
 けれど流石はプロ。気分をすぱっと切り替えては事情説明である。
「今回、皆さんにはこのアーティファクトを防衛して頂きます」
 差し出される、黒い石。見る人が見れば分かる。アーティファクト『ドリームジュエル』。
 人々の妄想を部分的に具現化すると言う能力を持つ恐ろしいアーティファクトである。
 その、色々な意味で。
「どうも、このアーティファクト幾つかばら撒かれているらしく。
 オルクス・パラストの方でも1つ確保していると言う報告が入っています。
 一体全部で幾つ有るのかは不明ですがその内1つの所有者が、
 アークへ襲撃を仕掛けてくると言う未来がカレイドシステムに引っ掛かりました」
 ドリームジュエルは持ち主の基本的な能力を大きく引っ張り上げる。
 石の恩寵を全力で受けた場合、駆け出しフィクサードですら一人前のリベリスタを陵駕し得る。

 勿論、其処まで大きな影響力を及ぼす以上、リスクは存在する。
 ドリームジュエルの効果範囲は半径10m全周無差別。敵も味方も強化する。
 場合によっては、ドリームジュエルの加護を上書きされる事すら有り得る。
 そう、ドリームジュエルの世界で求められるのは能力の多寡ではない。
 妄想の深さ。邪気眼の強烈さである。その点――今回の敵は、難物で有ると言えた。
「今回やって来るのは『蠱毒の竜帝』劉・天雷 リュウ・ティエンライと読む見たいですね。
 あ、自称です。本名不明、出身地も不明なので。クラスは覇界闘士。
 対人経験は殆ど有りませんが、戦闘能力だけ見ればかなりの実力者です」
 それをドリームジュエルが後押しすれば、
 格闘能力だけでなく、防御面でも鉄壁に近い守備力を得る事だろう。
 生半可では、通じない。良くも悪くも、妄想力の限界に挑む必要が有る。
「ただ、現状では正直実力だけ比較しても勝率が厳しいと言う事で、
 ドリームジュエルにはドリームジュエルを。こちらも使うことにしました」
 差し出される黒い石。貸与にしても破格の条件である。
 同一のアーティファクトを使って同じ土俵に立つ。後は互いの地力勝負。
「相手の狙いもこのアーティファクトなので、誘導効果も期待出来ます。
 皆さんのその……愛と、勇気と、希望で、この苦難を打破して下さい!」
 上手く誤魔化した和泉の言葉はさておき、さて。

 何の因果か今一度、アーク所属の邪気眼さん達の出番である。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月21日(日)21:26
28度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
まさかの邪気眼。例えキャラブレイクしたとしても当方は一切責任を取りません(きり
また、ギャグシナリオでは有りません。真剣勝負です。色んな意味で。以下詳細。

●依頼成功条件
 ドリームジュエルの回収、フィクサード『蠱毒の竜帝』劉・天雷の討伐か撃破

●ドリームジュエル
 半径10m以内の人間の妄想力を測定し、力へと変えるアーティファクト。
 0~5の六段階評価。評価値×10の補正が、物攻、神攻、物防、神防にそれぞれかかります。
 また、天雷は所有者の為×20で+80の補正がかかっています。
 リベリスタ側の所有者も同量の補正がかかります。所有者は相談にて御決定下さい。
 ドリームジュエルの効果範囲が重複した場合、効果は大きい方が優先されます。
 所有者不在の場合、リベリスタ側のドリームジュエルは効果を発揮しません。

●竜帝
 本名不明。30代前半の男性。自己称号は『蠱毒の竜帝』
 孤独と蠱毒をかけている模様。劉・天雷の方も偽名と言うか名乗っているだけ。
 望むと望まざると一子相伝になってしまった流派、源竜拳の現後継者。
 後継も何も他に競争相手も居なかった者の、武才はともかく想像力は潤沢。
 ドリームジュエルの加護を全力で受けている上、覇界闘士としても十分優秀です。
 覇界闘士中級までのスキルを使用可能。
 所有一般スキル:自己再生、大錬気、五行想
 所有非戦スキル:面接着、気配遮断
 所有攻撃スキル:森羅行、斬風脚、大雪崩落、壱式迅雷
 EX:源竜拳・天墜絶掌
 技名を叫びながら繰り出される踵落し、崩拳、発剄へのコンビネーション技。
 物近単、物攻特大【追加効果】[ノックバック][弱点][必殺]

●戦闘予定地点
 ドリームジュエル所有者は互いに引き合う為、三高平市内であれば指定可能。
 特に指定しなかった場合は、夜の三高平飛行場、屋上。
 光源有り、障害物無し、落下の危険有り。
 落下した場合戦闘不能扱い、フェイト復活可。となります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
マグメイガス
アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)
ソードミラージュ
葛葉・颯(BNE000843)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
★MVP
ホーリーメイガス
氷夜 天(BNE002472)
マグメイガス
大魔王 グランヘイト(BNE002593)

●竜帝降臨
 三高平市郊外。かつての大災害の爪痕に彼らは集っていた。
 空には薄く輝く弦の月。歩み来る影は少しずつ。
 けれど徐々にくっきりと境界線を顕にしていく。
 対峙するは八と一。だが人数の格差などこの場に於いてはさしたる意味を持たない。
 競い合い、凌ぎ合うのは己が幻想の強度。誰が拍子を取るでもなく、相対した瞬間に理解し合う。
「――お前か」
「――ええ、私です」
 言葉は無意味と知れど、名乗り合うは武人の誉。視線は互いに一人しか見ていない。
 八人の最奥に控える少女。『皇竜琉水拳伝承者』汐崎・沙希(BNE001579)が
 『蟲毒の竜帝』劉・天雷の問いへと、応じる。握り締める拳。交わる眼差し。
 しかし、甘い。甘過ぎる。例え引き合う運命に在る者が二人で在ったとしても、
 この場には他に六人が居る。彼らを視界から遠ざけたのは天雷の驕りに他ならない。
 それを彼は思い知る。

「やぁやぁ我こそは盆栽マスター葛葉颯、宵闇に紛れて悪を打つ正義の吸血鬼なりやー
 ……とか、ええっと、いや、小生若いから微妙に恥ずかしいのダ」
 焦った声で名乗りを上げる『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)
 恥じらいが混じるのは、まあ仕方ない。御愛嬌である。そういう気持ちは大事にして頂きたい。
 だがこの場に於いて、彼女は異邦人であった。
 此処は既に、互いの世界を削り合う夢幻の宝珠(ドリームジュエル)の支配下であれば。
「悪しき心を清め正すが私の使命」
「我は夜の守護者たる銀の月」
「破邪の力で邪なる者を打ち砕く!」
「静寂の夜を乱す竜に、葬送の光と闇を」
 左右から響く声は朗々と。背中合わせに唱えるは少女と淑女の二重奏。
「魔法少女まじかるソラちゃん参上!」「さあ、神々の黄昏を始めましょう」
 轟け雷光、鳴れよ稲妻。立ち塞がるは、
 『魔法少女マジカルソラちゃん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)。
 そして『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)
 チェインライトニングの後光を受けて、2人の口上が高らかに、高らかに。

 それを見つめた颯が数度瞬く。彼女にも見える。2人に灯る幻想の光が。
 沙希持つドリームジュエルが彼女らの世界を後押しする。それを是であると肯定する。
 その様に、独りであることしか知らない天雷が瞠目する。
 己が世界を絶対と信じればこそ、彼は知らない。世界を共有し協力し合う事の強さを。
 彼は理解し得ない。1つの夢幻の宝珠が持つ、真に限り無き可能性を。
 けれど語り、名乗るのみが業ではない。ただ静かに佇む。
 それによって生み出される世界もある。
 髪、服、風に靡かせて……そう、世界はいつでも思うままなのだと。
 そうであると断ずる事で生まれる運命もある。
「勿論、勝つのは絶対僕らだよ」
 黒い長髪を靡かせて、淡い茶色の瞳が天雷を射抜く。
 宿るのは意志ではなく、勝利を当然とする絶対の確信。根拠などいらない。何故なら――
「だって僕、超ツイてるから!」
 『絶対運命選択者』氷夜 天(BNE002472)は、揺るがない。
 
「真なる竜の座は我が兄にこそ相応しい」
 そして一人は愛する兄の為に。
「戦いもしなかった負け犬に負けてる場合じゃないだろー
 大火の伴星(アンタレス・コンパニオン)としてはー」
 そして一人は己が誇りの為に。
 一対の双銃、禍々しき斧槍、それぞれを構え竜帝を迎え撃つ。
 その様を見て漸く理解する。そう、これは夢幻の宝珠の争奪戦等ではない。
 甘えは即脱落へと直結する、妄想(セカイ)の奪い合いである事を。
「……面白い」
 天雷の中の竜帝が、彼の代わりに声を上げる。そう、面白い。
 彼の拳は、幾千幾万、幾億に届かんと振り続けて来た彼の爪牙はこの為に在ったのだと。
 今彼は痛感する。これは天命であったのだと。歓喜に、打ち震える。
 文句無しの好敵手。それは、最後の一人とてまた、同じ。
「控えよ、頭が高い」
  闇の衣(ワールド・オブ・デスペアー)を翻し、その男は一歩進み出る。
「天よ哭け。地よ震えよ。人よ絶望するがよい」
 其は紛い物ではない、真に千里を見通す魔眼の担い手。
「――余が大魔王グランヘイトである」
 相手にとって、不足は――無い。

●竜虎相討
「我が血よ巡れ。闇夜の力をもて、肉体を満たし、魂魄を満たせ――
 真祖覚醒(ケーニッヒ・ブルート)」
「童帝相手なら第一で十分だろー。
 黄道大火第一開放・主系列星(アンタレスサブドライブ・メインシーケンス)」
 各人が己が真の力を解放する為に詠唱を始める最中、
 けれど武人である竜帝に下準備など必要無い。踏み込む一足、そし放つ一拳。
 それだけあれば必要十分。進路上に立つのは盆栽マスター、颯である。
「な、小生カネ!?」
 周囲の雰囲気に完全に呑まれていたか、出足の遅れた颯へと、
 激しい雪崩の如き威力をもった剛拳。天雷の大雪崩落が突き刺さる。
 単体戦に特化した上、夢幻の宝珠の加護を最大限に受けている竜帝の一撃である。
 その威力は条理の物とは到底言い難い。宙を舞い、叩き付けられる。
「ぐ、ごほ……これは、洒落にならんのダ」
 颯もまた血を吐きながら運命の加護を削り立ち上がらんとするも、直ぐには立てない。
 それほどまでに、その拳の威力は絶大である。
 文字通り竜を体現する一撃に、しかし大魔王はこれに嘲笑で返す。
「そんな物か」
「――何?」
 完全に入った。その筈である。鍛え上げた一撃は瞠目するに足るだけの威力を持つ。
 しかし彼には対人の経験が殆ど無い。であればこそ、自負の立地は酷く不安定である。
「その程度で竜とは笑わせる。かつて余が封じた竜魔神も怒り猛っておるわ!」
「竜魔神……かつて竜帝と覇権を争ったと言う――馬鹿な!」

 それが何を意味しているかを悟り、天雷の瞳が見開かれる。
 即ち、自分が竜帝を宿す者である様に、彼の大魔王はその身に竜魔神を宿す者であると。
 であればこうして見えるのもまた、かつての封竜大戦より脈々と続く宿縁に他ならない。
 天雷の中で瞬く間に世界が拡張されて行く。そうして生まれた間を――虎の双爪は逃さない。
「猫が獲物をいたぶるように、じわじわと狩ってあげる」
 放たれる二条の精密射撃。それらの狙いが足であると悟り、思わず竜帝が場を跳び退く。
 対人経験の少なさは、即ち飛び道具への対応力の不足でもある。
 天雷にとって相対した武人は師、唯一人。銃器と言うのは未知の分野だ。
「聖剣よ。世界を救うべき剣が世界を覆う闇に加担するを嘆くが良い」
 だが、その動作はこの場合致命的である。魔王が嗤い、堕ちた聖なる剣を振るう。
 なればそれは絶望の顕現に他ならない。
 放たれし“失われし勇気と呪われし運命の矢(アロー・オブ・グリーフ)”が、
 狙い違わず天雷の胴を射抜く。
「我が拳は己が力を慈愛へ転じた回復の祈り……やらせません!」
 そうして傷付いた颯を沙希が癒せば、彼我の距離は元に戻る。
 しかしそれは決して悪い流れではない。元より多勢に無勢。
 竜帝が彼らの防衛網を突破出来ないのであれば、勝利するのは数に勝る側である。
 それは戦いの必然。天雷もまた、その事実を理解している。
「分かるだろ、風は僕らの方へ吹いている」
 幸運の星は胸を張ってそう宣告する。その言葉に、天雷に眼差しが変わる。

 そう、彼は甘く見ていた。彼らの敵の事を。その世界の強度を。
 けれど、迷妄は晴れる。天雷の内なる竜帝がざわめく。全力で――挑むべしと。
「ならばその風、引き寄せるまで」
 踏み出し、踏み込む。其処へ割り込むは大火の伴星、岬。
 その眼前で軽妙に天雷の身が踊る。振り上げ、振り下ろされる死神の踵。
「源竜拳奥義――」
「――っ」
 これを禍々しい斧槍、アンタレスが受け止める。重い。余りにも重い一撃。
 けれど、岬には秘策があった。
 相手の手が読めているのであれば、格闘技の連撃等と言うのはそう容易くは入らない。
 判断は――一瞬。
「人に打ったことないだろー?繋ぎに無理があるよー、踵落しから体重移動命の崩拳は」
 手を伸ばし、蹴り足を掴む事で体制を崩す。それが成れば、其処で止まる。
 そう、平常の格闘技であれば、それは、正しい。
 だが――
「天・墜」
 足にかかった手ごと力尽くで踏み下ろす。逆に、崩れるのは岬の体勢。
 地に根が張ったかの如き脚位の安定感は、夢幻に宝珠による後押しが有ればこそだろう。
 道理を覆すからこその破界器。ゆっくり踏み込みと共に押し当てられる拳。
「絶・掌――!」
 体の中に浸透する熱量、そして、轟音。
 爆発的に膨れ上がった闘気の塊が体内で弾け、岬の体が吹き飛ばされる。

「何て威力……これが、源竜拳……!」
 静かに、沙希が瞳を見開き呟く。けれど、其処に抱く思いは驚きばかりではなく。
(何、私……今の技を、知ってる?)
 脳裏を過ぎる映像。果たしてそれが何かも分からないままに。
 沙希は自らが着けた蒼石乃小手を握り締める。何故か、胸の奥が、熱い。
 それは目覚めの予兆。双竜は決して――並び立たない。

●双竜不並
「これが私の全力……全ての想いをこの一撃にのせて! 唸れ雷鳴!」
 マジカルソラちゃんマスケットから解き放たれた雷撃が、竜帝を射抜く。
 体躯に雷の残滓を纏わせながらも、けれど名は体を表すとでも言うつもりか。
 天雷は、止まらない。走り抜けるは壱式迅雷。
「アンタレスは連星でねー……命は2つ有るんだよー」
 天墜絶掌の傷痕は深く、体を血で染め上げながらもアンタレスを杖として岬が立つ。
「双刀繰りて――疾風怒濤と駆け抜けん!」
 加速した颯が両手に異なる短剣を持って切りかかる。
 これを受けんと天雷が身構えるもそちらはフェイント、本命が指先を彼へと向ける。
「魔弾の射手よ。我が元に集いて隊列を成し、我が命に従いて砲火を交わせ――」
 覚醒を経て真価を発揮した魔力が指先へと集い、
「魔弾砲火(デア・フライシュッツ)」
 放たれる銀月の魔弾。撃ち抜かれた竜帝が、ぐらりと身を揺るがせる。
「貴様の竜の魂、貰い受ける――無数の爪牙、受けるがいい!」
 畳み掛ける様に放たれるは虎美のハニーコムガトリング。
 蜂の巣を突いた様な、と言う表現がぴたりと嵌る弾丸、また弾丸の嵐。
 夢幻の宝珠の加護がこれの何割かを確実に減衰する物の、
 とは言え体表に付いた傷を消す事までは、適わない。
「OK、僕に任せて!」
「皇竜琉水拳奥義――慈雨唱覇!」
 それで居て、絶対勝利を標榜する天と沙希とが岬と颯とを癒す。
 せめてその、癒し手の一角なりと崩さない事には……竜帝に、勝利は無い。

「感じるぞ。苦痛、憎しみ、怒り、嘆き。貴様ら敗者のその感情、余に取って何よりの楽しみよ」
 千里を見通す魔王の眼はそんな焦りすらも見透かしたか。
 男の掌に燈る炎。正しく破壊を象徴する原罪の火を翳し、大魔王が荘厳に告げる。
「さぁ、貴様らの力をもらうぞ。貴様らには多大な苦痛を与えるが余には関係ない」
 叩き付けられる“七魔と王魔の作りし獄炎(ワールド・オブ・カタストロフィ)”
 竜帝の全身が魔力により生み出された焔に包まれる。じわりじわりと体が燃えて行く実感。
 思わず膝を付きそうなった男の脳裏に声が響く。
 竜は潰えず。竜は尊く、気高く、猛々しく、力強く。
 かくあるべしと、教えられ続けてきた矜持。それが男を、倒れさせない。
「させないっ、運命に導かれた私たちが負けるわけにはいかないものっ!」
 魔法少女マジカルソラちゃんが今一度銃口を構える。けれど、そう、けれど。
 ここで彼女の中の魔術師の血と、破邪の力とが鬩ぎ合う。
「くっ……ダメ、消耗しすぎて体内の魔力バランスが……!」
 相反する力が彼女を蝕み、震えた指先がからマスケットが零れ落ちる。
 其処を走り抜ける竜帝、そう。彼の狙いは唯一つ。
 敵対者達の力を支え続ける、もう一つの夢幻の宝珠。そして癒し手の片割れでもある……
「その命、貰い受ける!」
 誰も割り込めない、ぽっかりと空いた意識の間隙。駆け抜けた男は女へと届く。
 眼差しの交差は一瞬。踏み込むと同時に放たれる拳――大雪崩落。

 ――目覚めよ 我の愛した天の子よ――
 だから、聞こえた声のままに身を差し出した、その少年の存在など
 天雷の視覚には入っていなかった。
「――がはっ」 
 血を吐いた、もう一人の癒し手。天が、沙希を庇っていた。
 身を打ち据えた一撃の威力はとても彼が受け止められる域には無い。
 そのまま崩折れるが当然。そう、文字通りの一撃必殺。その筈だった。
「……ほらな、倒れない」
 だが、倒れない。急所はギリギリ外れている。
 足りない部分を運命の加護と夢幻の宝珠が補い合う。故に彼は『絶対運命選択者』
「……信じてる……この力は、みんなを支えられるって!」
 溢れた光。放たれた天使の歌が傷付いた仲間達を癒して行く。
 拳を握った天雷が、その光に目を奪われた。それは竜にあるまじき、隙。
「ああ――そうだったのですか」
 それが、沙希には見えた。まるで導かれる様に、蒼石乃小手を自身の胸元へ押し当てる。
 ぴき、と。音が響く。何かが割れる。否――孵化する、音。
「天よ……お赦し下さい。私は今こそ天命を識(し)りました」
 響いた音色は澄んだ鈴の如き調べ。握り締めた拳に燈ったのは青い光。
 黒かった夢幻の宝珠が、告げていた。何をか。そう、即ち勝利を。
 竜帝は動けない。彼が彼女を庇った事で、決定的な運命を、男は失ったのだ。

「貴方の孤独を私達が救う……それが――天命」
 蠱毒の竜帝は、蠱毒であるが故に墜つ。それはそうと定められて居たかのように。
「皇竜琉水拳秘奥義――」
 否、けれどそれは、断じて否である。運命とは引き寄せる物。
 選択を阿る物ではない。引き寄せ、掴み取る物なのだから。
「墜竜――百閃矢!!」
 青い、蒼い、碧い無数の光矢が、夢幻の宝珠から解き放たれる。
 突き刺さり、弾き飛ばす。大きく仰け反った竜帝を、上から見据える、瞳。
「理想をめざしてなにが悪いー?」
 振り上げられた斧槍と、視線が合った気がしたのは気のせいだったろうか。
「幻想に、甘えんなー!!」
 走り込んで跳び上がった岬が振り下ろす、会心の一撃。
 硬い防御も、宝珠の加護も、一切を無視したその鮮烈な一撃が、
 男の意志も、師の遺志も、そして何より――孤独なる竜帝と言う幻想を、打ち伏せる。
「竜帝……貴方もまさしく強敵(とも)でした」

 故に、竜帝は此処に墜つ。
 男の懐から転がり落ちた黒い宝珠が、静かに、勝利を告げていた。

●幕間劇
「竜帝が敗れたようです」
 蝋燭の灯りが燈る密室に、集った人間は3人。その内の一人が大仰に肩を竦める。
「何だ、あの爺さん意外と他愛も無いな」
「いえ、今回挑んだのはその弟子の方でして……」
 呆れた様な声に、冷静な声が突っ込みを入れる。
 けれどそのどちらにも言える事は、あからさまなまでの嘲笑の色。
「とは言え、あれの真価も発揮出来ないままである事には変わり無いだろ。
 爺さんだろうが弟子だろうが、大差ねえよ」
「まあ、それはそうなんでしょうけどね」
 歓談する2人に、黙ったままの1人。けれど、それが当然であるかの様に会話は進む。
「で。最後の1つはオルクス・パラストだって?
 まーた面倒くせえ所に渡ったもんだな、誰かあの化け物女何とかしろよ」
「そうですね、ここで手を出すのは得策とは言い難いでしょう
 ですが……もう片側はどうとでもなるのでは?」
 くすくすと、笑いが漏れる。げらげらと、笑いが響く。
「僕ハ、アちらモ余り甘く見なイ方が良イと思うけどネ」
 けれど、空気を割く様に声が割り込む。奇妙なイントネーションの、歪な声音。
「彼らハ、君達が求めテも求メてモ辿り着ケなイ正真正銘ノ英雄の雛達ダ。
 未熟で有ろウと何だロうト、運命と言ウのはネ、容易く僕ラを裏切る物だヨ」
 くっくっ、とくぐもった笑いが漏れる。対比する様に嘲笑が止む。
 それはその場のパワーバランスを告げていた。
 奇妙な男は紛れも無く、他のよりも上の段階に在る。

「過剰評価じゃねえの? 今回だって偶々だろ。俺が出てりゃ――」
 粗野な声には拗ねた様な響きが混じる。それは妬心か、或いは反感か。
 いずれにせよ、良い感情であるとは到底思えない。
「そノ、偶々が恐イのサ」
 けれど、奇妙な声は僅かに一声で斬って捨てる。取り合う心算も無いと言わんばかりに。
「いずレにせヨ、君達に貸した其レはあくマで貸与物ダ。
 取立テ期間まで二精々励んデ欲しイ所だネ。
 歪夜ノ皆だっテ嫌いジャあナいケれド、エキストラにモ晴れ舞台ハは在ルべきダろウ?」
 ハ、ハ、ハ、と道化が戯れる。けれどエキストラと言われた2人からは言葉が無い。
 当然だろう、自分達は脇役だと告げられて、自負心が傷付かない者など居ない。
 ましてや――それが夢幻の宝珠の所有者であるならば。
「……良いぜ、だったらその主人公共をぶちのめしゃ、俺が主人公っつー事だろ?」
 獰猛な言葉と共に、1人が立ち上がる。もう1人は静かに、その様子を見つめるのみ。
「幻想が運命を喰い尽す瞬間もあるっつー事を、この俺が証明してやる」
 闇が吼える。深く、深く、光の全てを呑み下さんと。
 それは一つの事件の幕間劇。ドリームジュエルはドリームジュエルを引き寄せる。

 全てはまだ、始まったばかり。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『【ドリームワールドへようこそ!】竜帝襲来』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

これは酷い邪気眼(褒め言葉
素晴らしく力の篭もったプレイングをありがとう御座います。
総合的に見ても卒の無い良い戦いぶりでした。
MVPは戦いの趨勢を決定付けた『絶対運命選択者』氷夜 天さんへ贈らせて頂きます。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。