● 確かに、昨年の七月にそれっぽいことは聞いた。 が、今年も。なんて、聞いてない。 「だから、キース的にはアークに負けたのが、燃え展開だったみたいで――」 実際のところは引き分けが公平な見方だろうが、キース的には負けらしい。 本人が、負けでリベンジを近い、それを勝手に一年後と設定したのだ。 彼の中では真っ直ぐ筋が通っているのだろう。 寝耳に水のこちらには、限りなく理不尽な話だが。 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、色々重なって、爆発寸前になっているリベリスタにこの理不尽な事態を納得してもらうべく、説説と言葉を重ねていった。 「あ、あの、一応ね、キースの動きは情報として入ってた――というか、目撃情報みたいなもんで、それも世界各地だったし、日本じゃなかったし、キースがうろうろしたにしては被害出てなかったから、そこの組織でどうにかなって、こっちに協力要請来てなかったんだよ!」 キースがうろうろして、起こったのが「面倒事」レベル。 なにそれ、奇跡? 独身の方の室長がナンパしないくらいおしとやかだったってこと? 「あ、あのね。分析した結果、どうやらキースはこの一年をストイックに『武者修行』 と位置づけてたみたいで――」 敗北→武者修行からの新必殺技開発コンボか。つまり、『私闘禁止』の自分縛りでフラグの強化を図ってたんですね、わかりたくありません! 「とにかく、性格、情勢、諸情報。アークはこれが確実な事実と認識しました! というか、すでに事件は現場で起こってるんだよ!」 最後には、泣き出した。 「一般人への被害は今回は出さない。と、キースは明言してます。そこも確認済みです。だからって、悪魔なんて信用できるか! 毎年魔王引きつれてこられてもメーワクだから――」 フォーチュナは、盛大にはなをすすり上げた。 「コテンパンにしてきてくれるかな!?」 ● 地球ゴマが回っている。 「近すぎるから、どっか行けとかー、ありえないんですけどー」 「召喚主が横暴だったとき」 「gj、え@vhj@しhj@えw」 「キースチンのおばかー」 「あな、やんぬるかな。国会図書館――」 古今東西老若男女、思いつく限りさまざまな人の首があぶくのように膨らみしぼみしながら、ゆっくりと回っている。 「後、殺すなとか」 「悪魔の定義について講釈してやるべきか悩むところだな」 「それが魔王を召喚して言うことかー」 「えらそぶってだいスキー」 「早く、あの首も欲しいなぁ」 「rjqcm@vpgcvへrm」 「銀のお皿に載せて」 「お盆のお船に載せちゃうぞー」 突き出ている無数の細長い金属がじゃかじゃかと音を立てた。 「首がたんないんだよ」 「許容量を拡張してみました」 「スタッフが世界中を飛び回り」 「大きな騒ぎがいっぱいあったからなぁ」 「詳しくはWEBで!」 「今わの際に、人は叫ぶものだよ」 「『どうしたらいいんだ!』」 「その答えを私は持っている」 「教えてあげても構わなくってよ」 「そうとも。知識とは収集も大事だが実践することも大事なことなのだ」 「有効度も、また大事なファクターなの」 「クビオイテケ」 「対価大過魂寄越せ首寄越せこのダンダリオンの頭を飾るに相応しい――」 「恐ろしく思いつめて脳味噌ぐるぐるにして沸き立たせている」 「生き様別の知識の偏向、優先順位の変異、情報分布の齟齬!」 『垂れ流される脳内物質、はじけるシナプス、頭蓋の内できらめく電流、バチバチバチバチ」 「欲しい欲しい欲しい欲しい――!」 「さあ、酷使されることに慣れ親しんだ使い込まれた脳味噌を寄越せ!」 「契約しよう!」 「殺すなとは言われたけど、契約するなとは言われてない!」 「ほしい知識を上げよう! さあ、サインしたまえ!」 「自分で到達したい? なら、ヒントをあげよう!」 「知りたいことを教えてあげよう!」 赤い門がトレードマーク。 最高学府の筆頭たる学び舎に、それは舌なめずりをしながら現れた。 殺しはしない。 死んだ後に、首をもらう契約を結ぶだけだ。 ● 「――えー。という訳で、皆にはダンダリオン討伐に向かっていただきます」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、顔が青い。 悪魔の動向を覗くのは、万華鏡越しにも気色悪いものらしい。 ソロモンの魔王、序列ブービーのダンダリオンは、昨年、竹田城でリベリスタを退けたが、それまでこつこつと奪ってきた魔術師の首を三分の二以上潰されてしまった。 所有している魂の質と量が地位に直結している地獄の階位に影響はなかったとはいえ、腹立たしい状態に変わりはない。 それは、無数の頭を持つもの。 書物を愛する大公爵。 あらゆる学術的知識を授け、人間の心を読み取り意のままに操り、他人の秘密を明らかにする。 時には愛を燃え立たせ、時には幻覚を送り込む。 「殺しはしないけど、契約は結ぶ。とか、超やめて欲しいんだけど」 悪魔は召喚者との契約を曲解する。それ故に悪魔なのだ。 四門はうつろに笑った。 「要は、そんな暇与えなきゃいい訳だろ?」 四門は、ばさばさと資料を机の上に積んだ。 「去年の戦い。確かに竹田城を奪還することは出来なかったけど、戦った連中はダンダリオンについての戦闘データをそれはもうたくさん集めてきてくれた」 現世に召喚される魔神の本体は異世界にいるから、底辺世界に現れるのは、分身に過ぎない。 強さは、キースの技量によるとしか言いようがない。おそらく、この一年の修行で強化されているだろうが、その傾向は変わらない。 きっと、いつかまた召喚される。その時のために。と、提出された戦闘データ。 「キースの修行に伴い、ダンダリオンは強くなってると思う。使う技の威力もあがるだろうし、別の似た技にランクアップしてるかもしれない。でも、ダンダリオンの底辺世界での定義がこの一年で大きく変わってない以上、この資料はきっと役に立つ」 フォーチュナが保証する。と、四門は請合った。 「今回も迷宮の向こうで待っている。前回は、同時に突入して、迷宮踏破に要した時間の差が、結果として戦力の随時投入となって敗退した。それでも、互角以上の戦いを収めてる。だったら、いっぺんに急襲できたらいいんじゃないかな」 ごろごろと菓子の箱が並べられた。 「同じ手は二度と通用しないってことを、魔王様に教え込んでやってよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年09月28日(日)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 暑さ寒さも彼岸まで。 つまり、九月十日はまだ夏だ。クソ暑い。 「キース、自由人だな!」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、これで意外とモラリストなのだ。ヒーロー願望高めなのだからして。 そして、往々にして、ヒーローはルールに縛られているのだ。いきなり変身して登場すると瞬殺されるのだ。 その点、ダークヒーローだの悪役といわれる連中はやりたい放題し放題である。 去年は去年、今年は今年! 来年もまた戦いましょうっていつ言った。西暦何年何月何日、地球が何回回った時!? きっと、こう返ってくるに決まっている。 「今年のみの単年契約だなんて、どこにも書いてねえだろうが」 自由とは、みずからによりてと読む。 まさしく、俺様ルール、キース・ソロモン! 湿度も高く耐え難い日本の夏に暑苦しい男がリベンジに燃えてきているのだ。しかも、人の話に耳を貸しもしない。きっと、耳を貸すそぶりを見せると魔神が誘惑し始めるから、自然そう言うスタンスになっているのだ、仕方ない。 が、この状況はナントカしなくてはいけない。 九月十日はまだ夏だ。クソ暑い。 クソ暑いところにくそ暑い男がバトルに来るなんてのは、今年で最後にしてくれる。 赤門をくぐるリベリスタは、受験戦争前後のメンバーが多かった。 「――ラグビーが強かったら受験したかもしれないけど」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)、某ラグビーの強豪大学に浪人の末に入学したところで瀕死の重傷。革醒していようが、いまいが、ラグビーを諦めなくてはならなくなった、人生レベルの挫折を知っている男である。 客観的に、当時の成績から行くともう一、二年回り道していたらひょっとしたらひょっとしたかもしれないが、その場合世界の滅亡している可能性がもうちょっと高かったかもしれない。 世界は、常にぎりぎりのバランスで成立している。 「東大図書館とか、一生縁が無いと思っていた私」 『パラドクス・コンプレックス』織戸 離為(BNE005075)は、小学校の卒業式コール状態になっている。 二学期から中学校に編入が決まった。危うく小学校に行くことになるところだったのだから、最後の追い込みが効いたのだ。 その必死の姿を、船底で見た快も、おいそれとこれから縁がありますよとは言えない、ワンオブベストである。 ひどい混ざりようだった。 近未来的ガラス張りの建物、昭和の香りの鉄筋コンクリートに大正モダニズムの木造建築が悪夢のように絡み合っている。 「図書館っていいわよね。静かで時間が止まったようで。本を手に取れば、読み終わるまではその世界の住人になれるようで」 『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は無限に続きそうな本棚に眉を潜めた。 外観と同じく本棚もぐちゃぐちゃだ。 「なのに。何この状態」 「面白い。実に、面白い」 知識の探求者は、時として常識を対価としてナニカに捧げなければ壁を越えられない。 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)の足取りは軽い。 (私もまた神秘を探求する愚者の一人。この機会は逃がさない) 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は、そんなイスカリオテとは対照的に、不機嫌を隠そうとも知れない。 (くたばれ糞野郎) あの首お化け、ぶっ潰す。と呟いている。 「全く……さっさと片付けてしまいましょ?」 それを耳にしてしまったシュスタイナは、深々と息をついた。魔術の徒は、呼吸が命だ。 「そうですね。首を取られる人が出ないようにしないと……」 『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)は、しとやかに目を伏せる。 尽くして尽くして尽くしんぼのミラクルナイチンゲールとしての参戦だ。 持参のなりきり☆警官セットから手錠だけを取り出し、『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)と自分の手首を繋げた。 「白崎さん、よろしくお願いしますね?」 智夫の手首の返し具合と眦が下がっている顔つきが怖い。 「――あー、ええ、うん、はい」 別に人格が変わっている訳ではない。なんだか落ち着かない気もするが、そんなことには構ってられないのだ。 守りの要のクロスイージス二人が先に出発し、戦線を維持するのだ。 「それじゃ、先に行って待ってますね」 智夫の指が切る、聖戦を加護する十字。あるいは、聖戦に捧げられるものに手向ける十字。 戦いに赴くものの怖気を吹き飛ばす高揚感に迷宮何するものぞ。と、リベリスタは高揚する。 「さぁ、今日は戦争だ。廻していくぜ」 晃が宣誓する最終戦争に挑む戦士の誓い。 速く癒える肉を。満たされる心を。侵されぬ魂を。 仲間達とたくせるだけの加護を分かち合い、戦場を整えるために一足先に。 「いってきます」 いずこに続くとも知れぬ、本の森の中へ。 皆さん、向こうでお会いしましょう。 ● 「ダンダリオン……っ!」 智夫が放ったジャベリンは、きらきらと氷粒を撒き散らしながら本棚に突き刺さる。 「内薙さん――内薙さんっ!」 晃は、目を見開いたまま瞬きもしない智夫に懸命に話しかけた。 一年前、迷宮に入った晃には、智夫に何が見えているのかわかっている。 忍び寄るダンダリオン。フードの下に隠された無数の首。 五感を完全に支配してくる幻覚。 とにかく自分の信じる方向に智夫を引きずり、先を急ぐ。 「いたっ、いたたたた……」 食い込む手錠の痛みに智夫を情けない声を上げた。 手に戻ったジャベリンの異様な冷たさに、自分が幻に攻撃したのだと気づいて、智夫は顔を曇らせる。 「いきなり来ましたね……」 「でも、俺はなんともなかった。前に進むことは出来てるはずだ」 次の角を一緒に選んで、更に前に進む。 「俺に何かあったら、引きずっていってくれ」 「うん、わか……」 晃が一点を凝視して、白熱に燃える両手の鉄扇を至近の本棚に叩きつけた。 「幻覚ですよ。こっちです!」 凶事払いの光であたりをまばゆく光らせながら、二人三脚のクロスイージスは先を急いだ。 ● きちんと50を時計で測ると同時に、声を出して数えて、幻覚に惑わされないようにする。 事前に打ち合わせていた時間が来た。共に踏み出す迷宮への一歩。 念のため、最後に控えたクロスイージスの快は10秒後に来る。 そして見回し、共に飛び込んだ五人がまだ一緒にいることにほっと胸をなでおろす。 「あの二人、どこまで行ったかな」 「さて。迷宮がどこまで優しいかにもよりますね。片方が失敗したら、二人とも足止めを食うかもしれない。案外その辺にまだいるかもしれません」 それは困る。と、シュスタイナが声を上げようとした途端、目の前にはイスカリオテしかいなかった。 「――他の皆は?」 「さっそく、洗礼を受けたようですね。受けたのが、私達か彼らかはわかりませんが」 すたすたと歩き出すイスカリオテの背を追う。 「――あなた、ウキウキしてるように見える。ジェットコースターの順番待ちしてる子供みたい」 いつに泣く饒舌な男に、少女は言った。 「そうかもしれません。私もまた神秘を探求する愚者の一人。この機会は逃がさない」 シュスタイナも、大魔道の号を持つ者。 イスカリオテの言う機会が何なのかは、手に取るようにわかる。 「ダンダリオンと契約する気?」 答えは、聞こえなかった。 魔道探求の徒が曲がっていった本棚の向こう。 ローブ姿の魔王が、シュスタイナを待っていたので。 ● 離為は、妨害電波を発して、精神的接触の全てを拒絶していた。 彼女に接触できるテレパシーは存在しないし、彼女の心を読む者もいないはず。 (効果があるなら助かるし、敵が私を覗かないならそれはそれで安心できるし) いかにも難しそうな背表紙が並ぶ本棚の角を曲がると、さっき共に迷宮に踏み込んだ仲間を見つけた。 「あ、元気そうだね。どう、調子は」 夏栖斗は、全員同時突入を狙っている。 「何とか。今のところは」 「なんか、みんなばらばらに――」 夏栖斗が言いかけていたのだろうが、姿が掻き消える。 「え?」 幻とするなら、今、この誰もいない廊下が幻か?それとも、今いた夏栖斗が幻か? 離為には立ち止まっている時間はない。 ごうごうと音を立てて、動く本棚。いや、それこそが幻。 今、信じられるのは、自分だけだ。 だから、一歩踏み出す。 例え一人でも。 (心も体も、運命さえ。もう私一人のものではないのだから) ● わずかの間、記憶が途切れている。 イスカリオテは、珍しく大きく瞬きした。 つい先ほどまで共にいたのは、シュスタイナだった。 今目の前にいるのは、魔道とは無縁の涼子だ。 潤んだ目は変わらずに、少女から娘になろうとしている。 「――なに」 無骨な拳銃から、けれん味たっぷりの二挺拳銃に持ち替えた。 決闘用を改造した、華美にして命を奪う為のそれ。 「いえ」 「時間もったいないから、行こう」 すたすたと歩き始めた涼子にふと興味を引かれ、イスカリオテは尋ねた。 「前回の作戦の経験ですか?」 涼子は、少し眉を寄せた。感覚を言葉に変換しているらしい。 「……ヘンに経験を生かそうとしないで、あくまで今日の感覚で」 すたすたと歩いていく背中が遠くなる。 「勝てると思うから戦うわけじゃない。勝ちたいから戦う。それを思えば、進めば抜ける迷宮なんて ただ歩けばいいだけさ」 イスカリオテは、再び霧中、あるいは白昼夢に取り残された。 ● 「白崎さんっ、しっかり! それは本棚です!」 ミラクルナイチンゲールの光が晃の鉄扇を握り締めてこわばった指先を解きほぐす。 「内薙さん、すいませんっ」 「いえ、私もどっち行ったらわからないので……でも、こっちのような気がしますっ!」 「俺もそんな感じがする――がんばろう、内薙さん!」 「白崎さん。ミラクルナイチンゲールです」 「――内薙さんのモチベーションを下げる気はないけど、内薙さんは内薙さんだ」 というか、簡単な仕事で簀巻きになっているのを見慣れている脱走王な先輩が魔法少女に見えたらヤバイ。 智夫は小首を傾げた、唇をちょっとすぼめた。客観的にキュートこの上ない。 「そうですね」 「わかってくれたか」 「ミラクルナイチンゲールって、とっさに呼ぶとき長いですもんね。ナイチさんでかまいません!」 「いや、アクセント違うだろ」 またどちらに行っていいかわからなくなった。 「――しっかりしましょう。皆より先に着くだけの簡単なお仕事はまっとうしなくちゃ!」 ミラクルナイチンゲール(本人主張)の十字の加護が、手錠でつながれた二人の背中を押した。 ● 快の一人旅は続く。 幻想殺しをもってしても――いや、わかる時は拍子抜けするくらいあっさりと道がわかるのだから、運としか言い様がない――大分時間をロスしているようだ。 時間感覚さえあやふやだが。時計は、ぐるぐる回っている。 「俺が誰にも会わないっていうのは、みんながうまくやってるって事ではあるんだけどね」 霊感に対して、零感という言葉がある。 受肉していない形而上学的存在に影響を及ぼしにくいが、影響を及ぼされることもない。 棚の端にちらりと見えたローブ姿。 サイバーアダムのバリアフィールドは眼球にも及び、網膜の視覚情報と脳内の視覚情報の差異を違和感として脳に知らせ、魔神の空間支配力がそのわずかな希望を殺しにかかる。 五感の全てが、そこに敵がいる。と叫ぶ中、耳かきいっぱいに満たない違和感が殺意に駆り立てえるナイフに光を注ぐのを抑える。 「魔術の類は本当に素質が無くてね……だからこそ見えるものがある」 立ち止まっていられない。 (迷宮は真っ直ぐに突っ切って抜ける。「首を貰い受ける」なんてふざけた契約は、クーリング・オフだ!) ふと、目の前に離為が現れた。 「ホンモノですか!?」 離為の表情は険しい。 「それ、偽者も『はい』 って言うと思うよ。えっと、離為さんは誰かと会った?」 「イスカリオテさんに――その後、二回ほど戦闘しました」 完全に思念波を閉鎖している離為の目の前に現れたフード姿の化け物は幻覚と切って捨てることを、生物の本能が拒否した。 「使ったのは羽根なので消耗はしてませんけど」 炎の羽根はローブを来た化け物を包み込み、断末魔の悲鳴を上げさせたけれど、それはわずかな手ごたえもなく姿を消した。 攻撃したことも夢かと思ったけれど、焦げた天井ときな臭い臭い、降りかかる火の粉の暑さがそれだけは本物だと離為に教えた。 いや、それさえも幻覚かもしれない。 「あ、二人ともいる。ご機嫌麗しゅう?」 ひょい。と、夏栖斗が顔をのぞかせる。 「夏栖斗、戦闘は?」 「一回」 あの衝動は筆舌尽くしがたかった。 繰り出す技の中、花束のように開くはずの血花は咲くことなく、 跡にはぐしゃぐしゃの本棚の列が残された。この本が本物だったらすごくまずい。20メートルほど突き抜けている。大惨事だ。 夏栖斗、悪くない。魔神、許すまじ。 「迷宮が右手の法則が使えたら楽になるのにね」 場を和ませるように笑う夏栖斗に快は苦笑する。 「会えてよかった。なるたけ一緒に行動しよう。突入が一緒であるに越したことはないんだから」 三人は歩き出した。 「さっき離為さん、急に消えたからびっくりした」 夏栖斗が言う。 「気がついたらいないんだもん」 ね。と、話しかけた先。 つい一瞬前までいた離為の姿が消えている。 辺りを見回しても一本道だった。そうだったはずだ。本棚の幅、それるほどの広さはない。 だって、前に夏栖斗、後ろに快と挟んで移動していて――。 「快?」 次の瞬間、快も消えていた。 道は、一本道だった。夏栖斗にはそう見える。消失点がかすむほど、ずっと道は一本だ。 ● 「今、どこにいました?」 「そっちこそ」 イスカリオテは神秘実践者の常として直喩を好まない。 涼子は生来の性として多くを語らない。 結果、会話は弾まない。 そして、人間、顔を突き合わせて沈黙に耐えられるのは精々三十秒平均だ。 「わずかの間、卿はいなくなった」 「そっちもね」 落ちる沈黙。世間ではそれをいたたまれない空気というが、いい意味で二人とも空気の色を読まない、わが道を行くタイプである。 「そう。私達は互いに自分は動かず、相手がいなくなったと認識している。一つ、本当に移動させられている。一つ、相手を認識できなくなっている。どちらでしょうかね」 「さあ」 「そして、それは、幻覚に呑まれた方に発生しているのでしょうか。それとも、呑まれなかった方? 先ほどから空間の存在法則について看破せんとしているのですが、これがなかなか。集中すると、そちらにばかり気が行きましてね」 「迷子になってれば、世話ないよね」 「――」 少女から娘になろうとも、歯に衣着せず本質に切り込む涼子は、つれない『恋人』のようだ。 沈黙がどのくらい続いていたか定かではない。 気がついたとき、涼子の指は劇鉄にかかり、銃口からは硝煙の匂いが漂っていた。 「――内薙も戦ってた」 今、わずかの間に彼女は幻の戦場に赴き、そして帰ってきたのだ。 「本物は、ぶっ飛ばす」 涼子は、言葉少なにそう言う。 「今度こそ、ぶっ飛ばす」 そのために、前回ぎりぎりまで皆で辛酸を嘗め尽くしたのだ。最後の一人になるまで。 ● 「今、涼子さんがいました」 ごめんなさいと声にならない声で言う智夫は、前を見据えた。 「あの時の悲鳴と犠牲は俺に刻まれて離れない」 晃の声がわずかにかすれた。 ――一年前の今日。 雲に覆われた竹田城下。 たまたまその日底にいたというだけの理由で、彼らは七色に輝く惑乱の雲迷宮の中、恐怖のうちに死んでいった。 声はすれども姿は見えず。 助けることは出来なかったのだ。 踏み出す一歩が、唐突に迷宮の終わりを告げる。 「皆で示し合わせて、横並び、全員一斉のゴール」 「そういうのは、好みではない」 「それは迷宮をがんばって用意したものへの礼に失する」 「ささ、先陣の呼ばわりでも聞いてやってもよいぞ」 歌うような少女の声。老人、壮年の男、老婆。ガチャガチャという不快な金属音は、拍手のつまりらしい。 オメデトウ、イットウショウ、オメデトウ、イットウショウオメデトウ! 積み重ねられた書物。それを本棚ごと片付け、戦闘空間を確保する眷属たち。 回る首の連環、どれもこれも同じ表情を浮かべて、まったく年齢も人種も性別もよしも違う首なのに、区別がつかない。 それがダンダリオン。多数にして一、一にして多数。 ソロモンの魔王だ。 「そのおててのわっかを外すといいわ」 「創意工夫は嫌いじゃない」 「実践されてこその知識」 「実践されないのも悪くないけれど」 「ありとあらゆる手段の中、最善と思われる選択の果て、何が残るのか」 しゃべる首が膨れ上がリ、しゃべり終わると瞬時に空気が抜ける。 ユーモラスと言ってもいいだろう。 「私たちが最初のようですね」 良かった。と、智夫を胸をなでおろした。 後は、どのくらいまとまってこられるか。 戦力の逐次投入は愚の骨頂だ。 「一年前の敗北を返しに来たぜ、ダンダリオン」 皆を待っていることは出来なかった。 それでも、最善の場を作り上げることが、堅牢なる聖鎧の宿業を背負った者の役目だった。 「おかまいなくぅ」 ダンダリオンの、どうして首を取られたのか問いただしたくなるほど温和な老婆の首が柔らかく言う。その目から血の涙。 首の全てが流す血の涙から黒い鎖の海が余れ、智夫と晃にたたきつけられる。 背後に智夫をかばいながら、晃は歯を食いしばった。 「お会いしたかった、ダンダリオン」 「おしゃべりは充分だ。その舌ぜんぶ撃ち抜いてやるから、泣いて帰りな」 イスカリオテは、殺る気満々の涼子のつむじを見る。 「あれはあれで、なかなか興味深い存在なんですよ」 「そんなの、知ったこっちゃない。あたしにとっては最低野郎だ」 涼子は、地面を蹴る。 「あたしの間合いに入らないで」 今から全てを壊して、毒を撒き散らすオロチになるから。 「仕方ありませんね」 魔術師はわずかの間に思考する。この機会に彼が望みうる未来を引き寄せる為の手段を。 「え、ここがゴールなの!? 唐突過ぎない!? みんな待って一緒に入ろうと思ってたのに、もう始まってるし!」 「待ち合わせできなくするために、ドアなくしたみたいです!」 「せこっ! みんな幻覚じゃないよねっ!」 「――疑り深いな。どんな目に遭わされたんだ」 予期せぬ戦線突入となった夏栖斗は、ひとしきり突っ込むと、炎を吹き上げるトンファーを構えなおした。それを支えるように、黒いトンファーが添えられる。 炎に気を取られていると、埋み火を抱いたこちらが絡み付いてくる。 「どーも、雁首並べてご機嫌麗しゅう。その中にまざんのは嫌だな。ってことは勝つしかないわけだけど!」 遠距離でも華麗な技を至近距離で見られるダンダリオンは幸いである。見た首は次の瞬間潰されているが、他の首が一部始終を覚えていてくれるだろう。 「快と離為ちゃんには会ったよ! シュスカちゃんは!?」 「――すぐに来る!」 息をせき切って、快と離為が転がり込んできた。 「さっき、そこで会いました。近くまで、来てます……」 離為は呼吸を整えると、目に付いたダンダリオンの首を締め上げる。 快は、ははっと笑った。 「リベンジいけるぞ」 それなら、踏ん張っていた甲斐がある。 晃のどす黒く変色した皮膚が、智夫の呼んだ聖なる存在の歌に洗われていく。 「お前とはこれで最後の最後だ」 最終戦争に臨む戦士に幸いあれ。 やがて現れる仲間を誰一人欠けることなく迎える為に。 映えなる守護を受けて耐え忍べ。 「そんじゃ、相棒、行きますか」 「この引きこもりに目にもの見せてやろうぜ」 前線へ。 迷宮で抑えた白光が、快の姿を照らした。 ● 快、夏栖斗、涼子が果敢に前に出、ダンダリオンの移動を阻む。 それでも無数の首の視界をさえぎるのは不可能で、後衛に及ばんとするダメージは晃が一手にその身に引き受けた。 離為から放たれる報復の一撃は、無防備な首を斬り飛ばし、金属の足を欠けさせる。 ぶくぶくと傷口が泡立つ感触に歯を食いしばり、それでもぎりぎりの状況を強化された意志の力でやり過ごす。 喉元にこみ上げてくる毒の気配を飲み下し、流れ出る血液の量への恐怖も見なかったことにし、粛々と戦闘は続く。 「ガチ硬い」 「そんで直る」 「アンデッドみたいにしつこい」 「生きているのに妄執の固まり」 「たかが次元の壁の一つや二つ超越すればいいのに」 「それだけの力は持っているだろう?」 「底辺世界など打ち捨てて」 「更なる次元の高みへ!」 「エターナルチャンピオンにならないか!?」 ごうごうと音を立てて回る円環。近づいて離れていく誘惑の文言。 骨身に食い込む金属の爪と、叫びだしたくなる嘲笑。 こいつらの笑い声は胸をかきむしりたくなるほど不快なのだ。 「契約って何するの? 私に何のメリットがあるの? なさそうよね。なら、まっぴらごめんだわ!」 黒い羽根と共にシュスタイナが突っ込んでくる。 「――私が最後。ごめんなさいね。でも、魔力は減らしてきてないわ!」 ここに来るまで、ダンダリオンの幻とさんざん戦闘してきたシュスタイナが、ダンダリオンの異様な形態に気おされることはなかった。 毒と氷を運ぶ羽根は、癒やしを運ぶ。 「シュスカさん、来てくれて嬉しいです」 ニコ。と、顔をほころばせる智夫の声は詠唱のし過ぎでしゃがれてきていた。 それでも、詠唱はやめない。 リベリスタの運命の天秤が更に傾いた。 ダンダリオンの興味を引くために放たれたファンタム・グレイの弾丸は、イスカリオテの恋文のようだ。 正確に弱った首を霧散させるそれは、そのあいた皿にいつかみずからの首を載せることも辞さない狂気が潜んでいた。 「そこの君、眼鏡の君。どうやら死ななくて済んだようだね、おめでとう」 「あたしのこと覚えてる?」 「選択肢を間違えると親密度がさ~が~るぅ」 かなり潰れたとしても、まだ何個あるかわからないほど大量の首の視線が似非神父に集まる。 何人かはイスカリオテを振り返る。 昨年の竹田城にイスカリオテは参戦していない。 「――あの穴の中で、何か学べたかね?」 薄笑いを浮かべた老人の首が言う。 とっさに意味がわかったのは、イスカリオテ本人だけ。 砂漠の古井戸。玉手箱の中身。神々の碁会所。胡蝶の講義。 仲間の半分が飲まれた神秘の渦。戦果ともいえぬほどの事象の断片。今もあの井戸は複数の神秘組織の厳重な監視下に置かれている。 「私はこう言う心算でここに来たのですよ。ダンダリオン」 (この奇跡の様な会合に私は私の全てを賭ける) 似非神父は、このときのためにこの戦場を選んだのだ。 (キース・ソロモンは自らに魔神の権能を宿らせて用いるとか。召喚術にして交霊術。私はそれを“記憶している” 理解はしていないが憶えている) その通りに所作がなぞられた。その動きに詠唱によどみは無い。 (後は実践だ) (魔王の分霊で代価は都市1つ分の供物。真性の魔神ならば1国相当と言う所――) 彼が主宰の秘密結社の同胞がもたらしてくれた情報は、まさしく『あの井戸で学んだ』事項だ。 (私にそれに相応するだけの価値が有れば良い) イチとし、一刻と自らの価値が等しいと言い切れるイスカリオテの蓄積。 (場所も時も供物も選んだ。その上で彼を儀場に載せるには極上の触媒が必要か) 魔術師の耽溺。 手段と目的が混在し。更なる階梯を進まんとする者の恍惚は、常人の理解を超える。 因果を捻じ曲げ、道理を捻じ曲げ、ありえぬ事象を引き起こす。 「ダンダリオン……frugativi et appellavi」 我は求め、訴えリ。 私のために、あなたを縛るものと別れて。 「代価は死に至るまで詰め込んだ私の知識。その全て! 未知を喰らうは我が人生、魔神王にすら劣る等とは言わせない!」 魔術師の自負。 ごくわずかな時間でも契約に楔を打ち込み、ダンダリオンを我が物に。 「さあ、神秘探求を始めよう!」 ● 「乾いた土地で教えてやったろう」 「足りぬよな」 「なにより、器が足りない」 「あふれちゃう」 「いかに美しき金剛の器としても、甕の酒を受け止めることは出来ぬ」 「都市一つ分の人が持ちうるだけの器が必要なのだ」 「メモリ不足で書き込み出来ません」 「君が知覚出来ない領域に差がある」 「それはあなたが悪い訳じゃない」 「それは生来」 「宿命って残酷よね」 「百万の研鑽は、数十億に一つの天分の前に膝を屈する」 「ときとして、無垢な赤子の前に大魔道が膝をつく」 「仕方ない」 「どうぞ、正規ルートで」 「ほんとうにだめかだめかだめか」 「おまえの首は惜しいけれど」 「欲しいな、その首」 「抜け道はないか抜け道はないか抜け道はないか」 「ああ見えて、キースは嫉妬深いの」 「契約条文に二股はダメよって書いてあるぅ」 「間男じゃあなくて浮気女を殺すタイプね」 「そして、私は、切り捨てられる」 「ちょっとほだされちゃったから」 「この私がきえても、新たなダンダリオンが召喚されるだけ」 イスカリオテの恩寵を対価にしての試みは成功した。 確かに、キースとの絆は断たれた。 ここにいるのは、エネルギー供給源を断たれ、術者の制御から切り離されたアザーバイドの写しに過ぎない。あまりにも強力な。 そして、それはイスカリオテと契約するには魔力的端子が異なりすぎた。 「仲間を裏切ってくれればいいと思っていたのに」 「君の望みは大望過ぎて、思いもしなかった」 「故に、私は悪手をうった」 「やんぬるかな、やんぬるかな」 「この憤りを、お前の仲間に」 「なんか、チョー腹立つ顔してんよね、あんたら」 「首寄越せ」 仲間へのダメージを軽減させる為に、挑発的なポーズやこれ見よがしの正義の十字架で、ダンダリオンのヘイトを煽っていた夏栖斗と快の上に腹いせとばかりに星屑を塵に変えるほどの光弾の雨が降り注いだ。 ● 轟音の後のつかの間の静寂を打ち破る、極道の拳。 「いっとくけど」 涼子のダンダリオンを殴る手は止まらない。 「誰が契約しようとなんだろうと、こいつは倒す」 イスカリオテの制御下に入ったとしても、涼子のダンダリオン討伐は終わらない。 「――でも、おかげでこいつ、ちょっと弱くなったからありがと」 「どういたしまして。と、言うべきでしょうかね」 フラレ男に対する配慮はこれっぽっちも無い。 「物好きにもほどがあるわ」 シュスタイナは肩をすくめた。 「目的は、ダンダリオンの撃破です」 ニコニコしながら、智夫が言った。 「撃破です」 繰り返した。 「ダンダリオンの回避力は、比較的低めです」 「じゃあ、時間差飽和攻撃が有効?」 相手が直しきれないダメージを与え続けて、ジリ貧にしていけばいいのだ。 「その通りです」 「わかった。合わせる」 「今の俺なら出来るはずだ! キースと同じく、この一年で俺だってなぁ!」 晃の目の前にこの一年の修練と実践の記憶が走馬灯のように駆け巡る。 「そりゃもう世界崩壊の危機から簡単なお仕事まで色々こなしてきたんだよ……!」 夏栖斗と快と智夫は、もらい泣きしそうになった。 イスカリオテとシュスタイナと涼子は、話には聞いていた。 離為は、怪訝そうな顔をしたが、きっと過酷な一年だったのだろうというのは察した。 「――深化した鋼の四肢と仲間を強くする凱歌の技、そして鍛えられた精神力の見せ所だ!」 組み合わされた両腕にくわえられる、刃混ざりの竜巻は去年だったら晃の腕を切り飛ばしていたかもしれない。 だが、まだ腕は体にくっついている。 「いつまでもバロックや魔神の好きにされてたまるか――!」 その傷に、異なる天使の二重奏が染み渡る。 「人が強いのは知識によってではないよ、勉強したくない言い訳じゃなくて本気でそう思うから」 離為の羽根を形成する炎が舞い上がり、ダンダリオンの放つ竜巻を切り裂きながら、ダンダリオンを燃やしていく。たんぱく質のこげる臭い。 「お前、黙れ」 知識はおおきなおおきなあどばんてーじをときにうむけれど、それが全てじゃない。 「さあ、いくつ首が取れるかな――」 地獄から這い出す悪魔の軍団がラストバタリオンなら、それを阻むのがラストクルセイド。 「ここは魔術禁止だ!」 縦に、そして横に。聖別された切り口が、ゆがんだ存在を消滅に誘う。 「なんでも教えてくれるなら三ツ池公園の穴の閉じ方でも教えろくださ――なし! 今のなし! 首はやらねえ! お前の世話にはならねえ!」 クーリングオフ! と、叫びながら、夏栖斗が放つトンファーの一撃は首のみならず今まで完全に保たれていた連環さえも打ち砕く。 キースから切り離され、このダンダリオンはすでにトカゲの尻尾と化していた。 「いいから――」 今日のシュスタイナの運命の振り子は、ハイリスクハイリターンだ。 全員が一撃は持ちこたえられるだけの回復されたことを確認すると、翼を大きく広げた。 「遠慮しなくていいのよ! 何発でも打ってあげる。フェザードなら痛くもかゆくもないもの。ね?」 戦場は、ダンダリオンの竜巻と、シュスタイナと離為のはばたきで、激しく気流が変化する。 爆音と風の中、ダンダリオンの断末魔の耳障りな高笑いが響く。 「がんばれ、猿真似自体はなかなかうまかった」 「後はオリジナリティよね」 「『正規契約』 なら、なおのこと」 「手続き大事なんだよ。魔術師なんだから、わかるだろ?」 「監査入ったとき、色々追徴される」 「口約束の戯れ事ならいざ知らず」 「魔術師よ。神の威光も、慈悲も、ましてや黒き雌鳥なくして、魔神を求めることあたわず」 「もちろん、一度も卵を産んだことない奴」 「魔神はとってもデリケートなの」 「この身はもはやもたぬ」 「そなたの首をもらう契を結びたかったのだが」 「次回に持ち越しなのー」 「それでは矮小な者たちよ、いずれ星辰の彼方で」 「……死んだあとのことなんてどうでもいいけど、アンタの思いどおりになるのは腹が立つ」 気流の乱れも直接押し当ててぶっ放せば何の問題も無い。 涼子は、そうやって銃を使う。 連環が腐れ、虚空に消えたとき。 魔神に、少年少女達は言い放った。 「二度と来るな」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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