● 「おめでとう。君達は歴史介入の許可を手に入れた!」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、口調の明るさとは裏腹に神経質に菓子を噛み砕いている。 資料を配る指先が震えている。 「みんな知ってるかな。斜堂がタイムカプセル埋めることで、向こうでの行動が現代のボトムに影響を及ぼすかどうかの確認実験は行うよう、室長に具申したのが採用されたんだよね」 あはは、あはは、と、過呼吸気味で話すフォーチュナの目玉がぐるぐる回り出さないか、一同固唾を呑んで見守っている。 「経年劣化した同じものが出てきたんだよねー」 不思議だねっ! と、とってつけた軽さで四門は言う。 「これにより、例の穴の向こうとこの底辺次元は、同じ連続時間軸上にあることを確認――早い話が、向こうは『この世界に直結している過去』 ってことが実証されたの。よく似た思い出の世界とか、IF空間じゃないの。まじで、向こうでやったことがこっちに変化をもたらすの」 ここまでいい? と、四門は一同を見回す。 「中途加入の俺より、アークはミラーミスを倒すことを目標に設立された機関だと言うことをわかってると思う。NDに人生を狂わされた人がいっぱいいると思う。そして、あの穴の向こうにもうすぐミラーミスが出現する」 どうする? と、目顔で聞いてくる四門に、リベリスタ達はそれぞれの答えを持った。 「考えなくてもリスクは山積み。そんなことをしたらどうなるか。なんて、わかったもんじゃないけどさ。なんだかんだ色々向こうでみんなやってきたけど、こっちには影響ないじゃない。というか、影響を出さないように色々してきた訳だけど。誰も、タイムパトロールに逮捕されてないしね。その辺は安心して!」 冗談を言おうとしているのは分かった。 現時点で、世界で最もミラーミスと対峙し、存在し続けている組織はアークを置いて他にない。 ミラーミスは人智を超えている。 なら、それを越えなくてはならない。いかなる手段を用いても。 「『神威』 の話は聞いてるね? それを思いっきり効率よくぶっ放す為の障害を排除してもらう。それは未来から参戦する君達にしかできないことなんだ」 ● 「皆にしてもらうのは、花火の沈静化です」 リベリスタの顔に疑問が生じる。 「『R-type』はラ・ル・カーナへの限定的な出現で『世界樹エクスィス』を狂わせる程の影響力を持ってたって聞いた」 あの巨大な目を直視したものは、悪夢の夜をすごしただろう。 「より本格的にボトム・チャンネルに顕現しかかった十三年前、周囲の生物や物体にその多大な影響力を与えました」 四門は、資料を読み上げる。 「人間、動物、物体問わず急進的な革醒現象に似た『変異』が発生し、『R-type』の基本的な属性である怒りや破壊欲求に引きずられたそれ等は本丸に先んじて暴れ始めました。その総称を、『赤の子(R-type変異体)』とします。みんなにはこれをやっつけてもらう。すでにわかってる被害を食い止めるのは簡単だからね。皆には、大量の一般人が犠牲になった火事の発端を封じ込めてもらいます。これは、ボーナスステージだよ。うまくやれば、確実に人が助かる」 だって、火事は起こらなくなるんだから。 タイム・パラドクス。 「みんなの担当は、暴れまわる物体。それが、花火。夏の真ん中の花火大会用のが次々と変異。三尺玉とか四尺玉とかあるでしょ。辺りは火の海。生きている花火が踊り狂い、一般人がたくさん犠牲になりました」 それを阻止してもらいます。四門はそう言って、資料の次のページをごらんください。と、言った。 球体の頂点から、ひょろりと長い導火線。 そして、短い赤ん坊のようにムチムチした手足が生えている。 ゆるキャラ。いや、13年前にゆるキャラと言う言葉は一般化されていただろうか。 「二尺玉は可愛いよね」 四門が現実逃避を始めた。 「三尺玉は中学生くらいかな。四尺玉はもうおっさんだよね」 三尺玉のすらりと長い足。四尺球のすね毛まみれの親父の足。 「一目でやばさと威力がわかる親切設計となっております。そこらじゅうで跳ね回る花火玉の導火線を引っこ抜いて。そしたら、動くのやめるから」 本体をぶった切っちゃだめなの? 「花火は、火薬でできてます」 そうですね。 「切ったり殴ったりしたら、中身こぼれますね」 そうですね。 「連中の一部は、手に火打石をお持ちです。すぐつくもんじゃありませんが、導火線に点いたら次のターンに爆発します。それにこぼれた中身が引火したらどうなると思います? それでなくとも、ちっちゃいのが転がっててぼこぼこふっとんでんのに」 更に連鎖しますね。 「神秘存在になった時点で、『導火線から着火しなければ爆発しない』 という属性が付与されました。連中の弱点は導火線です。導火線を引っこ抜くか切断。そうすると手足が引っ込んで無力化するから!」 四門は、あちこちがマジックで塗りつぶされた定番ペッキをバックから出して並べた。 「これは、13年前にも売ってた奴だから。あ、もちろんゴミはもって帰ってきてね! 火気厳禁!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月28日(木)22:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ここに来るまでの町並みは、見知った三高平とは少しも似ていなかった。 あるべきところに線路はなく、思いもしないところに道路があり、ただ、川の流れだけは変わらない。 その上流に、ミラーミスが居座っているとわかっていても。 「人魚は水のナマモノ! 火のエリューションには負けないもんね!」 『ムルゲン』水守 せおり(BNE004984)は、人魚のイメージに謝った方がいい。 せめて水の乙女とは言わないまでも、水棲の神秘くらいのオブラートが欲しい。 オブラートは水に溶けるが。 「生まれたころに来たからって、セミの声は同じね……分からないだけで、ぜんぜんちがうのかもしれないけど」 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が効いているのは、本来の彼女が利くべきセミの二世代前になる。 「花火は最近見ましたが、美しい限りで……風流なモノは好きですが……さて、この時分には流行っていたのですかね?」 このとき、正しい時間軸上の『月虚』東海道・葵(BNE004950)は2歳。 遥か昔のことのように感じるかもしれないが、人の営みの前では15年など光陰矢のごとし。 20世紀最後の夏。 それほど時間がたっている訳ではない。 あの年も、花火は、遥か高みから人々の幸せな顔を照らすはずだったのだ。 どんどん、ぴーひゃらら。どんどんどんどん、ぴーひゃらら。 スピーカーから、雑音だらけの祭囃子が聞こえる。 夏祭り会場。お盆の只中だ。予定されていた花火大会は中止だろう。 踊っているのは、花火玉に手足が生えた化け物だけだ。 陽気に手足を振り上げ踊っている。 手に持っているのは団扇ではなく、火打石。 ちらちらと降る火の粉が地面に転がる花火玉に燃え移ったら大惨事必至だ。 「愛嬌のある見目ではありますが……彼らも赤の子なのですか」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)の無表情は揺るがない。 「どうせ十五年前の花火を見るのなら、普通の花火を楽しみたかったよ」 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)の嘆きはもっともだ。 花火は打ち上げられ、空に広がってこその華。 出来損ない盆踊りでは、涙も出ない。 「さて別にNDに縁も縁もないのだが」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)に、そんな重たい過去があったら世間一般レベルでの普通でなくなってしまう。いけない。 「R-TYPEを観測する良い機会。場を整えるために精々尽力するか」 赤く染まった空の向こう。 雲の向こうに何かがいる気配がする。 「倒すべきミラーミスは幾多もあるのだから」 縁がないのは、『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)のも同じこと。 (……子ども達と出会ったのは、狂いし世界に抗う為の研究機関。二人の実の両親の屍の上。歪な家族だ、歪な邂逅だ) その研究機関は崩界阻止を謳いながらも、革醒者を研究材料としか見ていなかった。 (けれど二人が居たから思う事を知った。綾兎にも会えた) もしも、ここでR-TYPEによる蹂躙を阻止したら、あの研究機関は設立されないかもしれない。 そうなれば、遥紀と子供達が会うことはなく、ひいては綾兎とも会えない可能性は高くなる。 (……例えその全てが崩れようと、俺は過去を変えるよ。願うのは3人の、皆の幸福。俺は「父」であり「リベリスタ」だから) それは、子供達の両親が健在である可能性をひきよせ、綾兎もまた革醒しない未来に続く可能性を発生させ。 「逃げるわけには、いかないんだよ」 たまたまゆがんだ世界線の上ではなく、確定事項として、四人の幸せがあると信じる。 「たくさんの人が亡くなる前になんとかしないと」 『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)は、暗視ゴーグルをきっちり固定した。 「タイムパラドックスは不安だけど、やっぱり、助けられるなら助けたいもんね」 足元に転がる小さな花火玉を踏んづけて転ぶのは避けたい。 智夫は、全員の背中に小さな翼を召喚した。 「ここで人が死んだら、せっかくR-typeをぶっ飛ばしたってイマイチだものね。やるだけやってみよう」 和紙を貼り重ね手作られた花火玉の表面が不自然に隆起する。 びきびきとひびが割れ、赤く充血した目玉がぬめぬめとしたねmっまくのしたから現出しようとしている。 今こうしている最中もR-TYPEの侵食は進んでいる。 加速度的にフェーズが上がっているのだ。 「有害ならば、処理しませんとね」 ● 葵は、体内のギアを切り替える。 「坊ちゃまが目にする世界は教育上、美しくなければいけません」 無骨な安全靴の底に刻まれた魔術刻印が、軽やかに葵を躍らせる。 「何度だって言うけど、火のエリューションには負けないもんね!」 繰り返す言葉が自己を肯定し、神秘に対する耐性となる。 せおりが加速し、その移動現象自体が武器になる。 同じ突進でも、重さを感じさせない軽やかさと体重以上の衝撃を載せた重厚さ。 異なる急接近が花火どんを襲う。 葵のしとやかに伏せられた目が、二尺玉と三尺玉の導火線を見下ろした。 「火薬を散らし、火を誘うしか出来ぬ戯けなど、わたくしの世界には無用でございます」 富士宮家の坊ちゃん付きのメイドは掃除に箒ではなくガラスの糸を使う。 「ごめんあそばせ」 二尺ぼうやの導火線は、はらりと落ちた。 「――さすがに思春期の小僧は、やや歯ごたえがあるようですわね。すねたときの坊ちゃまのよう」 三尺小僧は、まだ健在。 手にした火打石をカチカチ言わせようと腕を振り回している。 「――火遊びだけは達者だな」 ユーヌは眉根を寄せた。 「曳馬野、分担だ。連中をばらすぞ」 ユーヌに、涼子は黙って頷いた。 それをするのが仕事のレイザータクトの技であるが、生来持ち合わせた資質として、有象無象の別もなく、相手を挑発して怒らせることにかけて、この二人は一家言ある。 「1尺玉や火薬が少ない方に引きつけて行って、延焼しにくくするよ」 「ああ、それがいい」 花火玉の化け物にもハートがあるとするならば。 「さて遊ぼうか? 爆発暴発火の用心。子供騙しの花火玉。いや、癇癪玉が精々か」 ガキのかんしゃくに付き合ってやるんだ。ありがたく思え。 「まどろっこしいな。じかに殴ってきなよ」 いい加減、曲がった従弟を見せびらかしながら、涼子は花火どんを見下した。 四尺親父が地団太を踏んで悔しがる。 精神年齢は本当に親父なのかもしれない。 「脛毛……うん強烈」 葵や涼子、ユーヌやうさぎに比べれば、圧倒的に表情豊かなせおりの頬から表情が消えうせる。 「これがR-Typeのセンスなのかな」 だとしたら、非常に社会の迷惑なセンスだ。やっぱりミラーミスとは相容れない。 それが底辺世界の常識的な総意だ。 「振り回してるぞ!」 義衛郎が叫ぶ。 「せおりさん、三尺小僧さんです!」 目敏く戦場を俯瞰していたうさぎが、三尺小僧に近づこうとする二尺ぼうやの前に立ちふさがった。 「させないよ!」 丸いボディにせおりの鎧の肩が上方向にかち上げる。 ずしりと乗っかる重量に歯を食いしばり、せおりはそのまま跳ね飛ばした。 「上手いこと当たるといいんだが」 叫んだ後、跳ね飛ばされる地点に先回りしていた。 集中しないで当てられるかな。と、宙に浮いた三尺小僧によりそうように悪鬼羅刹の義衛郎が接敵する。 放たれる気糸が、火打石を握る指に突き刺さる。 「市の条例では、河川敷での無許可の焚き火はご法度だよ。まだ三高平市役所ないけどね」 未来の市役所職員としては見逃せない。と、義衛郎は言った。 「さあ、その頭のアホ毛刈って上げましょうね。少し付き合ってもらいますよ」 へっへっへ。と、不穏な笑い声を無表情で垂れ流しつつ、じりじりと二尺ぼうやを追い詰めるうさぎ。 「プロメースさん達の挑発に乗っかってた方が長生きできたかもしれませんけどね」 ねっとりと嘗め回すような視線が二尺ぼうやのいたいけむちむち手足の行動パターンを読んでる。 幼児のかんしゃくバーサークはなかなか侮れない。 子供の火遊びは、時として家を焼くのだ。 「――いきますよ」 五人のうさぎが二尺ぼうやを取り囲み、それぞれ導火線を掴んで刃を入れていく。 ぶつぶつとほつれる導火線。 「フフフ。何にも出来なくなる気分ってどうですか」 もちろん返事はない。ただの花火玉のようだ。 「邪魔にならないところに蹴り飛ばしておけ。誘爆しても面倒だ」 ユーヌはどこまでも現実的だ。 「さあ、次は三尺小僧ですよ。四尺親父は後回し」 ● 四尺親父の怒りの鉄拳三連発がユーヌに向けて振り下ろされる。 戦闘開始直後は、マークしなくてはいけない花火どんの数が多い。 戦力の分散に不均衡が出るのは、立ち居位置と花火どんの運の関係で仕方のないことだ。 持ち前のフットワークで致命傷を避けてはいるが、生来の華奢さはいかんともしがたい。 「汚い花火だ。遠くでなければ見るに耐えん。側に寄るな。汚らわしい」 ユーヌの挑発は止まらない。 今、ユーヌが囮にならなければ、確実にどれかは爆発する。 「まどろっこしいな。じかに殴ってきなよ」 それを見た涼子の挑発にも熱が入る。 遥紀が、二人を確実に効果内に収める位置に腐心しながら機械仕掛けの神に慈悲を請う中、 怒りに飲まれて隙だらけの花火どんにリベリスタの攻撃は熾烈を極めた。 「そっちでおとなしくしててもらえるかなっ! みんな、避けてね!」 智夫が、ユーヌと涼子の間でうろうろしている三尺小僧と二尺ぼうやの自由を奪うため、閃光弾を放り投げる。 「世界が姿を変えるとしても爪弾きにされた貴方には関係が無い話」 葵の唇には笑みさえ登る。 「この世界の住民へ、坊ちゃまが生きる世界へ危害を加えるならば、莫迦らしい正義を盾にわたくしは貴方を殺しましょうか」 比較的刈りやすい導火線の二尺ぼうやを早々に黙らせるため、一度に複数に攻撃できる葵が襲い掛かった。 「やらせない」 義衛郎は、腕を振り回す三尺小僧の導火線に気糸を繰り出す。 めぼしい三尺小僧が沈黙していく中、満を持してうさぎがユーヌに群がる四尺親父に襲い掛かる。 「さあ、殴られてむかついて下さいねっ! 一撃で黙ってくれるともっとありがたいんですけどね!」 (プロメースさんの挑発に乗ってない個体を引き付けれたら……) しかし、手が足りない。 「そっちでおとなしくしててもらえるかなっ! みんな、避けてね!」 ユーヌの体力回復の補助に努めていた智夫が、仲間達が囮役の救出にいったことを確認して、それ以外の有象無象の自由を奪うため、更なる閃光弾を放り投げる。 それでも、ユーヌを殴る四尺親父の頭にちょろちょろと二尺ぼうやがやってきて、カチカチと火をつける。 (――間に合わんな) すでに恩寵を磨り潰しているユーヌは、仲間を信じる覚悟を決めた。 今ならまだ、仲間を攻撃範囲に巻き込まずにすむ。 手にしていたハンドガンを投げ捨て、万が一仲間を巻き込んだときの被害を最小限に抑える。 それでも、このでか花火に与えるダメージは十分だ。 手袋から吐き出される大量の護符が巨大な亀と蛇を呼び寄せる。 大量の水の気配が辺りを満たし、皮膚の上に水滴が凝固するほどだ。 「湿気は大敵だな。ああ、元から湿気て無駄な花火玉か。濡らす必要もなかったか?」 ざまあみろと言い放つユーヌの細い体を四尺親父のふやけ気味の裏拳が吹き飛ばした。 遥紀が、ユーヌの落下地点まで全力で走る。とどめなどささせはしない。 息はあるが、これ以上の戦闘は無理だ。 リベリスタの目が四尺親父に向く。 「俺の勘がいってるぜ、ここは押せ押せで行くのが吉ってな」 白い鴉が羽根を出し手、大きく羽ばたかせた。 守りながら戦ってこそ『父』 の本懐である。 「火薬を散らし、火を誘うしか出来ぬ戯けなど、わたくしの世界には無用でございます」 葵が、火打石を振り回す二尺ぼうやの両肘を刈り取った。 勢いで、火打石を握った手が河川敷に転がる。 「ごめんあそばせ」 しとやかに笑うメイドが繰り出した硝子の糸が、正しく引き絞られたのだ。 それは悪夢の幻影。 もしも、二尺ぼうやに口があったら、長く続く悲鳴が聞けたことだろう。 「遥紀さんの勘を信じるよ。ここが攻めどころだね」 智夫がなんだかんだいって男子思考の持ち主なのは、愛用の品に一切銘が入っていない点から知れる。 ざくざくと至近距離で狂われる投げやりとナイフが、斬り跡を真白く凍てつかせていた。 「花火は人々に楽しんで貰うものなのに。こんな風に変わっちゃうなんて、怖いね……」 冷静な闘将のハイライトのない目が花火どんを見下ろし、次の花火どんの無力化に努める。 一つ一つ連携して、確実に花火どんを面倒な三尺玉から黙らせていくリベリスタは、花火どんの数が減っていくほど本領を発揮していった。 力と破壊力だけは有り余っている花火どんを、自分の技を駆使して少しづつ絡めとり、その力をそいで、導火線を刈り取っていった。 花火玉は、凍てつき、弱点を付かれ、怒りを煽られ、右往左往しているうちに、リベリスタの餌食となっていったのだ。 それは、ミラーミスに立ち向かおうとしているリベリスタの縮図ともいえた。 最後の四尺親父が破壊されたときには、最低限の治癒のみを受けて戦っていたリベリスタは満身創痍だった。 ● 「景気悪くて良いんで、大人しくしてて下さい」 景気言い五重心変化菊とか勘弁です。 うさぎは、いそいそと導火線をむしりとられた変異体に近づき、手をかけた。 「無力化して安全に扱える『赤の子』ですよ? 最っ高の超都合良い研究材料じゃあないですかゲヘヘ」 無表情でげへへと言われても。 「それに……偶にゃ殺さず仕事が終わるのも気分良い物ですね」 リベリスタは、花火の導火線をちょん切って歩いただけなのだから。 手が血で濡れていない仕事上がりは、ほんの少し喜んでいい。 「よっ」 ピクリとも動かない。 ほんの少しのセンチメンタルはあっという間に破壊される。 いたたまれない空気。 リベリスタの膂力がいかに一般人離れしていようと、限界と言うものがある。 今回、集まった面子も力自慢というよりはテクニカル重視の面子だ。 ちなみに、一般的な3尺玉で280キロある。4尺玉は推して知るべし。 さっきまでひょいひょい親父どもが動いていたのは、間違いなく神秘の賜物だったのだ。 一番力持ちはせおりだが、直径1メートルというでかさがしゃれにならない。 「残った花火は纏めて河に沈めるか。放置して出火しても面倒だ」 虫の息のしゃがれ声が川原にひたひたと響く。 振り返れば、黒髪で顔がわからない少女が血を滴らせながら、うつぶせに倒れてうめいている。 十五年前でも変わらない、Jホラーの夏の夕暮れ。 戦闘後のほっとした空気が一変、辺りに響く悲鳴数人分。 そんなユーヌ(重傷)は、割りと元気です。 「真っ当に処分の時間も勿体無い」 かろうじてしゃべれるユーヌは、正鵠を射た。 彼女が再び参戦できるほどに回復させるにはここは危険すぎる。というか、このままの状態では怖いので即刻復調して欲しい。 瓦礫だらけの市街地を迅速に動かなければいけないのだ、時は金なり。いざ、決戦の場へ。 花火玉は母なる水に任せよう。 「……河川敷沿いの向こうに大きな病院が見えるね」 川に花火玉を沈めながら、せおりが上流を見る。 空が赤い。 あの赤の一番濃い中心にR-TYPEが出現する。 「ナイトメアダウンの当日、関西から横浜の水守の家に来る途中にお姉ちゃんが体調を崩して静岡で入院して、NDに巻き込まれたらしいって聞いてるんだ」 今、せおりの立っている時間軸に姉と母が生きて存在している。 「私たちが火事を防いだことで、少しは生きられる確率は、上がったかな?」 確かめに行くこともできるだろう。 彼女達を救いに走る事だって出来るかもしれない。 だが、それは過去への過干渉だ。 「……さあ、他のエリューションを倒しに行かなくちゃ」 一体でも多くのエリューションを倒すこと。 それが、大事な人の命運を分けるかもしれない。 少なくとも、この川を花火の炎が渡っていくことだけはない。 どうか、この一歩があなたの命を明日に繋ぎますように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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