●エネミー・フロム・テラー (フロムのもともとの意味は「遠く離れた」です) 「海坊主様には、ご機嫌うるわしゅう」 「おお、ヒトデ博士か。また何か、悪巧みを思いついたのかタコ」 夏! サマー! 陽光と碧い波、マイクロビキニの眩しいこの季節に、蠢動する悪の芽があった! 「フフフ……。海坊主様の遠大にして崇高な計画、それをぐぐっと推し進める、超兵器の開発に成功いたしました」 「それは立派だタコ! さすが我が旗下随一の厄介者! 厚かましさで定評のあるヒトデ博士だタコ!」 「フフフ……お褒めにあずかり恐悦至極」 アーク福利厚生の島近海に発生したE・ビーストたちの一団。 彼らを率いるは『海坊主』と名乗るタコ。彼らは敢然とアークのリベリスタに戦いを挑む。 ヒトデ博士。彼は海坊主の部下中でも、その冷酷さ、ずるがしこさによって知られる。 「して、ヒトデ博士。何を作ったんだタコ?」 「フフフ……強化型フジツボを装甲にした『巨大ロボ』でございます」 バキュイーン! 派手な効果音とともに登場したのは、巨大ロボとより、なんか鉄板をつぎはぎしたおんぼろ人形。 ださっ。でも巨大な両腕、紅く明滅する瞳には威圧感がないでもない。 「おお、いつもながらの微妙な出来! でかした、ヒトデ博士!」 「この『キング・ポセイドン』を使い、アークの小僧どもをひねりつぶしてくれましょう」 「驕るなヒトデ博士。アークには怖いの一杯タコ」 「もちろん、心得ております。ヤバいやつらは相手にしません。われらが狙うのは、勝てる相手。若い芽を摘み、ぼっこんぼっこんにいたします」 夜光虫の光で青白くかがやく巨大ロボ。 それを見る、自信満々のヒトデ博士の顔。 「さすがヒトデ博士……もはや、ヒトデではないタコ」 海坊主は心中の畏れを、笑いで磨り潰す。「そう、ヒトデなし……」 ●アーク本部・ブリーフィングルーム 「変なのが出る」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は、うんざりした様子で一同を見た。 万華鏡の未来予測は、来るべき脅威を察知した。南海のとある島付近に、E・ゴーレムが出現する。 「島の近海を巨大ロボで荒らしまわる。」 こいつを何とかしてほしいというのが、信暁の言いたいことなのだが。 「……ちっと気になるのが、こいつは『経験を積んだリベリスタ』を差し向けると、逃げちまうらしいんだ。言いたいこと、わかるな?」 リベリスタ達は頷く。先ごろも似たような事件があった。 無関係とは思えない。 「この仕事を任せられるのは、まだ実戦経験の浅いお前らしかいないのだが……」 信暁は、真剣な目でリベリスタ達を見た。 「リベリスタの本当の強さは、レベルや何かの数字じゃない。 敵をなんとしてでもぶっ潰すという『気迫』が、リベリスタの強さを決めると、俺は思っている。 今回この仕事を任せられるのは『気迫』ならベテランにも引けを取らないお前たちだ。 連中に、本当の強さってやつを、見せつけてやろうじゃあないか!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:遠近法 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月22日(金)22:20 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●海岸 蒼茫と暮れゆく東の空に、紫煙が二筋流れた。 風が出てきた。灯台が光を投げかける。白い波頭が、足元で冷たく砕ける。 『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)は肩をすくめた。煙草の灰が散らされて、辺りを朱色に照らした。 今回は海中での戦い。しかも相手は巨大ロボだという。 「海水浴って歳でもないからな。さっさと終わらせて帰ろうぜ」 彼はそう言って、彼方に揺らめく街の灯に目を眇める。彼の知っていた姿と、それは微妙に違っていた。 リベリスタとして活動を再開し、大分任務にも慣れてきた彼だが、世の中の移り変わりにはついていけそうにない。昔はもう少し、いろんなものが明瞭だったような気がする。 タバコもそうだ。雑草を巻いたようなろくでもない煙草を、後生大事に吸って、それでも足りないと小銭をあさった。今では小銭なんてあさらないし、煙草に困るなんてこともない。南米の富豪が咥えるような豪奢な葉巻が手に入る。それでも飽き足らず、薄汚いケミカルを振りかけ、せっかくの煙草の味を台無しにして、脳神経を吹き飛ばす連中まで現れる。 どうなってんだ、一体! 「くそデカいロボだろうが何だろうが、やる事は同じだ。ブッ倒す、それだけだ」『漂う紫煙』烟夢・クローフィ(BNE005025)が笑いを浮かべる。 彼女はこのご時世に、誰も買わないような国産煙草を取り扱う、いまどき真っ当な煙草屋を経営している。水煙草・嗅ぎ煙草・噛み煙草。ブランディのような風格の、本格的な葉巻まで手広く扱い、彼女自身も愛好している。 「強いやつらが来たら逃げるなんて、単なるチキン野郎じゃねぇか」ったく、と烟夢は吐き捨てる。豪放磊落な彼女、そういう薄汚い悪党は許せない。 雲間から覗く月の光に、眼鏡が碧い光を映じる。凄いくらいの美人だが、一筋縄ではいかない。 遥平が砂洲の方に目をやると、そこには集中を続ける『ノットサポーター』テテロ ミスト(BNE004973)の姿があった。遥平の視線に気づくと、刀の柄を上げて笑う。 「遥平さん、こっちでもよろしくっ!」 三高平署刑事課巡査部長という肩書を持つ、立派な大人である遥平と、獣人の若者ミストの間に生まれつつある信頼は奇妙なものだった。このところ依頼で肩を並べることが多く、遥平も「ミストの坊主」などと呼び、ミストもそれを嫌がるふうでもない。 「頼むぞ」の一言だけで、ミストは不遜に頷いて見せる。 水煙を灯台の光が裁断する。彼方から汽笛が響いてくる。 静かで、それでいて熱い。 そして、そんな雰囲気をぶち壊すような、ハイテンション。 「がんばりましょー! えいえいおー!」一同に笑いかけるシーヴ・ビルド(BNE004713)。両手に拳銃を構え、ダブルでガンスピンを決めようとする。すんでのところで指はトリガーから離れ、銃身が砂地に突き刺さる。 好奇心のままに暮らしていた彼女も、最近はだいぶ暮らしに慣れてきたようだ。二丁拳銃も大分様になりつつある。ふだんそうは見せないが、彼女の戦闘センスは抜群だった。 びしっとガンスピンを決める彼女。凛々しい顔を、月光が染め上げる。潮風がエメラルドの髪を吹き散らした。 「巨大ロボットの対処法はゲームで予習済みなのです」ぴきーんと決めるシーヴ。 がくっとバランスを崩す一同。 「え、いろんな種類があるから違うのなの?」衝撃のあまり銃を取り落すシーヴ。「うーうー、でもきっとヒントはあったはず。張り切っていくのです!」 ぐっと拳を握りしめる彼女。彼女のポジティブさは、戦場にあって得難い資質だった。 それぞれに『痛み』を抱えるリベリスタ達は、シーヴの明るさに安らぎを覚える。 その時、海面がゆっくりと持ち上がった。 ●銃撃 盛大な水柱が砕けて、中から巨大なシルエットが浮かび上がる。 ロボというには割合小ぶりの、武骨な巨人がリベリスタ達を見下ろしていた。 月光に照らされ、強化型フジツボの装甲がぬめぬめと光る。憧れのアメ車のボンネットみたいつややかに光って、気に入らない。 そして、ロボの肩に乗った、ヒトデが一匹。 「リベリスタか」ヒトデ博士は、酷薄に唇をゆがめた。「ひねりつぶしてやる」 「巨大ロボットってのは、怪獣と戦ったりするために出てくるのが相場と違うんかね」うんざりした声で遥平が呟く。 ヒトデは、遥平を見下ろした。 「君たちのような学のない者にはわからないだろうが、正義と悪などその時によって変わるものなのだよ。そして常に、勝利するものが正しい」 律儀な馬鹿だ。 「巨大ロボット、すごーいおっきいっ!」シーヴが目をキラキラさせる。「変形したりお空飛んだりとかしないのかなぁ?」 「これは殺戮のための兵器。不要な機構はついていない」 「中から巨人が出てきたりとかっ!」何処かで得た知識を総動員するシーヴ。 「殺戮のための兵器だ」 「うー、出来ないのかぁ」残念そうなシーヴ。 「君たちにはこのロボで、十分だということだっ! できないわけじゃないんだぞ!」なぜか切れ気味のヒトデ博士。 「あのヒトデ、邪魔だな」烟夢は静かに呟く。「先に潰すか。逃げられるのも癪だしな」 遥平も頷く。今回の戦い、個々の戦力は十分だが、いささかバランスが悪かった。回復の手が少なく、長期戦は不利だ。一点集中で決める。 ミストが剣を抜き放ち、赤々と闘志を燃やす。 遥平が<法執行者>を構える。巨人がうなり声を上げた。 戦端が開かれた。 ミストは勇躍、前線へ躍り出る。危険と隣り合わせの最前衛、だがそれはリベリスタの本懐と彼は言う。水上歩行で動きは束縛されず、暗視で十分な視界を得ている。日中、地上で戦闘を行うのと同じ機動性を確保し、ミストはロボに切りかかる。 「真っ向勝負といくのですっ!」シーヴは銃をかざし、素早く波を蹴立てて走った。至近距離でガードを構えつつ、銃口をロボに向ける。 「おっきくっておもしろーい」言いながらロボに銃を連射。フジツボがキラキラ光りながら零れ落ちた。 「わー、すごい。頑丈だー」シーヴは顔を輝かせる。わりとお気に入りの様子だ。 「食らうがいい」ヒトデ博士が右肢を振りかざす。 「ひゃっ!!」突如海水が巻き上がり、蛇のようにシーヴを戒めた。そのままシーヴは、海中に引き倒される。 烟夢は舌打ちをし、シーヴを抱えて砂浜へと走る。 遥平は距離をとり、慎重に狙いを合わせる。相手の間合いに合わせる義理はない。コートが海水に漬かる。水流は早く、足元はおぼつかない。それでも遥平の射撃能力なら、狙った部位に当てるくらいはできる。ゆっくりと、慎重に、遥平は神秘をブーストさせていく。 (腕か……脚か?) 傍らで烟夢も銃を構える。暗視ゴーグルを身に着け、水上歩行できる彼女は、いくぶん照準を合わせやすい。 二発の銃弾が闇に吸い込まれる。ぱっと火柱が上がり、敵の腕から煙が噴き出した。 海面を蹴って踊り込むのはミスト。大剣の刃を月光に光らせ、巨人の頭部に斬撃を放つ。 「お前たちの相手はボクだっ!!!」果敢に吼えるミスト。「さあ、かかってこーいっ!!」 いきり立つ巨人。ミストの一撃にどこかをヒートさせられたか、闇雲に拳を繰り出してくる。巧みに防御していくミスト。 「おのれ!」ミストを攻撃の要と見て取ったヒトデは、彼にもシーヴ同様の呪縛を放つが、黒い水の縄は、体に触れる前に四散する。高位のリベリスタのみに許される『絶対者』の能力を、ミストは早くからわが物としていた。テテロ一族としての天稟、そしてかれ自身のたゆまぬ研鑽のおかげである。ヒトデの全体攻撃は厄介だ。手番を一つ奪ったことを、テテロは内心ほくそ笑む。 身をよじって、シーヴは呪縛を弾き飛ばした。砂浜を蹴って水面を滑空し、そのまま拳銃をさく裂させる。「一発でダメなら何度でも。ごーごーごーっ!」 勇躍飛び出していく彼らを見つつ、遥平は緻密に射線を修正していく。しっかり全身をおとし、衝撃を逃していくスタイル。手にした鉄の塊の重さは、何より彼が知っている。 「烟夢、狙いを合わせろ」そちらには目を向けず、遥平は言った。頷く気配が伝わってくる。烟夢の唇が妖艶にまくれ上がる。 すさまじい発砲の音があたりを揺るがせた。あやまたず右腕に着弾した二人の銃弾は、ロボの右手から火を噴かせた。ヒートしたロボはミストを狙うが、大ぶりのパンチはミストにかすりもしない。 さらにミストとシーヴの攻撃が繰り出される。 「ヒトデ野郎……その腐った脳みそぶち抜いてやるよ」烟夢が鋭く息を吐きつける。「……いや、ヒトデに脳みそなんてあるのか?」 予めしめし合わせたかのように、今度は二人はロボの脚部を狙っていく。 遥平の一撃がめり込んだ。 巨人の身体がぐらりと傾いだ。ヒトデの姿が一瞬丸見えになる。 「ごーごーごー!」シーヴの銃弾が、ヒトデをまっすぐに打ち抜いた。 「あ、当たっちゃった」今、狙ってなかった? まっすぐに落下し、水音を上げるヒトデ。 一瞬あたりを静寂が支配した。 「フフフ……なかなかやるではないか」すっくと立ち上がるヒトデは、携帯電話を取り出す。「海坊主様。順調ですが、私はそろそろ帰りたいと思うのですが……って、え? 『尻尾をつかまれたら嫌だから、お前一人で頑張れタコ』って、そんなあ……」 涙声を出すヒトデの顔面(?)に、烟夢の容赦ない蹴りが入る。 「ごっ!!」 弾き飛ばされるヒトデ。そのままぷかりと浮かぶ。 「大丈夫かなあ?」覗き込むシーヴに、不敵な笑みを向けるヒトデ博士。「この私が、お前らのような無学な連中に負けるはずが……」 「あ、大丈夫なら安心なのです」すぐさま至近距離で究極砲をぶちかますシーヴ。 どっかーん。盛大な水柱が上がり、ヒトデ博士は今度こそ戦闘不能に陥った。 「お……お前たちは、まだキング・ポセイドンの本当のおそろしさを知らない……」ぶつぶつつぶやくヒトデ博士。「食らうがいい……」 言うが早いか、巨人の全身が赤々と輝き始めた。 ●衝撃波 遥平はAFを取り出し、シーヴとミストの注意を喚起する。 フジツボ外甲殻の切れ目が鈍く光り出し、そこから蒸気が吹き上がる。 損傷した腕が激しくスピンを開始する。 烟夢は手近な岩を遮蔽に使う。遮蔽というにはあまりに頼りないが、それでもないよりはましだ。 遥平はじりじり後退し、衝撃波の予想される範囲から外れる。岩礁は……ずいぶん小ぶりなものだが、幾分かの減殺は期待できるだろう。「来るとわかってりゃ、間合いを外せばいいんだよ」 そうした、体力的に不安の残る二人を気に掛けるシーヴ。 さらに彼女を、ミストが庇う姿勢を取る。 スピンが激しくなり、ロボの目がかっと光った。 「食らうがいい!」 ぷかぷか浮かんだまま言うヒトデ博士。っていうかいたのか。 瞬間、キング・ポセイドンの全身が大きくうねり、巨大な竜巻がいくつも巻き起こった! すさまじい渦動が青白い雷鳴を呼び起こす。放電が世界をきしませる。 そのまま、リベリスタ達に殺到する衝撃波! 大きく弾き飛ばされた彼らの上に、驟雨のような水滴が降り注ぐ。 烟夢は立ち上がる。遮蔽の上の全力防御が、かろうじて彼女を守った。しかしその半身からは、機械化した全身が覗く。 彼女に残された、無残な爪痕。 「……手を抜いてらんねえな、こりゃ」薄ら笑いを浮かべつつ、彼女は銃を構える。 ――逃さない。 ――絶対逃すわけにはいかない。絶対に。 怒りが、彼女の記憶を揺り起こす。 ――すべて倒すのだと。 ――あの日誓ったのだから。 だから。 「……こんなところで立ち止まってらんねいぇんだよ、クソがぁぁ!!!」 言葉は銃弾となり、ロボに浴びせかける。先ほどむき出しになった関節部にそれは的確にヒットし、激しい火花を上げる。 応じて、遥平も前進する。月光できらりと光る瓦礫を尻目に<法執行者>を乱れうち。こちらの手傷も相応だが、しばらく衝撃波は怖くない。それまでに、相手をぶっ潰す。 ミストが吼えた。全身を紅くきらめかせ、ロボに突撃する。ミストにも回復の手はあったが、一同の防御が効果的だったため、さほど大きなダメージはない。全体攻撃の心配もない以上は、さきに全力で攻撃に入るべきだ。 くらくらする頭をシャキッとさせながら立ち上がるのはシーヴ。全身を水流で濡らし、それでも毅然と彼女は立ち上がる。天使、傷だらけの。 「痛くても耐えるもん!」じゃきっと両手拳銃を構えるシーヴ。「なかないもーん! おねえちゃんだもん!」 すさまじい光弾をシーヴは速射する。麻痺を狙うのも良いが、それよりも短期決戦だ。 キング・ポセイドンが拳を繰り出してくるが、それをあるいはかわし、あるいは受け止めるミスト。激しい剣撃のラッシュが、ロボの外壁を弾き飛ばしていく。 そして近距離からの銃弾がロボに撃ち込まれる。神秘の銃弾は海水も関係なく、唸りをあげて命中していく。 海水が逆巻き、水煙を上げる。 ヒトデ博士は消えた。おそらくどこかに行ったのだろう。 烟夢は鋼鉄の全身を月光にさらしながら、銃を乱射し続ける。その絶え間ないマズル・フラッシュが、彼女の悲しみの声だ。 胸のふさがれるような思いで、遥平も引き金を引き続ける。 ミストが大きく跳ね上がり、ロボを袈裟懸けにした。 「たあーっ!」 月光を影にして、大きく傾ぐ巨体。 そこに『怒りの日』を持つシーヴの銃口が、非情に向けられる。 彼女の普段明らかにならない銃器のセンス、ゲームの中でしか見せたことのないテクニックが、見事にさく裂した! くるくるどっかーん! 光の波が、海上を昼のように照らしだす。巨大な水柱がたち、撃ち抜かれた巨人が、ゆっくり全身を崩壊させていく。 両の目をぐるぐる渦巻きにしながら、べしゃっとその場に倒れるシーヴ。 「きゃー。目が回っちゃった」あわてて駆け寄る一同に、彼女は笑いかける。 「張り切りすぎちゃった」 ●さめる熱、醒めない夢 海岸にひきあげたリベリスタ達は、虚脱していた。 それなりに苦戦した相手だった。回復手やアシストの少ない戦いにしては、善戦したほうだろう。 それでも握った銃把は過去を思い出させたし、硝煙の向こうに揺らめいたのは記憶だった。遥平は煙草をくわえようとし、吐き出す。 「ちっ、タバコがしけってやがる。波かぶったからな……」 舌打ちする遥平に、タバコが放り投げられる。まじりっけない純正の、国産の安物。遥平の愛好品だった。見上げると烟夢が笑っていた。過去に同じく傷持つ彼女、その笑顔がうれしかった。 うずくまるミストも、遥平に笑顔を向ける。敵を陽動し、特殊能力で翻弄し、最後まで相手に肉薄した。彼はもう、立派な戦士であった。 疲労が全身を這い上がっていく。苦い疲れが残る。 その時。 すっと両手が差し出された。 あわてて掌を向ける遥平。ばっちーん、と、力任せのハイタッチが繰り出された。 「いえーいっ! みっしょんこんぷりーとっ! はいたーっち!!」 じんと熱いぬくもりが、掌に残る。 烟夢とミストにも、バチンバチンとハイタッチをしていくシーヴ。 月光に彼女の、無邪気な笑顔が映えた。 穏やかな笑顔が、一同に流れた。 彼らにはこれらも熾烈な戦いが待っていた。その中で彼らはあるいは勝利し、あるいは敗北した。快哉を叫ぶ夜も、敗北に歯噛みするよるもあった。 だが、今夜交わしたハイタッチほど、力任せで不器用なものには、彼らはついにお目にかかることはなかった、 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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