●誰にでも出来る簡単なお仕事です。 「仕事としては、すごく簡単。だけど、多分すごくつらい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、しばらく目を閉じていた。 これからリベリスタが受ける苦しみを、わずかでもわが身に受けようと天に祈るかのように。 これからリベリスタを過酷な現場に送り出す自分に罰を請うように。 やがて、ゆっくり目を開けると、ぺこりと頭を下げた。 「お願い。あなた達にしか頼めない」 苦しそうに訴える女子高生、マジエンジェル。 だが、断る。なんて、言える訳がなかった。 ●お仕事はブレイクゲートです。 「今からほぼ三年前。とあるアザーバイド、識別名ヒツジアリ討伐案件があって、それは何の支障もなく成功した」 モニターに、ヒツジとアリがつぎはぎされた生き物が谷底を埋め尽くしてリベリスタと交戦中の様子が映し出される。 「ずうっと、巻き戻すね。ここ。よく見ておいて」 スローモーション。 それよりもずっと前の時点の映像。 谷を進軍してくるヒツジアリの奥。 チラッと、何か映った様な気がしないでもない。 「調べたら、この奥にD・ホールが開放された状態だということがわかり、ちょうど三年前にここにリベリスタを送り込んで破壊した」 当時の記録映像がモニターに映し出される。 延々と続くアザーバイドの死骸に、枯れ落ちた草木。 「映像を見てもらえれば分かるとおり、この辺りの植生が非常に大きな被害を受けた。まだ知られていないけれど、ここに調査とかに来られると非常にまずい。未知の生物の死体がちょこっとなら世間もスルーだろうけど、今回は桁が二つ違う。至急、緑が復活するように土壌改良剤を撒くことにしたんだけど」 モニターに記録映像の文字。 タオルで覆面に麦藁帽子にゴーグルのリベリスタたちが大八車引きながら、白い粉を散布している。 陽炎立つ地面。 「酸を大量に吐かれて、リベリスタ以外には無理な環境。ブレイクゲートついでに、土壌改良剤撒きながら行ってもらった。みんなの尽力によって、昨年は噴出するガスが微量となって、効果が変化」 発生するガスに巻かれて、自分の限界を見失い、鎧甲冑で作業したり、明らかに過積載なリアカーを曳いたり、多幸感を求めてガスを吸い込むのを目的にしていたり、阿鼻叫喚那リベリスタ。 顔にモザイク掛けてあげてください。 しかし、この作業量の多さ。 どっちかというと、ブレイクゲートの方がついでだったんじゃ……。 「そして、三年」 イヴは、現在の様子をモニターに映し出した。 緑は戻っている。 周囲ともそん色ない。やり遂げた。俺たちは破壊するだけの生き物じゃないんだ、ハレルヤ。 「状況はよくなっている。と、思っていた。だけど、この量は明らかに不自然」 だから、現地にリベリスタで構成した先遣隊を送った。と、イヴは言う。 「ここは元々川で、この時期だけ干上がって通れる所。一般人では遭難の可能性がある。まだガスが残ってないとも限らないし」 こんなものが採取された。と、イヴはガラスケースに収められた植物サンプルを出した。 「サツマイモ?」 遠目から見ると、蔓の先に丸いものがいくつかついている。 「はずれ」 サンプルに、CCDカメラが接写。 「正解は、E・ビーストでした」 芋のような丸いものがむこむこ動いている。 肉塊。 「ヒツジ」 はい!? 「中世の頃から記録はある。植物に実るヒツジ。識別名「イモヒツジ」。原因は崩界度の上昇。この川底は無数のヒツジアリが死んでるから、へんな縁が出来てるのかもしれない」 で、あなたたちの出番。と、イヴは言う。 「みんなには、ハイカーとしてここに入ってもらう。天気予報では、これから数日間は快晴。紫外線情報、非常に強い。不快指数は低いけど、熱中症警報マックス」 野外作業は危険。 「強烈なガスだまりはこの三年でほとんどなくなったと思っていい」 よかった、今までのリベリスタの努力は無駄じゃなかったんだ。 「ただ、今回は純粋に物理的にきつい」 つまり、どういうことですか。 「炎天下の中、谷に延びまくった蔓を伐採しつつ、それらを一切残さず回収し、毎回確認されているD?ホールを破壊してきて」 今回は崖登りフリークライミングだが加わり、今まで巻いてたから軽くなっていったのが、どんどん積んでいくから後半になるほど重くなるんですね。分かりたくありません。 ぶっちゃけ、楽しいハイキング。 川をさかのぼること50キロ踏破して、かつてのD・ホール跡地まで、草刈するまで帰れません。 もちろん帰りも歩きです。合計100キロじゃないですか、やだー。 逆に言えば、それさえ済ませてしまえば、万事めでたしめでたしなのだ。 「戦闘にはならない。ばかばかしいと思うのもわかる。ストレスがたまると思う。でも大事な仕事」 イヴは、もう一度頭を下げた。 「お願い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月06日(水)22:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「星が囁いたんです羊蟻の季節だって」 月杜・とら(BNE002285)が歌うように言った。 「新人さんも頑張ってね♪ やってりゃそのうち終わるから……途中で倒れなけりゃ」 ヘリコプターの中、リベリスタに沈黙が落ちる。 「この前の星見のお仕事では……無理なお願いをしたからね」 子供の幼稚園の行事をビデオに納めるために育児早退した『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)がぼそぼそとしゃべりだす。 「今回は穴埋めでお手伝いに来たのだけれど……どうして扉が開かなかったり、職員さんの顔が『小さな子供達を遺して逝くなんて……!』 と言いたげな悲壮感溢れる感じなのかな。ねぇ」 過去の参加者がいっせいに目をそらした。 「I、私は、以前に受けた任務を元に経過の観察とケアを行います」 『イマチュア』街野・イド(BNE003880)が麦藁帽子をかぶり、冷却用ファン内臓ボディスーツ。 そこから、この仕事の苛烈さを読み取ってほしい一同である。 「まったく今年も楽に済みそうにはないな」 空気読み判定でファンブルした『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)が決意をみなぎらせて言った。 「実家にいたころはこの様な強い日差しの元に長時間身を晒すことがまずなかったので新鮮な体験です」 『特急撫子』観月・鼎(BNE004847)が、しとやかに微笑んだ。 眼下を覗き込めば干上がった河が一目瞭然。遠い遠い道のりである。 「……それにしてもかなり距離が……」 「ガスマスクが必要ないのはいいことだが、肉体的には一番ハードだからな。いい訓練になるは重々承知してるが、精神的にはちょっと辛いな」 それ、総合的にすごく辛いって言いませんか。 「これをやりとげたらきっとお姉様も鼎を褒めてくれるはずですよね。『かなちゃんがんばったなぁ!』 って言ってくれるはずですよ、きっと必ず」 鼎は五年前までお隣に住んでいた幼馴染のお姉さんが大好きなのだ。 革醒したのを幸い、単身で三高平に家出同然でやってきた力技をなしえた鼎は只者ではない。 その瞳と語り口に、どっかの誰かさんを思い出す。 「恒例のハイキングがまたきたか……いい加減終わらないかなって気もするけどね」 どっかの誰かさんこと『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)が呟く。 一度失われた自然は、そうそう回復するものじゃないのだ。 一度失われたまっとうな思考回路もそうそう回復しない。 「よいピクニック日和です」 と、故郷の森の木に色々聞いちゃう方向のお歌を歌う『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)。 (欲を申せば、真冬で、湖畔の山城が近く、蝙蝠が飛び交い、狼が遠吠え、霧が立ち込めて、満月が出ている夜だと、最高なのですが) 残念ながら、真夏で、登攀不可の絶壁が近く、トンボが飛び交い、熊が遠吠え、ガスが立ちこめて、太陽が昇りかけてる早朝です! 「実は拙者、ブレイクゲートと翼の加護を忘れたので、取りに戻ろうかな~……」 『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)がもじもじと言い出したが、もう無理。 「私はもっと普通のハイキングでお兄ちゃんとイチャイチャしたい!」 虎美が叫んだ。 「その為にも頑張ってくるよ。私、この仕事が終わったらお兄ちゃんとイチャイチャするんだ……え、死亡フラグ? やだなぁ、お兄ちゃん。気のせいだよ、気のせい。ちゃんと『ブレイクゲートする』 からね!」 この場においでにならない「お姉様」と「お兄ちゃん」 が交互に聞こえてくる機内。 EPがロストしそうだが、まだ始まってもいないのである。 ● 白亜の崖を覆う緑が今までの努力は決して無駄ではなかった。と、教えてくれる。 それに、どう見ても底辺世界産じゃない植物がかなりある。 サツマイモの蔓にむこむこ動く芋のような肉塊がついている、識別名「イモヒツジ」 それに巻きつかれた植物の色が悪くなったり枯れたりしているから、生態系を守るため、戦え、アークのリベリスタ。 「あついでござるYOー」 虎美先任軍曹は、逃亡者を許さない。 「特に、逃げないよう括られた紐の結び目があつくて堪らないので解いて下さ……」 虎美のオッドアイが笑わず、口の両端がつりあがった。ちゅいーんと働き者のチェーンソーが唸る。 ばっさばっさと刈り取られるイモヒツジを、とらが、干上がった川床へ並べていく。 訓練されたリベリスタは手際がいい。 帰りには牧草ロール状に整形する予定だ。きっと軽くなってるはず、なってるといいな。 「いえなんでもありませんYO」 がくがくぶるぶる。 虎美の注意が智夫に向いた瞬間、反対側に逃げられないだろうか。と、ちらと遥紀の脳裏を何かがよぎったが、先任軍曹様は人が二度動く間に三度動く二挺拳銃様である。 DA判定に両方とも成功しない限り、何らかのダメージ入れられるのは明らかだ。 (ヨメよ。塾へのお月謝忘れないでね) どうせ逃げられないなら、無事に帰ってやる! 「――箱舟精鋭ホリメ舐めんな、永久機関と耐久性は自信がある。貴重な戦力、無駄な処で浪費させないさ」 さあ、みんな仮初の翼だよ。気力も満タンだよ。 「拙者、今回は頭脳労働しようと思ってたでござるよ」 逃げる気満々。全てのスキルと装備を放棄してきた智夫は、かろうじて麦藁帽子と鎌と長靴を装備していた。 「なに、代わりに馬車馬のように働いてくれれば良いだけだからな!」 爽やかな笑みで断崖絶壁を指差す遥紀にどうして逆らえよう。 「らめえええ。こんなに草刈りしたら拙者壊れちゃううう」 「そしたら治してあげるよ」 癒やし手、こわ~い。 「何はなくともリアカー」 大量のスポーツドリンク・クーラーボックスに冷却材・登攀や蔓をまとめるのに使用するロープ類を積み込みながら、イドが言う。 「そうだな、何はなくともリアカーだ」 鶴嘴、スコップを積み込みながら、晃が大きく頷いた。 おととし、二人でリアカーをひいたのはいい思い出だ。ガスを吸って、わけがわからないことになったのは黒歴史だ。 「見てくれ。例年より大きなリアカーなんだ!」 嬉しそうだ。 「任せろ。乗って休んでもいいが、乗り心地などは保証しないぞ」 相変わらず、屈託ないことこの上ない主人公体質である。 (直感が告げる、お洒落重視のサンバイザーVネックスキニーだと駄目だと……!) 麦わら帽子に長袖Tシャツジャージ装備、勿論軍手も忘れずに。の、野良仕事スタイルも辞さない遥紀、イエスだね! (戦場に於いて迷う事はない。躊躇えば自分が死ぬだけ) 「クーラーボックスに首筋を冷やすアイスノンと塩を加えた檸檬水も完備しよう」 (こどもたちとよめをのこしてしねない) リアカーは重くなる。が、今年の晃は余裕だ。 「なんせ今年はギガントフレームだからな! 今までとは耐久度が違う」 ロボ好き少年、健在。機械の体、ゲットだぜ。 「力仕事と単純作業は得意なんだ。頼ってくれていいぞ!」 『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)の主人公力も負けてはいない。 麦わら帽子、手ぬぐい、鍬、背負い籠……。 「私も水と食料満載した大八車用意したよ!」 「とらは、養生シート! クーラーボックスに梅おにぎり、スポーツドリンク、レモン蜂蜜漬け、夏野菜の浅漬け、凍らせたゼリー飲料を保冷材代わりに」 虎美ととらは、すがすがしく笑った。 「回収して帰るなら相当な量になるだろうし、脱落者も積むなら台数はあっても困らないよね」 これで、リアカーは都合四台。 「引くのは肉体労働が得意らしい楠神先輩に任せた!」 二台引けと。楠神君のちょっといいとこ見てみたい。 「足場が悪い? 俺のバランス感覚を舐めるな!」 ハイテンションによる急激な労働は、体に大きな負荷をかけます。 (暑い! 息苦しい! だがそんなものは根性で耐える!) 「ふぁいとー!おー!がんばれー!」 『わんだふるさぽーたー!』テテロ ミーノ(BNE000011)がアイドルオーラを振り撒いての応援である。 物理的に応援オーラの存在は、リベリスタを鼓舞する。はずだ。きっと、多分。 ● 昼時である。 どんなに暑くても、ごはん食べなくちゃ死んでしまう。 おにぎりと浅漬け食べているとらが現地調達で泥パック――ヒツジアリ堆積層由来泥パックはお肌にいいのだろうか。要経過観察。 ドイツ娘の民族衣装に身を包み、巨大なフォークでイモヒツジをまとめて回収するアーデルハイトは、いびつなグルストにも似た肉塊を見る。 「なんとも不可思議な生き物だが……」 『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)は、癒やしに飢えていたのだ。 生皮ずるむけ系肉塊では、もふもふは無理。 「名前だけ見れば、アイントプフの具にするとおいしそうですね」 アイントプフとは、ドイツのどうやってもまずくなりようがないジャガイモにんじんたまねぎお豆とソーセージが入ったスープである 遥紀が露骨に顔をゆがめた。 「瑞々しい色だし、弾力性からも良い肉だなって分かるけれど、此処まで食べたくないのも少ないな!?」 俺の本能が叫んでいる、これを食ってはいけないと! 「いいえ、これこそ古より伝わるバロメッツ!」 『永遠の残念美少女』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)がよだれをすすり上げつつ、鍋を取り出した。 「何、あれを知っているのか舞姫」 伊吹の問いに、舞姫が神妙な顔をして頷いた。 「伝承によれば、カニの味がするという……」 何故、ヒツジなのにカニ味。言い出した奴を小一時間問い詰めたい。 「ヒャッハー、カニ鍋だー! 真夏? 酷暑? そんなもの……関係ありませんっ!」 エリューションはぽんぽんで消化して処理する。その意気やよし。 「うむ、夏に野外でカニ鍋というのもおつなものだ」 でも、炎天下の屋外で鍋ってどうなのかな。 「実はこんなこともあろうかとポン酢を持参していたのだ。ネギと白菜もぬかりない」 塩ならわからなくもないが、何故ぽん酢。そして、夏場は高価な白菜を何故。 「おっ鍋、お鍋!」 「そうでござるな。ここで休むんなら、少しひっからびたのを処分するのがいいでござるよ。場所取りでござるからな。乾燥したイモヒツジが風で飛んでいってどこかに生えちゃう……なんて事になるとまずいでござるし」 それ、どこのタンポポもどき。 申し送りがきちんとされていなかった為の悲劇。 智夫はガスの噴出口跡にイモヒツジを入れた。 一方、舞姫はお鍋にペットボトルの水を少量。レッツ、点火! トコロデ、君達はちゃんと出撃のしおり(四門作成)を読んだだろうか。 *火とかは引火するかもしれないから、使わない方がいいね。 ちゅどーん。 ● 「ほらほらっ!まだまだこれからだよっ!ふぁいとふぁいとっ!」 応援するミーノの声がやけに遠くに聞こえる。 (……あれ、なんか気持ち悪い……めまいがする……) 猛烈な吐き気。耳の中で脈打つ鼓動。嗚咽と咳が風斗の横隔膜を激しく震わせる。 (あ、しまった、水忘れた……脱水……症……) 「フ、俺はどうやらここまでのようだ……俺にかまわず先に行け……っ」 イドは、風斗のヒロイズム溢れた台詞を認識すると、駆け寄り、おもむろに自分に寄りかからせた。 「至急対処が必要です」 口の端に指をかけて隙間を作り、自分の水筒のストローをねじ込んだ。 楠神が唇の違和感に気がつくより早く水筒を握るイド。 ほとばしるイオン水。嚥下せざるを得ない状況。お客様の中に想像力豊かな腐女子はおられませんか。 間接キスなどという甘酸っぱい認識ははじめから考慮外である。N、理解できません。 風斗はそのまま肩に担ぎ上げられて、イドが引っ張っていたリアカーにごろんちょさせられた。 「俺に構うな……」 「休憩して下さい。放置は戦力の減少と考えます」 イドの目玉が動く。 「ただ寝ているのがいやなら、そこで草の片づけを手伝って下さい」 かくして、風斗は干し場所をマッピングする簡単なお仕事に従事することになった。 ● 晃のリアカーには、 「もうげんかいなの~きゅうぅ」 と、目を回したミーノが乗っている。 ここまで声を枯らして応援してくれていたミーノに僕らは感謝の念を禁じえない。 (熱の溜まり具合も違うけどな。四肢が物凄く熱いだろうな) 晃は自分の手足のことを考えているが、他人事のようになっている。脳味噌に回るオイルじゃなかった血液の粘度が高くなっているのだ。 しゅー。晃の足から不穏な音が出始めた。 「MAI†HIMEの夏は、カニ鍋はおわらないっ!」 別に火じゃなくても熱源があればいいじゃない。晃の手足は冷却しない訳にはいかないんだし。生身がイカれる。 「弱冷気魔法は本人にかけるものなので――」 アーデルハイトは申し訳なさそうにいう。本人はきわめて快適そうだが、仕方ないね。 人命救助の名の下に、ソーラーパワーで煮こまれていくイモヒツジ。ポン酢をかけていただきます。 舞姫は、かっと目を見開いた。 「すごいよ、めっちゃカニだよ! カニ味が五臓六腑に染み渡って、カニビスハに深化するくらいカニだよ!」 それがほんとだったら、舞姫がシオマネキになってしまう。 「俺は味音痴なのでよくわからないが……カニ」 伊吹も食べている。とりあえず、音はカニというよりモチッぽい。 「酒は自重した。一応仕事中であるしな。どこぞの守護神と違って俺は真面目だからな」 これを五十歩百歩という。 「……あれ? なんか、おなか痛い……」 舞姫が呟いた。 この脂汗がにじむ感覚。薄れ行く意識の中、声もなく転がる伊吹を見た気がした。 こうして、イモヒツジは食用にむかず、「食ってどうにかする」ことができないことが報告書に記載されることになった。 ● もはや、口を利けるのは二人だけのようだ。 「え、ブレラヴァがない? 何言ってるの、お兄ちゃん。私のはEXPだから問題ないよ」 せめてチェーンソーが独り言をかき消してくれるのが幸いだ。 「むしろお姉様ここに居ますよね」 鼎は相槌を打っているようだが、自分の世界に浸っている。 「つまりどういう事かと言うと愛だよ、愛!」 「我がお兄ちゃんは天地と一つ!」 「鼎を応援してくれています、はい、お姉様……鼎は、まだがんばれます……!」 「うふふだから帰ったら一緒にシャワー浴びて汗流してイチャイチャしようねお兄ちゃん」 「空が青いですね、お姉様♪ あ、ちょうちょですよ!お姉様♪」 「体を動かして飲む水はとてもおいしいですね、お姉様♪」 聞いているだけでEPがロストしそうだが、ようやく行程の半分くらいなのだ。 ● 「二度はあることは三度あるが、今年もやらせん!」 日が暮れれば、いくらかは冷えるのだ。壮絶にやけど気味だが。 今年もひしめき合っていたヒツジアリ次元との接点をガツンとブレイクゲートした後。 「――今年で終わりにしたいんだ」 虎美の呻きは、みんなの心を一つにした。 「過去の痕跡を全て洗い出す!」 ごろごろと転がる荒地に這い蹲り、ヒツジアリの痕跡を黙々と探す虎美の後を夜通しついて回り、アリの巣のように張り巡らされた大規模な次元のひびをつくろって回る簡単なお仕事が展開されたのだが、それはまた別のお話である。 そして、一人のギガントフレームが倒れた。 ● 翌朝。後は帰るだけ。運がよければ、来年は来なくて済む。 「さぁ、自然環境を壊さずに帰るぞ! 熊を見かけたら即座に逃げるぞ! もうよく知ってるからな!」 晃が叫んだ。涙目だ。リアカーの上から動けない。 全身日焼けと手足のオーバーヒートでやけど状態だ。 ちょっと動くと飛び上がる痛さだ。 こうして、人は、訓練されたリベリスタになる。 「あ」 智夫が足を踏み外した。 一切のスキルを設定していない革醒者など、ただ丈夫な一般人と大差ない。 「こんなところにあった毛むくじゃらな岩のおかげでセーフでしたYO」 腹打った瞬間に透過光が必要なものをケロッピしちゃったけどカ問題ないよね。 「あれ? 何か岩が立ち上がってRU……?」 革醒者はエリューションに強いが、それ以外に手を出すのは御法度である。 「ま さ か こ れ 熊 Death か ?」 イエス、オフコース。 「たっ、たたた助けてーっ!」 おかしいな。脱走王がヒロインポジデスヨ。 「おはよ~☆」 とらは、元気に挨拶。 「帰るまでがお仕事ですよ」 アーデルハイトの熊よけベルは有効だったのに。 たー……ん! 虎美、空に向かって威嚇射撃。 「虎に喧嘩を売るとただじゃすまない」 「あああ、どうせ逃げられないなら熊肉食わせろ!!!!」 遥紀の開き直り。 イドが笑った。 「ガスが無くても、笑顔は可能です。しかし、いつ笑顔になれば良いかのデータは不足しています。今回の使用は状況と合致しているでしょうか?」 えっと、場合によっては有効。 「そうですね、帰宅するまでがお仕事ですものね、お姉様。鼎は、まだがんばれます!」 鼎の目の焦点が怪しい。 サポーターと晃は、リアカーの上だ! がんばれ、リベリスタ! 君達の戦いはこれからだ! 後、50キロくらい! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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