●冷静と情熱の間 それは、きっと愛と狂乱の果てなのだろう。 「さあ、力を持つ者達よ。その魂の輝きを私に見せてくれ!」 目前に広がる『惨劇』を引き起こした元凶、白衣の男は、心底から楽しそうに――まるで狂喜するかのようにその両手を広げた。 「素晴らしい、素晴らしいのだ。その目が! この瞬間の為ばかり、私は生きている――そう思う程に!」 熱烈なるラブ・コールは皮肉にもより純化された強烈な感情と欲望をリベリスタ達に訴えかけていた。 とあるフィクサードのアジトに踏み込んだアークのリベリスタ達は八人。リベリスタの任務は何時もと余り変わり映えはしていない。唯一例外を挙げるとするならば、『極めて危険な逸脱者』とされたターゲットが彼等を熱く歓迎している事位だ。 「んん、ンンン……! キタキタキタ、アドレナリンが上がって来るぞォ――!」 叫んだ男は年の頃四十過ぎに見える。白衣に眼鏡をかけた痩身の――如何にもインテリジェンスを感じさせる人物だが、その第一印象での感想は既に裏切られて久しくなっている。 「この人、あんまり関わっちゃいけない人だったような……」 「最初から分かっていたような」 「うん、そういう事だな」 苦笑い混ざりに呟いた『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の言葉とそれから続いた『ツルギノウタヒメ』水守 せおり(BNE004984)、『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)のやり取りは、当人同士のみならずその場に居る面々の代弁に等しかった。 予想以上にエキセントリックな人物像に面食らったのは否めない。だが、彼等は伊達や酔狂、冗談でこの事件を請け負った訳では無い。同時に敵は『決して冗句では済まない』相手である事は分かっていた。 「……いい趣味、ね」 何処まで本気か鼻で笑うように言った『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)の眠たげな瞳が剣呑な色を帯びて敵とその背後に佇む『培養槽』を見つめている。 彼が先程『生命の水』と称したエメラルドグリーンの液体の中には既に原型を留めていない『リベリスタだったもの』が浮いていた。 「そうだろう、そうだろう! 私は、此の世で君達程素晴らしいものは無いと確信している!」 天乃の軽口に感極まったかのように言った彼は、言わずもがなフィクサードだ。だが、唯のフィクサードではない。プロトアークの頃にはアークとも関わりがあったリベリスタ。『逸脱』した今となっては正義を見る影も無いが…… 「こりゃ、智親のおっさんの言った通りだな」 ……『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)は頭をボリボリと掻いて呟いた。智親によればこのフィクサード――『ドクトル』は戦いの日々の中で己が身を時に犠牲にして、仲間の為に持てる限界以上の力を発揮出来る――リベリスタに魅せられてしまったらしい。リベリスタというそれそのものに偏愛を向け、解明してしまいたいと考えたのは彼が科学者だったからなのだろう。 かくて博士の異常な愛情は彼を『逸脱』の道へと誘い込んだ。今こうして向けられる殺意の気配さえ、ミューズの囁きに届くならば、話し合い等元から不可能で不要であろう。 「世の中は広いですね……」 「ああ、だが――コイツは」 「分かっています」 『現の月』風宮 悠月(BNE001450)に、 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)が頷いた。悪趣味なだけの相手ならばこれだけの面子が用意される筈も無い。男は――『ドクトル』は、明朗快活に狂っている。狂気の深淵が何をもたらすのかを、戦士達は嫌という程知っていた。 「この退屈な世界の中で――唯一私が輝けるその時を与えてくれ!」 気付けば『ドクトル』の指には十本のメスが握られている。 背後の培養槽のクリスタルが砕け、人間だったパーツ――博士曰くの『人造リベリスタ』達が這い出してきていた。 「因果よの、業よの」 ふぅ、と溜息を吐いた 『狂乱姫』紅涙・真珠郎(BNE004921)が無造作に刃を抜く。 確かに人生は人それぞれだ。 こと性的嗜好(リビドー)ともなれば深淵も深淵。 だが…… 「生憎と、合わせる趣味は無いのでな。此方に嫌でも付き合って貰うがの――」 獰猛に笑う真珠郎は何も自分が『逸脱』から遠いとは言っていないではないか!? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月07日(木)22:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●矛盾 冷たいのに熱い。 燃え上がるように凍り付いている。 愛しているからこそ、壊したい―― 人間が人間らしく生きる時、自己矛盾は付き物になる。 「……貴方はどっち、なのかしらね……」 さて、『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)の眠い金色の瞳に映った男はそれを理解しているのか、いないのか。 「私は貴方の好みからは外れそう、だね。まあ、私はこの宴を楽しむだけ、だけど」 天乃の、八人のリベリスタの前には言うまでも無く敵が居た。 『ドクトル』の名で知られるフィクサードは、人間でありながら人間を踏み外した『逸脱者』である。 「謙遜しなくてもいい。私は全てのリベリスタを愛しているのだから!」 「余裕だな。この場を切り抜けられるとでも言わんばかりだ」 「フッフッフ! そうでもないさ。私は単にリベリスタ(きみたち)が私に強い関心を寄せている――その事実が心地良くて仕方ないだけだ。増してやそれが『君達程』のリベリスタならば言うまでも無い!」 「実際、御免蒙りたいな」 柳眉を顰めた『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の表情がいよいよ渋い。 熱に塗れた好意を向けられるのは相思相愛ならば素晴らしい経験になろうが、一方通行ならばその逆だ。 フィクサード『ドクトル』は、元々プロトアークの活動にも参加していた優秀な戦士であり、研究者でもあった。リベリスタとして当時の神秘界隈で力を振るわんとしていた彼は、不幸にもそのリベリスタに『魅入られてしまう』という逸脱により、その道を踏み外す事となった。 「いいぞ、実にいいぞォ! 諸君のその瞳は私を否が応無く昂ぶらせる!」 「オイオイ、大分極まってるな。ちっと落ち着けよ」 高らかな声に穏やかな『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が珍しい苦笑いを浮かべていた。 ドクトルの『逸脱』はリベリスタへの偏愛である。 彼は、己が生命を削り――誰かの為に運命の仇花を咲かせる事の出来る『正義の味方』をこよなく愛している。その愛が常人には理解出来ないものであろうとも、当のリベリスタ達がどれ程に嫌悪するものであろうともその事実ばかりは変わらない。彼のこの地下研究室――アジトで蠢く数多くの肉塊は彼の言う所の愛の結晶。『我が身を犠牲にしても敵と戦い抜く美しいリベリスタ』である。 「一歳のとき庭の池にポチャって革醒、水棲暦も早十五年…… 生まれて始めて、浸かりたくない水に出会ったよぉ……」 心底嫌気な口調で呟いた『ムルゲン』水守 せおり(BNE004984)の視線の先には、ドクトルの称する所の『生命の水』に満ちた巨大な試験管が存在していた。 「……うぇっぷ……」 吐き気催す光景は齢十六の少女には些かドラスティックが過ぎるもの。 その場所にたゆたう白い影はふやけた肉の塊だ。断片だ。 それは無論、パーティにとっては有り難くは無い障害足り得るものである。床の下から、天井から、或いは割れた試験管から這い出てくるそれ等は己が意志とも思えないものをそう思い込まされて、救いたるアークの面々に強い敵意を向けているのだ。 「『人造リベリスタ』……ね。 『彼等』を如何処理したのかは知れませんが……好悪別にして実際大したものです。こんな事にならなければ、或いは真白博士と共に……届いていたものが増えたかと思えば、残念でなりませんね。ドクトル」 「フィクサード、ドクトル……逸脱者か。 元リベリスタと云う事だが……やはり、今となっては、見る影も無し、という事か」 『現の月』風宮 悠月(BNE001450)の言葉を、『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)が継いだ。 二人共静かなる月のような人物だが、その声色は唯穏やかと呼べるものではない。特にその美しい面立ちに、薄い唇の端に幽かな笑みに似た色を乗せた悠月の瞳は凍り付かんばかりの冷たさを帯びている。 「……こんな姿にされて、気分いいわけないよね」 ポツリと呟いた『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の大きな瞳に憐憫の色が揺れた。 (だいじょうぶだよ。みんな、きっと取り戻すから――まってて……!) 唾棄すべき狂気に話し合いの余地はあるまい。故に旭はその手に力を込めて構えを取った。 許せる悪等厳密には無いが、悪にも悪徳にもより重篤な――優先順位が存在する事は否めまい。このドクトルという男は、旭が――面々がリベリスタである以上、最も許してはいけない類の狂気を隠していない。 「……流石に敵の本拠地だぜ。気をつけろよ!」 リベリスタを決して過小評価しないドクトルは、『こんな時』の為に周到な準備をしていたようだ。フツが読み取った周辺の記憶は『凡そ見たくない映像』に塗れていたが――彼の気分の悪化を代償に、存在する罠の幾ばくかの看破には役に立った。 「相手が相手だ、これはいいデータ収集になるぞォ! 何より、君達程のリベリスタが私の新たな『仲間』に加わってくれるとあらば――これに勝る喜びは無い!」 「あー、いい加減、実現不可能な御託は結構じゃ」 狂喜を見せるドクトルに冷たく釘を刺したのは無銘の太刀を抜いた 『狂乱姫』紅涙・真珠郎(BNE004921)だ。 「『逸脱者は殺す』。重要なのはそれだけじゃ。そこに何かが入る余地はない。 まぁ、例外が無いではないが、大抵において、例外は我の『好みにあう』わけじゃからな。いずれ死ぬ」 麗しい外見とは裏腹にまさに魔獣の獰猛と呼ぶ他は無い――苛烈な笑みを見せた彼女は言う。 「それに元より――ヌシは例外にはならなそうじゃ。故に疾く死ね」 ●乱戦 「いちいち――その臭いが鼻につく!」 猛々しい一声と共に両手の得物に闇が蟠る。 薄暗い空間にハッキリとした黒を抱いたのは、宣戦布告冷めやらぬ真珠郎であった。 鋭い呼気と共に彼女が繰り出した切っ先が指し示したのは、ドクトルを中心に据えた前方の空間だ。 (さて、どう出る――?) 目を細めた彼女が放った暗黒の瘴気は、敵側の動きを見極める為のまずは小手調べといった所だ。高笑いと共に白衣を翻したドクトルの賞賛の言葉(ざつおん)を聞き流し、彼女の目は状況だけを射抜いていた。 これは、元より交わる筈も無い御釣りが来る位の平行線同士である。 物騒な挨拶は程々に――かくて戦いの火蓋は切って落とされた。 リベリスタ側は何れも精強だが、一方でこれを迎え撃つドクトルは言わずと知れた『逸脱者』。彼の『仲間』としてアーク側に立ち向かう『人造リベリスタ』も甘く見る事が出来る戦力ではない。 果たして真珠郎の技を受けた人造リベリスタ達は仲間の受けたダメージに己が能力の増強を開始していた。彼女の一撃は半ばそれを確かめる為に放たれた牽制ではあるが、その即応性にパーティの緊張が強まる。 「確かにこれは……酷い臭いだね」 半ば嘯くように言ったせおりの小鼻が小さく動く。 素早く動き出した彼女は異能めいた嗅覚を持ち合わせているのだが…… 平素の空間ならば隠された何かの看破に役立つ『猟犬』の超感覚が、この空間では却って辛い。彼女自身をして「浸かりたくない水」と言わしめた生命の水が嗅覚情報を塗り潰しているのだ。 (でも――!) その全身に誇りを漲らせ、熱い魂を激しく燃やしたせおりは構わぬとばかりに猛烈な勢いでドクトルへの道を塞がんとした人造リベリスタを弾き飛ばした。 連携は止まらない。 「これ以上、お前の犠牲者が出る前に……事を済ませる! その為に俺達は日々、力を蓄えているのだから――覚悟しろ、ドクトル! 貴様の凶行もこれまでだ!」 「リベリスタ、新城拓真」。名乗りの口上を上げた拓真がリノリウムの床を蹴り上げる。『誠の双剣』の由来――変則二刀流は、彼の気質には不似合いな邪剣とも言える。しかし、その技の冴えは幾度目も死線で磨き抜かれた最高の鋭利を秘めている。 「――邪魔だッ!」 一喝と共に放たれたのは邪道の一、Broken Justiceが吐き出す弾幕だ。 「そして、潰す――」 間髪入れずよろめいた正面を真っ直ぐに断ち斬る最高の一撃は、正道の二。全力全開の斬撃である。 流石にこの連続攻撃には耐え切れず、人造リベリスタが一体木っ端微塵に吹き飛ばされた。だが、理知的な瞳の奥に狂気を宿らせたドクトルは『仲間の死』に頓着していない。 「これが……A級リベリスタの力……!」 彼のカテゴライズした『A級』の意味は、パーティ側には分からなかったが…… 研究者特有の尊大――モルモットか何かと見られているかのような不快感は否めない。 「……何級、とかは……良く、分からないけど……」 小柄な体を低くして、跳んだ天乃が壁を蹴る――否、垂直の壁を水平に『走る』。 障害物の多い室内での戦い、不測の事態の予測される敵本拠地での戦いは、彼女にとって望む通りのものだった。彼女の鋭敏は五感は総ゆる方面から異変を探り、彼女の踏破能力は不安定な戦場を己の庭に変えるもの。 (まずは――減らす――) 人造リベリスタの性能を考えれば、面にダメージを与えるよりも点を撃破する事が肝要と見る。 天性の戦闘センスを見せた天乃は囲まれぬように注意を払いながらも、大胆不敵に近接攻撃でのターゲットに取り難い天井近辺の敵複数に神速の打ち込みを連打した。 (流石にやりますね。このまま簡単に済む相手とは思えませんが……) 派手に躍動する前衛の後ろで魔力の障壁を張った悠月が冷静に戦場を見回した。 ドクトルの性能が物理に寄っているとするならば、自身が敗れる道理は無い。前情報が何処まで確実に役に立つのかは微妙な所とは見るが、魔術師でありながら壁としても機能する彼女は前中衛の楔になろう。 リベリスタ側の攻勢は見事なものだったが――ドクトル側も黙っては居ない。 「私は諸君等を心の底から愛している。だが、簡単に敗れる心算は無いのだよ。『愛しているが故に』ね!」 朗々たるドクトルの声が研究所内に反響する。自信家の彼が空中に生み出された神秘のコンソールを見えない速度で連打すると――痛んだ敵陣が見る間に立て直されていくのが分かった。 その上。 「……成る程、そう来るか」 悠月の呟きがやや乾く。 傷を癒した人造リベリスタの戦闘力は向上したまま低下していない。 仲間がダメージを受けた事による強化が永続かどうかは分からないが、少なくともダメージ按分に応じて強くなるという効果でない事はこれで確実になったという事だ。 つまる所――『とっとと片付けないと詰みかねない』状況が明らかになったという話である。 人造リベリスタ達がそれぞれに動き出し、パーティの面々を傷付けていく。 純然たる個の戦闘力ならば、リベリスタ側が勝るが……難敵は時に戦闘能力のみを武器にしないものだ。 「どうだね、私の仲間達は! 友情の力は!」 「愛ってそういうのじゃないと思うんだけどな! ゆとりの私でも分かるよぉ!」 「これが仲間だと? 笑わせるな、意思も何も無い人形じゃないか……!」 ドクトルに抗議めいたのはせおり。拓真も怒りを隠せない。 「……そんな一方通行の関係、仲間なんていわないよ!」 煽るかのような台詞に純粋な怒りを燃やし――歯噛みをした旭が猛烈な勢いで敵陣前方に飛び込んだ。 赤いドレスを纏うかのように火炎を帯びた少女の体が強烈なインパクトで敵陣を崩壊させた。 打撃を受けて小さく呻いたドクトルに、伝わらないと分かりながらも彼女は敢えて声を張る。 「あなたはこのひとたちから不当に略奪して、おもちゃにしてるだけ。 ただの被害者と、加害者! 本当の”仲間”ってゆーものを、しっかりその目に焼き付けるといーの!」 口元を歪め「見解の相違だな」とだけ応えたドクトルは堪えていない。 戦いは続く。比較的狭小な戦場に乱戦めいた状況が起きれば、状況は目まぐるしく変化していく。 旭の放つ生命の激励がパーティの体力を賦活する。 リベリスタ側の被害は否めない。だが、彼等は少しずつ状況を望んだ方向へ寄せていく。 ドクトルの放つ刃の風が周囲を切り裂く。 しかし、これを涼しい顔で弾き飛ばしたのは読んでいた悠月である。 「……っ! これは」 「無駄です。通じません――」 「ならば……!」 「……やれやれだ。仏の顔も三度までらしいけどな」 開き直る悪徳の塊に呆れたのは恐らくフツだけではあるまい。乱れたリベリスタ陣内の隙を突き、悠月に鞭のような呪いの肉塊(した)を伸ばさんとした異形を間一髪フツの紡いだ呪印が縛る。 「南無三、こんなのいよいよ救われないぜ……!」 ギリギリと敵を締め上げる呪印を繰るフツの顔にも強い忌避が浮かんでいる。 リベリスタ達は、リベリスタが何なのかを誰よりも知っている。今、こうして『生きているか死んでいるかも分からない化け物』に成り下がった彼等に生活が、正義が、愛があった事を知っている。やらない訳にはいかないが、『彼等』が苦痛の声を上げる度、こみ上げるものがないかと言えば嘘になろう。 「つまり、元凶が――お前が全部悪い。 馬鹿の考え、休むに似たり。少し落ち着くといいんじゃないか? ドクトル」 乱戦にダメージを受け始めたドクトルを庇うように動き始めた人造リベリスタを杏樹の放つ面火力――インドラの矢が薙ぎ払う。リベリスタ側には各個撃破と火力総計を上げるという二つの手段が存在している。各個撃破は数を減らす事で向上する敵の総戦力を減らすという考え方。火力総計を上げるのはその逆で――短期的に敵陣を強化しても一気に押し切るという考え方だ。 戦い慣れたリベリスタ達は状況に合わせ、自在にその手段を変えていた。必要不可欠な考え方は『長期戦に付き合わない』という一点のみ。如何に素早く敵を破壊するかは本戦のまさに命題になろう。 ドクトルの仕掛けた罠も、これに十分な注意を払っていたフツや天乃等の網は抜けない。 広域な探査能力を敵陣に持ち込んだ彼等は『ソレを逃がす心算がまるで無かった』。 「それが、諸君等の『絆の力』なのか?」 「さあな」 感嘆の声を上げたドクトルに杏樹が肩を竦めた。 「だが、もしリベリスタが限界以上の力を発揮出来るとするなら、私の答えは一つだな」 熱に塗れた戦場で此の世の痛みを知るシスターが言う。 「私達は往生際悪くて諦めが悪いんだ。絶対に譲れない一線があるから」 届かない声を絞り、シスターは問う。 「――お前達はコイツを仲間だと思うのか? 背中を、命を託していいと思っているのか!」 おおおおお…… 天井の、床の、張りつき、這い蹲った肉塊達が声を上げる。 低く、重く、呻くような声の正体と意図をリベリスタ達は察する事が出来ない。 されど、この世にまだ救いがあると考えるならば――それは助けを呼ぶ声にも聞こえた事だろう。 「お前はここで止める。ねじ伏せる。その狂気、地獄で反省しろ」 杏樹の言葉は強い断罪。 「仲間、仲間と小煩い。ヌシが見てるのは、所詮、己の中の理想像に過ぎぬ。自己愛も甚だしいわ!」 やや守勢に回ったドクトルを「まだるっこしいのは十分じゃ」とばかりに飛び込んだ真珠郎が押し込んだ。 彼女に言わせればそんな言葉は詭弁に過ぎない。求め合う位ならば、喰らい合う程で無ければ! ざわつく赤の瞳が殺意に揺れている。 (憎い。持つ者が憎い。得た者が憎い。望むがままに手に入れた奴らが憎い。 故に堕とす。我と同じ『底』までの。落す。堕とす。ただ堕とす――!) 続け様に繰り出される刹那の切っ先は獲物の命を刈り取らんとする魔獣の爪牙。 「よっしゃ、ヤル気が出てきたぜ。ちゃんと線香はやるからな!」 魔槍深緋を振るうフツの槍術が乱戦を赤く切り払う。 「さあ、私と踊って……?」 何処か艶やかな笑みを浮かべた天乃が戦場に死の影となる。 「新城! そっちにふっとばすから気をつけて!」 「……ん、新城、仕掛けて」 ここで見事に連携を組み上げたフツと天乃のアシストに吠えた拓真が応えて躍動した。 「貴様のその愛が偽物だとは言わんよ、だが少なくとも俺はその愛を許容しない! その様な愛を……認めてたまるものか!」 奥底から絞り抜いた大渇が破滅的な威力でドクトルを叩く。 同じく。月影の魔道衣が翻る。間合いを見事に奪い去った悠月の虚無の手が、 「目には目を、歯には歯を! こっちにもこの――『蒼褪めた月のミゼリコルデ』があるっ!」 体を預けるように前がかりに飛び込んだせおりの渾身の刃が、彼を追撃する。 「……かぁ、しかァッし……!」 崩れかけたドクトルが辛うじて距離を取った。 極彩色の液体を湛えた注射器を己が右腕に突き立て、人間のものとは思えない咆哮を上げた。 ――フッフッフ! 私の真の力はこれからだ。 それにダメージは十分に蓄積したぞ! これで我が仲間達は―― 膨張した筋肉で白衣を吹き飛ばしたドクトルは自信ありげに言う。 言ってから、残された――半減した人造リベリスタを眺め、首を傾げた。 ――想定戦闘値に届いていない。何故、私がこれだけ傷んだのに―― ドクトルに確かな焦り。 戦闘力の向上がこの程度では、状況は計算の外になる。 望まない計算の先にあるのは……あるのは! 「だから言ったじゃない」 肩で息をする旭が言った。 「そんなのは、仲間じゃない。皮肉だね、貴方は貴方の設計通りに彼等を作ったから――」 ――理屈通りに裏切られたの。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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