● ママさんが近所の人との長話してる間、正太郎と言う名の男の子は何時も退屈しどおしです。 でも今日は違いました。 「てーへんだてーへんだ!」 と、二足歩行のうさぎが空き地の方へと駆けて行くのを見たからです。 「ねーねー?」 「一寸待ってね。それでね、あそこの旦那さんったらね……」 不思議に思った正太郎君は、ママさんに尋ねようとしますが、何時もどおりママさんは役に立ちません。 これがパパならとも考えましたが、パパさんはパパさんでやっぱり大体役に立たないので正太郎君は考えるのをやめます。 困った風にママさんと走って行くうさぎを見比べた正太郎君ですが、結局ママさんの長話よりもうさぎの方が面白そうだと判断し、その小さな足を懸命に動かしてうさぎを追いかけだしました。 けれどうさぎの走る速度はとても速く、正太郎君が不思議な図書館の様な場所に着いた時、その姿はもう何処にも見当たりません。 「うーん……」 でも正太郎君は諦め先ずに、図書館の中に勝手に入って探しました。友達とのかくれんぼでは、何時も皆を見つけ出して『体は子供だけど頭脳は大人の名探偵』と呼ばれる正太郎君から逃れよう等は無駄無駄無駄ぁなのです。 それに正太郎君は嘗て自分の家の猫達の起こした事件で、不思議な出来事には首を突っ込んだ方が楽しいと言う事を経験で知っていましたし、何よりもさっきのうさぎが何か困っているのなら力になってあげたかったのです。だって正太郎君は動物が大好きでしたから。 なのにうさぎは何処にも見当たりません。 正太郎君は首を捻ります。鋭すぎる正太郎君の直感ではこの図書館のどこかにうさぎが居る筈なのに、一体何故見つからないのか。 しかし流石に名探偵、正太郎君は首を捻った際に机の上になにやらいかにも怪しげな古い原稿の束が置かれている事に気付きました。 そしてその原稿の束の1枚目には、小さな、そう、先程見かけたうさぎにそっくりなイラストが描かれていたのです。 好奇心にかられ、字も満足に読めない筈なのにその原稿をめくり始めてしまった正太郎君の耳に、カラーンと鐘の音が1つ聞こえました。 ● 「…………once upon a time.」 重い溜息を1つ吐き、フォーチュナ『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)はリベリスタ達にそう告げた。 once upon a time、物語の始まりに使われる言葉。日本語で言うならば、そう、むかしむかし。 「梔子・言葉(くちなし・ことば)は才能ある女性だったそうだ」 けれどもその才能は当人が望む其れとは違い、神秘の世界に属する、付与術師、破界器作成者としての才。 そしてその神秘なる力と引き換えにしたかの様に、彼女が真に必要とした、作家としての才には恵まれなかったのだ。 「梔子・言葉は己が脳内に異なる世界を抱き、けれども其れを外に、紙の上に再現出来ず苦悩し、そして苦悩に満ちた文字列は彼女の意図とは関係無く怪現象を引き起こす」 いっそ歪んでしまえば楽だったのだろうけど、其れすら出来ぬほどに彼女は優しく、何より己が脳内に宿る世界を愛していた。 筆を折る事よりも命を絶って、己の世界と添い遂げた彼女が廃棄しようとしても仕切れず遺してしまった未完成の原稿がある。 「梔子・言葉の廃棄原稿と呼ばれるアーティファクトの1つに、一般人の少年、私の幼い友人でもある正太郎君が囚われた。彼の救出を依頼したい」 資料 梔子・言葉の廃棄原稿の1つ『鐘の鳴る故郷へ』は未完成の原稿であると同時にアーティファクトであり、読者を物語の世界へと取り込む。 鐘の鳴る故郷への内容を掻い摘むと、 故郷を出、町へと出稼ぎに来ていた主人公の元へ、実家で飼っていた兎がやって来る所から物語は始まる。 主人公にどうしても伝えたい事があった兎は頑張って二足歩行と人の言葉を会得していた。 兎が主人公に伝えたかった事は、主人公が故郷の村で恋をしていた隣家のお姉さんがもうすぐ結婚をしてしまう事。 故郷の教会にある鐘楼の鐘が7つ鳴って結婚してしまう前に主人公をもう一度お姉さんに会わせたいと兎は言う。 とは言え故郷への道は平易では無い。大きな川を面倒臭がり屋のカバに何とか協力してもらって渡り、迷い込んだ森でお腹を空かせたクマと追いかけっこをし、道を塞ぐ大きな黒鳥を歌って宥め、主人公は迫る時間に追われながら兎と協力して故郷を目指す。 但し此の原稿は未完成の為、お姉さんの結婚が望んだ結婚であったのか否か、主人公は何の為に故郷を目指したか、そして結婚式へと辿り着いての結末は、全て書かれて居ない。 梔子・言葉の廃棄原稿に囚われた者が開放されるにはその未完を埋めて物語を終らせる必要がある。物語の参加者として。 「正太郎君は恐らく今物語りの主人公として故郷を目指しているだろう。しかし、彼1人では到底障害を乗り越えて故郷に辿り着く事は出来ないだろうし、エンディングを作り出すのも不可能だ」 逆貫がリベリスタ達に差し出すのは原住に封印された大きな封筒。 そして勿論その中には、正太郎が今も囚われる梔子・言葉の廃棄原稿が納められている。 「物語が完成すれば廃棄原稿は人を取り込む力を失い、唯の紙切れとなる。物語の世界では諸君等の異能の力を十全に発揮する事は難しいだろうが、頼む、それでも正太郎君を救えるのは諸君だけだ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月11日(月)22:26 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 「坊ちゃん、坊ちゃん! おきてくだせえ。早く教会を目指しやしょうよ」 「んー、あとごふん・・・・・・?」 ゆさゆさと身体をゆする兎を抱きかかえて動きを封じてしまう正太郎が眠るは、同じく寝ているカバの背中。 良く判らないままに物語りに取り込まれ、兎の言う通り街から此処までテクテクと歩いてきた正太郎ではあったけど、元々彼にゴールである教会を目指す理由は特に無い。 だって隣のお姉さんの結婚式とかいきなり言われてもピンと来ないにも程がある。 そんなモチベーションの低かった正太郎の前に寝ているカバさんが現れたなら、当然其の背に乗りたくなるし、其の背中が思った以上に暖かかったなら襲う眠気のままにお昼寝するのも当然なのだ。 尤も現実のカバさんはワニもびっくりの凶暴な猛獣なのでこんな事をしてはいけないけれど。 縄張りに侵入されて怒ったカバさんはワニをも噛み殺すし、人間の乗ったボートだって猛然と追いかけてくるのだ。 見た目通りに穏かなのはあくまで物語の中だから。 「正太郎ちゃんって、巻き込まれ体質なのかしら」 そんな光景に呟いたのは正太郎をこの物語の中より救出すべくやって来たリベリスタの一人、『星辰セレマ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)。 以前に正太郎が巻き込まれ、エレオノーラ達リベリスタが解決する事となった幾つかの神秘事件を思い出しながら、彼の身体を揺する。 しかし自分の置かれた状況も理解せず、大胆にも昼寝を決め込むとは随分とふてぶてしくなった物だとふと思う。勿論何もわからぬからこそ無邪気に己は大丈夫だと思い込めるのだろうけど。 それにしても最初の頃は飼い猫が一匹居なくなっただけで随分と泣く子だったのに、もしかすれば妙な影響を与えたのだろうか。 「正太郎様、おはようございますぅ!」 「君の旅にご一緒していいかな?」 億劫そうにカバの背で身体を起こした正太郎に、『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)と『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の声が重なる。 正太郎は目元をこすりながら、妙な事があった時にだけ遊びに来て何とかしてくれる年上のお友達の顔を確認し、 「うん!」 花が咲くように、顔を綻ばせて笑顔を浮かべた。その内心でやっと来たのかと思いながら。 ● 正太郎に合流したのはエレオノーラ、雷音、ロッテの、顔見知りである為に役作りしても無意味になってしまった3人だけでは無い。 1人は神様に腕を猿に変えられてしまった旅人、マントを深く被って少しミステリアスを装った……、けれども猿の腕に大喜びした正太郎に腕に纏わりつかれてキャラが保てなくなりそうな未来の見える『銀の腕』守堂 樹沙(BNE003755)と、 「はじめまして! パンくずの妖精のとらだよ☆ お祝い事なら祝福しなきゃだよね、君に着いて行くね♪」 パンくずの妖精である月杜・とら(BNE002285)も一緒だ。いや、パンくずの妖精ってなんだよ。 「パンくずの妖精というのは、パンくずの妖精でつ。手に持っているのはおからだよ。でもこれは君にはあげられないな」 うん、わからない。不思議存在の設定を纏った不思議ちゃんの登場に、普通ならば戸惑うより他無かっただろう。 けれども相手は幼稚園児。未だその辺に精霊やら妖精やら神様が見えて、クリスマスにはサンタさんが来てくれる事を疑わないお年頃だ。 パンくずの妖精がチャイコフスキーから来たのか、或いはヘンゼルとグレーテルから来たのかは判らないが、正太郎はとらの存在を素直に受け止める。ちなみにパンくずの妖精の天敵は多分鳥。 兎に角、折角人数が増えたのだからそろそろ出発したい所だけど、其の為にはカバさんに何とか河を渡して貰わなければなら無い。 つまりは漸く本筋である。 先ずは交渉と万象疎通や動物会話で動物と意思疎通をはかれる雷音やロッテがカバさんに対して話しかけるが……、しかし正太郎やリベリスタ達が周囲で此れだけ騒いでも無反応、もとい眠りを覚まさなかったカバさんが話しかけられた程度で起きよう筈がない。 ではさてどうしようかと、正直リベリスタ達ならその実力を発揮する事さえ出来れば、其の行為に説得力をつけられたなら、川位はカバさんの力を借りるまでもないのだけれど、一応お話のスジには沿う方針なのだ。 そしてその時だった。おーをっほっほっほっとライトなアーマーを身に纏ったいかにも悪役っぽい格好をした一人の女が現れる。 「おやおやぁ、賢そうな兎と坊やじゃないのぉ? 冬物バッグにうってつけなその兎の毛皮、引っぺがして寄越してくれるならぁ、貴方の望みを叶えてあげるわよぉん♪」 「あ、すていしーさんだー」 例え多少の変装を施そうとも其の強烈な個性は隠し切れずに正太郎に正体を一発看破されたのは、物語の世界へとやって来たリベリスタ最後の一人、『肉混じりのメタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)。 恐らく容姿や喋り方の個性と言う意味ではまだ幼く狭い世界しか持たぬ正太郎の知り合いの中ではぶっちぎりに濃いのがこのステイシーなのだから、見間違う筈がない。 まあ正太郎の友人の篤志君はそんな濃いステイシーをおばさん扱いした猛者だけど。 「ち、ちがうわよぉ! ふん、そんなわけの判らない事を言う子は食い物でも恵んでくれない限り動けないこのカバに通せんぼせれてぇ……、立ち往生するがいいわよぉ!」 酷く具体的なアドバイスを捨て台詞として残して立ち去るステイシー。今回の立ち位置はどうやら意地悪な様に見せかけてヒントを出すツンデレさんの模様。 しかし物語の魔女の様に魔法で一瞬で退場出来るなら兎も角、ヒントを出した後に駆け足で退場して行く後ろ姿は何処か物悲しい。 「な、何か親切?な人が教えてくれたし、色々やってみましょう」 取り成す様なエレオノーラの言葉に、パンくずの妖精こと、とらが手に持ったおからをカバさんの鼻先でアピールする。カバっておからが好物なんだね。知りませんでした。 ふごふごと豪快に動くカバさんの鼻面。 「カバさん凄いって聞きました! 川の水全部飲み干しちゃうとか、うちらこれから結婚式出席するんで、景気づけに是非見せてくださーい!」 好物でカバの注意を惹き、さらに煽てるパンくずの妖精。でも流石に其れは無理かな。ていうか川飲み干したら其のあとカバさん干からびるんで勘弁してあげてください。 「ではせめて対岸まで乗せていただけませんか?」 「代わりに願いを聞くのですぅ! どこか痒い所とかありますか? ナデナデもするのですぅ!」 次いでの交渉は樹沙とロッテ。 人は一度申し出を断ると、二度目の申し出を断る事に抵抗を覚えると言う。故に一度目はあえて少し無茶気味の願いを、そして2度目に本命を。 とらと樹沙が其れを意識した訳では無いだろうけれど、物語のカバさんも2度目の比較的まともな願いを断るのは少し心苦しく感じてしまう。 だって食べ物貰ったし、未だ何も言ってないのにロッテは体の痒い所を探して掻いてくれるし。 そうして、カバさんは面倒臭げに首を大きく振り、ざぶりと川に身体を躍らせた。 カラーンと遠くで鐘が鳴る。 ● 森の中を進む一行。 それにしてもテンションの上がった子供と言うのは何故にこうも足が速いのか。コンパスは短いくせに。 正太郎は握った樹沙の猿の手をぐいぐいと引きながら上機嫌で先頭を歩く。 もっと大きく成長すれば、小学校の高学年位にもなれば異性と手を繋ぐと言う行為に気恥ずかしさを覚えるようにもなるのだろうが、幼稚園児にそんな忌避感は無く、寧ろ人ならざる銀色の腕に少しでも触れていたいらしい。 だが正太郎がそちらに夢中になると、少し浮き気味となるのが二足歩行の兎だった。 悪役のステイシーを除くとしても、『自分が引き込んだわけでない』突然現れた5人もの見知らぬ人間に囲まれたなら戸惑いが生じるのも当然だ。 無論彼等が旅に協力してくれる事を疑う訳では無く、まあ要するに少し人見知りが発動してしまった訳である。 「兎君も、かのお姉さんのことが好きなのかな?」 兎の様子に、少しでも打ち解けんと、少しでも彼の緊張をほぐしてこの旅路をより良い物にと話しかけるは雷音。 耳をピクピク動かして、頷く兎に、けれど話を隣で聞いていたエレオノーラに疑問が1つ沸く。 「お姉さんってどういう人? 美人なのかしら」 けれど其の疑問に、巻き込まれただけで主人公になってしまった正太郎は当然にしても、何故か故郷のお姉さんを知る筈の兎もが答えに窮する。 何故なら兎の中には故郷でお姉さんに可愛がって貰ったという『設定』は入っていても、お姉さんがどんな人かという記憶は存在しないから。もう少し正確に言うならば、お姉さんが登場する筈だった結婚式のシーン以降が描写されていないこの物語内に故郷のお姉さんはまだ存在しないのだ。 原稿に記されたお姉さんは、其の1枚に作者が落書きした手書きの挿絵が、それすらも未完成でしかない1つのみ。 この世界にお姉さんを作れるだけの材料は足りない。つまりキャストが足りて居ない事が、万一正太郎が1人でゴールの村に辿り着いても彼だけではエンディングが創れないと断言された所以なのだ。 しかしその時、答えに窮した兎に対する助け舟の様に次の事件は起きる。 おーをっほっほっほっと森の奥からどんどんと此方に近付いて来る高笑い。その高笑いは何故か何処か割りと必死で、途中で咳き込みが入りながらも一行の前に現れたのは、 「この森に住んでる熊はしつこく追いかけてくるわよぉん。逃げ切れるかしらぁん? ……ごめん、熊連れて来ちゃったわぁ」 物語には似付かぬ、口の端から涎をダラダラと垂らしたガチな熊に追いかけられた悪役ことステイシー。 先回りして森に侵入していた為に熊に遭遇し、一行がやって来るまで逃げ続ける事になった彼女は実際既に顔色が大分悪い。 つまり先程の台詞は紛う事無く実体験からのアドバイスなのである。 「お腹が減っているのなら、このはちみつはどうかな? 君の口にもあいそうかなと思う。お腹がいっぱいになったらこの迷い森の出口を教えてもらえると嬉しい。……あと出来れば、ステイシーも見逃してあげてくれないだろうか」 「出来ればじゃなくて確実に見逃してあげてくれって言って欲しいわぁん」 けれど慌てず騒がずに、熊を刺激しないように持って来た蜂蜜を差し出した雷音に熊が其の動きを止め、命拾いしたステイシーがその場にへたり込む。 雷音の蜂蜜以外にも色々な食べ物を予め持参してきたリベリスタ達。備えあれば憂いは無い。 熊の来襲を難無く切り抜け、そうすれば見えてくるのは森の出口。そして出口の脇に見えた小さな花畑に、 「手ぶらじゃ何だし、お姉さんに花を摘んでいこう!」 思いついたとらが提案する。それに思い至るとはパンくずのとは言えど流石妖精だ。 出来上がったのは小さな花束。鐘の音が今までよりもずっと大きく近く聞こえる。 故郷の村はもうすぐだ。 ● 「ぎえぴー!」 リベリスタ達の歌声に故郷への最後の障害、黒の巨怪鳥は寝た。実にあっさり、盛り上がりも無く。 だって『ねんねんころりよおころりよ』とか歌われたら寝るしかないではないか。 取り立てて音痴が居る訳でも無く、それこそ幼稚園児の正太郎だって知ってる、ママさんに歌ってもらった事のある子守唄なのだ。 そりゃ寝る。誰だって寝る。膝枕とかあったら尚良い。誰か膝枕してください。 パンくずの妖精を名乗ったとらが啄ばまれかけるトラブルがあった程度で何ら問題なく黒の巨鳥をクリアした一行。 エンディングが待つ村はもう目の前だ。実際尺も残りが少ないし。 カラーンカラーンと鐘の音が大きく聞こえる。 のどかな村。林業や牧畜で生計をたてていそうな、明らかに日本とは違う何処かの小さな村。 村の真ん中を通る道の最後から其の鐘の音は、村の真ん中を通る道の最後に其の教会は一行を待ち受けていた。 結婚式に並ぶ観衆なんて居ない。物語に描かれていないから。 お姉さんと結婚する新郎も居ない。描かれる事無くこの原稿は廃棄されてしまったから。 終われない、閉じる事の出来ない、未完成で不完全な、誰にも必要とされなかった物語。 開かれた教会の其の奥の、赤いカーペットの終点には、一枚の原稿用紙が待っていた。 決して上手くなく、作者がかたまらないイメージを形にせんと戯れに、それでも苦心して描いた一枚の、落書きの様な挿絵の載った原稿用紙。 誰もが理解する。アレがお姉さんだと。 この物語を終わらせてくれる人を……、否、この物語を体験してくれる読み手を求めて待ち侘びた、寂しがり屋の『梔子・言葉の廃棄原稿』であると。 「ねえ、おめでとうって言いに来たのよね?」 エレオノーラが軽く正太郎の肩を叩く。さあエンディングを迎えようと。 樹沙が正太郎の手を離す。其れは主人公に選ばれた正太郎が成す事だから。 「正太郎、君にしかこの物語の終わりを作ることができない。頑張ろう」 「正太郎様、寂しいですけど、夢はもうすぐ終わりなのです」 雷音が頷き、ロッテがファイトとポーズを取る。 悪役のステイシーは教会の扉の外からハラハラしながら見守っている。いやもう合流しろよ。 そしてパンくずの妖精のとらが持っていた小さな花束を正太郎に渡し、兎と並んで正太郎は赤いカーペットの上を歩いて行く。 促されたからだけじゃなく、そうしないといけないと思ったから。 楽しかった一寸した冒険ももうすぐ終わり。だから、 「ありがとう」 其の言葉と共に差し出された花束に、挿絵のお姉さんの顔が嬉しそうに、本当に嬉しそうに微笑んで……。 この物語は終わりを迎える。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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