●愛して欲しいと叫んではみるのだけれど 様式美のようなもので、恐怖物語の始まりとは形式が決まっている。 即ち、遭遇するか、追いかけられているかだ。 今回も王道に則り、見出しは決まっているのであるが。ここにだけ登場する某には誠に申し訳なく。 前者である。 「わたしきれい?」 これもまた様式美。この台詞から連想されるのはひとつであると言えるほどの、有名な都市伝説。 しかし、思うのだ。件の彼女は見目麗しい人物であり、殺人性と頬が裂けていることを除けば何ら問題ないのではないか。その殺人性にしても、逃げた男を追い回すだけだというならば、受け入れてやればよいのではなかろうか。 なんて。独り身の妄想だと自分に苦笑する。そうだ、そんなものがいるわけがない。目の前で背中を見せる彼女にしたって、何かの悪ふざけに過ぎないのだろう。 見たところ、女子高生。後ろ姿だが、制服姿であるのだからそうなのだろう。黒いセーラー服というのは、些か古めかしくは思うけれど。 まったく、見ず知らずの男をからかうだなんて。この年頃の子は皆、怖いもの知らずなのだろうか。舐められているのだろう。そうは思うものの、それで手を挙げるような自分ではない。温厚は美徳である。 せっかくだ、この子供心(乙女心ではないだろうさ)に付き合ってやるのも悪くない。あわよくばお近づきに、馬鹿な。相手は子供だ。変な打算を考えるだなんて大人のやることではない。 一瞬頭をよぎった下卑た妄想を封じ込めて、咳払い。一言、伝説通りのそれを返してやるだけでいいのだが、妙に緊張する。そういえば、子供とはいえ女性と話すだなんて何時ぶりだろうか。 「綺麗ですよ」 変に上ずった声が出た。自分が情けない。こんなだから舐められるのだろうな。 「これでも?」 そぉら来た。どうしようか。笑って綺麗だと言い返す? 気障だ。自分には出来ない。慌てふためいたフリをして逃げてあげる? それも奇妙な話だ。どうしようかと思い巡らせながら。ゆっくりと振り返った彼女の顔を見て。 男は、声もなく立ち尽くした。 化け物。化け物だった。 口が裂けてはいない。薄く紅を塗った、美しいものだ。人だ。ヒトの形をしている。それでも、彼女は化け物だった。眼球が、化け物だった。 細胞分裂を繰り返した卵子を想像して欲しい。その細胞ひとつひとつに瞳が浮かんでいる。動物的複眼、とでもいうべきなのだろうか。今はその瞳が、それぞれが全て、彼の方を向いていた。 言葉も無い。本当に、本当に、なんだこれは。なんなのだこれは。 「ねえ、綺麗?」 近寄るなと言いたい。来るなと叫びたい。でも、声は出ない。恐怖に竦んでこの身は動かない。意識が虚ろになって、彼女の姿がだぶっていく。二重に、三重に、多角的に、あらゆる方向から。待って。どうなっている。ねえ、なあ、自分は人間の眼球をしているのだろうか。 彼女はにんまりと笑うと、何やら口をもごもごと動かした。そして、舌を出す。赤いものが垂れている。どうやら自分で自分の舌先を噛んだらしい。 血が、滴り落ちる。最早触れ合うほどの距離にまで近づいている彼女の舌先から、自分の唇へと赤いそれが滴り落ちる。 途端、嘔吐した。びちゃびちゃと、ぼとぼとと。夕食もまだな自分の胃には何も入っていないはずなのに。胃液とともに溢れ落ちる。吐き出す。吐き出す。丸い。柔らかい。硬い。眼球。眼球をいくつも、自分は吐き出している。 「ねえ、綺麗?」 答えられない。答えられるものか。彼女が抱きしめてくる、柔らかい。こんなところばかり人間のようなのか。嗚呼、嗚呼。気持ち悪い。気持ちが悪い。こんな。こんな目に合うならば、狂った方がマシだというのに。 どうして。どうして。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月07日(木)22:07 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●見出しだけで分かった気になって 昔から、自分の両目だけは気に入らなかった。みんなみんな、私を可愛いと綺麗だと言ってくれるのだけれど。どうしてもどうしてもこの両目だけは気に入らなかった。どうにも不完全に思えた。この世で一番醜いものに思えてならなかった。何度これらを潰してしまおうと思ったかわからない。でもできやしない。誰だってそうだろう。見えなくなるのは怖い。怖い。 熱帯夜。寝る間際でさえも冷房の欲しくなるこの季節。幼子であれば就寝時であろうが、汗の染みこんだ衣服が地肌にべっとりと張り付いて気持ちが悪い。記録的猛暑、なんて言葉は聞き飽きてきた。氷河期でも何でもくればいいのにと、この既設になれば例年のように思う。 だからこそ、文明の利器を頼る。そうでなければ先人の知恵を漁る。あえて熱い湯に浸かるだとか。水を撒くだとか。風鈴を吊るすだとか。あとは、怖い話に耳を遊ばせるだとか。 自分が自分でなくなるというのも、口の中から止めどなく眼球が溢れ出てくるというのも、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)には恐ろしい。恐ろしいに決まっている。覚悟して、耐えられるだろうか。不可能だと判断する。だから諦めよう。諦めてしまおう。泣いて、喚いて、散々嘔吐して。きっと見ていられない。見ていられないほど無様にのたうち回って。それでも、 「その上でそれでも何とかやるべき事を成せるなら、それで良い」 「わたしきれい?」なんて、まるでこれから驚かす予告をしているかのような質問。『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)はそれを疑問に思う。 「この手の存在は、どうして質問をしてくるんでしょうね?」 聴く。尋ねる。質問する。いつだって、どちらを選んでも結果は同じくせに質問を繰り返す。結果を笑っているのか。不条理故の存在なのか。それとも。 「受け入れて欲しいのか、ただ脅かしたいだけなのか」 「眼に拘る化物、か」 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は考察する。 「何かに変化させられたのか、もとからこういう存在なのか。どっちにしても、話し合いの余地はなさそうだな。もったいねーな、これくらいの外見なら個人的にはギリギリ許容範囲なんだけど」 流石、人外も落とした男は紳士である。 「何がしたいのかわかんねーが。このまま放ってはおけないな。悪いけど、倒させてもらうぜ」 「綺麗ですね」 『視感視眼』首藤・存人(BNE003547)は、渡された資料を、見させられた映像を思い返しながら呟いた。 「全ての人間の眼球がそうなれば、俺はきっと生身の人間の目も怖くない」 きっとああであるならば、自分は死ななくても良い。自分は失われない。無数の瞳。ひとつの眼球。吐き出して、転がった眼、眼、眼。そんな世界であれば、自分は救われるかもしれないが、 「それを人間と呼べるかどうかは疑問ですけれど」 「眼がいっぱい。片目がないのと。眼が多いのはどっちが怖いかな」 『骸』黄桜 魅零(BNE003845)は首を傾げた。不満足であることと、蛇足に過ぎていることはいったいどちらが歪であるのかと。疑問に答えはないだろう。答えてくれる相手でもないだろう。だけどとりあえず、ひとを殺すなんてのは見逃せないわけで。どんな回答でも、それだけは否定の値であった。 「やり過ぎる前に、ごめんね。ここで死の連鎖は断たせて貰うよ」 「こいつ、たかがノーフェイスの癖にまるで異世界の輩のようだ」 直近に出会ったあの怪物ども。生物としてまるで同じだと思いたくないような。こちらの精神を根底から破壊することだけに特化したかのような。あの怪物どもを『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は思い出した。 「いや、違うか。こんな訳のわからないエリューションになって自滅する方がずっと多数派で、革醒して踏みとどまることの方が奇跡に近いんだな、きっと」 「ゾンビとか巨大動物とかじゃなくて。脈略がないというか、シュールっていうのかな?」 パニックものではなく、恐怖心や不安感を煽るたぐいの。言いようのない強迫観念のようなものを『龍の巫女』フィティ・フローリー(BNE004826)は連想する。和風、というべきなのだろうか。人肉スプラッタのような痛みを連想させるものではなく、ただただ気持ちが悪い。怖い。恐ろしい。 「普通のホラーより怖いことは確かだね」 「良いなあ、その『目』……欲しくなるな。どんな形であれ、おっさんには無いんだもの」 無謀の男、緒形 腥(BNE004852)は件の相手とは正反対だ。彼には眼球がない。正しくは、口も、鼻も、耳も見当たらないのだが。自分にはないものは、羨ましい。当然として手に入れるべきであったものが無いというのは、どうにもいたたまれない。たくさんの目、無数の瞳。 「まあ、これから顔ごと潰す訳だがな」 嘲笑うように、質の悪いジョークのように。 昼間かと思うほどの暑さ。歩いているだけでも流れていく汗。日本の夏は蒸し暑い。冬は死にそうになるが、夏は狂いそうになる。そんな季節。そんな時間。 なんとも、怪談には相応しい。 ●昨日書いた明日という文字を眺めながら あの人の両目はとても綺麗だ。幼い頃から私と近しいあの人。目の前に現れたら、うわずってとてもまともになんて話せない。眩しい。ついつい俯いてしまう。綺麗だ。とても美しい。あの人に比べたら、私の両目なんて無いようなものだ。否、無い方が良かったくらいだ。あの美しい目にこんなものを見せるわけにはいかない。だから顔を伏せる。伏せる。美しい。喉が鳴る。じゅるりと。 名探偵が皆を集めて「さて…‥…」と言うように、それもまた決まり文句のようなものだった。 「ねえ……」 考えてみれば、暗がりで、誰もいない場所で、ふと己が声をかけられるシチュエーションそのものが異常である。危機感に強い人物であったならその場で踵を返すだろう。 しかし、いやに感受性が強かろうとも例外は存在する。それは彼女にしても想定外の事実であっただろう。常に狩る側、襲う側。人間というのは強弱を勘定できる存在ですら無い。そんな風に、そんな風に考えていたのなら大きな間違いだ。だから。 「わたしきれい?」 これは死刑の宣告足り得るだろうか。 ●勝手気ままでやりたい放題の大悪党は ほら、ほら。見て。ねえ見て。美しい。素晴らしい。こんなにも。嗚呼、嗚呼、嗚呼。見て。見て。私の両目は美しい。すべてが見える。なんて見通しの良い。ほら、両目を無くして虚ろな眼窩でのたうち回るあの人だってよく見える。可哀想。でも大丈夫。代わりの両目をあげるから。美しい。美しい。あなたのそれが合わさった、私の両目と同じような。なんでも見えるこの美しい瞳を。 「ごめんなさい、私には貴女が綺麗には見えません」 律儀にも、うさぎはノーフェイスの問に答えていた。意味は無いのかもしれない。求めてはいないのかもしれない。それでも、せめて正直に、誠実に構えるべきだと思うのだ。 「私は私に出来る事をします」 恐ろしい。恐ろしい。近づいて、斬り合う距離で、よく分かる。分裂した瞳。それらが一斉に自分を見つめるのだ。気持ちの悪さに、足はすくむ。それでも動いているのは、並々ならぬ精神力の賜だ。 光で出来た残像を叩きつける。追撃に移ろうとして。違和感に気づいた。風景が歪である。否、風景だけではない。何もかもが歪に、違う、多重に見える。 本来、人間は両の目による立体視で物事を把握している。それが、よっつになればどうなるのか。押し寄せる視覚情報。混乱が押し寄せて、叫びだしそうになるが。静まった。変わらず視界は不可思議なままではあるが。 「なんと言うか、ガーネットさんにはもう足向けて寝れませんね……」 眼球が増えるのではなく、瞳が増える。まあどちらもそうそう体験できる事象ではないが、やはり未知の感覚というやつは例え碌でもないとわかっていても気になるものである。 つまりはまあ、こんな感じであるのかと。珍粘は多すぎる視覚野に感想を持っていた。 正面だけを意識する。まぶたを閉じるわけにはいかないのだから、こうするしかない。不便に余りある状態だが、戦えないほどではないだろう。自分にとっては、胃の中がむかむかする程度だ。 「あー、折角の綺麗なパーツが目のせいで台無しってやつですかー」 まあ確かに、目隠しでもすれば美人だろう。 「うんうん、多いってことはそれだけで不気味になるものなんですね。削ぎ落としてみれば少しは見れる顔になるのかな? ふふふ」 己をも蝕む剣で斬りつける。飛び散る赤いそれらは、回避しようと思うも捌ききれるものではない。ものは試しにと、羽織ったレインコートで受け止めてみた。 違和感。「あー、意味ないかー」なんて思いながら、身体をくの字に折り曲げる。 「綺麗だよ。その唇も、髪も、思わず触りたくなるほどに綺麗だ。ただ、眼はできればひとつだけの方が、もっと綺麗だったと思うけどね」 エルヴィンの発生させた魔術の光は、人間の表面を、内側を、正常な状態に戻していく。悪意により蝕まれた心も、癒やしを受け付けぬほどの深い呪いも、それは正しいものへと導くだろう。 よって、戦えぬなどという事態になっていないのだが。如何せん、増えた瞳だけはどうしようもなかった。 「今これ、自分のツラもなかなか愉快な事になってるんだろうな」 見せられたものではない、という意味を多分に含んではいるが。実際、今や十数にも増えた視界は歪にねじ曲げて脳に報告してくるのだ。 それでも定めた狙いを外しやしない。これまで何十何百と繰り返した回復の呪文。耳で、鼻で、肌で。完全に見えないのでなければやりようはあるのだ。 「皆の位置を捉えるのが少し辛いが、意地でもこのまま最後まで癒し続けてやるさ!」 存人が、胃の中のものをコンクリートの地面にぶちまけた。 吐き出すという行為は、著しく体力と精神を擦り減らす。息も荒く、びちゃびちゃとぼたぼたと溢れさせたそれらを見て、常人ならば気を違えていただろう。しかし、彼に至って言えば、単に「嗚呼、自分のか」という程度のものであった。 無論、強制的に引き起こされた生理現象によって動けはしないのだが。その分余計に、脳は回り出す。ぼろぼろと転がったそれらは、自分の心をかき乱したりしない。こんな経験したくはなかった、というくらいだ。それで狂うというのなら、自分はとっくのとうにおかしくなっているだろう。 ひとつ呼気を出して、また魔法による攻撃を開始する。笑っている彼女へと。思いを馳せながら。 何を望んだというのだろう。どうしてこうなっていったのだろう。うつしたかったのか。逃れたかったのか。問うのは自信によるものか、はたまたコンプレックス故であるのか。 「貴女は其れを綺麗だと思っていますか」 「エリュヴィン君が頼りだよ」 魅零はとりあえず讃えておくことにする。巻き舌で、讃えておくことにする。異常な環境。ともすれば、正しくいられなくなるようなここにおいて、癒し手というのはありがたい存在だ。 「私、綺麗だと思いますか?」 切りつけながら、逆に問いかけてみる。だって彼女にはいっぱいあるけれど、今はそこらに転がっているけれど。自分のこれは欠けているのだ。 失った記憶。痛々しい記憶。吐き出した眼球は、有る方と無い方のどちらであるのだろう。欠けている。欠けていると、ひとではない。ひとではないと、刻印される。だから隠す。ひとでありたいから。 「私は物じゃないって。これでも綺麗だって言ってくれる人を見つけたから」 だから救われている。欠けていても、ひとであるのなら救われている。片目による立体視。異常な視界。今や、自分もひとより多いのだ。ノーフェイスに笑いかけた。一緒だ、と。 「「ねえ、わたしきれい?」」 言葉が、重なる。 敵の観察を続け、それを逐次仲間へと報告する。あばたの行動は戦闘において、チームワークにおいて非常に重要な役割を果たしていたが、しかし同時に嫌悪感も積もらせる要因となっていた。 有名な女神像のことを、誰かが腕がない事こそ彼女の完成であり、美の極致であると言っていたが。それが正しいのなら、不必要に瞳の多い彼女は間違いなく弩級に醜いのだろう。 ダメージを与えている。こちらに離脱者はいない。作戦は概ね有効に回っている。得られる観察結果は、どれも自分たちにとって嬉しい情報だ。しかし、そのためにこれをくまなく見るというのは。 神秘を帯びた弾丸が、ノーフェイスの眼球に吸い込まれていく。破裂音。眼球を抉り、突き抜けて後頭部にも穴を空けた。潰れたはずの片目の穴に肉が盛り上がり、また瞳を作る。さっきよりも増えている。自分のこれも、増えている。 いっそ昆虫のようであってくれれば、まだいくばくかマシであったろうに。 例え戦うという行為の上で支障をきたすものではなかったとしても、単純に視界に気持ちの悪いものがあるだけで士気は下がる。意欲が失われてしまう。ようは、げんなりする、という話だが。 そのため、フィティはサングラスをかけていた。夜間ということも有り、多少の見づらさを感じはするものの、影響をうけるほどではない。ただでさえ、ノーバディの見た目は心を削るものがあるのだ。同じようなものは、ひとつでも見えないほうが良いだろう。そう考えた上での配慮だった。 血液を凍らせることができれば、そう思いはしたが不可能であったらしい。自分の衣服に付着した途端喉にこみ上げる不快感が自分を苛んだ。 身体を折り曲げて、身体の反応するままに噴き出させる。思惑のキャンセル。これもできれば仲間の眼につかせるべきではないとしたが、果たしてうまく行ったかどうか。まさか、敵との戦闘中に背を向けるわけにはいくまいし。 体勢を元に戻し、口に残ったひとつを吐き捨てた。 「……アハハ! よっぽどおっさんの方が不審者でないかね」 フルフェイスで、フードの付いた黄色いレインコートを羽織った姿に、腥は我が事ながら笑ってしまう。効果の程はなかったようだが、本当に、これは一体誰を殺して何を埋めに行く格好だろう。ある意味、ノーバディと向き合うならば最適のファッションなのやもしれないが。 思い切り蹴り飛ばすと、足の裏に嫌な感触が伝わった。女を蹴るなんて寝覚めが悪い、なんて適当なモノローグを頭で流す。 飛び散った血液が付着する。そうら来た。無いはずの口の中に丸く、柔らかいが硬い感触をいくつも感じる。こんなものも幻痛と呼ぶのだろうか。シールドの内側にぼとぼとと張り付いたそれらを、煩わしいので開き外へと出してやる。 自分のはこんなだったろうか。そんなことを考えながら、また敵に向き直る。妙な疲労感を感じながら。もう終わるであろう戦いへと。 「さあ、名残惜しくも無いがブチ撒けて貰おうかね」 ●この星の空の下で ねえ、綺麗でしょう。こんなにも美しいでしょう。だからあなたもそうしてあげるの。全てが美しくなれば世界はもっと素晴らしい。だから。だから。 動かなくなったノーフェイス。崩れ、塵と消えていく瞬間を待つばかりのその身体を、そっと抱き締めた。 途端にこみあげるものを我慢など出来ず、それはお世辞にも見目麗しい光景ではない。しかしと、思うのだ。嫌だけれど、我慢してやろう。愛して欲しいのなら、せめて抱擁くらいはと。 蒸し暑い帰り道。疲労感のせいで、出発時よりも煩わしい。 疲労と、思い出したくない光景と。早く返ってシャワーでも浴びたいものだ。今夜は寝付けるだろうかと、考えていたら。 「……あ、目玉の味を確認し忘れました」 誰かがそう言って、一際げんなりさせたとか。 了。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|