●無機質たれ 無機質たれ、それが我々にとっての絶対。 感情は邪魔だ。そんな物は我々には必要無い。 プラスである事を望むな。マイナスで無い事を望め。 故にこそ、無機質たれ。全ての物よ、無機質たれ―― ………… …… 「あー、管制室聞こえますか? こちら08便です。間もなくそちらの滑走路に着陸態勢に入ります」 『了解。天候が荒れているので慎重にお願いします』 それは旅客機と管制塔における会話。本日の天候は非常に――悪い。 豪雨が吹き荒れ視界が遮られる。と、言っても旅客機が飛べぬ程では無いのは幸いか。空の船は今日も予定通りに運行していたと言える。 ――ここまでは。 「……ん? なんだ今、外に何か……」 旅客機の操縦桿を握る機長が一瞬、その眼に“何か”を捉えた。 長年の経験を得ているベテランの機長だ。目には自信があるため、今先程捉えた“何か”に関しても見間違いと言うのはあり得ない。 確かに今居たのだ。着陸態勢に入り、速度を落としているこの機体の周囲を飛び回る妙な影が―― 「なっ!?」 その時だった。先程見かけた妙な影が再び機長の視線に入り込む。 いや、もっと正確に言うならばソレが入り込んで来たというべきか。 機長の目の前、操縦室の眼前、“旅客機の先端部分”に。 「ば、馬鹿ななんだあれは……!?」 最初は鳥かと思った。世の中バードストライク等と言う事象もあるぐらいなのだ。高度を下げつつある旅客機の周囲に鳥がいる可能性、無くはない。 だが目の前にいる存在はそんな鳥などでは無かった。それは鳥とはかけ離れた、“翼を持つ人型”の形状である存在。よく見れば、その体は機械で出来ている。 ――なんだ? 一体何が起こっている? あまりの非現実に機長の思考が一瞬停止する。と、ほぼ同時。先程まで管制塔と通話していた回線より妙な声が割り込んで来た。 それはやけに機械的な声であって、 『……“全ての物よ、無機質たれ”――ではさようなら有機物諸君』 随分と短い一文だけだった。どのようにしたのか分からないが、無理やり回線を割り込ませて来たという事か。 次の瞬間、機長は視る事となる。こちらに向けられた単純明快な敵意。マシンガンの銃口が操縦室に向けられたのを―― ●不運な“事故” 「……そして旅客機08便は着陸寸前にして“謎のエンジントラブル”が発生。着陸が失敗し、少なくとも90名の命が失われる事となります」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の紡ぐ言葉は未来の話。しかし、彼女の言葉にいくつかのリベリスタは疑問を抱く。 「エンジントラブルだと……?」 「ご安心ください。それはこの依頼が失敗した時の話です。08便は“襲撃されて墜落”したのではなく“エンジントラブルによって墜落”した事になるんです」 「……成程な」 神秘は秘匿すべし――その原理で言えば、化け物に襲われて旅客機は墜落しました。等と言える訳がない。 表向きは旅客機のエンジントラブルという事になるのだろう。“不幸”な、“偶然”起きた唯の“事故”――そういうシナリオと言う訳だ。 「で、その“事故”は防ぐ事が出来るんだろうな?」 「勿論です。貴方がたは直ぐに現場近くの空港に向かってもらい、今回の事件を起こそうとするアザーバイド:フリューゲル(翼)の討伐を行ってもらいます。敵の特徴は常に飛行状態である、と言う事なのでフライエンジェの方や遠距離攻撃が得意な方が適任だったりするかもしれませんね」 でも、とそこで和泉は一旦話を区切り、 「現場周辺の天候は非常に悪いです。なので、空を飛びまわるフリューゲルへ攻撃を当てるのが少し難しい事となるでしょう」 「だがそれは敵も同じだろう? 天候が悪いなら、敵もそうそう空を飛びまわるのは……」 リベリスタの懸念。それを和泉は首を横に振る事によって否定する。そしてそのまま視線をモニターへと移し、 「映像を見て頂くと分かるかもしれませんが、敵はこの悪天候の中を自由自在に飛びまわっています。恐らくですが、こう言った環境に耐性があるのでしょう。さらに敵は飛行状態を完璧に近い形で制御しています。その点でも少々不利です」 「……状況が厄介って事か」 天候が悪い。こちらはその影響を受ける事になるが、しかし相手はその影響をほとんど受けない。その上でこちらは旅客機も守らねばならぬというこの状況。有利なのは、明らかに相手。 「旅客機に少しダメージが入った程度ならアークが何とか誤魔化します。皆さんは“旅客機を無事に着陸させる”事に専念して下さい。……最悪、アザーバイドは討伐出来なくても構いませんので」 さて――如何に相手をしたものだろうか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月20日(土)23:36 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●索敵 『目標未だ現れず。索敵行動を続行します』 淡々とした様子で、どこかへと告げるソレは、海岸に沿う形で広がる防風林の上空を滑空する。 豪雨の中、狙いはまだ現れない。付近に近付いて来ているのは分かるが、その姿は未だ見えず、だ。 構いはしない。どうせ少し待つだけだ。速かろうが遅かろうがやる事は変わらない。 待って、撃って、落として――それで終わりだ。 そうだ。終わりだ。滅んでしまえ有機物。我らの意地をその身を持って受けるが良い―― 『――ムッ?!』 瞬間、空を飛ぶ無機質の塊は反射的に身を捻っていた。 直後に眼前を通り過ぎるは炎。そのまま飛び続けていれば当たっていたかもしれないソレは、明確な攻撃。 地上から放たれた攻撃に思わず視界を向ければそこには――複数の人影が存在していた。 ●奇襲は、さてどちらか 「っ、外してしまいましたか……!」 地上。空に浮かぶ機械を見上げる形となっているリベリスタ達の一人『童話のヴァンパイアプリンセス』アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)は、可愛らしい兎の顔が付いた特殊なステッキを上空に向けている。 先程の炎を放ったのは彼女。フリューゲルの進行方向に向け、先読みする形で先制攻撃を仕掛けたのだ。残念な事に寸での所で外れてしまったようだが。 「まぁまだ問題は無いですよー闘いはこれから、ですしねー」 空を見上げながら呟くアゼル ランカード(BNE001806)。同時に彼は、周囲の仲間に分け与えの行動を行う。――翼だ。 擬似的な小さい翼を受け取り素早く行動に移ったのは、 「よぉ無機質野郎。空飛んで忙しい所悪いんだが――てめぇの土俵で戦ってやるからとっとと落っこちな!」 『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)だ。既に“構え”は済ませておいた彼は宙を舞い、フリューゲルへと接近する。 『なんだと、伏兵? 馬鹿な。何故私の存在を……』 「さて、ね――そんな事より自分の心配をした方が良いんじゃない?」 モノマだけでは無い。既にフリューゲルの周囲は取り囲まれており、『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)も言葉を告げながら臨戦態勢を整える。 突然の敵襲に戸惑うフリューゲル。旅客機を奇襲する立場であった彼が逆に奇襲されるというこの事態は流石に予想外だったようだ。もっとも、その戸惑いも長くは続かない。 目の前の現実を受け入れて彼自身もまた、索敵態勢より戦闘態勢に移行するからだ。 「余所の世界の事まで知った事では無いが、な。お前の戯言に付き合ってやる義理も無い。早々に撃墜させてもらうぞ」 そして口火を切るのは『#21:The World』八雲 蒼夜(BNE002384)。両手に付けられた銃口より放たれる正確な射撃の狙いは、フリューゲルの翼だ。 彼自身、狙って当たったからと言って敵が墜落するとは思っていない。しかし、翼を持つ相手に翼を狙うと言うのは、 「お約束みたいな物だからな……さて、翼を無くしたイカロスはどうなるのか」 銃弾はかくて狙い通りにフリューゲルの翼へと真っすぐ向かう。 が、しかし着弾音は響かない。それの示す所は一つ。 「むぅ、速いっ!」 回避されたと言う事だ。 『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)の感嘆にも似た声が着弾音の代わりに周囲に響けば、同時に視線もフリューゲルを追う形で動く。 俊敏。まさにその二文字が似合う速度を持ってフリューゲルは大きく旋回行動を行い、銃弾を的確に回避していた。 「ならば、そう自由に動き回る事が出来ない様にこちらも動くとしましょう」 そんな敵の動きに反応する『ネフィリムの祝福を』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)の取った行動は、敵のさらに上を取る事だった。 空をほぼ自由に動く相手だ。その行動を制限する為に三次元的な要素の一角、縦の要素を押さえに向かったその行動は有益と言える。とはいえ、 『だが、それなら振り切ればいいだけの話だ』 敵もそう甘くはない。優位な速度の面を持って、上方を押さえられている空間から抜け出そうと、最大速度だ。 周囲は豪雨。水滴の嵐が吹き荒れ、この天候はリベリスタ達のあらゆる行動を阻害する。だがフリューゲルはその中でも動けるだけの飛行技術を有している為に、少なくとも移動の面においてはリベリスタ達が圧倒的に不利。 このままではヴィンセントの押さえも長くは続かないのは明白だった。 「……攻めるしかないわね。バックアップは私に任せて」 そう、『死神狩り』棺ノ宮 緋色(BNE001100)の言う通り攻めるしかない。長期戦になれば恐らくジリ貧だ。数の面で勝っているとは言え今回はお互いの目的が“戦闘”では無い。 全ては、 「旅客機がどうなるか――その一点に掛っているしね」 彩歌が気糸を撃ち出す。狙いは再び翼。 宙を動き回るフリューゲルを目視だけではなく熱で捉え、さらに彼女の武装“オルガノン”の特殊な演算装置をフル活用。必中の狙いを持って翼を穿とうとするが―― 『ぬ、ぐっ……!』 フリューゲルは文字通り体を“回転”させて、気糸の衝撃を和らげた。気糸の射出された進行方向向きに、命中する瞬間に回転。翼に掛る衝撃を半減させたのだ。 「さてさて、私は邪魔させて頂くよ?」 しかしリベリスタ達の攻勢は続く。ヴァルテッラが気糸をフリューゲル周辺に展開させ、行動の阻害を試みる。 絡み取るかのような動きを伴って気糸はフリューゲルを包み込もうとすれば。 「斬り裂けぇっ!」 さらにその隙間を拭うかのようにモノマが脚を蹴り上げてカマイタチの風を作り出す。 回避空間の削除。それに近い形となった無数の攻撃はフリューゲルへと迫り、高速のアザーバイドを遂に捉える。 ――ものの、 『邪魔だ有機物如きが……!』 フリューゲルが行った行動は唯一つ。加速だった。 加速行動による一点突破。かわせないのなら、突き抜ければ良い。包み込まれるような攻撃であると言うのなら、その前に突破する。直撃するよりはマシだろうという考えをもってフリューゲルは一点を駆け抜けたのだ。 さらに突き抜けた先で己が手に持つ銃器を乱射する。引き金を引き絞り、周囲へと撒き散らした。 「――っ、皆さん、大丈夫ですかー?」 掲げたクロスを盾の様にし、降下しながら回避を行うアゼル。 暗闇の中でも全てを確認できる能力を持つ彼は声を張り上げながら負傷者に対して歌を紡ぐ。癒しの力を持つ、特別な歌を。 そして、そんな時だった。 「……とうとう、来たか」 戦闘初期から常に“ソレ”を警戒していた蒼夜が“ソレの姿”を最初に確認した。 豪雨の中を真っすぐと飛来する巨大な物体。今回の依頼の目的にして最大の重要物。 ――旅客機の到来だ。 ●旅客機到来 雨を切り裂いて現れる旅客機。速度と高度を落としながら段々とこちらに近付いて来るそれを、皆が目視で確認する。 正念場だ。戦場を見事に横切る旅客機が着陸するまでの僅か数十秒。 その数十秒の攻防が全てを決める。果たして今回の一件が“事故”になるのかそうはならないのか―― 「皆さん! 私は地上から援護します、今の内に……!」 地上から牽制攻撃を行っていたアリスが空を飛ぶ仲間に呼びかけを行う。今の内に旅客機に対するカバーをと、そう言う事だ。 旅客機は大きい。だからこそ、その巨体のどこを狙われても危険な事になるのは間違いない。こういった場面でもリベリスタ達は不利だ。 なにせ攻撃する側は自由に攻撃する場所を選べるが、リベリスタ側はフリューゲルがどこを狙うのか分からないのでその場の状況を把握してから動かざるを得ない。予測して動く事も不可能ではないが、やはり有利なのは攻撃側だろう。 さらに、流石に一人で旅客機全体を庇うのは不可能なので自然と人員を割くことにもなる。これまた有利になるのは攻撃側であった。 「落とさせはしねぇぞ……! ぶち抜けぇぇえ!」 で、あるが故にモノマは接近した。旅客機に攻撃させないために取れる手段は二つ。 旅客機を庇うか、そもそも旅客機に近づけさせないか――だ。モノマは後者を選んだ。 拳に炎を纏い、フリューゲルの顔面に向けて振り下ろす。金属と拳の衝突する激突音が鳴り響き、さらには。 「うぉおお、締まれぇ――!」 左腕のガントレットに事前に結びつけていたワイヤーを解き、瞬時にフリューゲルへと纏わりつかせる。 機動力の低下。それを狙ったワイヤーの結びつけだ。成程、機動力を殺ぐ行動としてワイヤーを使用する――発想は良い。 『だが見立てが甘いな……ソレでは私を止めれんよ……!』 フリューゲルが機械の翼を広げ、旅客機へと向かって前進する。 絡みついたワイヤーをモノマが引き、妨害しようとするが――残念な事にワイヤーが保たない。 そう、機動力を殺ぐと言う観点で見れば確かに悪くはなかった。だがワイヤーの強度はそこまで強く無いのだ。糸は切れる音を立て、拘束は解かれてしまう。 「ですがまだまだ! 旅客機には近づけさせませんっ!」 銃を構えるヴィンセント。自らの師より受け継いだそのショットガンをフリューゲルのさらに上から構え――放つ。 翼を狙った一撃は見事に命中。フリューゲルの体が僅かに揺らぎ、 「なぁ、空を飛ぶ無機物よりこっちの有機物の相手をしてくれないか」 そこに追撃する形で二撃目を放ったのは蒼夜。フリューゲルの移動方向先を予測した形で放った銃弾は、彼の一撃目とは違い今度は着弾音を鳴り響かせた。 『ぬ、う、ぉおおお!』 しかし止まらない。大きく揺らいだ体勢を強引に引き戻せば、そのまま駆ける。 三次元の動きを最大限にまで活用し、変則的な動きを持ってリベリスタ達の狙いを撹乱しようと。 「何でですかー?」 そんな折に紡がれた言葉の主は、アゼル。 「生産(出産)で増え、学習(経験)で成長し、破損(怪我)は修理(治療)し、それが及ばなければ壊れる(死ぬ)――短期的な視野じゃなくて宇宙的な視野で見れば有機物だろうが無機物だろうがそう変わらないと思いますがー」 紡ぐ。紡ぐ、己の言葉を。疑問を、相手にぶつけるように。 「なんでそんなに人(有機物)を嫌うのですかー? 何か理由があるんですかー?」 『ク、ククク……』 その時だった。空を駆けるフリューゲルがアゼルの問いに――笑った。 笑ったのだ。機械的な、無機質な声で。その声色は侮蔑の様な色を含みながら、 『有機物を嫌う? ああそうだな我らは有機物が嫌いだとも……まぁ、逆恨みの様な物だがな』 「……逆恨み?」 フリューゲルの告げた気になる一言。アリスが確認するように反復すれば、目の前の機械は口を噤み、 『……喋りすぎたな。これ以上有機物に、貴様らに――人間に攻撃を仕掛ける理由を話す義理も無い。終わらせるとしようか』 「っ、旅客機に攻撃を仕掛けるつもりね……!?」 緋色の感じた敵の戦意。それは間違いなく、自分たちの近くにまで迫っていた旅客機に向けられていた。 空を駆けるフリューゲルが急激に角度を変える。それは合図。それは始まり。この戦いにおける正真正銘の正念場―― 「――来るぞっ!」 それは誰の呟きか。高速で迫るアザーバイドはその言葉とほぼ同時、旅客機に向けて突撃を開始した。 真っすぐ駆けるだけ。両手に持つ銃器を構え、放ちながら、最大速度で駆けるだけ。 ただそれだけにして、防御の薄い旅客機にとっては――絶望的な脅威だった。 「でも、そうはいかない……!」 声と共に飛びだしたのは彩歌。往くフリューゲルの、腰に付いているパンツァーファウストを狙い、気糸を射出する。 だが直撃寸前でフリューゲルは再び変則的な三次元機動を行い、攻撃から的確に逃れる。豪雨の中で繰り広げられるその動きに当てるのはまさしく至難。攻撃をかわし、自身の攻撃は相手に命中させる。なんとも面倒な相手である。 「旅客機は……絶対、無事に着陸させてみせます……!」 「機体はまだ持つ。なんとかここを凌げれば!」 依然として地上から攻撃を放ち続けるアリス。エネミースキャンの能力を持って飛行機の状態をチェックするヴァルテッラ。 双方ともに集中のピークを迎えていた。攻撃し、かわし、庇い、命中させて、 巨大な旅客機が空港の滑走路に到着するまで後少し―― 『ク、ククク……頑張るじゃないか。だがここまでだ。そろそろ“虎の子”を使わせてもらうとしよう……!』 「――パンツァーファウストか!」 蒼夜の叫び。それとほぼ同時に構えられるのは対戦車砲として名高いパンツァーファウスト。 あんなものが飛行機に命中したら恐らく耐えれはしないだろう。発射させる訳にはいかない。発射させたとしても当てる訳にはいかない。 「ならば……やはり至近で止めるべきか」 故にこそ、フリューゲルに向けて飛びだしたのはヴァルテッラだ。 「君と私、どちらが生き残るのか……一つ、実験してみようじゃないか」 構えられているパンツァーファウスト。その直ぐ近くにまで接近し、あえて攻撃に当たる事によって被害を抑えるつもりだ。 上手く行けば旅客機は無事で、相手にダメージを与えることも可能だろう。とは言え、自身に絶大なダメージが来るのは大前提の話ではあるが。 『お断りだ。必殺の虎の子を、たかが一人の人間に対して使う訳にはいかん』 「――ぬっ、ぐっ!」 しかしフリューゲルの取った行動、それは憎たらしくも機械的に冷静な判断だった。 接近するヴァルテッラに対し、パンツァーを発射するのではなく、ショットガンの弾をお見舞いしたのだ。 ヴァルテッラの胸部に殺意を伴った一撃が命中し、彼の体はゆっくりと崩れ落ちてゆく。 『さぁ、それでは“全ての物よ、無機質たれ”――では御機嫌よう有機物諸君……!』 付近で邪魔する者はいなくなり、フリューゲルは即座にパンツァーを構えなおした状態へと再び移行する。着陸態勢へと入り、タイヤを出しつつある旅客機。その後方に位置しながら――引き金を、引いた。 『Panzer――!』 ●事故は―― 飛ぶ。雨の中を、一つの弾頭が。雨を裂き、突き進み、勢いは衰えずに狙いへと向かう。 旅客機の左翼の付け根。そこへと向かうは死の弾頭。 当たれば90名の命の終わりを告げるその一撃は――旅客機の左翼の付け根“の5m手前”で爆発を生じさせた。 『……何ぃ……!?』 驚嘆。機械的な音声に混じるその二文字の色がフリューゲルから漏れた。 勝ちを狙った一撃だった。その一撃が“直撃しなかった”という事実。 ――何故? と思うより早く視界にある物が映った。それは、 「モノマさんっ!」 アリスの声。見れば、一旦フリューゲルに突撃した後、旅客機の近くに布陣していたモノマがパンツァーの爆風に巻き込まれている。 ――否。もっと正確に言うのならば、モノマが当たりに行ったのだ。旅客機を、死の弾頭から守るために。 「テメェ、ふざけんじゃねぇぞ……!」 モノマが叫ぶ。旅客機を守るためにあえて攻撃を受けた彼は、血反吐を吐きながらもフリューゲルを睨みつけ、 「感情が邪魔だ? マイナスでない事を望めだ? そんな生き方楽かもしれねぇが……つまんねぇんだよそんな生き方はよぉ! 怒りてぇ時に怒って笑いてぇ時に笑う! リスクを払ってでも手にしてぇモンがあんだよ! 人にはなぁ!」 それは彼の本心。無機質である事を至上とする彼らに、吐き捨てるように投げかけるその言葉に、フリューゲルは何も返さない。 いや、無言と言う形で返答したとも言えるか。ともあれ、その無言が発生した一瞬の隙に、爆風をなんとか回避した旅客機が豪雨の中を突き進む。 『……ぬっ、しまった! 目標が……!』 その瞬間、全員の目に映ったのは――無事に飛行場へと着陸を果たす旅客機の姿だった。 機体の各部にダメージが見られる物の、甚大な被害は無い様だ。つまり、それは同時に“事故”は免れたと言う事も示していた。 『ぐ、仕方ない……ここは撤退か』 「逃がしませんよっ!」 途端に身を翻し、逃げの一手を取るフリューゲル。しかし、そこには愛用の銃を構えるヴィンセントが立ち塞がっていた。 「旅客機も無事だったんだから――大人しく、落とされてしまいなさい!」 さらに彩歌も死角から間合いを詰め、敵の翼に対して零距離攻撃を行う。 複数方向からの一斉追撃。逃げる物にとって回避しづらいそれは、非常に嫌な攻撃。 ――だが、 『う、ぅおおおぉ!』 僅か、ごく僅かではあるが――フリューゲルを仕留めるには至らない。もう少し攻撃の密度が濃ければ話は別だったかもしれないが…… 機械の体が衝撃で大きく揺れ、ぐらつくものの敵は健在。そして、リベリスタ達の布陣の穴を掻い潜って彼は往く。 「くっ、逃げられたか……彼には少々、聞きたい事もあったのだがな……」 深い傷を負った為に地上に降りたヴァルテッラが無念そうに呟きを。 しかし悲観することはない。逃げられたとはいえ、守るべき物を守る事は出来たのだ。 「……旅客機、ちゃんと無事みたいですねー」 アゼルの向ける視線の先は滑走路。少しばかり傷が見えるが、どうやら問題無く乗客を降ろしているようだ。あれならもう問題は無いだろう。 雨が降る。そんな中で繰り広げられた一つの戦闘はこれで終幕だ。 90名近い命は今宵――誰にも知られる事無く救われた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|