●潮騒 一定のリズムを刻み、耳を楽しませ続けるのは寄せては返す波の音。 人の手が入らない場所だからか自然はそうでない場所よりも『濃い』ようにさえ思えた。 森を掻き分ければ夏の恵みとも言えるべき野草や野生のフルーツがその姿を見せるだろうか。誰も居ない島を探検するというのは童心(ロマン)を何とも擽るものだ。 潮の匂いを運ぶ爽やかな風は青いキャンバスに大きく背伸びする白々とした入道雲の形を緩やかに揺らしている。今日はしつこ過ぎない程度にその自己主張を抑えた太陽が笑顔を見せて下ろすのは、月並みな表現ながらエメラルドのような称してピタリと当たる渚の輝きだ。それは例えどんな財宝を並べてみた所で真似をする事は出来ない唯一の光景だった。 何処からどう見てもトロピカル。平穏なる島の光景。おかしな鳥がギャースカ喚き声をあげていたとしても、悠久の南国が織り成す平和の光景は何一つ変わらない。 ●多分、仕事。 「……という訳でボーナスステージ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉は何時もと少し風情が違った。 リベリスタが仕事を請ける為にブリーフィングにやって来たのは同じだが…… 「今回、皆に頼みたいのは南国の島に現れた鳥のエリューションビーストを始末する事。注意事項の類は特に無い」 「……投げやりだな、おい」 「皆が負ける絵が想像出来ない。全力で負けに行っても難しいとさえ、思う」 イヴの言葉にリベリスタは苦笑した。仕事としては何とも言えないしょうもない話である。 「どちらかというと今回は皆への御褒美に近いかも知れない。 沙織さんが領収書をちょちょいと弄って必要人数を確保したって言ってた」 リベリスタ達の置かれる日常は中々にハードな部分がある。 命のやり取りをする事も少なくは無いし、命の洗濯をしてこいといった所か。 「……まぁ、あいつらしいと言えばらしいが……」 「実はその島は八月末の福利厚生の会場になるらしい。 『下見も兼ねてゆっくり羽を伸ばして……キャンプとか楽しんでくるといいんじゃないか? かなり、星が綺麗だから』以上、伝言」 「成る程、それもアイツらしい」 徹底した合理主義は流石に大財閥・時村家の後継者である。 合理主義に見えて理想主義者(ロマンチスト)な彼は複雑な人格の持ち主ではあるが。 「まぁ、悪い時間にはならないと思う。三行で戦闘終わるだろうし」 三行、とは報告書の事だろうか? そう言ったイヴはリベリスタ達に『よいこの花火セット』を差し出した。 「いってらっしゃい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月20日(土)23:50 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●だから三行で終わるってば。 「神鳴る縛鎖――連環の雷を以て、ここに確実なる殲滅を――!」 『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)に応え魔術師の瞳がその目を開く。 ガシボカッ! リベリスタの勇気が世界を救うと信じて! YAMIDEITEI先生の次回作にご期待下さい! ●夏日の楽園I 青い空。 大きな入道雲。 肌理の細かい白い砂浜を寄せては返す波がさらう。 「やっほー! 夏だ、海だ、バカンスだー! 邪魔者は消えたので、後はもう楽しみまくりますよー!」 東京辺りと比べれば同じ夏とは思えない爽やかな熱の中をこの上無い開放感を湛えた『飛刀三幻色』桜場・モレノ(BNE001915)の声が突き抜けた。 「夏だー! 海だー! 新しい水着だー!」 まるで大声を出す事自体を楽しんでいるかのようである。 「今回は気合を入れて可愛い水着にしたんだよー! ただ一つの失敗は彼と一緒に来れなかったこと! ガッデエム!」 その残念のブレーキとも呼ぶべき彼氏の無い『断罪の神翼』東雲 聖(BNE000826)のテンションは何時にも無く見事な乱高下を見せていた。もし彼がこの場に居たならば額を小突くのか、それとも優しく宥めてやるのか。興味は尽きない所だが「夏だー! 海だー!」を繰り返す彼女はと言えば、それはそれで楽しそうだから置いておく。 「ふ、中々の強敵だった」 一方で鳥エリューション(笑)を仕留め、何故か勝ち誇るのは三千世界の神秘に相対する正義の味方――『剣姫』イセリア・イシュター(BNE002683)である。その凛々しい二つ名が泣くしょうもないものを斬った彼女――総勢十四人からなるリベリスタ達は漸くと言うか早速と言うべきかめいめいに人心地をついている。 彼等がこの南の島を訪れたのは当然ながらアークの任務の一環ではあるが、その本題は何時もとは少し違うものだった。 「バカンス~♪ 楽しむしかないよねー!」 一杯の太陽を楽しむように大きく伸びをした『2次元インワンダーランド』羽柴 壱也(BNE002639)は風光明媚なビーチに似合いの軽装である。 「可愛い鳥さんエリューションには申し訳なかった気もするけど……」 壱也の言葉はかの怪異に振り向けられた自分達(かじょうせんりょく)を指してのもの。 「噂の島……時村家のプライベートビーチでしたか。何と言うか、凄いですね……」 悠月の言う通りこの島は来る八月末にアークの主催する『福利厚生』、夏のイベント、その会場なのである。日々の激務の骨休めもかねての事だろう。下見に一泊して来いとリベリスタ達に命じた戦略司令室長は稀に気が効く。清廉漆黒なる事情通による所の『私的出費を経費で落とす』彼ならではの発想なのかも知れないが、ここぞと大人数での催行になったこの仕事は何時に無い気楽さに満ちていた。 「ひゃっほーい! 私はっ! この波を、倒す! 泳ごう! あの岩べりまで! いくぞ!」 先程の仕事した、みたいな顔は何だったのか―― イセリアが存在感たくましい真夏の太陽にも負けじと水平線の向こうを指差して燃えている。 「拙者は夜ごはんをゲットするでござるよ。素潜りで、魚をゲットするでござる。 ここは負けじに拙者も頑張ろうと……喜琳殿のお手伝いもしないとでござるな」 言葉の後半を少しだけ濁し、傍らの『武術系白虎的厨師』関 喜琳(BNE000619)に視線を配ったのは、幾らか落ち着かない様子の李 腕鍛( BNE002775)である。 「せ、せやな。……人数多いしな、こき使ったるわ」 自分と同じく何処かやり難そうな調子の喜琳を、 (返事というのはいつもらえるでござろうか……ちょっと気になるでござるが……) やはり、腕鍛はしきりに気にする局面である。 喜琳の頬は確かに紅潮している。惚れ惚れする程に持ち慣れた中華なべとおたまの様子が幾らか怪しいのも事実である。 しかし、それが夏の日差しの所為なのかはたまた腕鍛の所為なのかは――いざ、聞かせて貰えねば結論の出ない部分であった。 「――さて、エリューションが片付いた訳や。そしたら次は焼きそばや!」 「お昼は皆でたのしくバーベキューっ!」 咳払いを一つした喜琳の声に『雪風と共に翔る花』ルア・ホワイト(BNE001372)から歓声が上がる。 「お皿にお肉とか、野菜も載せてー……」 昼まではもう少し時間があるが『素敵な光景』を脳裏に描くルアの表情は見るからに輝いている。 何れにせよ、任務は『キャンプして来い』なのだから面々の胃袋を支える喜琳の双肩にかけられた期待は大きい。 夏の日は長い。本番はあくまでこれからである。 「よし、あひる。まずはキャンプの設営だ」 「くわっ!」 ビキニの上からパーカーを羽織った『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)の手を不意に『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の手が引いた。同じ歳の年齢よりは随分頼りがいのある少年の眩しい笑顔に声を上げ、思わず見上げたあひるの頬に朱色が差した。 「……ん? 暑いからな。大丈夫か?」 「くわっ!?」 全く分かり易い位に考えている事が顔に出たあひるの額にフツがそっと手を当てた。 まさに繰り返しになりそうな光景を全身全霊を以って阻止したのは当事者のあひる当人だった。 「ふ、ふっくん。こういうの得意なの?」 「オウ。得意って程じゃねぇが、まったくやった事が無いって程でも無いからな!」 力こぶを作るような形に右腕を曲げ、ぽんと左手で腕を叩いた恋人は無闇やたらな爽やかさに満ちていた。 「ふっくん、お仕事終わったらあれやりたい」 「あれ?」 「あははうふふって、砂浜で追いかけっこするの。恋人はそういうこと、するんでしょ……?」 少女の頭の中が蕩けたのは夏の日差しのせいか、それとも別の原因か。 平静さが保てない、胸の高まりが『恋の負け』だと云うならば。上目遣いは甘えたような拗ねたような少女の武器。 顔を真っ赤にしたあひるの顔をまじまじと見つめ、フツは「オウ!」と元気の良い返事を返した。 (ちょい恥ずかしいだろうことはわかってる! だが、無人島の砂浜だぜ。やらないわけにはいかねえだろ!) 相思相愛は考えている事も同じらしい。 「テントは……うーん、一つ三人で五つ? こういう時にカップルが一つのテントってOKなんでしょうか?」 「くわ!?」 「ウヒヒ。照れるな」 モレノの言葉に返った反応はどうにも大分違うけど。 「うーみー!」 叫ぶ『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)、 「夏の……思い出……作り」 紺のスクール水着にはでかでかと『えりす』の名札。デジカメを片手にあちこちを撮っているエリス・トワイニング(BNE002382)を横目に島に広がる森の方を見やった悠月が「さて……」と日傘を開いた。 「あちこち、見て回るのもいいものですから」 「あ! あたしも探検しようかな! せっかくの無人島だし、海辺よりこっちの方がずっとわくわくするし!」 エメラルドグリーンの海も、熱い砂浜も本番まで取っておくのも良い――そう考えた悠月に『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が頷いた。 時間に追われる事も無く、何かしなければいけない事も無く。 悠久の時間に身を浸す機会は都会に居ては中々無い。故に今日はバカンスなのだ。 たった一日の自由時間。されど一日の自由時間。どう過ごそうと誰も、自由―― 「ご飯の時間には遅れないでね――!」 服の下に水着を着込んだ壱也が言う。今日、南国にあるルールはそれ位。 ●夏日の楽園II 抜けるような空を、吸い込まれてしまいそうなブルーを見つめて。 (ぷかぷか浮いて――この波を楽しむの) 今日の為に用意したのは、ふわふわの水着に花柄の浮輪。 彼女の豊かな緑色の髪が美しい海の色に解けていた。 降り注ぐ太陽の光を無数に跳ね返すエメラルドの水面に抱き止められて、彼女は波に揺れている。 波に揺られて想うのは――今日、一緒に来れなかった大切な人の事。 (おひさまみたいに、あたたかくて優しい人……) 出来る事なら共に時間を過ごしたかったと想うのは、一人。 (貴方を想うだけで、熱が出そう……) 少女の寂寥感と、胸を埋める暖かな想いを――浮き輪ごと派手にひっくり返したのは、 「ええーい!」 「わ、わわっ……!?」 「ルアたーん! あそぼ!」 密やかに彼女に忍び寄った壱也だった。 「きゃ……!?」 反転、そこは海の中。 自分を悪戯っぽく見つめる壱也に泳げないルアはしがみつき、胸の辺りを緩くぽかぽか。 「もーっ! チーちゃん!」 「ごめん、ごめん」 ぎゅうぎゅうと自分を抱きしめる壱也の悪びれなさにルアの物憂げも何処へやら。 美しい珊瑚の海を二人で歩き、色とりどりの魚達と戯れた。 浜辺に上がれば、宣言した通りの追いかけっこ。 「くわわ~捕まえてご覧なさ~い……♪」 「待てよ、あひるー」 足の裏をチリチリと痛ませる砂の熱さえ心地良い。 戯れのような恋人との時間は望むべくもない最高の一時。 ――二人で、少し離れないか―― あひるが振り返ればそこには笑顔の恋人。 「捕まえた」 卑怯な不意打ちに少女は小さく唇を尖らせかけて――辞めた。 代わりに少女は少年が『言葉には』しなかった伝心に小さくこくりと頷いた。 (初めてのキスは、ロマンチックな所でするの……なんてね) ロケーションが小さな心臓が高鳴らせる楽園の姿ならば、言う事は無い。 些かの期待を込めて――今度はあひるが自分から絡めた指をフツの掌が握り返す。 「とったどー!」 水面に顔を出したモレノが天に向けて手にした銛を突き上げた。 彼の銛の捕らえたのは極々小さな魚に過ぎなかったが、本人は実に満足そうである。 「中々、筋が良いでござるなー」 共に素もぐりで魚を追いかける腕鍛が感心したような声を上げる。 「そう? じゃあ、もっと頑張ろうかな!」 満更でもなさそうな顔をしたモレノに負けじと頷いた腕鍛も肺に大きく空気を溜めて青い海に深く潜る。 (ここはいい所を見せないといけない所でござる故――) 愛しい人は浜辺で彼の帰りを待っている。 彼と、彼の持ち帰る魚を待っている筈である。 なればこそ。 「とったでござる!」 気合の入り方もひとしおというものなのだ。 「しゅーりょー!」 何故かこれは言っておかないといけない気がした。 「これが今の私の気持ちー!」 水面に駆け出して派手に転んで腹を打つ。 可愛いビキニが泣いている。何処かの鳥の求愛行動のように妙ちきりんな動作を見せる聖の姿を彼女が据えつけたカメラが冷静に記録していた。 一緒に来れなかった恋人に夏の思い出を……といった所だが、偏頭痛を持っていそうなプログラマーの反応等大体想像はつく所である。 「いったぁ! お腹すいた!」 止め処なく自由な彼女がちらりと視線を投げたのは浜辺に香ばしい匂いを漂わせる鉄板である。 「これが噂のマシュマロ焼き……!」 「色々あるからどんどん食べてな」 神妙な顔をして甘い匂いを漂わせるマシュマロを摘んだレイチェルに鉄板の主と化した喜琳が応えた。 「焼きソバ? マシュマロ? いいじゃないか! とれたての、魚、だ、と!? それは実に素晴らしい!」 感嘆符を弾幕のように散らし、騒がしいイセリアは中々良いペースで食材を散らしている。 「そこまで派手だとやりがいも出るってもんやなぁ……」 「キャンプのカレーは最高だな! 何杯でも行ける! ビールが足りない! もうちょっと右! そう! そこで胸を寄せるんだ! gut(良し)! 男は腹筋を切っておけ! はい! そこで腹筋!」 水着コンテストの予行演習とばかりに浜に立たせた聖と腕鍛をイセリアの箸が指し示す。 全力を尽くし、喜琳に魚を捧げた腕鍛ではあったが、やはり昼時の鉄板の前はそれ所では無い。 ――喜琳殿にどんなプレゼントをしても美しさに霞んでしまうわけでござるから……本当にしょうがないでござるな。 プレゼントの色気は兎も角として、差し出した魚は健啖家を食い止める一助にはなったようである。 (ホントに助かったわー……) 食材切れは白虎飯店の名折れである。 腕をぶした喜琳はじゃんじゃんと鉄板のペースを上げている。 「あら、大変ですね……」 賑やかさを増した浜辺に顔を覗かせたのは森の方から戻ってきた悠月だった。 人の手の入らない自然の風景は十分に彼女の時間を潤した。食べられる植物を幾らか持ち帰った彼女は気の効く所を見せて手伝いに入った。 (……しかし、マシュマロにこんな使い道が……) 野外での調理は慣れていないと言えば慣れていない。しかし幾らか覚束ない手つきもすぐに滑らかなものになる。 「……食べてみます?」 「……………はい」 マシュマロを差し出したモレノに何処か気恥ずかしそうに悠月が頷く。 高い太陽の見下ろす島の光景は相変わらず緩やかな穏やかさを湛えたままだった。 ――泳ぎ疲れたわたしは、貴男が採ってきてくれた南国の果実で喉を潤すの。 甘く濃厚な香り……、熱い潮風に包まれて、二人の恋は燃えさかっていくんだわ。 ああ、この楽園でずっと二人きりでいたい…… 「弱点! エア彼氏! がっでむ!」 えーと平和です。舞姫さんがどうあろうと平和でした。 ●夏日の楽園III 「ウヒヒ」 「顔が赤い? 日に焼けたのよ、ばかぁ!」 何時に無くぎくしゃくした感じのフツとあひるが戻ってきたのは暫く前。 あひるが唇をしきりに撫でてはぽーっとしているのは御愛嬌。 水平線に沈む大きな太陽を見送ったのが暫く前。島には夜の帳が降っていた。 「わ、ちょっ、わわ……」 「もーえろよもえろーよーほのおよもーえーろー」 少し困った顔のルアを相変わらず振り回すように壱也が踊っている。 組み上げられた薪を中心に赤い炎が夜を焼く。 暗闇の中に色とりどりの火花が散っている。 「私は、大玉の花火が好きなんだがな、実は線香花火も好きなんだ! あれは! 爆裂呪文のミニチュア版だろう!」 騒がしいイセリアあり、 「……林間学校以来ですね。あの時は、楽しむような心の余裕は無かったけれど。 今なら……その雰囲気も、儀式の火の舞も、素直に楽しめそうです」 静かに目を閉じた悠月もあり。 遊び疲れた者もあり、静かな夜に落ち着く者もありである。 (海なんて死んだ家族と来たきり……戦いの日々でそんな思い出も薄れてきたわ……) 面々とは距離を取り、暗い夜の海を見つめてやや自嘲気味の笑みを浮かべているのは『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)だった。 暗闇は良い。どんな顔をしていても誰にも見咎められる事は無いから。静寂は良い。自分の世界を誰に侵される事も無いから。 「……くだらない」 心の底で頭をもたげた感傷を自罰的な少女は切り捨てた。 考えても詮無い事。考えては、いけない事。彼女が小さく頭を振りかけた時、 「……!?」 頬に冷たい何かが触れた。 「恵梨香さ~ん。冷たくて美味しいですよ」 そこに居たのは缶ジュースを少女の頬に押し付けたモレノである。 悪びれた風も無い。毒気の無い笑顔に思わず形ならぬ文句を言いかけた恵梨香は喉まで出かかった言葉を引っ込めた。 「……ありがと」 瞬く星の数は一面に輝きをぶちまけたようで普段見上げている空と同じものとは思えない。 「本当に、綺麗……」 見上げた空に一際の存在感を示す月を見やり、悠月は『朔望の書』を掲げた。運命を紡ぐ時の銀輪は祈りを受け入れる程、お人よしでは無い。彼女はそれを十分過ぎる程に知っていたけれど、不思議とそうしないでいられなかった。 誰にも穏やかな時間が訪れた。 南国の夜は懐が深いのか、落日の先にも楽園の時間は揺らがない。 「……返事、なんやけど」 砂浜を臨む岩の上に並んで座り、やり難そうに切り出したのは喜琳だった。 「本気なら……その、ええよ」 「!?」 「お互いを知るトコから……って事で……えぇかな?」 「喜琳殿が本気になってくれたのであれば拙者嬉しいのでござるよ」 待ちに待ったその言葉に腕鍛の表情がぱっと輝く。 「何て伝えようか、悩んだでござるが……」 愛に時間は関係無く、多くを述べれば時に語るに落ちるもの。 「……これで十分でござったな」 ――我愛你―― 置かれた右手の上に左手がそっと重なった。 これもそう。何もそう。全ては何でもない夏の日の、出来事である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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