● 「嗚呼、長かった……長かったぞ」 暗い闇の中、老いた男性の声だけがただ虚しく響く。 「この時を迎えるまでの時間、胸が締め付けられるような思いだった……だが、今はそんなことはどうでも良いのだ」 その言葉と共に、暗い世界に一条の光が差す。 老人が点けた懐中電灯の光だった。光の先に見えるのは、老いたが為に皺だらけになった手と、それが撫でさする真白の曲線。 何処か淫靡さすら感じさせるその触り方に、他ならぬ老人が興奮している様子であった。 「さあ、共に行こう、儂の愛しき人よ……。今夜、この場所は、儂たちだけの世界だ……」 老人の腕が、『愛しき人』の背をするりと包み、そのまま抱き上げる。 心許ない僅かな光に照らされた道を、老人達はゆっくりとした足取りで歩んでいった――。 ● 「……」 リベリスタ達がブリーフィングルームに集まったとき、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、自分のウサギのポーチをじっと見つめていた。 愛玩と言うよりは観察に近い彼女の視線に対して、リベリスタ達が訝しんでいると、イヴも漸く彼らに気づき、「依頼よ」と何時ものように切り出した。 「今回の依頼は、とあるアーティファクトの回収」 言って、先ずイヴはリベリスタ達の前に一葉の写真を差し出す。 写っていたのは、三高平にあるソレよりかなり小規模なデパートのようだった。 「対象となるアーティファクトは、此処に備品として置かれている。営業時間中は客や店員の目に留まって、盗難は不可能、営業時間終了後も警備員がソレを抱きかかえて移動しているから、こっそり手に入れるのは難し……」 「「「待て」」」 説明に混じっていた、余りにも解釈に困る言葉に対し、思わずリベリスタ達が突っ込みを入れる。 「……? 何?」 「営業時間後のアーティファクトが、何だって……?」 「抱きかかえられてる」 「誰に」 「警備員に」 「……そのアーティファクトって、何だ?」 ついぞ聞いたその回収対象の詳細に対して、イヴは多少悩んだ後、こう答える。 「……お人形さん?」 「人形?」 「そう、私と同じ程度の身長をした、女の子の。何か、きれいな服も着てた」 ――それはマネキンです。 言おうとしたそれを、だがどうにかこらえたのは、今が仮にも『世界の崩界』の一端を担う真剣な場に在るからに他ならない。 「そのお人形が持つ能力は二つ。一つは自身を見た対象に魅了の状態異常を付与する能力。だけどこちらは大した威力ではないらしくて、この能力の被害にあっている人物も、今のところこの警備員のみ」 「……もう一つは?」 「時と場所関係なく、お人形に直接――薄い布や、紙越しでもダメ――触れた対象に、極限まで身体能力を向上させる能力。代償として、触れた対象はその間、多少理性が喪失する」 「……」 「話を戻すけど、営業時間中にお人形を奪うのは難しい分、回収は営業時間後……警備員から強奪するのが良いと思う。因みに警備員は定年間近のお爺さんが一人だけ」 「……」 此処でリベリスタ達の脳内に、以下のイメージが浮かび上がる。 電灯の殆どが落ちた真っ暗な店内。 一条の光が差し込むと共に、響くのはカツカツと言う足音。 光の元をたどれば、其処には懐中電灯を腰に差し、少女型マネキンをお姫様抱っこして悦に浸っている一人の爺さん。 爺さんが此方に気づくと、向こうはリベリスタ顔負けのスピードで疾駆し、拳を構えつつ、鬼もかくやと言う形相でこう叫ぶのだ。 「儂の愛しき人は渡さんぞォォォォォオオ!」 「……みんなの気持ちは、良く解る」 丁度回想が終わった頃に、イヴが沈痛な表情で声をかける。 「私から、このうさぎが奪われるのと同じように、罪も無い人から拠り所となる物を奪うのは、確かに心が痛むと思う」 ――いや違う。それ思い切り考えていること違う。 先ほどと同じように言葉をこらえた理由は、多分目の前の幼女がかなり真剣に話す姿勢に水を差したくなかったからだと思い込むリベリスタ達。 そんな彼らの胸中に気づかず、イヴはうさぎのポーチをぎゅっと抱きしめつつ、真剣な表情で言う。 「――けど、それは偽りの感情。これ以上あの警備員の人がそれに騙されたままでは、きっと不幸な事しか起こらない。だから、あのお人形を回収してきて」 なまじ解説をするフォーチュナが真剣である分、此方がすごい勢いで白けるのはどうなのだろうか、と、リベリスタの一人は後に独白したとか、してないとか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月27日(水)23:23 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●てきざい てきしょ? ――予想通り、と言うべきか。 リベリスタ達が睨んでいた場所、子供服売り場に、まさしく彼は居た。 「おお、どうだいこの服は? お前には良く合うと思うんだが……」 具体的に言えば、懐中電灯の灯りが差し込んでいる暗い店内で、少女型のマネキンをお姫様抱っこしている爺さんが。 それを見ているのは、敵を屋上まで誘導する囮役となった『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)と、そのそあらを追跡する手筈の挟撃班の面々。 流石に此処まで露骨な光景を見た一同は、揃って「うわぁ……」って感じの顔をしていた。 挟撃班の一人、『悪夢の忘れ物』ランディ・益母(BNE001403)は、苦りきった口調で言う。 「……変態なのか魅了のせいなのかは解らんが、何にしろ不幸な絵面なのは確実だな」 せめて前者は除外してあげてください。 じゃなく。 「まあ……何にせよ罪もないご老人に乱暴するのは気が進みませんし、手早く終わらせたいですね」 と、苦笑混じりに返すのは、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)。 「それにしても、お姫様抱っことはうらやましいシチュエーションなのです。あたしも大好きなあの人にして貰いたいのです」 瞼の裏に想い人の姿を描きつつ、どこかズレた発言をするそあら。 まあ、この依頼を終えたらご褒美にしてもらえるかもしれない。多分。確証は全くないけど。 と、そんな折に『威風凛然』千早 那美(BNE002169)から、携帯電話での連絡が届く。 「みんな、良い? こっちの準備は整ったけど」 「OKだ。それじゃあ始めるか。餌……じゃなかったそあら」 何故か凄い満面の笑みでそあらの肩を叩くランディ。 そあらは相変わらず、与えられた役目に釈然としないものを感じつつも、挟撃班から若干離れた位置で、近くにあったハンガーをわざと床に落とした。 安っぽいプラスチック製のハンガーが、からからと音を立てて落ちる――と、同時に。 「其処に、誰か居るのかぁ……?」 暗い店内で悪鬼の形相を浮かべつつ、ハンガーが落ちた方向にぐるりと首を回転させる、マネキン抱えた爺さん。 正直言って、かなり怖い。 そあら自身、耳としっぽが危険を察知して逆立っているのだが――かと言ってここで隠れては作戦の意味がない。 一歩、一歩。ゆっくりと近づく足音を聞きつつ、いつでも逃げられるように身構えている。 そして、大体十歩前後まで爺さんが歩んだところで。 「見ぃつけたァ――――!」 マネキンをお姫様抱っこの状態から小脇に抱えた状態に移し、スプリンターの如きスピードで疾駆し始めた爺さん。 それと同時に、店内の電気がぱちぱちと点き始める。 那美が事前にアークと相談をして、店内の電気を一時的に点くようにしたのである。 視界が確保されたことと爺さんから逃げ出すために(ほとんど後者が原因)そあらも屋上めがけて速攻で逃げ出す、のだが。 「……!? あ、ありえないのです! お人形の力とはいえ、お爺さんがこんなに強靭になるなんて、ありえな」 「マイハニーを奪う輩を逃しはせぬゥゥゥ!」 予想以上の速さによって、およそ一分も経たぬ内に追いつかれた。 挟撃班の驚愕など知らず、枯れ木のような腕を振るって、そあらが駆け上がろうとしている階段の手すりを粉々に粉砕する爺さん。 「……人選、間違えたな」 速度で突き放すか、防御しながら逃げるか。前者を選んだ結果を実際に確認しながらランディが呟くが、流石にこれを責める事は誰にも出来ない。 事前に「リベリスタ数人分の強さ」とは確かに伺っていたが、まさか速度までリベリスタ数人分に至るとは誰が予想できようものか。 せめて組み付かれないようにと、広い階段をはしっこく動き回りながら登るそあらを見て、『念のため』の準備を始める挟撃班たちであった。 ●きまらない せんとうふうけい そのいち 「も、もうダメ……限界なのです」 結局。 ダメージを受けはしなかったものの、階段を全力疾走したそあらは疲労困憊の様子で、屋上に続くドアを開けた。 対して、爺さんはアーティファクトの加護が体力にまで及んでいるのか、息を切らせた様子もない。 疲れ切った獲物に制裁を与えるために近づいた爺さんは、腕を振り上げながら嗜虐的な笑みを浮かべ、 「さあ、儂の愛しい人を奪おうとした報いを受けょボフッ!?」 ――その瞬間、扉の向こうから伸びてきた盾の面に、顔面から吹っ飛ばされた。 「……えーと、ゴメン。長引くと色々面倒だから、全力で行く」 『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)のダブルシールドであった。 敵はそあら一人と思い込んでいた爺さんは、予想だにせぬ不意打ちを頭から喰らって仰向けに倒れる。 当然、此処で手加減する彼女ではなく。 「まあ、私小細工もできないから……こんな感じで」 だしっ! と倒れている爺さんの胸元に片膝を乗せて押さえつけたレナーテは、身動きが取れなくなった彼にパンチの連撃をかます。 繰り返される殴打。 聞こえてくる悲鳴。 飛び散る血飛沫。 若干青くなりつつある仲間たち。 およそ一分後、彼女が一息ついた際を縫って爺さんは起き上がったが、その様たるや無残の一言に尽きる。 それでも尚、腫れ上がった顔でマネキンを抱きかかえている爺さんを見て、『イケメンヴァンパイア』御厨・夏栖斗(BNE000004)と『孤独を穿つ白』三村・豪志郎・茜(BNE001571)は挟撃班の面々と同様、「うわぁ……」って顔をした。 まあ確かに、視覚的にかなりの暴力だとは思える。怪我だらけの爺さんもさることながら、持っているマネキンが少女型な分、余計に。 とりあえず妙なイメージを頭から追い出すべく、二人はアクセス・ファンタズムから各々の装備を取り出し、戦闘態勢に入ることにした。 「まあ、めんどいことは考えずに倒せばいいだけだな。そあらごと」 「あたしは味方なのですよ!?」 『餌(無くてもいい)→討伐対象(暫定):悠木・そあら』 さらっと言える彼の中で、果たしてそあらはどういった位置づけなのだろうか。 それはともかく。 「残念。此処で……行き止まり」 漫才続きの面々とは違って、冷静かつ淡々と言うのは『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)。 黒弦を虚空に撓ませ、身に纏うかのように振るうその姿は、何かもうこの場に似合わないくらい格好良かった。 ……はいてないけど。 対して、流石に此処まで来ると数の優位に怯み、引き返そうとする爺さんではあったが。 「おおっと、悪いな。此処から先は通行止めだ」 「折角役者がそろったんだもの。慌てて舞台から降りる事も無いじゃない?」 観客は居ないけどね。と言う那美と、追いついてきた挟撃班の面々が、屋上の出入り口を塞いでいた。 ハメられた――と、爺さんが理解して、悔しさに臍を噛む。 「キ、貴様等……! そんなに儂とハニーのデートの邪魔をしたいか……!」 「いや、そっちには全く興味ない」 「俺達は貴方を助けに来たんです、って言っても通用しなさそうですよねえ……」 一秒の逡巡も無く返す夏栖斗と嘆息する疾風など気にも留めず、爺さんは屋上で喧々と叫んだ。 「儂らの愛は、誰にも裂かせはせんぞォォォォォ!」 ●きまらない せんとうふうけい そのに 「そんじゃま、仕事と行きますか」 言うと同時に、精神を研ぎ澄ませるランディ。 他の面々も同様に、先ずは戦闘準備を整えることに時間を費やし、攻撃を次手に持ち越す。 なりはアレでも、その攻撃力や耐久性はこれまでで実証されてきている。流石に侮ることはできない。 ――故に。 「マリオネット、ほど上手くいかないけど……止めるぐらいなら、この糸で、できる」 先ずは動きを奪うべく、天乃のブラックコードが爺さんを拘束しようとする。 向こうもそれを躱そうとするが……こと戦闘経験に於いては、リベリスタの側に一日の長が有った。 さて、此処でちょっと描写を挟んでみる。 ライトの照らされた屋上にて、空を舞い踊る枯れた肢体(矛盾) それを妖しく伸びた黒蛇たちが、徐々に絡みつき、侵食していく。 「ハァン……っ!」 思わず漏れる、無駄に甲高い悲鳴。 散っていく黒薔薇(脳内補完) 膝を着くリベリスタ達。 精神ダメージとしてこれ以上を往くものが果たして有るだろうか。 美少女に緊縛された爺さんとか、まさしく誰得である。 「……で、でもこう言うのも……嫌いじゃないわ!」 那美さん此処で強がったら逆にマズいです。 ともあれ、流石にこれ以上目の毒をただ見続けるのもアレなので、彼らも攻勢に出ることとなった。 戦斧、ツインメイス、黒糸とトンファー。 間断なく次々と飛んでくるそれらを、まさか拘束した状態で避けられる筈がなく。 「ぬぅ……っ! 若造共めが……!」 立て続けに受けながらも、意味もなく格好良い台詞を吐く爺さん。 天乃の拘束も直ぐに解除され、リベリスタ達と幾度か武器を交える彼ではあるが、リベリスタと違ってその武器は拳一つしかない。 リーチの差と、数に抗しうる戦術を組み立てる知能――。そんなものがあるわけない爺さんは、時間が経つと共に少しずつ劣勢となっていく。 ……最も。 「娘たちよ! 儂が勝った暁にはその良質な服をマイハニーに渡してもらうぞ!」 「……絶対に、嫌」 「これ以上問題起こさせる前に倒しましょう、この警備員!」 爺さんが押されている理由は、ごく一部のリベリスタのモチベーションの上昇にも原因が有ったりするのだが。 第一、リベリスタ数人分の力と言われはしても、それはあくまで「対個人」に於ける強さの指標である。 強力な個人と、例え劣ろうと仲間意識を保って連携を取れる集団で言えば、軍配が上がるのが後者なのは自然なことだ。 そんな彼らが唯一、恐れるものが―― 「……あれ、僕案外柔らかい方より硬い方が好きなのかもしれない」 「あ、あたしはさおりん一筋のはずなのです! なのですけど~……」 ――件のアーティファクトによる、魅了能力であった。 「ったく、そあらだけなら兎も角、御厨もか!」 「今現在は優勢ですけど……ちょっとマズいですね」 確かに、これはかかる確率が低い上に、数秒経てば回復する程度の弱い効果では有るものの――かと言って「かかった後の対策」のみを立て「かからない為の対策」を講じなかったリベリスタ達は、結果としてこの二人の反抗を許してしまう。 「余力も少ないんだけどねえ……流石に此処で出し惜しみはしてらんないか」 ぼやくように言いながら、レナーテは盾に癒しの光を纏わせ、戦場全体を包み込むように光を拡大させる。 光を浴びることによって夏栖斗は意識を取り戻したものの、もう片方――そあらの魅了は、いまだ解ける気配を見せない。 ……だから、と言うわけでもないのだろうが。 「……? あれ、僕ひょっとして魅了されてt」 しぱーん! と言う快音と共に、我に返った瞬間の夏栖斗へそあらの平手が飛ぶのも、まあ仕方ないことだと思っていただきたい。 「流石にこれ以上、アーティファクトに囚われたままは可哀想ですし、ね!」 さておき。 いたく真面目に戦闘を続ける疾風たちに対して、最早息も絶え絶えと言った様子の老人だが、未だに闘志を弱める気配は無い。 「ま、未だじゃ……! 儂はこれから、ハニーと共に甘い日々を過ごすんじゃ! ドライブや食事を楽しんだり、色んな所に旅行に出かけたり、ゆくゆくは息子夫婦や婆さんと共に余生を過ごして……っ」 「アンタ妻子持ちかよ!?」 ランディさん突っ込みありがとう。 「なら、尚のこと、助ける……」 戦闘も幾ばくかの時が過ぎ、身体は疲労している筈にも拘らず、天乃の弦捌きは衰えるどころか、より一層研ぎ澄まされている。 今一度飛ぶ黒蛇の群。しかしそれらは極限状態の爺さんが一本一本を的確にいなし、防いでいく。 その先に立つのは――多少の傷を負ったままのランディ。 そあらが魅了されていたことによって回復が間に合わなかったその身は、一応の余力こそ有るものの、打ち所が悪ければ生命の危機に関わる恐れがある。 だが、彼は防御しようとしない。 後の先――若しくは返す刀を以て爺さんを倒すべく、戦斧を両手に握り、腰だめに構える。 「これが……これが儂の最後の一撃じゃ……!」 「面白え……魅せてみな!」 拳と鋼、両者が交わる。 一瞬の交錯の後に倒れたのは―― 「お、おの、れ……」 爺さんのほうであった。 対するランディはと言えば……。 「……っ。無茶したなあ」 拳を受ける直前、レナーテが攻撃を盾で肩代わりしたため、彼自身に怪我は全く無かった。 「あ、ああ……」 爺さんは、渾身の一撃を受け止められたレナーテに対して、腕を伸ばし、言う。 「……その服も、マイハニーに、似合いそ」 「とう」 レナーテさんもう殴らないであげてください。 ●うるわしい なかまいしき あの後。 アーティファクトを回収したリベリスタ達はそれを寝袋に梱包して、アークの別働隊に運んでもらい、爺さんについても念のために病院へ搬送されることとなった。 そうして全てが済んだ後、リベリスタ達は、近くのファミレスで祝勝会を挙げていたのである。 因みに、その支払いに関しては―― 「ほんとにそあらはこまるよな! ランちゃん」 「そうだなあ。これは奢ってもらうことで借りを返してもらわなきゃな」 「そ、そあらさん、皆さんに迷惑なんてかけてないのです!」 そあらも反論するが、その語調は強いとはいえない。 少なくとも今回のアーティファクトが放つ魅了能力に関しては、かかったものは魅了されている間の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまうらしく、そのためにそあらも記憶が無い間、自分が何をしたか覚えていないのだった。 ――ついでに言うと、魅了状態の彼女に引っ叩かれた某ヴァンパイアが、仕返しに何度もローキックぶちかましまくってた記憶とかも、当然無かったりする。 もごもごと口の中で言い訳を考えているそあらに対して、どかんと容赦なくメニューを広げて、一面のメニュー全てを指差す天乃。 「注文、いい? ここから……ここまで、全部」 「お金に困ってるわけじゃないけど、タダ飯ってのは何だかんだで気分が良いモノだよね、と」 レナーテも同様にメニューを決めつつ、能天気な一言をポロリと零す。 「うん、こう言う奢られ方も嫌いじゃないわね。次に機会が有ったら、同じように提案してみようかしら」 「……あの、お金、幾らか出しましょうか?」 他の面々と同様に容赦ない那美の発言の後に、恐る恐ると言った様子で疾風がこっそりとつぶやく。 「……だ、大丈夫なのです。あとでこっそり、アークの経費で落としてもらうのです」 強がるそあらの言葉が果たして叶ったかどうかは――この報告書を読んでいる皆さんのご想像にお任せする。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|