●なんとかにアーティファクト 「アーティファクトを持った覚醒したての宙ぶらりんが、宝石を運搬車を襲撃しようとしている。止めて」 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は、そう口にした後、小首をかしげた。言葉が足りないと思ったらしい。 「正確に言うと、人間を無力化して、アーティファクトを回収もしくは破壊して」 生態活動を停止させないで。と付け加えた。 「種族、ジーニアス。ジョブ、プロアデプト。実戦経験なし。戦闘能力だけなら、あなた達一人と同じくらいの強さ」 資料に目を落としながら、淡々と情報を告げる。 「ただ、アーティファクトが厄介。名称は、『ヘルメスの甲羅』形は黒い小袋。所持者は戦闘開始から5ターン後に必ずその現場から逃走できる」 だから、8人チームを編成する。と、イヴは言う。 「彼はあなた達に極力ダメージは与えないようにする。そこに美学を感じてる」 「なんで」 「………怪盗志望だから」 「え?」 「ア-ティファクトの代償。盗みの才能が開花し、実行せずにはいられなくなる」 イヴは、再び書類に目を落とした。 「彼は、信号待ちで停止した宝石運搬車に近づき、運転手と保安員を無力化した後、目当ての宝石だけを取り出すつもり」 「いや、そんな稚拙な手段じゃ無理でしょ」 そう言うリベリスタに、イヴは一つ頷いた。 「普通は無理。でも彼はそれが可能な場所とタイミングを算出している」 あぶねえ。才能開花したプロアデプト、半端ねえ。 「遭遇すると、彼は隙を突いて逃走を試みる。5ターン経過時点で、無力化できなければ、アーティファクトの効果により確実に逃げ切られる。次現れるときは、アーティファクトのせいで、多分フィクサードになっている」 イヴは、リベリスタたちを見つめた。 「フィクサードとの差は紙一重。怪盗志望もカッコイイと思っただけ。具体的には何もしていない。アーティファクトを取り上げれば間に合う」 夢見がちだけど。と付け加えた。 「不埒な考えにおしおきするつもりで、無力化して。後は別チームが彼を引き受ける」 「連れてきちゃいけないのか?」 「彼らに任せて欲しい。……理由、聞きたい?」 「え……」 「隠し事はしたくない。聞きたいなら、フォーチュナー権限で話す」 真摯な眼差しから、イヴのチームへの誠意が痛いほど伝わってくる。 「なお情報漏洩が確認された場合連帯責任で全員にしかるべき処分が下る場合がありますのでご了承下さいそれは」 内容に到達する前に、リベリスタ達は耳を塞ぎながら、大声を上げて遮った。 「あ~あ~!聞こえない~!」 「お気持ちだけ受け取ります。別チームに引き継いできます!」 「ほんとに?」 「いい。むしろ聞かせないで欲しい」 「ありがとう。では、いってらっしゃい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月17日(日)02:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●3.2%の誤差 拾ったアーティファクトの副作用で、怪盗方向に覚醒しつつある宙ぶらりん。 仮称怪盗君は、派手な赤ジャケットを羽織ると路地裏から姿を現した。 逃走用に放置自転車を用意しようとしたのだが、ハンドルを握ったとたん例の変な小袋に吸い込まれてしまったのだ。 よく見ると、『逃走の代償は、最高の盗品』と刺繍してあった。 初めての盗み。唯一だから、ぼろぼろの放置自転車でもそれが最高。三台試したところで諦めた。 徒歩でも問題ない。96.8%でこの作戦は成功する。 この宝石を皮切りに、華麗な怪盗家業に身を投じよう。 わくわくの日々に思いをはせる怪盗君は、目当ての宝石運搬車が停止すると同時に現れた、駐車場の入り口に立つ青年、あるビルの窓、別のビルの屋上から落ちる影のため、計算に誤差が生じたことを悟った。 ●少女繚乱 その20秒前。 「かっこいい怪盗ね……理解出来ない感性だ」 呟くコモドオオトカゲのビーストハーフにしてソードミラージュ『捜翼の蜥蜴』司馬鷲祐(ID:BNE000288)の手には、銀色の篭手といつでも抜けるように用意されたナイフ。 保護とか考えてません。ヤル気満々。 そして、その周囲にたむろする、10歳前後の女の子が五人。 この駐車場には隠れるのに適した物陰がない。短期決戦、相手にはバレバレなら隠れない。合理的だ。意図しない視覚効果が破壊力満点だが。 「模範カイトウってやつを見せてやります!」 フライエンジェのプロアデプト『Trompe-l'?il』歪ぐるぐ(ID:BNE000001)は、予告状を突きつける気満々。 (怪盗は漫画のなかだからこそ輝くとは思うのだが、憧れる気持ちはあるのだろう。ボクは少女だからそれはわかる気がする) フライエンジェのインヤンマスター『百の獣』朱鷺島雷音(ID:BNE000003)は、怪盗君の心中を慮る。 「怪盗志望って……いまどき怪盗ってどうなのかな?」 「よくわからないの」 ぶつぶつと肉体一人で魂二人姉妹の会話しているフライエンジェのナイトクリーク『二重の姉妹』八咫羽とこ(ID:BNE000306)の心中を本当に察するものはこの場にはいない。 (探偵を目指すものとしては、怪盗との対決は避けられないよね。必ず捕まえてみせるよ。じっちゃんの名にかけて!) 探偵として怪盗との対決に闘志を燃やす、猫のビーストハーフでナイトクリークの『猫耳探偵』有沢せいる(ID:BNE000946) (ほんとーの怪盗なら、すっごーい豪邸とか美術館とかに展示されてるのを、じぜんに挑戦状おくりつけてから盗むはず? だから、まちがってるーって教える。ちゃんとした怪盗になれるように。ん、冥華えらい? えらい?) きょときょととうさ耳を揺らしつつ、ウサギのビーストハーフでスターサジタリーの『うさぎ型ちっちゃな狙撃主』舞冥華(ID:BNE000456)は誰かがほめてくれるのを待っている。 まさしく、百花繚乱。その筋の方々垂涎の状況も、巨乳好きの鷲祐にはどうでもいいことだった。 彼女たち5人が、怪盗君を取り囲む。 「君達は、俺を捕らえに特務機関から送り込まれたエージェント! ドラマ始まり過ぎてるっ!」 毒電波のごとき直観。間違っていないから始末が悪い。お見通しの所と三下加減が、絶妙のハーモニーで、とほほ感をかもし出す。 信号が変わり、無事に宝石輸送車が発進していく。96.8%崩壊の瞬間だった。 ●ビギナーズラック 「アクセル入れるか」 鷲祐が先駆けて動いた。幻像剣。 「まだだ。俺の怪盗人生はまだ始まってねーんだ!」 何本かの髪が宙を舞った。 ひええと声を上げ、もんどりうちながら怪盗君は辛くも鷲祐の一撃を潜り抜けた。 悪い当たりではなかった。直撃ならばかなりの痛手を与えられたはずだ。 しかし、怪盗君は幻影にまったく見向きもせず、鷲祐本体を見切っていたのだ。 「俺は、絶対に逃げ切って見せる!」 怪盗君は吼えた。 「ボクは有沢せいる、探偵だ。探偵として君に言うことがある。君はまだまだだよ! 探偵の責務として、怪盗の美学を叩き込んであげるよ!」 これは隙を作るためだけではないと、せいるが声を張り上げた。 「怪盗の美学その1。怪盗が盗むのは美術品か宝石か人の心!」 ビシッと指差すのを忘れない。これは探偵の美学だ。 「今回の俺の獲物は宝石だ!」 怪盗君、美学その一は合格。 「怪盗? 予告状の一つも出さぬ奴が怪盗? 笑わせてくれるじゃあないか!」 頭上から、高らかに挑発的な台詞と共に、蛇のビーストハーフにしてプロアデプト『探偵に追い掛けられたい』アルテスタ・ルノワール(ID:BNE001573)が太陽を背に姿を現した。 ビルの屋上で翻るマントと顔を覆う仮面。正しく怪盗である。 (既視感があると思ったら昔の自分に似ていた。なんか嫌) スタイリッシュな事が怪盗の条件と考えているアルテスタは、怪盗君を見て言い放つ。 「その衣装は床屋のサインポールか何かかね?」 (正直そのだっせー服装からどうにかしてくれ……テーマぐらい統一しろ……) 苦渋に満ちた独白と言葉の鋭さと共に放たれた気糸は、怪盗君の足元に突き刺さった。 怪盗君は、また辛くもよけたのだ。 「予告状は鋭意デザイン中なんだよ!」 あわあわとしゃべりながら、怪盗君はせいるに向かって、トラップネストを繰り出した。 死角から迫る糸は、せいるの四肢に絡みついたが、懸かりが浅く風に千切れ飛んだ。 「0.0043秒、ためが短かったっ」 怪盗君が呟く。台詞は三下テイストなのに、行動だけは出来る奴。 「逃げるのがわかっているからこそ、早くなんとかしないとな」 雷音は手の中の式神符を握り締め、集中した。 仲間と連携し、波状攻撃になるように攻撃タイミングを調整する。 ぐるぐは、コンセントレーションを実行しながら超直感で怪盗君の隙を探る。 彼女には、また別の目的があった。 「麻痺狙い」 「そうだね」 とこはとあと会話をしつつ、全身から気の糸を繰り出して、怪盗君にギャロッププレイを仕掛ける。 チーム初ヒット。麻痺はしなかったが、怪盗君にそれなりのダメージを与えることが出来た。 怪盗君に隙を見せないようにと、全員が心がけていた。 MIB的な黒いスーツに身を固めた メタルフレームのプロアデプト『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(ID:BNE000877)は、広範囲に警戒するため潜伏していた最寄のビルの窓から、今が好機と見定めて駐車場に降り立った。 すでに、コンセントレーションを使っている。 駐車場全体が射程範囲に収まる位置に陣取り、マジックガントレットを構えた。 互いの間合いに気を配り、じりじりと動く。 時間を砂漠の水のように貴重に感じても、彼らは手間を惜しまなかった。 このおかしなプロアデプトを残り40秒で地面に沈める為に。 ●怪盗たる者、かくあるべし。 「……さぁ、見せてみろ。お前のかっこよさを」 鷲祐は、ハイスピードを使い、アクセル全開、ギアをトップに切り替えた。 「かっこいい回避? え? え?」 加速し、分身と本体が交錯する鷲祐の攻撃を避けることは、怪盗君の演算をもってしても出来なかった。 いい一撃をもらって、地面を転がり、かろうじて起き上がる姿はお世辞にもかっこいいとはいえない。ジャケットの袖がばっくりと裂けた。 コンセントレーションを使ったアルテスタも屋上から飛び降りた。 スタイリッシュな怪盗たる者、自分が飛び降りて戦闘に支障がないビルを選ぶのは当然であり、着地の衝撃を生存執着で切り抜けるのも織り込み済みである。大丈夫。痛くても泣かない。我慢。 雷音の指摘は冷たく辛辣だ。 「計算だけで確実になど、スリルと美学が足りないにも程がある。あとは君は名前はあるのかな? 名前のない怪盗など、盗人ではないか」 「名前は自分で付けるもんじゃない! 人呼んでってのがかっこいいんだ!」 すかさず反論に転じる怪盗君。回避用脳内計算回路、一時停止。 その隙を逃さず雷音の手から符が放たれ、黒い翼を広げた鴉が怪盗君の腹を突き刺す。 集中の賜物。正確無比に放たれた符は、怪盗君の回避を許さなかった。 ぐるぐは、ピンポイントで脚狙い。気糸が、怪盗君の脚を貫く。 「あし、あしにいとがっ! なにすんだよ、お前! 何してくれてんだよ!」 所詮一般青年、怪盗君。ナイフで切られるというのは想像できても、よくわからない糸に貫かれるという状況に、頭に血が上る。 「冥華のせーみつ射撃ごひろうする」 ちゅいーん!その耳元を冥華のライフル弾が掠め跳んでいった。怪盗君、危機一髪の回避。 「ん、ふつーに逃げるんじゃ怪盗違う」 冥華、ちょっと不満そうにツッコミ。 「ふざけんな! ライフル撃たれたら、ふつーに逃げるわ!」 怪盗君、涙目。ツッコミのため脳内回路停止。地団駄、発動。 「普通は夜に現れるものだと思うの」 ツッコミを忘れない彩歌のマジックガントレットから更に一発。怪盗君のジャケットに大穴が開いた。 「自分に適性が無いとわかってくれれば考え直してくれるはず」 彩歌の心からの言葉が、怪盗君のハートの柔らかい所をひときわ大きくえぐった。 ●心身ともにおしおきよ! リベリスタは、見事に連携していた。 「なんだか知らんが、俺より遅くて務まる程度のものか? 怪盗ってのは」 「速きゃいいってもんじゃないだろ!」 そこにすかさず、とこのハイアンドロウ。 「怪盗とはどうあるべきかっていうのは……他の人たちに任せるの」 「とあたちは怪盗のことよくわかんないしね」 適材適所。 「それでも海賊か!」 「怪盗だ!」 そこにすかさず、アルテスタのブラックジャック。 「怪盗はイケメン以外認めない! 素顔を隠す仮面をつけること!」 「矛盾してるよ!」 そこにすかさず、冥華の1$シュート。 悪口言いながらの攻撃。回避しながらツッコまないでいられない怪盗君の隙を逃さず、別の者が波状攻撃。 怪盗君の姑息な回避で、麻痺させたりは出来ないものの、確実にその体力を奪っていった。 というか、心を削る悪口の嵐で、怪盗君のヤル気は下降の一途をたどっていた。 それでも5ターンまで粘りに粘った怪盗君の最後の気合を振り絞ったトラップネストを振り切った冥華は、 「ん、縛るの趣味? 怪盗じゃなくって変態?」 一般青年が少女にされたら立ち直れなくなる典型的な質問をした。 「ち、違う……!!」 否定の声が慟哭に近い。心が砕ける音がする。 「一度捕まってから、華麗に脱出するのが怪盗だよ。というワケで捕まれ!」 せいるのブラックジャック。黒い三叉の光が、怪盗君の頭部に叩き込まれる。 「無茶言うな……」 探偵の一撃で、怪盗君は最後のツッコミをはいた後、駐車場のアスファルトに崩れ落ちた。 ●大丈夫大丈夫心配しないで大丈夫大丈夫(以下繰り返し) 「ボクらに捕まって、反省するんだね」 せいるの声を受けて、ボコボコにされた怪盗君は「大丈夫大丈夫……」と別チームによってあっというまに搬送されていった。 ほっとした空気が辺りに流れた。 「彼の盗みには随分と遊びがない」 今まで黙っていたぐるぐの口調が急に変わった。 一同が振り返った先。コートを脱ぎ捨てて手にした黒い小袋を見せつつ、ぐるぐは、いや、怪盗ぐるぐ二世は、ほほえんだ。 「ヘルメスの甲羅」を狙っていたもう一人の怪盗は、仲間の隙をみて、怪盗君の内ポケットから黒い小袋を取り出していたのだ。 「少年に伝えてくれ。君の“夢”は怪盗ぐるぐ2世が頂いた。悔しかったらいつでも取り返しにおいで。その子供っぽいプライドこそ、なにより怪盗に必要なものだよ。きっとね」 1枚のカードと共に煙幕を放り、消えたかのように華麗に逃走。 すばらしい逃げっぷり。怪盗君に爪の垢を煎じて飲ませたくなる。口上も、直接怪盗君に聞かせてやりたかった。 「ぐるぐ、怪盗なら一緒にごよーした方がいい?」 イーグルアイで狙撃も自信ありの冥華は、小さくなるぐるぐの背中にライフルを構える。 「大丈夫。ジャケットはアーティファクトの破壊を目的に撃ちましたから、アーティファクトはすでに壊れています」 彩歌は、はきはきとそう言った。そう言えば、あのとき以外、綾歌は怪盗君の脚を狙っていた。 (人間、追い込まれたときに自分の大事な物に意識が行くから、それで正確な位置を探って直接破壊できればいいのだけど) そういう意図で放たれたプロアデプトの計算され尽くされた一撃は、怪盗君のハートだけではなくヘルメスの甲羅もお陀仏にしていたのだ。 「盗みそうな人には渡さず。すぐ破壊するつもりでいたんです」 怪盗ぐるぐ二世はまだ気がついていない。皆に見せたダミーの小袋ではなく、懐の本物のヘルメスの甲羅にはすでに大穴が開き、再起不能の布切れになっていることを。 仕事の無事完遂を確認し、チームは現場を離れた。 『無事盗賊を倒せました。怪我はしていません。アーティファクトは厄介ですね。早めにかえります。かしこ』 雷音が歩きながらメールを発信する。 (彼も間違えなければよい怪盗になると思うのだがね。いや、怪盗に良いも悪いもないが……) 最後に残された三人目の怪盗アルテスタは、彼の流儀どおりスタイリッシュに、駐車場を、いや、舞台を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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