●決断の夜 林の奥にひっそりとたたずむ古びれた廃屋。大き目のリビングと寝室だけの簡素な山小屋のような家だ。 そのリビングでは二人の男がテーブルを挟んで座り、そのテーブルの上には今しがた間で食事をしていたのか空になった食器が並んでいる。 赤髪のチンピラ風の男と黒髪の侍風の男――キャンとマンジという名のフィクサードだ。 「で、マジでどうなるんだろうな?」 「さあな。だが、こちらが切られるのも時間の問題だ」 キャンの問いにマンジは現状を省みてそう予想を口にした。 悪の結社を名乗りフィクサードとして活動している彼らは最近落ち目だ。仕事も失敗し、そして副隊長も先日捕らえられてしまった。 これで自分達の評価がどうなっているかなど想像に難くない。 その時寝室の扉が開いて深緑色の髪をした少年が軽く溜息を着きながらリビングへ現れる。 少年は疲れたと言わんばかりに椅子に座るとだらっとテーブルに突っ伏す。 「それでケット。シュガー隊長は?」 「やっと寝てくれました。ただ、やっぱり無理してますよね」 ケットと呼ばれた少年は顔だけ上げてそう報告する。 副隊長が捕らえられた次の日からもいつも通りに笑いながらこう言ったのだ。 『さっ、レイトが帰ってくるまで私達だけで頑張ろー!』 シュガーも馬鹿ではない。捕らえられたレイトが帰ってくるなどほぼ夢物語だ。 それでもシュガーは気丈に振る舞いまた悪の結社として活動を続けている。 だが、参謀役でもあったレイトを欠いた状態では上手くいくものも上手くいかない。 「どう考えてもこの先は破滅だなぁ」 「破滅で済めばいいがな。寧ろ先がない可能性が高い」 曲がりなりにも組織としてフィクサードの活動しているのだ。少なからず内情を知る駒を何もせず放りだすなんてことはありえないだろう。 突然『ダンッ』っとケットがテーブルを叩く。力加減を誤ったのか木製のテーブルには亀裂が走りもう一発殴れば簡単に砕けるだろう。 「そんなこと、許さない!」 少年故の激情か。キャンとマンジはやれやれと言った様子で肩を竦める。 「どうするよ?」 「やるしかあるまい」 互いに視線を交わしてから二人は席を立ち上がる。 「えっと、何処へ? あっ、それなら隊長起こして……」 ケットはそう言って腰を浮かせた途端に突然に脚に力が入らなくなりまた椅子へと座ってしまう。 「あ……れ……?」 さらに手も動かず視界までもぼやけてついにはそのままテーブルに突っ伏して気を失ってしまった。 ケットの背後、そこにはいつの間にか移動したのかキャンが右手をぷらぷらと揺らしている。 「ホント、損な役回りすぎじゃね?」 「それを子供に押し付けるわけにもいかないだろ?」 全くだとキャンは大笑いしながら小屋の出入り口の扉へと歩く。それに続いたマンジも口元に小さな笑いを携えていた。 ●懇願の涙 「お願い、二人を助けて!」 突然アークに外部から通信が入ったかと思えば開口一番にそんな言葉が投げかけられた。 泣きじゃくる少女の隣で憮然とした顔をした少年が事情を説明する。 自分達がフィクサードであること、そちらと交戦した事があること、そしてある情報を持っている事。 それらの言葉によりその通信はとあるブリーフィングルームへと繋げられた。 「初めまして。で、いいよね」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はモニター越しにそう挨拶する。 其処にいるのはイヴと数名のリベリスタ達。今までとある事件への説明を行っていたのだがそれに関係があるとしてこうして直接通信を繋げている。 「この人達が貴方達のお友達でしょう?」 イヴはそう言ってコンソールを操作するとモニターの一部にある映像が映し出される。 赤髪の男と黒髪の男がどこかの建物で暴れまわっている姿だ。その二人は既に全身傷だらけで満身創痍。致命傷を貰っていないだけというボロボロな姿だ。 「キャン! マンジ!」 それを見た少女――シュガーは二人の男の名前を呼びまた涙を零す。 シュガーの肩を抱いて支える少年――ケットは変わりにと言葉を紡ぐ。 「取引をしませんか?」 ケットは条件を提示する。あの二人を救って欲しい、その代わりにこちらの持つ情報を全て提供すると。 「必要ないよ」 ケットは顔を顰める。だが、それを見たイヴは首を横にふるふると振って言葉を続けた。 「取引なんてする必要ない。元々そうする予定だから」 その言葉にケットはきょとんと呆けた顔をする。 曲がりなりにもキャンとマンジはフィクサードだ。その二人を助けるという理由が分からない。 「先にそういう約束してるの、あなた達の副隊長さんと」 「レイトは無事なの!」 副隊長という言葉にシュガーが反応する。イヴはそれにこくりと頷いて見せた。 レイトはアークに捕らえられてから協力的だった。その代わりにと仲間達の身の保障を要望していたのだ。 そして今回はその一環。勿論、フィクサード組織の拠点の一つを潰すというお題目の下であるが。 「それともう一つ頼まれてる」 「もう一つ?」 モニターの画面が移り変わりそこには一人の少女の写真が映し出された。 金髪をしたロングヘアーの少女、ただ何故か写真の少女はご立腹なのかとても目つきが悪くこちらを睨んでいる。 その少女のことを知っているのかシュガーとケットは目を丸くして息を呑む。 「名前はクレア。彼女の救助も今回のお仕事の一つ」 リベリスタ達にはこのクレアという少女がどういう子なのかは分からないがこれから赴く場所に捕らわれているらしい。 つまり助けるべき人物は三名に合わせて、ついでにフィクサードのアジトを潰してこいという依頼になる。 「そういうことだから。皆、頑張ってね?」 「お、お願い……しますっ!」 振り返って微笑むイヴと、モニターの向こうで涙を流しながら頭を下げるシュガー。 リベリスタ達はそれを背中で受け止めながらブリーフィングルームを後にする。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:たくと | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月22日(月)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●雨音は止まない 「……そう、分かった。ありがとう」 耳に当てていた携帯電話を降り畳んだエリス・トワイニング(ID:BNE002382)は静かに息を吐く。 通話の先はイヴ。アーク本部にて申請していた件の回答の連絡であった。 「それでなんやて?」 エリスと連名して申請していた『イエローシグナル』依代 椿(ID:BNE000728)は銜えた煙草を揺らしながらそう問う。 申請内容はシュガーとケット、そしてレイトの三人のこの任務への応援要請だ。 「簡潔に言うと……レイトは駄目。シュガーとケットは……アークからは要請は出せない」 それがイヴ――アークからの回答だった。 レイトは協力的とは言え悪事の果てに捕まっているのだ。早々自由にさせる訳にはいかない。 シュガーとケットはまだフィクサードと識別されている以上、アークから要請の出しようがなかった。 「あ、でもクレアさんのことはちょっと分かったね」 送られてきた情報を確認して『千歳のギヤマン』花屋敷 留吉(ID:BNE001325)はにこりと笑う。 その情報ではクレアもフェイトを得たエリューションの一人であり、その能力はホーリーメイガスらしきことがレイトの証言で分かっている。 「増援は無しか。だが問題はないな」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(ID:BNE000680)は帽子を深く被り直すとその青い瞳で正面を睨む。 道の先、丁度その突き当たりにある雑居ビルが目的地であった。 雑居ビルの入り口の壁に背を当てた『高嶺の鋼鉄令嬢』大御堂 彩花(ID:BNE000609)は僅かに思考する。 アレだけ騒がせたフィクサード連合も今やこのような自壊する有様。所詮は烏合の衆である以上この流れは自明の理であろう。 「ともあれ彼らの救出には一刻の猶予もなさそうですし、急ぎませんと」 そう口にして扉の反対側に自分と同じく背を当てている『終極粉砕機構』富永・喜平(ID:BNE000939)は一度頷くと扉のノブに手をかけ、一気に開く。 リベリスタ達は一気にバーになっている店内に侵入する。ここには敵の気配はない。ならばと足を止めずに奥にあるという階段へと向かう。 外に居る間に雨音に掻き消されて僅かにしか聞こえなかった戦闘音がここでははっきりと聞こえる。それはキャンとマンジが生きていることの証であるがそれで安心するには早い。 「突入する」 二階に辿り着きウラジミールは仲間にそう呟いたところで目の前にある扉を蹴り破った。 「何事――っぁ!」 扉が砕け散る音に反応した男がいた。だが、その男は運悪くその扉の正面におり砕けた扉の破片とウラジミールの靴底を背に受けフロアの中央にあるデスクへと激しくぶつかる。 すぐさま二階フロア内を見渡せばそこに居る人数は九名。フロアの一番奥で戦闘している六名と入り口付近にいる三名に分けられる。 「雑魚サードさんらはうちが相手してやる」 口に銜えた煙草から紫煙が昇らせた椿はリボルバーの引き金を引く。だがそこから放たれるのは鉛の弾丸ではない。 その放たれた呪力は銃口を抜けた瞬間に発動し、散弾のような水の雫となって正面に並ぶフィクサード達に降り注ぎ、触れたその部分を凍結させていく。 「くそぉっ、何だテメェらはぁ!?」 一人のフィクサードが刀を振るう。その動作で起こる真空の刃が走るが、狙われたウラジミールはそれを手にした盾をかざして易々と防ぎ。 「ここは任せる」 「僕も一緒に行くよ!」 ウラジミールは入り口を任せるとこの場の三人は無視しフロアの奥へと盾を構え吶喊。それに留吉もその背中に続く。 三人のフィクサードは一瞬それを追おうとするが向けられる殺気に入り口側へとそれぞれの得物を構えて向き直る。 「首魁はここにはいないのですか。貴方達では役者不足ですが仕方がありませんね」 「まあまあ、それだけ楽が出来るならそれに越したことはないよ」 明らかな挑発とも取れる言葉にただでさえ沸点の低いフィクサード達はその表情に怒りを露わにする。 それにガシャリと互いに音を立ててそれぞれの武器を構えた彩花と喜平は似たような笑みを返した。 一方で雨降りしきる中戦闘が行われている雑居ビルの隣のビルに立つ二つの人影がある。 「どうなっているんだ?」 腕を組み雨に打たれながらぼそりと『悪手』泰和・黒狼(ID:BNE002746)は問う。 その隣に立つ女――『紅翼』越野・闇心(ID:BNE002723)はその目に映すモノを別のモノに変更する。 「三階に熱源は二つ。大きさ的に一人は子供、一人は大人だ」 子供の方が恐らく救出対象のクレア、そしてもう一人の大人はその見張りか、若しくは……敵の幹部。 闇心の瞳には手の届くような距離にある二つの熱源。突入はまだ躊躇われた。 ●憎めない奴ら 二階フロアの奥。動かなくなった左腕をぶら下げるキャンと、頭から流れる血に片目を潰されたマンジは突然に目の前に現れた人物に僅かに呆ける。 「あん、これまた見た顔だな」 「だがここで見るにはおかしいな」 「下がって、回復を受けて!」 何時も通りの調子で言葉を零す二人に留吉は銃を手にしたフィクサードに燃え盛る爪をかける。 「援護に来た。まずは傷を癒せ」 ウラジミールは大剣を振りかぶったフィクサードの顔面を盾で殴りつけて後ろへと下がる為の道を作る。 突然現れた在りし日の敵に、そしてその敵が何故か自分達を助けることにキャンとマンジは顔を見合わせて同時に首を捻る。 「遅い……亀より遅くて……私の方が先に着いた」 と、ウラジミールと留吉が四人のフィクサードを相手にしている間を縫ってエリスが軽い毒を吐きつつ二人の前に現れた。 「あっ、お前さんは副隊長に食われてた幼女だな」 ゴスッと鈍い音がした。 キャンがエリスを指差してそう言った瞬間。エリスの手にしていた魔道書が振り下ろされたのだ。 「ぐおぉ、重傷人になにしやがるぅ」 「マンジ、今のはお前が悪いぞ」 頭を押さえて呻くキャンにマンジは呆れ顔。二人とも怪我の割には十分に元気なようだ。 エリスはその様子に僅かに安堵を覚え、二人の傷を癒すために魔道書のページを捲る。 「待て」 「……何?」 頭を摩りながらキャンが手を伸ばしエリスを制する。エリスは魔道書のページを掴んだまま僅かに首を傾げた。 「何で俺達を助ける?」 もっともにして、一番重要な疑問。リベリスタ達にとって彼らフィクサードは全員敵のはず。なのに何故助けるのか。 エリスはその問いに頭にあのシュガーの泣き顔が浮かび上がる。 「……貴方達を………助けたいから」 その言葉が喚起となり魔道書が歌う。癒しの福音がキャンとマンジの傷を見る見る内に消していく。 動くようになった左腕の具合を確かめキャンはニヤリと笑った。マンジは額の血を拭って今まで閉じていた片目を開く。 「「感謝する(ぜ)」」 同時にそんな言葉を残し、復活した二人は近くにいるフィクサードに襲い掛かった。 二階フロアの入り口では激しい戦闘が続く。 人数にすれば三対三の戦い。その戦いは今拮抗している。 「子供なんて人質にとって。自分ら何しとるんや!」 「そりゃあ悪い事だよ。ひゃはは!」 下卑た笑みを浮かべるフィクサードは椿の放つ呪力の弾丸を片手盾で防ぐ。そして盾に隠すようにしていたナイフを手首のスナップだけで投げた。椿は小さく舌打ちし広げた扇子で飛刃を払い落とす。 その体勢の椿へと刀を手にしたフィクサードが迫る。だが、その刃が閃く前に横合いから放たれた散弾を避ける為にその体を急制動させた。 「止まっちゃっていいのか?」 フィクサードの背中から声が聞こえる。すぐさまそこに刀を振るうが、そこには誰もいない。 と、次の瞬間にフィクサードの顎を打ち抜く衝撃。そこから始まり背中、足、腹部と連続で殴打による衝撃が続く。 「……効かんな」 「嘘だね。まっ、真偽はすぐに分かるよ」 口元を拭ったフィクサードに、喜平は正面に現れて銃を向けた。 銃声が鳴った時、彩花は大柄のフィクサードの振るう戦斧を避けデスクの上に飛び乗った瞬間だった。 目標を失った戦斧はタイルを砕きコンクリートと拉げた鉄筋を露出させる。 「鈍間ですわね。その程度でわたくしを捉えられるなんて片腹痛いですわ」 戦斧を構え直す前に彩花の鉄の拳がフィクサードの側頭部を捉える。揺れるフィクサードの巨体、だが足で地面を叩き踏みとどまる。 横薙ぎに振るわれた戦斧を彩花はデスクを蹴って宙を舞い、フィクサードを飛び越えて仲間二人の近くに降り立つ。 「雑魚さーどでもやっぱり強いんやね」 「そりゃあ俺達と違うのはここだけだろうしね」 新たな呪力を銃に込める椿の言葉に、喜平は自分の胸の辺りを叩いて見せた。 そう、リベリスタとフィクサードの違いはハート、心の持ちようだけなのだ。 「それでも勝つのはわたくし達ですわ!」 拳を握り構えを取る彩花はその両腕に炎を纏わせて高らかにそう吼えた。 未だに突入の機を見れない闇心と黒狼はビルの上で佇む。 こうなれば危険を承知での強行突入しかないか? そう思い至りそうになった時に。闇心はあるものを見つけた。 雨の中で視界が悪いが、その目には雑居ビル目掛けて走ってくる二つの熱源が見えていた。 「チャンス到来だ。準備しろ」 「了解だ。これまで大人しくしていた分、働かないとな」 二人は戦闘が行われている雑居ビルへと飛び移る。そしてそれぞれに武器を手に取り、その瞬間を待つ。 「やはり、捨て置くには勿体無い連中だな」 「……私は、世界の敵が減るならそれで良い」 くつくつ笑う黒狼に、闇心はふいっと顔を背けて背中にある大きな紅の翼を広げた。 ●いざ救出へ これまでになり爆音が雑居ビルに響いた。 その音源は一階と二階を結ぶ階段の方で赤い爆炎が上がった。 「た、隊長! こっそりって言ったじゃないですか!」 「そんなゆうちょーな事言ってられないの!」 爆発で見事にくずれた階段。その下から聞こえる声に数名のリベリスタ達には聞き覚えがあった。 そしてそこから白い翼をはためかせて登ってきたケット、そして彼に抱えられたシュガーが姿を現した。 「……何故、ここに?」 「あっ、エリスちゃん。ふふん、援軍って奴だよ!」 見知った顔を見つけたシュガーは胸を張って答える。だが、その援軍はアークからは駄目だと言われたはずだった。 「僕達は勝手に来ただけですよ」 声にはだしていないがその疑問にケットが答えた。 そう、彼らはフィクサード。アークから要請する訳にはいかないが、勝手に来てしまう分にはどうしようもない。 「……三階」 「へっ?」 「クレア……助けに行きたいんでしょ?」 エリスはかくりと小さく首を傾げてそう言った。 シュガーは少しうろたえた様子だが、すぐに真面目な顔になって一度だけ大きく頷いた。 「じゃあ……早く行って。ずっとそこに居られても……邪魔」 エリスは背を向けて二階の仲間へと癒しの歌を奏でる。 「ありがとう!」 その背にシュガーは感謝の意を示して三階への階段を駆け上る。それにケットも着いて行く。 「これで上手く行きそうやね」 「あら、まだ気を抜いては駄目ですわよ?」 そりゃそうだと言いつつも反省の色なく小さく笑って喜平はショットガンのポンプを操作し弾を装填する。 そして嗜めた彩花もそれを気にせずに自分の手のひらにもう片方の拳を打ちつけた。 「わたくしの実力、まだまだこんなものではありませんわ!」 流れるような足運びで片手盾を持つフィクサードに接近する彩花、それを邪魔しようとする刀持ちのフィクサードを喜平の銃弾が邪魔をする。 懐に飛び込んだ彩花は構えられたその盾の中心に迷わずに拳を放った。幾重にも放つ拳は寸分違わずその盾を捉える。 「その程度で俺の盾が壊れるとでも――」 その瞬間に打ち上げるような下から突き上げる拳。盾の底を叩いた衝撃は腕ごとそれを跳ね上げた。 「あら、ボディがお留守ですわよ?」 渾身の一撃がフィクサードの鳩尾に突き刺さる。肺にある空気を強制的に排出され、白目を剥いたフィクサードが床に倒れこむ。 と、その倒れこむ音は二つあった。もう一つの音源を見ればそこには下半身を氷付けにされた巨漢のフィクサード。 「お仕置きはこれくらいでええかね」 リボルバーを指でくるりと回した椿は男の首筋に目掛け引き金を引く。 着弾と同時にビクンと跳ねた男の首には難解な文字の羅列が広がりその体中を鎖で縛るように走り巡る。 「それでお前はどうする?」 仲間を二人倒されて一対三へと追い込まれたフィクサードは悔しげな表情に顔を歪ませ手にしていた刀を床に落とした。 「おい、猫!」 「猫じゃないよ! 留吉だってば!」 「どっちでもいいんだよ。合わせろ!」 答えを聞く前にキャンはギアを上げ大剣を持つ男と槍を手にした男に肉薄、腕が霞んで見える程の連撃で同時にその二人の動きを押し留める。 留吉は言われるままに素早くその側面とり、燃える爪を大剣を持つ男のわき腹へと突き立てた。そして爪を引き抜くと同時に駒のように周り男の腹へと回し蹴りを放ち、槍を持った男諸共壁へと叩きつける。 「よし、上出来だ。あとで鰹節奢ってやるぜ!」 「本当! やった……って、だからぁ」 完全に猫扱いしてくるキャンに翻弄されつつも留吉は苦笑いを浮かべた。 一方で杖を持った男を自身の盾ごと床にめり込ませたウラジミールは天井を見上げる。 「上に向かう。あとは頼む」 「分かった。うちの隊長をお願いする」 カツカツと音を立て階段へと向かうウラジミールをマンジは見送った。そして手にしていた銃の引き金を引く。すると床のタイルが赤く染まり今まで彼の足元で動いていた何かがピクリともしなくなった。 そして雑居ビルの三階。そこでは既に場面が目まぐるしく動いていた。 「俺を相手にこの程度とはな。笑わせてくれる」 「ちぃっ」 黒狼の拳を掴んだコートを羽織る男――佐久間は心底呆れたような口調で吐き捨てる。 突入は成功した。シュガー達が三階へ現れると同時に窓を突き破った黒狼と闇心が飛び込んでクレアを確保した。 だが、一つ誤ったことがあるとすればそれが佐久間であった。 黒狼の振るうもう一つの拳を佐久間は難なくかわし、カウンターとばかりにその腹部に膝をめり込ませる。 「下が五月蝿いと思えばお前達の仕業か」 体勢を崩した黒狼を床に放り投げ、佐久間はシュガーへと向く。 「クレアちゃんは……わたしが助けるんだからっ!」 シュガーの手から鎖を模した雷が放たれる。だが佐久間は手にした棍を正面に立てると雷は全てそれに弾かれて霧散する。 さらに佐久間は棍を抜きシュガーの頭を狙い突き出す。それをケットが割って入り手にした短剣で受け止める。が、その力にたった一撃で腕は痺れを起こす。 「助ける? 人聞きの悪い。俺は預かってただけだ。なあ?」 佐久間はニヤリとあくどい笑みで振り向き、闇心が抱えるクレアを見る。 「ひぃっ」 その瞳にクレアは震える。体を小さくして少しでもその瞳に晒されないようにと。その声を聞かないようにと。 ただそこにある闇心の服を掴み、縋りつくことしか出来なかった。 「大丈夫だ。お前は、ちゃんとあの娘達の下に返してやる」 闇心はクレアの背中をトン、と撫でる。そして立ち上がりデスサイズを佐久間へと向けた。 「クックック、嫌われたもんだ」 声を殺して笑う佐久間は一度顔を伏せ、そして鋭い眼光を闇心へと向ける。体中に走る衝撃、体でなく魂を傷つけにくる魔の眼光が彼女の体を貫く。 響く金属音。佐久間の振るった棍を闇心は大鎌で辛うじて受け止める。 「まだだ!」 そこに倒れていた黒狼が起き上がり佐久間の足を刈るように水平蹴りを放つ。佐久間はそれを跳んでかわし、そこに闇心の大鎌が振るわれる。 破壊の力が込められた大鎌を受け、佐久間は弾き飛ばされるが宙で一度体を回すと難なく床に足を下ろす。 「さて、遊びはこれまでのようだな」 佐久間はそう言うと窓際まで悠々と歩く。その時同時に階下が静かになり階段から誰かが駆け上ってくる音が聞こえてきた。 「そいつは返してやろう。どうせ役立たずだからな。あとはアーク諸君の好きにするといい」 くつくつと嫌味たらしくそう告げ、佐久間は窓の外へと身を躍らせた。 それと同時にシュガー達の背後にウラジミールと彩花の姿が現れる。 「……追うには不利か」 窓の外で降り続ける雨で視界は悪く、追うべき痕跡も流されてしまっているだろう。 「うぅー、何だか肩透かしですわ!」 ウラジミールと並び窓の外を見ながら彩花は口を膨らませて地団太を踏んだ。 ●泣き顔を笑顔へ フィクサードの拠点を壊滅した。幹部の佐久間には逃げられたものの十分な戦果である。 そして今回の事件では十名近いフィクサードがアークに捕らえられ、その中にはあのシュガー達も含まれる。 その彼女達がアークに連れて行かれる車の窓が叩かれる。アーク職員の運転手はその人物を確認してシュガー達のいる後部の窓を開いた。 「年端もいかへん少女から老いても少女な人が多くて、辛いこともあるけど世界を護れる、そんな正義っぽい組織が人材募集中なんやけど……どうやろか?」 ニカッと人懐っこい笑みを浮かべた椿がそう言って手を差し伸べた。 シュガーはそれに―― 「あっ、えっと……うんっ!」 ――満面の笑みを返した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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