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<星辰の夜>眼前の敵

●遠近法は存在しない。
 視覚はまやかしだ。

 透視図法を発明することにより、人間は世界をおのが物として隷従させた。
 敬虔なロマネスク建築から、傲慢きわまりないルネサンスへの移行。

 人は火薬を発明し、人は羅針盤を発明し、人は活版印刷を発明した。
 人は代数を用い、人は簿記を用い、人は帆船を用いた。

 人は、人は、人は。

 人間中心主義の、どこがそれほど魅力的なのか?

 ためしに無垢な子供に、絵筆を握らせてみる。
 すると透視図法などと無縁な絵画を描くはずだ。
 
 横顔も、正面の顔も、同様に『在る』。
 いかに不自然に『見え』ようとも、それは『在る』のだ。

 耳を澄ませば、野獣の荒い息遣いが聞こえる。
 鼻先を蠢かせば、どろりとした鉄臭い臭いが鼻腔を刺す。
 すべての感覚を遮断すれば、闇の中に、自分を嘲笑う悪意が『視える』。

 視覚にすべてをゆだねることで、
 我々は正気の一部を譲り渡してしまったのではないか?

 視覚で世界を切り取ったつもりで、
 我々は見えぬものを追いやっただけではないのか?

 ましてこの不埒な夜の帳の下で、そのような欺瞞が通用する理由があるだろうか?

●アーク総本部・ブリーフィングルーム
「いよいよ、時が来たな……。できればもう少し、待ってほしいところではあったが……」
『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は、ぎりりと唇を噛み締めて言った。
「『三ツ池公園』にラトニャ現る」の急報がアークを駆け巡ったのは、アークの誇る万華鏡システムが異様な輝きをはなったのとほぼ同時刻であった。

 未来予知の万華鏡システム。それがしめす、異形の未来。

「万華鏡は告げる……。近く俺たちは『特異点の夜』を迎えることになる」
 信暁がたとえて言った『特異点の夜』。
 それは、神秘的影響を増大させる世界の『特異点化』が、極大を迎える夜のことだ。
 このところ日本では各地に、ありえざるほどの『賢者の石』が発見されたり、怪異な事件が続発していた。それは『特異点化』の予兆であったのだ。

「ラトニャの狙いは『特異点化』の極大化する瞬間を狙い、己の世界とこのボトム・チャンネルをリンクさせること。そして下位のこの世界を侵食、隷従させ、己が物とすること……そう、万華鏡は告げている」

 日本の危機、のみならず、この世界に生きるものすべての窮地。
 それを阻止するため、全リベリスタは一丸となり、事にあたらねばならぬのだ。

「しかし『特異点の夜』は、魔物の集まる夜。何が起きてもおかしなことはない。
 ……飛び切りの厄介者が、この機会に登場する」

●ダオロス
 万華鏡システムはノイズの嵐に覆われ、敵の全景を映し出すことはしない。
「ラトニャの眷属。邪神ダオロス。通常の人間なら、見ただけで発狂する」
 三次元の構造をはるかに飛び越えたその形状は、人間の認識を許さない。目の当たりにしただけで、理性を焼き切ってしまう。己の従僕に変えることもできる。
「こいつが冒険の森に顕現する。少しづつ、少しづつ。そして完全に顕現したとき、自分の姿を周囲の人間に『見せる』。目を伏せてもダメ、かわしてもダメだ。直接、人間の認識を破壊する」
 信暁は、スクリーンの一点を指示する。
 冒険の森の最深部。その直上には、リベリスタ混成の陣が敷かれている。
「そして完全顕現したこいつは、リベリスタの陣に吶喊する。どんな被害がでるか、想像もつかない」

「普段の俺たちの力なら、こいつを元の世界へ送り返すことができるかもしれない。
 しかし、それは今じゃない。
 あまりにも、相手に分が良すぎるんだ。
 今回は幸いにも、相手は3分で消滅する。あまりの異様さに、世界が耐えかねる。
完全に顕現し、陣地に突っ込む。その3分の間に、敵を破壊しまくれ。それだけ相手の『完全顕現』は不完全なものになる」

 信暁は、じっとリベリスタを見た。
「オルクス・パラストは今回の敵を重大だとみなし、援軍を用意してくれた。
 死をも恐れぬナイトクリーク2名。
 好きに使ってくれ、とはセアドの大将の言葉だ」
 そして信暁は、デスクの上にゴーグルのようなものを置いた。
「そしてこれが、今回技術開発部が突貫で仕上げた魔具、ナイトヴィジョン。
 これがあれば、ダオロスを直視することが可能だ。
 だが装備した人間は、物理攻撃、神秘攻撃ともに減殺される」

 あまりにも危険な相手。こちらの手札は、不完全な魔具と、そして勇気。

 信暁は拳をデスクに叩きつけ、にっと笑った。

「おそろしく分の悪い戦いだ。しかし、俺たちは夜空を翔ける流れ星!
 燃えて散る心意気を、見せつけてやろうぜ!」





■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:遠近法  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年07月15日(火)22:30
 遠近法です。見せつけてやろうぜ!

●場所
 三ツ池公園、遊びの森。視界はあまりよくない。足場は問題ないです。

●勝利条件
 18ターン経過し、ダオロスが完全顕現した時、味方の被害が軽微であること。

●敗北条件
 ダオロスが完全顕現した時、味方の被害が重大であること。

●ダオロス
 アザーバイト。きわめて危険です。
 直接視界に入っただけで、狂気に陥ります。
 アークのリベリスタはそこまで劇的な反応はありませんが、判定に失敗した際にはフェイト喪失の上で戦闘不能になります。

・光条(A/神/遠2/貫)[ノックバック][ショック]。
・槌(A/物/近/単)[ノックバック][ショック][ブレイク]。

 ダオロスは18ターン経過後、完全顕現いたします。

●完全顕現
 周囲の人間を無差別に狂気に陥れます。
 ダオロスのHPの残量によって、完全顕現の力は減殺されます。
 完全顕現前に撃退することはきわめて困難ですが、成功すれば完全顕現事態防ぐことができます。

 直接視覚でとらえることは極めて危険ですが、スキルの利用、プレイングにより判定を有利にすることができます。
 尚「設定により視覚がないため、敵を見なくてすんだ」というのはナシの方向で。「直接『空間を認識する力』に襲い掛かる」と思ってください。設定を生かしたプレイングは大歓迎です。
 熱さを見せつけてほしい、という感じです!

●ノーフェイス
 ダオロスを目にしてしまった不幸なリベリスタが襲い掛かってきます。
 レベル1程度のスキルを持った、種族も職業もばらばらなノーフェイスが、ランダムにあらわれます。最初は毎ターン1人程度。完全顕現が近づくにつれ、増えていきます。
 あっさりフェイトを消し飛ばしてしまう程度なので、そんなに強くないです。フェーズ1。

●NPC(ナイトクリーク二人)
 オルクス・パラスト所属の腕っこきです。少年2人組。
 レベル2のナイトクリークのスキルを使用できます。
 皆さんの指示に従います。
 ナイトヴィジョンの装着班、攻撃サポート、なんにでも使ってください。

 彼らの真の目的は一つ。
「狂気に陥った仲間の処理」です。
 皆さんも彼らの標的になるやもしれません。

「世界のためなら、自分の命など惜しくない。まして他人の命などなんであろう」
 が信条。勇猛、実直、そして『若い』!

●「ナイトヴィジョン」(NV)
 今回の決戦に備え、智親が開発してくれた魔具です。
 ダオロスの視認が可能になります。しかし、攻撃行動に大きな制約が課されることになります。相手にBSを付与する場合も、可能性は極めて低くなります。
 補助、回復は問題なく行えます。
 リベリスタの人数分(NPCを含む)提供は可能です。

 ともかく「見てはいけない」敵です。連携は必須になるでしょう。
 正面衝突は避けてください。うまく作戦をとって、難易度相応です。
 レベルが低くても、プレイングしだいではサポート班として活躍の機会ありあいです。

●重要な備考
 このシナリオは特に重要な局面を扱います。全体的な戦況に影響を及ぼす可能性があります。
 熱いプレイングを期待しています!



参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ジーニアスナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ハイジーニアススターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
メタルフレームデュランダル
鯨塚 モヨタ(BNE000872)
アークエンジェインヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
フライダークマグメイガス
シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)
ハーフムーンホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
ハイジーニアスソードミラージュ
桜庭 劫(BNE004636)
フライダークマグメイガス
ティオ・アンス(BNE004725)


 漆黒の夜空に、真紅の雲が渦を巻き始めた。
 激しい渦動と閃光がひらめく。空中に古代文字が浮かび上がる。
 空間そのものが召喚陣と化している。正しい手続きのもとでしか姿を見せないはずの高位の存在が、今宵、そのいまわしい姿を現そうとしている。
 ゆっくりと確実に。少しづつ。
 ヴェールをはぎ取るものーーダオロス。

「『完全な姿で現れるぞー。強いぞー』とか、向こうがわくわくしている間に倒しちゃえばいいのよね」身も蓋もなく言うのは『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)。「蝉を思い出しちゃった。地中で何年も過ごして、地表に出てくる蝉。
 いや、蝉に罪はないのだけれどね」
 出発前の作戦会議室。重苦しい緊張感はそこにはなかった。
「要するに、厄介な事になる前に相手にお帰り願えばいいって事だろ?」『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)もごく軽い調子で言う。
 オルクス・パラストの援軍たちは戸惑っていた。赤毛と金髪の少年二人組。とんでもない敵を相手にするのに、彼らの悠揚なさは何だ?
 敵は直視しただけで狂気に陥る。アークが視認を可能にする魔具を用意したので、これに頼るほかない。神秘の力が減殺されてしまうが、まあ仕方のないことだ。完全に相手を破壊する必要はない。
 被害を減らし「いかに程よいところで決着するか」……そこが焦点であると少年たちは考えていた。
「うーん。見難いわねー」『大樹の枝葉』ティオ・アンス(BNE004725)は魔具を装着して、あれこれ確かめている。「興味深いから、ちゃんと観察したいところだけれど」
「三次元以上の形は興味がそそられるが、直接見るものではないな」『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)も、一寸悔しそうに言う。
「見るだけで精神を壊す邪神か……」『輝鋼戦機』鯨塚 モヨタ(BNE000872)が呟く。「 こんなヤバいのほっとく訳にゃいかねぇよ。どこまでいけるかわかんねぇけど、心の保つ限り、全力でぶっつぶすしかないぜ」
 少年たちの見る限り、彼が最もリベリスタらしい。しかし、若い。先程のマグメイガスといい、あまりに若すぎはしないか?
「みなさんに私の『目』になって貰いましょうか」そんな二人に、シュスタイナが声をかける。
 むろん、断る筋合いはない。彼女の魔力は絶大であるし、呪縛が効を奏すれば戦況は有利に傾く。ともに後衛を担う『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)が細かな指示を出していく。
 頷きつつ二人の関心は、『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)に向けられていく。ポーランドで『黒い聖母』の名を受け取った彼女の存在は興味をそそった。
 アークの正体を、少年たちはいまだつかみかねていた。

 いよいよ敵が姿を現し始めた段になっても、彼らの様子は変わらない。
 不安以上に、異様の感を少年たちは抱き始める。
「ここまで徹底した……純粋な、視覚に頼らない戦闘、は初めてだし……楽しみ、だね」そう呟くのは『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)少年たちの内心を見透かしたかのように言う。「ゲストもいる……無様な所、は見せられない。修羅、と言うものを……見て行って貰おう、か」
 天空の渦動が早くなる。空間を割って奇怪な影が姿を現す。
「恐怖は知らないことから始まります。そうと知っていれば、畏れることはありません。……さあ、『お祈り』を始めましょう」リリのその言葉が、状況の開始を告げた。

 淡いチェレンコフ光のような光が森を照らす。
 ぎりぎりまで抑え込まれた発光が、かろうじて相手の影を浮かび上がらせた。
 ざっと相手を走査するユーヌ。大雑把な確認だけ。
「原型覚えても仕方がない。どうせ磨り潰す相手だ」合理主義ここに極まれりと言わんばかり。神相手にも、彼女の舌鋒は止まらない。「多少潰れたところで変わりはない。三次元のガラクタになればなお良しだ」
 リリは魔具を用いて位置・形状を精確に確認する。
 
 パラボラアンテナと無数の眼球と、蠍が組み合わさったようと形容すれば、その万分の一でも異様さを伝えられるか。
 真なる闇の中でしか召喚されぬもの……彼女にしてもその姿の直視は耐えがたいものだった。
「皆様、私の位置よりももう少し右に」それでも彼女は、眼前の敵から目をそらさない。リベリスタとして、射手として。
 同じように精査を続けるのは光介。オルクス・パラストの少年たちに指示を出しつつ、さらに細かい距離を測定していく。羅針盤、六分儀……あらゆる人間の測定道具の原理が脳裏を駆け巡る。

(視覚と理性による把握は、人間を脆弱にしたのか。そんなことはない。なぜなら元来人間は弱いから)
 リベリスタとして練達し、あらゆる知識を蓄えてなお、彼は謙譲さを失わない。
 それは知識と理性を信頼し、それが弱さと一体のものだと知っているからだ。
(囲いなおしたに過ぎない。自らが触れてよい領域を)
 今夜はその知恵で戦ってみたい……彼のひそやかな決意であった。
 そして彼は、恐怖を否定しない。魔具越しにすら襲い掛かる狂気を、むしろ逆手に取り、本能を駆動させる。

 重ならぬよう陣形が張られる。
 さらに補助魔法など準備を整え、試し打ちがなされる。
 魔曲、召喚。敵を知るには、まず味方から。
「叩いて潰して押し流す、綺麗さっぱり完全に」歌うようにユーヌが呟く。

 そして、次の瞬間。
 リベリスタ達が魔具をかなぐり捨てた!

 直視を可能にする魔具、ナイトヴィジョン。
 悪くはない。突貫作成で挙動が不安定だが、さすが智親だ。
 攻撃は半分ほどに減殺される。ほとんど拘束されない時もある。大幅に吸われてしまう時もある。
 いずれにせよ、相手の部分損壊を狙うだけなら、十分であろう。
 だが、アークのリベリスタにそれを望む者はいない。
 
 ダオロスの『完全破壊』。それだけが目的だ。

 最初に外したのは天乃だった。枷となるなら、はなから使用するつもりはない。
 閉じられた両の瞼。
 それが開かれれば、彼女に狂気が襲い掛かる。
 彼女に躊躇はなかった。
 あっさりと、最終手段を彼女はとった。

「見てはならぬ、か。面白い」戦いの前に、彼女は言っていた。「なら、見ないようにすればいい」
 天乃のそのつぶやきの真の意味を理解できたのは、はたして何人いたであろうか。

「なっ……まさか!」赤毛の少年が声を上げる。
「本気か……」金髪が絶句する。
 天乃は瞼の上に人差し指と中指を添える。
 ゆっくりと力が込められていく。
 ……両の眼球を、潰す。
(それくらい、どうということは、ない)
『無軌道の戦姫』にしてみれば、そこまでたどり着いて当たり前。

 声なき悲鳴が交錯する!

●2:50
「……」
 天乃の指が下ろされる。
 彼女の眼球は……あった。血の涙を迸らせながら、彼女の眼球は無事であった。
 彼女の肩に震える、一筋の銀の針。
「経絡『裂奈』。三分間だけ、視神経を完全に殺します。オルクス・パラストの鍼技……伝える者は少ないです」金髪の少年が、取り出した針を構えている。
「この程度の相手に、貴方様の眼球をささげる必要はありますまい。無粋とは知りながら、見過ごすわけにもいかず、針をうたせていただいた」
 オルクス・パラストの両名、その場に深く額づいた。
「われら二人、今宵は貴方がたの目となります!」
 天乃はそちらに一瞥を向けない。
 はなから両名が此方の実力を侮っていたのは知っていたし、シュスカの目であるはずの二人が油を売っているのも気に入らない。
 なにより『気分』を邪魔されたのが気に入らない。
 しかしこれで目潰しと同等の結果が得られた。あえて眼球を捨てる必要もない。
 天乃は跳躍する。標的は神。
 完全に視覚による補助を失った。あとは仲間の指示、そして失うことで研ぎ澄まされる、他の五感が頼り。
「さあ、踊って……くれる?」
 うっとりと艶かしい声で、彼女は呟く。
 絶対音感を持つ者は、音のみで世界を『組み立てる』ことができると言われている。熟練のリベリスタである天乃は、その域に確実に到達しようとしていた。
 鉄甲から放たれる漆黒の糸が、大きく広がって敵に絡みつく。形象を把握しえない相手に、確かに糸は絡みつき呪縛を施す。
 応じてユーヌも魔具を外す。両の目を閉じ視覚制限。音のみを頼りに術式を発動する。
 真紅の空に翠緑色の玄武が浮かび上がり、大瀑布が敵に直撃する。
 異形の構造を、激しい水流が流れ落ちる。だまし絵に似た、認識を惑わせる光景だが、それでも敵の構造を縁取る一助とはなる。
「どんな構造か知らないが、よい声で泣きわめけ!」
 魔力増幅結界を展開したシュスタイナ。相手のさらなる拘束を狙う。
 外すわけにはいかない。
「あなたたちの指示通り攻撃するから」彼女はオルクス・パラストの二人に言う。二人は神妙にうなずく。戦いの前の、どこか探るような雰囲気は消し飛んでいる。
 素早く術式を練り上げながら、いつもの辛辣さと打って変わった調子で声をかける。「貴方達のような若い人が、命を賭けるところを見るのは忍びないわ」
 戦いの前なら一笑に付したかもしれないその言葉も、二人には重く響く。
 二人は冷静で、有能だった。そしてシュスタイナはそれ以上の使い手だった。発動された血の網は、どこをどう絡んだのかわからぬ異次元の物体を容赦なく縛り上げる。
 併せてティオも魔具を外し目を瞑って、上空からフレアバーストを放つ。範囲攻撃は命中・攻撃力ともにうってつけだ。彼女の神秘に対する知識は、外見から推察される年齢に似合わない。

●2:00
 次に魔具を捨てたのは劫だ。
 音を頼りに剣を構える。
「生憎とお前さんに長い間付き合う予定はなくてな。これからでっかい客が控えてるんで……さっさと終わらせるぜ!」一気に距離を詰め、手にした『処刑人の剣』を煌めかせる。
 光介たちの支援を得た劫は、高い命中を生かしダオロスに斬撃を与えた。
 だがそれでは足りない。より効果的な一撃を求めなければ、彼らに勝機はない。
 劫は即座に目を開く。黒曜石の色をしたフェイトが弾け飛ぶのも構わず、彼は敵の『肢』をつかみ、さらに攻撃を加える。効果的な一撃が、存在しない構築を弾き飛ばし、奇怪な溶液を散らす。
 間隙から覗く眼球から、光条が放たれた。劫は貫かれようとも肢を離さない。
「随分な無茶を……しっかりして下さい!」リリは劫に叫ぶ。戦友である彼の、手段を選ばぬ勇猛さは知り抜いている。
そして、彼女も遅れはとらない。全身を白銀のオーラに包みつつ、リリは二丁の拳銃を構える。
「神の戒律」そして「神の怒り」。
 せんに付与した月光の力が、彼女の中で燃え上がる。
 燦と煌めく白銀のアルテミス。
 着弾。城でさえも傾けるという弾丸に、ダオロスの姿はぐらりとかしいだ。
 モヨタは目を閉じて突撃する。仲間の指示、音響、そして彼は熱感知を持っていた。
 いかなる異形の存在とはいえ、熱力学第二法則から逃れることはできない。妖しく明滅する熱源めがけ、機煌剣・プロミネンサーソードが真紅の爆炎を吹き上げる!
「熱だけでもなんかおぞましい感じが伝わってくるな……」彼は剣を振り下ろす。「その無茶苦茶な構造、三次元で認識できるくらいバラバラにしてやるぜ!」
 破片が槌となり、モヨタの頭上めがけ突き刺さる。ベージュ色のフェイトが、その一撃で弾け飛ぶ。
 奇怪な叫び声をあげて何者かが飛び出した。正気を失った者。先ほどの破片をうっかり視界に入れてしまったため、瞬時にフェイトを吹き飛ばし邪神の従僕へと成り下がったのだ。
 赤毛の少年が飛び出そうとする。が、それよりも早く天乃が跳躍する。致死の力を秘めた鉄甲を振りかざし、殲滅のジルバを舞う。
「有象無象の区別、なく……切り裂く」
 死の乱舞は近接する相手をなぎ倒す。
 範囲から漏れた者は、援軍が切り伏せる。
 二人は息を吐く。魔具の拘束がこれほどのものとは。
 油断した彼らに、背後から一撃が放たれる。
 鮮血が上がった。絶叫する少年。さらに追い打ちをかけようとする敵。
 そこに神秘の投網がかけられた。少年たちを背後に庇うシュスタイナ。
「血気盛んなのもいいけれど、一旦体制を整えるのも大事よ?」
 消耗の激しい彼女に、ティオが精神力を分けあたえる。何としてもこの敵を落とす。回復は光介が担う。彼女はぎりぎりまで、攻撃術法を放ち続ける。
 高位呪法の乱打が続く。ユーヌは虚空の彼方から玄武を招来し、何度も大瀑布をまきおこす。ありえざる方向に逆巻き、うねる水。
 一点集中の、奥義の連発。しかしそれでも、相手は神だ。無数の瓦礫が積まれ、光芒が何度も森を照らし出す。すさまじい威力のダメージをたたき出しても、まだ相手は倒れない。
 そして、その瞬間が来た。

 メギメギと、蝉が蛹から出るように、最後の変態を開始する神。
 完全顕現。その瞬間、神はその姿を『見せる』。視神経を経由せず衝撃は人間を串刺しにし、認識を破壊する。
 
 その瞬間、ティオが魔具を外した!

 ●その瞬間
 ティオの思考は、言葉にし難い。
 神秘探究同盟に所属するユーヌならば、知識による理解は可能だろう。ただ、同じことをしようとは思わない。
 ティオはフェイトを散らし、敵を見上げる。そこにあるのは笑み。
 彼女を狂気が侵食してゆく。彼女はそれを否定しない。
(正気と狂気は、理解できるかどうかの違いしかない)
 ティオは、狂気の神に手を差し伸べる。
「さあ、あなたのことを教えて?」

(未知の理解とは適応する事。自分が未知によって変化するという事。
 人の生きる世界の外を理解するのなら、ふつうではいられない。
 それは、恐ろしいことではないわ)

 ティオの思考は、あるいは人間を越えている。
 己を抹消し狂気と一体となる、神への道だ。

「そんな姿をしていたのね」
 ティオは笑いながら、魔曲で神を打ち抜く。無音の世界で崩れ落ちる、異形の構築。
「ほら、怖くない。あなたがいるべきは此処じゃないわ」
 ティオの意識が、完全に神と一体化しようとする……。

 その時だった!
 銀髪の少年、最後まで人を信じた少年が進み出た。
 光介は全神経を集中させ、すべての知識を走査した!

「魔術は狂気を取り込み、力に変える学術。
 狂気に押し負けないよう、弱き人間は愚直に血を蓄えてきた。
 
 いまその蓄積で、弱さの結晶で、ボクは正気を保つ!
 周りに正気を促す!」

 光介は神に対峙する。

 ティオは、誰かが自分の手を引くのを感じた。

 圧倒的な光が、視界を焼き尽くす。

 そして光の奔流の中、眼前の敵めがけて飛びだすリベリスタ。
 剣を振りかざすモヨタの瞳には大きく見開かれている。
モヨタは叫ぶ。モヨタは吼える。彼は、ついに狂気に足を踏み入れたのか?
 否、否! モヨタの人生は彼の人生だ。いかなる運命の手がもてあそぼうと、彼が何者かに彼自身を奪われることはない。彼が彼の正気を手放す瞬間など、フェイトが燃え尽きようとも、ありえるはずはないのだ!
 
それは劫も同じこと。処刑人の剣を振るいながら、彼が彼以外の者でありうる瞬間なぞ、ついに訪れぬ。
「他所の世界から来た奴らが偉そうにふるまってるんじゃねえよ! 
ここは俺達の世界だ! お前らみたいな奴らを満足させるためにある世界じゃねえんだ!」怒りをあらわにする劫。陽炎のように剣気を揺らめかせる。
 彼は思い出していた。歪夜の徒による故郷の蹂躙。
その時から彼は、世界が停滞することを望んだ。
(時よ止まれ……お前は美しい!)
 あるがままに留め置くことの、なんと困難なことか。
 そういえば先日、自分が誕生日を迎えたことを、ふと彼は思い出した。
 
 闇雲に放たれた光線に貫かれ金と黒のフェイトを散らす天乃は、恋人に囁くような甘い声で神に言う。
「まだ、だね……」滑らかな糸を、大きく波打たせて敵に放つ。「もう一度、踊って、くれる?」
 
そしてリリが、祈りの言葉を呟いて、銃口を神に向ける!
「此処は弾幕の聖域! 此処での勝手はさせません!」
 ありえざる方向、人間の認識を超越した方向から、爆砕がとどろいていく。
 
 脆弱になった世界のフィールドに、容赦ないエネルギーが叩き込まれる。時空が歪み、あちこちで光の渦が吹き上がった。小規模ながら事象の地平に近い混沌の渦動が、リベリスタたちによって生み出されようとしていた。

「もうだめだ…やめてくれ!」赤毛の少年が叫ぶ。「世界がもたない!!」

 地平線が、光芒を放った。

 その時刻、大隊の歩哨は神秘反応を有する光線を確認。
 しかしそれはいかなる影響も有しない。損害は極めて軽微。
 ダオロスはデータ上『撃破』として処理された。
 リベリスタは、勝利したのだ。

 オルクス・パラストの少年たちは、最後について、こう語る。
「ダオロスが最後の瞬間、何を考えたのかは分かりません。しかし、これはあくまで推測にすぎませんが、ダオロスは我々を『視た』のではないかと」
 己の目も潰す修羅。神に祈る敬虔さ。仲間への信頼。今を愛する心。自己犠牲。不遜な知性。神をも理解しようとする衝動。人にとどまろうとする優しさ。
 どれも『人間的な、あまりに人間的な』感情だった。
「こうは考えられませんか……人の理解できぬもので、人間性を破壊する神が、人間なるものを覗きこんだら……」
 少年はそこで、しゃべりすぎたという様子で、言葉を切った。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
ありがとうございました。

判定に関して。
プレイングを重視いたしました。視界がない状態での命中は極端に低下しますが、不可能ではないという判断です。リプレイを参照ください。
最後の『アレ』は悩みましたが、プレイング重視という方向から、
・最後の判定における修正。
・「完全顕現」をある程度阻止したとして、そのターンを行動順の残ったリベリスタが自由に行動できるものとする。
難易度相応となっております。

また、難易度を越える被害が出ております。数字をご覧ください。

困難な敵の『撃破』、プレイングや戦術から判断して結果を出させていただきました。

また熱いプレイングをしましょう。最高!