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おっぱいがいっぱい団の最後

●幕間~英雄になれなかった者達~
 客足も遠退いて久しい、裏寂れた場末のカウンターバー。
 老年のマスターが趣味で営むその店へ、客が複数名入るのは珍しい事である。
 それが往年来の顔馴染みとなれば、尚更。
「よお、悪運強く生き延びていたみてぇだな」
 片や時代外れのウェスタンハット、夏にも関わらず鋲打ちジャケットを着込んだ壮年の男。
「……本当に、こっちへ戻って来てたのか」
 片や擦り切れたジーパンにTシャツと言った如何にも冴えない様相の中年の男である。
「本当に、じゃねぇよ。何だてめぇそのザマは。
 ったく、聞いてるぜ。随分やられたみてぇじゃねぇか。確かアーク、だったか」
 肩を竦める仕草。11年ぶりに逢っても何も変わらない。
 飄々とした仕草に、中年の男が鋭い眼差しを向ける。けれどそこには非難の色は無い。
 代わりに淀んだように沈殿した様々な感情が過ぎる。長い、長い、時間の残滓。
「お前が組織を立ち上げるって聞いた時も吃驚したがな、
 ま、世界ってな負け犬にはとことん厳しいもんだ。命有っての物種だしよ」
 言っては琥珀色の液体を煽る。恐らくはウイスキーだろう。壮年の男は燃える様な酒を好む。
「……命有っての、か……」
 中年が項垂れた様に呟く。古い木目のカウンターへ目線を向け、独白する様にぽつりと。
「また、俺だけ生き残っちまった」
 ウェスタンハットの男が一瞥する。生きる死ぬだのはこの世界の常。
 誰が死んだ、誰を殺した、誰に殺された、そんな事を考え続けていては前に進めない。
 そして同時に知っていた。前に進めないからこそ、彼は10年以上も足踏みして来たのだと。

「以前した話覚えてるか?」
 アルコールに満ちた吐息を吐いて壮年の男が声を掛ける。
 ぎしりと老いた席が鳴り、目線は自然天井へ向けられる。その会話は、11年前の写し。
「逃げんのは得意だろ、こっちへ来いよ。てめぇ位使えりゃ前座にはならぁ、俺様が推してやる。
 ソードダンサー、なんつーのも格好良いじゃねぇか」
 今更捨てるもんもねぇだろ、と再度視線を向ける。返って来たのは苦笑い。
 2人は戦友であり、敵同士だった。お互い何度も武を交わし、言を交わし、奪い合い、殺し合い。
 けれど時に酒を酌み交わして来た。11年前の、あの日までは。
 お互いに、随分時を重ねて来た。当時の知り合いはその殆どが生きてはいない。
「……それも、良いかもな」
 酒に弱い中年が、カクテルグラスを一気に飲み下す。持って来た鞄を隣の男と自身の間へと置く。
「あん?」
 ウェスタンハットの男が鞄を開ける。中から出て来たのは装飾品だ。
 指輪、首飾り、そして宝冠。見る者が見れば分かる。それらは全てが尋常の物ではない。
 一級品の破界器。力を秘めた世界の異物。欲しがる人間は山と居る。
「……何の真似だ」
 けれどそれを見て、男は猛禽の様な視線を強める。
 もし代価だとでも言ったとしたなら、殴り飛ばしてやろうと。
 互いの縁を軽視する様な真似を、壮年の男は決して許さない。
「その前に、決着を付けなくちゃならん相手が居る」
 視線は交わらない。中年の男が静かに語る。

「逃げて、逃げて、逃げ続けてきた俺だ。何を今更と思うかもしれねえ。
 でもな、もう疲れちまった。逃げんのにはさ」
 見れば分かる。その瞳に灯るのは、火だ。何かが、11年前とは決定的に変わっていた。
 それは彼自身が築いた組織の興亡と無縁ではあるまい。
 その中で結んだ縁が、育んだ想いが、紡いだ絆が、男の逃げ道を閉ざしている。
 逃げられない。逃げる訳には、いかない。もう、これ以上は。
「それは、俺にはもういらないもんだ。だがアークにくれてやるのも癪に障る。
 お前らで使ってくれ。使う様な奴が居ればだけどさ」
 言って、中年が席を立つ。マスターには見えない。腰には二振りの剣。
 大きく嘆息したウェスタンハットの男が、胸ポケットから何かを取り出す。
 葉巻だ。その一本を抜くと、背を向けようとした中年へと放り投げる。
 中年がそれを片手で受け取る。瞳が見開かれ、後ろを振り仰ぐ。
「……選別だ、生きて帰れよ戦友」
 片手で銃の形を作った指が、中年の眉間に向けられる。
 覚悟の込められた視線。そんな表情の仲間達を、男は何人も見送ってきた。
 今度はこいつか、と悟る。けれど、最後に悪足掻きをしても良いだろう。ほんの少しだけ。
「戻れたら、一杯やろうぜ、ロバート」
 にっと笑った中年の男の表情に、かつてそう笑った青年の姿を重ね見る。

●分岐点~シリアスか、おっぱいか~
「……例のあれ、おっぱいがいっぱい団」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が何だかおざなりにぼやいていた。
 若干やさぐれている様に感じる。やはり少年少女の健全な育成の為に、
 ヨゴレ仕事は余り宜しくないらしい。しかしてまさかもう一度聞くとは思っていなかった。
 けれどあのまま終わる筈も無かった秘密結社おっぱいがいっぱい団である。
「組織は経営状態が悪化して空中分解。残党はまだ残ってるみたいだけど、
 再結成の気配は今の所無し。でも、懸念が残されてる」
 ブリーフィングルームのモニターへ映し出された映像は、二本の剣を持つ中年の男。
 関わった事のある人間であれば見間違える事は無い。おっぱいがいっぱい団代表である。
「おっぱいがいっぱい団代表、常盤総司郎」
 ……え、名前あったんですか?
 今までずっと代表としか呼ばれて来なかった男が齎した衝撃の事実に戦慄が走る。
 実はイヴさんもこれまで知らなかったとか。そんな事は無い。無い筈である。
 万華鏡は未来さえも見通すのだ。その筈なのだ。
「この男から挑戦状が届いてる。場所は――三高平港」
 静かに続ける物の、まさかの市内。アークのお膝元である。
 そんな場所にフィクサードが足を踏み入れる以上、覚悟は出来ていると受け取るべきか。
 或いは、変態だからその辺まで頭が回らなかったと考えるべきか。
「……うん、でもこんな事言うのは、嫌なんだけど」
 ぽつ、と声を潜めたイヴの視線に、リベリスタ達が瞬く。何か気配が違う。
 いつもの、そう。いつものおっぱいがいっぱい団関連の仕事とは……気配が。

「今回は、相手も流石に本気みたいなの」
 多分彼らは今までも本気だった。変態なだけで。
「言い難いんだけど……シリアス」
 ……え?
「……真剣勝負。しかも相手は未知のアーティファクトを使って来る。
 アークの情報網に無い。万華鏡で見た感じ、何かを消費して急激に傷を癒してるみたい」
 ……いや、ちょっとお待ちよイヴさんそこスルーしちゃ駄目な所。
 何かおかしな単語が聞こえた気がするものの、少女の言葉は途切れない。
「フィクサード『常盤総司郎』は、昔は閃剣とか呼ばれた位の実力者。
 それも、今回は洒落抜きの本気。11年前の生き残りだけあって、強い」
 研鑽を怠っていたとは言え仮にもナイトメアダウン以前の元リベリスタ。
 それが命懸けで武器を取るとなれば、その実力は生半可なフィクサードの比ではない。
「これが最後。討伐するかは皆に任せる。常盤を倒して、この一件に終止符を打とう」
 にこりともせず綺麗に纏めるイヴさん。このままではタイトル詐欺ではないでしょうか。
 そんな懸念は何所吹く風と、話はこれでおしまいとばかりにリベリスタ達を追い立てる。
 そしてブリーフィングルームの扉が閉じる瞬間、小さく呟くのであった。
「……でも所詮変態だし、おっぱいがいっぱいならそっちに傾くかも」
 ぱたん。最後まで黙っている事が出来なかった辺り、イヴもまだまだ純真である。
 さて、シリアスか、おっぱいか、そこが問題だ。

 運命は、委ねられた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月16日(火)23:58
27度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
シリーズおっぱいがいっぱい団ラストバトル。このタイトルを使うのはこれで最後!
……の、筈です。負けなければ。以下詳細となります。

●依頼成功条件
 フィクサード『常盤総司郎』の撃破、または討伐。

●閃剣
 常盤総司郎(ときわ・そうしろう)33歳。
 男。独身。元リベリスタのフィクサード。クラスはデュランダル。
 生来の逃げ癖を克服した中年。かつてRタイプと相対した事も有る双剣士。
 戦闘スタイルは連撃系デュランダルとでも言うべき変り種ですが、
 この数ヶ月で往年の感覚を取り戻しつつある為、強悪な戦闘能力を誇ります。
 使用スキルは以下の通り。

・保有一般スキル:ダブルアクションLv2、二刀流、精神無効、デュエリスト
・保有戦闘スキル:オーララッシュ、リミットオフ、戦鬼烈風陣
・EX無想閃空:二本の長剣から広範囲へ放たれる見切り不能の超高速連撃です。
 【追加効果】[連撃][必殺]【状態異常】[致命]

●おっぱいアピール
 すると1ターンを消費します。
 8回までは無効化されますが……

●おっぱいがいっぱい団代表
 変態教主。おっぱい聖人。おっぱいこそ我が人生。
 シナリオがおっぱいに傾いた場合、此方のデータを用います。
 弱点はおっぱい。美乳貧乳巨乳爆乳の差別無くあらゆるおっぱいを愛している。
 執着し過ぎ、語り過ぎる。だが偽乳、て め ー は 駄 目 だ。
 
・保有一般スキル:ダブルアクションLv2、二刀流、精神無効、おっぱい聖人
・保有戦闘スキル:バーストラッシュ、キャストオフ
・おっぱい宣言:おっぱいについて熱く語ります。【状態異常】混乱
・EX乳気閃光:おっぱいに対する信仰が聖なる光となって降り注ぎ対象全てを焼き払います。
 【追加効果】[必殺][不殺]

●破界器
 葉巻型のアーティファクト。名称、効果は不明。
 カレイドシステムによると、何かを消費して被ったダメージを自動回復する模様。
 使用回数に制限が有るのか、効果時間に制限があるのかは不明ながら、
 どちらかは間違いなく有る模様。ダメージの多寡を問わず回復量は常に一定。
 
●戦闘予定地点
 夜の三高平港。光源有り、平地で地面もコンクリートで舗装されています。
 障害物無し。余り道端に寄り過ぎると海へ落とされる場合が有ります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
覇界闘士
尾上・芽衣(BNE000171)
デュランダル
★MVP
新城・拓真(BNE000644)
プロアデプト
遠野 うさ子(BNE000863)
ホーリーメイガス
大石・きなこ(BNE001812)
ソードミラージュ
武蔵・吾郎(BNE002461)
スターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)

●決戦
「おっぱいとは……何と言う破廉恥な! し、しかも、愛しの雷音までもがア、アピールを……
 うおおおおっ! この怒りをっ! 攻撃力にかえるでござるっ!」
「いや、虎鐵ちょっと落ち着くのだ。どうどう」
 開戦前からヒートアップしている『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)を、
 若干困った様な微笑を浮かべながら『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が抑え込む。
 場所は三高平市内、三高平港。市の海への出入り口である波止場に集ったリベリスタは8名。
 平地且つ開けた地形。光源も十分と言う好条件でありつつも、
 海へ落ちれば少々リカバリに手間取るだろうというリスクを孕むこの戦場。
 しかして何故か彼らの内、若干2名は既に初っ端から全身濡れみずくである。
「風邪引くかな?っと思ったけど、これは意外と涼しいかもー?」
 『犬娘咆哮中』尾上・芽衣(BNE000171)がマイペースに声を上げるも、
 その実は唯でさえぴっちりとしたチャイナドレスが体躯に張り付くと言う目に毒な装い。
 スイカな胸が必要以上に強調され、この時点で既にじ-くおっぱいである。
「羞恥心?そんなもの持ってたら悪戯なんてできないんだよこのご時勢!」
 その傍ら、何だか男らしい宣言を力一杯に告げるのは『悪戯大好き』白雪 陽菜(BNE002652)
 胸はぺたん気味ながら全体的に小柄な為か。
 濡れて張り付いたYシャツが未成熟な魅力に一種独特な色気を加えている。
「今回はいよいよ代表との直接対決です、きっちりカタをつけちゃいましょう!」
 常ならず、珍しくも気勢を上げるのは四天王戦以降某秘密結社と異様な縁のある
 『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)。
 正しくおっぱいの申し子とでも言おう、鎧姿の下でたわわに実った両の果実は今宵も絶好調である。

「おっぱい……何と言うか、言葉も無いのだね」
 自分の胸元をぽふぽふと叩いては首を傾げる『カチカチ山の誘毒少女』遠野 うさ子(BNE000863)
 とは言え流石にきなこ・芽衣には一歩劣る物の、彼女が携えるのは十分大艦巨砲な電脳兵器である。
 それを見た雷音が思わず自分の胸元を見つめ、何となくしょんぼりと肩を落とす。
 さて、そんな女性陣の葛藤を余所に、港の波濤を2人の男達が静かに見つめていた。
「同じスタイルを持った先人……閃剣」
 彼の両手に顕現しているのは二本の長剣。そしてクラスはデュランダル。
 あたかも誰かの鏡写しの様なスタイルでぽつりと呟くのは『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)
 其処に思う所が無い筈も無い。けれど静かに。ただ静かに。視線を動かし両の剣を握り締める。
「古強者の眠れる獅子が目を覚ましたってところか」
 狼の頭を持つ巨漢『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)もまた、声を上げては振り返る。
 野生の直感か。彼と拓真が真っ先に気付く。かつん、と。アスファルトを叩く靴の音。
 よれたシャツとジーンズの上に、時期外れのジャケットを羽織った男。
 さして目立つ訳でもない。けれど独特の存在感を滲ませて、彼はそこに居た。
「……アークの、リベリスタだな」
 目算20mそれだけの距離を離して男が問う。答える暇も無く腰から引き抜かれる2本の剣。
 幻想纏いからバスタードソードを生み出した、吾郎が切っ先を向けながらに問う。
「自分に、正直になったのか?」
 返答は無い。彼我の距離は遠過ぎて、流石に表情までは定かでは無い。
 けれど、そう。彼らには見えたろうか。男が浮かべた、自嘲的な笑みが。
 今更問答は必要ない。拓真もまた、同様に剣を構え相対する。
「リベリスタ、新城拓真……参る!」
「……フィクサード、常盤総司郎――来い」
 矢の様に放たれた二人の双剣士。波止場に二条四撃の剣戟の音が、響き渡る。

●閃剣乱舞
「正々堂々の誘い、アークのリベリスタとして受けてたとう」
 雷音が両手で印を切り、守護の力が周囲へと満ちる。
 その言葉が途切れるや、対する拓真を迂回する様に虎鐵駆ける。武蔵が滑り込む。
「そんな速度じゃ、俺は捉え切れねえぜ!」
「雷音に格好悪いところはみせられぬでござる! おおおおっ!」
 力と速度を兼ね備えた武蔵の連撃が常盤の双剣に受け流され、
 其処へ虎鐵の剛剣、鬼影兼久が振り下ろされる。掛け値無しの一撃必殺。
 力を突き詰めた一撃に常盤が身を翻し距離を取る。けれど、それを拓真は逃がさない。
「閃剣よ、貴様には負けん。意地でもな……!」
 振り抜く双剣。全身の力が乗ったそれを、常盤は受け止め、そのままに押し返す。
「若いな、新城とやら」
 薄く皺の寄った目元に笑いすら浮かべ、男は手の延長の様に剣を操り拓真を跳ね除けたか。
 その勢いすらも利用して、円を描く両手の剣。旋回させた双剣が、激しい烈風を巻き起こす。
「ならば、見切ってみせろ」
 曰く、戦鬼烈風陣。デュランダルの技に習熟した者が操るその戦技が完成した時、
 あらゆる神秘は灰燼と化す。吹き飛ばされた虎鐵から力が抜けていく。
 それは拓真もまた同様。唯一辛うじて掠めるに留めた武蔵が、その光景に息を飲む。
「……おいおい」
 それは文字通りの、眠れる獅子。ナイトメアダウン以前のリベリスタの実力の残滓。
 威容であり、異様である。これで衰えたと言うのであれば、全盛期は果たして――

「教祖さん♪ 教祖さん♪ 見て見てー♪」
 さて、場違いに明るい声を上げたのは芽衣である。濡れた衣服の胸元を強調する様に、
 中腰になって手首を合わせ肘を引き締めるセクシーポーズ。
「なんだか最近やけに肩が凝るんだよね~」
 その横では釣られた陽菜が首元のボタンを1つ外して気だるげに肩を抱き。
「ぐぬぬ……やはり男性は大きい方がいいのか……」
 自分の胸元にぺたぺた手を当てる、雷音の苦悩は意外と深い。
「そんな事は無いでござるよ雷音! 無いなら無いなりの良さがあるのでござる!」
 その言葉に条件反射的に反応する虎鐵。
 戦いながらの割に意外と余裕がある、訳ではない。これも愛あればこそである。
「何がいいのか分からないけど……こんな感じ?」
 寄せて上げて。と、しなくとも随分な大きさを誇るうさ子がそんなことをすればどうなるか。
 服の首元から覗く谷間は言うなればそう、特盛である。
「今夜はちょっと暑いですねぇ」
 しかして真打登場。
 鎧の胸当てを、そして下に着ている制服の胸元のボタンを外してみせる、きなこである。
 もう何か暑いとか暑くないとか関係無い気がしつつも、
 そのアピールっぷりには貫禄すら感じられる。その意気や良し。

 だが、そちらを一瞥した常盤には反応が無い。これほどおっぱいを拝まされて。
 尚、まるで鏡の向こう側の出来事ででもあるかの様に平然と受け流している。
 彼の心に宿るおっぱいの幻想は死んでしまったとでも言うのか。
 大剣を振り被る武蔵の一撃を受け止めながら、踏み込んだ拓真の足を払う。
「その程度か、リベリスタ」
 暗い眼をした男が問う。その声は低く静かに。けれど様々な想いが混濁した響きを以って。
「させぬでござる!」
 経験の為せる業だろう。嫌な予感を悟った虎鐵が鬼影兼久を斬り上げる。
 だが、居ないのだ。其処には居ない。紙一重でかわした常盤の瞳の奥。
 12年弱の月日を遡り、かつて閃剣と詠われた男の眼差しが宿る。
「その程度ならお前達、ここで死ぬぞ」
「――っ、虎鐵――!」
 常盤の言葉と、雷音の悲鳴。その後数瞬の記憶が、前衛を勤めた3人には、殆ど無い。
 ただ僅かに残された印象は、煌く無数の剣戟の残像。双剣、連撃。そんな手数ではない。
 切り払われ叩き込まれるまでのタイムラグが皆無である。
 気が付いた時には体中に斬戟の痕。血に塗れて地に伏せている。
 けれど外から見ていた雷音には見えた。一瞬で十人にも増えた様に見える急加速。
 二本の剣が十にも二十にも増え、その剣閃が一度に身を切り刻む。
 思考の間隙を縫う様に放たれる閃光の連撃。常盤が閃剣と呼ばれた所以。
 曰く――無想閃空。

「……死ぬ?……こんな、程度でか」
 だが、拓真は立ち上がる。剣を杖に、折れた肋骨の痛みを意志の力で抑え込み。
 血塗れの唾液を飲み下して笑う。彼と同じ道を歩んだ者。先を行く者。その域は未だ遠くとも。
「俺は、まだ生きている。殺したくば、確実に息の根を止めてみせろ――っ!」
 吐き出すように叫ぶ。であればこそ、負けられない。折れる訳にはいかない。
 僅かに見えた残像を繋ぎ合わせる。見えないほどの剣の冴え。それは確かに恐ろしい。
 だが、真実見えぬ剣戟等ある筈も無い。力の差は圧倒的、それでも、
 決して届かない訳では――無い。
「演舞は、終わったでござるか?」
 そう。それでも彼は、常盤は、一人なのだ。そして彼らには仲間が居る。
「悪いな、負ける訳にゃいかねぇんだよ……」
 ならば例えどれ程強い力であろうと、速い剣閃であろうと、恐れるには足らない。
 常盤の瞳に動揺が混じる。ポケットを漁り、取り出すのは葉巻。
 そう、逃げた男は持ち得ない。仲間達と共に今を戦う彼らだからこそ。
「制服って水着とかより効果的だよね?」
「えっと、むふん、とか」
「あなたの大好きなおっぱいですよ~」
 制服のシャツをパタパタと扇ぐ陽菜、両手を頭に回して胸を突き出す芽衣。
 そして遂に制服を肌蹴させたきなこが下着に包まれた上着を露出する。
 葉巻に火を付けた形のまま常盤の動きが止まる。下着、おっぱい。何かが脳裏を――過ぎる。

●おっぱい乱舞
 それはかつて自分が何者かの啓示を受けた瞬間の記憶。
 あの時、彼は紛れも無く己が目的を見つけた筈だ。そうなのだ。
 なのに、高々組織が壊滅した位で、何を自暴自棄になっていたのか。
 思考に光明が射す。気付けば一人の少女が走り込んでいた。条件反射的に手にした剣を構える。
 しかし、そう。揺れている。揺れる乳房。おっぱい。これを攻撃して本当に良いのか。
 生まれた迷いは攻撃の精度を鈍らせ、放った一撃は――衣服の上着だけを両断する。
 望まぬ偶然。それを運命と言うのなら、そうなのだろう。
「ひゃっ」
 悲鳴を上げそうになりつつも、自分から濡らした上着は何とか肌に張り付いている。
 それを感覚で悟り手を伸ばす。弾く。常盤が咥えた葉巻が宙を舞い――
「私のは、どう、かな?」
 そう問いかけたうさ子のおっぱいがたゆんと揺れる。それに対する答えは一つ。
「ナイスおっぱい」
 ぐっじょぶ、と親指を立てた常盤――いや、それは既に『閃剣』常盤総司郎ではない。
 何を隠そう。彼こそは……秘密結社おっぱいがいっぱい団、代表である。
「じー――――っく、おっぱぁぁぁぁぁい!!」
 声と共にジャケットを脱ぎ捨てる。序でに上着も纏めて脱ぎ捨てる。キャスト・オフ。
 嗚呼、何かのスイッチが入ってしまったみたいです。
 さようならシリアス。そしてこんにちおっぱい。
 其処に居たのは男である。だが何よりも、漢であった。

「即ち、おっぱいこそが正義である」
 きりっ。とされても空気の変化に付いていけないのはアピールと無縁な前衛の方々。
「わ、訳の解らん事を……戦場で何を抜かすか!」
 一瞬気圧された物の体勢を立て直し、拓真の双剣が代表を切り裂く。
 噴き出す鮮血。メガクラッシュによる一撃が代表の身を吹き飛ばす。
「誰か、葉巻なのだよ!」
 慌てた様にうさ子が叫ぶ。零れ落ちた葉巻からは火が消えていない。
「了解、アタシに任せて!」
 それを陽菜の1$シュートが正確に射抜く。しかし葉巻は壊れず、火も消えない。
 流石破界器、葉巻にしては異様な頑丈さである。だが、それとて完璧ではない。
「拙者の本気を、受けてみるでござる!!」
 集中して叩き付ける虎鐵の渾身の一撃。
 振り下ろした刃は狙い違わず葉巻の中心を穿つ。そして、小間。
 それがぱきりと割れた時、漸く代表がむくりと身を起こす。
 瞳に逡巡の色は無い。自身を癒す秘密兵器が壊されても、清々しくさえある微笑みのままに。
「さて諸君、おっぱいについての説法を始めよう」
「「「だがことわる!」」」

 男達の心が一つになる。その中でも、武蔵の意志は殊更に固い。
「雄っぱいをのけものにする奴が神になどなれるもんか!」
「……雄っぱい?なるほど、確かに男にも乳房はある。ならば私は認めよう、その嗜好を!」
「な……ん、だ……と……!?」
「おっぱいとは、包容力。全てを受け入れる物である」
 うんうん、と同意を示す様にきなこが頷く。やばい、何か空気が変だ。
 武蔵の瞳に感動する様な色が宿る。仮にも代表、伊達に変態のカリスマではない。
「駄目っおぢちゃん! 正気にもどって!」
「ぐはっ」
 けれど、代表のおっぱい宣言を阻む声。そして割と遠慮なく叩き込まれる芽衣の拳。
 攻撃を受けた武蔵が地面を転がり悶絶する。十分混乱している気がするのは気の所為か。
「世の中の男はバカばかりだ」
 呟く雷音の眼差しが何所までも冷たい。が、とは言え余り遊んでもいられない。
 戦いは終わっていないのだ。
「來々! 三千世界の鴉よここに!」
 続く雷音の式符・鴉を皮切りに、ここからがリベリスタ達怒涛の反撃開始である。

●おっぱいがいっぱい
「はぁ――りゃぁぁぁあっ!」
「雄っぱいを愛する同志を狩るのは気が引けるが……許せっ!」
 芽衣の蹴りが大気を裂き、放たれたかまいたちが代表の身を切り刻む。
 出来た僅かな隙を縫って武蔵が死角から幻影を纏った刃を放つ。
 しかし敵もさる物である。斬風脚を食らって尚、敵の動きからは眼を逸らさない。
 弱点を突きに掛かった一撃は逸らされ、掠める程度に留まったか。
「後はひたすら、撃つべし撃つべし!」
 続いて体勢を崩した代表の両目を狙って陽菜の1$シュートが襲い掛かる。
 音を頼りに大きく跳び退き、間一髪。しかし追撃は終わらない。
「人の胸だけ見て他は見ないなんて、木を見て森を見ずもいいところなのだよ!」
「笑止、木を愛さぬ者が、どうして森を愛せると言うのだ!」
 駆け寄ったうさ子の放つライアークラウンに、
 けれど視線が半ば肌蹴た胸元固定の代表は言葉とは裏腹に余りに無力である。
 放った道化のカードが突き刺さり、爆ぜる。鍛え上げられた肉体が華麗に宙を舞う。
「あの、何だか可哀想になってきたんですけど……」
 天使の息を飛ばしながらも、何となく哀れみの眼差しを向けずにはいられない、
 きなこが後方でぽつりと呟く。だが悲しいかな、変態の末路とはこんな物である。

「く、くくく……」
 とは言え、流石に頑丈と言うべきか。素地の能力の高さまでは失われてはいない。
 ゆらりと立ち上がった代表は全身傷だらけでありながらも未だ、戦える状態に在る。
 男が両手を空へと翳す。その動きに、緊張が走る。見た事のない攻撃方法。
 それが何であるか、答えは一つしか思い浮かばない。
「馬鹿おっぱいビームとか やめろ!」
 武蔵が声を上げて身を倒す。転がる様な回避の直後、放たれる――
「おぉぉぉぉぉぱぁぁぁぁぁい、閃・光――!」
 乳房型の後光が射す代表の頭上から、夜闇を裂き神々しい光が降り注ぐ。
 曰く、乳気閃光。視界を埋め尽くす光、また光。
 その一撃が絶大な威力を持ってリベリスタ達を射抜く。網膜に刻まれる乳の残像。
「うおおおおおおおっ!!」
 けれど。
 けれど。その光を剣で遮り男が走る。決して負けられぬとの気概を武器へと換えて。
「な――」
 信仰の光がその身を貫く。体がぐらりと揺れる。だが、倒れない。
 口元から滴った血を手の甲で拭う。そして一歩。更に一歩。
「馬鹿な。おっぱいの威光の前に屈さぬ男など――」
 理解出来ない異物を前に、代表が一歩退く。たったの一歩。けれどそれは、勝ち取った一歩。
「俺の心は、俺の物だ。誰にだろうと、」
 振り被る双剣。賭ける一閃。その太刀筋は未だ閃剣には到底及ばぬ無様で無骨な物。
 けれど、其処に宿した意志は、意気は、決して劣る物ではないと――

「……大丈夫でござるか?」
 見えたのは、大きな背中。かけられたのは、温かな言葉。
 眼前で爆ぜた光に込められた強大な力。その威容に、雷音は一瞬我を忘れた。
 彼女とてこれまで何度も傷付いてきた。倒れてきた。
 だからと言ってその痛みには慣れる物ではない。それでも一人戦ってきたのだ。
 であれば何故。気持ちが緩んでいたとでも言うのか。それを肯定も、否定も出来まい。
 漏れた言葉は一言。自分の養父の名前であった。そして光に射抜かれる寸前――
 影が、割り込んだ。
「……雷音?」
 振り返る。その身は二度の異なる閃光によりボロボロで、血塗れである。
 けれど、力強く笑う。その表情だけは変わらない。
「無理を……」
 だから、雷音は俯いて己が仕事を遂げる。癒しの符が虎鐵を癒す。今は表情は、見せられない。
 そうして聞こえる。遠く響く。男の声。放った双剣は十字を描き。
「誰にだろうと、折らせなどしないっ!!」
 吹き上げた血飛沫は熱く、冷たく。
 閃剣と、代表と、いずれも称された男が、がくりと膝を付く。
 それが、一つの事件の終わりであり――

「アーク、か……やるねえ」
 双眼鏡を畳んで、もう一人の男は去る。ウェスタンハットに節くれだった手を置きながら。

 ――そして、始まりもまた終わる。
 全てはかくと見取った女神の意のままに。

「またな、戦友」

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『おっぱいがいっぱい団の最後』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

見事なおっぱい、こほん。
プレイングにより無事、おっぱいがいっぱい団完結と相成りました。
新城・拓真さん、鬼蔭 虎鐵さんの頑張りの結果、
何だか最終的にはシリアスっぽくなってしまいましたが、後悔はしておりません。
MVPも迷ったのですが、今回は新城・拓真さんに御贈りさせて頂きます。

そして申し訳有りません。戦闘後エピソードは泣く泣く削らせて頂きました。
撃破された常盤総司郎はこの後アーク預かりとなり、
これに対する尋問等は後日談として運営させて頂くつもりです。
今回投げっ放しになってしまった伏線等はそちらで回収させて頂きたく存じます。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。