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【七罪】貪欲

●演罪
 求めたのは力、絶対的な力。捻れた体躯を折り曲げて、黒い切り絵が舞い躍る。
 無数の瞳が獲物を眺め、受けた力を学んでは返す。
 組み付かれ動けぬそれを、影の魔物が嘲笑う。
 肉塊が喘いでいる。顎の獣が喘いでいる。
 引き千切り、引き千切られても、それの渇望は留まる所を知らない。
 知った事ではない。見つめる。噛まれる。噛まれたままの牙を押し返す。
 もっと、もっと、もっと力を。
 牙を牙で返す、顎を顎で噛み合う。力を力で殺し合う、足りない足りないまだ足りない。
 眼球が踊る。幾ら削っても、飲み込んでも、影絵の道化は揺るぎもしない。
 闇が傷跡の様に裂けた。嗚呼、もう十分だ。

 飲み込む。沈めて吸い尽くす。
 蠕動した大地へ肉塊が沈む。変化は続いて訪れた。
 影絵の裂け目に刃が生える。それは幾つも、無数に、鋭く、虚ろに、狂おしく。
 次の段階ヘ進む。破滅の階層を、さらに下へと堕ちていく。
 暴食を呑み込んだ貪欲は、夜闇を這う。骨の様に、骸の様に。
 もっと、もっと力を。もっともっと。
 破滅そのものへと成り代わるまで。

●貪欲と暴食
「困った事になったの」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。
 アークの誇る予知の少女の一声がブリーフィングルームへ静かに響く。
 モニターに映し出されたのは2つの像。片や影絵、片や肉塊。
 けれど彼女が最終的に見た物は、そのどちらでも、無い。
「2体のエリューションが、郊外で殆ど同時に発生してる。
 それ自体は偶に有る事なんだけど……」
 元々、エリューション自体が自然増殖する性質を持っている。
 増殖性革醒現象。1つのエリューションはより多くの同族を生み出す。
 それが偶々ほぼ同時に発生した。ノーフェイス等であればままある事態ではある。
 しかし、言葉を濁す以上他に何かあるのだろう。一拍の後、イヴが続きを告げる。

「何でか2体が2体とも性質こそ違え“吸収する事”に特化した能力を持ってるみたいなの
 このままだと、この2体が遭遇。互いに喰い合ってどっちかが生き残る」
 それの何所が困るのか。数が減る事でやりやすくなるのではないかと。
「うん、生き残った方が進化するの。このまま放っておくとフェーズ3が出現する」
 やはりそう上手くは行かないらしい。正に困ったことである。更にイヴの難題は続く。 
「この2体は弱ると、生存本能に従ってお互いの方へ逃げる。
 2体が遭遇した時点で詰み。だから各個撃破するしかない」
 その為に2チームが召集されている。片側が失敗すれば双方失敗し兼ねない状況。
 現在のリベリスタ達にフェーズ3エリューションの相手は手に余る。
「くれぐれも逃がさないで、倒しきって」
 頷いては差し出す資料。そこに描かれていたのは――



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月17日(水)22:44
26度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
本件はyakigoteSTとの連動依頼となっております。
こちらの相手は貪欲のエリューション。以下詳細です。

●依頼成功条件
E・フォース『貪欲』の討伐

●貪欲
 力を求める人々の渇望が形を成したE・フォース。対峙した敵の能力を写し取る影絵の魔物。
 形状は影+無数の目。質量は無く、影その物の様に地面に潜る事も可能。
 非常識な程の耐久力を持つ反面、初期時点では大した能力は持ちません。
 戦闘が長引けば長引く程強くなり、任務達成に失敗すればもう片側のエリューションを、
 模倣し、取り込むことで次の段階へ進化します。

・データコピー:A・特殊、視覚内対象1人のP、T、Mのいずれかの能力を写し取ります。
・スキルラーニング:A・特殊、視覚内対象1人が、既に用いたスキルを1種類習得します。
・EX七罪・貪欲:コピー、ラーニングのいずれかを行った対象を飲み込み、力を吸い取ります。
 神遠単、命中大、致命、H/E回復大

●戦闘予定地点
 三高平市郊外の廃墟。人目は無く、光源も無し。
 足場は若干不安定ながらぺナルティが発生するほどではない。
 障害物は老朽化して割れ落ちたコンクリート壁等、多数。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
クロスイージス
ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
ナイトクリーク
長谷川 又一(BNE001799)
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)

●深淵を見る者
「どうですー、何か見えそうですかー?」
 『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が問う。
 羽を一生懸命に羽ばたかせながら飛行するのは地上20mを超える上空。
 月明かりに照らされながら眼下の景色を目視するも、彼女には勿論何も見えない。
 一方、その下でマントをはためかせながらイーグルアイと暗視を駆使する、
 『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)はと言えば……
「見えるには、見える……けど」
 彼女には夕暮れ過ぎの廃墟がくっきりと鮮明な像を描いて見える。
 暗視に望遠の併用により強化された視覚効果は絶大である。
 影に覆われた大地も天乃にとっては真昼の平原の如し。……が、まあしかしである。
「……けど、どれが“それ”なのかは良く分からない」
 そう。彼女の視界には物陰も当然はっきりと見える。
 が、障害物になりそうな割れたコンクリート片が無数に転がる廃墟である。
 物陰、と言っても余りに数が多過ぎる。その内どれが問題の“影絵の魔”であるのかは、
 地上20mオーバーと言う距離では流石に分からない。
 立体化でもしていればともかく、件のE・ビーストは影の様に地面に溶け込んでいるのである。
「でも大体の地形は把握出来た。戻ろう」
「はーいっ、私もその、流石に手が……」

 アリステアがそう言った、その瞬間。眼下で何かが瞬く様に動いた――気がした。
 それが何だったのかは分からない。一瞬の事である。
 しかし、それを見ていた天乃の頬を、冷たい汗が滑り落ちる。
「……ごめん、急ごう」
 気のせいだと思いたい。まさか、この距離で見られる何てことは、と。
 けれど、一方でこうも言えるだろう。
 人間大の生き物が夜空を飛ぶと言う行為が、果たしてどれほど目立つ物であるか、と。
 彼女とて、その可能性を危惧してない訳ではなかった。対策も練ってきた。
 しかし、もう少し注意を払うべきだっただろう。
 地に潜んだ影は備に観察し、理解する。己を観察する者が居ると言う事実を。
 そして貪欲に学習する。見ると言う事は、即ち見られると言う事であると。
 先ずは初見で暗闇で物を見る術を、次に遠くの物を見通す術を。
 それらを利用し、己を見ていた少女のしなやかな体躯の動きをも学び取る。
 どろりと。少女を模した影絵が生まれ、呑み込まれ、呑み込まれては生まれ。
 学んだ感覚を己が物へと落とし込む。その動きは何時しか疾く。速く。鋭く。
 ――生まれ変わる。

「さて。準備は良いかぇ?」
 守護結界を展開しつつ『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)が周囲を見回す。
 偵察が戻れば戦闘準備。
 今回戦闘中の付与系スキルは御法度と言う事になっているリベリスタ達である。
 実質戦闘前以外では使い道が無い為か、ほぼ全員が念入りな下準備の上行動を開始する。
「影絵の魔物のひんよくさんかー、かっこいい名前だよねー
 ……え、ま、間違ってないよー?どん?ひんよくだよね、貧欲」
 『キーボードクラッシャー』小崎・岬(BNE002119)12歳。
 どうも国語の成績には余り期待が持てないものの、禍々しいハルバード、
 アンタレスを担ぎ上げた姿に気負いは見えない。
 準備万端と身を捻る傍ら、連絡を終えた『八咫烏』長谷川 又一(BNE001799)が息を吐く。
「さて、あちらも始めたようだぜ」
 彼は今回の作戦に完全を喫する為、暴食のチームとの情報交換を担当している。
 結果から言えば、これは彼らに貴重な情報を齎した。
 貪欲の所在地は未だはっきりしない物の、一方の暴食の所在地は割れたからである。
 これで逃走経路は読めたに等しい。
「多分、ここから一直線」
 帰還時の違和感から貪欲の位置を大まかに予測した天乃の指先。
 その方角へ真っ先に踏み出すは最前衛。『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。
 そして『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)である。
「力を求める。ねえ。まあ、俺も若いころはそうだったもんさ」
 思い当たる所があってか、しみじみと語るソウルに、併走する快が応える。
「だとしても、それが暴力であるのなら放ってはおけないな」
 これに続く『悪夢の種』ランディ・益母(BNE001403)は、
 けれど何処か愉しそうに頷くや、腰元の楔、ハーケンダガーの感触を確かめる。
「ああ、いいねぇ、悪くない。実に悪くない」
 力への渇望。その概念に三者三様に想う所を抱きながら、瓦礫の合間を走り抜ける。

●力を喰らう者
 そうして駆けた割れたコンクリートの先、舗装道が途切れる向こう側。
 それは居た。気付けたのは天乃唯一人。彼女の嫌な予感は的中する。
 暗視とイーグルアイ。双方を持つ者だけが目視出来得る距離感。
 攻撃を仕掛けるには余りに遠い。けれど視界だけは通っている。
 影の一部が亀裂の様に裂ける。それはあたかも嘲笑う様に。
「居る、良く見て」
 先頭を走る快のコンバットライトが周囲の影を押し退ければ、
 ぽっかりと空いた瓦礫の合間。其処に浮かぶ影絵。E・フォース『貪欲』が、顕現する。
「俺達は貪欲側へ回る。お前らは逆を頼むぜ」
「了解。ランディさん、小崎さん、行こう」
 それに合わせて分散するリベリスタ達。天乃、ソウルが退路側へ。
 そしてランディ、快、岬の3人がその対岸へと。貪欲は未だ、不気味にも動かない。
「力への渇望……か、テメェからは懐かしさすら感じるぜ」
 故に、先陣を切ったのはリベリスタ。ランディである。
 担いだ相棒、ヴァリアントブレイカーが大気を斬る。
 解き放たれる真空の刃。貪欲の一部がコレに切り裂かれ、宙へと溶ける。
 しかし未だ動かない。追撃は続く。走り寄った岬が手に持ったアンタレスを振り被る。
「デュランダルは殴るのがお仕事だろー!」
 振り下ろし、吹き飛ばす。影絵が宙へと浮く。其処へ更に背後から走り込む天乃。
 体中から放たれる気糸の縛縄。それらが放たれようとした、その瞬間だった。

 影の背後に目が生まれる。死角であると考えていたそちら側に視覚が生まれる。
「こいつ!」
「狙いは――俺か!?」
 貪欲の本質は「影」である。影には裏も表も無い。そして退路側には誰が居るか。
 天乃、ではない。貪欲の狙いは其処には無い。影絵が見定めたターゲットは――ソウル。
 その類稀なる完成された肉体と、瞬発力を模倣する。
 引き上げられた回避反応。影の体躯をギャロッププレイが掠め、けれど直撃には至らない。
「不味いね……手に負えなく、なる前に抹殺しないと」
 あたかも天乃の声に応える様に、快が手に持ったナイフを振り被る。
 偶然であれ、必然であれ。ソウルに視線が向いた以上は快達の位置は死角である。
 声を上げて態々位置を知らせる愚行も無い。渾身の力で、振り下ろす。
「―――ッ、元は殺しの刃でも、俺の手にあるなら護り刀だ!」
 鋭いナイフの切っ先が突き刺さる。文句無しの不意打ちである。
 返る手応えこそ頼りない物の、焦った様に貪欲が後退る様を見て観察していた又一が悟る。
 貪欲にも死角はある。単に視点が自由に変わるだけだ。
 それその物は厄介であれ、であるなら今の配置は決して悪くない。
(ローゼス、今だ!)
 結ばれたテレパスに咄嗟に応えソウルが動く。貪欲の注意は不意を討った快へ向いている。
 であれば、当然――
「貴様が人の想いが作りだしたものだってんなら、人である俺らが、向き合ってやるぜ!」
 放たれたパイルバンカーが、貪欲の“背”を打ち抜く。
 戦いながら戦い方を学ぶ、それは決して、貪欲だけの専売特許ではない。 
「余所見をしている余裕があるかぇ!」
「一気に攻めに出るよっ!」
 瑠琵の銃、天元・七星公主から放たれた魔弾、そしてアリステアの魔法矢が側面から影を射る。
 そう、リベリスタ達もまた、守る為の力に貪欲なのだから。

「うわぁ、影って変な殴り応えなんだねー」
 集中を駆使し、都合3度目のメガクラッシュを叩き込んだ岬が呟く。
 けれど、一見に暢気に見えるこの台詞も、事情を加味すれば意味が変わってくる。
 前と後ろ、交互に重ね与えたダメージは如何ほどか。
「皆頑張って! 回復は任せて!」
 アリステアの天使の息が、貪欲のメガクラッシュに吹き飛ばされた天乃を癒す。
 だが影絵は今だ健在。何故か、理由は簡単である。
 絶対的な火力が、不足しているのだ。
 しかしそも、何故それほど攻め手が不足しているのか。
 編成その物は決して守備的な物では無かった筈なのに。何故。
「……流石にあちらも戦闘中では、連絡を受けている余裕が無いか」
 気配遮断を用いては、AFを起動して呼びかける又一に連絡は無い。
 対岸の戦いもそれほど易くは進んでいないと言う事だろう。存在を殺してじっと見つめる。
 貪欲の動きは徐々に変化して来ている、戦いに慣れて来ていると言うべきか。
 であれば彼に打つ手は無い。退路を阻む事を最優先し、奇襲を旨とする以上は。
 快が時折視線を寄越すも、又一はその場を離れられない。
「ちぃっ、邪魔くさいんだよっ!」
 打ち下ろし気味に放ったソウルのパイルバンカーが影を掠める。
 不意を討たれぬ様位置取りをこまめに変えはじめた貪欲に、ソウルの攻撃は中々当たらない。

「この、良い加減止まりやがれっ!」
 一方ランディのヴァリアントブレイカーが影絵の中へと突き刺さり、中空へと打ち上げる。
 継続的にダメージを与えている彼すらが何となく理解する。
 この停滞がもうそれほど長続きしない事に。
「何か嫌な予感がするのじゃ」
 瑠琵が瞳を細め射撃を続ける。それは確かに影の一部を削り取る。
 しかし足りない。決定的に、足りない。故に――
「星川さんっ!」
 快の声が届いた時には遅過ぎた。不意に踏み込んだ一歩。足元には淀んだ影。
 慌てて引こうとした足を影から迸った無数の糸が縛りつける。
「こ、の――」
 ずぶり。沈む。沈み、呑まれる。影が膨れ上がり天乃を包み込む。
 快が伸ばした手が、空を切る。
 噴き出す血飛沫。べきりと。影に閉ざされた地中から響く何かが壊されていく音。
 そうして影から放り出された天乃は地に伏せ、動かない。
「まだ……まだ、やる」
 いや、それでも尚立ち上がる。満身創痍に鞭を打ち、運命の加護を削りながら。
 けれど、被ったダメージは深刻である。足元が揺れる。血が足りない。
 貪欲の視線がリベリスタ達を捉える――ぞくりと、冷たい汗が流れ落ちる。
「ランディさん、頼む」
 快が決断し発した声に、ランディがにぃっと歯を剥き出しに嗤う。
 体に巻きつけたワイヤーにハーケンダガーを括り、突貫。
 それに影絵が応じた瞬間、投擲されるダガーの先端。飲み込み、取り込まれ、繋がる糸。
「……さあ、デスマッチと行こうか」

●血染めの獣、影絵の魔物
 殴る、噛み付く、引き千切る。それを何と称すだろう。
 其は暴力、正しく力の顕現である。しかし、その様を人の力と言うには誰もが抵抗を覚える。
「グ、ウゥアァッッ!」
 ランディが吼え、拳を叩き込む。武器など既に手放して久しい。
 影絵の体躯が浮き上がる。手応えは無い、しかし分かる。その体積が徐々に減っているのが。
(……そうだ。力は絶対、力こそ起源、、力『だけ』が全てだ――)
 視界を彩る極彩色のフラッシュバック。浮かんでは消える失くした記憶の残滓。
 餓える、飢える、もっともっともっと――それはあたかも貪欲を写す様に。
 噛み千切り飲み下す。概念体であるE・フォースを喰らう事は出来ないが、
 そこには儀礼的な意味も有るのだろう。影絵のメガクラッシュが体躯を吹き飛ばす。
 無様に転がり血塗れで立ち上がる。獣の如く。餓狼の如く。止まらない止まれない。
「ちょっとちょっと、これどうすれば良いのさー!?」
 互いにノックバックし合う為に位置が度々変遷する。追うリベリスタ達にしても必死である。
 時折運良く近くへ転がって来た場合に限り攻撃を仕掛けるも、再び距離を離される。
 岬の悲鳴は正しく誰もが抱いた物である。彼は明らかに暴走している。
 そして幾ら歴戦のリベリスタとは言え、一人でエリューションを相手にするのは自殺行為である。

 貪欲の中の瞳が開く。ランディの足元に広がる影。
 ず、っと足を取られ、もがく、足掻く、しかし抜ける事は叶わない。
 沈む、沈み行く。影に呑まれる。強靭な体躯が壊れていく。
 それでも尚、ランディは吼える。大地の淵を掴み、影に牙を剥く。数瞬――
 血飛沫を上げて放り出された男を、ソウルが受け止める。けれど何故かその表情は満足そうで。
「……ちっ、馬鹿野郎が」
 自分もまた、最強を追い求めた過去を持つ男は、苦々しくもランディを横たえる。
「傷は私が癒すから、ソウルさんは皆のところへ」
 追いついたアリステアが後を継ぎ頷く。そう、戦いは未だ終わっていない。
「おおおおおおっ!」
 ランディが倒れた為に崩れたバランス。それを押し返す為に快が咆哮する。
 振るわれるナイフが貪欲に突き刺さり、お返しとばかりに放たれる一撃を踏み止まる。
「逃さ、ない」
「通さないよー!」
 傷を癒された天乃がそれを追撃し、岬のアンタレスが影を切り刻む。
「此処は通行止めだぜ、大人しくまわれ右しなっ!」
「貪欲よ――我が渇望を充たす糧となれぃっ!」
 ソウルが穿ち、瑠琵が撃つ。己が力の全てを賭して打ち振るう。
 しかし、此処で最初のアドバンテージが響いてくる。
 攻撃がかわされる。掠める。直撃しない。故に――足りない。
 影絵は踊る、軽妙写楽に。
 そうして再び天乃が影に飲み込まれると、戦線は徐々に押し込まれて行く。

「……こいつは、いけねえな」
 気配を殺し控えていた又一がその様を眺め呟く。やはり暴食側とは連絡が取れない。
 だがそれ以前に、貪欲側が瓦解寸前である。
 攻撃の要であるランディと天乃が倒れ、快もまた運命の祝福を用いて何とか立っている状況。
 アリステアが天使の息で持ち応えにかかるも、貪欲の一撃はそれを上回る。
「悪い、長谷川さん! 抑え切れない!」
 快の声に、八咫烏が動く。視界の外から突然走り込んで来た影に貪欲の反応が遅れる。
「――シノギ屋又一、死活打崩候」
 気配遮断による奇襲から放たれる気糸の束が、影絵の魔物の身を縛り付ける。
 此処に秘策は成る。身動きが止まった貪欲に、リベリスタ達が畳み掛ける。
 一手、また一手と。繰り返される攻撃に、けれど歯を食い縛る。悔しさが滲む。
 そう。削り切れない。影絵の体積は既に初期の3割ほどまで減っている。
 それは一見弱弱しくさえ見える。後もう少しだと、希望を抱かせる。
 けれどそれがそうで無い事は、誰にも、分かっていた。
「ぬおっ!?」
 ソウルが足を取られ転びそうになる。疲労からではない。足元を掬ったのは影である。
 貪欲の貪欲たる所以。覆われた影が力を、命を喰う。それによって再び増える体積。
 削る量と戻る量、その天秤が均一になる前に、恐らく彼らは全滅する。

 その事実を悟り、快が魔術制御の盾を自分の眼前に展開する。
「俺が押さえる――皆は、逃げるんだ」
 苦汁の決断。けれど、これ以上は限界であると多くの苦戦を見てきた彼は読み切る。
「待った」
 けれどその横に、もう一人立つ。戦いを観察し続けてきた又一には分かる。
 自分であれば、あの影絵から逃げ切れるだろう事を。
「奴は足が速そうだからねぇ、抑えは俺の方が向いてるだろうよ」
 背を押す。快がたたらを踏む。その事実に漸く、自身の疲弊の程を悟る。
 倒れた仲間達を背負う者も必要だ。又一の申し出に奥歯を強く噛み締める。
「……分かりました、頼みます」
 告げて、駆ける。又一は前へ、そして、快は後ろへ。
「「うおおおおおおおおっ!!」」
 分かたれた道が告げる。敗北の味を。刻まれた傷が伝える。撤退の痛みを。
 足りなかったという事実が、悔いと共に臓腑を満たす。 
 繋いだ命に残されたのは貪欲なまでの力への渇望。
 かくして罪は残り、咎は生まれる。七罪・貪欲は此処に――成る。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『【七罪】貪欲』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

敗因等は作中に込めさせて頂きました。
リベンジシナリオは少々間を空けて改めて運営させて頂きます。
この悔しさをバネに皆様が再び立ち上がられる事を祈っております。

この度は御参加ありがとうございました、またの機会にお逢い致しましょう。