【三防強2014】虹色の黒歴史を闇から闇へ！
|
● 虹色半透明のなめらかな胴体。 美しい鏡面の巻貝様殻。 ぬめぬめ、ぬめぬめとカタツムリが動き回ると、ぬるぬるとした跡が残る。 跡は、明確に文字の形をしている。 『……馬鹿な、早すぎる』 ● ごはあっ！ と、悲鳴を上げたリベリスタがいたが、『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門（nBNE000248）は、仲間の屍を踏んで前に進む戦士の面持ちで話を先に進めた。 「本気にしてなかったんだけど、これ毎年出るんだね」 いや、そんなこと言われても。しっかりしてよ、フォーチュナ。 そんなリベリスタの熱視線を華麗にスルーしつつ、四門は資料を配った。 モニターの中には、こっぱずかしい妄想文章をぬめぬめコンクリートの壁に虹色プリントしていくカタツムリが延々と映し出されている。 「三高平市防疫強化施策。略して【三防強】の一環。今年で四回目。夏だし、いらいらするものはお盆が来る前に片付けて、気持ちよくご先祖を迎えたいと思うのが人の常。と、イヴちゃんが言ってました。俺もそう思います」 言いたいことは分かりますが、頭まっかっかの四門の口から出ると違和感がすごくあります。 「ちなみにこのカタツムリ、紙を食べてその内容を殻に蓄積。分泌液をインク、体をプリンタヘッドと化し、インクジェットプリンタの要領で、大きな壁面の上を這いずり回って、分泌物を排出、ぶっちゃけ印刷しまくりたい欲望に駆られている――って、いっぺん解剖したくなるようね、このピンポイントな進化」 お前の為に、一匹連れてきてやろうか。いっそ、顔に印刷されてしまえ。 「目的は、排除とカタツムリが汚した壁掃除」 え～。と、リベリスタからブーイングの嵐。 壁掃除とかは、別動班の人がいつもやってくれるじゃ～ん。 「三高平は、近隣の市町村の中でもごみに分別率が高いと評判なんだよね。俺も引っ越してきたとき、気をつけろってすごく言われた」 四門の口元に薄笑いが浮かんでいる。 「このカタツムリ、ずっと大量発生してる。センタービル壁面に突撃☆夫婦の寝室（事後）、大学部の壁の隙間に厨二技ノート・相手は死ぬ」 うわ～。 「更に、同学部の壁に反射的に廃棄した忘れたい恥ずかしい依頼の報告書・えろいシーンのフォントはそれらしく。某ビル高所に剣林の男の娘フィクサードといちゃいちゃしてるコスプレ写真。同じく、某ビル壁面にパンツ全開すけすけネグリジェ写真。すっかり忘れてたおにいちゃんへのバレンタインカード。商店街にデレ100%ワンちゃんブログ。三年連続ポエムは通常営業だからいいとして」 あはははは。 「他にもいろいろあったそうで。聞きたい？」 ちなみに個人情報なので、実際の映像はお見せ出来ません。と、メモを読み上げる四門。 「女装男子は、すでに名誉女子の称号持ち。報告書廃棄野郎は世界戦混乱させたり。他もあれが外に流出してたらと、胸をなでおろし、後々そのときのことを夢に見るとカウンセリングルームに報告が……。放置は、リベリスタの人生に関わるからしっかりやらせろとイヴちゃんが」 お前はイヴちゃんの回し者か。――そうか。ならいいんだ。 「カタツムリが最初に確認されたのは、燃えないごみの集積所――？」 ぎく。 「だから、この件を知ってる三高平のリベリスタは、ごみの分別をきっちりする。流出してはまずい紙類がカタツムリの餌食にならないように。もう、俺もゴミの日は絶対に忘れない」 だらだらと背中を滴り落ちる汗。 「あ、でも、人間、時として適当にしちゃうときとか、不慮の事故とかで、ごみの分別を適当になっちゃったりすることもあるよね。あるよ、だから、そんなに気にしなくていいんじゃないかなっ！？」 ぎくぎく。 「今、カタツムリがそれなりにあちこちの壁面にいろいろ印刷してるんだけど、誰が書いたのか特定出来る程度に個人情報が流出しているのがあって――」 四門の声に、ご愁傷様ですの気配が漂う。 もう心当たりがありすぎて、心臓の鼓動が激しくなってきました。気持ち悪いので、医務室行ってきていいですか？ 「なんていうか、この班の選抜基準は、ある意味温情……？」 空調が効いているブリーフィングルームで、背中に冷や汗がどばー。 「壁の清掃、別動班の人に頼む？」 「いえ、自分らが責任をもってやらせて戴きますっ！」 |
| ■シナリオの詳細■ | ||||
| ■ストーリーテラー：田奈アガサ | ||||
| ■難易度：EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
| ■参加人数制限： 8人 | ■サポーター参加人数制限： 4人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月25日(水)22:38 |
||
|
||||
|
||||
| ■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
| ■サポート参加者 4人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
● 赤点の答案がたくさんたくさん、小等部の壁面にプリントされた『くまびすはさぽけいっ！！』テテロ ミミルノ（BNE003881）はけろっとしている。 「テスト？ なにそれっ？ おいしいのかっ？？」 得意科目『給食』 ミミルノに、テストを受けた記憶はない。 睡魔に襲われるまでの開始五分に書いたところはみんな当たっているのが切ない。 『祈鴉』宇賀神・遥紀（BNE003750）の目が虚ろだ。 「まさか被害に遭うだなんて……ふふ、７月の小学校の保護者会がこわいなぁ」 『宇賀神』 の下に、大量のDQNネームが並ぶ中、「男：颱遙」 「女：塙」に赤丸。 （――読めるか。お馬鹿さんだな、5年前の俺。子供たちは笑ってくれたけどさ！） ちなみに、たいよう君とはなわちゃん。字は太陽と花輪。 『ＯＤＤ ＥＹＥ ＬＯＶＥＲＳ』二階堂 櫻子（BNE000438）は、スポンジを握り締めて震えている。 （過去の封印したい事を印刷しちゃうなんて……なんて恐ろしいカタツムリさんなのでしょうか……） 降り注ぐ陽光が櫻子を責める。 「櫻子に黒い歴史なんてありませんよっ……た、多分……」 「黒歴史、というものがどういう物か私には理解しかねますが――」 『白雪狐』天月・白蓮（BNE002280）は、鷹揚に微笑む。 「忘れていたことを思い出させてくれるという面ではとても優秀なカタツムリだと思いますよ？」 おばあちゃま、癒やし系。 「武士の情けや、大丈夫、見てないとは言わへんけど、全部心の内側にしまっておくで。うち割と口が堅い方やから問題あらへん、信じてな？」 東北出身なのに関西弁なのに複雑な何かを感じる『狐のお姉さん』月草・文佳（BNE005014）は、かなり悲壮だった。 「新しき土地、新しき力。神秘の世界に身を置き早七十七歳にして人生の再出発。さあ、初陣と参りましょう」 『冬御前』千葉 冬（BNE005024）の初陣は、市内清掃という名の過去の清算。 そんな、初々しい方々と一線を画すのが、訓練されたリベリスタ。 『慣れちゃったんだな。自分でも分かる』 と思ったら、速やかに自己申告。 「出たなカタツムリ」 『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美（BNE002216）の言葉は苦渋に満ちている。 （あれからずっとゴミ出しには気をつけてるのになんで――ハッ！ まさかお兄ちゃんが適当かましてるのか！） 甲斐甲斐しい妹と同居の兄は、概してずぼらだ。 （これは家に帰ったら確認しなきゃいけない） 「やあ、皆ごくろうごくろう☆ るねっさんすで何かやらかした気もするけど、自分としてはもう失うところが何もない気がするとらだよ☆」 月杜・とら（BNE002285）は、デッキブラシを肩に担いで、吹っ切れている。だめな方向と言ってもいいかも知れない。 「あ、暑くて立ちくらみが……っ」 と言いつつ、逃げられないのは『ニケー（勝利の翼齎す者）』内薙・智夫（BNE00158）だ。 小刻みに震えているが、いつもなので誰も気にしていない。 ● 訓練されつつあるリベリスタ、雪白 桐（BNE000185）がもっとも現場が近かった。 三高平駅前中央広場。よく、イヴちゃんが立っているあそこだ。 一面石畳が敷き詰めてあるが、ところどころ変色している。 センタービル最上階近辺から見ると一目瞭然。 石畳一枚一枚がドットになって、巨大な地上絵を展開。 魔女っ子、お耽美、ひらひらアイドル、びっくり巨乳がばいんばいーんのフォトコラージュ。 「ちょっ、なんてものを描いてくれていますか！？」 手近な高所に上ってイーグルアイで探そうとしていた桐、絶叫。 下を覗き込んだ人が桐の顔と地上絵を見比べる。 今ほどダイブイントウザスカイしたくなることはない。まんぼう君を握る手に力が篭る。 （私は格好が普段からこれですし、別に女装が恥ずかしい とかはないのです。ですが） 靴音も高らかに、桐は非常口を蹴破り、壁面を駆け下りる。 （依頼内容によっては、好まないにもかかわらず色々とあるわけですよ） 心当たりは一つしかない。 「私は写真に撮ったりする趣味はありませんから、それをしてる同行者からの流出ですかね」 同行者リスト見たら一目瞭然だが、個人名は秘す。 一仕事なし終え、更なる大作の作成に勤しもうというカタツムリが視界に入る。 あ、男子ですね、分かります的膨張を見せる桐の筋力２割り増しアタックは怒りを載せて水蒸気を伴う。 ぱきょ。と、間抜けな音と共に、カタツムリはその場でインクごと蒸発した。 「これ消さないと……」 「さっさと終わらせて、次にいくよ」 虎美から通信。彼女の目も全貌をつかんだらしい。 しかし、それ以上は彼女は言わなかった。 お口にチャックは堅くなっているのだ。 ● 床の間のある立派なお座敷。 『襲名披露』の横断幕。 左右にずらりと並ぶ紋付袴の偉丈夫。 正面には、今はモップを槍のように振り回している白狐のおばあちゃん――当時はお姉さん――白蓮が眼光鋭く正座なさってたりするのが、シネマコンプレックスビル壁面に印刷されている。 「謹んで襲名いたします」 の字体が、往年の映画を髣髴とさせ、独特のBGMが昭和生まれはもとより平成生まれの脳裏にすらこだまする。 カタツムリは、忠実に食ったものをプリントするから恐ろしい訳で。 つまり、『襲名した』 という事実があったからこそプリントされている訳で。 ニコニコとたすき掛けしている白狐さんはその筋の人ですか。 「これはまた随分と懐かしい写真が出てきましたね」 頬を赤らめる仕草は奥ゆかしくも可愛いおばあちゃんなのだが、このモノクロ写真の頃、その目にどれだけの羅刹を住まわせていたのか。 「うふふふ、昔はやんちゃでしたから。これが若気の至りというものですか」 もじもじと紙をいじっているが、その紙も普通の紙ではない。 「これ以上恥ずかしい写真を増やさないでくださいな」 紙で折られたカラスがカタツムリをついばんだ。 「とはいえ、放置は景観上よろしくありません」 チケット売り場が混乱するしね。 「外壁の汚れ共々・・・綺麗に削ぎ落としてみせましょう？」 命綱なしで壁に駆け上がり、清掃する脇には慌てず騒がず『撮影中・写メ・フラッシュは厳禁です』 の立て看板がかけられた。 三高平は対外的にSFX撮影のメッカである。 さて、作業中、カタツムリは潰されることなく、烏のくちばしに挟まれたまま放置プレイだった。 「ふふふ、久しぶりに童心に返れた気がします」 洗浄終了、さわやかな汗をぬぐいながら白蓮が近寄ってくる。 「お仕事お疲れ様でした。カタツムリさん」 鴉に合図。 ぱきょ。 ● もう、始末書は書いてきた。 「だって、安藤君、お化粧すると全然顔も声も違う……」 今時のメイク技術は神秘を介してないと、余計判別が難しい。クール・ジャパン。職人芸。 どうやら、智夫君の元カノはその筋の人とツテがあるらしい。 「フィクサードに騙されたりしてないよね？」 うん、智夫君、そろそろ現実見ようか。 剣林フィクサードの安藤君とキャッキャウフフな感じで一緒に姫騎士コスでポーズ取った写真が、また雑誌に載ったのだ。 それがまたまたビルの壁にプリントアウト。 智夫君のゴミじゃないかもしれないけど、今は出所のことは考えず、それに群がるたくさんの大きなお友達をどうにかしなくてはならない。 「かわゆすな。インディーズデビューの話を聞きましたかな」 「ユニット結成、胸熱ですな」 そんな事実、少なくとも智夫の耳には入っていない。 （例のものは大丈夫だった模様。だよね。あれ三高平に持ってきてないもん。僕にだって、見られたくないものくらい……あるっ！） 「お。これも、かわゆすなぁ」 「返り討ちの図ですな」 智夫の顔から血の気が失せ、目から血の涙。 指の間からうかがうと、いつもの仲間の目がみんな死んでる。 （姫騎士で撮影会の後、『これ着てね』 っ手渡されたのは、オークの着ぐるみだったんだよね） RPGでは、コボルト、ゴブリン、オーク、ホブゴブリンくらいの雑魚種族である。 ただし、姫騎士とセットにすると若干意味合いが変わってくる。 だが、智夫が着せられた『オークの着ぐるみ』 は、お世辞にも俗に言うところの戦火しそうにない「可愛い子豚ちゃん・狼さんに食べられちゃうぞ」 な、ぷくぷく、くるりん尻尾におリボン系だった。 そんな子豚ちゃんが、女騎士だの飛び入りした人にもみくちゃにされる図が、マンガ的にプリントされている。 （オークの気持ちが判ったような気がします） いや、普通のオークはそんな目に遭わない。 （『お、女騎士が、女騎士が……逃げてーっ！』） あの時、別のブースにいた安藤君の声がリフレイン。 追っかけてきたのは筋骨たくましい姫騎士というか姫ビッチと言うか、漢女騎士だった。 「うあ、暑くて立ちくらみがっ」 とかやってるうちに、写メで拡散されたのはいうまでもない。 ● 本部壁面に、どっかの厨二病の湯浴み写真がでかでかと。 「私とお兄ちゃんの愛を知らしめるにはいいし、消すのは惜しいけどお仕事だからね……」 お兄ちゃん、憲兵さんに連れて行かれるんじゃないかな。これ、放置したら。 さすがに本部に銃弾ぶち込んで化粧タイルぶっ飛ばすと怒られそう。と、気づいた虎美さんをほめて下さい。 「そう言えば深化前は割と一緒に入ってくれてたけど、最近はあんまりだよね」 それ、ゼロではないことを叱るべき？ それとも、お兄ちゃんの自重をほめるべき？ 「これも深化前の一枚だし…そう言えば革醒前の時だって中学生入って色々成長してきた頃から少し距離を置かれたっけ……懐かしい」 最初は独り言めいていた虎美さんのつぶやきは、壁に反射して、三高平中央広場に響き渡る。壁に反響してこだましまくる、魂の叫び。 「照れてるのかな、って思わないでもないけどそこの所どうなのお兄ちゃん！ てかそもそもこの写真をどうやって見つけたのか知らないけど捨てるなんてとんでもない！ データがあるからいいと言えばいいんだけどやっぱりゴミ出しの件も含めて色々と話し合わなきゃいけないから覚悟しててねお兄ちゃん！」 誰か、大学に伝令を。逃げて。お兄ちゃん、超逃げて。 そして、センタービルの受難は続く。壁面は四つあるのだ。 「我が一族は代々、妙見菩薩に厚く帰依しておりまする。其の御威徳は、拝する者に安堵の念を抱かせずにはおられませぬ」 鎧兜に面頬までつけている。総重量２０KG超。馬引け。 これで壁に上るんですか。思い留まって下さい。万が一落下の際、下にいる人に危険が及びます。 「三高平の中心たるセンタービルに墨で描かれた御尊容は正に壮観。仏教道教神道陰陽道と寛容に迎え合わさり、温故知新、伝統と革新を併せ持つ有り様は、より身近な存在として感じられまする」 水も滴るむっちむちで真っ白なお肌に黒髪の、姫騎士？ 日本なら、姫武者でしょう！ と、温故知新したくなる冬様が微笑まれた。 「此のままでも宜しゅう御座いませぬか？ 三高平市役所文化振興課に相談致しましょうかと思い――」 神秘は秘匿しましょうよぅ。 「冗談にて御座いまする。これなるは、先日手慰みに描いた後お炊き上げにした写仏画。ハイをカタツムリに食われたのでございましょう」 三高平は、灰と言えども放置できない修羅の国である。 「有り難き事なれど、拙き手妻に御座いますれば、大仰に晒すも恥で御座いましょう」 つんつんとカタツムリをつつくおばあちゃま。 「一仕事終え小さき体躯を誇らしく伸ばす様は愛らしく――でんでんむしむしかたつむり、うねうね、むめぬめ…………」 冬さん。冬さん冬さん。 「はっ、つい和んでしまい申した」 ● 「あなたの愛の羽につつまれて わたしは青い空をかけてゆくの 生まれたままの姿でフォーエバーラブ 小さな胸がドキドキしちゃうわ」 『赤錆皓姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫（BNE000932）のイマジネーションは、三高平の空をかっ飛ばす。 「るねさんすの全裸ヒャッハー☆ なあげぽよテンションが文学美少女MAI†HIMEの芸術的感性を燃え上がらせてしまったのよ！ ポエム入りの豪華フォトブックにしちゃったよ！！」 食ったカタツムリの食あたりが心配だ。 「これって消す前に白とか黒とかのペンキでバァッっとやっちゃえば、見られる前に隠せて、消すより効率的じゃね？」 とら、実行。これ、ダズル迷彩？ 「逆転の発想。ヒャッハー☆ 汚物は消毒だぁ！」 そんなんで片がつくなら、過去数年、リベリスタは涙を呑んではいない。 普通のペンキだけが強制的に流れ落ちる神秘仕様。ミラーコート。 ペンキ製の怪光線は稲妻の速さで消え去った。 神秘に対抗できるのは革醒者だけなんだ。 （問題ナイナイ、後でちゃんとペンキごと消すお。なんて、余裕ぶるつもりだったのに） 心のフェイトを使いたい。普通のペンキ落としの手間が増えたお。 途中で見つけたカタツムリは、速攻フリーズドライ。背中の羽根が氷を呼ぶぜ。カタツムリは犠牲になったのだ。 「――これさ」 とらはとある画像を指差した。 「後回しでもいいと思うんだ。非実在だし」 事情がわかった者はニヨニヨし、事情がわからなかったものは非実在なら。と、特に異を唱えない。アーク本部ビルなので、清掃ルートが変わる訳でもないし。 どんな画像だったのかは、番組の後半で。 ● 「以前勤めていた花屋さんでハロウィンイベントを開催した時に……コスプレをした時の写真も一緒に捨てましたにゃぅ……」 櫻子さんの告白。 「だ、だって際どいミニスカートな上に…露出の多いゴシックメイドさんだったんですもの……思い出しただけでも恥ずかしい産物ですのに……」 櫻子のもにょもにょ具合から、そこがキモじゃないのが透けて見える。 「同棲前につい出来心で恋人の寝顔を大量に撮影しちゃったんです……」 よし、そこが肝だ。 「ずっとお家に隠していたものの本人に見つかりそうになったので処分を……」 「大量というと――」 「数十枚？」 気まずい車内。連写機能で勝手に枚数が増えたとしても、アングルを三つは変えないと数十枚にならない。 「出来心。出来心だったんですっ！」 わっと手の中に顔を埋める櫻子。 「――あれかな？」 図書館の外壁にスライドショーのごとく印刷されている数十枚の恋人の寝姿写真。 完全泥酔。上半身裸でソファでおねむねむ。耽美だ。振り込めません詐欺。お布施はどちらにお支払いしたらよろしいですか！？ 「はぅぅっ！ 図書館の壁はスケッチブックじゃありませんにゃーーっ」 お尻尾ぶっとくして叫ぶ櫻子は、背中に翼を生やすと壁にモップ片手に突進していった。 虎美が、ふとあらぬ方向を見て、手を振った。 「虎美さん、どうかしたの？」 「――本人」 そう。ご本人様が見ていた。 『アウィスラパクス』天城・櫻霞（BNE000469）は、カーテンをあけた。 「まさか撮られていたとは……」 自分の写真にへばりついて、必死に消している恋人の背中を千里眼で確認する。 超遠方からの視線を感じてそちらに目を転じれば、手など振られているので振り返してみた。 彼女の指差す別棟に、恋人の可愛いメイド服姿がプリントされていたので、消される前にデータ保存。 「ふむ、いい写真が取れた」 ● 高等部。真っ白なサッカーゴールがパステルカラーのストライプになるほど精密にプリントされたラブレター。 『貴方のことを私はDreamの中でも考えています それはもう、私をHeavenに導いてくれるのではないかと思うぐらい 素敵なBeautiful Daysなんです でも私はもっとHigherなStepに登りたくて つまり貴方にfallin' LOVE!なんです どうか私と、Loversになってくれませんか？』 ゴールキーパーを赤面させる程度の字のでかさが巧妙だ。舞姫とお友達になれるかもしれない。 「あーうーわーきゃー………」 文佳さんの消え入りそうな語尾。ちゃうねんと小さく呟いた。 「あんね、あんね。高校の頃に初恋の――男子サッカー部の子に書いたラブレター、しかも恥ずかしくて渡せなかったやつよ？ 中身がポエムすぎて！ 流石に三十路も見えてきたやん？ いつまでも持ってるの恥ずかしいやん？ ここでこっそり処分しようかなって思ったんよ」 十数年前は乙女だった。カラフルなペンで書いてしまう程度には。 「でも燃やすと変な形で伝わったりしそうで怖かったから、不燃ゴミにしたんよ？ 間違えたんやないもん。多少の紙を分別守らなかっただけやん……」 三高平は、ゴミ分別修羅の国。破れば、社会的フェイトが消える。 「フェイト使用の覚悟で不退転や！」 バンジーはしなくて良かったが、たわしと脚立と根気は必要だった。 ● センタービルでお掃除を保留された画像は、夕日に照らされている。 中学生の女の子だ。 「およよ、これはクエスト番号5865『あなたの理想を見てみませう』で、うっかり目撃しちゃったモンちゃんの淡い黒歴史」 とらの白々しい説明。詳しくはWEBで。フォーチュナの小館・シモン・四門の理想の女子だ。 「あげようと思って、プリントアウトしてたんだわー」 なぜに「四門君の好きな子（非実在）」 と書いてあるのか。 「それにしたって、こんな妄想しちゃって小館君はしょうがないわね！」 数分後。悲鳴を上げながら現場にモップ持ったフォーチュナが乱入するのだが、それはまた別の話。 |
| ■シナリオ結果■ | |||
|
|||
| ■あとがき■ | |||
|
|||
