●歪 日ノ本は乱れている。 元を正せば数年前、三ッ池公園に“閉じない穴”が開いてしまった事が原因だ。かの事件以降この国の崩界度は急激な高まりと共に数多の災厄が襲い掛かってきた。 エリューション事件の増加による小規模な事案から、アザーバイドの封印解放。数え始めれば切りがない。それでもアークは各地にて起こる事件に対処し、数々の崩界現象に立ち向かってきた―― だが。ついに先日そのリソースの一点が突破される。 “恐怖神話”なる異形共の侵攻だ。日本各地を襲った連中の襲撃痕は、崩界度の上昇という猶予ならぬ直接的な事態を引き起こした。これはもはや先送りには出来ない。崩界度は、早急に対処すべき優先事項だ。 「しかし、まぁ。“対処”と言っても手段がこれとは……危険がすぎるがね」 睦蔵・八雲(nBNE000203)は見ていた。ここは、三高平ではない。ある神社、その近くだ。 そして八雲が見つめる先は空。“真昼”だというのに禍々しく暗くなっている、空を見ていた。 何が起こっているのか。何をしているのか。 思い起こす。今、この空のどこかの下で戦っているであろうリベリスタ達に説明したあの日の事を。 ●ブリーフィング 「崩界度を下げる……と言って、では具体的に何をすれば良いのかという事だが。 あるのだよ。“崩界度を下げる方法”は、な」 ブリーフィングルーム。八雲が語るは崩壊率を直接下げる――というその方法だ。 あるのか。そんな方法が。あるのならば何故今までその方法を…… 「無論、リスクがあったからだとも。だからこそ今までその手段は取られなかった訳だが…… あぁ、事ここに至ってアークは決断したのだよ。崩界度を下げる方法、つまり」 つまり、 「崩界度を担っているこの世の“歪み”の一部をあえてこの世に顕現させ、討ち果たすという手段をな」 崩界度の上昇に伴い世界には壊れ往く“歪み”が発生している。 その歪みが一定数を超えた時、さながら地に埋まるプレートが限界を迎えるが如く。 大規模な地震――災害が発生してしまうのだ。 ならば、とアークが取る手段は“大規模災害が発生する前にあえて小規模災害を発生させる”事だ。ガス抜き、と言い換えてもいい。とにかく溜まり溜まった歪みを少しでも取り出し、浄化するのだ。さすれば崩界度は下がる。 「日本各地に存在する霊地の力を借り、儀式を行えば歪みを何かしらの形として顕現させることは可能だ。それを諸君らの力で討伐すれば崩界度は下がる。少なくとも現状よりはマシな方向にいくのは間違いない。……先んじて言った様にリスクがあるのだがね」 歪みを顕現させる。それはいい。だがもしその歪みを討滅出来なかった場合、逆に崩界度が増加しかねないのだ。何せ大規模災害を避ける為に、小規模災害を己らから誘発させている様なものならば。当然と言える。 正しく、諸刃の剣なのだ。 「だが……崩界度は座していて下がるモノではないからな。 祈りは無意味だ。願いは無価値だ。行動せねば――何も変わらぬ。 私も歪み顕現の儀式サポートの為に向かう。戦闘は諸君らが主役だ。任せたよ」 だからアークは決断した。この手段を、実行することを。 そして今回選ばれた霊地はある神社。より正確にはその中にある、とある“場所”だ。 その名は、 「宮崎県宮崎市に存在する江田神社……みそぎ池。 かつて黄泉の国より帰還した国生みの神、イザナギが呪いを禊いだという伝承がある地だ」 ●穢 顕現する。崩界度の元となっている歪み。その、ほんの一端が。 真昼に儀式を実行したというのに空は今や闇夜の如く塗り潰されている。太陽は見えない。しかし視界は確保出来ている。昼と変わらぬ、クリアな視界が。なんだこれは。これが歪みの影響なのか。光源を用意しないでいいのは幸いだが、不気味な事この上ない。 あるいはこれは――イザナギに纏わりついたとされる、黄泉の穢れの伝承影響なのだろうか。 歪みは形を持つ。恐らくこの地に残る伝承に反応し“黄泉の穢れ”として今回は顕現したのだろう。黄泉の地はつまり地獄。死者の国。その地の影響があると考えるならば、成程不気味さも納得し得る。 『……ォ……ォォ……ォオオ……』 そうしていれば、来た。歪みの顕現体だ。 池から這いずり出してくるソレは人型。顔や細かな体型はノイズが掛かった様に見えにくいが、人なのは間違いない。更にその顕現体の傍からは幾体か、ゾンビの様な――人の死体が生成されている。 滅すべき、恐怖の源達だ。 特に顕現体のその姿。見るだけで恐怖を抱く。強制的な恐怖の付与は、かの“恐怖神話”を彷彿させて。 思い起こす。暴れまわった、あの異形共を。 しかし。 災害。悪魔。邪神。 数多の災難を人は乗り越えてきた。 そしてそれはリベリスタ達も変わらない。世界の崩壊を防ぐべく、彼らは闘っているのだから。 今回も同義だ。例え敵が恐ろしかろうがなんだろうが、負けるわけにはいかない。 勝て。 打ち勝て。 禊ぎ祓えッ! 恐怖の残影ここに成れり! 抗い抗いそして勝てッ! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月24日(火)23:31 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● しなければならない、とは存外辛い事だ。 先送りに出来ない。優先せねばならない。“避けては通れない”。 正にその事象にリベリスタ達はぶち当たっている。 今。この時。この瞬間。如何なる形であろうとも、 “歪み”を避けてはならぬのだ。 「まったく、えらいリスクの高いガス抜きよね。切羽詰ってるといえば――まぁそうなんでしょうけど」 己が身。魔法陣を起動させ、強化の力を纏うは『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)だ。 見据える歪みは禍々しく、到底“正常”とは思えぬ気配を醸し出している。ほんの一滴取り出しただけでこれとは。“ガス抜き”というには少々危険度が高すぎると思わざるを得ない、が。 「確かにこれは状況が切羽詰ってなきゃ置いときたい作戦だわな…… けどよ。今が“その時”なら、置いとく訳にはいかねーよな」 『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が覚悟と共に、前を向く。 崩界の元となる歪みなんぞは本来相対すべき存在ではない。しかし日本にやってきては余計な事やらかす連中の所為でそうもいかないのが現状だ。ならば退かぬ。崩界率を下げるのが“今”なら、決して逃げはしない。立ち向かうのだ。彼は、 『――■■■――■■――』 歪みの象徴たる、黄泉の国の穢と。 なんと口走っているのかは分からない。いやそもそも言語なのかすら怪しい。 それでも分かるは“敵意”だ。周囲一帯を覆い尽くすほどの敵意が穢より溢れている。 「やれやれ。この前も似た様なのと闘った記憶があるんだけれど…… これは古今東西に存在する冥界渡りの逸話――かしらね」 かつて。創世記の中においてロトが言われた言葉を『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)は思い出していた。 “命がけで逃れよ。後ろを振り返ってはいけない”。 かの言葉は逃げるべき時は全力で逃げよとの言葉。穢の逸話とも似ているのだろうか。危険からは後ろを振り返るような余裕など見せず、ただ只管に逃れる事が最上。 しかし今回は違う。抗わねばならない。逃げてはならない。 「穢れの禊と言えば三貴子が生まれる話が有名だけど。この後に出てきたりするのかしら? まさかね」 そして同様に。闘う覚悟を『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)も決めている。強大なるなんらかの存在には等しく恐怖を抱くモノだ。それは生物であれば大なり小なり、本能の奥底にあって然るべき感情である。それでも、 「こわくないことなんて、いつだってない。でも」 一拍。『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)が拳を握って、 「だいじょうぶ。ぜったい倒す、の!」 震えそうになる身を抑え込み、それでも尚に歪みに相対する。 さすれば『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)もまた意思を据えて、 「失敗はできねぇ……覚悟、決めさせてもらうぜ」 一斉に、陣形を整える。歪み高まりし世を正す為に。失敗できぬならば、 禊ぎ払え。かつての神が穢祓いし――この地にて! ● カルラが見るは一点。黄泉からの使者達だ。 蠢くその身は腐り落ちる肉の塊。そう称して問題ない程に醜悪なる化け物。見るに堪えぬ地獄に落ちし魂達である。能力を探るべくしかと見据えれば、容易く情報が頭に入ってくる入ってくる。 腐りきっているその手ではリベリスタを害する事など出来はしない。同様に、腐敗したたるその身では防御の概念を成すことが出来るのかすら怪しいモノだ。ただ、通常なる生物に在らんずば。完全なる意味で“死す”その瞬間まで、彼らは問題なく動くことが可能だろう。 「面倒な連中だな。ただの壁、とは言えねぇ方向の性能だぜこれは」 「なら。ひとまず纏めて薙ぎ払いましょう。」 エネミースキャンで得た情報の伝達。それに最も早く彩歌が即応し、放つは生糸だ。 撃ち抜く数は一・二の三、四。陣形も何もなく向かってくる連中を穿つのは困難でなく、視界に入る者達を片っ端から狙い定めて。生糸の切っ先が肉を飛ばす。穢から発生し、向かってくる影響で穢だけは視界に収め辛いのが難点だが―― 「沢山現れてうざったいのよ! ……それに、気安く触るんじゃないわよ!」 シュスタイナが追撃すればいずれは穢も視界に収める事が可能となろう。 彼女の一撃は風だ。羽に力を込め、振るえば魔力の渦が発生する。風往く共に渦が放たれれば使者を捉えて、 『■■――』 舞う、蛆。 蠢くソレらは生理的嫌悪を湧き立たせる。小さな物体が一つ一つ意思をもって、体を捩じらせ肉を探しているのだ。 己らが口に出来る、美味なる肉を。 天高く放り投げられた蛆らはシュスタイナの風を超えてリベリスタへと降り注ぐ、 瞬間。 「きもちわるいけど……いく、よ……!!」 旭だ。駆け抜けた、先に見えるは穢である。 死者の隙間を突き抜け入り込むは敵の懐。速度は落とさない。敵の反応よりも早くに拳を握り、 打ち抜く。 運命にすら干渉しようかという一撃は腹穿ち、穢の全身に衝撃が伝播。穢が揺らいで―― 「――ッ」 “見えた”。 穢の姿が見えてしまった。誰ぞになるか。人によりて姿変わりしその“姿”。 旭にとって穢の姿は“彼”に見えて。 『■■■』 その瞳に捉えられる。瞬間。来たのは返しの拳である。 腐敗した、しかし確かに存在する拳の重みを、アッパーの軌跡描いて打ち放つ。腹部に直撃する衝撃は鋭く重く、先の一撃の様に全身に伝播。各種の淀みを彼女へと付与すれば。 「癒しよ、あれ」 短い一言。成すは治癒。小夜香の的確な力が皆に飛ぶ。 蛆の汚れが、腐敗の淀みが祓われていく。 「強かろうがなんだろうが、やるからには勝ちゃ良いんだろ? ――簡単な話だよな睦蔵ッ!」 さすれば猛が道を開かんと蹴りを一撃。 それは只の蹴りに非ず。触れえぬ空間をすら飛び越え、虚空を裂いて突き進む力の一閃。 邪魔だ邪魔だ肉の塊が邪魔をするな。穴開け己も穢れの元へ。跳躍一息。視線を合わせれば、 髪の長い“女”が目に映った。 ● 小夜香は見ない。穢を見ない。見れば誰かがその眼に映るのなら見ない方がマシだ。 いや、というよりも――もし見た場合“誰”が見えるか分かっているからか。 黄泉帰りを果たしてまで会いたい者。他に一切思いもつかぬ。それが例え本物ではない、空似どころか偽物だと分かっていても同じだ。変わり果てた姿など見たくはないし、それに、 「……決意が鈍るわ」 決めたのだ。癒すと。決めたのだ。逃げないと。 故に見るのは敵ではなく味方。どれだけ傷ついているのか。どれだけ支えることが出来るのか。 それこそが、彼女にとって真実重要な事なのだから。 鉄の心で精神を保つ。見てしまえば―― 「……なん、で。なんで、らんでぃさんの、姿、なの……?」 彼女、旭の様に。やはり揺らいでしまうだろうから。 腹部の痛みを口の奥で噛み砕きながら旭は動揺している。心動かぬ訳がない。 事前情報で姿が変わるとは知っていた。故に直接見ている訳では無い。が、それでも目の端に映る姿。見間違えよう筈もない。 やりにくい。ただただ只管に。感情が意思を勝りそうになる。 これが穢の力か。かつて、イザナギが逃走した力の一端なのか。 旭だけではない。見る事を決意したものは皆同じ症状が出ているだろう。想い人の姿が取られる、取られないに関わらず。そういう現象を引き起こすのが穢の本質である。 「――まったく、見せなくていいモノを見せてくるなんて本当にうざったいわねッ!」 で、あるならば。やはりシュスタイナも見ない方向を選択する。 今の所彼女に想い人はいない。いない、が。もしかすれば己の深層心理まで読まれ、なにがしかの形を作られる可能性があった。自身ですら自覚せぬ感情を読まれるかもしれぬ事実。それが面倒だ。煩わしい。もしそれで誰かが形作られてしまえば―― 「こんな形で自覚なんてのは……許せないのよッ!」 無数の風を発生させ、敵身を切り飛ばす。穢に関しては一瞬のみ。攻撃の際に目線を寄越しはするが、それ以外は極力視線を合わせぬ。 「使者はなんとかなりそうだな――ならよ」 シュスタイナ・彩歌の両名による複数攻撃が中々に的確だ。穢本体にはまだあまり有効打を放てていないものの、現状いる使者を壊滅させるのも恐らくそう遠くはない。 故にカルラは往く。みそぎ池の水面を踏破して、池に秘められし禊ぎの恩恵を受けながら回り込むのだ。同時に再びエネミースキャン。穢の姿を目に捉え、されど読むは防御面の情報。 やはり腐肉している面がある為か防御能力は高くはない。死者よりは防御の値は高いだろう。が、それでも防御能力に“優れている”とは言い難い。少なくともカルラの目にはそう映っている。だから、 「攻めれば押し切れる筈だぜこいつはよ……!」 「ハッ、闇だのなんだのと面倒くせェ! テメェがどんな姿していようが……!」 猛も向かう。彼は見ている。穢の姿を。“女”の姿を。 誰だかは分かる。旭同様分からぬ筈がないのだ。その者は、己にとって特別なのだから。 だが。それでも。 「別に俺は――聖人でもなんでもないんだよッ!」 覚悟を決めて拳振り抜く。蛆のたかりし、その顔面半分を。 分かっている。分かっている。いや、 分かって“いた”。 相手が姿を変える事など。全て承知でこの場に立っているのだ。今更退きはしない。心の奥底から逃げようとする感情が湧き出してくるが、些細な事だ。決めてきた覚悟でそんな感情は押し潰す。 逃げない。逃げない。何があろうと逃げはしない。 「やり……にくい、ね。でもこーゆーのも、はじめてじゃあないし……!」 旭だ。目端に見える“彼”の姿は今でも変わらない。 殴りにくい。やりにくい。拳を振るいにくい――だが緩めない。 このような現象、神秘の世界に生きていれば決して無い訳では無い。そして彼女も真に大事なことを見失う程抜けていなければ、意思は固く。握る。握る。力を込めて。逃げる意思は拳に包んで叩き返さんばかりに。 運命すらも、薙ぎ払う。 『……! ■■■■――!』 その時。穢が声を発せば、空間が捻じ曲がり、穢周辺から使者が湧き出す。 その数は三。時が経てばまだまだ続いて来そうだ。質事態は脅威でないが、しかし。 「くっ……! 流石にペースが速いと捌ききれないわね……!」 彩歌が言う。現れるたびに狙い定める彼女だが、使者に纏わりつかれれば淀みが振り払えない。BSの解除が大幅に困難になるのだ。WPを解さぬBS解除は小夜香しか持たぬのならば尚更に。 自己治癒の効果を下げる穢と使者の能力。この戦場の脅威。闘えば闘うほどに削れていくのだ。黄泉国からの者達を結界で再現している為にか。黄泉の効果が、僅かながらに戦場に溢れている。 穢に攻撃は届いている。届かせることは出来ている。後はその手が倒すにまで至るかどうか。 正念場は、そう遠くない。 ● 淀みを振り払えぬ効果がリベリスタ達に伸し掛かってきているが、それ以外に穢はもう一つ効果がある。 それは物理的な効果ではなく――EPを削る効果だ。一発一発に限ればそう重い効果でもないが、戦闘となれば己から技能の使用によってEPを削っていく。それに続いて削られれば普段よりも遥かに早いペースで消耗していくのは自明の理。特に、 『■■■――!』 穢の腐敗した手からの削りは特に早い。 直接触れえるからか。前衛を担う旭、猛はその猛攻に晒される事となる。二体一の状況なればある程度被害分散はするが。穢周辺より生み出される使者が即座に組み付いて来れば思った瞬間に攻撃や反撃ともいかず。 小夜香の癒しが、デウスの力が皆へと行き渡る。 しかしそれでも使者に触れられている場合、BS解除の確率は35%だ。 分が悪い。その上致命を付与されてしまえば回復そのものの効果すら無効されて、 猛よりも回避力が若干低い旭の方が先に膝を突きかける。蛆が肉を食らい、流血し、毒が流し込まれ、更に浸食。 使者を振り払えばまだ幾らか楽にはなるのだろうが――知らずと付与された怒りの感情が、使者を見据えない。 早く。一刻も早く穢を倒すべきだとする“感情”が。付与されたリベリスタ達を盲目にしていた。振るった拳は幾度と。穢に叩き込まれるが、 「づゥ――ォォ、ッ!」 かくいう猛も危うい。戦闘技能において決して劣りなどしていないが、相手の一撃一撃が重いのだ。崩界率の源。その一端の具現は単純な力の総量が大きいという事か。技術を力で押し潰す。更に技能の消費を素早くし、削る。 このままではやがて息切れする。技能が使えなくなれば、まずい。 BS塗れになっている現状で通常の攻撃をすれば黄泉の呪いにより――多大な呪殺として跳ね返ってくる。 まぁ、穢を倒しきれさえすれば問題ない。使者達の能力は低い。与えてくるダメージは多くないのだ。小夜香も未だ健在なれば。まだ戦える。 彼女の存在は大きい。元来のWPの高さと、怒りを無効化する技能により致命的ラインを踏み越えていないのも、だ。もし怒りに囚われていた場合、彼女も攻撃に参加し癒し手が一切不在となっていただろう。下げられたWPで意識を取り戻せたかは、怪しい。 とはいえ状況はほぼ一進一退。BSが治りにくいのはともかく、EPが切れた瞬間が山となるだろう。明らかなる攻勢限界が来るなれば。怒りによって攻撃出来ず使者が増え続ければ。おのずと傾いてしまう。 歪みに。穢側に。全てが―― 「――そういう訳には、いかないわ」 その時、だ。声がした。 彼女が居た。怒りに惑わされず、行動でき、その上で継戦の力を与えれる者が。居た。 「私たちは貴方達の様な存在に抗わなければならない。 そして、抗った上で“勝たねば”ならない。なら――負けるわけにはいかないわ」 彩歌である。敵を直進する極細の生糸で穿ちつつ、連続行動が可能な際に行うは、インスタントチャージ。 対象との意識同調。内に潜り、奥底にまだ眠る潜在力の活性化を行えば気力が蘇る。連続行動の確率そのものはあまり高くないが、決して不可能でなければ十分に。そしてたった一度でも。一度の回復でも意味は大きく。 途絶えない。 継戦の力。抱く思い。踏み締める地の感触が、まだまだ戦えるであろうことを示している。 繋ぐ精神力。繋ぐ――命。 往ける。 「ォ、ぉお! 舐めんなよ! 俺は、なぁ! この戦場に来た時点で……ッ!!」 瞬間。内より湧き上がる“熱”が猛の拳に宿り、 「覚悟は出来てんだよォォォ――ッ!!」 打ち込む。打ち込む。打ち込む! 連撃す、右の拳が、左の拳が。想い人―― 否。 ただの残影。穢に打ち込まれていく。 『■■――!』 穢が後ずさる。よもや、とばかりに今度は穢側に限界が訪れ始めたのだ。 このままでは押し負ける。力で勝ってもそれ以外で勝られれば負けるのは己だ。ならば、潰そう。 相手の癒し手を。投げる蛆が的確に、小夜香に向かいて食らいつく―― 「ッ――させないわ……! 貴方が倒れるのは、まずいでしょう?」 直前。庇うシュスタイナ。皮膚にたかる蛆が嫌悪を催す事この上ないが、関係ない。 同時に放つは魔力の風だ。薙ぎ払う。使者を。闇を。穢れを。全て。 「救いよ、あれ……!」 そして増えた傷を小夜香が癒す。 何度でも。何度でも。これとて無限に使える訳では無いが、魔力の循環を促す術を掛けていれば、まだあと何発かは放つ事が出来る。まだ。闘えるのだ。 「このせかいを……なくしたりなんて、絶対しない!! かつよ、ぜったい勝つんだ!!」 そして傷癒えし旭が放つ拳の一閃。決意が彼女を支えて立たせる。 愛しの者との世界を壊させてなるものか。“あの子”が愛した世界を穢させてなるものか。 抱く幸福。思考する幸い。護るものが。愛しき全てが。力となれば。 今度は穢の膝を突かせてみせる。 勝てる。あと一歩。あと一歩だ。それでも穢は。黄泉なる者達は。地獄に引きずり込まんと手を伸ばしてくる。 腐敗の手。正常ならざる地獄の手。黄泉導く彼女の手。 逃がさぬ逃がさぬこっちへ来い。こっちへ来い。こっちへ―― 「知ったこっちゃねぇんだよお前らの意思なんざ――!」 怨嗟の念を掻き消す如く。声はカルラだ。池側から、高めたWPで淀みを祓い。 邪魔をしようとする、使者を顔面踏みつけて。 狙うは一点。血反吐よりも先に吐く、熱意同時に。 「叩いて治すぜ世界の歪みッ――!」 拳から。放つ魔力が炸裂す。 赤き流れが軌跡を描いて。直撃したるは穢の顔面。されば蛙が潰れる様な音共に、 弾け飛ぶ。 衝撃加わり体制崩し、傾く後方みそぎ池。で、あれば。 『■ォ■ォォ■■■■――ッ!!』 絶叫が響き渡った。崩界の元となる存在故にか、禊ぎの恩恵は何にも成らず。 祓い、祓いて地に帰る。地の底へ。黄泉なる国へ。力を消失同時に姿も消えていく。 蒸発するように。砕かれ砕かれ消えていく。 されば天上。結界は役目を終えて元の風景へ。割れる様に闇が晴れれば、 光が差す。天が見える。空が分かる。 雲一つなき、まるで禊ぎ払った青空が。リベリスタの視界に広がっていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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