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<アーク傭兵隊>九竜穿つ白い華


 ロン家、九頭竜と呼ばれる九人のフィクサードを中心にした暗殺組織。
 この上海の裏世界でも名の知れ、恐れられたその九頭竜が四、『死弾』のスウシは、……けれども今追い詰められ、罵声を吐いていた。
「クソッ、クソ、クソクソクソッ! 白華会如きが! 如きが! このロン家に!!!」
 シリンダーに手製の弾丸を叩き込み、スウシはトリガーを引き絞る。
 各種の弾丸に呪いを籠め、多種のバッドステータスを敵に与える、死を招く弾丸使いのスウシ。
 以前に日本で喫した手痛い敗北以来一時も研鑽を休まずに己を鍛え上げ、『死弾』と呼び恐れられる程になったと言うのに。
「ははは、だからそれじゃあ此処まで『届かない』って。後さ、もう一寸ゆっくり喋ってくれない? 上海語の発音ってまだ慣れてなくて聞き取り難いのよ」
 哂う男に、スウシの技は通じない。否、スウシだけではなく引き連れた部下達の銃撃も、それどころか符術師の範囲支援、守護結界さえもが殴り合える程度の距離までしか届かないのだ。
 そしてその距離は、敵方が多くそろえた覇界闘士の得手とする距離だ。
「そろそろ諦めない? あんた等じゃ相手にならないって。今降伏すれば命だけは助かる様に俺からも頼んでやるからさ。穏やかに行こうよ穏便にさ」
 どんなに伸ばせど、その手は星に届かない。
 敵が、あの哂う男が何かをしているのは明白だった。けれど、なのに何をしてるのかが判らない。
 退路も既に防がれている。あの男は穏便等と寝言を言っているが、敵方に捕まれば組織の情報を吐かせる為に凄惨な拷問が待つのだろう。
 仮にもし本当に命永らえたとしても組織は敵に捕まった自分を必ず狩ろうとするだろうし、そもそもこの身は数多の恨みを買い過ぎていた。
 スウシはこの上海の裏世界を知り過ぎていた為に、己にはもう未来がないと決め込んだのだ。
「クソがッ! 呪われろ白華会!!!」
 己が部隊がほぼ壊滅してしまったスウシに出来る事はもう2つしかない。
 1つは怨嗟の罵声を敵に浴びせる事。そしてもう1つは、口に咥えた拳銃のトリガーを自ら引き絞る事。


 ロン家の構成員が1人残らず血溜まりに沈んだ戦場に男の懐で呼び出し音が音を立てた。
 男は大きな溜息を1つ吐いて首を振り、スマートフォンを耳に当てる。
「もしもし、ああ仁君か。そっちはどう? 上手くやってる? うん、こっちの仕事はまあ順調よ。てか順調すぎて俺もう帰りたいよ。此処んとこ毎日毎日血生臭くってさあ……」
 空の星が消えていく。


 日本を離れて空を約3時間程、上海へと降り立ったリベリスタ達を出迎えたのは、
「態々出向いてもらって済まないな。さて諸君仕事の時間だ」
 遠く海を渡っても見慣れた顔『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)と、今回はリベリスタが到着するまでは彼の護衛役でもあった『paradox』陰座・外(nBNE000253)の二人だった。
 異国の町の片隅でも、普段と変わらず事件の詳細を話し始めるフォーチュナ。
「近頃この上海で白華会という組織がその勢力を伸ばしている。それも尋常ならざる速度でだ」
 コツコツと逆貫の指が車椅子を叩く。
 1組織の急成長は、長い時の間に自然形成された裏社会の勢力バランスを崩しかねない。
 所詮蛇蝎の喰らい合いに過ぎぬとは言え、裏社会の勢力バランスが崩れた時に起きる事件発生の大規模な増加は日本でも既に経験済みだ。
 それが何れこの上海でも起きるのだとしたら……。
「現地リベリスタ組織である『梁山泊』はこの急激な変化を警戒して調査に乗り出したらしいのだが、白華会と他組織の抗争現場で、彼の組織に協力する日本人フィクサード達の姿が目撃されたそうだ」
 つまりは、それ故にアークのリベリスタがこの地へと呼ばれたのだろう。
 巨大勢力の乱立する日本の事情は複雑で、日本人フィクサードが絡むのなら日本の組織であるアークに判断を任せるのが無難であると。
 そのフィクサード達は金で雇われた傭兵グループなのか、或いは大きな組織なのか、もし組織的に動いて居るのなら何故白華会と共に動くのかを調べて判断し、必要ならばその動きを潰す為に。
 個人が金で雇われてるだけならば話は簡単なのだけど……。
「まあ、つまりそう言う事だな。どう考えても厄ネタだ。故に私は諸君等に先んじて此処に来た。この地は万華鏡が届かぬから、少しでも情報を集める為にな」 
 そう言い、逆貫は調べた情報を纏めた手製の資料を差し出す。



 白華会側戦力

 白華会フィクサード:馨華(シンファ)、白華会の女性フィクサード。強力なマグメイガス。二つ名は『銀』。
 その他クリミナルスタア×2、以前の抗争では絶対絞首を多用していたらしい。

 日本人フィクサード:??、詳細不明の日本人男性フィクサード、非常にハイレベルなインヤンマスターだと思われる。
 またこの日本人フィクサードの所持アーティファクトの効果だと思われるが、以前の抗争では全ての遠距離以上に届くスキルの距離が一段階短く(遠距離→近距離に、遠2距離は遠距離に)なったとの事。
 その他覇界闘士×4、以前の抗争では土砕掌や森羅行を多用していた。



 ロン家戦力

 九頭竜の六、『焔龍』リュースィ。ランク3まで使用可能な男性マグメイガス。その他炎に関する独自技を持つらしい。
 九頭竜の七、『対』チーメイ。ランク3まで使用可能な女性ソードミラージュ。左右の手に持つ柳葉刀の2刀流で、嵐の様な連撃の独自技を得意とするらしい。
 その他クロスイージス2、スターサジタリー2、ホーリーメイガス2。

 白華会、ロン家ともにデータは不完全であり、非戦等も含めて不明部分は多い。現場の誰か、或いは複数がジャミングを所持している模様。
 戦場となる貧民街には既に広範囲にわたって油がまかれている。一般人の退避は行なわれていない。


「今夜、もうあまり時間は無いな。貧民街で現地フィクサード組織であるロン家と白華会が戦闘を行ない、その結果大規模な火災が貧民街を焼くだろう」
 幾度かの抗争で追い込まれたロン家の一隊が自勢力圏に白華会を誘い、自分達をも巻き込んだ焼き討ち行為で敵戦力を削ろうと目論んでいるのだ。
 如何考えても火を放った方も無事では済まない作戦だが、手負いの獣であり、暗殺組織でもあるロン家には最早常人の理屈は通じない。
「諸君にはこの火災を防ぎ、尚且つ件のフィクサードを調べ、必要ならば白華会にもロン家にもダメージを与えて欲しい。色々と無理を押し付けて済まない。私はこれから帰国するので、もう護衛は必要ない。外も諸君等を手伝わせよう。……健闘を祈る」




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年06月17日(火)22:56
 成否は点数で判断されます。火災を防ぐ、謎の日本人フィクサード等に関しての情報を収集する、フィクサードの首を数多く落とす。
 ……等が点数になります。もしそれ以外にもこの状況で行える事があり、梁山泊からの評価に繋がるならばそれも加点の対象になります。
 ロン家フィクサード側、白華会側、どちらが優勢になるか、どの様な形で終るかは成否評価にも影響しますし、今後にも影響するかもしれません。色々考えてみてください。

 言葉が通じる通じないはそんなに気にしなくて良いです。話せると言えば話せますし、話せないというなら相手が日本語話せます。
 が、相手によっては言葉は通じても話は通じない事は多いですのでご注意下さい。
 時間も色々とギリギリだと思ってください。

 同行の陰座・外に関しては余程理不尽な物でなければ指示して戴ければ従います。
 出来る事はステータスシートの通りです。

 白華会に関しては八重紅友禅STの『<アーク傭兵隊>チャイニーズマフィア白華会』に登場しております。
 何でも慢心ダメ、ゼッタイだそうです。

 海外で状況が不透明な事もありかなり厳しい任務となりますが、お気が向かれましたらどうぞ。


参加NPC
陰座・外 (nBNE000253)
 


■メイン参加者 6人■
ノワールオルールホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ハイジーニアススターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
ハイジーニアスダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ジーニアス覇界闘士
ミリー・ゴールド(BNE003737)


「日本から来たアークだ、と言えば分かるか」
 後にして思えばアークのリベリスタ達の最大の失敗は、相手に己が目的を悟らせてしまった事だろう。
「俺達の狙いは白華会だ。ヤクザ組織の均衡が極端に崩れては、リベリスタにとっても不利益だからな。それに、あの日本人に用がある」
 得体の知れぬ、目的も判らぬ第三勢力である事も手札の1つであったのだ。
 何を目的として、何処と戦い、何処と組むか、全てのイニシアチブは最初は彼等の手の内にあったのに。
「俺達は俺達の用事で戦ってる。だから、俺達を上手く利用してみせろ。自分の縄張りに火を放ってメンツを潰すような真似をする前に、できることがあるはずだ」
 話の判らぬ相手であれど、損得の計算位は出来るだろうと持ちかけた申し出は、けれど国も違えば常識の違う、狡猾な上海裏社会の獣には草食獣に成り下がった獲物が態々腹を向けて寝転がったに等しい物だった。
 別にアークのリベリスタ達の行動が非常識だった訳では無い。
 リベリスタの1人、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の申し出の仕方も、此処が日本で、相手が逆凪や三尋木であったなら、状況にも拠るだろうが或いは好意的に、申し分ない態度として受け入れられたかも知れない。
 けれども、だ。申し出を差し向けた相手、ロン家は確かに話は通じなくとも損得の計算は出来る頭を持っていた。しかし其の損得を弾き出す計算式『上海の裏社会全てとは言わぬまでもロン家の中での損得勘定』、つまりは常識が快や其の仲間達の想像した物とは丸で違う物だったのだ。
 白華会の末端構成員の多くは貧民で構成され、長のチェンすらも元は貧民の生まれである。
 貧民にとっては得体の知れぬ暗殺組織であるロン家よりも、勢力下に置かれるならば白華会はずっと夢を見れる組織だろう。
 故にロン家は燃やすのだ。もしかすれば貧民の中に白華会に通じた者が居るかも知れない。今は居なくとも明日には居るかも知れない。
 だから貧民街は燃やされる。確たる物はなくとも、白華会が攻め寄せたが故の放火だとも言わず、見せしめに、血と恐怖で縛る為に。
 其の発想、其の行為こそが反感に繋がるのだが、ロン家にとって貧民など其れを省みる必要が無い程度の価値しかないから。放火に自分等の戦闘員が何名か巻き込まれるとしてもだ。
 そもそも想定外の損失でも発生すれば撤退位は許されるが、組織の体質上、長たる九頭竜の九が下した指令が現場で翻りはしない。
 だが快の言葉に反論しかけた九頭竜の六、『焔龍』を同じく七、『対』が制して頷く。
 相手、アークが札を晒したからと、馬鹿正直に応じる必要は何処にも無い。黙っていればアークは白華会と戦うのだろう。ならば其れは好きにすれば良い。
 白華会に協力する日本人に用があるらしいが、其れも渡す心算は無い。奴等の首と身体は報復に晒さねばならない。皆殺しも決して譲らない。
 あのリベリスタ、快も上手く利用して見せろと言っていたではないか。当人等が言う以上、遠慮無く好きに使わせて貰うとしよう。


 一方、ロン家とは裏腹に白華会はアークの出現に最悪の状況へと追い込まれていた。
 この戦いの為にロン家と白華会が揃えた戦力は客観的に判断してほぼ互角。しかし白華会の馨華は、協力する日本人フィクサード等が所持するアーティファクト『牡牛座の聖杯の効果の1つ』プレイアデスに適応した編成を行なった自分達は余程の事が起きない無い限りほぼ勝てる戦いだと踏んでいた。
 だがまさかそこに同程度の戦力が完全に白華会を挟み撃ちする形で出現し、更にはロン家に協力を申し出た事は余程の事の範疇すら軽く越える事態である。
「お、鏖殺のアーク……?」
 そして馨華よりもより深く事態の深刻さを把握していたのは、白華会への協力者である日本人フィクサード『牡牛座』の弥碌・少名だった。
「蛇遣座、沙慈ちゃんの知り合いかなあ、ってことは三尋木? ちゅーごく4000年の歴史に美容あり? んじゃ、この奇妙な効果は聖杯ってとこかな☆」
「七派の均衡が崩れて、新たな力を求めて、かな? そう単純じゃないかも知れないけど」
 武器を構えて白華会の……、正確には彼等の想定通り三尋木のフィクサード少名が率いる、三尋木のエージェントである覇界闘士達とぶつかる『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)と『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)の言葉は半分程が当たっていた。
 神の目、アークが誇る万華鏡の存在を知る少名に、其の力が海を越えて作用しているのだと誤解させる程度には。
 但し少名は七派の均衡が崩れたからこの上海に派遣された訳では無い。唯単に、その七派に於いて三尋木よりもより戦闘的であった裏野部を屠る様な組織であり、国内ならどんな場所にでもすっ飛んで来る目を持つアークの蠢く日本が、三尋木のフィクサード活動の場としてハイリスク、ローリターンになり過ぎただけの話である。
「まいねーむいずミリー、ユーアー何奴?」
 本人にとっては不本意だろうが実に可愛らしい『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)の問いかけも、今の少名には死神の死刑宣告に等しい。
「神の目の覗き屋め……」
 故に思わず漏れた少名の呻きは、葬識や悠里への肯定として実に雄弁だった。尤も名前位は知りたいと言うミリーの願いは最後まで叶わないままとなるけれど。
 態々海の向こうまで活動地点をずらしたのに殺意満々で追いかけてこられたのだからむべなるかな。それに初見殺しが真髄たる聖杯にとって万華鏡は天敵とも言える存在だ。噂話を知るだけで、其れが実際に効果を発揮してないとしても、苦手意識を持つには充分に足る。
 だがそれでも、白華会と三尋木は容易には崩れず、寧ろ猛然と牙を剥く。退路を断たれた挟み撃ちに死兵と化した彼等に取れる道は唯一つ、漁夫の利を得んと現れたリベリスタ達に戦闘を押し付けたロン家に背を向けてでも、アークを喰い破り突破する事のみ。
 回避の高い葬識や悠里を相手に、三尋木の覇界闘士の土砕掌では直撃による麻痺までは取れぬ。だがしかしこの射程を縮める聖杯環境下に於いても後列から届く、白華会のクリミナルスタア達が放つ絶対絞首、憎悪の鎖が2人の首に絡んで縛った。
 D.Actに拠り、フォームアルテミスを自己付与してから近接射撃格闘(虎美式ガン=カタ)を行なう『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)に対しては、闘士の1人が大腿を撃ちぬかれて足を止めたが、葬識や悠里程の回避を持たぬ彼女には土砕掌の麻痺が効果を表わす。
 虎美式ガン=カタの弱点は攻撃力と命中の上昇は申し分なくとも、回避を含めた防御にやや難がある所だろう。
 流石に絶対者たる快ばかりは如何足掻いても其の動きを止められはし無いが、しかし逆に快も同じく自らの身体で動きを阻んだ1人を止めれるのみである。
 更に土砕掌の直撃を避けたミリーもまた1人を受け持つが、だが三尋木の闘士、最後の一人が止められない。
 この戦場の環境を作るキーアイテム『牡牛座の聖杯』影響下で三尋木や白華会が狙う行為は2つ、行動阻害系バッドステータスの付与と癒し手撃破だ。
 呪縛や麻痺に囚われた仲間に対し、咄嗟のブレイクイービルを放つ快ではあるが其の効果範囲も聖杯の力で僅かとなり、全員を救うには到底及ばない。
 そして快のブレイクイービル同様に癒しの術も効果範囲が狭まって居る為、少しでも仲間を癒そうとするなら必然的に前に出ざる得ない癒し手、『真夜中の太陽』霧島 俊介(BNE000082)こそが突っ込む三尋木の闘士の狙いである。
 けれどその三尋木の闘士の前に割り込んだのは、
「一寸先輩此れ絶対痛いよ痛いよ本当に痛いと思うよ? こんなの今回だけだからね! ほらやっぱり痛ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 他の面子に比べれば明らかに格が劣り、また影も薄かった為に気にもされて居なかった陰座・外が俊介を庇って土砕掌の直撃を受け、麻痺に陥りながらも舌ばかりは元気に動かし痛みを訴える。
 まあ普段は後衛且つ、出来るだけ攻撃を受けない位置取りばかりしている外がまともに殴られる事は滅多に無い故に痛みが苦手でも仕方が無い。
「すぐ癒すからちょっとは我慢しろし」
 三尋木、白華会の攻撃は癒し手へと届かず、動き封じれなかった俊介のデウス・エクス・マキナ、強力な回復術が浸透に乱されたリベリスタ達の呼吸を整える。


 三尋木と白華会からの攻撃をリベリスタ達が受け止め切り、戦いは泥沼の消耗戦へと縺れ込む。
 呪縛から抜けた葬識や悠里が奥へと進むも、目的の少名へと辿り着く前に立ちはだかるは2人の白華会のクリミナルスタア。
「ねーね、白華会は殺していいんだよね? ダメなの? 口だけきけるくらいまでなら構わないよね?」
 物騒な事を言うのは殺人鬼、葬識。だが尤も、この上海の裏社会、特にロン家の常識からするならば、其れは些か温くすらある。
 舞い散る雷光、圧倒的な速力を武器に雷撃を纏った悠里の拳や蹴りが繰り出され、葬識の身より溢れ出した瘴気、暗黒が2人のクリミナルスタアを貫く。
 けれど馨華のシルバーバレット、指から弾き出された高速の魔力弾が狙い違わず葬識の胸を貫き、多大なダメージを其の身に刻む。
 そして少名の式符・大傷痍、この特殊環境下でも決して短くない射程を持つ癒しの術が、傷付いたフィクサード達を順に癒す。
 其の一方で、葬識や悠里は奥に進んだが故に回復支援と切り離されていた。彼等2人に癒しを届けるには俊介を奥へと、もっと現実的に言うならば戦線全体を奥へと圧し進める必要があるのだが、森羅行での自己回復手段に加え、少名の式符・大傷痍の支援を受ける三尋木の闘士達は泥仕合の相手としても中々に厄介だ。

 しかしだからと言って好き勝手にやられるままに終らないのがアークのリベリスタである。
「届くっての!」
 膨れ上がったミリーの呪力は炎と化し、そして形成すは龍。
 咆哮を上げて放たれた火龍はこの環境下であっても仲間達の頭の上を越えて、少名や馨華、敵陣の奥へと炸裂した。
 だがこの非常に扱いづらい火龍と言う術は、唯でさえ決して命中力に優れたる訳で無いミリーが敵にぶつけるには多大な幸運を必要とする。
 無論そんな幸運がこの場面で都合良く起こったりはしないけど、しかし術の迫力と、それが自分達に届くと言う驚愕に度肝を抜くには充分で、その間隙を突いた虎美の針穴通し、銃手たる彼女の本領が、少名の肩を貫く。
 虎美が奥への攻撃に手を割いたのは其の一手だけだったけれど、聖杯の環境と式符・大傷痍の射程故に、奥で守られている事に慣れ切っていた、リベリスタ側で言う所の外の様に痛みに慣れていなかった、或いは高い実力は持っていても死線を潜り慣れていない少名の心に確かな楔を打ち込んだ。
 そして確かにこの環境は癒しの力を届かせ難いが、リベリスタ側の癒し手、俊介はだからこそ前へと進む。
 無論其の行動は俊介に付き合わされて盾になっている外にとってはたまったものでは無いのだけれど、実力に劣る外が支えきれぬ事が無い様にと、適宜ダブルカバーリングで外と俊介を纏めて庇う快により破綻ばかりは避けられている。
 そもそも、俊介の回復に支えられた快と言う名の盾を砕ける波は、其れこそ七派の首領達でもなければそうそう起こせる筈が無い。

 運命が消費され、そして誰かが倒れる。
 激しく互いのリソースを削り合いながらも、戦いの天秤は徐々にアーク側へと傾きつつあった。
 この戦いがアークvs白華会と三尋木の連合部隊と言う単純な形であったならの話だけれど。


 三尋木の闘士は数を減らし、白華会のクリミナルスタアは2人共が地に伏した。
 無論アークも無傷ではありえない。先頭に立った葬識は倒れ、他の者も幾名かが運命を削り取られている。
「――誰の手引で此処に居る?」
 だがそれでも、勝敗は既に決したと言っても良い。
 少名の顔色は蒼白を越えて最早死人に近く、これ以上下がる事も出来ずに膝は崩れかけている。
 馨華はまだ戦意を保つが、それでも彼女にももうアークの囲みを喰い破る手段が無い。
 問い掛ける快に続き、
「情報おいてくか首おいてくか選べよ!」
 俊介の言葉は脅しと言うよりは降伏勧告に近く……。
 けれど、其れ故に、漸く終ったのかとばかりに奴等が動く。
「其れを決めるのは貴方達じゃないわ」
 ずぶりと、少名の背を抜け腹から突き出たのは柳葉刀。
 苦痛と恐怖に地を転がる少名を踏み付けて。
「こいつ等は皆殺しさ。さんざ俺等に盾突いたんだ。腹を割いて首を刎ねて腹に突っ込んで、晒す」
 六、リュースィ。七、チーメイ。ロン家が全てを掻っ攫いに動く。
 引き抜かれたチーメイの血塗れの柳葉刀は少名の首に当てられて、そしてリュースィが翳すは炎。
「ご苦労様、異国のリベリスタ。後始末は私達がするからもう帰って良いわよ」
「campfireを楽しみたいって言うなら話は別だがよ」
 例えアークが退いた所で、既に死に体の少名は当然ながら、消耗した馨華も三尋木や白華会の残党だって逃げれやしない。
 彼等はロン家の宣言どおりに首を刎ねられ、割いた腹に突っ込まれて晒される。
 そして貧民街も燃やされるのだ。
「火だけは止めてくれ! 大勢が犠牲になる」
「それをしたら、容赦しないぞ!」
「最後の手段ならもっと慎重に使いなさいよ。もう戦いは終ったじゃないの!」
 俊介が懇願し、悠里が警告し、ミリィが諭す。
 だが無駄だ。ロン家には何一つ譲る気は無い。何一つ譲る理由が無い。
 リベリスタ達が何処の誰で、何の為に戦ったのかは知らされた。
 だからなんだと言うのだろう。彼等は勝手に目の前で白華会と戦い始めただけなのだ。
 無論助かりはした。貧民を気にかける白華会は貧民街を燃やしながら戦えば有利に事を運べた公算が高いが、それでも多くの犠牲は出ただろうし、謎のアーティファクトの効果に遅れを取る事もあっただろう。
 それを考えれば感謝の言葉くらいは出る。
 ありがとう、ご苦労様。
 勿論放火は止めないけれど。

 予め油が撒かれていたからだろう。放り込まれた火種はあっと言う間に燃え広がり、貧相な家々を焼いて行く。
 燃えている。燃えている。燃えている。
 家々ばかりでは無い。焼け出された貧民達ばかりでは無い。
 リベリスタ達の心にも、怒りと殺意が燃えている。
「死ねよもう。……いいよ、生きてんじゃねえよ。オマエラみたいなのが一番嫌いなんだ」
 喉の奥から搾り出した様な俊介の呻き。
 既に戦いの第二戦は始まっていた。
 真っ先に飛び出したのは、火を放った張本人であるリュースィの顔面に一撃でも入れる事を最優先としたミリィ。
 けれどミリィは判っていた。其れを成すのが精一杯である事を。其れを成す事すら覚束ない事を。
 次いで悠里が壱式迅雷を放つ。
 本当は一般人を焼き払う事に迷いのない相手に協力するなんて嫌だった。それでも多くの人が救えるなら、守れるならと泥を飲む心算で拳を振るったのに。
「殺し合って馬鹿げてる。お前等さえいなければ、俺は手を汚さずにいられたのに」
 酸い胃液がこみ上げ、俊介は顔を顰める。
 状況は圧倒的にアークに不利だった。周囲に炎は回り、何よりも既にリベリスタ達は消耗し切っている。
 だがそれでも、リベリスタ達は攻撃の手を止めない。虎美の銃弾がチーメイの柳葉刀に弾かれる。
 大学でやった程度の拙い中国語、それでも話せば伝わると、通じると思っていた。
 其れが甘さであった事は否定しないけど、それでも許せぬ思いが胸を焼く。
「もう息すんな。死を遠慮すんな」
 放たれるは俊介のジャッジメントレイ、裁きの閃光。
 しかし、もう、それでも、どんなに怒ろうと、苦しもうと、手を伸ばそうと、届かない。裁けない。
 状況は誰もが理解していた。何をしてももう無意味だと。
 けれどあの新田快ですらが、仲間達をとめる言葉を持たない。せめて一当てせねばこの行き場の無い感情に潰されてしまう。
 結局快に出来たのは、死者を出さぬ様に引き際を見極め、そうして撤退の際に殿となる事。
 リベリスタ達が負った傷は深く、苦しみもまたあまりに深い。
 後日、焼け落ちた貧民街の彼方此方に無惨な、それは無惨な切り刻まれて、壊された三尋木と白華会のフィクサード達の骸が晒された。

 上海裏社会の抗争はこの日を境に一層激化する。最低限の秩序すらが血と復讐に塗り潰されて。



■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 お気に召したら幸いです。
 最近暑い日が続きますよね。
 太陽光線なんであんなに痛いんでしょう。