●水晶の街 さしあたってその街に、生あるものの姿は見当たらなかった。 鈍色の空から数条の光が差し込む。照らし出された街の風景は、しかし尋常のものではなかった。 ビルをはじめとする建築物、街路の樹、通行人すべてが、結晶と化していたのだ。 壁面を煌めかすインテリジェンスビルは、死の静寂に包まれている。 驚愕の表情そのままに結晶と化した人々も、もはや動き出すことはない。 美しいといえば、それは美しい光景だった。 ただ無残で、おぞましい美であった。 生の躍動を永遠に封じられた、死に化粧であった。 永劫とも思われたその静寂の中に、一つの影が姿を現した。 ゆらりゆらりと巨体をゆすぶって、ビル街の奥から姿を現したのは、これも全身を水晶の鱗できらめかせた、巨大な魚だ。 両眼を怪しく光らせ、まるで深海をゆくように、じわりじわりと魚はビル街をすり抜けていく。 その尾鰭が、大きく震える。 すると颶風が巻き起こった。 衝撃破が、水晶の街を、無音のまま塵にかえていく。 壮麗な構築も、木々も、人々も、瞬時に消し飛ばされた。 ……結晶の中に閉じ込められた虫が、解放されて息を吹き返したという記録がある。 結晶と化した人の心の、想いは何処へ滞留しているのだろうか? ●アーク本部・ブリーフィングルーム 「あらゆるものを水晶に代えるエリューションだ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は、簡潔に説明した。 「それほど強力じゃない。あらゆるものを一瞬で、などという物騒な手合いではない。けど、ほっとくわけにはいかないな」 ディスプレイに映し出されたのは、巨大なウナギの姿。 「油断ならないのは、こいつは近くにいるやつを無差別に水晶化する。また、水晶化を進行させる光を放つこともあるらしい。それから、手下も引き連れている。 長期戦は避けるべきだが、デカブツだけあってなかなか倒れない。頭を使って戦うべきだ」 信暁は一同に向き直った。 「死んで石像になるような偉人に、ロクなやつは居ない。まして生きているうちから像になることもないだろう。お前たちならうまくさばけるはずだ。頼むぜ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:遠近法 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月17日(火)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 落日の光が、結晶の街を煌めかせる。 荘厳で、そして残酷な光景だ。 戦いは、佳境を迎えようとしていた。 リベリスタ達の疲労は濃い。 中でも『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)の憔悴は激しかった。それでも青ざめた顔を上げて、右腕を天に突きつける。 心身ともに重大な負担を強いる大技。彼女はそれを打ち続け、そしてまた新たに放とうとしていた。 あと何回、打つことができるのか……。 それまでに、仕留めることができるのか……。 湧き上がる不安を押さえつけ、小夜は声を張り上げた。 「<機械仕掛けの神>よ!」 ● 「なんと!」水晶化した街を見て、『オカルトハンター』清水 あかり(BNE005013)は思わず声を上げた。名にしおう不思議収集家の彼女も、このような事象を目の当たりにしたことはない。 しげしげと見入ってしまうあかり。革醒を果たし間もない彼女は、ただただ驚異を覚えるばかりだ。 それは他の、熟練のリベリスタにしたところで同じだった。これまで様々な怪異に遭遇してきた彼らも、このような大規模な異変を目の当たりにすると、さまざまな感慨を覚えずにいられない。 「すでに手遅れってわけか……生の気配が全くない」内心を見せることなく、アズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)が呟く。 「異世界に来ちまったみたいだな」奥州 一悟(BNE004854)も、結晶世界の荘厳さに思わず見とれてしまう。リベリスタ達の間でも高名な『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介(BNE003658)にしても、このような現象は初めて目にすると語っていた。姉妹みなリベリスタである『ノットサポーター』テテロ ミスト(BNE004973)も、周囲の風景から目を離すことはない。 「昔やったシューティングゲームに、周囲が水晶だらけのステージがありましたね。何となくそれを思い出します」小夜が呟く。「レーザーが思わぬ方向から飛んで来たりとかね、面白いステージでしたよ」 小夜はシューティングゲームの醍醐味を知り抜いている。相手のギミックを見抜き、耐え抜いて攻勢に打って出る。 たぐいまれなるセンスは今回の計画立案にも大きく寄与していた。 そう、今回の戦いは異様である。綿密な計画が立てられた。 「SFみたいね……夏は暑そうだから、絶対来たくないけど」小島 ヒロ子(BNE004871)はポツリと呟く。その一言で一同は思い出す。そう、もう夏が近いのだ。 しかし季節を楽しむ余裕もないほど、このところ激戦が続いている。 藤枝 薫(BNE004904)はふと、誕生日の近いことを思い出す。 このままだと戦場でバースデイを迎えるかもしれぬ。だが、後悔はなかった。薫はこの三高平の地を気に入り、ここで戦うこと、ここで仲間と学ぶことを至上の喜びとしていた。誕生祝はあとまわしだ。 「うわぁ!」ヒロ子が思わず声を上げた。苦悶の表情のまま結晶化した人間と、まともに目を合わせたのだ。かつて人間だったそれが、普通の生活を奪われ、人間としての『死』すら奪われて、このような姿になってしまったことに、ヒロ子は耐えられない。いくら経験を重ねようとも、どこかに人間の心の機微を残している……それが彼女の優しさであった。 「こいつは酷いな」アズマが神妙に呟く。水晶化した人間に、美しさを超越したおぞましさ、酸鼻さを感じているのだ。 「町一つ飲み込んでしまうなど、影響範囲がすさまじい。危険な力ですね」薫が涼やかな目を向ける。「これ以上の被害が出るまでに、何としても処理しなければ」 「これ以上この世界を広げさせるわけにいかねえ。さっさと片付けようぜ!」一悟が言う。 「これくらいでビビるリベリスタじゃねえよ!」アズマも応じる。 一同は頷く。本当はみな、恐ろしいのだ。恐怖に麻痺したものが、恐怖に応じられるわけがない。だがみな、それに立ち向かう力を奮い起こす。 (水晶の塊になって人生終了なんて、絶対に嫌!)ヒロ子は内心でつぶやき、恐怖を追い払う。 「常に目指すところは、あらゆる事態に即した的確な支援。そういう術者であることが、ボクの唯一の存在意義ですから」決意を新たにする光介。 その時、街区の大通りの奥から、ゆらりゆらりと巨大な影が現れた。 水晶化の元凶であり、今回のターゲット。 「ウナギ……」だれかが呟いた。 半透明で、全身をきらめかせた巨大なウナギ。 「土用の丑の日にはちょっと早いですよー」小夜が呟く。 ● ウナギの反応は早かった。水晶の鳥と巨人が産み落とされる。 すぐさま戦端が開かれた。 小夜の詠唱に応じて、リベリスタ達が飛翔を開始する。 「ボクらのやることは決まったね!」 気合とともに筋肉を膨れ上がらせた一悟、剣をオーラの炎で燃え上がらせたミストはまっしぐらに巨人のもとへ。 「アズマさんは、まずはウナギを! ボクらはゴーレムを引き付けておきます!」 ミストに応えたアズマは、飛翔しながら全身をきらめかせる。少女でありつつも男勝り、幻影剣士の適性を持ちつつもアークの戦士として戦う彼女の理想は、何ものにもくじけぬサムライとしての生きざま。あらゆる矛盾を孕みつつも、彼女は自分の運命の扉を押し開いていく。 「お前らの思い通りなんかに、絶対させるものか!」 前衛の突出に応じて、狙撃手、回復役がそれぞれのポジションにつく。 経験の浅いあかりは、深い場所に。ヒロ子たちと同様に重火器を構え、我に返る。 (こんなものを手にしてるなんて……本当に一般常識を逸脱してしまったんですね) 苦笑したその瞬間、ウナギが大きく全身を震わせた。 その鱗の隙間から、虹色の光が放射される。 飛翔中のリベリスタ達は、自分たちの身体が結晶化するのを感じる。膚が、髪が、全身が硬質化して、パリパリと剥がれてゆく。 事前に予測されていた『結晶化』。 (氷結などよりも遙かに弱い拘束……ですが、累積すると恐ろしい……) 陣地を巧みに補正しつつ、光介は結晶化を緻密に分析する。 見知らぬ神秘を覗くのは恐ろしいことだ。深淵を覗くものは、覗きかえされる。深淵に魅入られ、囚われてしまうかもしれ兄。けれど光介は、正体不明の事象を解析しつづける。 この事態を予想し、さらに自らのなすべきことを思考した末、光介のはじき出した結論。 光介は短く詠唱を完成させ、邪気を払う光を放つ。 「術式、迷える羊の博愛!」 みるみる結晶化した肉体が生気を取り戻し、血を通わせる。 『ブレイクイービル』それが光介の最適解であり、結論だった。 ごく基本的で、華やかさのないスキル。さらに言えば、ホーリーメイガスとしての特権ですらない。 誰もが看過してしまうこの技が『結晶』なる未知の神秘を振るう相手への切り札となる。完全には防ぎきれなくても、水晶化の進行を遅らせることが出来る。 熟練の補助役であり、つねに特殊な戦況でみずからの役割を探り続けてきた彼だからできる選択だった。 だがその選択も、強靭な精神力をもつ、大掛かりな回復役あってのこと。畢竟、自分の技は、状況を遅滞させるのに過ぎないからだ。己の信頼する相手に、彼は目を向ける。 小夜は全身に気を集めていた。彼女が選んだ切り札は、大掛かりで危険な技だ。それを連発するのだから、相応の準備が必要になる。 彼女を狙って水晶の鳥が光弾を吐きだした。神秘の中断はさけられたものの、集中攻撃されると苦しい。 薫は目を眇める。光介、小夜に負けず劣らず、薫も全体を見渡す盤上の遊戯者としての経験は深い。普段の穏やかな顔は戦場ではなりをひそめ、すぐさま冷徹な軍師となる。 ウナギは間断ない結晶化を仕掛けてくる。十分な時間があれば、いかなる敵も結晶にすることができる。そしてウナギにはそれを可能にする体力がある。 「結晶化を遅延させる手段が判明しているのは僥倖です」 と、なれば……ウナギの護衛の役割はただ一つ。結晶化を無効にできる相手の排除。 薫は閃光の術式を組み上げ、鳥に向けて投げつける。ひるんだ鳥は攻撃のタイミングを失う。 回復役をめざし突撃する水晶巨人。そこへ一悟が火炎の拳を叩き込む。揺らめく炎が一瞬、水晶の巨体をつややかに照らし出した。 さらに剣を振るうミスト。敢然と勝利のポーズを決めるミストに、水晶巨人の怒りの目が向けられる。弾き飛ばされるミストだが、それも計算の内。ヒロコとあかりの火箭が、見事巨人と鳥とをとらえた。 あかりは自分の撃った火器の、反動の大きさに驚いていた。態勢を整えて撃ったにも関わらず、二の腕までじんとしびれる。「武器の選択間違えました」 そんなあかりにヒロ子は笑みを向け、跳躍しつつ態勢を変化させていく。あかりには気づいたことだが、ヒロ子は有利な位置取りを狙うだけではなく、結晶化した人間を避けるようにしてポジションを取っている。 仮にも人であったもの、粗略に扱うことはできない……それが彼女の矜持だった。 低空飛行しつつ、薫は術の準備に移った。朗々とした薫の祝詞が響く。神秘の世界に、緩やかな抑揚を持った声が響き渡る。 言祝ぎの声に乗って剣を振るうのは、その技を神妙の次元にまで高めたアズマ。驚くべき速度でウナギの懐に入り、巨大な日本刀を擦りあげる。虹色の飛沫があがり、巨体がぐらりとゆらいだ。 怒りに燃えるウナギはアズマに牙を突き立てようとする。かわしきれないその傷がすぐさま結晶となり、さらにウナギから放出される光が、結晶化を促進させる。 小夜の出番だった。天に向かい請願する。彼女の祈りは力強く、張りがある。 天空の奥より祈りの力がひきだされ、見る間に結晶の傷がいやされてゆく。 「作用を正しく見極め、抗う力を!」 その間にも光介は水晶化を解析し、より効率の良いマナの使用を導く。戦況は現在のところ有利。しかし、その趨勢まさに薄氷のごとし。相手の正体を見極めない限り、逆転はいつでも可能である。 併せて射手たちによりよい陣形を示す。柱によって遮られれば、完全にとまではいかなくてもある程度の屈折は可能……そう結論していた彼はAFを使って伝える。 「あの光を避けて戦いましょう!」 光介の指示を受けた薫が、死を告げる死線を相手に向ける。結晶の液体を盛大に吹き上げ、鳥が砕け散った。 もう一体の鳥が光弾を放つ。アズマは自らの補助効果が破れたとみるや、再び全身からオーラを放ち、昂然と立ち上がった。理想を胸に抱いた姿は、ブレイク効果をもってしても砕けはしない。 「これがオレの矜持だ!」高らかにアズマは宣言する。 その言葉に鼓舞された一悟は、雷撃を全身に纏って目にも止まらぬ演武を仕掛ける。 「俺は止まらねえ!」ミストによりひきつけられていた巨人と鳥は、同時に宙を舞い、ドウと倒れる。そこに降り注ぐヒロ子とあかりの銃弾の嵐。とっととウナギへ標的を切り替えたい。 「なんせ水晶化がめんどくさいもんな」 「自分が水晶にされるとかはさすがに勘弁って感じですよ」 塵となって流れ去る鳥の傍ら、巨人はむくりと起き上がり、一悟を弾き飛ばす。流れ出る血流はすぐさま水晶となって流れ去る。 ミストはすぐさま剣を収め、回復の術式を発動させる。 「甘いよ! 前で戦うボクらにも、回復はあるんだぜっ!」 乾坤のテテロ一族、サポーターならぬ彼にも、機に応じて回復を仕掛ける心の余裕はあるのだ。ミスト、できる子! それを見た小夜は「デウス・エクス・マキナ」の術式をいったん解除する。回復の必要は当座はなく、光介により結晶化は致命的に進むことはない。それに、イヤな予感が拭い去れないのだ。 押し切れないかもしれない……。 乱反射する世界の中、一悟は影を目印にして、目標を見失わないようにする。無用な建築物はなし。あとで危険になるような障害物もなし。慎重に彼はあたりを見回す。 と……。 一悟の視線に、ある『物』があった。 完全に死滅した街とはいえ、生き残りがあるかもしれない。一縷の望みをかけ、戦いのさなかも注意深く周囲を見ていた彼だったが、その『物』は予想外であった。 一悟は瞬時、ためらった。生命ある『それ』を、一悟は守りたくもあった。しかし、ここで回復の手を緩めるわけにもいかない。戦いの後でかならず戻ることを誓い、踵を返す。 「うおおお!!」絶叫とともに繰り出される蹴りが、巨人をまっすぐ貫き、そのまま微塵に砕いた。「オレは走り続ける!!」 これで残るは、ウナギ一体のみ。 その時、ウナギが全身をわななかせた! ● ウナギの口腔から放たれる、強烈な光砲。 無音のままに、リベリスタ達の全身が結晶化していく。指先から水晶が広がる。それを見つめる眼球が急速に干からびてゆく。全身が感覚を喪失してゆく。 圧倒的なウナギの威力――結晶の“瘴”クリスタル・プレーグだった。 間髪入れず小夜が術式を発動する。まがいの神じみた、強烈な回復。それをもってせねばどうしようもないほどの凶悪な威力であった。アズマの防御があっても、完全に食い止めることは不可能だ。 光介の分析あってこそ、即時の対応が可能であったのだ。しかし、これを何度も食らうとなれば……。 「厳しい……」 お互いの体力、気力を奪い合う総力戦が始まった。 ウナギの巨体を拳の炎で焦がす一悟。閃光弾をさく裂させ、相手の攻撃をくじく薫。何しろ相手の攻撃からも結晶化は進行する。攻撃の手数を減らすのは最善の策と言えた。 「ボクはリベリオン! いつどんな時も戦いの最前線を駆け抜けるっ!!」 姉譲りの明るさで、ミストは気合の一撃を放つ。 弾き飛ばされたウナギに、アズマは電光石火の寄せをみせ、力任せに跳ね上げる。 『天国への階段』の二つ名を持つ大技は、しかし相手の体力を削りきるに至らない。 ヒロ子の火箭が走る。 間断なく襲い掛かる『結晶化』は、光介が相殺。 『結晶化』のはなはだしいときには小夜が大技を放つ。 しかし、相手の攻撃は苛烈を極めていた。 いつまた『瘴』がくるかもわからない。 勢い、小夜はほとんど毎ターンの大技を余儀なくされた。 急激に憔悴の度合いを高める小夜に、あかりは躊躇なく駆けより、自らの精神力を分け与える。 「何か超能力っぽいことをしてる感じがします」あかりがふわりと笑って見せる。「自分で自分に興奮してしまいそうです。あぶない!」 小夜もあかりに笑いかける。この苦境のなかでひょうひょうとした姿を見せられるあかりは大したものだ。たとえ補助の力が十分でなくても、あかりのかわいげは、小夜の心の支えに十分なりえた。 ――そして、さらに後。 気合とともに放たれた「機械仕掛けの神」とともに、小夜の意識は霞んだ。 リベリスタ達の中でも顕著な彼女の精神力、それを振り絞っても、ウナギの生命力は削りきれない。戦術で補いきれぬ、単純な火力の差があった。 彼女の様子をみて、光介が無言でうなずく。大規模回復は、自分が引き受けるつもりなのだ。 あとは消耗戦だ。 どれほどの時間が経過したのであろうか。 小夜は霞んだ頭で考えた。 彼女の視界に入るのは、今まさに『瘴』を吐き出さんとするウナギ。 頭ではなく、本能が動いた。発動しきれぬはずの術式を、体が勝手に組み上げる。 ……神よ。いるのなら、呼びかけに答えなさい! 精神力は……持った。底をついたはずのエネルギーが、まだ残っていた。 マナコントロールによる、自然回復。それからあとは……。 小夜は傍らを見て、ふっと笑った。新しきリベリスタの誕生を、心から祝って。 そこには、小夜の袴の裾をつかんで、一心に精神力を送り込み続けるあかりがいた。 最後の『瘴』は、発動と同時に浄化され、そしてそれが戦いの趨勢を決めた。 裂帛の気合とともに放たれたアズマの一撃とともに、ウナギは大きく蠕動して、全身から虹色の液体を噴水のように吹き上げた。 ● 黄昏ていた空はいつの間にか群青の夜となっていた。 勝利したとはいえ、一同は落胆を隠せなかった。元凶を倒したとはいえ、水晶化してしまった街を元に戻すことはできないのだ。 その時、一悟が振り返っていった。 「ちょっと、見てほしいものがあるんだ……戦いのあいだに見つけた」 「ほら」 一悟が指さす先には、一輪の半ば結晶化した花。 乱立する柱が神秘を屈折させたのか、結晶化の力をまともにくらわすにすんだのだ。 リベリスタを除く、死せる街の、それが唯一の生命だった。 リベリスタたちは無言だった。光介がそっと、浄化の光を放つ。花が生命を吹き返したことに、一同は安堵を覚えた。 ヒロ子はそれを大事に掬い取る。救いきれなかった生命、もし間に合えば、尻を叩いてでも助けようと思った生命、それに対する後悔の念か。 あかりはじっとそれを見ていた。彼らが見ている命の花。それにリベリスタ達が託すものは、それぞれ違うだろう。救いきれなかった生命かもしれないし、儚くその身を散らした仲間かもしれない。あるいは愚かなフィクサードかもしれない。 自分もいつか、そのように花を見ることがあるのだろうか。 そしてあかりは、胸元にしまいこんだ水晶のことを思う。今は好奇心だけでしまってある水晶のかけら。それを違った思いで見つめる日が来るのだろうか。その時水晶は、また別の色合いできらめくのだろうか。 陽の没した、死せる街の中で、リベリスタ達はしばらく、その花を見詰めていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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