●魔女 夜の路地裏に一人の女が立っていた。 ウェーブがかった水色の髪と猫のような金色の瞳が印象的な外国人の女である。女性らしい豊かな肢体を惜しげなくその場に晒す華のある美人である。 「さて、と……予定より大分遅れてしまいましたがー」 女は誰に言うでもなしに独りごちて辺りをキョロキョロと見回した。 周囲に人影が無い事をもう一度しっかりと確認して彼女は小さく「うんうん」と頷いた。 「まぁ、計画には予定外の出来事が付き物ですからね。 ジャック様もあんなに我慢出来ない方とは……いや、思ってましたけど」 彼女は『誰に言うともなしに、しかし誰かに聞かせるように』そんな風に呟いた。空中からパッと取り出した捩れた木の杖を両手にしっかりと握り、黒々と足元に横たわるアスファルトに何事か知れぬ奇妙な紋様を描き出した。 「料理は食べてくれる人の事を考えないと。うん、ヤマトナデシコへの道は遠いですねぇ」 見事な日本語と愉快とも言えるような気軽さで女はズレた言葉を口にする。彼女が手掛けるのが到底『料理』やら『ヤマトナデシコ』やらから程遠い荒れ事である事は疑う余地も無い。全く気負わず女が思い付きを口にするその間にも地面に描かれた何某かの魔方陣は尋常ならざる気配をその周囲に撒き散らし始めていた。 「トカゲの尻尾、コウモリの目玉、生贄の血にエトセトラ。 ぐつぐつ煮込んで、後は愛情をちょっぴり、と。 あ、言っておきますけど……生贄って言っても人間なんて使ってませんからねー!」 完成した魔法陣の中央に女はぼとぼとと何かを垂らし始めた。 ぶくぶくと泡立つアスファルト。魔力のバイパスが通ればあっさりと空間は引き歪む。女は黒絹の手袋に包まれた手を狂った穴へと突っ込んだ。 「あはは、ちょっとはしたない」 在ってはならないモノを黒々と開いた穴から引っ張り出して女は笑う。 程無く閉じた穴から生まれた何かと彼女の用意した料理がぐちゃぐちゃと融合し、一つの形を造り出す。 引き千切られた神経のような無数の管を引き摺って、浮遊。 腐臭のする黒い液体をぼとぼとと地面に落とす球体。一抱えより大きなそれには口も鼻も無く唯一つの大きな目があった。 まさに忌むべき造形はそれが放置してはいけない何かである事を意味している。 「うん、上出来ですねー」 女は笑う。ころころ笑う。 「リベリスタさん達、超! 出番ですよ!」 ●異変 「……見ての通りなんだけど」 「おかしいだろ、これ」 ブリーフィング・ルームに集まったリベリスタを出迎えたのは歯切れの悪い『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)と『戦略司令室長』時村沙織 (nBNE000500)の二人だった。促されるままにモニターに映る事件の概要を見て、それからリベリスタ達はハッキリとした奇妙を感じてそんな風に言葉を返した。 「……うん、凄くおかしい」 事件自体はフィクサードが何やらバグホールらしきモノを作り出し、危険なアザーバイドだかエリューションだかを呼び出した……という点で納得はいく。それがどの位の技術を要するものなのかという問題は別にして理解出来る。 しかして、見るからに誰もが「おかしい」と断定出来る理由は別にあった。 「何でこの女、カメラ目線なんだよ……」 リベリスタの言葉は微妙に乾いていた。 まるで運命の予知があるのを想定しているかのように、まるでそこに神の目が及ぶ事を最初から理解しているかのように――否、それ所の話では無い。 「……どう見ても、カレイドの見る運命を先回りしてる。 何て言うかカレイドの視る力を『視てる』……って感じ」 イヴの言葉にリベリスタは頷いた。 常識では在り得ない出来事である。少なくとも数百回以上に及ぶカレイド・システムの利用において同様の事例が起きた試しは無い。 「この女の正体は不明。少なくともアークのデータベースにはデータが無かった。 唯……カレイドに対しての変な能力と外国人って部分が引っ掛かる……」 「蝮原からの情報は知ってるな?」 ここで漸く口を挟んだ沙織にリベリスタは頷いた。 先のフィクサード連合による攻撃計画には外国人の二人組が関与していたという。 又、時村貴樹暗殺未遂事件で万華鏡の機能が封鎖されたのは記憶に新しい所。 「……可能性を疑うには十分過ぎるだろう?」 「と、なると……」 沙織が言わんとする所はリベリスタ達にも良く分かる。 「ああ。お前達の仕事は傍迷惑な『邪眼』の排除とこの女の情報を集めてくる事だ。 何か目的があって此方に接触したいか、それとも挑発の心算か。 カレイドが『どうにも都合良く見えない』んでね。その辺りは直接行くしかないようだ」 「シンプル・イズ・ベストか。文明の利器は最後には頼りにならないねぇ」 「言ってくれるな。こんな事、他には無かったんだぜ」 苦笑いを浮かべた沙織はリベリスタ達に最後に一言念を押す。 「いいか? 美人については情報収集が主目的になる。 奴の配下の『邪眼』については破壊が必要だが……カレイドが不調な以上は何が起きるか分からない。女について、深追いだけはしてくれるなよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月15日(月)23:32 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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