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<捩れた斜塔のラプンツェル>不運な日

●魔女
 夜の路地裏に一人の女が立っていた。
 ウェーブがかった水色の髪と猫のような金色の瞳が印象的な外国人の女である。女性らしい豊かな肢体を惜しげなくその場に晒す華のある美人である。
「さて、と……予定より大分遅れてしまいましたがー」
 女は誰に言うでもなしに独りごちて辺りをキョロキョロと見回した。
 周囲に人影が無い事をもう一度しっかりと確認して彼女は小さく「うんうん」と頷いた。
「まぁ、計画には予定外の出来事が付き物ですからね。
 ジャック様もあんなに我慢出来ない方とは……いや、思ってましたけど」
 彼女は『誰に言うともなしに、しかし誰かに聞かせるように』そんな風に呟いた。空中からパッと取り出した捩れた木の杖を両手にしっかりと握り、黒々と足元に横たわるアスファルトに何事か知れぬ奇妙な紋様を描き出した。
「料理は食べてくれる人の事を考えないと。うん、ヤマトナデシコへの道は遠いですねぇ」
 見事な日本語と愉快とも言えるような気軽さで女はズレた言葉を口にする。彼女が手掛けるのが到底『料理』やら『ヤマトナデシコ』やらから程遠い荒れ事である事は疑う余地も無い。全く気負わず女が思い付きを口にするその間にも地面に描かれた何某かの魔方陣は尋常ならざる気配をその周囲に撒き散らし始めていた。
「トカゲの尻尾、コウモリの目玉、生贄の血にエトセトラ。
 ぐつぐつ煮込んで、後は愛情をちょっぴり、と。
 あ、言っておきますけど……生贄って言っても人間なんて使ってませんからねー!」
 完成した魔法陣の中央に女はぼとぼとと何かを垂らし始めた。
 ぶくぶくと泡立つアスファルト。魔力のバイパスが通ればあっさりと空間は引き歪む。女は黒絹の手袋に包まれた手を狂った穴へと突っ込んだ。
「あはは、ちょっとはしたない」
 在ってはならないモノを黒々と開いた穴から引っ張り出して女は笑う。
 程無く閉じた穴から生まれた何かと彼女の用意した料理がぐちゃぐちゃと融合し、一つの形を造り出す。
 引き千切られた神経のような無数の管を引き摺って、浮遊。
 腐臭のする黒い液体をぼとぼとと地面に落とす球体。一抱えより大きなそれには口も鼻も無く唯一つの大きな目があった。
 まさに忌むべき造形はそれが放置してはいけない何かである事を意味している。
「うん、上出来ですねー」
 女は笑う。ころころ笑う。
「リベリスタさん達、超! 出番ですよ!」

●異変
「……見ての通りなんだけど」
「おかしいだろ、これ」
 ブリーフィング・ルームに集まったリベリスタを出迎えたのは歯切れの悪い『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)と『戦略司令室長』時村沙織 (nBNE000500)の二人だった。促されるままにモニターに映る事件の概要を見て、それからリベリスタ達はハッキリとした奇妙を感じてそんな風に言葉を返した。
「……うん、凄くおかしい」
 事件自体はフィクサードが何やらバグホールらしきモノを作り出し、危険なアザーバイドだかエリューションだかを呼び出した……という点で納得はいく。それがどの位の技術を要するものなのかという問題は別にして理解出来る。
 しかして、見るからに誰もが「おかしい」と断定出来る理由は別にあった。
「何でこの女、カメラ目線なんだよ……」
 リベリスタの言葉は微妙に乾いていた。
 まるで運命の予知があるのを想定しているかのように、まるでそこに神の目が及ぶ事を最初から理解しているかのように――否、それ所の話では無い。
「……どう見ても、カレイドの見る運命を先回りしてる。
 何て言うかカレイドの視る力を『視てる』……って感じ」
 イヴの言葉にリベリスタは頷いた。
 常識では在り得ない出来事である。少なくとも数百回以上に及ぶカレイド・システムの利用において同様の事例が起きた試しは無い。
「この女の正体は不明。少なくともアークのデータベースにはデータが無かった。
 唯……カレイドに対しての変な能力と外国人って部分が引っ掛かる……」
「蝮原からの情報は知ってるな?」
 ここで漸く口を挟んだ沙織にリベリスタは頷いた。
 先のフィクサード連合による攻撃計画には外国人の二人組が関与していたという。
 又、時村貴樹暗殺未遂事件で万華鏡の機能が封鎖されたのは記憶に新しい所。
「……可能性を疑うには十分過ぎるだろう?」
「と、なると……」
 沙織が言わんとする所はリベリスタ達にも良く分かる。
「ああ。お前達の仕事は傍迷惑な『邪眼』の排除とこの女の情報を集めてくる事だ。
 何か目的があって此方に接触したいか、それとも挑発の心算か。
 カレイドが『どうにも都合良く見えない』んでね。その辺りは直接行くしかないようだ」
「シンプル・イズ・ベストか。文明の利器は最後には頼りにならないねぇ」
「言ってくれるな。こんな事、他には無かったんだぜ」
 苦笑いを浮かべた沙織はリベリスタ達に最後に一言念を押す。
「いいか? 美人については情報収集が主目的になる。
 奴の配下の『邪眼』については破壊が必要だが……カレイドが不調な以上は何が起きるか分からない。女について、深追いだけはしてくれるなよ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月15日(月)23:32
 YAMIDEITEIっす。
 八月一発目は緊迫の新章スタート。
 以下詳細。

●任務達成条件
 ・イル・リズ・オーフェムの邪眼の撃破

 加えて謎の女についての情報を可能な限り集めると沙織に喜ばれます。

●路地裏
 人気の無い路地裏。戦場。
 道幅は四メートル程。不足無く並んで戦うには精々三人でしょう。
 今回については結界等を用意したり目撃者を気にする必要はありません。
 目的は不明ですが謎の女が『強結界』よりも強い『陣地構築』を行なっています。
 神秘耐性の無い人間はそもそもエリアに踏み込めません。

●謎の女
 恐らくはフィクサード。
 黒い帽子とマントにあられもないレザーの服を身に着けた華のある美人。
 実力の程が一切不明ですが、極めて危険と推測されます。
 戦場に邪眼と共に存在します。

●イル・リズ・オーフェムの邪眼
 アザーバイドかエリューションか知れない何か。
 宙に浮く腐った肉塊。唯一つの瞳を備えるもの。
 見れば胸が悪くなる事請け合いの禍々しい怪物です。
 謎の女が呼び出すか作るかしたようです。
 対象をきちんと『視る』事で発動するその力はかなり危険です。
 以下、攻撃能力等詳細。

・全ての攻撃は視界内複数ないしは全です。
・全ての攻撃に呪い属性が付与されています。
・赤い瞳(神・自付・命中強化)
・魂汚し(神・ショック、MアタックX)
・憎悪連鎖(神・猛毒・連・CTプラス)
・永久に美しく(神・石化)
・邪眼生産(神・召喚複数)
・EX イル・リズ・オーフェム

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。

●備考
 このシナリオへの参加は下記の条件を満たしているキャラクターで行なうようにして下さい。
 条件に適応しない参加をしないようにお願いします。
 条件に適応しない参加が認められた場合、何らかのペナルティを架す可能性があります。

・レベルが6以上である。
・名声値が50以上である。


 条件を満たさない予約参加の場合、参加を除外しその分の再抽選を行います。
 又、条件を満たさない通常参加の場合、参加を除外しその分の枠を開きます。

 以上、宜しければご参加下さいませませ。


参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
クロスイージス
深町・由利子(BNE000103)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
プロアデプト
天城・櫻霞(BNE000469)
ソードミラージュ
早瀬 莉那(BNE000598)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
クロスイージス
レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)
スターサジタリー
立花・英美(BNE002207)
プロアデプト
七星 卯月(BNE002313)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)

●魔女の夜I
「や、こんばんわです。皆さん――」
 頭上には金色の満月(つき)。眠り込んだ街の隙間に星の光が瞬いている。
 死にさえも似た真夜中の静寂を複数の気配が掻き乱した。街中のワンシーンだというのに余りに異質なその時間はそれ自体がここがどんな場所であるかを何より雄弁に語っている。一見すれば唯の街角にしか見えぬこの路地は、その実、日常からは既に最も程遠い。常人が踏みいる事叶わぬ領域はそこに佇む一人の女が恣意的に作り上げた魔境――陣地なる牙城と化していた。
「――いい夜ですねぇ。お会い出来て光栄です」
 煌々と降り注ぐ月明かりを一身に浴びて事の外気楽にそんな挨拶を投げかけてきたのは美しい女だった。
 ウェーブがかった髪を撫で付けた風に僅かに揺らして。小首を傾げるような所作は些かのあざとさを感じさせる。
 猫のように大きな金色の瞳が自身の『呼び出し』に応じて現れた十人のリベリスタ達を楽しそうに見つめていた。
「こんばんわ、良い夜ね。超! 出番の源兵島よ。貴女は?」
 異質な空気にまるで頓着せず、女の言葉を逆手に取って『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)は言葉を返した。
 切れ長のピンク色の瞳が細く女の影を映している。薄い唇に張り付く温い笑みは僅かに皮肉めいている。
「名乗る心算が無いなら乳女とでも呼んでおくけど」
「――ヤですよ、それ!」
 半ば悲鳴混じりに言った女は、
「私は通りすがりの占い師です! アシュレイちゃんって呼んでくれると嬉しいです!」
「カマトトね。何だ、つまらない」
 小さく肩を竦めたこじりに代わり、
「わざわざ呼び出す様な真似してさ、何がしたいワケ?」
 無防備なアシュレイを剣呑に見て『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)が問う。
「あはは。何でしょうね。今言うよりは、もう少し……」
 彼女の声に朗らかな笑みを浮かべたままの女はこれには明確に応えない。
「いい夜……ねぇ……」
 肌をちくちく刺すような嫌な気配と思わず眉を顰めたくなるかのような腐臭、死臭は刻一刻と強くなっていた。
 思わず小さな苦笑いを交えて溜息を吐いた『サイバー団地妻』深町・由利子(BNE000103)は先刻承知とばかりに自身等を出迎えたアシュレイから目線を外し――横にずらし。この場所を汚辱に染める『元凶』の方を見やった。
「私も最近は腕に自信がないけれど……あなたの『料理』も大概だわね」
 自嘲気味の声さえ、虚しい。
 そこには目が在る。浮いている。
 腐った肉をこね回し、粗雑な形を造っている。
 神経や臓器にも似た歪な管からぼたぼたと黒ずんだ液体を垂らしている。
 一メートル以上はあろうかという濁った『眼球』を酷く血走らせた――正真正銘の邪眼(ばけもの)が居る。
(彼女の目的が分からない以上は、どんな罠が仕掛けられているか解らない……
 それでもこの眼は――必ず誰かに災禍を生む。絶対に放置してはおけないわ)
 赤い唇を軽く噛んだ由利子は悲壮に似た決意をその表情に滲ませていた。
「素敵な美人さんがいると聞いて。……それ以外も居ると聞いて」
 一方で由利子の抱いた嫌な予感――ぞわぞわと体中を這い回り、毛穴から体の内に入り込んでくるかのようなそれ――を笑い飛ばすのは『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)だ。
「いいね、最高のおっぱいだね!」
 竜一の他愛も無い言葉は或いは気負う由利子の気を『何時も通り』で紛らわせる為のモノだったのだろうか?
 全く何処まで本気か、道化を気取っているかのような青年の横顔からは読み切れない。
「あは、逢いに来てくれました?」
「交換日記をしようよ! お友達からよろしくお願いしますっ!」
「そうですねー。それもいいかも知れませんねー。
 あ、まめな方ですか? 浮気性は良くないですよ! 放っておかれると寂しいじゃないですか!」
 竜一の軽口にアシュレイは律儀に愛想を返している。
 しかし、軽妙な言葉とは裏腹に今日の竜一は『至極真面目』であった。言葉は真意の見えない女の態度を探るものであり、高まる緊迫を緩和させようと考えてのものでもあった。趣味と実益を満たしていないとは言わないが。
 ともあれ、モノは言いようではあるが――概ねの局面においてある意味で素晴らしい精神力を発揮し、泰然自若と事に挑む彼が幾らか余所行きの意識を身に纏う――それだけの理由が今夜と目の前の女にはあった。
 ブリーフィングでリベリスタ達に任務を告げたイヴの言葉は何時もとはまるで違うものだったから。

 ――どう見ても、カレイドの見る運命を先回りしてる。
 何て言うかカレイドの視る力を『視てる』……って感じ――

 目の前でにこにこと笑う女が表面通りの『人当たりの良いお姉さん』である可能性等、ゼロに等しい。
(イル・リズ・オーフェムの邪眼。
 アザーバイトともエリューションとも見当のつかぬ異様な生物、そしてそれを一人で呼び出した女……)
『深闇に舞う白翼』天城・櫻霞(BNE000469)の中で知性と鋭敏なる勘と、或いは本能とが最大規模の警鐘を鳴らし続けていた。
 それは幾度も危機に出会い、場数を踏んだ彼だからこそ――リベリスタ達だからこそ分かる事。虚無より何かを捏ねて邪眼を造り出した能力然り。イヴや沙織の懸念したカレイドを視る力にしても然り。
「……何が目的よ。リベリスタを始末したいとかそんなんじゃ無いんでしょ?
 もしそうなら、前の襲撃みたいに幾らでもやりようはありそうなものだし。どうせ噛んでたんでしょう?」
 先程よりも踏み込んだレナーテが口にしたのは『相模の蝮』での異変である。作戦司令本部は件のフィクサード連合の攻勢と時村邸襲撃事件にアシュレイの関与を疑っている。その読みが正しかったならばこの女は少なくとも、独力でバグホールを開く力、召喚した存在を使役する力、カレイドシステムを逆に感知する力、更にカレイドシステムから事象を隠蔽する力を持っている事になる。プロト・アークの頃、オルクス・パラストの活躍していた頃を知るであろう沙織が「初めての事態」と言ったのだ。これがどれ程に『特殊』な相手であるか等、今更言うにも及ぶまい。
「お言葉から察するに私達の事はそれなりに察していたと。
 流石の調査力ですねー。前回の阻止といい、負け惜しみを言いたくなってしまいます」
「何それ。月並みに予定通り、とか言う心算?」
「まぁ、大体は……って、何か冷たいですよ!?」
 真偽兎も角それは余りに芸が無い。小さく鼻で笑ったレナーテにアシュレイは泣き真似をしてみせた。
「普通に考えればフィクサード……なんだろうけどな。おまえ……本当にこの世界の住人か?」
「はい。生まれはブリテン島ですし、正真正銘――元人間で間違いありませんよ」
 余りに非常識な能力に思わず尋ねた『がさつな復讐者』早瀬 莉那(BNE000598)に女はあっさりと頷いた。
「あっそ。……納得行く行かないを考えたら尚更悪い気がしてきたけどな」
 莉那は状況を正しく理解していた。確実にこの場で排除しなければならないのはあの邪眼。しかし――
(……どっちが最悪なんだかな……)
 その邪眼が、殺気を撒き散らし、世界の全てを呪っているかのような邪眼が。
 敵を目の前にしても借りてきた猫のように大人しい。歓談と言える調子の女のやり取りを邪魔する事無く、石像のようにそこに在り続ける。その些細な事実が意味する所を彼女は見誤る事は無い。
(また何かが始まるのでしょうか。いえ、今はただ目の前の敵を――)
 殆ど確信にも似た予感に極々小さく頭を振り、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は前を見た。
 一つの油断が死に繋がり、一つの間違いが容易に破滅を導きかねない。
 神秘に相対する時、リベリスタ達にかかる責任は大きいが――今夜ばかりは別格だ。『今夜の出会いは不運過ぎる』。
「『神の目』を欺く……か。どうもキナ臭い話だね。
 しかし、今は眼前の脅威を排除するのが先決だ。生憎と我々は『そんな物』を野放しにしておくわけにはいかないのだよ」
 レイチェルの想いを代弁するように饒舌なる『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)が声を発した。
 ヘルメットの向こうの卯月の表情はまるで見えない。それは却って常の笑顔でペルソナを纏う女に相対するに相応しいようにも感じられる。
「君は見学者なのかな。それとも戦うのかな?
 私としてはリベリスタさん達の活躍を見ていてもらえると助かるのだけど」
「うんうん。それでこそ『21、The World』が見込み、『0、The Fool』が縋ったアークの皆さんです。
 冷静さと強い意志を併せ持っていて――状況を明確に見極めていらっしゃる。
 実際問題、その質問自体が答えではありませんか」
「……」
 当を得ない不親切な言葉に卯月はと言えば答えない。
「お断りしたら?」
「それはそれ。戦う事になるね。それと、もう少し話を聞きたいのだけどね」
 揺らがず答えたその言葉にアシュレイは大きく頷いてにっこりと笑った。
「それも、それでこそです。
 では、私はそのお言葉に免じて――お言葉に甘えまして――まぁ、お話はその後という事で!」
 言葉と共に闇がその濃密さを増す。アシュレイの豊満な体を包み込んだ黒い霧が晴れた後には何も無い。
「頑張って下さいねー」
 頭上よりかけられた声の方を仰ぎ見れば、そこには手近な屋根の上からひらひらと手を振るアシュレイの姿。
「流石に気合入れてかないとね……」
「あら、いいじゃない。これだけ異常ならかえってスッキリするってものよ」
「お前なぁ……」
 常識知らずの『派手な手品』にレナーテの表情が強張る。相変わらず無駄に余裕めいたこじりに莉那が呆れた声を上げた。
「……自分で種を撒いておいて頑張れとは。
 聞きたい事は山程ある、だがその前に無駄な配役には速やかに退場願おうか」
「漸く話は纏まったか。何とも数奇なものだ。かの邪眼と対峙する機会があるとはな」
 アシュレイの気楽さに櫻霞が苦笑する。最早多くの時を待ちはせず、始まろうとする死戦を目の前に『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は殆ど無意識の内に呟いていた。
「……はて、初見の相手に何を言っているのか、私は……」
 伝承に見られるような敵。余りにも特徴的なフォルムは一種のデジャヴを覚えさせるに十分だったか。
「まぁ良い。その呪い、怨嗟、魔女の策謀共々、断ち斬ろう――根こそぎに」
 澄んだ鋼の音を奏でてアラストールの剣が引き抜かれた。
 災厄を目の前に、正眼に剣と盾を構えた騎士の姿はある種の――絵画的美しさを湛えている。

 ――忌むべきモノ。
 一目で死を知らせ、不幸を容易に撒く異質。

 あなたは恐ろしい敵なのでしょう。
 私は無力な娘なのでしょう。

 それでも、負けない。私は、負けない。
 体が壊れる事より、ずっと辛い事がある。
 何も護れないと――どうしても届かないって。
 心が折れる事が怖い。魂(こころ)が歪んでしまう事ばかりが怖い。
 唯一つの犠牲だって払いたくない――諦めを覚えてしまうのが何より怖い――

 極々短い煩悶と集中の時間は終わりを告げた。
『ミス・パーフェクト』立花・英美(BNE002207)が両目を開く。
 視界には夜の世界。佇む的は汚泥と闇。
「だから勝つ! 何があろうとこの『私』だけは折らせない!」
 凛と張り詰めた木花咲耶がキリキリと音を立てる。
 上等なアメジストのような少女の双眸は硬質の輝きでこの夜を、照らすのだ。

●不吉と邪眼とリベリスタ
 かくして戦いは始まった。
 宣言通り高みの見物を気取る魔女をリベリスタ達が今相手にする理由は無い。
 彼女の言葉を容れた面々は最低限の警戒心のみは残しながらも、作戦通りに目の前の難敵との対決にその意識を傾けていた。
「さて、折角頂いた舞台だ。魔女の気が変わる前に――決着をつけなくてはね」
 司令塔の役割を果たすのは高度な判断力で戦場全体を把握する卯月である。
 その的確な言葉と布陣を受けた面々は元よりこの夜に一つの最適解を見出している。
「さあ、行くのだよ――」
 一声と共にパーティ全体に小さな翼が現れた。
 視界こそその武器であるイル・リズ・オーフェムに相対するパーティがまず考えたのは当然と言うべきか、その対象の散開である。通常ならば即座の包囲が難しい路地での戦闘も対象を一思いに越える事を許す飛行能力があれば話は別だ。
「イヴたんに褒めて欲しいし、俺は頑張るぜー!」
「ま、ある意味役得よね。相手が大変な程、自分の価値が良く分かる」
「確かにリベリスタの出番ですね……」
「何をする気にせよ、それが大勢の人に危害を与えるものならゼッタイに防いでみせる――!」
 翼の加護を面々に付与した卯月に応えるように竜一、こじり、英美、レナーテが動き出す。
 竜一は普段と同じように愛嬌のある余裕を崩さずに。こじりはふふ、と小さく笑い。英美はちらりとだけ屋根上の魔女に視線をやり、レナーテは力強く今夜も決意を宣誓した。五人は小さな翼を羽ばたかせ、連携良く邪眼の上を越える。路地の向こうに降り立った彼等は素早く展開を組み直し、前に竜一とレナーテを立て残る三人が後衛に布陣するという予定通りの型を作り出していた。
「その邪眼、早々に潰させてもらうぞ」
 一方で前方に残った面々の動き出しも早かった。
 秀麗な美貌から涼やかな言葉を吐き出したのは櫻霞だった。
 深闇に舞う白翼は深き昏闇(くらやみ)に頓着しない。漂う腐臭の空気さえ厭わず精悍なる細身が闇に舞う。
 彼の練り上げた見事な集中はその意思を発露させるかの如く、二重の動きを展開させた。
「逃れられると、思うな――!」
 まずは集中。常識を簡単に踏み越えるリベリスタの技量――極限の集中は彼に格別の命中力を齎した。
 続け様に両の手より放たれる気糸は闇を切り裂く戦いの号砲となった。邪悪の瞳を狙うその光は吸い込まれるようにその中心へと炸裂した。
「……ち……」
 しかし、敵は厄介なる魔物である。
 その幻想から高い対神秘耐性を持つ邪眼はこの一撃にも然して堪えた様子は無い。
 とは言え、リベリスタの戦いは元より連携を重視するモノである。櫻霞の一撃は唯の一撃に留まらず敵の意識を自身に向けるという一つの目的を帯びていた。彼が作り出した意識の空隙を仲間達が縫う。
「仕掛けたいのは山々、だけどな」
「ごめんなさいね。でも回復の方は任せて」
「いや、気にするなよ。話が出来そうなのは――あの女の方だしな」
 パーティの最後方に陣取ったのは今夜の戦いの生命線を担う由利子である。
 献身的な彼女は恐怖を払う力と共に仲間達を賦活する力をも備えていた。
 その由利子が邪眼の脅威に晒される事は即ちパーティの苦難を意味する。危機を防がんとするのは軽く応えた莉那だった。幾多の呪いを撒く相手の特長を考えれば単純な装甲でその攻撃を阻むのは難しい所である。高い行動力と回避力を備える彼女は矛であると共に攻撃を受け流す盾であった。クロスイージスを守るソードミラージュという絵図は中々見られるものではないのかも知れないが。
(まずはその動きを見極めて――)
 コンセントレーションでその感覚が研ぎ澄まされる。
 邪眼の動きを慎重に見極めんと配されたレイチェルの視界の中に一人の少女が飛び込んだ。
「抑えはお任せ下さい」
 連携するレイチェルを背後に隠そうとするようにアラストールが前に立つ。
 男装した少女とも、美し過ぎる少年とも取れるその姿が――月明かりに影を落とした。アラストールの構えた一眼レフが暗闇に強烈なフラッシュの残滓を残した。屋根の上の女をも捉えるアングルで瞬いた地上の星に邪眼はその大きな瞳を一層血走らせていた。
(邪眼の力の根源、その殆どが『視る』事によるものなれば――)
 包囲も至近への接近も同じ事。かの万全を如何に侵すかが戦いの結末を分ける事はそう、必然である。

「――うーん。やりますねぇ」

 頭上からやけに通る声が降ってくる。
 鈴の鳴るような笑みを含んだ魔女の言葉に応える者は無い。
「来ますよ……!」
 それもその筈。レイチェルの警告を受けるまでもなく、戦いは本格的な始まりの時を迎えようとしていた。
 まるで全てを待っていたかのようにゆらりと鈍重なる目玉が動き出す。
 血走った眼を赤く染め、腐った肉と歪な器官から汚れた何かを撒き散らして。アラストールの姿を避けるように僅かに下がった邪眼はそのまま正面に立つリベリスタ達目掛けてその圧倒的な呪力を解放した。
「――っ……!」
 悲鳴を発したのは誰か、呑み込んだのは誰なのか。
 正面に捉えた五人を唯の一瞬で飲み込んだ魔力の視線は敵に凛と立ち向かう彼等の精神すら侵食する呪いの呼び声。
 単純な物理的衝撃に留まらぬ一撃に喰らった頭がぐらぐら揺れた。このショックは、小さくない。
「……こンの……見世物じゃないぞ。気安くこっち見るんじゃねぇ」
 辛うじて視線のショックを避けた莉那が眉を吊り上げて敵をねめつける。
 そして当然、軽く嘯いた莉那の背後には彼女が守り抜いた由利子の姿もある。
「あなた……皆を守る力を……私に貸して!」
 胸の前で薬指の指輪に触れて、由利子は祈るように呟いた。
 今は居ない愛しい人。でも、今も共にある愛しい人。世界を、誰かを守る為ならば――きっと力を貸してくれる筈。
 想いは邪気を退ける神光となって無明の闇を切り裂いた。
 戦いがある。どれ程、手強い相手が在ろうとも。屋根の上の魔女がどんな存在であろうとも――折れぬ心は共に在ろう。

●断絶のイル・リズ・オーフェム
 翼の加護と見事な作戦行動で邪眼を前後に挟撃した事はまず奏功。高い士気で敵に向かうリベリスタ達の動きは十分に良いものと評価する事が出来たが、例え『素晴らしい展開を完全に作り上げた気になったとしても』一筋縄ではいかないのが強敵との戦いである。
 回復力に乏しいパーティは長期の戦いを得手としない。短期決戦で邪眼を仕留める事こそ彼等の第一目標だったが、邪眼はそれを邪魔する手立てを持っていた。
「――俺の右手の混沌が、お前の存在を許しはしない!」
 良く分からん気合と共に竜一の手にした二刀が続け様に閃いた。
 闇の中に弧を描く素晴らしい斬撃は敵を逃さぬ鋭利さで目前の邪眼を切り裂いた。
 しかし、
「……厄介だな、これ!」
 彼が斬り伏せたのはイル・リズ・オーフェムの邪眼では無い。
 それが腐った肉より産み落とした五十センチばかりの小さな分身である。
 確かにこの小さな邪眼は本体には到底及ばない程度の力しか持って居ない。されど、放置する訳にもいかないのは当然の事だった。
 背後に回ったリベリスタ達の攻撃を防ぐように数体の邪眼が壁となって群れている。視線による攻撃も決して小さな威力では無い。
「だが――どんどん潰すぜ!」
 とは言え、救いはそれの耐久力が決して高くは無い事である。
 竜一が見事な体捌きで反転、連続攻撃で邪眼を叩く。
 彼のダブルアクションによるオーララッシュはある種の連撃の極みであるかのようだった。
 唯の一人、単一を狙う技しか持たぬ彼が屠ったのは複数の邪眼。
「一応、褒めてあげるわよ。もっと、馬車馬のように頑張りなさい。結城君」
 開いた斜線を狙うのはこじりの流鏑馬。
 その眼を赤く染めた邪眼の本体に強烈な貫通力を秘めたその一撃が突き刺さる。
「危ないわよ、そんなの」
 唯でさえ強力な相手にそれ以上の猛威を振るわれる訳にはいかない。邪眼の持つ禍々しい気配が若干だけ薄れたのを確認し、こじりは小さく息を吐く。
「一気に片付けます――これで!」
 英美の木花咲耶が蜂起の弾幕の如く無数の矢を撃ち出した。
「――このっ!」
 破壊された邪眼(ざこ)等には構わない。生まれた隙に強引に間合いを詰めたレナーテの重い一撃が巨大な邪眼を縦に叩く。
「まだ、これからなのだよ」
「はい!」
 卯月がすかさずインスタントチャージで支援するのは大技に肩で呼吸をした英美である。
 短いようで長い時間が過ぎていた。消耗戦の様相を呈した戦いはその激しさを増していた。
 邪眼の威圧を正面から受け止め続ける面々は既に小さくない消耗を隠せない。後背をつく面々は一方で攻撃重視で動く事が可能だったが時間も余力もその実共有と言って差し支えないリソースなのは変わらない。勝負は前が如何に粘っている間に後ろが如何に攻略を進めるか――当然ながらパーティは一つの運命共同体である。
 由利子が癒し、
「アタシはあの時に誓ったんだ。二度と目の前でリベリスタは殺させないってな……」
 莉那が支え、
「貴様に構ってる暇は無いんだ、失せろ障害……」
 櫻霞が敵の隙を縫う。
 アラストールは果敢に目前に挑み、レイチェルは間合いを神気で焼き払う。
 戦いの中で一つの大きな貢献を果たしているのはこのレイチェルの神気閃光でもあった。
(確かに、威力はそう通じるレベルでは無いでしょうが――)
 論理の使徒たる彼女はこの局面においても実に冷静なままだった。
「当てる事なら、出来ます」
 エネミースキャンにより敵の性質を理解する彼女はプロアデプトの流儀のままに一つの解を導き出したのだ。
 目前の邪眼が鈍重なれば、最も有効なのは更に重石をつけてやる事である。最初に喰らったお返しとばかりに光を撒き、敵陣にショックをばら撒く彼女のやり様は恐るべき敵を相手にする上で有効な手立てとなっていた。
「は――!」
 裂帛の気合を込め、上段より地面に叩きつけんとするような重い一撃を繰り出したのはアラストール。
 邪眼がどれ程、異常に対する回復力を持っていようとも彼女に続いて繰り出される連続攻撃の前には無意味である。

 おおおおおおお……!

 邪眼が何処からか声のような怨嗟を発し、憎悪が辺りに吹き荒れる。
 傷付き、傷付け合う戦いは間近の終局に向けてその勢いを増していた。
 英美の弾幕が小さな邪眼を次々襲い、切り込んだ竜一が気を吐いた。
 運命を削り、削られ。石化の視線より攻撃を受け、良く守った莉那が倒された。攻め手の櫻霞が倒された。
 耐久に優れないレイチェルが膝を突く。崩れかかった彼女を辛うじて支えたのも又、運命だった。
「流石に、名にしおう『災厄』だ」
「……みんなで、必ず帰りましょうね」
 アラストールが、由利子が呟く。
 それでも前を抑える面々の限界が訪れようとしているのは誰の目にも明白だった。
 決着に長くは掛からない。それは誰の目にも知れていた。

「――退けば、誰も死なないで済むかも知れませんよ」

 屋根の上の魔女が余りに退屈な茶々を入れる。
「誰が」と呟いたのはレナーテだった。「死なねぇよ」と言い切ったのは竜一だった。
 パーティは確かに傷んでいる。当初の余力は何処にも無く、戦線は何時決壊してもおかしくはない。だが、それでも。
「料理だかペットの心配をした方が良いのでは――?」
 傷付いたレイチェルが嘯いた。
 彼女がレンズ越しに捉えるそれの姿も又、最初のモノでは有り得ない。
 肉はぐずぐずに削がれ、汚れた血に染まり。眼球は傷み、傷付き、潰れかけ。
 どちらが酷い有様かと言えば、どちらの酷い有様なのは変わらない。
「父の名にかけて!」
 英美の美貌は揺らがない。

「それでこそ、です」

 鈴鳴る魔女の笑い声にもうリベリスタ達は構わなかった。
 唯、これまでに無く――凶悪なまでの殺気をその眼の中に溜め始めた恐るべき魔性を前に、死力を尽くした攻撃を加え始めた。
 肉が引き千切られ、眼球に得物が突き刺さる。悶える邪眼に猛攻が襲い掛かる。
 それでも、邪眼は滅びない。
 目の前の敵を射殺さんと、尽きぬ殺意を潰れかかったその眼に溜めて。今まさに解放せんと真の邪眼を見開きかかった――

 ――その時に。

「……今っ……!」
 怒鳴り声にも似た声を上げたのは後背より邪眼に飛びついたレナーテだった。
 彼女が手にしたのは厚手のマント。千載一遇のこの時を、意識を研ぎ澄ませていた彼女は見逃さなかった。
 邪眼の攻撃の全てが視認を条件とするならば、朽ち果てかけ隙の出来たそれが無防備な姿を見せていたならば。彼女の一手は奇跡的にその最後の切り札を封じる確かな勝機となっていた。

 おおおおおおお……!

 夜風に怨嗟が泣き喚く。
 止まらない。パーティは最早止まらなかった。
 刃が在ってはならないモノを打ち据える。
 撃ち出された――鏃の形をした弾丸は肉を抉り、『視神経』を引き千切り、眼球とレナーテのマントを貫いて敵の至近で爆散した。
 一目で判る戦いの終わりは、リベリスタの辛勝を告げていた。
「ま、こんなものね」
 その居住まいばかりは涼やかに。
 汗で張り付いた前髪を気取った仕草のこじりが払った。

●魔女の夜II
「わー、凄いですねー!」
 死線を辛うじて潜り抜けたリベリスタ達に奇妙に明るい声と拍手の音が降り注ぐ。
 嫌味にも見えない、さりとて額面通りに受け取るにはどうにも微妙なその評価に面々は複雑な顔をした。
「貴女は何者です!」
 声を張ったのは英美、
「災う塔の如き魔女よ、数多の策謀の先に何を望む気か」
 その表情を引き締めて、硬い調子で問うたのはアラストールだった。
「……いい加減、聞かせて貰ってもいいと思うんだけど」
 少しうんざりした調子でレナーテが続けた。
「今回も、時村邸が襲撃された時もそう……
 アークの万華鏡に現れた歪み……それを引き起こしたのは貴方たちなの?
 手品のタネ明かし、ヒントだけでも聞かせて貰いたいわ」
 心に、体に圧し掛かる疲労感を振り払い気丈に由利子が視線を投げた。
「私は唯のフィクサード。結論から言えば万華鏡関係のトラブルは私の仕業です。
 ……今夜のは、挨拶でしょうか。直接、皆さんの顔が見たかったから、ですかね」
 少し悩む素振りを見せた後、アシュレイはそんな風に言葉を返した。
「言い訳しますけど、私には時村邸襲撃の失敗が視えていました。その先の皆さんの勝利もです。
 ですから、別に皆さんをどうこうしたかった訳ではなく、先に予定通り……と。
 褒められた手段でない事は了解していますが、皆さんにしなければならない事があるのと同じように、私にもしなければいけない事があります。それはどれ程人の道を踏み外そうとも、どれ程の犠牲を払おうとも。私にとっては第一の目的です。
 今、詳しくを言うのは尚早ですから――アレですけど。『私のしなければならない事には皆さんが必要不可欠』なんですよ。ですから、今回は敢えて陣地を作らせて頂きました。誰も犠牲にしていない、何て言うのはおこがましいですけどね」
「アークも……厄介な連中に目を着けられたものだな」
 痛む体を何とか起こして櫻霞が呟く。
 全く同感の感想に仲間達から苦笑が漏れる。
「ねぇ、アナタ」
 初めてと言っていい位――笑顔以外の表情を浮かべて見せたアシュレイに不意にこじりが声を掛けた。
「アナタがもし一人きりでないと言うのなら、その組織に興味があるわ。もう飽きたのよね、リベリスタに」
 ぎょっとした周囲に構わずこじりは雄弁で堂々としたままそんな言葉を言い切った。
 一瞬、不思議そうな顔をしてまじまじとこじりを見たアシュレイはその一瞬後には楽しそうに笑い出した。
「駄目ですよ、駄目。そういう嘘は良くないですよ。
 こじりさん、家族と友達と大好きな誰かと過ごす時間に満足しているでしょう?
 だって、目がきらきらしてますもん。生きているのが楽しくて仕方ない――そんな顔してるじゃないですか」
「……」
 こじりは答えなかった。唯、その脳裏を軽薄で騒がしい年下の少年の顔が過ぎったのは否めない。
「『私達』は三千世界に牙を剥く狂人の集まり。
 誰がどれだけ冷静でも、どれだけ理知的であっても。皆静かに狂ってます。
 くれぐれも、御自身を大切に。若い身空で、非行に走るのは良くないですから!」
 見た目はこじりと五つも違わないような――若い女のなりをして、嗜めるように魔女は言う。
「今夜は、これまでですね。又、近い内にお会いしましょう――」
 座った姿勢の魔女を再び黒い霧が包む。
 霧の晴れた後には先程と同じくアシュレイという女の痕跡はまるで無い。
「訳分かんないけど。ま、一先ずは先の話って事で……」
 埃を払い、レナーテが一つ伸びをした。
「……つくづく常識外なのだね、アレは」
「ええ」
 呟いた卯月にこじりは小さく頷いた。
 魔女は少女を見つめ、言ったのだ。

 ――こじりさん、家族と友達と大好きな誰かと過ごす時間に満足しているでしょう?
 だって、目がきらきらしてますもん。生きているのが楽しくて仕方ない――そんな顔してるじゃないですか

「彼女は単に『源平島』としか名乗っていなかったのだよ」
 関わってはいけないものに関わってしまった。だから今夜は不運な日。
 戦いを終えて尚、背筋を通り抜ける寒気の直感、間違っていたならばどんなに素晴らしい幸運だろう。
「……魔女、アシュレイ……」
 レイチェルの噛み締めたその名が幽かに夜に漏れていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIです。
 被害規模は結果的に然程大きくありませんでしたが『イル・リズ・オーフェム』不発の上での話ですから、これが成立していた場合……
 アシュレイの参戦も『最悪ならば』あったでしょうから良く頑張ったという事で。

 シナリオお疲れ様でした。