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とある家族の行楽風景

●じめじめしたところが好き
「えっと。は、初めまして……灰沢真珠(はいざわ しんじゅ)、です。フツツカモノですが、よろしくお願いしますっ」
 いささか、緊張気味に。『つぎはぎアンティックドール』灰沢 真珠(nBNE000278)は自己紹介しながら、ひとつ、ぺこり。勢い良く頭を下げた。
 本日よりアークにて働くことになった、新人フォーチュナである彼女は、早速その初仕事を全うしようと、ブリーフィングルームに掲げられたモニタのコントローラを、慌しく操作する。
「えっと、えっと……どうやって使うのかしら、これ。あ、こうかな。こうか。えいっ、あ、映った映った……こほん。さて、今回の任務は、こちらのエリューションの対処になります」
 しばし、ひとしきりの操作を試した後。映し出されたのは、天井に据えられた申し訳程度の照明が灯るのみの、飾り気の無いコンクリートの壁が続く、薄暗いどこかの地下道。壁には、雨水か地下水か、そこかしこに滲み出た水が描き出す染みが、不気味な模様となって連なり、ことさらにその空間の陰鬱さを演出している。
 その、奥で。暗がりに蠢く、それ。
 ずるりと長い……十数メートルはあるだろう、ひたすらに長く巨大な、多関節の身体。その側面から飛び出した、節足類めいた、無数の細い脚。もたげた胴の脇から飛び出した3対の腕の先は、鉤爪のように鋭くとがっていて。
 大きな頭部、ばかっと4つに開いた顎の中には、男性らしき顔……デスマスクのような白い人の顔が張り付いており、おおおん。おおおおん。と、しきりに、低い呻きのようなくぐもった声をもらしている。
 更には、その異形の背中には、縮小コピーのような小さな個体が、いくつもしがみついて乗っかっており。どうやら、生まれたばかりの子供であるようだ。
「大きな虫……みたいにも見えるけれど、アザーバイドみたい。子供がいっぱいいて……お父さん、なのかな? ボトムに、家族旅行にでも来たのかもしれないわね」
 落ち着いてきたのか、どこか呑気に、そんなことを言う真珠だが。モニタの中の異形が発する声は、きいきいとわめく子らの声と相まって、合唱めいて地下空間に反響し。それらを見る者聞く者は、まあ大抵は、怖気を震うことだろうと思われた。
 地下道は、どうやら少なからず一般人の通行もある場所のようで、アザーバイドの足元には、食い散らかされたOLらしき若い女性の残骸が転がっている。暗さもあり、うっかりと入り込んだところで異形に近づいてしまった者の末路を示す骸は、捨て置けば、これからいくつも積み重なっていくことになるのだろう。
「こんな大きなのが道を塞いでたら、皆、通れなくて困っちゃうよね。というわけで、皆さんで、排除してきてください。よろしくお願いしますね?」
 少々ズレた感想を添えつつ、真珠はリベリスタたちに要請する。三高平へと連れられてきた当初は、人目を忍んでどこかおどおどとしていた彼女だが、どうやら今は多少なりと慣れた様子で、というよりむしろ、この危機感の無さはどうだろう。
 それはさておき。気色の悪いクリーチャーのドアップという、いささか心臓によろしくない映像をバックに、彼女はにっこりと、つぎはぎだらけの顔で微笑んだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:墨谷幽  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年06月12日(木)22:23
 墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
 『クリーチャー』で検索エンジン様にお伺いを立ててみましたら、想像以上にキモチワルイのがいっぱい出てきてうわぁ。うわぁ。



●作戦目標
・アザーバイドたちの撃破


●失敗条件
・参加者全員の戦闘不能


●ロケーション
・とある地方にある、200メートル程度の地下道。天井に点々と据えられた照明の光量は頼りなく、薄暗いです。
・付近の地下街を繋ぐ連絡通路のようなところで、それほど多くは無いものの、一般人も利用する場所です。


●敵性キャラクター
○ハートフルダンディ
・長大な身体で地下道を塞ぐ、気色の悪いアザーバイド。節足類のような多関節の胴体、わさわさと蠢く無数の細い足、鉤爪のような3対の腕に、顎の中に人間のような顔があります。
・背中に、自身の姿を縮小したような子供たちをたくさん乗せています。彼らに食べさせるためか、積極的に獲物を捕食しようとしているようです。
・母親は故郷で留守番なのか、はたまた何らかの事情でシングルファーザーなのか、そもそも雌雄同体だったりするのかは分かりませんが、まあ、あえて知らなくても良い情報ではあります。
・【鉤爪連撃】物/近/単/連
・【強廃液】物/遠/範/猛毒
・【絶望という名の地下鉄(EX)】物/遠/貫/命+、圧倒、ノックB/単純この上ない、巨体による突進。立ち塞がる者を残らず轢き潰す

○チャーミーキッズ ×数十体
・気色の悪いアザーバイドの子供たち。体長は7~80cmというところ。
・普段は親の背中に折り重なって乗っかっていますが、獲物を見つけると、わらわらと群がり襲い掛かってきます。
・【鉤爪】物/近/単
・【廃液】物/遠/単/毒



 以上になります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております~!
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
アウトサイドナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
ノワールオルールソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
★MVP
ハイジーニアスクリミナルスタア
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
ハイジーニアスダークナイト
小崎・岬(BNE002119)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
ハイジーニアスクリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
フライエンジェレイザータクト
藤枝 薫(BNE004904)

●旅人たち
 じめじめ、ひんやりとして湿っぽい、地下通路。光量の足りない照明、薄暗い視界の奥で蠢いているそいつに、『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)は、視線を定める。
「こいつは、また。気色の悪いデカブツだな……例の、恐怖神話の化け物と言っても通用するぞ」
 彼は、昨今アークや神秘界隈を騒がせている、おぞましい事件の数々に、それをなぞらえてみせる。今は眠っているのか、静かにそこへ佇んでいる怪物は、確かに、かの神話に語られる異形たちの姿と照らし合わせてみても、遜色は無さそうだ。
 とはいえ、
「また連中の襲撃だって言うなら、大事だが。どうも、そいつは杞憂だったみたいだな」
 『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)の言葉には、ある種の、確信めいた響きがあった。かの異形たちを目にした者たちが受けるような、人の精神を穿ち、正気を削り取られるようなあの感覚が、視線の先の怪物からは、感じられない。どうやら、あれらとは関わりの無い、単純に、姿がグロテスクなだけの怪物のようだ。
 かつん、と、用意してきた通行止めキットの立て看板を、地下通路の入り口へ設置しながら。『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)が、
「……そんなに気持ちが悪いかしら? 私には、それなりに、可愛らしく見えるのだけど」
 そんなことを言ったもので、リベリスタたちは、えっ? という顔で彼女を見つめた。人の好みは十人十色、エナーシアにかかれば、目の前の怪異も、可愛い動物奇想天外となってしまうようだ。
「まあ、姿はどうあれ。それが害虫であるのなら、駆除することに変わりは無いのだわ」
「……ああ。そうだな。そろそろ、狩りを始めよう」
 通行止め工作を手伝っていた、『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)。彼は、今回揃って参加している、婚約者である木蓮に一つ目配せしながら言うと、ケースから愛銃を取り出す。骨董品めいた火縄銃を模した長銃は、しかし対神秘に絶対の効力を発揮する、特注の品だ。
 視線を受けた木蓮も、ひとつうなずき、狼柄をあしらったガンケースから愛用のライフルを引き抜き、異形へと銃口を定める。
 高まり始める、戦いの緊張感に。藤枝 薫(BNE004904)は、目を細め、標的を見据える。
「アザーバイドの親子、ですか。あいにくと、この世界は、あなたがたの家族旅行にはそぐわない所です」
 杖を構えたのを合図にしてか、ぴくり、怪物の巨体が揺らぐと。くぐもった低い響きが、異形のほうから漏れ聞こえる。どうやら、こちらに気づいたようだ。
 子供たちのための、活きのいい、獲物たちの存在に。
「害をなすならば、容赦はしません。早々に、殲滅させていただきましょう」
 一歩を踏み出す薫に続くリベリスタたちへ、異形の父は、顎を開いて、甲高く奇妙な咆哮を上げた。

●雲霞
 かさかさかさかさ。無数の小さな足を一生懸命に動かし、蜘蛛の子のように、奇怪な子供たちの波が押し寄せてくる。何十体ともつかない彼ら兄弟たちにとって、目の前の獲物たちは、彼らの食欲を余さず満たすに足るほどに食いでがある、ごちそうに見えるのかもしれない。
 もっとも、それらが子供であるとはいえ。日頃から人の子たちと接する機会の多い、『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)先生とて、可愛がる相手はある程度選んでおきたいわけで。
「……こんなのが、たくさんいる世界があるってことかしら。ちょっと、想像するのもごめんよね」
 きいきいと鳴きながら、迫り来る子供たちへ。ソラは、全身へと纏った雷光を、躊躇無く、容赦もなく浴びせかける。ばりばりと伝わっていく稲光は、奇怪な子らを次々と内から弾けさせ、漂う焦げ臭さと共に、えもいわれぬ不快感を催す臭いを伴う液体を、そこら中に散らしていく。
 思わず顔をしかめたソラの脇を抜け、福松の呼び出した魔剣の一閃が、群れの中心を貫いて切り裂き、波の中へ一筋の道を切り開く。
 現れた道へ、すかさず走り込むのは、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)と、『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)。
「小崎さん。挟み撃ちといきましょうか」
「オッケーだよー。よーし、行こうぜーアンタレス!」
 愛用の斧槍、ぎょろりと赤い瞳が禍々しく輝くそれを、ずしりと肩へかつぎ。岬は駆ける。
「旅の恥は掻き捨て、なんて言うけど、いい迷惑だよねー。よーしパパ特盛喰らっちゃうぞー! ……とか言ってるのー?」
 旅先でうなぎ登りのテンションに任せ、普段はやらないようなことをやらかしてしまう……なんてことも、人間ならばあるのかも知れない。目の前の怪物について、それが当てはまるのかどうかはさておき。冗談めかして言った岬の全身を、黒々とした闇が霧のように覆いだし、ずるりと斧槍にまとわりついていく。
 一方のうさぎは、早速飛びかかってきた数匹の子供たち、その小さくとも鋭利なメスのような鉤爪を、緑色の長布を翻して弾き、受け流しながら、ぽつり。
「見た目は怖いですけど。良いお父さんなんですね、そういうの、嫌いじゃありません」
 彼らの食物の嗜好や、その恐ろしげな外面はともかくとしても、親子でボトム・チャンネルへやってきたところを見るに、確かに、家族サービス中のマイホームパパ、と取れなくも無いのだ。あくまで、のっぴきならない諸々の事情をさておくなら、ではあるが。
「……でも、死んで頂く」
 なんにしろ。旅行先で味わう地元の味覚として見られてしまうのは、現地人にとって、不本意極まることだろう。半円形の特殊な刀剣、ぎらつく11枚の刃を閃かせ、うさぎは、血液代わりの廃液の飛沫を、幾重にも散らしていく。
 愛しい我が子らを手もなく屠られた、憤怒か、それとも悲哀だろうか。異形の父は、一声、耳朶を震わす不快な金切り声を響かせると。顎の中の人面から染み出す、どろりとした緑色の廃液を、勢いよく噴出する。
「あっ熱っ!」
 飛沫を腕に浴びた岬を始め、強酸性の廃液が、リベリスタたちへと降り注ぎ、肌をじゅうと焼け付かせる。
 後方で、エナーシアが細腕に構えるのは、大型の対物ライフル。マウントした軍用のタクティカルライト、照らし出す円形の光は、ほの暗い地下通路の中にあって、狙うべき標的を顕著に浮かび上がらせ、仲間たちの撃ち込む銃弾の指針ともなっている。
「旅先での買い食い拾い食いには、注意が必要なものでせう?」
 次々に、トリガーを引き絞るたび。子供らのもたげた頭は消し飛び、胴は弾けて、真っ二つに分かたれ。無機質な地下道を不気味に彩る、濃緑色の染みと化していく。
「まあ、今更言っても、もう遅いけど。ね?」
 彼女に、旅人への慈悲は無い。

●旅先でのトラブル
 巻き起こる衝撃が、地下空間の空気を震わせ、ばたばたと、ソラの魔術教本のページを繰る。地を走る雷轟は、異形の子らを根こそぎ薙ぎ払いながら突き進み、
「まだよ……まだ、私のターンは終わらないわよ?」
 続けざまに迸る、もう一条の稲妻と絡み合い、場を制圧していく。
 子供たちの数が順当に減りつつあるのを見て、うさぎは、地下道の壁と怪物の巨体の間へ、躊躇無く踏み込むと、
「すいませんね、どうも……まったく。とんだ殺戮者ですね、私たち」
 突き抜け、背後を取る。子供らへの容赦の無い殲滅を省みてだろうか、そんな言葉をかけたうさぎだったが。
「でも、止めません。私たちにも、都合というものがありますから」
 だから、ごめんなさいね。
 言うなり、幾重もの分身を生み出し陣を成すと。一閃は重なり合い、連撃となって、化け物の長大な胴を切り刻む。
 おおおん……と、くぐもったうめきをあげる、異形。巨躯がたたり、地下道で容易に反転が利かないことに苛立ってか。3対、6本の鉤爪による怒涛の攻撃の矛先は、真正面に立っていた、福松へと向く。
「おっと。惜しかったな?」
 鉤爪は鋭く、しかし、とっさに体をかわした福松の頬を浅く裂きながらも、空を切り。
「……尽く、喰らえ! 神代の大蛇の牙を以ってッ!!」
 福松の身を依り代に現出する黒い闘気は、八ツ首の大蛇の形を成し。子供らをもろともに巻き込みながら、喰らいつき、散らしていく。
 追撃をかけるのは、岬。
「うーん、キモイなー。キモイから……そのへんで、止まっててくれるかなー!」
 巨大な穂先を持つハルバード、その超重に、ありとあらゆる痛苦の呪いをトッピング。薙ぎ払い、甲殻めいた胴の表皮をかち割りながら黒い一閃を叩き込むと、異形はすさまじい絶叫を上げながら、体液をぶしゅうと吐き散らす。
 と。
「うわ……た、龍治!?」
 後方から響く、心配げな声は、木蓮のものだ。
「く……」
 見れば、龍治の身体の上で、数体の子供らが這い上がり、まるで遊び回るように蠢いている。冷静沈着を地で行く龍治、しかし流石に、ぞわりとざわつく肌と、背筋に走るじんわりと冷たい感覚は拭えない。
 とはいえ、
「……落ち着け、問題は無い。木蓮」
 恋人を前に、あまり無様な姿はさらしたくないという、男の矜持が勝ったか。龍治はぐっと息を呑み込むと、務めて冷静に、鉤爪を振り上げる子供らを引き剥がし、ぽいと投げ捨て。炎の矢と化した銃弾を放って、まとめて焼き払う。
「まったく、心配させるなよなー……」
「すまん。さあ、畳み掛けるぞ」
「おう!」
 何事も無かったようにうなずく龍治に、胸中でほっと安堵した木蓮。しかしながら、少なからず被ったであろう、婚約者の精神的ダメージは、彼女にも想像に難くない。
 銃口は子供らへと向けられ、
「動くなよ、避けたほうが……余計に痛い目みるぜ!!」
 放たれる銃弾は、小蜘蛛かムカデのような体節の真芯を穿ち、次々と息絶えさせていく。
 その乾いた銃声を、背に。
「大丈夫ですか? もう少し、ですよ」
 薫の紡ぐ詠唱と、顕現する福音の声が織り成す音色が、仲間たちの傷を癒し、背を押していく。

●害虫駆除業者のお仕事
 大勢は、既にリベリスタたちへと傾きつつあった。子供らは駆逐されていき、徐々に、その数も尽きようとしている。
 憤怒とも取れる、奇怪な叫び声を響かせる父。異世界からの来訪者とて、親子の情というものはあるのだろうか。
 だが何にしろ、リベリスタたちの成すべきことは、結局のところ、変わらない。
 ソラは、滑らかな詠唱によって降臨させた光で、仲間たちを癒し、
「回復もしっかりと、ね。何なら、アンコールにも応えるわよ?」
 万全のバックアップを受けながら、彼らは、最後の攻勢を仕掛けていく。
 薫の投じた閃光弾が炸裂し、いくらか残った子供らと、父親を衝撃で怯ませ、
「さあ、皆さん、追撃を!」
 彼の声に応えるように、突っ込んだ岬は、斧槍の巨大なシルエットを軽々と振りかぶり、
「情ケ無用! 行くよー、アンタレスッ!!」
 痛烈なる苦悶の一撃を叩き込むと、再び異形へ、甲高い叫びを上げさせる。
 仰け反る怪物の眼前で、福松は半ば背を向けるほどに上体を捻り込み、
「……受けるか!」
 ともすれば弾けそうになる膂力を、全身に蓄え、
「このブローをッ!!」
 一気に、それを解放する。全身ごと突き込むような拳は、怪物のもたげた頭部を支える胴へと真っ直ぐにめり込み、衝撃と共に穿つ。
 子供たちはもはや、数体を数えるのみとなり。父親はと言えば、体節のあちらこちらから、しきりに廃液を噴出させながら、苦悶にうめいている。
 再び、残像を纏った連斬で斬り込んだうさぎが、その予兆に気づく。がりがりと、コンクリートの地面を掻くように、小刻みに動き始めた、無数の細い足。
「……! 来ます、ご注意を!!」
 発した警告の、直後。まさに、絶望を乗せて走る地下鉄のごとく。巨躯は、無慈悲な突進を敢行する。
「うあっ!?」
「く……っ」
 あらかじめ、直線的に位置が被らないよう、布陣を整えていたリベリスタたち。いたずらに被害が広がることは防げたものの、突撃の標的となり吹き飛ばされたのは、木蓮と薫だった。二人は、強烈な衝撃に身を打ち据えられ、大きく後方へと飛ばされ、地を転がる。
「……無事か!?」
「っつつ……な、何とか」
 駆け寄った龍治が抱き起こすと、木蓮は衝撃の余波にうめきつつも、何とか身を起こす。
 怪物の通り道には、無数の足が床に残した痕が、二列の直線となってコンクリートを抉っている。その様は、さながら廃線となった線路のようにも見えた。
「……足掻いても無駄だ」
 束の間、ほっと息をついた龍治。片手で印を結べば、展開するのは、多重の結界。怪物の動きを縛すると、再び愛銃を構える、傍らの木蓮へ。
「どのみち、ここで潰える運命だ……木蓮」
「ああ!」
 ぴたり、定める銃口の先には、異形の父の顎の中、真白い人面。
 ふいに。木蓮は、思う。
 眼前のこれが、父親であるなら。母親も、どこかにいるのだろうか?
 自らの伴侶や、腹を痛めて産み落とした子らを、こうして屠られたと知ったなら。母は、復讐に来るのだろうか?
 もし、そうならば。
「……その時は、受けて立つさ。逃げずに、真っ直ぐに」
 木蓮自身も、龍治も。リベリスタであるならば、誰しも。きっと、そうするのだろう。
 それ以上の言葉は無く、胸中においても、あえて謝罪はしない。
 様々に思うところあり、しばし、神妙な顔を浮かべていた木蓮だったが。気を取り直すと、彼女はトリガーを引き、怪物の顎内の人面、痛苦に歪んだその眉間を、撃ち抜いた。

「外来種の拡散は、防いでおかないとね。放っておいたら、爆発的に増えてしまいそうだもの」
 親を亡くし、逃げ惑うのみとなった子供の生き残り、その頭部を、エナーシアが寸分違わずに撃ち抜いて。全ては、終わった。
 静けさを取り戻した地下道には、緑色の不気味な染みがそこかしこに残されていたが、息絶えた異形たちの死骸は既に、腐臭と共に泡と溶け、消えていくところだ。
「ふー。これにて廃線って感じかなー。お疲れー」
「ええ、お疲れ様でした」
 地面に突いたハルバードの柄にもたれ、岬は、コンクリートへ怪物が残した、線路のような二本の痕になぞらえて言う。対するうさぎは、戦いの先にも後にも、ぴくりとも表情は変わらなかったが、仲間たちへの労いの念は、どうやら本物のようだ。
 互いの無事を確かめ合う、龍治と木蓮。その脇では、面倒くさがりのソラが、どこか気だるそうに、
「さ、終わったことだし、帰りましょうか」
「ええ。皆さん、大きな怪我も無くて良かったです」
 奇怪な怪物の相手、立ちこめる臭気は、リベリスタたちの精神を、少なからず疲弊させてはいたが。うなずきながら、薫はそう言って、柔らかい笑みを浮かべた。
 帰途へ着くリベリスタたち、その最後尾で、福松はふいに、背後を振り返る。
「……ま、いつか、生まれ変わりでもしたら。今度は、幸せな家庭を築いてくれ。その時は、侘びの一つでも、差し入れに行ってやるさ」
 ふ、と、小さくそう言い残し。きびすを返すと、彼は仲間たちと共に、立ち去っていった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした! 『とある家族の行楽風景』のリプレイをお届けします。

 言葉の通じない、見た目にきもちわるーいクリーチャーにも、ひょっとしたら本当は、家族や恋人がいたりするのかも……何て考えると、ちょっとしんみりしたりしません?
 そのあたりに対する、皆さんの反応も結構様々という感じで、それぞれの個性が垣間見えて楽しかったですねー。

 MVPは、エナーシア・ガトリングさんに贈らせていただきますね。
 子供たちの掃討に加えて、仲間たちへのちょっとした気配りが、効果的に利いておりました。
 ちなみに、バージェス動物群は墨谷も大好きです。ハルキゲニアとか。

 それでは、今回はご参加ありがとうございました!
 またの機会にお目にかかれますこと、心よりお待ちしております~。