●愛情と困惑のモノアイ 悍ましい。 恐ろしい。 嫌悪感を抱かせる。 醜い。 名状に尽くしがたい。 文筆に表せない。 それらの言葉を並べるのであれば、この相手は昨今現れる異界の化け物どもと通じるものがあった。正直、外観を確認した段階ではその類ではないのかと思いもしたのだが。調査結果としては、エリューションであるとして間違いないらしい。つまり、こちらがわの化け物というわけだ。 だが、難解さで言えばあれらの比ではない。こちらの攻撃が一切通用していないのである。戦うものとして、これ以上の悪夢は存在しなかった。 刃が通らない。銃弾が弾かれる。魔法が届かない。拳が触れ得ない。およそあらゆる一切の攻撃という敵対コミュニケーションが通用しない。 どうすればいい。満身創痍の身体で考える。いや、わかっている。わかっているのだ。出すべきは撤退の号令である。自分達が敵わぬ相手であったのだと、逃げ出す以外に道はないのだ。 だが、なにかひとつでも。彼のプライドが生命の天秤を狂わせていた。なにかひとつでも、成果と呼べるものを持って帰らねば。 可能性を考える。イソギンチャクに似た、しかし腕も程もある肉の塊を躱しながら。何かあるはずだ。倒れた仲間を抱え上げる。なにかひとつ。見落としている点はないのか。 エリューションの興味が肩を貸した彼女に向いた。自分以外の生命を己の自尊心と比較できるほど外道のつもりはない。慌て、撤退を叫ぶ。 悲鳴をあげる筋肉に叱咤しながら。悔しさで充満する脳の中。考える。どうして。なにが。どうして彼女が狙われて。 嗚呼、そうか。そうだったのか。 ●劣等と美意識とマニアック 「というわけで調査の結果、このエリューションはバストサイズの大きい人を絡めとった時にその相手からの攻撃にだけは無防備ということがわかったわ」 沈黙。フリーズ。 よし、落ち着こう。耳を疑う必要はない。さっきまでのシリアスな映像はなんだったのか。いや、確かになんかこのエリューション卑猥だなーとか思ったが。 「だから今回の任務は、巨乳になってエリューションに絡め取られながら自分の尊厳を守りつつ対象を討伐することよ」 やったあ、今回も意味がわからないぞ。 尊厳云々で女性陣はちょいと寒気がした。いや、その前に巨乳になるってなんだよ。 「大丈夫。それに関してはしっかりと協力を得ているわ」 少女は言うと、それらを取り出して自分達の前に置いた。 瓶だ。牛乳瓶である。 それは銭湯の脱衣場で冷蔵庫の中にでも入ってそうな、何の変哲もない―――冥時牛乳のラベル。 これは、まさか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月16日(月)22:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●参列と景観のマトリックス さあ、恐怖と殺伐で荒んだ心をちょいとあれ気な話で洗浄しよう! 時節の話だとか、題材に関する小噺だとか。いつもならそう言ったところから少しずつ展開を模索するところではあるのだが。今回に至っては省略させていただきたい。 なぜなら、これにそれらは一切無関係であるからだ。情緒不安定な人間卒業共は出てこない。そもそもの思考から作りの違う少女達は現れない。異世界異星からの旧的支配者共は蚊帳の外だ。 ああいけない。また前置きが長くなるところだった。それでは形式に則り、心情の吐露より始めて行くとしようか。 「本当の敵は身内にいる、をしみじみを感じてしまいます」と雪白 桐(BNE000185)は言う。別に格好を気にしているわけではないし、胸に関してはこれをと牛乳を渡されるのは、まあ仕方のない事だろう。生物学的に考えて、彼には女性的な胸の膨らみというものはありえない。仕事だと割り切れる。それはいいのだが、聞こえるのは精密機械の小さな駆動音。ああまで露骨に撮影しようというのはどうなのか。 「言っても聞かないから諦めるしかないですか……」 「願わくば力押しで倒したい相手だと心の底から思うが、現実は非情だな……」 『ほんぽうじゃない』草臥 木蓮(BNE002229)は大きくため息をついた。相手に『いたずら』をしている最中だけは攻撃が通じるエリューション。形状からして、名前からして、つまりはそういうのなのだろう。それにしても、すごいこと要求するなあの幼女。 「き、気は進まないがこんなのを野放しにしとく訳にはいかない。さっさと息の根を止めてやる!」 「ふむ、大きな胸に対して捕まえていたずらを仕掛けるエリューションね……」 『人妻スナイパー』安西 篠(BNE002807)は思考する。特殊な攻撃志向をもった敵。その上、捕まった相手からのダメージしか受けないというのは、つまり。 「サディズムで縛りたいのかしら? マゾヒズムで巨乳相手に攻められたいのかしら?」 すごいこと言い出したぞこいつ。 「なんとも複雑な性癖ね……いや、エリューションだからそういうわけではないのかもしれないのだけれど」 『quaroBe』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)は片目だけのバイザーみたいな変な機械を装着すると、各々を見渡した。そして、それが突如小さく爆発して砕け散る。 「十分戦えそうですね!」 あれって一番の上司に向ける度に破裂することになるんだからすっげえ気をつけて使わないといけないよな。余談はともかくとして、マリスは小型のハンディビデオカメラを用意していた。あれだよ、一般人に見つかっても撮影で誤魔化せ……アウトか。 「何でこの手の相手って無駄にパワフルなんだろうね」 『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)は嘆く。話しによれば、えっちっちだなんてドストレートな名前のエリューションもいたのだとか。色々と思うところはある。種族だとか性別だとかそもそもどういう意図なんだとか、しかしまあ嘆いてばかりもいられない。だって、女の子であるとかは関係なくお仕事なので。 「お嫁に行けなくなる前にさっさと退散してもらうよっ」 「同志明覚! 貴女の覚悟は受け取りました……!」 撮影する気満々なやつその2、神谷 小鶴(BNE004625)であるが。彼女の場合、他とはちょっと違っていた。支給された牛乳を腰に片手を添えてぐいっと飲み干すと。彼女の柔らかなバストが小さく小さく、しぼんでいく。 「さようなら、私の実際豊満なバスト!」 逆に考えるんだ、こうすれば狙われないと。この難易度でなければ戦線放棄とも取れる行動である。いや、支援役は狙われないようにとするならば最適解かもしれないが。 『もうだめ駄狐いつ』明覚 すず(BNE004811)に約160文字与える。 「諸君。私は触手が好きだ。諸君、私は触手が好きだ。諸君、私は触手が大好きだネバネバが好きだ。ヌルヌルが好きだ。絡め取りが好きだ。服剥ぎ取りが好きだ。服を溶かすのも好きだ。映画で、ゲームで、漫画で ドラマで、ラノベで、アニメで、OVAで、イラストで、この世界で行われるありとあらゆる触手が大好きだ。清純な美少女が沢山の触手に(以下略」 『龍の巫女』フィティ・フローリー(BNE004826)はふと周りを見渡してみたところ。 「雪白さんが居る。神谷さんが居る。明覚さんが居る。面識はないけど似た空気の人が他にも……」 そのため息は、何かを誘ったような空気を醸し出していた。 「―――ああ、今回はそういう任務なんだね」 一緒くたにされることに意義を挟みたいものもいるだろうが、認識とはグループ単位である。 「どうしてこうなったの」 はて、とんと理由がわかりませぬ。 ともあれ、憂いも憤りも昂ぶりも十二分に達したところであろうか。それではめくるめくよくわからない世界へ。 八名様、ご案内。 ●前進と後退のコンプライアンス こう、無性にいつもと全く違う話にいきつくことがあるんだ。 それは、本当にイソギンチャクに似ていた。サイズというステータスを考慮しなければだが。大小様々な触腕。滑っていて、妙に赤黒い。人肌っぽい。血管が浮かんでいる。グロテスクなシルエット。それらは蠢き、獲物をさがしている。 思わず、一歩引いた足を誰が咎めよう。それほどまでにそれは生理的嫌悪感を催すものだった。確かに、本当に、そうとしか命名のしようのないものだ。 しょくしゅ。そうでしかないそれに絡まれることを想像するだけでも鳥肌が立つ。 しかし、やらねばならぬ。これは強力な凶悪なエリューションなのだ。放置すれば周辺住人に被害が及ぶだろうし、何よりフェーズ進行の果てにあるのは世界の終わりである。 しょくしゅの暴走で終わる世界。まさに地獄。 一瞬、想像して。勢いよく振り払っていた。なんとしても勝たねばならない。そんな未来は御免こうむる。そう、どんな恥辱に塗れようとも。 ●雄弁と嘘吐のペスト こういうの書いてるとふと我に返って自殺したくなる時がある。ある意味恐怖よりも恐怖。 「雪ちゃんをきちんとコーディネートしないといけませんね!」 小鶴の発言は正直、狂っていた。なんだろうね、デジャブを感じるよ。 「巨乳であれば男でもいいとか駄目です! しっかり可愛い両性類の男の娘にしないと!」 まさかのアンドロギュノス。神話への回帰である。そうか、あれはダブルジェンダーであったのか。いやこの場合ジェンダーは使い方としておかしいんだけどさ。 「とりあえず切り(ははっ、こいつシナリオ跨いで天丼してきやがった)。前にもこんなことあった気がするんですが、気のせいですよね」 気のせいじゃねえよ。なんだこの一方的なコミュニケーション。 「紐パンと紐ブラは用意してきました。さぁ着用なさってください!」 そういって、もうそれが水着なのかなんなのかもよくわからないものを取り出しては押し付けようとする。これを考えたヒトは衣服を0と1でしか語れなかったのだろう。その前に紐パンはやめろ。それはアカンやつや。 必要なさそうに感じるが、木蓮は支給された牛乳を口にする。サイズにほとんど変わりはないが、それでも少しだけ大きくなった。人それぞれ、彼女にも理想の自分と感じる姿があったということだろう。 「……いやまぁ、うん。龍治がこれくらいが一番好きっぽいからさごにょごにょ」 隣人に怒られない壁、あなたの近くのどら猫が販売中ですニャ。 「ちょ、服が伸びるだろこの触手野郎!」 文字数がないので早速絡まれて頂こう。微に入り細を穿つ描写を行っているとそれだけで紙面が尽きるのだ。 「こうしなきゃ倒せないんだ、耐えろ俺様、耐え……っひゃ!?」 どこを触られたのかは皆様の想像にお任せしよう。理由は細かいこと書くとこれが公開されないからだ。 「そ、その胸への執着心だけは認めてやってもいいぜ!」 絡まれてべとべとにされてヌメヌメされながら涙目で。 「あんましつこいとお前に牛乳かけるぞ! うわーん!」 たのむやめてくださいはっきんになってしまいます。 「あっ、だめっ、そんなところ、あの人にも許したことないのにぃっ……」 篠のセリフは色々とこう、想像力を掻き立てるものがある。しかしそこに留めておこう、R指定ってのは境界線の見極めが必要なんだ。こんな風に露骨にメタったりな。 「んっ、触手ぅ……」 健全な男子が聞けば前かがみになるであろう艶かしい声。どうでもいいが、『なまめかしい』ってもう語音だけでエロいよな。 「このお……」 おや、篠の様子が……? 「調子に乗ってんじゃねぇ、この無脊椎動物がぁ!」 激高、憤慨。そして秘密組織よろしく銃機構の仕込まれた杖は、しかし肝心のしょくしゅにではなく味方の方を向いていた。破砕音。壊れるビデオカメラ。 「ついでに言うとビデオ回してんじゃねぇ! なんだ!? そんなモンとってうっかりウチの旦那の目に入ったらどうするんじゃ! あぁ!? …………もう、ねぇ、ヤじゃない。残さないでよ」 いたよね、こういう芸人。 「だから代えのビデオカメラを出すんじゃない!」 マリスは撮影組である。普通、こういうのは少数混ざった男がやるものだと思うのだが、世の中数奇なこともあるものだ。 「桐ちゃんトウトウおんなのこになってしまったのね! お赤飯がひつようね!」 目出度いことなのだろうか。ツッコミの前に疑問が頭をよぎる。 マリスもまた、安全圏組である。自分のプロポーションであれば襲われまい。しかし主目的と主行動は両立させる必要がある。その為、攻撃を行いはするものの、やはりまるで通じる気配はない。 ねちょねちょ。ぬるぬる。仲間が絡め取られ、あられもない姿で耳に毒な声をあげている。なんというか、だんだん、不安になってくる。魅力とか、そういうのだ。尊厳よりも、女としての威厳とかだ。 そして、手元には支給された牛乳が。悪魔の誘い。一口。一気。 「ぷはーうまいんだなこれが」 その瞬間、新たな獲物を発見した触手が節操なしに襲いかかる。 「あ、あ、あ、ダメです! だめですってばあ! きゃっきゃ! くしゅぐったい」 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば参上!」 そういえば、この手の描写を行うのは初めてな気がする。なんというか新鮮なものだ。 「紅き血の織り成す黒鎖の響き。其が奏でし葬送曲。我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」 通称、バッドステータス。健康という状態から真反対にある全てを指して言うそれら。自身で絡めとった相手からの攻撃でのみダメージを受けるという相手。だが、この手法なら。 そう思い、放ったものの効果の程は見ればわかる。それは全く活動に支障をきたしていない。感じる無力感。相反する感情。これに襲われるのは嫌だ。だが、我が身可愛さに正義を放棄するのは魔法少女らしいとは言えないだろう。 飲まないつもりでいた牛乳。しかし、自分への攻撃が無いことを確認するとそれを使うことを決心した。ひとくち、ふたくち。大きくなる。布地が心配だ。 そして、その身を敵に投げ出し。 「いや……やめてよっ」 自身の生業に徹底したライフスタイルを貫くことをプロ根性と呼ぶのなら、すずのそれは明らかにプロフェッショナルと言っていいものだった。 自前で用意した大量の撮影機器。しかしそれは自分で使うのではなく仲間に託している。何故か。明白だ、自分こそが被写体であるのだから。 本物の触手。本物の狐耳っ娘。絡め取られ、あられもない醜態を晒す自分。嗚呼、わかるだろう。資料とせずに入られない。これは絶好のチャンスであるのだ。 絡め取られる。攻撃をしないわけではない。自分にだってミネラルウォーターのカロリーくらいには羞恥心もある。だから抵抗もする。こう、うっかり逃れてしまわない程度に。 声も出す。自分のことながらいやらしい。思わずでたものもあるが、それらしくわざと出したものもある。 もがき、抗い、それでも抜け出せない。ガッチリと絡め取られ、やがてはろくに動けもしなくなっていく。なんと、なんと理想的なシチュエーション。 まさにプロの仕業である。 「個人的には、その、叱られるかもしれないけど、胸って大きくても割と邪魔かなあ、って思うこともあるんだよね」 フィティの世間的ヘイト値が上がる。持つものにも悩みはある。なんていうが、つまりは初期ステータスの違いだ。ここから公平と自由の意味なんてものを自己陶酔的な観点から述べていけば普段のそれであるのだが、今回はテーマが違う。 まあ何を言いたいかというと、消耗品とはいえこのアーティファクトはあくまで貸与ということである。 「ええと」 悲しいことに、フィティは前衛配置である。別段遠距離の攻撃が不得手というわけではないが、今回の敵には通用しない。事前情報からも、それを試した仲間の行動からも明白であった。 「……つまり触手に絡まれるしかない、と」 抵抗よりも攻撃に専念し、八つ裂きにして、説教をして、痛い目にあわせるくらいはやらねばならない。 「幸いこの場には男性は居な……うん、居ないってことにしておいたほうが精神衛生上、楽かな」 さて、これがトリであるというのはなんというか天啓。ではないな、なんかそうしろと言われたような気がしたのだ。 桐は既に牛乳を飲み終わり、想像する限り整った形にバストアップを完成させていた。なんというか、完全体である。 胸を狙ってきた触手を、一生懸命に回避する。しかし足を絡め取られ、身動きを封じられたところを拘束された。 「巨乳って動くのに凄く邪魔なんですが!」 男が得てはいけない体験である。 触手が自分の肌を這う。気持ち悪い。気持ち悪い。肉のそれは無遠慮に自分の体をまさぐっていく。 「そこ、なにじっと撮影してるんですか!!」 仲間は助けてくれない。任務なのだ、仕方がない。仕方がないのだ(強調表現。 身を捩って抵抗しても触手は一層力強く、しかし丁寧に自分の上を這いずりまわる。興奮しているのだろうか。 切り取っても、燃やしても、終わらない。終わらない。それは衣服の中へ。未体験の感触。身体が反射的に跳ねる。漏れた声は、麻薬でも飲んだかのようで。やがて自分は抵抗をやめ以下略。 ●消却と悔恨のコンフラックス …………ふう。 なんやかんやあって倒した。 尊厳とか羞恥とかいろいろと大事なものに癒えない傷を負った気がするが、なんやかんやあって倒したのである。 「お前の触れ方には! 絶望的に! 愛情がないッ!!」 逆説的に惚気である。壁、在庫あります。 「お風呂入りたいですね。触手の粘液でぬるぬるのべとべとなので。えへへ、えっちです」 その発言は非常に危険なので男性の前ではしない方がいい。 「うぅ……恥ずかしい」 ぐちょぐちょの、どろどろ。破かれた衣服は新しいものに変えたものの、この記憶は楽しいものではない。当事者にとっては、であるが。 「雪白さん、グラビア入荷しました」 「消去してくれますよね?」 そして、男性の艶やかな写真動画にご満悦する女とそれに怒気を孕む被写体の男。 …………。 なんだろうな、こう。 思ってたのと、ちょっと違う。 了。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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