●『鍵』 夢の深淵の壮麗きわだかな都の王――クラネスに謁見したリベリスタ一行は、彼の口から彼等が求めた『鍵』に連なる言葉を聞いた。 (やはり……と言うべきでしょうか) セレファイスの王は元はボトムの人間である。例えばラトニャの様を見ても、この世界の端々を見てもディティールは『原典』とは随分違うが、元人間が直接的に神に抗するのは難しかろう。 (鍵は、あのノーデンス……) その表情を一層神妙なものに変えた『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は今一度気が引き締まる想いであった。 何せ相手が王から神へと変わったのだ。 尊い相手という意味では同じだが、強いる緊迫は全く別次元のものになる。 ノーデンスとはクトゥルフ神話の原典において『善神』ともされる偉大な存在の一つである。彼は『恐らくは』あの悪逆めいたラトニャとは全く違う性質の持ち主に違いないのだろうが、果たしてどんな相手であるのかまではリベリスタの断定出来る領域を超えていた。 しかして。 「王の厚意に感謝しよう。我々は進む他は無いのだから」 『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)の言葉は間違う筈も無いリベリスタ達の結論に違いなかった。彼等は伊達や酔狂でこの深淵を覗いた訳では無い。地獄の底まで繋がるかのような長い階段を降り、異世界の旅路を進んだのは偏に運命を覆さんとする反逆の使命を帯びていたからである。 「当然だぜ。偉い神様から『鍵』を貰って帰らないとな」 鷲峰 クロト(BNE004319)は知っている。座して待つのは破滅ばかりである事を。 「相手が相手だからな」 多くの強敵と合間見えてきた『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)の肌は運命の鳴動を見逃すような事は無い。 「うふふ、どんなのが出るのかな。楽しみ!」 『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)の明るい調子は、まるで重く圧し掛かるプレッシャーを笑い飛ばすかのように奔放だった。 「……クラネス王、私達は『神』との謁見を望みます」 『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)の言葉にクラネスは「おお……」と短く感嘆したかのような声を上げた。誰よりも勇気ある夢見る人達は殆どの逡巡も無く前に踏み出す事を選んだのだ。『神』なる存在がどれだけ圧倒的で、どれだけ人間とかけ離れたものであるかをその身を以って知りながら。 「……懐かしい世界の夢見る人達よ。ならば、私は君達の決断を受け入れよう」 クラネスによればこの世界の地底奥深くに広がる『偉大なる深淵』にかの大帝は君臨しているらしい。この都よりその場所に到るには人の時間の尺度では少し難しい隔たりがあると言う。 「それなら――チコ達はどうしたらいいのだ?」 『きゅうけつおやさい』チコーリア・プンタレッラ(BNE004832)の問いは至極尤もなものだった。これまでの話からクラネスがその困難を埋める何らかの方法を有しているのは確実であると言えるだろう。アシュレイが彼を『鍵』に到る道に指定した理由はそこにある。 「かの方はこの世界を守護する存在でもある。 私はこの都の王として、かの方にお目通りを願う術を持っているのだ。 ……もし、君達が『同郷』でなかったとするならば。 私はこの話に聞く耳を持たなかったかも知れない。だが……」 「ありがとうございます!」 「……いや、礼を言う必要はない。懐かしい場所は私の故郷でもある」 あくまで真っ直ぐな『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)にクラネスは何とも眩しそうな顔をした。クラネス自身もこの謁見には少なからぬ緊張を得ている様子が伺えた。恐らくはその緊張を解す効果はあったのだろう。 「……此方へ」 リベリスタ達はクラネスの導きで奥の間へと通される。 実に不可思議めいた紋様の多数重なる、魔術めいた空間である。 部屋の中央には底の見えない泉が存在しており、その周りには水晶にも似た何か透き通る鉱物の突起が突きだしていた。 クラネスが口の中で何かを呟くと泉の水面が奇妙に反響した。やがて神に到るその厳かなる時間を汚したのは――突如鼓膜を揺らした何とも物騒な金切り声であった。 「……シャンタク鳥だ!」 悲鳴めいたクラネスの声にリベリスタ達は、はっとした。 この世界にもラトニャの影響が存在するのは分かっていた。成る程、彼女それそのものがここに居るかどうかは別にして――何らかの妨害があるのは彼等の中でもある意味覚悟していた事実である。 「……ノーデンスとの謁見にあんな存在を交える訳にはいかない!」 「うむ、それは道理だな」 自身の顔を見たクラネスに『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)が頷いた。 不埒な鳥に謁見を邪魔されるのも心外だが、それでかの大帝が機嫌を損ねても大いに困る。ならば、リベリスタの為すべきは二つ。 一つは謁見を成功し、『鍵』を持ち帰る事。 もう一つはそれまで鳥風情に邪魔をさせない事である。 「ま、中々盛り上げてくれるのう」 紅涙・真珠郎(BNE004921)は一つ嘆息していよいよ宮殿内に侵入し、この場所に接近してきた鳥の鳴き声に眉を顰めた。 「しかし、品の無い鳴き声は雑音じゃ」 ――嗚呼、雑音は止めるに限る、と言わんばかりであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月16日(月)23:22 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●分水嶺 人生は選択の連続だ。 運命は望む望まぬに関わらず選び取られた瞬間の連続によって織り成されるものである。 多くのケースで人間は『その瞬間』を自覚する。己のその先行きを決める――時に圧倒的で、時に残酷な現実の前で歯を食いしばり、より良い結果をその手に掴まんと足掻き続けるものだ。 ――神ならぬ人に未来は決して予見し切れる事は無かったとしても。少なくとも『後悔せぬ為に』五里霧中の夢の中をこの場所まで泳いで来た都合十一人ばかりの戦士達の怖れる所にはならなかっただろう。 「我々相手に攻めてくる――そのモノつまり、当を得ているという事に他なるまい」 俄かに騒がしさを増した光の都の王宮に険しい顔をした『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)の声が響く。 「即ち、そう……進む他は無いという事だ」 『塔の魔女』の導きを受けて異世界を訪れた彼等十一人のリベリスタ達の旅路は奇妙に満ちたものになっていた。恐らくは――ボトム・チャンネルで『ドリームランド』とも称されるこの地は未知の危険と、大いなる希望、そして少しばかりの奇妙とユーモアを秘めた不可思議な領域である。何れも一線級と言っても良いリベリスタ達だが、物見遊山でこんな場所を訪れる事は無い。つまる所、ここを訪れなくてはならなかった理由こそ今、雷慈慟の口にした『騒ぎの元凶』の存在であるのだが…… 「偉大なノーデンスの不興を買う訳にはゆかぬのだ」 元より。些かばかり不安気な声色で零したクラネスにリベリスタ達は力強い首肯を返した。 現在進行形で宮殿を襲撃している巨大鳥達はラトニャの尖兵とされる『シャンタク鳥』である。クラネスの口にしたその呼び名を聞かぬまでも分かる『伝説通りの怪物』は、偶然にこの場を襲撃した訳ではないだろう。 「うふふ、漸く暇神が手を回してきたって訳ね!」 事態の加速さえも歓迎している、と言わんばかりなのである。むしろ嬉々とするかのように――『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)の薄い唇は形の良い三日月を作り出していた。 「配下を送り込んで来たという事は…… やはり、私達の動きは捕捉されているようですね。何処かで視ているか、或いは――」 「どうせなら本人か化身と戦いたかったけど。このまま鍵を貰って終わりじゃ物足りないし――」 「――何れにしても、篤志の王の宮殿を悪神の使いに荒らさせる訳にもいきません」 冷静な分析を口にした『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)に応えた華美にして苛烈な宵咲の少女(あかり)と、大振りの斧を肩に担ぐようにした甲冑姿のレディ――『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)に『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)が力強く頷いた。 「ラトニャんには悪いですが、謁見を邪魔させるわけにはいきません。 シャンタク鳥にはせいぜいわれわれと遊んでいてもらいましょう」 「ええ――止めるしか、ありませんわね」 「うむ、とにかく謁見後の何か兆候があるまで戦い抗うのみです。 全員死ぬか全員生き残るか……元より興味はそこだけです」 はるばるリベリスタ達をこんな場所までやって来させた事情と、執拗に耳障りな金切り声にも似た咆哮に眉を顰めた淑子の表情、そして麗香の些か過激なるその一言が物語る通り。敵は決して生易しい存在では有り得なかった。ボトム・チャンネルに現れる神秘的災厄を人知れず払うのがリベリスタ達の勤めであると言うならば、その中でも最悪の一つと言えるだろう。無貌の神(ラトニャ・ル・テップ)なる畏怖の名を『神話』の中に轟かせる『彼女』は彼等をしてもそう何度も御目に掛かった事は無い最悪(ミラーミス)なのだから。 彼等がこのドリームランドに求めたのは凡そまともな手段で対抗する事叶わぬ最凶最悪の敵(ラトニャ)を打倒・阻止せんが為である。彼女の大目的は未だに不明のままだが対抗策を持ち得ぬままに決戦の時を迎える事がもたらす破滅的終局は自ずと知れていたからだ。 「この謁見の成否でラトニャとまともに戦えるかが決まるんだな。 ……案外、神様も見てるかも知れねーから一層頑張んないと、な!」 運命は戦わぬ者に靡かない。気まぐれな女神はコロッセオの中心に仁王立つ勇者に微笑みかけるもの。 鷲峰 クロト(BNE004319)の言葉はラトニャと至近距離でやりあっただけに実感が篭っていた。 首尾良く夢の中を泳いできたリベリスタ達が手掛かりのクラネスから善神ノーデンスの名前を引き出したのはつい先程の出来事である。かの大帝との謁見への協力をリベリスタ達に約束したクラネスに報いる為に――何より今回の困難をアークが、リベリスタ達が越える為にも今更ラトニャの邪魔を許す訳にはいかないというのは全員の共通の気持ちだった。 (神と謁見する――緊張で足が震える。だけれども勇気をもってなさねばならない。 ボクはその覚悟をもって、この場に来た……!) 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の瞳が強い意志に煌いていた。 『オルクス・パラスト』からの援軍である『格上殺し』セアド・ローエンヴァイス (nBNE000027)も含めた十一人の双肩には重い責任が圧し掛かっているのだ。これから――恐らくは数十分に満たない時間の中で起き得る全ての状況、全ての局面、全ての選択は彼等のみならぬ全人類に希望か絶望を投げかけるものになる。 脳裏にフラッシュバックするのは己を守って舞台から退場した誰かの笑顔。 何時如何なる時も己を慈しんでくれる義父、そして兄―― 出来るか、己に。だが、やり遂げぬ訳にはゆかぬ―― 「……っ……」 雷音は己が身の内に競り上がる、瘧のような感覚に密かに小さく頭を振る。 彼女はその些細な反応を誰にも気取らせない心算ではあったのだが―― 「此方は私と朱鷺島君で任された。君達ならばきっと大丈夫と思うが、くれぐれも気をつけて」 ――そんな雷音の頭に軽く手を置き、似合わない台詞を吐いた『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)だけは少女の心の中を駆け巡ったそのささやかな波紋に何処となく勘付いていたのかも知れない。 「戦えないのはひどく残念だが……神なる者の威容、目の当たりに出来ると思えばこの上無く幸福だ」 相手が神(ミラーミス)である以上、如何なる性質の持ち主であろうともそこに不安は禁じ得ない。しかして朔は敢えて普段通りの価値観を披露する事で『世界の命運を背負う瞬間』さえ矮小化してみせたのである。ある種逸脱している『蜂須賀朔』である彼女はその台詞を素面でも言える人間ではあるのだが、今のは少しわざとらしいものである。つまる所、彼女は雷音に――今は亡き、交流さえ碌にしていなかった妹の親友に。こう言ってやりたかったのかも知れなかった。「私も、居るから」。 パーティはこの僅かな時間にその戦力を神との謁見に臨む雷音、朔とシャンタク鳥を止める残りの九人に分けていた。これは殆ど咄嗟の判断だが、分業は至極妥当な作戦と言えるだろう。 「大丈夫なのだ。大事な謁見を邪魔させたりしないのだ。 シャンタク鳥たちを『王の間』に入れないつもりで戦うのだ!」 迎撃役になる『きゅうけつおやさい』チコーリア・プンタレッラ(BNE004832)が気合を入れる。リベリスタ側が謁見の場所――『深淵の泉』を目指すシャンタク鳥を止める迎撃ポイントは『門』、『回廊』、『王の間』の三箇所である。その内の『回廊』での守備を請け負う彼女は最終防衛ラインになる『王の間』にも近付けぬと実に意気軒昂に頼もしい。 「ほう、我に仕事を残さぬか。尤も、残らぬ程度の仕事ならば喰らう価値もあるまいが」 そんなチコーリアを薄笑みさえ浮かべて眺めるのは紅涙・真珠郎(BNE004921)である。 「さて、どれ程のものかは知れんが。そろそろ時間も一杯か」 真珠郎がそう零した時、既にパーティはそれぞれの役割の確認を終えていた。 宮殿の騒ぎはいよいよその猶予を失いつつある。どの目が出るにしろ、それはリベリスタ次第なのだ。 「我々は相手が何であろうと、誰であろうと。結果として崩界を食い止めるべく行動を起こしている。 我々は起き上がった撃鉄だ。我々は赤々と燃ゆる意志の炎に他ならない。 今、目の前にある敵が、例え神の使いであろうと――例え神そのモノであろうと。 我々は戦わねばならない。我々は障害を粉砕し、勝利するだけだ」 何処か詩歌めいた雷慈慟の宣誓は勇者達を――その戦意を解き放つ! 「――我々は、我々の『正義』の為に!」 間を置かず、扉を破壊し、シャンタク鳥達が飛来した。 霜と硝石にまみれた翼とたてがみの生えた馬のような頭部を持ち、象よりも大きなその体は俄かに『鳥』と聞いても信じ難い、まさに異形そのものである。この宮殿が十分なスペースを持たない場所ならば、その体を持て余した位なのかも知れないが、良くも悪くもこの場所は戦うに十分過ぎる。 『王の間』で迎撃体制を作り出す迎撃班の一方ですかさず朔と雷音がクラネスを守るように『深淵の泉』への扉を潜った。 魂を凍り付かせるかのような咆哮が彼女達の背中を追いかける。 当然と言うべきか、各々に得物を構えたリベリスタ達はそれ等の思惑を挫きにかかる。 (お父様、お母様。どうかあなた方の愛した世界をまもって) 一瞬だけ瞑目した淑子に応える声は当然無い。だが、彼女にはそれで十分だった。 「さあ、はじめましょう。扉ひとつ護れずして、世界なんて変えられないわ。 わたしはこんな所で世界を失うわけにはいかないの――!」 朗々と響いた淑子の声は誇り高いリベリスタ達の矜持そのもの。 攻防戦はまさに今――その火蓋を切って落とさんとしていたのである! ●宮殿攻防戦 「背泉の陣とは……聞いた事もないが 内容はそう変わる事でもないな」 「ええ。覚悟を決めて――迎え撃ちましょう」 雷慈慟が小さく零し、ファウナがそれに応える。 「ぞろぞろ迎えを寄越して。どんだけ寂しがり屋さんなんじゃ。 どうせ『見て』おるんじゃろ。案ずるな。ラトニャ・ル・テップ。 神との邂逅など我には余興よ。如何転ぼうがヌシを穿つは神の力ではなく我ら紅涙の牙よ!」 世界広しと言えども、『アレ』を捕まえて寂しがり屋等と表現する人間は多くはあるまい。 獰猛な獣(スキュラ)のように目前の『鶏肉』に喰らいつく女――真珠郎はおぞましくも美しい。 「馬肉ども。帰って主に伝えよ。大鎌寄越せと!」 何処まで本気か、呪いと絶望を塗り固めたかのようなラトニャの得物にラブ・コールを送った彼女は、自身の全速力を緩める事は無く、複数の残影を揺らめかせるその二刀の冴えをもってこの戦いの号砲とした。 「力と奪うモノ。与えられるモノでは無くの。 そうでなければ意味がない。そうでなければ甲斐がない。尤も貰えるモンは貰うが!」 「さぁ、かかってきなよ――耳障りな下級奉仕種族共!」 殆ど間髪入れず、真珠郎の速力にも負けじと折れた黒剣を敵に向けるのは、鮮やかな白い翼を敵を威嚇するように広げた灯璃であった。 燃え盛る炎のような橙色の眼に鮮やかな銀色の髪、陶器のような白い肌。見事な翼を備えたならば、その姿から連想するのは単純に天使(アンジェ)に他なるまい。 さりとて、嗜虐。天使のピンク色の舌が薄い唇を舐めたなら、それは嗜虐以外の何者さえも思わせない。 黒と赤を基調にした衣装に身を包む彼女から発せられる気配は慈愛とはまるで逆を行く。 敵側――シャンタク鳥達の総数はかなり多いと見られている。先んじて宮殿に侵入した『第一波』たる彼等は状況からこの『王の間』で迎え撃つ他は無い。しかして、ノーデンスとの謁見の場となる『深淵の泉』に続くこの王の間は防衛側からすれば最終防衛ライン。余り敵を長居させたくない場所なのは言うまでも無いだろう。 前に出た灯璃は自身の後背の扉に注意を向けかけたシャンタク鳥を挑発するかのように凄絶に笑み、この動きを阻みにかかっている。状況柄素早い、全力の対処が望まれると判断した少女はこの期に出し惜しみ等を考えていない。 「その首落として、血抜きして――生皮剥ぎ取って、殺してあげる!」 可憐なその美貌からは想像もつかぬ冷たく熱い矛盾の殺意を両手の得物に忍ばせて。 敵が反応するよりも疾く、灯璃の刃は呪いを紡ぐ。 ――――ェェェェェイァ――! 人間なる者には正確に発音する事も、聞き取る事も出来ぬ絶叫が王の間を揺らした。 舌を打った少女は全力の一撃の手応えが確殺に遠く及ばない事をこの瞬間に察知している。さりとて、彼女が紡ぎ出した極上の呪いは傷付いたそれを執拗に蝕んでいく。 「負けてられねーな!」 ニッと笑ったクロトが言った。 前の二人とは随分毛色は違うが、彼もここにかける戦意は強い。 「今日の俺の目標、王の間で殿勤める二人の仕事を奪う事と大旦那(セアド)と鳥撃破数で勝つっ!」 「私か」と軽く笑ったセアドに「お先に!」と先んじてクロトが仕掛けた。 ドリームランドでクロトが見たセアドの戦い振りは成る程、高い名声を持つ男だけあって中々のものだった。重厚にして気安い彼は如何にも一流の戦士めいていて――尊敬を向けるにも十分だが、逆に負けてなるものかと思う所も大きくなる。 「行くぜっ!」 裂帛の気合と共に繰り出されたフェザーナイフでの二閃が次のシャンタク鳥を氷結の檻に閉じ込めた。 戦いは恐らく長丁場。まず前衛に求められるのを『食い止める事』と承った彼はちらりと視線を仲間に送る。 「一気に――薙ぎ払います」 敵の数が多いこの局面に魔弓を構えたファウナの結論は的確だった。 王の間に雪崩れ込む敵を押し返すタイミングが遅れれば遅れる程に事態は逼迫する。総数不明――故に無数と表現するシャンタク鳥の増援達は今この瞬間にも宮殿の門へと雪崩れ込んでいるだろう。状況を好転させるには、王の間から敵を追い払い、防御ポイントを前に進める事が重要だった。 『回廊』まで敵を押し戻せば、深淵の泉(くびすじ)に突き付けられる匕首の冷たさも少しは薄れよう。 魔弓の弦を引き絞り、より純化した力のイメージを解放する。ファウナより放たれた無数の火弾が灯璃の、或いはクロトの縫い止めた者も含めてシャンタク鳥達を扉側に押し戻した。 「今です!」 ファウナの一声に応えるように。 突き刺さる火弾の弾幕を縫うように、意志を持った黒鎖が間合いを踊る。 その『黒蛇』の繰り手こそ、手にした杖で敵達を指し示すチコーリア・プンタレッラその人であった。 「先に進ませる訳にはいかないのだね」 少女の言葉は少女らしからず、確信と決意に満ちたものである。 練達の魔道の極み、その一つともされる葬操の調べをこのタイミングで解き放つ事が出来たのは、全く彼女の集中力を裏打ちするものになっただろうか。 「――はっ!」 ほぼ同時に。魔力を帯びたその剣の切っ先より放たれた『飛翔する斬撃』が硬直したシャンタク鳥の首を刎ねた。 「ほんとリベリスタは試されていますね…… この程度の苦難に折れる行動力や決断力ではラトニャんの退屈を紛らわす事もできませんからね」 得物を抜き放ったその姿勢のまま、叫び声を上げる敵を睥睨した麗香はこの時間の始まりが、唯の始まりにしか過ぎない事を確信しているかのようだった。 果たして、先制攻撃に大いに痛めつけられた使徒達もやられているばかりでは無い。 高い敏捷性を生かした彼等は飛び上がり、或いは距離を詰め。攻撃の直撃にも容易く堕ちぬそのタフネスを武器にリベリスタ達に猛然と襲い掛かって来るのである。 「……っく……!」 ナイフのように鋭く硬いかぎ爪の一撃を手にした戦斧で受けた――淑子の表情が僅かに歪む。 英霊の魂を戦場に降ろし、幻想の闘衣に身を包む彼女には、シャンタク鳥の繰る幻惑の声も届かない。堅牢な防御で次々と攻撃を繰り出す敵達を引き付ける彼女は人なる身で砦の如く立ち塞がり敵を食い止めている。 敢えてその身を敵の目前に晒す事でシャンタク鳥達の進撃を止めたリベリスタ達はそれぞれが防御の姿勢へと移りつつあった。真珠郎は跳躍して敵をかわし、灯璃はからかうようにこれを翻弄する。 無論、攻撃に続き防御を下支えするのは、 「――互いのフォローで死角を作るな。これは想定内に過ぎない」 今回の作戦でも作戦の中心、司令塔としてチームを操る雷慈慟(コンダクター)である事は言うまでも無い。 (しかし、敵の戦力を少し上方修正せねば。思ったよりはやってくれそうだ……!) エネミースキャンによる敵能力の解析を試みた麗香の声を受けた雷慈慟は「問題ない」と頷くも、内心ではやや臍を噛んだ。これまでの緒戦の展開が示す通り、純戦闘力において今回のメンバーが敵に劣る事は無い。しかして、状況が長く続くならばそれは約束された話ではない。ましてやリベリスタ側に守らなければならぬ『深淵の泉(なきどころ)』があるならば、作戦展開の選択肢は狭められざるを得なくなろう。 「この程度――!」 「うむ、跳ね返すとしよう」 凛と声を張り、敵の怪力と巨体を跳ね返した淑子に「意気や良し」とセアドが笑った。 自慢の防御能力で特に多く敵を引き付けた彼女をそれとなくフォローした彼はその負担の幾らかを自分に向けた。彼自身もアークのリベリスタ達と同様に己が身を盾とする身の上ではあるのだが。 「ふんッ!」 魔剣の一薙ぎが集る鳥共の肉を裂き、骨を砕いた。 この動きに呼応した淑子の重い打ち下ろしがセアドを狙ったシャンタク鳥の一羽を真っ二つに叩き割る。 「御助力を感謝します」 「いや、此方が危なかった位だ。助かった」 短い言葉をかわし、フロントで躍動する前衛達はここまで一分の緩みさえ見せていない。 だが、これは仕事の第一歩に過ぎない。彼等に求められるのは『会談が終わるまで謁見の場所を守る事』。 ここまでの戦いを経て――仕事が簡単だと思えるリベリスタは居なかった。そう、一人も。 「回廊まで押し込みましょう。作戦通りに……!」 ファウナの声に仲間達は頷いた。敵の進軍が早ければこの場で迎え撃つのも一つだが、現段階ではまず回廊を抑えるのが彼等のプランだ。その後はそうなってから考えればいい事なのだ! ●ノーデンス 気をつけたまえ。 君が深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。 ――フリードリヒ・ニーチェ 暗闇と地底の星の煌きに包まれた幻想的な光景を、恐らく二人は生涯忘れ得まい。 『深淵の泉』と称されたその場所を覗き込んだ時、朔と雷音は、これまでの人生で感じた事の無い超越的な衝撃を受けた。まるで天地無用の世界が引っ繰り返るかのような『錯覚』はそれが本当に錯覚だったかどうかを約束していない。酷く現実感を喪失した二人の目の前には気付けば大いなる意志が在った。それが何かを胡乱とした意識で即座に理解するのは不可能だったが、二人はそれを分かってしまった。 恐らくは己の理解の及ばないその存在を古代より人間は神と定義してきたのだろうと。 「……は、はじめまして。突然の謁見を、ありがとうございます……」 音は通常空気を震わせて生じるものである。 だが、緊張を隠せぬ『声』で言った雷音はそれが声になっているのかどうかが良く分からなかった。 目の前の『何か』――恐らくはノーデンス――と意志を疎通出来る状態になっているのは多分間違いないのだが。 「我々は遠い世界より、この地にやってきた人間だ。我々は、今危機に瀕している。 否が応無く我々に選択を迫るそれを、私達の世界では『ラトニャ・ル・テップ』と呼んでいる」 一つ息をした『心算になった』朔は雷音に比すれば澱み無く、己が目的を告げた。 目の前の空間に広がる圧倒的な存在感は口々に言葉を投げた二人に応えるようにやがて人型の像を結んだ。 二人の認識の中に現れたのは白い髭の印象的な何とも威厳ある一人の老人の姿であった。 「ノーデンス様ですか」 ――そう呼ぶ者も在る。 夢を彷徨う人の子よ。主等はこの一時に何を望む? 老人の答え、問い掛けは至極単純なものであった。 先の朔の言葉より察するならば『絶望に抗う力を』との答えは容易く導かれるものになろう。 しかして神は静けさを崩す事は無く『当然の答え』をリベリスタ達の言葉に求めていた。 「……幾つか、教えて欲しいのだ、です」 言葉を慎重に選んだ雷音が言った。 老人からは敵意や害意は感じられなかったが――出方はまだ全く分からない。 何より彼がそこに『在る』だけで感覚を痺れさせるようなプレッシャーが否めないのは事実であった。恐らくは自身も制御する事は出来ないその神性は相手の立ち位置を分かり易く告げる証左になろう。 ――問うが良い…… 鷹揚なるその承諾を受けた雷音と朔がそれぞれに意志を通わせた。 雷音は意を決めて己の最初の疑問を神にぶつける事にした。 「まず一つ知りたいのは…… 夜魔をボクらに遣わせ直ちに去れと言ったにもかかわらず、夢の国に入った時点で追撃がなくなった理由です。あれはボク等を試すものだったのか、気になっているのです」 ――アレ等は夢の番人のようなものだ。悠久を乱す者を排除する命を帯びている。 覚醒と深淵の狭間を超え、深く深く堕ちたならば、そなた等もこの世界の住人足り得よう。 神の回答は実に端的なものだった。 首を捻った雷音はその言葉の真意を完全に捉えているかどうかは自信が無かったが、恐らくという事で言うならば、『門番は最初から与えられていた仕事を果たしたに過ぎない』という事だろうか。階段を降りる事を彼は『深く堕ちる』と表現した。つまりそれは眠りの世界に誘われたという事なのだろうか。 「貴方やラトニャについて……聞きたいです。 貴方やラトニャはどういう存在なのか、そしてその関係はどんなものであるのかを」 ――我々はそなた等が『ミラーミス』と呼ぶ柱の一である。 我々の世界は薄皮一枚を隔てて無数に広がっている。そなた等の世界よりも余程近しく。 無貌の世界も、門の神のそれも。外界と呼称される一つの屋敷の中、その小部屋の如く連なっている。 階層を織り成す世の理の中でも、酷く例外的に。膨大に。 無貌は同じ柱であり、敵である。争う必要は無いが、争わぬという事も無かろう。 (……ラトニャもノーデンスも一つの世界の主という事か?) 朔は言葉から考察を進める。ノーデンスの言葉からは彼等の世界が階層という縦に連なるものであるというより、横に並ぶものであるというイメージを伝えてきている。『ラトニャやノーデンスの在る世界という階層』は無数に分かたれている(そしてそれぞれが神として君臨している)と考えれば良いのだろうと考えた。 この膝元にラトニャ本体が来なかった理由も大体知れた。藪を突いて蛇を出す事は避けたといった所だろう。 「我々の望みはラトニャ――ニャルラトテップの撃破。ボトムに対する影響の排除だ」 雷音の後を受けて意志を伝えた朔の言葉は直刃のように鋭いものであった。これまでのやり取りから余り面倒な腹の探り合いをする必要はないと判断してのものである。 「基本的には討滅を目標とするが、君からのオーダーがあれば可能な限り聞いておくがどうか」 ――そなた等が其を滅ぼす事は不可能だ。 余りにもきっぱりとした回答に朔は鳩が鳴くような笑い声を上げていた。 「単純明快な回答を感謝する」 世の大半の事例を見れば分かる通り、神様なる存在は余り親切では有り得ない。故に恐らくは『今の問い方』が悪かったのだろうと納得する。 彼女に言わせれば『神の加護』なるものは此の世に必要不可欠なものではない。無論、無貌の神を甘く見ての話ではない。それがどれ程強大な存在であるかは良く知っている。だが、彼女は蜂須賀だからだ。 要するに。『神様のお墨付きで無理だと言われれば、余計燃えてくるではないか』。 「後を頼む」 余り交渉――と呼んでいいかは知れないが――に出しゃばる気が無い朔は場を雷音に譲った。 「ニャルラトホテプがボクらの住むボトムに『神(ミラーミス)』として尖兵を送り込んでいます。 ボク達はボク達の世界を守る為に……彼女に対抗する力が欲しいのです」 『撃破』が不可能ならば『対抗』ならばどうか。 果たして神の重厚なる声が新たに一つの答えを返す。 ――二つ、手段は存在するが、達成は約束されまい。 ほぼ想像通りの言葉に緊張が高まる。 ノーデンスが力を渡す事を渋っているのか、それが成算の低い方法だからなのかは微妙だが。 「ボクは覚悟を決めて神である貴方に願いにきました。 ちっぽけな取るに足らないボクにできることは祈ることだけです。 力をいただける代償にボクはどうなってもかまいません。だから、ボクらの世界を害する者への嚆矢となる力をください」 「……」 雷音の言葉に朔の表情が曇る。 無いとは思うが、ノーデンスがもし彼女の身をどうにかしようとするならば……見過ごせない。 確かに雷音自身が望んだ言葉ではあるが、それを許せば冥府涅槃で妹に何を言われるか分からない。 ――我が与えるのは夢想に過ぎぬ。叶わぬ夢、もし叶うならばそれは夢では有り得まい。 無貌を討滅する事、我にも叶わず。我、討滅する事も又無貌にも叶わぬ。 されど、無貌を瞬きの一時抑え込むその術をそなた等に授ける事は不可能ではない。 「――!」 二人のリベリスタの目の前に『力のイメージ』が浮遊している。 ボトム・チャンネルでは『アーティファクト』と呼ばれるそれは余りに圧倒的だった。 ――一つ。そなた等が、人なる身の扱う力では無い。人は人為らざる力を扱うに能わぬ。 そなた等がこの力を開く時、そなた等は代償を知る事になるだろう。 そなた等が無貌を抑えられるかどうかも、我に約束出来る事では無い。 「……つまり、ボク達次第……」 使いこなせるか、使うかどうかも。 ――然り。二つ、無貌には天敵が在る。 そなた等の世界に『星辰』が近付いている。幸運か、それとも不運か。 そなた等の世界にこの程火の神は縁を結んだ。時を失わなければ、その力も助けになろう。 だが、忘れるな。炎は利器と表裏の破滅を生む。其は必ず御せるものではない。 無貌の為さぬ破滅さえ、火は持ち得ているのだから。 ※※※※※※…… 二人の頭の中に伝わってくる言葉は人間に発音の難しい『呪文』である。 詳細は分からないが、リベリスタ達が本部に届けるべきはこれ等情報である。 全ては迫り来る破滅を回避する為に。まだ未来は無明のままなれど、一筋の光は確かにそこに差していた。 ――勇敢なる夢見人よ。ゆめ忘れるな。全ては表裏。 そなた等がこれより現に浮こうと思うなら、我はもう一つだけ助けになろう。 「……それは?」 朔の言葉にノーデンスは短い返事を返した。 ――永き時さえ浮上の侭に戻るだろう。現と夢に同じ時間は流れない。 ●覚醒へ 作戦を立案する上で時に思い切りというものは重要に働く事もある。 広く浅く状況をカバーする事も大切だが、戦力の分散を避け、集中的に運用するのも一つの考え方。 この宮殿において迫るシャンタク鳥を迎撃する為に使えそうな主なポイントは、先述の通り『門』、『回廊』、そして最終防衛線である『王の間』の三箇所ではあったが――パーティは一瞬咄嗟の判断でこの選択肢を二つまでに狭める事を決定していた。 つまる所、迎撃に残ったリベリスタ達は門での防御を捨て主戦力を回廊に。 最終的防衛線である王の間に真珠郎と灯璃を残すという思い切った戦術を取ったのである。 「ラトニャの属性は『土』らしいのだ」 つまる所―― 「『土』には『火』!」 チコーリアの紡いだ呪力が回廊に炎の舌を生む。 複数のシャンタク鳥は火炎魔術(フレアバースト)の熱量に炙られて不気味な悲鳴を撒き散らしている。 回廊での戦いは激しいものになっていた。 先行きの全く分からない長い戦いは、時間感覚が麻痺する位に続いていた。 「持ち堪えろ――もう少しだ!」 何が『もう少し』なのか、論理的な回答は声を発した雷慈慟さえ持ち合わせていなかった。 答えは何処にも無いが、信じていない訳ではない。謁見に赴いた仲間がきっと上手くやると確信していた。 「まだまだっ――」 鋭く気を吐いた淑子は数と勢いを増す敵の威圧にも怯む事は無い。 絶望めいた異形のその姿より放たれる破滅の誘惑さえ、彼女の光が打ち払う。 シャンタク鳥の背に乗れば――その先に希望は無いが、そんな事は浅雛淑子が許さない! 「力量の差があるからって……大旦那にばっか美味しいとこを持ってかれる訳にはいかねーな」 「競争故にな」 嘯くクロトにセアドは機嫌良く頷いた。 「ああ、負けてらんねーぜ!」 「――此処まで来ました。あと少しで手が届く所まで来たのです。邪魔など、させません!」 凛と言い放ったファウナが幾度目か力を尽くしてパーティの体力気力を蘇らせた。 空中戦に対応する為、翼の加護をもパーティに与えた彼女は、雷慈慟の指揮回復と併せて要の役割を負っていた。 (まだまだ、これから。もう少し、もう少しで……きっと……!) 長い髪がぬるい風に吹かれて舞い上がる。 迷いの無い瞳はこの先にきっと待つ――夜の後の朝を確信しているかのようだった。 「セアド様――援護致します故、どうか存分に暴れてくださいませ!」 「恩に着る! 今、撃墜数(スコア)で彼(クロト)に追い上げられている故にな!」 「これから抜く所だぜ!」 「おおおおおお……!」 死力を振り絞る眩しい若者の背を目を細めて見たセアドは自身も吠え、新たなる敵に斬りかかる。 個人戦重視なるイメージの彼は、しかして全体のバランスを見る事にも長けていた。年長の自負もあるだろう、自身の妻の為(という訳でもないのだが)に命を賭けるリベリスタ達に思う所があるのかも知れない。雷慈慟より生じる見事な連携、司令に応え、パーティの持久戦を支える重要なピースでもあった。 「アザの宅急便とでもいいますか。おそらく足が止まる状態はヤバいという訳で」 司令塔の雷慈慟を捕まえかかったシャンタク鳥を麗香の一撃が見事に阻んだ。 「全く面妖な連中だ」 雷慈慟の放った衝撃波が間合いを侵した敵を指向性の圧力で吹き飛ばす。 乱戦めいた状態に無傷のものはいない。重い消耗はいよいよ隠し切れなくなっている。 だが、それでも一丸で敵にぶつかるパーティは未だ崩されぬ壁として敵の行く手を阻んでいた。 「とにかく謁見後の何か兆候があるまで戦い抗うのみです。興味があるじゃないですか」 惚ける麗香の本音は知れぬ。しかし、遮蔽を利用し敵を上手くいなす彼女の動きは落ちていない。 そして、激闘を続けるのは王の間で最後の防波堤となる灯璃と真珠郎も同じだった。 「此処から先は行き止まり、行きたきゃその首置いてきな!」 Mike, Mike, where's your head? Even without it, you're not dead! 泣き喚くシャンタク鳥に断末魔を刻みつける灯璃はペンキのような返り血を浴びながら高く笑った。 「人の言葉は完全に理解出来るんでしょ? キミ達の首、ノーデンスに捧げてあげるね!」 「神とあっては神を喰い。魔とあったならば魔を喰らう。 舐めるな。この程度で我が飽食するものか。全て喰らいつくしてくれる――」 灯璃と真珠郎のコンビは何処か似ている。 同じスピード型のテクニシャンという事もあり、その見事な連携は極めて高い殺傷力で回廊の討ち漏らしを片付け続けていた。リベリスタ側が抑えの戦力にこの二人を置いたのは高いスタンドアローンでの能力を有しているからだろう。期待に応える彼女等は肩で息をしながらも、背にした『深淵の泉』を守り通していた。 「……まだいけるかえ?」 「勿論!」 「ま、そりゃそうじゃ。こんな『前菜』」 得物についた極彩色の血を払い、真珠郎は獰猛に笑った。 次から次へと襲い来る新手は暇を二人に感じさせてはいない。 しかし、それで満足かどうかと問われれば別物だ。 「ああ、喰らいたいのぅ!」 真珠郎の一声が発されたのと彼女を含めたリベリスタ全員を浮遊感が包んだのはほぼ同時の出来事だった。 「なあに、もうお目覚めの時間なの?」 傷付きながらもそれを思わせない灯璃に「そのようじゃ」と真珠郎が答えを返した。 意識が遠のく。だが、不思議と不安は無い。 ぐんぐんと覚醒していくリベリスタ達にシャンタク鳥達は手を出せない。 そこにある神性を前にしては、ラトニャの使徒如きに出来る事は無いからだ。 リベリスタ達は夢より現に還り行く。その手に、希望と呼べるかも知れない唯の『可能性』だけを携えて。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|