● 白黒まだら。 ふさふさのしっぽ。 かわいい鼻面。 つぶらな瞳。 もふもふ、もふもふ。 おしりぴょこん。おしっぽふりふり。 ● 「スカンクの警戒行動。来る。すごい臭いが」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)、倒置法である。 「ちなみに、普通のスカンクでも半径1~2キロメートルまで届き、体についたら取れない。服も廃棄するしかない。ちなみに分泌液が目に入ったら、一時的に失明」 何、そのひどい動物。 「ちなみにアザーバイド。識別名「ベリベリ」大きさは、普通のスカンクと同じくらい。大体50センチくらい」 モニターに出るスカンクもどきは、ふかふかもふもふ。 抱っこしたら、至高の抱きごこちっぽい。 「今回の任務は、懐柔。このスカンク、好物はベリー類」 この世界に来て、農園でもぐもぐしたらしい。 運命の出会い。 「みんなには、D・ホールを発見し、現地で餌付け。仲良くなって、抱っこして、D・ホールにポーン! と、してきて。大丈夫。普段は全然におわない」 うわ~。なんか簡単に聞こえる。 「警告行動されたら即逃げて。もし、万が一のことがあったら……」 気の毒そうに言う。 すっごく臭くなるんだ。そんで取れなくなるんだ。 イヴは何にも言わないけれど、言いたいことはよく分かる気がする。 「しばらく、三高平に帰ってこないほうが良いかも。変なあだなつけられるかもしれないし……」 そのときは、有給つけとく。と、イヴは言った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月06日(金)22:34 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 黒なのに、どこか赤っぽい気配がする大きな目がこちらを見ている。 ふかふかとした白と黒の毛並み。 すてきなボリュームのお尻尾がゆよんゆよんと揺れている。 揃えられた前足。 ぴこんと立てられたおしり。 白黒は警戒色。 それ以上近づいたら、ぶっ放しちゃうんだからねっ! 超ヤバイ。 リベリスタさん達は、じりりっと後ろに下がって、脱兎のごとく戦略的撤退をした。 キュートさもさることながら、このお尻を下げてもらえねばこれから五日間は市外でエンガチョだ。 「愛する子ども達と嫁から、『お父さん臭い』と言われ冷遇されたら――あああああああ恐ろしい!! そんな世界はいっそ破壊すべきだ!!!」 『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)をフィクサードにおとさないためにも、この危険な香りを発する可能性のある可愛いアザーバイド「ベリベリ」 には、心穏やかに次元の向こうにお帰り願いたい。 でも、遥紀はあと最短7年後くらいに娘に言われる覚悟はしといた方がいい。彼のために、彼が肉体年齢的におっさんになる前に老化が止まることを願いたい。ちなみにそうした場合、『お父さん、ずっと若くてキモい』 と言われる可能性が出てくることもあわせて言及しておく。 「ベリベリに匂いをつけられるのは別段気にしないわ。臓腑が腐りきった同席したくもない人との商談時の会食より数段マシ」 と、筆談ノートにしたためる『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)、つかの間の現実逃避。 当主ともなると色々大変だろう。心中お察し申し上げて余りあるが、責任放棄いくない。 つくのは、匂いだけではなく、著しく不名誉な『二つ名』 である可能性も存在することを忘れてはいけない。 運命の紡ぎ手のあずかり知らぬ超高次存在の介入もあり得るのだ。大体行間を察していただきたい。 「俺は絶対にベリベリに丁重にデレたままお帰り頂く、絶対にだ!」 遥紀の心からの叫びが、消化されるフラグか、折れるフラグか。 チャンネルはそのまま! ● 話は、数十分前にさかのぼる。 日本の五月は、冬から夏に一気に様変わりする。 むんむんと発する草いきれの中、リベリスタは甘い匂いを発散させながら、現地入りしたのだ。 アークから支給されたベリー各種は、いい感じに解凍されている。 「動物の捕獲ですか。私も昔エキゾチックアニマルを求めてジャングルの奥地を旅したものです。ええ、合法な仕事で。動物園などの依頼で。決して密猟などでは――」 やだなあ。僕らのエルフリーデさんがそんな悪いことする訳ないじゃないですか。 そんな涼やかなお顔でジャングルに踏み入るエルフリーデさんに僕らは思わず涙する。 「アザーバイドは確かに問題ですけれど……もふもふ……ですか……」 ぽそぽそと言葉を区切りながら発音するあたりに、女子力を感じる『儀国のタロット師』彩堂 魅雪(BNE004911)は、男の子である。誰か、寝起きドッキリしてくんないかな、いや、マジで。 「素敵ですね……」 君の方が素敵だよ。と、ラティーノ的条件反射したくなるかわいさである。 「スカンクって確かにあれは恐ろしいが、それをのぞけばふわもこでかわいいよなぁ……」 魅雪の呟きに大きく何度もうなずくおっさん――もとい、外見のみおっさん――ベオウルフ・ハイウインド(BNE004938)は、もふもふを愛している。 「ですよね」 「ああ!」 パパと娘みたいだけど、ホントは先輩と後輩くらいなんだよ。神秘って不思議だなぁ。 「怒らせてしまうと大変だから色々な意味で気を引き締めなければ……!!」 「……兎に角帰って頂かないとですね」 さて。 三高平にこんなかわいい子が女の子の訳がない的男子数々おれども、今日のところは、キャラかぶりの心配はなかった。 「作戦開始予定時刻より、先にごそごそしてる真意は?」 エルフリーデが地面に這い蹲る背中に問いかけた。 彼の場合、脱走というありえない行動に出る場合があるのは、とある階段昇りをしたときに覚えた。 「実際に運ぼうとしたら、道を進めないだの、途中にベリーの実がなっているだの、そういった事態になるのは簡単なお仕事だけで十分だしっ」 初心者よ、これが経験者だ。 この炎天下に青ざめて、ガクブルと身を震わせる『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)の被害妄想的状況認識は、ごくたまに現場を救う。 重傷扱いの悪臭をお見舞いされかねないという危機的状況が、社会的フェイト保持本能を掻き立てるのだ。 しかし、ハイキングどころか、ピクニックコースで匍匐前進。 「羹に懲りて膾を吹く」を地でいっている。 ぶっちゃけ、怪しさ最高潮。 「ベリベリは手荒に扱われるのが嫌いらしいから、激しい揺れなどが起きないような平坦で歩きやすい道を――」 べオウルフも、辺りを確認し始めた。 「だよね!」 「他の動物がいると機嫌が悪くなるかもしれないから、事前に追い払っておくとするか」 「大事だね!」 「……本当なら追い払いたくはないのだがな」 べオウルフの頭の中の『他の動物』は、リスさんとかうさぎさんとか、もうちょっと大きくて狐や狸や鹿だったかもしれないが。 春先に現れる里山の動物といえば、熊だ。反対意見は認めない。猪は、追加として承認する。 「蜂とかに触発されてベリベリが機嫌損ねないとも限らないし、そのあたりの対処を私は先にやってみますかね」 魅雪の懸念はもっともなものだった。 そう、そろそろ山からお花の蜜に誘われて、ぶんぶんぶんがやって来る。ぶんぶんぶんに引かれて、もっと可愛くないでっかいのも来る。奴らは虫ではない。軍隊だ。 「鳥の巣がある場所も迂回するようにしておくよ。迂回が無理なら、撤去だね」 智夫は、終始涙目だ。 (後で元の場所に復帰させるね。蜂に刺されたりするかもしれないけど……ガンバリマス) ちなみに産卵期なので、このじきの母鳥は皆バーサーカーだ。 行きたまえ、リベリスタ。 アンモニアあるいはブレイクフィアーの備えは十分か。 神の愛がある? 幸いなるかな。恩寵のあらんことを。 ● そんな感じで準備をし、ルートも構築して、ベリベリに再びエンカウントである。 近接ぎりぎりの位置に、持参したベリーを置いて、更に離れる。 ホント言えば、ロングレンジ外にでたいが、残念ながらそんな広い場所はない。 ヒクヒクと鼻を鳴らしながら、ベリーに近づく小動物。 声を出してはいけない。 鼻から突っ込むのではなく、両手でちょんと持ってむちゅむちゅとベリーをほおばる小動物に萌えない知的生命体に先はない。 (おいしそうにベリー類をもぐもぐするふわもこアニマル……あぁもう可愛いなぁ!) 目は口ほどにものを言う。 自分抱きしそうな自分を律しつつも、身悶えしているべオウルフになんて言ったらいいのかわからない。 見た目のギャップが激しすぎる。 いや、心の目で見るのだ。べオウルフはまだティーンなのだ。きゃっきゃうふふしていいお年頃なのだ。 というか、モフモフときゃっきゃうふふするのに年齢は関係ない! 生きてる臭瓶爆裂弾の破裂が起こらないことを祈っている今日この頃、皆様いかがお過ごしですか。 リベリスタ的には、すっぱいのが混じっていないことを切に願ってやみません。 沙希が、ベリベリをじっと見ている。 (他の動物の割り込みに注意しなくては――) 『他の動物警戒中』 ノートに書かれている言葉に、他のリベリスタはきょろきょろと辺りを見回す。 クマだろうが鹿だろうがイノシシだろうがどんとこい! いや、来なくてもいいけど、来ても相手になるぜ! 自然保護の観点から倒せないけど。ベリベリ抱えて逃げるだけだけど。 「大丈夫。怖くない、怖くない……」 と、寄っていこうとしている智夫の顔は、蜂に刺されまくっている。 R-15Gの域に達しているので、魅雪君は正視してはいけません。 そう。赤、青、まるで、顔中にベリーをくっつけたように腫れているのだ。 か。と開かれる雑食性哺乳類のお口には鋭い牙がある。 かぷってかまれたらすごく痛い。叫んだら、ベリベリ、きっとびびる。ヤンヤンへの道。全員、悪臭の餌食。 刹那のタイミングで、智夫にできたのは、その口にベリーを放り込むことだけだった。 そのまま背後に倒れこむ智夫は、べオウルフと遥紀によってズィールズィールと引きずられていった。 「いい、感じ、ですよね……」 魅雪が息を呑んだ。 さっき、一瞬、モフモフの中の「ケダモノ」を見た。 今は、ベリーもちゅもちゅの可愛いチャンだが、いつ牙をむくかわからない。 そんな吊り橋感覚。恋に落ちちゃいかねない、どきどきシチュエーションだ。 「動物相手に焦りは禁物」 エルフリーデの荷物には、ベリーに食べ飽きたときの為のミックスベリー入りのクッキーやベリーパイが待機中だ。 「相手のペースに合わせて動くよう心掛けましょう」 魅雪は、チラッとテレビで見たドキュメンタリー番組を思い出していた。 ジャングルの中で、何日も何日も新種の動物が通るのを、虫やヒルに悩まされながら気配を立ちながら待ち続ける珍獣ハンター。 エルフリーデのピクリとも動かない頬にその気配を確かに感じ取った。 「逆立ちする気配はないようですね。行ってみましょうか」 エルフリーデが音もなければ気配もなく立ち上がった。 「元よりメード服は作業着です。汚れても替えがあります」 決死の覚悟である。もしもの時は尊い犠牲に。いや、この距離では、全員巻き添えだ。死なばもろとも。(社会的) 「体に臭いが残ると暫く仕事に支障が出ますが、坊ちゃまなら大丈夫でしょう」 五日間放置の方が坊ちゃん的にヤバイと申すか。 お女中、あなたは今までどんな人生を歩まれてこられた。 「持ち上げます。ベリーを切らさないように」 「はいっ」 魅雪の手のタッパーが所帯じみている。 (……うーん……なんだろう……純粋に楽しめたらいいけれど、アレを見たらちょっと……って思っちゃダメだよね……) 女子力の高さとモフモフ好きが常に比例するとは限らないんだゾ。 というか、可愛い男子が皆女の子みたいに「かーわーいーいー」を垂れ流す訳じゃないってことも覚えておいた方がいいんだゾ。 女の子の「かーわーいーいー♪」 は、同じ仲間かどうか確認する為の威嚇の鳴き声らしいから。「悪くはありませんね、この心地。まさに神秘の柔らかもふもふ感」 エルフリーデさんが無表情でデレた。 我々の業界では御褒美です。 「これを再現すれば、ビジネスチャンスが……」 アクセス・ファンタズムは、モフモフ感とビジネスチャンスという言葉から検索結果を表示する。 「え? リスのぬいぐるみが?」 詳しくは、WEBで! ● (――全く私より優しそうな人が沢山いるでしょうに、物好きね) 声もなく、微笑を浮かべる沙希。 静々と女性にもふもふされながら、おいしいもの食べさせてもらいながら、行きましょうね~されてるベリベリは、今世界で一番幸せな生き物です。(瞬間最高値) 朽ち果てた枝やら、着物では通りにくい落ち葉だまりやらをせっせと整備するのは、男の役目である。 熊やカモシカに威嚇のポーズを取るのも、男の大事な仕事である。 ライオン・オスの仕事にもさも似たり。 「砂糖と蜂蜜漬けの物やタルトレットも用意してあるんだ」 遥紀は、さながら侍従の様に陰に控え、そっとベリー菓子を差し込む。 (実に隙が無い布陣と思わないかい?) エルフリーデとアイコンタクト。うむ。抜かりなし。 もちろん、蒸れたりしないように羽根で仰いで暑さ対策は忘れない。 (子持ち舐めんな。熱中症対策は基本だぞ!) 三高平第一小学校・今月の標語。 『あそんだら、ひかげですこしやすみましょう』 ● べオウルフには、大義名分が必要だった。 これは危険なアザーバイトを寄り迅速に運搬しているのであって、決してモフモフを堪能しているのではない。 べオウルフが抱っこしているのは、飽き性のアザーバイトの注意を引くためであって、率先してもふろうなどという気は毛頭ない。 べオウルフの手からベリーをとって、小さくあごを動かす小動物の愛らしさは、急激な廊下に翻弄された青少年のハートを癒やすに十分だった。 ほてぽてと地面に甘い汁が垂れる。 ベリベリの前足と鼻面は、果実の甘い汁でべとべとだ。 勘を超えた観。 回避可能の直前の未来が、警戒した沙希の脳裏に振ってくる。 群体だ。 甘い香りに誘われて、一糸乱れぬ血の絆につながれた社会的生物がやってくる。 沙希の視線が、通り過ぎてきた森の暗がりを見る。 「こ、ここは任せて。もう、ベリベリは抱っこさせてもらったし――」 歯の根をガチガチ言わせながら、智夫が立ち止まった。 「一回も二回も同じだから」 魅雪も足を止めた。 「そうですね。後、ほんのちょっとだし。ここまで来たら、飽きる間もないですよね」 遥紀も立ち止まる。 「さっきも言ったが――俺は絶対にベリベリに丁重にデレたままお帰り頂く。絶対にだ」 (如何しても回避できない惨状があるとしたら……涙を呑んで、いけに……もといその雄姿を刻みながら戦略的撤退を実施――なんて考えていたが) 「そんな事態になる前に、生贄になってやるよ!」 パパは、今日もお仕事がんばってます! 「ちゃんとモフモフしたし」 べオウルフの手には、そっと支えたベリベリの尻尾の付け根の感触がまだ残っている。 ほわほわだった。 そんな安らぎをくれた君の平穏を守るためなら、この身を盾にするのに何のためらいがあろう。 仮初の翼、簡易飛行。 無口な女性達は、たった一つだけ頷くと、後ろを振り返りはしなかった。 そして、アザーバイドをあやしながら、次元の穴の向こうに送ることに成功したのであった。 ● ただいま、画面の方、若干処理しております。恐れ入ります。全年齢対象です。 ただいま、神の愛が大盤振る舞いされております。状況が整いますまで、少々お待ち下さい。 「名残惜しいが、しっかりブレイクゲートしておかないとな」 『先ほどベリベリがヨチヨチと尻を振りながら入っていくところが大層かわいかったとだけお知らせいたします』 ノートに書かれた文言と、重々しくうなづくだけのメードさんに、モフモフ好きのハートが先にブレイクされているが、負けるな、べオウルフ。 二匹来たのだ。この先、第三、第四と来ないとも限らないじゃないか。 次があるかもしれない! 「閉鋲……!」 魅雪が、気合と共に、タロットカード大アルカナ・隠者のカードをかざした。 それは、隠れる者ではなく、隠す者。 幻の老人の手が、空間の裂け目のひび割れを埋めていく。 「……できれば、再び開きませんように」 その願いは叶うだろう。 異界の魔獣の食欲が、空間の臨界点を越さない限り。 モフモフ好きのモフモフを恋しがる心が、臨界点を突破しない限り。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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