● とある山中でのこと。 からん、からん。 どこからか、軽い物同士がぶつかるような乾いた音が聞こえた気がした。 「今、何か聞こえなかった?」 「そういえば聞こえたような……何かの鳴き声とか?」 登山客の男女がふと足を止める。 だが周囲を見渡しても、登山道から見える限りでは仄暗い雑木林の中に動くような影はない。 気のせいだね、と声を交わし、男女は再び山頂を目指す。 だが木々の影に巧妙に紛れるようにして、確かにそれはいた。 巨大な、四本足の肉食獣だ。しかしその姿には、足りない物が幾つもあった。 毛、皮、肉……そう、そこにいたのは骨だけの獣だったのだ。 姿を例えるなら、博物館に展示されている骨格標本が近しいだろうか。 からん、からん。 それは、その獣が動いた拍子に骨と骨がぶつかって生まれた音だった。 獣が、先程の男女が去っていった方向へ頭を向ける。 喉を鳴らすような仕草を取った後、獲物へと狙いを定めた骨の獣の全身から紅蓮の炎が噴き出した。 ● 「良い天気が続くな諸君。ゴールデンウィークは過ぎてしまったが、ハイキング等の行楽に出かけるのも良さそうだ」 いつものミーティングルームへ集まったリベリスタ達に、黒ずくめの男、『黒のカトブレパス』マルファス・ヤタ・バズヴカタ (nBNE000233)が声をかける。 彼に関しては、天気がどうだろうと、この格好を変えるつもりはないらしい。 「さて、今回諸君等には、そんな行楽中の一般人を狙うエリューション・アンデッドを退治して貰いたい」 正面のモニターに光が灯った。そこには、大型の四足獣らしき姿が映っている。ただし骨のみの。 「彼が件のアンデッドだ。見ての通り骨だけの姿だが、どういうわけかバラバラになる事もなく優雅に歩き、走る事も出来る。 無論、人を襲うこともな」 マルファスは手元の資料に視線を落としつつ、言葉を続けた。 アンデッドが出没するのは、とある山中の登山道近くにある雑木林。 林の中は生い茂った葉で日光が遮られているため、日中でも薄暗く、肌寒い。 アンデッドが最近その付近に流れ着いたのか、元々そこに住み着いていたのかは分からないが、近くを通る者に見境無く襲いかかる事は間違いないだろう。 「言い方を変えれば、現場付近に行けば相手の方から出てきてくれるということだ」 「探す手間が省ける、と言えば聞こえは良いですが、奇襲される可能性も考えておかなくてはいけませんね」 マルファスの言葉に、リベリスタ達と同席していた『ディーンドライブ』白銀 玲香 (nBNE000008)が言葉を付け加えた。 攻撃に関しては、デュランダルのスキルに似た物を使うらしい。重い一撃を繰り出してくる事は想像に難くない。 加えて、このアンデッドは戦闘時や獲物を襲う際、全身に炎を纏う習性がある。 その炎は攻撃にも用いられるため、全ての攻撃に炎が付加されていると考えて良いだろう。 「敵は一体のみだが、油断ならない相手だ。安全な行楽のためにも頼んだぞ、リベリスタ諸君」 マルファスは最後にリベリスタ達を一瞥し、口元に笑みを浮かべると黒のマントを大きく翻した。 「さあ、私は運命の岐路を示したぞ。あとは諸君等が選び取るだけだ!」 その言葉と共に、マルファスはリベリスタ達を送り出したのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:力水 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月28日(水)22:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 複数の足音が雑木林を征く。 枝葉の間から僅かに漏れていた光はとうとう途絶えてしまった。流石に暗闇とまではいかないが、今が日中である事を考えればここは冗談のように暗い。 振り返れば、先程リベリスタ達が登ってきた登山道が少し遠くに見えた。向こうは陽が差す明るい光に包まれている。 その光景は、世界がまるで此方側と向こう側で二分されているようにも感じる。 何も知らない一般人が住む世界と、真実が跋扈する革醒した者達の世界。どちらがあるべき世界か、今は答えを出す時ではない。 ただ今言えるのは、この暗闇に潜む住人をあの光の中へ解き放ってはいけないという事だ。 「――見えました」 「うん、あれだね」 静かな、しかしはっきりとした『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)の声と、それに応えるエイプリル・バリントン(BNE004611)の声が他のリベリスタ達の耳に届いた。 彼女達が指し示す先には確かに骨の獣の姿がある。まだ此方には気が付いていないようだ。 「なんでアンデッドがこんな所にいンだろうなァ」 一番先頭を行く『咢』二十六木 華(BNE004943)がボソリと呟く。 「死して後も燃え上がるほどに狩り焦がれている、ということなのかしら?」 「なにか、焼かれて死んだりしたのかも」 そう返した『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)と『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)だが、その視線は敵を見据えたままだ。 何しろ、視線の先にいるあの敵からはおよそ気配というモノが読み取れない。目を離した隙に接近を許してしまうかもしれない、そんな危うさがあったのだ。 だが空虚な骨格はただ、からん、からん、と音を立てて操り人形のように歩を進めている。 (征きましょう) ガントレットを填めた手を『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)がゆっくりと握りしめる。 だがその時、不意に敵の頭がリベリスタ達の方を向いた。 誰かが息を飲む。闇を伴った暗い双眸が、確かに此方へ向けられていた。 音もなく、声もない。せめて威嚇の唸り声でも上げてくれれば良いのだが、骨だけの身ではそれも叶わないのだろう。 遠くで鳴く鳥の声が、やけにうるさく聞こえる。 ちりッ、と小さな音が鳴った。 それは何かが爆ぜるような、燃え始めるような音で――! 直後、上空より突如として飛来した『圧』が目の前に立つ骨の獣に激突した。 着弾点から溢れた爆風が、高波のように周囲に溢れていく。 「んーコレ、単体相手だとかなり効率悪いんだけどねえ……。 それでもあたしの持つ中だと一番強い魔術だから、仕方ないか~」 『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)が六芒星の意匠が施された術杖を軽々と振るう。 先程の『圧』の原因は彼女だ。 「わあ、派手にいったねー!」 爆風が収まり、木の陰から頭を覗かせた『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)の瞳は、無邪気さの中に残酷な戦闘狂の色を湛え始めていた。気付けば、その身にはすでに雷光が纏われている。 敵に動きが無い隙に、他のリベリスタ達も次々と戦闘準備を整えていく。 だが、備えていたのは彼らだけではなかった。 着弾点に立ち籠める土煙と魔力の残滓の奥から、すさまじい勢いで赤い光弾が飛び込んで来たのだ。 それは雛乃の胴へ吸い込まれるように激突し、 「……っ!?」 雛乃の肺から強引に息を吐き出させると同時に、その小さな体を吹き飛ばす。 光弾の衝撃が、地面とその上に積もった木の葉を巻き上げながら一直線に突き抜けた。 「今、治します!」 彩花の聖骸凱歌がすかさず雛乃に飛び、癒しの力が逆再生のように彼女を元に戻していく。 口の端から零した血を拭えば、ダメージは見る影もない。 「野郎ッ!!」 華が土を蹴り、敵の元へと飛び込む。その気迫がしつこく漂う土煙を強引に吹き飛ばした。 しかし、そこに敵の姿は無い。先程の一撃で消し飛んだか、いや、 「っ、上です!」 思わず叫んだ『ディーンドライブ』白銀 玲香(nBNE000008)が指し示すその先。そこには華の頭上でその身に炎を纏わせつつ、宙を駆ける獣の姿があった。 巨躯がその大きさに似合わぬ身軽さで大地に降り立つ。炎という血肉を得た獣が、その双眸に灯った赤色でリベリスタ達を今度こそ睨み付けた。 剥き出しの牙と牙の隙間から溢れ出す火風が、唸り声に似た音を立てる。 その姿にはもはや空虚などという言葉は当てはまらない。確実な敵意がそこにはあった。 『――!!!!』 爆発とも咆哮とも取れる音圧が、リベリスタ達を飲み込む。 ● 真咲の跳躍が、その身を瞬時に上空へと押し上げる。 そこから生まれるのは周囲の木々を蹴って進む、多角軌道の強襲だ。 「イタダキマス!」 極めてシンプルな、命を頂く事への感謝の言葉と共に真咲は斧を携えて上空から突撃した。 だが、獣はその軌道に合わせて軽くバックステップ。真咲は攻撃の機を逃し、上空へ再び舞い戻る事になった。 しかも獣の視線は真咲を次の標的と定めたのか、見逃そうとはしない。 「私も忘れないで欲しいな」 エイプリルの翼が魔風を生み出す。本来ならば複数対象を巻き込む程の技が、今は獣一体へと殺到した。 『――!』 血が流れない代わりに骨が軋み、その体にヒビが走る。 やはり痛みは感じているのだろう。風から逃れようともがく獣を、しかしミュゼーヌは逃さない。 「釘付けにして差し上げます!」 マスケットから放たれた魔弾が、駆け出そうとしていた獣の前腕関節を撃ち抜く。 たまらず、巨体が横倒しに転げた。だが獣は転げた勢いのまま体を横に一回転させて起き上がると、そのまま後衛のリベリスタ達の元へと突き進み始めた。 今回、リベリスタ達の陣形は後衛の人数が多い。故に獣もそこに飛び込めばより多くの被害が出せると考えたのだろう。無論、その考えも思考の結果からではなく本能から来るものなのかもしれないが。 しかしリベリスタ達の陣形にいるのは後衛だけではない。 「通すわけにはいきません!」 「全力でかかって来やがれ、俺も全力で迎え撃ってやる!」 彩花が、華が、駆ける獣の前に出た。 『!!』 獣の足が、ブレーキをかけるように踏み込まれる。それは当初、前衛二人を警戒しての停止行動に思われたが、実際には違っていた。 獣は、踏み込んだ足を軸にして素早く体を横に一回転させたのだ。軸を中心とした周囲を薙ぐような動きが風を生み、その風には炎が乗る。 斯くして炎を含んだ旋風が前衛に襲いかかった。 彩花は咄嗟にガントレットの甲に風を沿わせ、それを外側へと受け流す。 しかし華は、横殴りの風に側頭部を強かに殴打された。熱を感じる共に、視界がぶれる。踏み止まりはするが体に痺れが生じていた。 「こ、のッ……!」 敵を睨み付けようにも焦点が合わない。敵の抑えとして彼が機能するには、少しの時間が必要だ。 だが獣とてそれを待ってくれはしない。 「わたしが出る!」 その通りに、涼子は前衛へ走った。抑えの穴を埋めるためにだ。 愛用の銃を打撃の型に持ち構える。獣に比べれば彼女の体躯は当然ながら小さい。獣が無造作に足を動かしただけでも、彼女にとっては脅威となる。 事実、獣は向かってくる涼子を無造作に左前足で払おうとした。 「ッ!」 炎を纏った白骨を涼子は体の軸を傾けて回避、そのまま流れるように膂力でもって強引に体勢を戻そうとするが、続けざまに迫って来たのは右前足。 一撃を貰ってでも喰らい付くか――覚悟を決めかけた涼子の眼前で、獣の右前足が破裂音と共に大きく逸れた。 「残念だけど、狩るのが私達で狩られるのが貴方よ」 照星を目線に合わせ、誰に聞かせるでも無く告げたエナーシアが地に伏せた姿勢のまま、涼子の後方からすぐさま次弾を放つ。 空を裂いて飛んだ弾丸は、エナーシアの妨害で崩れた体勢を立て直すために、獣が急いで地面に付けようとした右前足を再び穿った。 『――!?』 体勢を崩したまま、たまらず獣は前足を引っ込める。ぐらりと獣の体がよろめき、巨大な頭蓋が涼子の手が届く位置へ落ちて来た。 だから涼子はそれを狙った。獣の顎に拳を捻り込む。特殊な効果など無い、純粋な打撃。 当たった衝撃と、力が貫き抜ける感触が彼女の拳に伝わる。 かち上げられた獣の顎から、白い欠片が黒い地面に零れ落ちた。 『――!』 それでもまだ、獣の戦意は潰えない。獣の首筋を走る炎がかち上げられた獣の頭蓋を捉えると、筋肉が収縮するような動きを見せ、強引に頭を引き摺り戻す。 その双眸が再び前を見据えると、前衛を弾き飛ばさんとする勢いで巨躯を振るい、前に出ようとした。 「ああもう、下がって下がって~」 雛乃の放ったハイマナバーストが荒れる獣の眼前で炸裂する。 炎を掻き消す程のそれを、しかし獣は両の前足が地面にめり込むほどの前傾姿勢を取り、押し寄せる衝撃に耐えて見せた。 「流石にそう簡単には吹き飛ばないかあ。でも、足を止めたね?」 風切り音と共に上空から飛び込んできた真咲の斧が、獣の肋骨を割り砕く。 「ハイキングするには絶好の機会なのに、キミみたいなのがいたらみんな困っちゃうでしょ!」 獣とのすれ違いざま、真咲が見せたのは年相応の笑顔。だが戦いの中で見せた無邪気さに、獣は本能的に混乱と共に恐れを抱いた。 僅かにだが、後ろ足を下げようとして――その動きが止まる。いや、止められたのだ。 「火力に自信は無いけれど、小細工は得意なんだ」 エイプリルが展開した呪印、その呪縛が獣を幾重にも拘束する。 「この機を逃すわけには!」 身動きを封じられたその身に玲香のタクティカルナイフが亀裂を作る。 「私の実力、とくと御覧なさい!」 そして続けざまに彩花の象牙色の籠手がその亀裂に突き込まれ、神気を帯びた手刀で大きく十字に斬り裂いた。 「二十六木さん!」 「ッッ、オオオオオ!!」 彩花の呼び掛けと同時に華の気迫が膨れあがり、爆ぜる。 彼を縛る物が今、ようやく消えた。ならば。 自由に動けなかった鬱憤を糧にするように、華が吶喊する。 「お前も暴れん坊なら俺も暴れん坊だ、馬鹿になって踊り狂おうぜ!」 そこに技巧など無い。華は束縛されたままの獣の体をただ単に掴むと、 「ラアアアァァア!!!」 力任せに投げた。傷口から血が噴き出すが、彼は構わない。 『!?!?』 骨だけとはいえ、敵の大きさは相当なものだ。地面に叩き付けられた巨体が周囲に震動を生む。 「力勝負は俺の勝ちだ! 踏ん張りが足りなかったなァ!」 華の宣言に、獣はしばし動きを止めていた。とうとう戦意を失ったか。いや、彼は恥じていた。 獣の身を持ち、獲物を狩る者として『力』は絶対なものであるのに、自分は小さな人間にこうも押し負けている。 ……証を立てねばならない。 獣がゆっくりと身を起こす。 ……見せつけてやらねばならない。力というものを。 獣の周囲に気流が生じる。それは彼がすでに纏っている炎とは別のもの。 『――――!!!』 それは、圧倒的な破壊の戦気だ。 ● 「ああいうの、手負いの獣って言うんだろうねえ」 敵から離れた場所にいる雛乃にも、獣の猛りは十分に伝わってくる。 「炎っていうのは生命の象徴みたいな存在だけど、その力が生物の死骸みたいな骨に宿るってのも歪だよね~」 うんうん、と考察を深めつつ、彼女はマレウス・ステルラを行使する。 空より来たる鉄槌の炸裂に手応えを感じるが、あれではまだ決着には及ばないだろう。 事実、獣はすぐさま爆風より抜け出し、戦闘を続行していた。敵を抑える為に彩花と華が敵と併走しているのも見える。 玲香のソードエアリアルが、ミュゼーヌの魔弾が、駆ける獣の足を裂く。 だが傷を作りながらも獣は強引に加速し、前衛二人を翻弄しようと木々の間でジグザグにステップを刻む。 「全くちょこまかと……随分獰猛ね!」 「攻撃で敵を誘導できれば……」 先程より少し立ち位置を下げた涼子がそう言って拳銃を構える。まずは一発。そして二発目を放つ。 獣は真横に体を飛ばし、一発目を避けた。回避の為に蹴り飛ばした地面から土が舞う。 「そろそろ燃え尽きなよ。あついでしょう、おたがい」 故に涼子は二発目を置きに行った。無論、獣が避けるであろう方向にだ。 『――!?』 弾丸に自ら突っ込む形になった獣が体勢を崩す。肩口をやられたらしく、自重を支えられずに腹ばいのような姿勢を取り、さらに先程までの自らの勢いを獣は殺しきれない。 軽く湿った土の上を獣が滑る。そこに、彩花と華が追いすがる。 「全力で撃ち込んでやる!」 『――!!』 叫ぶ華に獣が応えた。獣の後ろ足が強かに地面を穿つ。先程よりは大回りで遅いが、獣の体が後ろ足を軸に回転して火風を生む。華を一時的に行動不能にした、あの技だ。 だが、 「二度も喰らうかよォ!」 華が剣の柄に手をかけたまま火風の中へと飛び込んだ。その勢いが、火風の渦をかき乱す。 風に裂かれ、炎に焦がされつつも、華は獣に肉薄した。 「意地が、あンだよ!」 剣を腰溜めに構え、抜く体勢のまま突っ込んだ華が、剣の柄頭で獣の額を猛烈に打撃した。 『――――!?』 大きく仰け反った獣の隙に、エナーシアの銃口が向けられる。 狙撃にも似た早撃ちが、傷ついた獣の足をさらに抉る。 「狩りの要諦は、手はきれいに、心は熱く、頭は冷静に、よ?」 銃撃の援護を背に、彩花のガントレットが拳を作る。 「狙い所です!」 獣の胴を狙った彼女の拳は、しかし獣が危険を感じて放った前腕に正面から激突した。 「ぐぅっ!」 手負いとはいえ、いや、手負いだからこそか。獣の膂力は彩花を押し返し、後退させた。 彼女に働いた反射の力が獣を傷つけるが、それで怯むような相手ではない。 さらに獣の口内に赤が灯る。熱風を口端から零しつつ、烈火の光弾が彩花へと飛んだ。 二連撃。咄嗟にガントレットを構えた彩花だったが、光弾の威力に彩花の体が再び押し込まれそうになる。 「失礼!」 だが、彼女を背後から受け止める手があった。それは彩花が良く知る手で、 「っ、ミュゼーヌさん……!」 「貴女の実力は私がよく知っているから、余計なお世話かも知れないけど……。 ふふ、少しくらいは親友の為に格好付けたい時だってあるのよ」 互いに笑みを交わし、ミュゼーヌに支えられて彩花は立ち上がる。 「はいはーい、ちょっとそこ割り込むよー!」 真咲がソードエアリアルで獣の胴を深く断つと、上空に戻ることなく獣の背後に回り込み、無数の刺突を叩き込む。 さらにはエイプリルが彩花の抜けた前衛を埋め、魔氷拳で敵の体を凍てつかせた。 「冷凍肉食獣が出来るかな? 肉無し、骨だけでは味気もないね」 『――』 獣の纏う炎が弱まっていく。以前のような力強い躍動も、そこにはすでに無い。 「決着を付けましょう!」 彩花が叫ぶ。ガントレットに力を込め、魔氷によって動きを鈍らせた巨体に十字の斬撃を刻む。 そして彩花の背後には、ミュゼーヌが立っていた。 「素敵な照星ね。ええ、本当に――」 マスケットが、乾いた音を放つ。 刻まれた十字の中央に弾痕が穿たれ、そこから放射状に亀裂が走り、 『――――!!!!』 ガラスが砕けるような音と共に、骨の獣はその姿を一瞬で失った。 「ゴチソウサマ!」 始まった時と同じように、真咲は奪った命に感謝を向ける。 「終わってしまえば、あっけないものだわ」 「何も、残ってないね」 エナーシアがこぼした言葉に涼子が頷く。 獣が先程までここに居たという証拠は、やや派手に荒らされた地面と木々に残された傷ぐらいしかない。 残り火も、小さな骨の欠片でさえも、戦場には残されていなかった。 「火が残らなかったのは幸いだったね。山火事はシャレにならないよ」 「全くだな。っと、長居は無用だ。さっさと撤収しようぜ」 周囲を簡単に見回っていたエイプリルと華が戻ってきたのを切欠に、リベリスタ達は戦場に背を向ける。 薄暗い雑木林から登山道に戻ると、陽はまださほど傾いていないようだった。 明るく、さわやかな陽光がリベリスタ達を出迎えるように包み込む。 真咲の明るい声が登山道に響く。どうやらこっそりハイキングの用意をしてきたらしい。 日没まではまだ時間がある。 良い場所を探すために早速地図と睨めっこを始めた玲香を先頭に、リベリスタ達は束の間の休息を楽しんだのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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