下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






虹は踊る

●蛇の如く
 昨今、災害に対する関心が高まり地下シェルターの必要性が再認識されている。
 ここは都市部の大型地下シェルターの一つ。
 管理している企業から頼まれて、設備の定期検診の為に二人の男が派遣されていた。
「広いんだよな、見て回るのが面倒だ」
「文句を言うなよ。時間を掛けてゆっくり見て回ればいいんだから」
 ぶつくさ言う相棒をなだめすかし、先にベテランの男がシェルター内に入る。
 コンクリートの広い空洞、それを崩れぬよう太い柱達が規則正しく並んでいる。
 東京ドーム、程ではないが広く高いそこを見回して、そこで気づいた。
 明るい。
「おーい、部屋の電源入れたか?」
「まだ入れてねーぞー」
「冗談言ってんじゃないぞー」
「冗談なもんかよ!」
 どうやら相棒が電灯をつけた訳ではないらしい。
 では、と彼が再び疑問に思った時、その答えが姿を現す。

「電源、入れた、ぞ……」
 もう一人の男がシェルターに入った際に見た光景は、およそ信じがたいものだった。
 巨大な虹が、人を襲っている。
 虹は自ら発光しながら相棒に迫り、その光に飲みこまれた彼はそのまま消えた。
「……!」
 その一部始終を目撃した男に生まれた恐怖の感情は、彼の脚をその場に縛りつける。
「く、来るな!」
 ただそう叫び、迫りくる虹に向かって手を交差して抵抗するだけしか、彼には出来なかった。
 虹はあたかも蛇の如く、中空で身を捩らせながら男に迫り、彼を呑み込んだ。

●虹と蛇
「昔から、虹を蛇に例えるという話がありますが。今、相対するのは私達が倒すべき存在です」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はそう言いながら、自らがフォーチュナとして視た情報を纏めた資料を集まったリベリスタ達に提供する。
「当該神秘をエリューション・エレメントと認定。フェーズは2、戦士級であると考えられます」
 渡された資料の中には、それと思われる存在のイラストが掲載されていた。
 シェルター内の柱を縫うようにして空を泳いでいる虹。
 これが今回相手にするべき敵なのだろう。
「浮遊している事、と言っても空間は広大な密室であるため入り口をしっかりと閉じれば取り逃がす事はないと思います。ですが……」
 そこまで話して、和泉は再び資料に目を通すように促して来る。指示に従いページを捲れば、そこには大きな虹から小さな虹が生み出されているイラストが描かれていた。
「逃げられないと見れば、今度は自身の分体を無尽蔵に生み出して物量で攻めて来ようとする恐れがあります。インヤンマスターの式符・影人と似たような技ですが、似て非なる能力だと思って下さい」
 その他の攻撃手段は体当たりと光線という単純な物だが、数が増えればそれだけ被害も馬鹿にならない。
 増えに増えた虹の蛇の群れはさぞ幻想的な光景に映るだろうが、出来れば見たくない物である。
「今から向かえば一般人の被害は抑えられるはずです。準備出来次第、現場に向かって下さい」
 一礼し、和泉は真っ直ぐにリベリスタ達へ視線を送る。眼鏡の奥の瞳は澱みなく、リベリスタ達の姿を映していた。
 彼女はリベリスタの勝利を期待し、そして信頼しているのだ。
 その期待には、応えたい。否、応えなければならない。
「皆さん、よろしくお願いします」
 力強く頷いてから、和泉は微笑む。見た者にもその力を分けてくれるような、そんな笑みだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:みちびきいなり  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月19日(月)23:08
こんにちは、こんばんは。あるいは初めまして。
みちびきいなりです。
今回の相手は虹です、増えます。

●任務達成条件
・エリューションエレメントの撃破

●戦場
都市部の地下にある大型シェルターの一つ。とても広いです。
事前に外部にある電源を入れる事で全体的な光源を手に入れる事が出来ます。
大きな柱がある為、部分的に射線が遮られる可能性があります。

●敵について
フェーズ2、戦士級。空泳ぐ虹のエリューションエレメント。仮称『虹蛇』とその分体。
虹がエリューション化した物であり、蛇の様に身を捩りつつ空を泳ぎ活動します。
以下はその攻撃手段です。

虹蛇
・体当たり
A:攻:物近単・身を捩らせながら体をぶつけてきます。物理大ダメージ。
・光線
A:攻:神遠範・太いプリズムカラーの光線を発射します。神秘中ダメージ。
・増殖
A:召:虹蛇・分体を生み出す。最大5体まで同時召喚可能。
・空泳ぐ光
P:強:自 
 速度+30 追:[飛行][麻痺無効]

虹蛇・分体
・体当たり
A:攻:物近単・身を捩らせながら体をぶつけてきます。物理中ダメージ。
・光線
A:攻:神遠単・プリズムカラーの光線を発射します。神秘中ダメージ。
・空泳ぐ光・弱
P:強:自 
 速度+10 追:[飛行]

●一般人
 現場に急いで向かう限り問題はありません。

エリューション化し動けるようになった物の、そこは地下。
さぞ窮屈な思いをしているエリューションでしょう。ですがそれを外に出す訳には行きません。
しっかりと殲滅して下さい。
如何にして勝つか。リベリスタの皆様、どうかよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハーフムーンデュランダル
梶・リュクターン・五月(BNE000267)
ハイジーニアスクリミナルスタア
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
メタルイヴクロスイージス
大御堂 彩花(BNE000609)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
ノワールオルールインヤンマスター
赤禰 諭(BNE004571)
メタルフレームスターサジタリー
小島 ヒロ子(BNE004871)
ハイジーニアスアークリベリオン
二十六木 華(BNE004943)
ジーニアスアークリベリオン
国包 畝傍(BNE004948)

●隔壁の向こうへ
 カンカンと鉄骨の階段を鳴らし、一定間隔に配置された淡い電灯の下をリベリスタ達は急ぐ。
「虹の討伐か。エレメント相手は初めてだな」
 『咢』二十六木 華(BNE004943)は一行の先頭を駆けつつ呟いた。
 現象、事象のエリューションであるE・エレメントは謂わば自然の変異種。森羅万象の具象相手ともなれば、慣れぬ戦いになるだろうかと逡巡する。
「古今東西、それは吉凶の標になる物と言うが……此度の虹は凶兆となるだろう。手早く散らしてしまうに限るな」
「だが油断はできねェ、本気でいくぞ」
 彼の呟きに繋ぐ様に続いた『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)の言葉に、華は改めて気合を入れ直す。赤い双眸に挑む者の持つ鋭さが深く浮かんだ。
 龍治が事前に準備した地図の通りに進んだ一行は、最短ルートで現場へと急行していた。
「早急に駆け付け、敵の対処を行う。ひいてはそれが一般人の方々を守る事にも繋がります」
 自らを弱卒と称し、仲間達への援護を主目的と定めている『御峯山』国包 畝傍(BNE004948)は急ぐ理由をそう言っていた。
「戦いが長引くようであれば、私の伝手を活用して一帯の一時的な封鎖も視野に」
 準備している携帯の電波状態を確かめながら『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)が次善策を伝える。
 ここまでの用意があれば、敵を逃がしでもしない限り一般人が被害に遭う事はないだろう。
 彼らアークのリベリスタ達がリベリスタたる所以は、こうした一般人への配慮も含まれているのだ。
「……ん」
 後から続いていた『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)が足を止める。
 シェルターの前に到着したのだ。
 バルブ式のドアノブを有する入り口は、白磁の様な穢れの無い色をしていて。恐らくトラックの搬入まで想定されているのだろう、高さにして3mを越えている。
「この手の施設は、特撮の聖地だったわね」
 そう言うエナーシアの隣では、小島 ヒロ子(BNE004871)が複雑な表情を浮かべていた。
「ドキドキしたらいいのやら、呆れたらいいのやら」
 巨大ロボ好きのヒロ子にとってその手に通じる光景は興奮するに値する物であるのだが、同時に元ブラック企業のOLだった記憶も持つ者としては別に思う所もあり。
 その表情から察したのか、お嬢様である所の彩香が口を開く。
「確かに災害対策は重要ですけれど、こうも大規模な地下シェルターは……」
 無用の長物、そう続けそうになったのを彩花は抑えた。人の事は言えないと、自らの背負う物の実感を改めて律する。
 せめて、仲間が言っていた様に招かれざる客を早急に排除し、後の世にこの場が正しく在る事を願うばかりだ。
 その様子にヒロ子もただ、苦笑を浮かべていた。
「照明、付けますよ」
 傍らに一羽の鴉を従えた『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)が、不足に備えて傍に立つ『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)と共にシェルターの主電源を入れる。
 誘導灯の明かりが消え、代わりに辺りを主照明が明るく照らし出す。巨大な門は白をより強く輝かせた。
 各々に戦う用意を済ませて、改めて門の前に立つ。
 ここから先は、戦場だ。

●虹は踊る
 状況は入り口を開いた瞬間から動き始めた。
「――ッ、来てる!」
 大掛かりな外開きの門を龍治と畝傍の男二人掛かりで開けていたその最中、鈴を鳴らして五月が叫ぶ。
 扉が開く瞬間を待っていたのだろう。半開きのその向こう、それは恐ろしい程のスピードで突撃を仕掛けてきていた。
 極彩色の怪異、虹のエリューション。
「虹蛇!」
 いち早く感づいた五月の声に呼応する様に、彩花が叫びと共にシェルターの中に駆け込み、怪異の前へとその身を躍らせる。
 衝突。
 華奢な外見に反して体重は100kgを超過するメタルイヴたる彩花の体が、衝撃に跳ね上がった。
「抜かせるか、ってんだ!」
 彩花が浮いて出来た空間に華が飛び込む。振り抜いた魔力剣が怪異に届いた瞬間、衝撃波がその巨体を弾き飛ばした。
 ごぅと風を切る音がして、それは弾かれるままに距離を取り、シェルターの奥へと逃げる様に消えていく。
「電源を入れた時点で相手にも感づかれていたという訳ですか。全く、虹にああも動き回られては興醒めだ」
「派手な動き、ますます特撮めいた動きがお望みなのでせうか? まあ、どうであれ踊る事に変わりはないのだけど」
 追い立てる様に諭、エナーシアと駆け込んで、リベリスタ達はシェルターの中へと突入する。
 相手の機先を奪う不意打ち気味の突撃はどうにか凌いだ。となれば、次に相手の仕掛けてくる作戦は既に知っている。
「分体を増やして来るぞ!」
 手近な柱に背を預け、龍治が声を張り上げる。直後、彼の視線の先をプリズムカラーの光線が貫いた。
 彼の聴覚が、複数の風を切る音を察知していた。
「扉は閉じたよ!」
 全員の突入を確かめた後、大扉は完全に閉じられた。こちらの退路を断つ事になるが、代わりに敵を逃がす道も封じた事になる。
 扉の閉鎖に不備がない事を確かめて、小さな黒猫も戦線へと突入する。既に他のリベリスタ達は方々に散開し、シェルター内を縦横に駆け回っていた。

 戦場を、業火を帯びた弾丸の雨が貫いていく。
 龍治の放ったインドラの矢は、彼の知覚する範囲に居た複数の分体を焼き払わんとその烈火を生み出していた。
 極彩色の体がしかし、業火に包まれただ赤に染まっていく様は、アレが虹ではない何かである事の証左でもあった。
「神秘による物でなかったなら、暫しの鑑賞に値するのだろうが、な!」
 炎の中から突撃してくる分体から、寸での所で直撃を避ける。厄介な付加効果の無い分純粋な力が強いのか、掠っただけでも相当の衝撃を覚えた。
 再び敵の射線を避けるべく柱に背を預けたタイミングで、向かい側から弾幕を撃ち切ったヒロ子が駆け込んでくる。
「いいの貰ってたけど大丈夫?」
「問題ない。敵も分散しているせいか完全に撃ち合いになってしまっているな。タイミングを見て対象を集中させたい所だが……」
「わお、冷静。頼りになるね」
「悪いがお喋りしてる暇はないぞ」
 その言葉を言い切るか否かといった所で、二人は同時に、左右へそれぞれ身を転がしていく。直後、どちらかを狙っていたであろう光線が柱を焦がした。
 再び散開しお互いに戦場を駆け出して、しかしヒロ子は考える。
(やっぱまだ、ちょっと緊張するなあ)
 彼女の調子のいい言葉も緊張の裏返し。深呼吸する暇も貰えなかった今、それでも彼女は動揺すまいと必死に戦っていた。
 冷静沈着な仲間が居る。だったら自分は自分なりに精一杯するだけだ。そう決めて。

 別所でもまた、激しい撃ち合いが発生していた。
 1発、2発、3発と、エナーシアの両手に携えられた大口径のライフルからおよそ考えられない速度で乱れ撃たれた弾丸が、分体の1体を捉え、更に本体である虹蛇にも迫る。
 連続して撃ち込まれた弾丸は、轟音と共にどこか平面に見える虹の体に穴を穿った。
 敵の反撃を警戒し、直観で捉えたルートを駆けて柱に隠れれば相手からの射線を潰す。それでも自分が直前まで居た所を光線が奔るのを見るのは肝を冷やした。
 極力本丸である虹蛇の本体も巻き込んで行きたいが、戦場が広い事もありこうも大きく展開してしまっていてはそれも難しくなって来るだろうと予測する。
「全く、益体もないのだわ」
「同意させて貰います」
 あら、いらっしゃったんですの。なんて冗談を口には出さず顔に出したエナーシアに、諭は自身の作業を止める事なく笑って見せた。
「仕込みの方はどうでせう?」
「もう少し、といった所ですね」
「ふむ」
 符を展開していく諭の様子に、エナーシアは少しの間思考し、頷く。
「もう少し、派手に踊って行きませうか」
 そう彼女が口にして、鴉が鳴いた。続けてエナーシアも声を上げた。
「上!」
 中空で身を捩り柱に沿って這う様に、急角度でもって分体が迫る。勘付いていても、警告されても、敵の体当たりは諭の対応を許さぬ程に早かった。
 虹彩が細身の体を強打する。しかし彼のリベリスタは踏み止まった。
 口角を上げ、諭は距離を取ろうとする分体を見やる。そして、
 朱雀が舞った。
「さっさと燃え尽きなさい。のたうつ虹など気味が悪いだけです」
 弾幕を浴びてぼろぼろだったその1体は、舞い踊る朱雀の前に飲みこまれ、立ち消えた。

 本体の虹蛇を追ったのは、彩花と華、畝傍の三人。
 中空をうねる様に泳ぐそれを追走しながら、あるいは足止めするべく先回りを掛けて、兎角その行動の自由を奪うべく仕掛けていく。
「ふっ!」
 駆け込むと同時に畝傍の長剣が虹蛇を叩く。猛烈な突撃と共に放たれた一撃は怪異の体を揺るがし隙を作りだす。そして、
「華くん!」
「っしゃあ!」
 そこへと重ねる様にして、華の魔力剣が攻め手を同じく虹蛇に打ち込まれた。気合を込めた一撃が、受けようとする虹蛇との力比べを引き起こしそのまま押し切る。
 アクセルクラッシュとパワードデュエル。どちらもアークリベリオンの得意とする戦闘技術、二人はその技の真価を十二分に発揮していた。
 身を揺るがし、虹蛇が光彩を纏う。背後から彩花の声が届いた。
「跳んで!」
 直後、駆け込んでいた彩花を含む至近に集まっていた三人を巻き込む様に、プリズムカラーの光線が奔る。
 打ち貫かれた衝撃と焼ける様な熱さと共に、光線に巻き込まれた彼らに相応のダメージが蓄積する。咄嗟の声に飛び退いた二人はまだしも、庇う様に割り込んでいた彩香は直撃を受けてしまう。
 しかし、痛みに揺れたのは虹蛇もまた同時であった。
「……反射の味は如何かしら?」
 直撃を受けて尚、彼女は凛と立っていた。長く艶やかな髪をたなびかせ、悠然に。
 アッパーユアハート。敢然と立ち向かう彼女の最大限の挑発が決まる。
 声を上げる手段を持たぬ虹蛇は、猛りを増して閉じた空へと舞い上がる。方々から飛んでくる巻き込み狙いの弾幕を避けながら、怒れる怪異はただただ芽生えた本能を振りかざしていた。

●虹蛇狩
 彩花のアッパーユアハートは、大きく広がっていた戦場を収束させる流れを引き込んだ。狙いが彼女に集中した事で、戦場が縮小したのだ。
 効果範囲に居た分体達は次々と彩花に殺到し、彼女に体当たりを仕掛けた。
 しっかりとした回復のタイミングが無いままの集中打に、彩花の意識は一瞬刈り取られる。が、彼女の意志はそのまま倒れる事を良しとしなかった。
 転びそうになる体を無理やり起こして踏み止まる。
「こんな物かしら、だったら……この十倍は持ってきなさい!」
 啖呵を切る。心も、体も、まだ折れてやる訳にはいかないのだ。そして、そんな彼女の意志に呼応する様に。
 ちりん、と。鈴が鳴る。
 それは壁を蹴り跳び上がって、虹蛇の分体達の更に上から降りてきた。
「君は、君達は綺麗だね」
 流星の如く降り注ぐ残像の刃が、彼らの意識の範囲外からその身を切り刻んで行く。
 舞い降りた攻撃の主は、彩花を守る様にその小柄な体を前に立たせた。
「空のある場所で生まれれば、君は蛇の様に自由を求める事は無かったのかな」
 愛刀を構え、五月は眼前に広がる虹の群れを見やる。波打つ彼らの姿は異形のそれであっても、自然が持つ美しさを確かに持ち合わせたままだった。
 だがその美しさもいずれ失われてしまう。エリューション化の進行とは、そういう物だ。だから、
「オレは護る事に対して貪欲なんだ」
 護りたいと思った。背後に立つ仲間も、そして、目の前の敵が持っている美しさも。
「引き付ける! 立て直せるか!?」
「援護します!」
 華が集まってきた分体と、龍治側にしつこく追い縋っていた1体を武者駆けに巻き込み乱戦へと持ち込んで行く。その間に畝傍がタイミングを見計らい、己の生命力を彩花や華、更にはやや離れた所に居る諭や龍治を効果範囲に含んで分け与えた。
 彩花に変わり今度は華に狙いが集中する。しかし華もまた、退く事なくそれらを迎え撃つ。
 迫る光線を体をずらし掠るに留めながら、体当たりを仕掛けてくる1体を真正面から受け止めて。敵の猛攻を一身に請け負う。
(痛みで俺が倒れるはずもない)
 歯を食いしばり、靴がコンクリートの地面を擦り熱を持っても踏み込んで、逆に分体を弾き飛ばしてやる。
 弾いた事で生まれた隙は、横合いから届いたヒロ子の掃射と、タイミングを合わせて放たれた五月の飛ぶ斬撃が逃さない。
「良し、当たる! ならこのまま行くよ。一気に全滅させちゃった方がラクっしょ!」
「火力を集中させよう」
 一人で戦っている訳じゃない。華は改めてそれを実感する。故に、己の本分を果たすべく剣を握る手に力を込めた。
 戦場の収束は、即ち戦力の密集を意味して。事それらの状況が発生すれば、龍治とエナーシアは強かった。
「炎の色の前では虹の煌めきも鈍るだろうが、致し方ないな」
 再び放たれた龍治のインドラの矢は、今度は戦場に存在する敵のその全てを業火に呑み込む。
 彩花への怒りに縫い付けられた本体の虹蛇にも灯った炎は、部屋を照らす電灯よりも強く輝きを放っていた。
「あなたに火器の祝福を」
 小さく謳う様に囁いて、エナーシアのライフルが火を噴いた。再び生成される弾幕は、重なって重なって、業火に焙られた虹蛇の分体達を消し飛ばす。
 畳み掛ける様に仕掛けるリベリスタ達の攻勢は、戦場の収束と共にその勢いを増していく。
 魂を震わす聖骸凱歌で、彩花の意志の炎が再び明瞭な力を取り戻す。その間のブロックを請け負っていた畝傍が、果たした己の役割に頷く。
 生み出した全ての分体を倒され物量を失った虹蛇が、それでも闘争本能をむき出しにして身を躍らせる。
 色彩は鮮やかに、狙いは深く、熱を集め、光線を撃つ。
 彩花を中心に穿たれた一撃は、しかし分散戦術を取るリベリスタ達により彼女以外を捉える事は無い。
 直後、砲火が鳴り響く。
「増える事と数の暴力がどういう物か、教えて差し上げましょうか? ……最も、学ぶ時間など与えませんが」
 諭の仕込みが完成した。
 彼の等間隔を置いて居並ぶのは、彼の高等符術により生み出された影人達。
 高速演算が導き出した先、前衛で敵を押し留めてくれた仲間達の助けもあり、生みに生み出されたその数7体。
 戦場の収束と共に火線を重ね、遂にその砲撃範囲に虹蛇を捉えたのだ。
「消し飛びなさい」
 能力を主と同じとする影人は、諭の高めに高めた神秘の力をも正確に再現する。
 一斉射。轟音と共に砲火は咲く。
 堪らず飛び上がる虹蛇はその逃げ道を空に求めたが、そこにあるのはコンクリートの天井。逃げ場を失った。
「ウフフ、これ使ってみたかったんだー」
「残念だけど、虹に触れようなんてメルヘンなことを考えた事は只の一度もないのだわ」
 最後は天に向けて放たれた死神の魔弾と早撃ちの弾丸が、とぐろを巻いた虹を撃ち抜き終わらせた。

●踊らない虹
 戦いを終えたリベリスタ達に、思わぬ出来事が降り掛かった。
 世界が今更常識を取り戻したかの様に、消火用のスプリンクラーを起動させ噴霧を開始したのである。
「なるほど、そういう事でしたか」
 これから起こるだろう出来事を察して、エナーシアは自分の浮かべていた疑問が氷解するのを感じた。
 曰く、虹のエリューションがどうしてこの様な場所に発生したのか。
「そういえば、虹の蛇の写真、撮り忘れてしまったわね」
 こっそり持ってきていた一眼レフも使い所を失ってしまったな。なんてのんびりと思えるのも、戦いが終わった事の証だろうか。
 噴霧が終わり、サラサラと流れる霧の内からそれは一行の視界に映し出された。
「やはり、虹は落ち着いて眺めるに限るな」
 人工の灯りと、人工の霧に生み出され、彼らの前には虹が立っていた。
「如何にも、静かに映し出される様が美しい」
 それは物言わず、動きもせず、ただ陽炎の様に脆く揺らいでは消えていく。
 こんな刹那の存在が此度の事件を引き起こす引き金になったのだと思えば、改めてエリューション化するという出来事の脅威も知れよう物だ。
 彩花は消え去る虹を見送り、逡巡する。
 それでもどうして人はこの様な施設を作るのか。こんなに脆く、こんなに不安定な物なのに。
「虹蛇の伝説って、結構色んな国にあるのね」
 隣に並び同じ方向を向いていたヒロ子が、不意に口を開く。
「川に例えるとかは何か分かるんだけど、空にある物って……昔のヒトは想像力豊かだなぁって、そう思うのね」
 機械化している右の目が、それでも温かみを持って彩花を見ている。
 ハッとした。
 ここがある理由、その正しい答えを理解した気がした。
「そうですね」
 微笑み、応える。
「人の事、言えないじゃない」
 自分達の存在こそ、このシェルターと目的を同じにしていると、気付いたから。
 『箱舟』のリベリスタ達は任務を終え、帰還する。
 守るべきモノを守り、討つべきモノを討って。
 外へと出た彼らを迎えた空は、青く澄み渡っていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
無事任務達成です。

敵味方入り乱れての乱打戦となりましたが、ダメージコントロール、あるいはダメージレースでのリベリスタの皆様の勝利と相成りました。
虹を最近見てないのですが、会おうと思えば結構簡単に会えたりするんですよね。
そんな所も自然の凄い所だなと思ったりもします。

楽しんでいただけたなら幸いです。
また機会ございましたらよろしくお願いします。