●優しき容貌(カオ)であるがため、優しき霊(ココロ)であるがため 『……(前略)しかしそんな優しい霊の動きは、壊された、あらゆる夢、殺された、あらゆる望の墓の上に咲く花である。 それだから、好い子、お前は釣をしておいで。 お前は無意識に美しい権利を自覚しているのであるから。 魚を殺せ。そして釣れ。』 ――ペーター・アルテンベルク『釣』(森鴎外訳版)より 少女は、美しいことに自覚がなかった。 美しさは自覚から映えるものではない、そう思っていた。なので、自らが美しいなどと嘘であると、そう思っていた。 着飾ることも笑うことも所作一つとって自らが美しいのでは、と思ってしまうことに罪すら感じていた。 だが、そんな彼女に群がる蟲は数知れぬ。彼女はただただ近づいてくる蟲を払うように身を捩った。掴まれる手が何の意思から生まれたのか、それすら。 彼女の身には余る、自尊心。 ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶ。 羽音だった。 嗚呼。それは蟲であるから。羽の付いた、蟲のような無残悲惨なものであるから。 優しくなんて出来ないのだ。優しくないと気付けたのだ。 ひらりと伸びた手が掴んだはねを、当たり前のようにふたつにさいて、みっつにちぎって。 嗚呼素敵。 ●狂乱悲喜劇交々(やさしくかなしくそれぞれ)に 「ひとついいか」 「はい、どうぞ」 目の前で広がる屍山血河の光景に、事も無げに視線を向ける『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)に対しリベリスタが語りかける。 どうにも、抑えきれぬ何かを堪えているような声音だ。 「お前は何度見たか知らんが、警告の一つくらいしてやれよ」 「……言う前に相手の姿に見とれちゃったんじゃないですか、そこまで僕も面倒見られません」 汚物袋(夜倉が用意していたものだ)を手に俯く別のリベリスタを顎でしゃくって問いかける相手には、ちらりと視線を向けるだけ。感情の起伏が薄い、のっぺりとしたものだった。 「アザーバイドです。十四、五程度の頃合いの少女型で、性格は純粋そのもの。精神構造と行動体系はこちらと近いものを持っていることが明らかになっています」 「こんなことをやらかす奴がか」 「こんなことをする程度には、です」 舌打ちしながらも問いかけを続けた相手に、夜倉はぴしゃりと言い放つ。言葉は続く。 「外見通り、相手は幼い。男女間の恋愛を認識できない子です。その外見に近づく男も居たでしょうが、ご覧の有り様。決して、『そういう』感情で行動できないというのがご理解頂けるでしょう。では何故、彼女はこんな歓楽街にいて、彼女はああも近い姿見の人間を蹂躙できたのか」 リベリスタ達の沈黙が降りるのを待って、夜倉はゆっくりと自らのサングラスへと指を向け、コンコンと鳴らした。 「そういう、種族なんですよ」 「は?」 「ですから、ね。このアザーバイドは自分以外、相当近い間柄にある存在以外はヒト、或いは命あるものとして認識しません。蟲か何かに見えるのでしょう。子供は、同じ立場にない生物に何をします?」 喉に張り付いたような笑いが響く。 悪意ある男の、精一杯の強がりだと思えば可愛げもあろうか。 ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶ。 羽音が、ブリーフィングルームに響いている。 「……まあ、『ホンモノ』も混じっています。それは、資料に」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月29日(木)22:05 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●汝、無垢な躯なりや 街路を叩くのは雨音ではない。ぱたぱたとリズミカルになる水音は、赤い赤い雨の向こう側。 子らが蚊を叩いて潰し、その血の残滓に笑みをこぼすように、その少女は『羽虫』が張り上げる血と狂騒とを聞きながら静かに笑んでいる。 「子供は純粋――と良く言いますけれど」 「何も知らないってしあわせよね」 純粋であることと、性根が真っ直ぐで穏やかなことはまるで違うのだと、『フロントオペレイター』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)は恐らく理解しているのだろう。 過去が純粋であったかと聞かれれば、分からないときっと応じる。ただ美しくそこにあるだけと定義付けられた存在は珍しく、妬み、欺瞞、虚飾を身に纏い、愚昧で傲慢で残酷であることを恥じない、それを恥じるという概念がすっぽりと欠けた存在が美しいなどという冗談があってたまるものか。 それら見難く醜い現実を何一つ知らない、などという冗談も『帳の夢』匂坂・羽衣(BNE004023)からすれば笑い話だ。何も知らないならこれから知ればいいのだと嘯く彼女は、今いっときその『歳相応の積み重ね』を垣間見せる。嗚呼、幼いが故に無知が許されるというのなら自分が教えてあげればいいのだ。丁寧に積み上げるように、しかし行うのはそれら全てを打ち崩すだけの、暴力的な行為であっても。 (――真逆か。この仮面は、閉じた瞳を補っている。“フェイト”が示す真実以外見えぬように) 開ききった瞳は現実から逃げ続け、閉じられた瞳は現実を見つめなおす器となった。『Seraph』レディ ヘル(BNE004562)と少女――ベルゼは、余りに正反対だと言えただろう。 閉じられた瞳の意味を深く語るのは無粋であり、開かれた瞳の真実を求めるのもまた外道の行いに近いもの。それらを既存の価値観に押し込めた時点で、きっと自分も狭隘な価値観に堕してしまうことは分かりきっていた。だから彼女は、その仮面が導く真実以外求めるべきではないし、求める必要がなかったのだ。 「無邪気な心が起こした悪事ほど、質の悪いものはない」 「私には彼女を皆目理解できない、する気も無いね……価値観の違いだけで片付けていいものでもない」 世界の維持に、綺麗事で御託を並べて自分を慰める気は一切ない。『質実傲拳』翔 小雷(BNE004728)の言葉は、殺すと続けられたその言葉に裏打ちされた感情は、幾多の任務を経て得た処世術でもあった。世界にとっての害があって打倒すべき毒があってそれを止める条件付けがある以上、四の五のいって自分を誤魔化せるほど彼は幼くもなかったのだ。 当然、異界の律に倣った少女の心の動きなど理解しようがないのはエイプリル・バリントン(BNE004611)にだって分かっていた。訳知り顔で他者の常識を語ったところでその罪が軽くなる筈が無い。理解してやったところで、相手が理解してくれるわけでもない。 ルールに従うということは、そういうことだ。誰かが担保してくれるわけでもない『常識』を、誰にも教えられず動いた『非常識』に押し付け、制圧する作業である。 そういう意味では、異界の少女はなんと理想的な非常識だったろうか。器の形こそ似通っているくせに、酷く違う価値観に身を染めたその存在は、常識的に許される行いではなく、そういう意味では、やはり放っておけない、打倒すべしと声を揃えて口にできる。簡単に『仲間はずれ』に出来るのだ。 「彼女のそれを障碍と断じるのなら、宗教や肌の色の違いで、虫のように殺し合う私達も……出来損ないなんでしょうか」 「自覚も悪気も無くても彼女の所業はただの殺戮。止める理由はそれで充分だ」 障碍と、彼のフォーチュナが断じた価値観の違い。仲間はずれにするには、この世界には条件付けが多すぎる。些細な違いで殺しあうボトムの人間は、欠陥品ではないのか、と。『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が表情をなくした言葉を継いで、『鏡の中の魂』ユーグ・マクシム・グザヴィエ(BNE004796)が応じる。 彼女が世界にとって異質であるのは、価値観の違いなどではなく同じ視線にすら立つことができないでいるということ。なら、排除される以上の結論も、それを覆す人道論も存在しないのだ。 類人の狂気が、上位世界には余りにも多すぎる。狂気であるだけで、その生命を刈り取られる現実は厳しいのかもしれないが……相手が刈り取った命の贖いとしては軽いのも、また事実。 思い悩む暇など彼ら彼女らに与えられるわけがない。 「仕方ないのかもしれないが、なんともな」 相応に誇りを保って生きてきた筈であった。相応の価値を背負ってきた筈であった。アズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)は、己が羽虫と同列に扱われるその事実を今ひとつ承服できないでいた。それがその少女の身に課せられた罪の形であったとしても、それを額面通り受け止めることはなかなかに難しい。比喩として羽虫であると罵られる事こそあれ、事実羽虫として扱われ、暴力的な神秘が一方的な蹂躙を恣にする有り様は見ていて面白いものではない。 ぶんぶん、ぶぶぶぶぶ。 嗚呼、こんなにも耳障りな音が然し世界にはとても遠く、聞こえているのかも怪しいほどに。 人の器を持ちながら魔性を纏って夜気を纏う。純白の赤を死と共に纏った優雅さは、足元に蟠る悲鳴とあまりにも鮮やかなコントラストを描いて立っている。 これを憎悪の瞳で見られるならば、それは純粋な人間なのだろう。 これを蕩然とした瞳で見てしまったならば、それは歪んでいるにしろ、豊かな感受性の発露だったのだろう。 少女と羽虫は、互いが互いを敵とも味方とも定義していないように思われた。単純に、居合わせただけといった風情。 それでも、偶発性から乗りかかった船とばかりに協調し協力体制をとっているだけだ。『お互い相手を見ていない』。 リベリスタたちをちらと見た少女の瞳が輝いていた。子らの、新たな矛先(あそびあいて)が現れた時のような、それだった。 ●屍の姓は終ぞ知るらむ 鉄扇を指揮棒でも摘むかのように軽々と、鮮やかに振り仰いだエイプリルの動作に釘付けにされたのは羽虫達である。その所作の意味を掴む事無く、しかしそれが明確に敵対者であることを察知した彼らは、背後に立つ死の象徴(マリィ)より彼女を当座の脅威と見做し、攻勢に転じた。 その戦場の流れに逆らわず、気づけば長尺の間合いを一歩で踏み込んだのは舞姫。既にユーグの手により仮初の翼を得た彼女の動きを読み、止めに入れる者は戦場には居ない。敢えて出来る事があるとすれば、正面から迎撃することだが……それとて、彼女に当たらねばまるで意味が無い。 マリィの手が持ち上がる。華奢な、細枝とも見紛うそれが振るわれる様は微風ひとつ起こせやしないように見えて、間合いに入ったもの全てを叩き落とさんとする轟音を伴うのだから世話はない。身を捻って躱した舞姫の衣類の先を裂き、その肌に僅かな傷をつけたことからもその威力はうかがい知れよう。 だが、彼女とて払われるだけの羽虫ではない。立派な人間であるが故に、その動きは止まらない。返す刃が鋭く伸び、マリィの頬へ赤い筋を刻み込んだ。 ひたりと動きを止めた少女の首が、軋みすら上げかねないぎこちなさで舞姫へと向けられる。瞳に篭められた意思が果たして自分の知っている通りの反応かどうかはわからない。だが、確かにその一撃は通ったことを、舞姫は実感していた。 「エイプリルさんが陽動に回ってくださっているので戦力展開はそう難しくなさそうですね。問題なくオペレート出来るようで何よりです」 意識下の共有による視界の擬似拡張。後方に立つ者として、狭い戦場で状況を広く把握するためにマリスは曲芸とも言える手段を選択し、事実その選択は奏功していたといえるだろう。 数が数である以上はムーソの視界遮断は厄介だ。前に視線を届けるためなら、あらゆる手段を模索して然るべきなのである。加え、彼女の能力は自らがそう自覚するような『実力不足』が表出しない系統の技能だ。全体の戦力向上と布陣指揮はそれ単体で重大な影響を及ぼす。敢えて戦闘に積極的加勢を行わない、というのは賢いだろう。 ――フェイトがなければ、目を潰し贖いとする意味もないか フェイトに正しく『導かれる』ために潰された(或いは、そうしたが為にフェイトを得た)目という代価を、異界の少女は払う気など端から無いことをヘルは理解している。何故なら、フェイトを必要としていないからだ。大きく開かれた翼がエイプリルに集った羽虫が後ろに気を配る隙を与えず、吐出される福音は驚異的な回避を以て僅かに削れていく生命を巻き戻す。 鉄扇の視線誘導に惹かれずに後衛へ向かおうとした羽虫を確かに認識してはいたが、自らの役割を逸脱してまで止める必要がないことは、フェイトの導きを得た同士を理解する上で誇らしくもあり、頼もしくもあっただろうか。全ての思考は、彼女の意識の奥である。 「羽虫なのだから同士討ちしてくれればいっそ楽だったんだが、そうも言ってられないか」 「こちらに来る以上は、そうだな。俺達でなんとかするしかない」 視線の先に収めた数体を火線で貫いた小雷の嘆息に、ユーグは険しい表情を僅かばかり緩め、応じた。数の暴力と、背後からいつ向けられるか分からない無邪気な殺意。その視界に収まらないように立ちまわるのも結構なストレスではあるが、助けられるものを助けられず悔いるそれに比べれば遥か軽い。 「ほら、お前等の相手はこっちだ!」 最前列に舞姫が向かったことで相対的に広く布陣できる彼らは、結果として後衛に届かぬ程度には敵をコントロールすることに成功している。アズマにとって、自らの技倆を十全に活かせない戦場であることは少々厳しいかもしれないが、それで全ての手管が封じられるわけではない。それを補って余る程に、彼女の手数は多く、有意的だ。 一撃ずつ着実に与えてはいるが、やはり相手は頑強な異界の羽虫だ。一筋縄で行かないこと、長丁場になる可能性に対し、歯噛みする思いは察するに余りある。 打開する為の力だからこその苦悩。それは、戦いでしか雪げない苦痛でもあった。 「でも、何も知らないから奪われることってあるのよ。知ってた?」 知らなくても問題はなく、知る必要があるかすらも怪しいけれど。それはわたしが教えるのだと羽衣は小さく嘯いた。 所詮は羽虫の囀りのまま終る戯言。少女の耳に、額面通りに伝わらず終わる警句など何ら無意味に告げられるものだ。 だからこそいいのだろうか、と意地の悪い笑みを浮かべながら、電撃を振り下ろす。「しあわせ」の形はそれぞれなのだろうが、無垢なだけで無制限に与えられたそれを彼女は承服できない。笑福として物笑いにすることができない。そんな虚飾を許せるほどに、『それ』は無制限に道端に落ちてはいないのだから。 「ねえ、わたしたちは虫じゃない」 マリィに向けて舞姫が告げ、言外に同じ姿をしたものである、と告げようとしていた。だが、それに返された少女の笑みは無邪気で無垢で、なにものをも見ていないように受け止められた。 ……それは、つまり。 突如として羽虫が数体、立て続けに内側から炸裂し霧散する。 痛々しいほどに恭しく向けられた少女の笑みは、本当に、誰も見ていなくて。 ●棺に収めて秘め事継ぎて アズマ、そして羽衣が僅かに身を傾いだ。あの少女は誰も見ていないので、区別などなく狙ったのだ。 恐ろしいことに。ただの視線がこんなにも鋭く重い。口惜しいことに。否定されるべき少女の純粋が、今ここで彼女らを苛むのだ。 「オレたちは羽虫じゃない、人間だぜ! ……くそっ!」 「無自覚なシリアルキラーほど厄介なものはないね。ここまでくると笑い話だ」 本当に笑えるかといえば否だろうが、そうでも言っていなければ洒落にもできない。エイプリルは凍りついた羽虫を鉄扇で砕きながら、拓けた戦列の先で荒い息を吐く舞姫を認識した。 戦場の維持力は酷く高い。ヘルとユーグの二人が重複を避けつつ回復の波長を途絶えさせぬ一方、それの源泉をマリスが維持している以上、瞬間火力が極大化しない限りは彼らを打ち倒すのは難しい。少女と羽虫の間に何らかの意思の合致、もしくは連携があれば話は異なっただろうが、その余地すらもリベリスタ達は射線を切ることを強く意識したことで無効化。終始優位に立てていたのは事実である。 「羽虫の数が減れば敵の視線も通りやすくなる。敵の視線が嫌なら、翼の影に隠れることだ」 「……助かります」 防御力としては一線級に近づきつつあるユーグでも、相手の命中精度が異常なレベルであった場合は無事で済む保証はない。ヘルの行動に大きな差異は無い。羽虫が居ようと居なかろうと、自らの背に携えた翼の使い所を誤らない。それが持つものの義務であると言わんばかりに。 「乙女は意地が悪いものなのです。バーネットの小公女もそう」 妬み嫉みをより直截的に表現する子等の、意思を切り分けられないその愚昧を純粋と誰が呼べようか。そんなものを、純粋とは呼びたくはない。 知識が無いことも、それを恥じぬことも、決してそれ単体では悪ではない。マリスがかすかな記憶を頼りにするのなら、愚昧であることすら知らぬままに生きていたのだから当然だろう。だが、それが全ての免罪符になるには、眼前の少女は余りに人を殺し過ぎたのだ。 何事かを口にしかけ、マリスは口を噤んだ。言葉よりも雄弁な『認識』を叩きつける為に、じっと相手を見据えたのだ。 「……さよなら、知らない振りは楽しかった?」 小さく悲鳴を上げて後退った少女と距離を詰めるように、羽衣が前進し、魔力を練り上げる。 “luminescence”の先端から迸った冷淡な光が少女を貫く。まだ死なない。何処か毀れ、よれてしまったような笑みを浮かべた少女は最早逃げることすら諦めたのだろう。 罪をほんの僅かに認識したようで居て、その実なにものにも届かなかったのだろう。 だから、恐らくは彼女とボトムとは一生分かり合えないまま終るのだろうと。その時、誰も彼もが理解した。 耳障りな音を立てて飛び回る羽虫の一体が地に堕ち、べちゃりと臓物の上で跳ねた。 「彼女は花であるけれど、甘い蜜で獲物をさそう食虫植物だったね」 そういう意味では実に美しい姿だったと、エイプリルは思う。 故に、散り際が悲惨だったのだが。 「貴方と友人として出会いたかった」 きれいな顔をして倒れた少女の首筋に手をのばそうと、血を掬うようにして舞姫は腕を伸ばす。 最後に乱した心の有り様は、真実の前に心を壊した少女らしさととることが出来よう。あの姿から、自分は彼女の中でだけでも、毒虫から人へと羽化できたのだろうかと。 そうでなければ報われず、そうでなくとも最悪だった。 ――真実を知らぬ、無垢なる血。……運命も悪戯が過ぎるな 自分の役目を終えたとばかりに翼を揺らしたヘルを見ず、ユーグはその酸鼻に眉根を寄せた。 「この惨劇が純粋さの結果なら。無垢なものが美しいなんて俺は二度と信じない」 「それは、どうかしらね」 汚いは綺麗だから。そう口の端に乗せた羽衣の表情には、哀れみに似た笑みが広がっていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|