● その日、『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) 達が訪れていたのは簡単なエリュージョン退治だった。 「皆怪我無く、無事に任務も終了した訳でして、観光とかコッソリしようぜ」 エリューション退治も終わり、あとはアークに帰るだけ―― 和歌山県白浜……、南紀白浜での一件は何事もなく終わる筈、だったのだが。 『何事もなければ、良かったんだけれども……事件なので、もう一つお願いしてもいいかしら?』 本部からの要請にげんなりしたのは誰だって同じだろう。白浜から少し離れた位置で行動して居た蒐達に来た要請は『直ぐに白浜へ戻ってくれ』と言うものだった。 『ごめんなさい、こちらからの探知が遅れてる。突然の異変で日本全国大混乱なの。 突如伝播していくのって伝染病みたいよね……。ソレから一般人を救って貰いたいの』 フォーチュナの言葉に蒐は小さく頷く。現場を共にしていたリベリスタ達だってそうだ。 この事件は世界中に拡散して居た恐怖的存在による事件と同種だと見て間違いないそうだ。その根本――最近は欧州オルクス・パラストから来た漁村の調査依頼にも繋がって居る事が推測されている。 「『ラトニャ・ル・テップ』だったか……ソイツがミラーミスっぽいってのは聞いてる。後は?」 『追加でシトリィンさん側が調査した結果、ラトニャは歪夜十三使徒の四位『The Terror』であると見て間違いない見たい。あーちゃんが言った通り、ミラーミスであるならば彼女が神である世界が存在してる……』 「ええと、その四位さんの世界側から、こっちへのアプローチが在るって、ことか」 『Yes、つまりは彼女は私達に興味を持っている……彼女からのアプローチはコッチへの侵攻だわ』 フォーチュナの言葉に蒐は「ホントに伝染病みたいだ」と吐き捨てる。伝搬する恐怖心と言うのは伝染病に近い。侵攻する存在がラトニャ――恐怖神話の『ニャルラトテップ』と近しい物であるならば、恐怖神話に登場する存在や、ソレに近しい恐怖的存在が街中を跋扈して居る可能性だって否めない。 『突然の事で万華鏡の探知も遅れてるわ。唐突過ぎるのも困りものね……? 被害が拡散しつつあるわ。完全に食い止めれなくとも、被害を軽減させなくっちゃ、このままじゃ――』 ――世界が。 崩壊するという言葉の前に、白浜に戻る事を決意した。 ● それはまるで、伝染病だ。 じわじわと侵食する恐怖は伝播していく。それは人の気付かぬ所から現れるのかもしれない。 何処からか生えた手が、ぎゅ、と握りしめてくる。振り返っても『何も』存在して居ない。 声が、何処からか声が聞こえる。頭の中を揺さぶる様な、声が。 『―――、て』 聞こえないふりをして歩き出せば、また、ぎゅ、と手を掴む『何か』がある。 『――ん、で』 声が、やはり、聞こえている。 そっと、その手を握り返して、ゆっくりと顔をそちらに向けていく。 見てはいけないと頭の中で警鐘が聞こえている。何処からともなく、見てはいけない見てはいけないと声が聞こえている気がするのに。 好奇心は猫を殺すか。 声が聞こえている。何処からともなく。囁くように、楽しげに。 声が、聞こえている。 ずるり、と自分の顔面の皮がはがれた気がした。 気がした、というのは自分はそれ以上判らなかったからだ。 最後に聞いたのは楽しそうに笑う、誰かの声。 『あそん、で……?』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 7人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月21日(水)22:42 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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● 潮の香りがする。海の近い場所だからだろうか。 幻想纏いを通じて聞いた情報に『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)はfelicitareを付けた手首を手袋に包まれた指先でなぞりながら口角を引き攣らせる。 ――あそん、で……。 伝えられた情報ではそう言いながら『肌を剥ぎ取る』出来そこないのホラーが展開されているらしい。映画や漫画、アニメーションの世界で見たならばゾッとしてしまう様なシチュエーション。涼の表情が歪むのと対照的に『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)の表情は明るい。 幼さを感じられる背格好。しかし、真咲の『ナカミ』は何処か違っているのか。明るく無邪気な子供らしさが醸しだしたのは残忍な姿か。真咲自身の二律背反の姿を現す様にこどもはへらりと笑っていた。 「いい趣味してるね! 遊んで欲しいんだって」 「ホラー……にしか思えないけどな」 嬉しそうに笑う真咲の隣で頬を掻く『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) はフォーチュナから伝えられた情報を手にリベリスタ達と和歌山県白浜へとユーターンをしている。任務を一つ終え、別の任務に向かうというのは中々草臥れる物だ。 「うーん、怖いよねー? 世界がぐちゃぐちゃだー」 首を傾げて告げる『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)の言葉は淡々とした物だ。何処か俯瞰的に状況を読みとって居るのだろうか、シャルロッテは普段通りの笑顔で、普段通りの口調で、何食わぬ顔をして『恐怖』を語っている。彼女と同じ様に何処か余裕を表情に滲ませる『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)はフォーチュナから伝え聞いた情報を分析しながら色付く唇へと指を添える。 「怖い? ラヴクラフト御大曰く――最も古く、最も強烈な感情は未知に対する恐怖……だ、そうよ?」 彼女にとっては有象無象が街を這い巡る様子を『未知』だとは言ってしまえない。 二年半も前、日本を震撼させた殺人鬼による放送。殺人鬼達が街で暴れ出す『恐怖』、アンデッドが蠢く姿。それはこの街で今、起こって居ると言う恐怖と何処か被ってしまうデジャヴを感じさせているのだから。 「実に……『懐かしい』わね」 「世界が崩壊する可能性。それだって『懐かしい』さ。 ナイトメアダウンといい、今回といい、ミラーミス共が命を弄んでいる……」 何処か皮肉を伝える様に吐き出した『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)の指先がミスティコアを握りしめる。色違いの瞳に浮かんだのは何時もの彼からは想像もつかないほどの強烈な憎悪。人を殺される事を厭う心優しき青年の言葉に人一倍反応したのは悪しき物に家族を殺された『ジルファウスト』逢川・アイカ(BNE004941)ならではの反応であったのかもしれない。 都合良く、助けに来てくれるヒーローなんていない―― 「『また』……。これ以上悲しみを増やさない為に、急ぐしかない。被害を減らすためにっ。 要はいつもと同じ事っす……!」 ● 『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)にとって世界が崩壊と言う言葉はいまいちピンと来ない。幼い彼女にとって判るのは悲しみが生み出されること、ただそれだけだ。 「頑張ろうね。後で、少しゆっくりできたらいいね」 恋人の服の裾をぎゅ、と掴んだアリステアの指先を握りしめ涼は小さく頷く。アリステアは癒し手で涼は前線で闘う戦士だ。互いにその立場が違えど、それでも彼女たちは恋人で在ることには違いない。 「私が立ってる間は、どんな怪我も治すから……」 「俺も頑張るさ。――さあ、行こうか」 カッコ悪い所、見せる訳にもいかんしな、と浮かべた笑みに。彼女の柔らかな白銀の髪を撫でた涼は一歩踏み出す。 阿鼻叫喚の白浜の駅前で最初に動きだしたのは一般人の並みに紛れる事を得意とする『銃を扱える程度の一般人』だ。金色の髪を揺らし、隠し持ったペイロードライフル。 一目見て判る異形の存在に、エナーシアは狙いを定める様に弾丸をばら撒いていく。続く様に色違いの瞳を楽しげに細めたシャルロッテ魔弓を爪弾き黒き瘴気で顔を剥がれたアンデッド達を包み込む。 『膚縫』というアザーバイド。空中に浮かぶ白い手を探す様に卓越した魔術知識を駆使しながら遥紀は周囲を見回して居る。 「蒐、流動的に動いて貰うことになるけど、頼んだよ」 「了解した! 遥紀さん、頑張ろうぜ!」 遥紀の言葉に頷いた蒐はポンチョを纏ったアリステアと頷きあって周囲の確認を行う。始まった凶行に怯える一般人も居れば、映画の撮影の様に感じている一般人達も居るのだろう。あまりに現実味のない光景はまるで物語の中に入った様にも見えたのだろう。 見通す様に周囲を確認するアリステアは幻想纏いとして使うリボンに手を添えて周囲の状況について的確に伝達していく。彼女の姿はパッと見れば観光に来た少女だろう。誰も彼女の事を『異形』とは思いやしない。勿論、通常の人間と何ら変わりない外見要素を持っているアイカもきょろきょろと周囲を見回す様子に何らおかしい所はない。 くん、と鳴らした鼻は異形の気配を濃く掴んでいる。警察犬が如く並はずれたソレが感じとったのは濃い『恐怖』の香りだろうか。魔力鉄甲に包まれた足で彼女は走り出す。 ふら、と体を揺らす人間の顔はない。 「放っておけば感染し、被害は拡大する……」 背筋に走ったのは悪寒か。異形の者の姿はおぞましさを運んでくる。 駅に向かう途中の一般人へと手を伸ばすその手を掴み、アイカはその勢いの侭に拳を叩きつける。膚縫の気配がしてもその姿はまだ、見つからない。 「おっと? やっぱり姿を見ても出来そこないのホラーにしか思えんな」 手にしたイノセント。地面を踏んだ涼がアイカが手を離しふら付いた皮無人の体を切り裂く。彼の攻撃に戸惑いを覚えた様にアンデッドはぐらりと体を揺らす。 「もう一撃プレゼントだ」 涼の瞳が猫の様に細められる。手にした刃は真っ直ぐにその体を切り裂いていった。 ――ん、で? 何かの声が聞こえる。犬の様に発達した嗅覚で追い求める真咲は手にしたヘルハウンドをもう一度握り直す。 一見、普通の子供にしか見えない真咲の目はアリステアの『目』から伝えられた情報を元に駅前を見回して居る。 「うん、ボクが遊んであげる。ほらほら、こっちを見て。ボクの皮を剥がせてあげてもいいからさ」 誘う様に告げる真咲の言葉に『何某』かが反応したのか。周囲の皮無人達の肉から突出した眼球がぎょろりと覗く。 空気感が変わった事を感じとり真咲は愛らしい顔に笑みを浮かべる。有象無象の中に居るであろう『手』を誘う様に真咲はヘルハウンドで地面をとんとんと叩きながらにんまりと微笑んだ。 「遊んで欲しいんでしょ? 代わりにキミを切り刻ませて?」 真咲の周囲から沸き上がる瘴気が包み込む。ついで、シャルロッテの正気と合わさる様に真咲の瘴気が顔無人達を包み込んだ。 ● 恐怖は伝染する。それが拡散する速さは患者の多い感染病と同じ様な物だ。 強結界を張り巡らせたアリステアはEternal Snowを嵌めた指先をなぞり、己の早鐘を奏でる鼓動を抑える様に息を吐く。 「走って! こっち、こっちだよ! 此処に居ると危ないよ! 向こうは安全だって聞いたから!」 張り裂けんばかりに声を張る。少女の声に一般人達は奇異の瞳を向けるが、アリステアの視線が一般人の振りをした蒐に向けられる。 「ゾンビだ、ゾンビがいっぱいいる!」 「おにぃちゃん、こっち! こっちが安全だから!」 怯える一般人の振りをした蒐を誘導する様にアリステアが手招き、敵が存在しない方角を指差せば、青年は近くに居た幼い少女の手をとってアリステアの隣をすり抜ける。一人が行けばまた一人、と続く様に走るその背中を負い掛ける様に『顔のない異形』が手を伸ばす。 手にした杖で受けとめて、その衝撃に眉を顰めるアリステアは首を振る。大丈夫、痛くない、という様に。 「素敵な顔をしてるわね? ああ、でも、女は顔じゃないのだわ。女は――」 アリステアの目の前に滑り込み、至近距離で弾丸を放ったエナーシアはわざとらしく発砲する。驚き、走り出す一般人達を目にし、『一般人』は小さく笑って一つウィンク。 「女はミステリアスであれ」 続ける様に吐き出した涼は地面を踏みステップを踏む。血の海に沈む憐れな存在へと哀悼を捧げる合間等彼にはない。罪を裁く様に奮われた切っ先は惑うことなく真っ直ぐに顔を喪った憐れな異形の腹を切り裂いた。 逃げる一般人に奮われた腕を受けとめる遥紀の瞳がある部分に止まる。 逃げ惑う一人の男の肩に掛かる腕。胴体の部分は見えやしない。浮かび上がった腕が伸ばされて、そのまま―― べこり、と。 「――『君』、か」 息を吐く様に。憎悪を滲ませるように。囁きに混ざった声は目の前の『異形』を確かに捉えたと知らす様に。 ミスティコアを手にした遥紀が癒しを与える様にアイカを支えれば、彼女は真っ直ぐに前進していく。 動物の耳の様に飾られたリボンを揺らし、短く切りそろえた髪を引っ張る腕を払いのけ、冷気を纏った拳を真っ直ぐに振り上げる。 『腕』は。驚いた様に動きを止める。アイカの許へと重なる様に現れる一般人の姿をシャルロッテは弓を爪弾き払いのけていく。 「狂え、狂おしく全ての夢を見るといいの」 黒き闇の瘴気が包み込み、その衝撃に皮無人が呻き声をあげ続ける。待ってましたと言う様に鼻を鳴らした真咲が真っ直ぐに膚縫へと接近する。 光の飛沫を纏った斧を振り下ろし、『視』えない体を痛めつけていく。 その姿は遥紀にしか見えていない、それでも『腕』がそこならば胴体はここだろう、と真咲は狙いを付ける。 冷気を解く様に腕をふるふると振った膚縫が真咲の頭へと手を伸ばす。へら、と笑った幼い顔に掛けられる血濡れの腕。 「うっわ、いったたたたたた!?」 渾身の力を込め、皮膚がべり、と音を立てても一般人とは違う革醒者は嫌だいやだと首を振り笑っている。斬りこまれる感触も、殴られる感触も真咲は全て知っている。知っているからこそ、この痛みが別物なのだと気付いたのだろう。 文字通り『ぎゃあぎゃあ』とはしゃぐ真咲の様子はまるで遊び相手を見つけた子供だ。 その様子を千里眼で捉えながらアリステアは怯えて震える一般人の背中をさする。此処に居るよりも駅舎に逃げた方が絶対に良い。 周辺に未だうろつく皮無人の数は徐々に減ってはいるものの最初期より増えてはいるのだろう。悔しさに唇をかみしめながら彼女は周囲の様子を完璧に伝えていく。 「おじーちゃん、こっちだ、大丈夫だから」 アリステアの情報を聞きながら彼女から老人や子供を預かり駅舎へと連れていく蒐もまた、彼女の『目』を頼りにしている。 この場で彼女は司令官として立っているのだろう。その責任は少女の細く、小さな背に重く圧し掛かる。 それでもアリステア・ショーゼットは不安を抱かなかった。目の前で黒いコートを揺らして戦う背中が見える。彼がいるから、闘うのが苦手でも、怖くなっても安心できるのだから。 「大丈夫、大丈夫だよ。痛くなんてない!」 ● 何時か。絶対的に恐怖したのはもう昔の事であったのかもしれない。 ペイロードライフルから弾丸をばら撒きながらエナーシアは笑みを浮かべる。揺れる金糸は殴る衝撃に持ってかれそうになるが、彼女はヤワな女ではない。 紫色の瞳を細めて、可愛らしい笑みを浮かべた彼女は弾丸から極悪の魔弾を吐きだしていく。 まるで、彼女の舌禍が齎す様に鋭く、突き刺さる様な弾丸が皮無人の顔面を貫き、その動きを押し留めていく。 「顔が自慢だったら悪かったわね。でも、顔だけじゃ喝采は浴びれないでせう?」 周囲を徘徊する皮無人の数を減らす事に専念する涼は一歩ステップを踏んで下がり再度切り裂き続ける。 早く数を減らさなければ。本部のフォーチュナが見たであろう『地獄絵図』を目の当たりにするのは涼とて本望では無い。 「憐れだとは思うが……恨んでくれていい。やる事は、一つだ」 更に犠牲者を増やす訳にはいかないと奮った刃が『一般人であったモノ』の体を貫き倒す。 痛みを訴える様に声を張り上げるソレに小さく首を振って涼は走り出す。駅前に存在する皮無人の数は減りだした。 アリステアの言葉を聞きながら遥紀が為したのは膚縫の本体の解明。その姿を仲間達に可視化することは出来ずとも、彼にはその姿ははっきりと見えている。卓越した魔術の知識が与えたその姿は何ともグロテスクなもので、見えない事が幸せである様にも思えた。 アイカが敵の間合いを奪い去る様に真っ直ぐにその拳を突き立てる。異形の体の柔らかさを感じるその拳は天国への階段を駆け上がらせるように真っ直ぐに致命的な崩壊を与えていく。 「現実は優しくない、ヒーローなんて居ない――で? そのままで終わりにする訳が、ないっ!」 三高平の高校制服のスカートが捲れ上がる。彼女と入れ替わる様に謳う様にころころと笑いながら弓を握りしめたシャルロッテが色違いの瞳を細める。 ゴシック・ロリータのワンピースのフリルがふわりと風に揺れる。首を傾げた彼女は無邪気に微笑んで己の痛みを一気に力に変えた。 「世界をころころ変えよう、綺麗に混ぜよう、異物は取り除き、濾して綺麗に」 彼女の痛みは彼女の力と合わさり、真っ直ぐに膚縫の体へと刻みつけられる。 ――あそ、―で…… その声を聞きながらアリステアは魔力の渦を生み出す。その中で惑う様に体を揺らす皮無人達の姿は無残な物だ。 アリステアの声を聞き、支援を行う様に繰り出した蹴撃が合わさりその場にできた血だまりにアリステアは小さく首を振る。 「哀しい事が起こるのはいや、だから……ごめんね」 それが、元は普通の人間だと知って居ても。それでも止まる訳にはいかないと天使を目指す少女が囁く声に感化された様に涼は真っ直ぐに走り出す。 膚縫の不可視の体は傷つけられた『痕』がある。空間の歪みにちょっとした爪痕が残されている。 そこを見逃さないのもひとえに遥紀の知識を生かした結果だろう。膚縫の『顔』であろう位置に狙いを定めてエナーシアが弾丸を撃ち込む。 「少々お高くつくのだけど、持ち合わせは十分かしら?」 笑みを浮かべるエナーシアが遥紀を庇う様に弾丸をばら撒いていく。遊び相手に彼女を選ぶとは異形も今日は『ツイ』てない。 その存在さえも『天邪鬼』な一般人の弾丸を受けとめて、膚縫が両腕を振り下ろす。 数の暴力の中でも回復役が安定して居たリベリスタ布陣は何とか周囲を護る事を成し遂げていた。無論、彼等に傷が無い訳ではない。 その傷さえも力に変える少女がへらりと笑う。傷ついても護りたい物が在る少女は真っ直ぐに拳を繰り出す。 傷ついても、それを痛みと思わずに楽しげに遊ぶこどもは斧を振り上げて微笑んだ。 これは我慢比べだと、真咲は笑う。闘志が衰える事もなく、戦斧を握る手が緩む事もなく。 ただ、傷つけられることが楽しいかの様に、遊んで欲しいと手を伸ばすのは『異形』だけではないように。 「ふふっ、ボクはまだ立ってる、死んでない。だから、まだまだ遊べるよ?」 誘う様に告げる声に首を振り、シャルロッテは謳いながら攻撃を繰り広げる。綺麗にしよう、と囁く声に遥紀は真咲を癒しながらその『異形』の姿を見据えた。 血濡れのソレは不可視の場所から真っ直ぐに見据えている。目を合わせない様にと遥紀が首を下げれば、エナーシアは「恐怖なんてもの、懐かしいのだからないでせう」とからからと快活に笑って見せる。 ――あそん、で……。 声が、聞こえる。その声から悪意を感じる事もなければ、善意さえも感じられない。 ただ、己の常識だと言う様に囁かれる声にエゴイズムばかりが先行しているのかもしれないと思いを振り解いて、青年は真っ直ぐに進む。 「お前の価値観では善悪等、無いのかもしれない」 痛みを力に変えた少女が、見えない体を切り裂いて、 「あえて、俺が断罪してやるぜ」 両の手に握った刃(エゴイズム)。不可視のそれは真っ直ぐに不可視の体を切り裂いていく。 涼、と小さく恋人が呼ぶ声に青年は笑みを浮かべる。 明確な殺意が切り裂く体に惑う様に掲げられた指先は惑うことなく小さな子供の体を狙う。 「なぁんだ、そんなに遊んで欲しかったの?」 黒く靡く髪を揺らして、高く振り上げたヘルハウンド。 可愛らしいかんばせに浮かべた狩人の気配を鎮める様に真咲はころころと咽喉を鳴らして笑って、一気にソレを振り下ろした。 姿の無かったソレの指先が零れていく。溶けるように、浮かびあがった両腕が消えていく。 まるでその気配を吸いこむように大きく口を開いたこどもはわざとらしいほどに笑って。 「あはは、楽しかったぁ。ゴチソウサマ! 遊んでくれて、ありがとうね!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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