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<恐怖神話・現>無意識強制のシンパシーライフ

●キャピタルフェイス
 なんて素晴らしい日だ。
 私は感動している。ついにこの日が来たのだと、感激に打ち震えている。
 なんと幸せな瞬間なのだろう、我らの神は幾万にも存在する無数の教徒らの中から、嗚呼、嗚呼、この私をお選びくださったのだ。
 他の信徒達が私に羨望の視線を向けているのがわかる。いけないとは思っていても、この優越感に心躍りせずにはいられない。
 見てくれ、皆、見てくれ。ほら、私の腸が腹から引きずり出されて御使い様の口に運ばれていく。御使い様はグルメなお方だ。選ばれたものの、喉を通らず血の一滴すら吐出されてしまった信者が居たのを私は知ってる。見ろ、私は努力してきたのだ。この日のためにファーストフードやアルコールはおろか、カフェインだって口にしていない。タバコ等もってのほかだ。ほら、だから、どんどんどんどん食べてくれている。御使い様はまだ小さい。こちらの世界に不完全なまま移動なされたからだ。だから私を食べて、嗚呼、元の神々しいお姿に戻るのだ。
 羨ましいだろう。羨ましいだろう。彼らのなんと口惜しそうなことか。しかしこれらの顔を見ていると思い出す。何を。何をって、私の邪魔をした友人達のことだ。やつらはあろうことか、御使い様を悪質なアザーバイドだなどと言いやがった。馬鹿なことを。あれらの魂胆は見えている。私を止めるだの説得するだのと言ってはいたが、真実は御使い様の強奪に違いない。独り占めというわけだ。恐ろしい。悍ましい。あのように我欲の強いやつらだとは思わなかった。
 まったく、何度死線を共にくぐり抜けてきたのかわからないほどだというのに。親友だと思っていたのは私の方だけだったとは。いや、待てよ。あの時は気が動転して思わず後ろから刺し殺してしまったが、よくよく考えれば彼らが急にあんなことを言い出すはずがない。何か理由があったのではないだろうか。
 幸い、御使い様が私を食い終えるまで時間はある。どういった術を用いているのか、脳の全てが食い尽くされるまで私は死んでいなければ意識もあるようだ。痛覚が失われていないので今にも気を違えそうなそれが継続して私に襲いかかりはするが、何、大したことではない。
 それよりも彼らのことだ。事実が判明して私に何ができるわけでもないが、せめて残さなくていい悔いは解消してしまいたい。
 そも、普段から何か任務があれば一緒に行動をしていた彼らのことだ。何かあったとすれば、私も自身もそれを目撃している可能性が高い。最後の任務はいつだったか。そうだ。どこぞの邪教フィクサード集団を壊滅させるために海外に行った時のことだ。
 そういえば、あの時見つけた蓮の花を、彼らは破壊しようと躍起になっていたっけ。思えばあの時からおかしくなっていたのだ。あんなに綺麗なものを壊してしまおうだなんて。きっと、邪教徒らに何かされたに違いない。精神の汚染。嗚呼、なんということだ。彼らは気が違っていたのだ。それであんなにも私の邪魔を。
 大丈夫だ、安心してほしい。私達には御使い様がついている。君たちをあんなにした邪教徒等きっと根絶してくれるに違いない。ほら、もう、すぐだ。私の最後の脳をt―――

●ディテイルテラーテイル
 映像が終わると、何人かが口を抑えて飛び出していった。それを少女が咎めるようなことはしない。むしろ、この場で昼食を戻してしまわなかったことを評価してもいいだろう。人間は、あのようなショッキングな映像を見て平気でいられるようには作られていない。少なくとも、正気であるといううちには敵わない。
 ため息。つきたくもなる。殺人鬼に強大な化け物、旧軍勢。そういった驚異的危機にさらされたことはあるのだし、それらを退けてきたという自負はあるものの、今回のこれは以上極まるものだ。
 凄惨。その言葉にどれほど脚色しても足りないほど酷たらしいアザーバイド事件の数々。昨今、欧州を中心に頻発していたそれらは、ターゲットを海の向こうからこちら―――日本へとシフトさせたらしい。
 極めて迷惑な話だが、上記殺人鬼等と同様にその大規模差からアークの総力を持って相対せざるを得ない。
 さて、他の面子が青い顔で戻ってくるまでまだ時間はあるようだ。ここで少し、これまでの経緯をおさらいしておくとしよう。
 事の始まりは、オルクス・パラストからの調査依頼まで遡る。その件内においてリベリスタらの前に現れた少女は、自分を『ラトニャ・ル・テップ』と名乗った。
 嫌な名前だ。少しでもそっち方面にかぶれているならば、いやでも悍ましい何かを想像してしまう。事実、彼女は異世界の神を名乗ったのだ。物語でしか無いと思っていたものも、真実を伝えていた可能性は否定できない。すべてがすべて、同じだとは限らないが。
 その正体が完全に判明したわけではないが、事件以後の追加調査によればラトニャはバロックナイツの一員、厳かなる歪夜十三使徒第四位『The Terror』であると見て間違いはないらしい。調査者自身も、ラトニャとの遭遇時には散々な目にあったのだとか。
 異世界の神。つまりは、ミラーミス。ラトニャの言が真実であるのなら、現在同時多発的に発生しているこれらの事件はすべて彼女の影響である可能性が高い。彼女が日本に対してターゲットをとったのであれば、彼女と同じ世界のアザーバイドらが侵略の動きを見せてもおかしくはないからだ。彼女の目的は分からないが、どうにも目をつけられたことに間違いはない。
 と。
 ブリーフィングルームのドアが開いた。予想通り青ざめた顔をしているが、仕事に頭を切り替えられるくらいには回復したらしい。それを見計らい、少女が口を開く。
「辛いとは思うけど、話を続けるわね。千葉県某所にて、一体のアザーバイドと、それを信仰するフィクサードが複数出現したわ」
 要点を、あげるに。
 フィクサードらは儀式めいた行動をおこし、自分達の中から選ばれた者を順番にアザーバイドへと生贄に捧げている。アザーバイドは不完全な状態でこちらの世界に移動したようで、革醒者を食す度に力を取り戻しつつあるようだ。
 完全に力を取り戻してしまえば、対処は非常に困難となるだろう。その為、儀式が終了する前にフィクサード諸共アザーバイドを殲滅する必要がある。
「ただ、問題があって。どうも、万華鏡の感知タイミングが遅れているみたいなの。今回の事件が唐突過ぎたせいだと思うのだけど」
 つまりそれは、現地に向かった時点で既に何人を食らっていてどこまで力を取り戻しているのか、その詳細が不明ということだ。
 最悪の場合、間に合わないという結果だけはないと信じたいものだが。
「とても、危険な任務になると思う。でも、放っておけば日本が崩界の震源地になってしまうわ。お願い、なんとしても解決してきて」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月25日(日)23:04
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

千葉県某所にてフィクサードが複数名と、アザーバイドが一体出現しました。
放置すれば成長し、手の付けられない相手になる可能性があります。
これらの集団を現地にて殲滅してください。

●エネミーデータ
○乳白色の人型アザーバイド
・爬虫類のような尾を生やした女性形アザーバイドです。こちら側に来るのに余程無茶な手段を使ったのか、本来の力を失い、弱体化しています。弱体化と言っても100%を基準としたものであり、今のままでも脅威であることは変わりません。革醒者を食べることで力を取り戻すようで、このアザーバイドを『神の御使い』であると崇めるフィクサードらが自身を捧げることで着々と力を取り戻しつつあります。
・全力を取り戻した場合、その討伐は非常に困難なものとなります。なお、死体を食しても力を回復させることは出来ないようです。
・非常に素早く、力の強い相手となります。常に二回行動を行い、通常攻撃はHPに与えたダメージと同様の値をEPからも削ります。
・食事の際には2ターンの間無防備となります。この間、フィクサードが邪魔をしなければ攻撃を回避されることはありません。一度の食事ごとに全ステータスが大幅に上昇し、体力を回復します。また、その光景は直視できるものではなく、食事時にこのアザーバイドを攻撃対象としたリベリスタは虚弱・圧倒・重圧・ショック・混乱・魅了の内のどれか、ないしは複数のバッドステータスを被る可能性があります。
・当然ながら、リベリスタを食しても同様の効果を得ることが可能です。

○邪教フィクサード
・乳白色の人型アザーバイドを『神の御使い』だとして崇めるフィクサード集団。映像終了時点で六人が確認されていますが、戦闘開始時には減っている可能性があります。その場合、減った数だけアザーバイドの能力が上昇していると考えてください。
・個々の戦闘力はそれほどではないものの、彼らはアザーバイドのために死ぬことを恐れません。アザーバイドの盾となり、食事となり、彼らはその身を喜んで捧げ続けるでしょう。
・装備や立ち回りから、戦闘開始後に彼らのジョブや種族を見極めることは非常に容易です。

●シチュエーションデータ
・廃ビルの地下テナント。太陽光の差し込む場所ではありませんが、儀式のために様々な光源が持ち込まれています。
・緊急時に備え、複数の出入口があります。

●重要な備考
 このシナリオの結果により崩界度が1~3点上昇する可能性があります。
 またエリア毎の失敗数によっては不測の事態が発生する可能性があります。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 予め御了承下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハーフムーンソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
ハイジーニアス覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
ノワールオルールクリミナルスタア
依代 椿(BNE000728)
ハイジーニアスダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
ハイジーニアスホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
ギガントフレームプロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
ノワールオルールダークナイト
七海 紫月(BNE004712)
ギガントフレームクリミナルスタア
緒形 腥(BNE004852)

●カンバスト
 思うように体が動かないというのは、こうも不便なことであったのか。こちらの世界に降りてすぐに、自分が本調子ではないと気づいた。嗚呼、なんということだ。私は失敗したのだ。やはりあの程度の転移式では私を移層するなど不可能であったのだ。失敗だ。失敗だ。失意に打ちのめされる。時間は足りるだろうか。一刻も早く、私は私を取り戻さねばならないのだ。

 寒かったり、暑かったり。どうにもここのところ、気温の変化が激しい。上着が必要か、はたまた邪魔になるか。それは日毎悩ましく、判断に困る。しかしまあ、怪談とするには不釣り合いな季節でもあるわけだ。底冷えしたいわけでもなく、皆ぐうたらに身を委ねかける自分を必死に叱咤する。そんな季節である。しかしそれでも、向こうはこちらの都合など構いはしないのだろう。
「……悪いが俺は、対宗教勧誘はプロ級でな」
『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)はよくわからないが自信に満ち溢れていた。どこで線引されるんだろう。検定でもあるのだろうか。冗談はさておき、話から察すればどうやら意志力が弱ければ強制してしまうほどの何かがあるようだ。洗脳。永続的な魅了。押し付けられた信仰。自分は大丈夫だと思う前に、自分は自分であるのだと言い聞かせる。しかし、誰もがデカルトのようになれるわけではないのだ。
「かなりグロテスクな相手ですが負けるわけにはいかないし、実際グロテスクな敵って別に少なくなかったような」
『戦技巧霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)のように考えれば、今更珍しい相手というわけでもないのだろうか。見た目の醜悪性で言えば、わざわざアザーバイドでなくともエリューションで事足りている。あれらも、相当に嫌悪感を掻き立てる外見のものが多い。しかし、それでも。どこか別種の恐怖が、不安が警告を発しているのだが。
「人んちの庭で一体なにやらかしてくれとるんやこのアザバは。クトゥルフは好きやけど、正直情報少なすぎてこれが何なんかわからへんし……」
『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)の知る限り空想の物語でしかなかったはずのそれら。知識を絞っても該当するシェアードノベルには行き当たらないが、そも当てはめていいものかもわからない。しかしやることに変わりはない。
「邪神でも眷属でも、うちの管轄でおいたするなら邪教徒諸共潰すだけや」
「信仰に命を捧げる。言葉だけ聞くと、美しくも聞こえるのですが。見える光景は、血生臭いですねえ。うん、とっても素敵ですよ滑稽で、ふふふ」
『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)はわらう。作られた信仰。思わされている心酔。どうにも、こうにも。つまりは何もかもが嘘なのだ。生涯を誓った信仰は薄っぺらで、本能からの心酔は作為的であるのだ。酷く嘆かわしく、意地悪く見ればとても滑稽な人形劇。
「まったく冗談じゃねぇよ。一般人だけじゃなく、革醒者の精神まで狂わせる化物とか」
 友好的な来訪者であれば歓迎だったのだ。実際、そういった敵意のないアザーバイドというのを『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は何人か知っている。しかし、今回のそれは真反対だ。とびきりの悪意。こちらに合わせた良心なんてこれぽちもなくて。絶対に、自分達とは相容れない。正しく、人外。
「仲間達を、この世界を。護り抜いてやる!」
『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は考える。確かに全ての外的世界生物、アザーバイドらが全てそう都合よくこちらの世界に出現できるのはおかしい。たしかにどこぞの公園のような穴はあるが、それでも今回のように不完全であったり、場合によれば地球外に出現していたって不思議ではないのだ。
「ここにきてアークはようやく『本当のアザーバイド』と出会えたのかもしれません」
「自分の信ずるもの、気に入ったものの役に立ちたいと思うのは自然でしょう」
『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)は思う。
「しかしそれにも限度がありますわ、親子、恋人の情愛じゃあるまいに……もはや崇拝を通り越して呪いと呼べるものではないでしょうか。それでも本人達にすれば幸せの極みなのでしょうか?」
 自分を食して貰うことを至上とする心は理解できない。できようがない。してはならない。させられてもならない。
「……やれやれ」
「ヤダー! 食事マナーもクソも無いじゃないですかー」
 緒形 腥(BNE004852)はおどけて言ってみるものの、それで事態が好転してくれるわけでもない。「あらいやだ私ったら」なんて淑女が敵ならどんなにかありがたい。まあ、そんなことはどうでもいいのだ。以前に討伐した同世界と思しきアザーバイドはひとの中身を集めていた。では、これの役目はなんだ。これが元に戻ったとして、一体何をするつもりなのだ。
「……それとも、目印か?」
 到着を、感慨ふける時間はない。猶予があるのか、ないのか。それすらも不明であるためだ。走る。走る。予言された部屋と思しき扉に手を付けて、勢い良く開き。そして。

●オーディエンス
 どうにも駄目だ。私にはここの肉は口に合わないらしい。最も無防備であった原住生物を適当に腹に入れたのだが、どうにも満たされそうにない。力の復活にはまるで足りないのだ。これでは何千、何万と食いつくさねばならない。そうまでしている時間はないのだ。やはり、安全策ばかり取るわけにもいかないようだ。

 異常な光景だった。
 鰐を彷彿とさせる尻尾を生やした女性。衣服らしきものを一切まとわぬそれは扇情的ではあったものの、それよりも人類としてはありえぬ奇妙な乳白色の肌が目を引いた。いっそ、神々しくすらあるほどに異質である。
 それはひとを食らっている最中であった。
 信者と思しき男の腕を千切り、指を噛み砕き、肉を咀嚼して。すさまじい痛みであろうに、腕を失った男は恍惚の笑みさえ浮かべていた。快楽の絶頂に等しい表情。ぶちゅり、ぶちゅり。骨と肉を同時に食らう音。そして嚥下と共に、鰐尾のそれの存在感が増した。
 ぞっとする。理解する前に駆け出していた。あれはこれよりもっと恐ろしいものとなるのだ。否、もっと悍ましいものに戻るのだ。
 食事風景。そこにとんでもない異常を孕んだ瞬間は、次の一刻で戦場と重なった。

●リジェクション
 満たされない食事を繰り返していた矢先に、反抗的な原住生物と接触した。ああ、これは美味い。力が漲るようだ。これだ。これがもっと欲しいのだ。最後の一匹は生かしておくことにする。こいつに集めさせよう。私はそいつの頭蓋を開いて脳を弄る。原住生物共の骨は非常に柔らかい。こんな軟骨ばかりでよく生きていけるものだ。

「ほう……いい趣味しているな。混ぜてもらえるか」
 鷲祐の全身が光り、神経がエンジンを蒸かす。全霊を持って戦闘に挑むための常套手段ではあるが、今回に至っては勝手が違うといえよう。
 インストール。自己付与。その猶予がアザーバイドの食事を終えさせる。一気に濃密さを増す悪寒。次の飯へと手を伸ばした姿に、足が自然と動いていた。
 これ以上食わせてはならない。次の『飯』に選ばれたそいつを始末すべく走るが、その途中で阻まれる。他のフィクサードが自身を顧みず突撃してきた為だ。一歩、足が止まる。嗚呼、見た。見てしまった。この距離で、この近さで。それを見てしまった。
 まだくっついたままの腕を順々に握りつぶし、溢れでた血と肉汁を飲むのだ。ひしゃげ、つぶれ、嗚呼搾り取られ干からびていく。なんだこれはなんなのだ人間がこんな風にされていていいのか。
 その光景に目を奪われ、思わず立ち尽くしてた。いいや、見たくはない。見たくはないのだ。どうしたらいい。嗚呼そうだこんな眼球があるから。

 珍粘は次を食い始めたアザーバイドへと、強化された自己の一撃を吐き出した。
 生命力を真逆に転換し、吐出された漆黒のそれはアザーバイドもろとも一体を食い散らす。だが、その暗闇のなかに彼女は見た。見てしまった。
 珍粘の精神は強固だ。その光景を眼にし身の毛もよだつ思いを感じながらも、その心身が囚われることはない。メンタルプロテクト。恐怖は彼女を阻害しない。
 故に、それを見て取れたのだ。アザーバイドは自身と共に巻き込まれた『飯』を暗闇のなかでなお食していく。『飯』は死なない。死んでいない。最後のひとかけら、脳を食いつくすまで生かされている。
 ぶちゅり。ぶちゅり。不吉さ以外を感じさせぬ咀嚼音。ぶちゅり。ぶちゅり。珍粘は駆け出していた。せめてその無防備な瞬間に剣を叩きこむために。
「お食事中、失礼します。じゃ、死んでください、ね?」
 切りつけた確かな感触。本当に食っている間は無防備なのか。だがその直後、戦場の空気が変わる。
 ふたりめを、終えたのだ。

「落ち着いて心を強く持て! 惑わされるな、恐れるな!」
 エルヴィンはともすれば跪きそうにもなる鉛の海で、仲間へと必死に声を飛ばしていた。
 強い。よりも、怖い。まるで理解できないのではなく、まるで想像の域外を感じさせる怖さ。
 だがそれがどうしたというのだ。それがなんだというのだ。これは化け物だ。ひとを食う化け物だ。ひとを食う化け物に過ぎないのだ。そんなものならこっちにだって転がっている。何度だって見てきたのだ。理性で己を塗り固めろ。そうだ、それだけだ。今更ビビってやる必要なんか無い。
 仲間を癒やし、亡失した自我を取り戻させてやる。治癒者の役割とはそれだ。
 瀕死のフィクサードがひとり、食い物にならんがためアザーバイドへと走りだした。それに身体をぶつけ、インターセプトを試みる。ぐらついたその女の最後を、仲間の一撃が決めた。
「……正直こいつら敵っつーより餌って認識になっちまってるな。やだやだ、既に結構染められてんじゃねーのかオイ」

 慧架が最後のひとりの左胸に鉄扇を突き刺した時、背後に感じた怖気を確かめぬまま彼女は前へと跳んでいた。
 瞬間、これまで自分の立っていた場所に大きな穴が開いていた。背後に立ったアザーバイドが拳を振り下ろしたためである。
 見た目にさして変化はない。だが、このフロアに入ってより感じていた危機感はよりやかましく脳内で警報を鳴らしている。
 それは力が強く、ひとを喰らい、人間を操作する。そのどれもが危機感の答えとして正しい。だが、完全な回答とは言えない。何よりもこれは異質だ。自分とは、この世界とはまるで違うものなのだ。社会を放り投げたその先にまだ残る常識のさらに埒外にあるものなのだ。
 ひとつの本能は逃走しろと叫んでいる。ひとつの本能は心酔してしまえと囁いてくる。だが選ぶべきはどちらでもない。なぜなら今、自分はリベリスタとしてここに立っているのだから。
 接敵。白兵。そして火花散るほどの連撃。炎の拳を叩き込み、今自分があるべきをありありと見せつけた。

 少しだけ。一歩だけ。ひとはその思いが敏捷な獣でさえ殺しうると知っているのに、それをやめずにはいられない。それは原動力でもあり、猛毒でもある。誰しもが突き動かされ、しかし万事を得るは一握りにすぎない。
 椿が覗いたものは、つまりはそういうものであった。最悪を凝縮して、塗り固めたかのような。
 なまじ、事前知識を持っている。それが仇となったのかもしれない。彼女にはわかってしまった、理解できてしまったのだ。
 このアザーバイド。乳白色の彼女が元来どれほどのものであるのかを。
 力を取り戻しているなど、とんでもない。こんなものはほんのひとかけらに過ぎない。絶対に本性を取り戻させてはならない。完全になれば立ち向かえない。逃げることも敵わない。どこまでもどこまでも追いかけてくる。覚えられてはならない。目をつけられてはならない。なんとしても不完全なまま殺し尽くさねばならない。だってほらどこまでも。どこまでも、どこまでもどこまでもどこまでもどこまでも。嗚呼この異常な、
 角度。

 それに込められたものは死である。
 鉛は執行者であり、火薬は殺意であり、薬莢は死神の鎌の柄である。それらは暗く深い鉤爪で何度も何度もアザーバイドを抉り裂いた。
 その度に艶かしい肌は裂け、中身が露出する。血は吹き出ず、何の用途かもわからない内蔵管が顔を出した。苦痛の表情は見せない。いや、そもそもこちらの知りうる表情と同じだとすら限らない。
 そしてみるみるうちに内蔵は中にすぼみ、ささくれた皮膚は元の艶やかさを取り戻していく。しかし、観察眼の鋭いあばたにはわかる。これは再生ではないと。
 再生ではない。ただ戻っているだけなのだ。形を取り戻しているに過ぎないのだ。あとどのくらいの、とまでは分からなかったが。それでも着実に、確実にダメージを与えているのは確かであった。
 それを仲間に伝える。平然とした顔を見せて入るが、こいつは確かに傷を受けているのだと仲間に送る。しかし同時に、仲間にも披露や憔悴の色が濃いことをあばたは理解していた。

 それがなんであるのか。腥にも朧気ながら理解できた。それ故に、叫び出したい思いは喉のすぐそこまで顔を出そうとしていた。
 アザーバイドが本調子ではない。それは確かにこの場における最大の優位点ではあるのだが。想像してみて欲しい。徐行運転している重量車とは恐ろしくないものなのだろうか。いや、なるほど。確かにそれだけであれば危険はないのかもしれない。だが、それに真近まで近づき触れることは可能だろうか。
 いつになれば、どこであれば、いったいあとなんにんを。想像するだけで恐ろしい。トラックが急発進するかもしれないように、あとひとりでも喰らえば元来のそれに、元の力を取り戻さぬとは限らないのだ。
 例えば、今この自分を食らっただけでも。嫌な想像が背中に冷たい汗を走らせる。
 嫌な想像を振り払うために引き金を絞った。室内に銃声はよく響く。
「さあ、中身拝見のお時間ですよー」
 おどけたセリフを吐いてみるものの、気持ちの悪い思考が頭の片隅にかじりついて離れなかった。

「信仰の対象にするのならあんなものではなくもっとましなものにしなさいな。天使様なんてお勧めですよ、食べさせろなんていいません。そも向こうから要求すること自体おかしいのですから」
 なんてやさしく声をかけてはみたけれど、殺るも殺ったり食うも食ったりという有り様と相成ったものだ。
 だって、仕方がない。見ず知らずの自分の言を聴くようであれば、端からおのが身を差し出してまで行うような献身になど達せるものではなかろう。それがたとえ、仮初めの信仰であったとしてもだ。
 そして今、紫月は憔悴の中に居た。
 癒やし、きれないか。自分とエルヴィンの二枚体勢。それを持ってしても、ふたりを平らげたアザーバイドの力は凄まじいものであった。
 向こうにもダメージを与えてはいるが、遠くない先、こちらの誰かが膝を折るだろう。消耗は積み上がる。全滅は愚かだ。故に、どこかで線引は必要となる。
 用はそのラインを先に超えるのはどちらであるのかというわけで。

●イリーズ
 もう少し、もう少しだ。この『かくせいしゃ』という生き物は私を満たしてくれる。元来の私を取り戻してくれる。ほら、今も。歓喜にあふれた顔で私の復活を祝福してくれている。次はどいつにしようか。嗚呼また腹の音がなる。満たされない。もっと。もっと。もっと。もっと。

 ふたり。
 それを最低ラインだと定めていた。
 それ以上は守れなくなる可能性が大きいからだ。味方を失い、敵はこれまでの傷を癒してなお強大化する。そんな事態は裂けねばならなかった。
 命あっての物種、という言葉もある。
 膝を折り、崩れた仲間に肩を貸す。 
 準備は迅速に行い、条件が整ったことはテレパスで伝え済んだ。
 これ以上は戦えない。いや、戦えはするが被害を想像できない。故に撤退する。これにより失われる生命が増えるのだと自身を苛みながらも、ただ今日を生き残ることに専念した。

 リベリスタが撤退して幾秒か、アザーバイドもまたその場でへたり込んだ。
 数激。数合。
 打ち合えば滅んだのはどちらであったのだろう。
 それは定かではない。確かなのは、リベリスタの猛攻は確かに異物者を削ぎ落とし、しかし果たせなかったという結果であった。
 数時間後。それは立ち上がる。
 もっと、もっと、在りし日の自分を取り戻すために。
 了。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
まあるい部屋。