●山河下り それは統一性を持たず、散漫な印象を受けた。 フォルムを参照するならば、鳥と呼ぶのが最も相応しいように思える。上半身に腕はなく、代わりに冷気を纏い結露した翼が生えている。だがその頭部は鋭い眼と嘴のある鳥のそれではなく、瞳の濁った騎馬のようであった。長い尾が伸び、鱗で覆われた下半身は、蛇やヤモリなどの爬虫類を連想させた。 異形は更に、単数ではなかった。 好き放題に散らばった隊形からして、統率された集団とは言い難く、しかしそれぞれが独立した個体と断ずるには、あまりにも容貌に特徴がありすぎた。 片翼であったり、腹から腸管を零している個体も見かけられたが、概ねの部分で一致する外見上の異質さゆえに、それらがひとつの群れであり、かつこの世ならざるモノであることは明白だった。 付け加えるならば、全員が禍々しい呪詛じみた妙な唸り声を漏らしていることも共通していた。 怪鳥の群れは今、大佐渡山地の険しい峰に集っている。 寒暖差が少なく、雪解けもゆっくりと時間を掛けて行われる佐渡島の安定した気候は、波乱と緊迫を求める彼らにとっては窮屈で、居心地がいいものではない。 山脈から島の中心を見下ろし、解放を心待ちにする奴隷のように、じれったそうに喉を鳴らしていた。 いずれもがだ。 キメラのごとき歪な怪鳥どもは例外なく飢えている。 そして待ち侘びている。儀式が成る時を。 仕えるべき主の顕現を。 ●悪鬼の夢見 伸びぬ芽はなく、実らぬ果実もない。 時が満ちることもまた必然である。 異形の群れは硝子をこすり合わせたような不愉快な声で鳴き出した。 それが冥界に住まう神性を迎え入れる礼賛だと理解できる者は、彼らの他にはいないだろう。 空間に、大きく穴が穿たれた。 別次元を渡ってきた新たな来訪者は、従者に比べてかなり鳥に近い――鳥類にあるまじき異常な体高を除いては――形状を取ってはいたが、その眼球はひとつしかなく、ひどく不安定な感情を植えつけ、輪を掛けて面妖な雰囲気を放っていた。 現実から大きく乖離した姿ではないが、その分奇怪で強烈なインパクトを残し、殊更に不気味に映る。 隻眼の主は出現するなり、地鳴りめいた騒々しい鳴き声を上げた。 この物の怪にあるのは破壊衝動だけである。 何もかもを壊し、崩し、滅ぼす。宿命として身に刻まれた本能が、悪辣とした思考へと導いている。 大いなる君主の欲望を満たすため、怪鳥達は一斉に氷の翼を広げた。 まとまりのなかった集団も、明確な上位存在を得たことで一貫性を持つようになっていた。 一羽、また一羽と、峰を越え、麓を越え、野を越えて、平穏に飼い慣らされた衆愚の元へと飛んでいく。 宿願は果たされ、ついに破滅の饗宴は始まったのだ―― ●連なる鍵 鳥獣達は主の到来を待っている。 口の端から涎を垂らして、自らも享楽の舞台に加わることを夢見ている。 その主君もまた、己も一欠片に過ぎないことを自覚している。 全ては王の王のために。 ●預言者の切れ端 『 日本国内で同時多発的に発生したアザーバイド騒動の調査と対応に追われ、一件一件に十二分な時間を割くことが困難であり、またそれらの突発性連鎖事件群を発端にアーク内部に広がった甚大な混乱の鎮静化に努めている最中でもあるため、ひとまずの断片をここに記す。 先刻観測されたアザーバイドの出没区は新潟県佐渡市。陸繋ぎでない島ではあるが本州から隔絶された地域と呼ぶにはあまりにも距離・文化的に密接であり、他の事件と同様の緊急性を要している。 カレイド・システムが込み入っていることもあり、肝心のアザーバイドに関しては鳥のような馬のような外見という点と、加撃手段の一部しか今現在は判明していないが、行動理念はシンプルなこともあってか既に感知済みであり、島内全域の占領を目論んでいるとのことである。 留意点として、漠然とではあるが裏に流れる強大な力の脈拍も予見されている。仮に更なる敵生物が出現した場合、戦力格差と被害の拡大は必至。猶予は限られている。存分に警戒されたし。 またこれらの事件群は、欧州で頻発しているアザーバイドの怪奇事件と合わせて、先日の調査依頼で遭遇した"ラトニャ・ル・テップ"という少女と何らかの関連性が存在すると推定されているが、根拠及び詳細は現時点では不明。しかしながら追加調査によれば、このラトニャなる人物は同時に、バロックナイツの一員である可能性が高いとされている。その両面から現在も彼女を対象にした調査を続行中である。 最後に。冒頭陳述の通り、事態は非常に重大、かつ突然のことであり、風雲急を告げている。時間的な問題から万華鏡の感知も不十分なため、あくまで急場凌ぎのメモであるということを、改めて書き記しておく。 多くの困難が予測されるが、なんとしても被害を最小限に食い止めなければならない。任務に臨むリベリスタ達に加護があらんことを。 』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深鷹 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月25日(日)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●雪椿の大地 バサバサと騒々しく立つ鳴動は、緑樹の若葉が揺れる音が、あるいは翼が羽ばたく音か。 山地を跋扈するクシャナバの群れは、その機の到来が迫ってきていることに俄かにざわめいていた。 陽は高く、遮蔽もなし。 悲願宿願念願大願が成る時は近い。 服従を誓う首謀者と共に、この佐渡の地に破滅を招かん。 そこが次元の綻びとなり、更なる享楽の種がもたらされる。なんと素晴らしき混沌の連鎖か。 ――オオ、オオ。 群れの何羽かが逸る気持ちを抑えられず、浮き足立って喉を鳴らした。 その濁った眼は一直線に、裾野に広がる市街地を睨んでいる。 機は熟し、道もある。何を躊躇うことがあろうか。 氷点下の翼を伸ばそうとした、その矢先。 何者かの影が、集団を引き裂いた。 ●悪鬼討つべし 千切れた羽根が舞い、砂埃が巻き起こる。 疾風怒濤の勢いでアザーバイドの群れに突入した若武者は、二人。濡れたように輝く太刀を抜いたアズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)と、長剣を高々と掲げる『咢』二十六木 華(BNE004943)であった。 剥き出しになった熱い敵愾心は、荒涼の地さえも震わせる。 「我等アークリベリオンの矜持にかけて、街は守りきる!」 刀の切っ先を突きつけて凛々しく啖呵を切るアズマ。 「此の先にはァ、行かせらんねェェんだよ!!」 暴力としか称しようのない猛々しさで、乱雑に剣を振り回す華。 互いに背中を預け合い、不気味な怪鳥どもを相手取って大立ち回りを演じる。 挑発を受けた連中は、怒気に満ちた視線を向けながら、束になって二人のアークリベリオンを迎撃―― 即ち、彼らからしてみれば、十分に敵の注意を引けたということだ。 やや離れた先の上空。 眉の辺りに平手を当て、金色の瞳で『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)が乱戦の様子を眺めていた。 「おうおう、上手いこと固まってくれてるわ。纏めて吹き飛ばすのは大得意ってね!」 背中に生やした翼に烈々たる電流を迸らせ、肩から提げた自慢のアーティファクト・ギターを、手首のスナップを効かせて思い切り掻き鳴らす。 指板上を自由自在に駆け巡って紡がれた旋律は、強大な魔力を宿した術式を構築する。 「サウンドトラック、トゥー・ユアフューネラル。それっぽいだろ?」 にやりと笑ってみせる杏によって弾かれた、激しくも悲しいマイナーキーのソロに乗せて、全面を鑢で磨き上げたかのように炯々と光る金属質の黒鎖が発現。存分に精神集中を重ねて放たれたそれは、狼狽するアザーバイドの群れを飲み干すように、一切の手心なく無慈悲に叩きつけられた。 鍵を握るダメージ源は、その杏の対角線上にも。 「射線不備なし。照準バッチリ。十全に撃ち込ませてもらえる環境だわね」 『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)のしなやかな指が、重厚長大を極めた対物ライフルのトリガーに触れる。 引き絞り、可動。 大雑把なマグメイガスの範囲火力の不足点を補うかのように、杏が撃ち漏らした残党を、持ち前の銃器センスを活かして的確に射抜く。 そして最後に、最もアザーバイドが密集したところを見計らって、蒼天を雄大に泳ぐ火の鳥の姿があった。 言うまでもなく、『てるてる坊主』焦燥院 "Buddha" フツ(BNE001054)が呼び寄せた朱雀である。 紅蓮の業火で彩られた翼が、異界産まれの冷気を纏った怪鳥達を焼き払う。 炎は凍土を融かし光明を灯す。 「よくやった、今のところいい感じだ!」 三方より浴びせ掛けた一斉掃射により、ひとまずは敵の出鼻を挫くことに成功。 通信機器を搭載した数珠を口元に当てて、墨染めに身を包んだ僧は堂々とした声音で、仲間に埋伏の計の成否を報告した。無論、万事順調だと。 敵地に乗り込んだその瞬間から駆除対象の監視を続け、各員と連絡を取っていたが、タイミングというものはやはり巡ってくるらしい。 目論見通り、先行部隊に引きつけられたアザーバイドの群衆に先制攻撃をお見舞いすることが出来た。 けれど気を緩めるわけにはいかない。 別格の戦闘力を有すと予想される親玉が控えている以上、出現前に素早く終わらせねば。 「さあてここからが本番だ! 各自、殲滅活動に移るぞ!」 通信を断ち、槍を構え、加護を受けた神秘の翼で飛翔する。 その目で見据えるは流動する戦況か、あるいはその先に待つ平穏か。 ●破邪顕正 バサリ、バサ、バササ、バサリ。 歪な翼を展開する音が不揃いに鳴り響く。羽ばたきのひとつひとつが、大気を瞬発的に凍らせる。 敵が飛行を始めた途端、戦場は制空権の奪い合いとなった。 リベリスタ側における空中戦の中核を担っているのが、癒しを司る『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)。 幾度にも渡って翼の加護を掛け直し、その効果を維持し続ける。冷気を断つ魔力障壁のおかげで、仮にクシャナバに狙われたとしても、とりあえずは行動不能に陥るといった事態にはならない。一時も手を休めることなく、目まぐるしく入れ替わる状況のコントロールに専心。 猶予のないこの逼迫した場面では、言葉を発する暇さえ惜しい。ノートにすらすらと治癒の術式をしたためて、声による詠唱の手間を省く。脳波を送るテレパシーで意思の疎通を図り、翼と回復を必要としている味方を適宜アシスト。攻撃が滞ることのないよう全力で努める。 補助は動きを封じられることのない自分が一身に引き受ける。だから―― 沙希は遠くを見遣った。 そして願う。風が吹くことを。 兵は神速を貴ぶ、とは、いつの時代の故人の格言か。 とにかく、今回の任務においてリベリスタ達は速攻を仕掛ける必要があった。そのために求められるのは、高密度・高火力・高範囲。 「散らばられると、こっちも困るんだっての!」 咥え煙草の杏が苛立って放った一言が、それを達成するに際しての厄介な点を顕著に表していた。 クシャナバの間に生じた混乱は大きく、突然の出来事に声を荒げて紛糾する中で、ある個体は怒り狂ってリベリスタに襲い掛かり、ある個体は脳の処理が追いつかずに逃げ惑い、ある個体は妨害工作であることを本能で察して飛び立とうとするなど、バラバラに行動し始めるようになった。 ゆえに進行方向は多岐に渡る。 「向かってくる子は巻き込めばいい! 舵を切った子を撃ってー!」 透視能力を活用して全体を見渡し、規則性のない敵の動きを索敵していた『Eyes on Sight』メリュジーヌ・シズウェル(BNE001185)の号令が響く。 指示通り、戦場を離れていきかねない個体から優先的に討伐に当たっていくのだが。 「こちらに向かってくる敵にまでリソースを割いてられないのだわ!」 全てのアザーバイドが離脱を試みているわけではなかった。 浮遊して、翼部の付け根をピンポイントで撃ち抜いていたエナーシアであったが、市街地を目指そうとする個体の始末に追われて、反撃に出てきた気性の荒い輩まではセットで捌けない。 「あんな気味の悪い怪物と触れ合うだなんてご冗談。誰か、手の空いた方から力添え願えるかしら?」 接近戦に持ち込まれることは本位ではない。 「それならお姉ちゃんにお任せっ! 沙希ちゃんが頑張ってくれてるし、私もいいとこ見せちゃうもん!」 地表すれすれを低空飛行し、ホバークラフトのように滑って移動するメリュジーヌがライフル銃を構える。 量子化を応用した物質透過技能は、障害となる木々や岩をも無視して。 「あたってー☆」 気の抜けた掛け声と共に射出された網目状のオーラが、エナーシアへと飛来していたアザーバイドを陥穽に嵌めた。 「あたったー☆」 無論、網に掛かった哀れな獲物はエナーシアに狙撃される運命となる。 「その調子でお願いするのだわ」 「オッケーオッケー☆ さー猟師気分でビシっとやっちゃうよー!」 ウィンクしながら軽口を叩くメリュジーヌだが、増幅させた異能力を意識共有で味方に分配することも忘れない。攻撃一辺倒ではなく、臨機応変に動くことが可能なのが、遊撃に適したプロアデプトの強みである。 (メリュちゃん、本当に心強いわ) 沙希が胸裏で呟いた。これでまた、全員が全力で戦闘に臨むことが出来る。 「敵に背を向けるたぁいい度胸だな! だが、逃がしはしないぜ!」 退散しようとするクシャナバをアズマは衝撃波で強引に引き寄せ、三体を同時に相手取る。 「悠長に相手をしている暇はないんだ。一気に方を付ける!」 元より勝気な性格ではあるが、決して敗北が許されない一対多のシチュエーションには、燃えるものがあった。後退する気など毛頭ない。 前へ、より前へと。 虚空に走らせた剣閃は幾重にも折り重なり、鳥とも獣とも付かない奇怪な胴に裂傷を負わせていく。 最前線に立ち続ける華もまた、複数を前にして威勢を奮っていた。 「時間がねェんだ。雑魚は一纏めにぶっ飛ばす!」 怪気炎を上げて、授けられた翼で宙を舞いながら、魔剣を縦横無尽に振り回す。 刃の軌跡は時に弧を描き、時に水平に薙ぎ払い、時には流星の速さで一直線に突き出され、相対するクシャナバの心臓を穿つに至った。 一度地上に降りて掌をじっと見つめ、自分の成長を実感する。 「ハッ、この程度で満足なんてしてられっか。俺はまだ強くなる。なってみせらァ!」 大地を蹴り、華は血潮を滾らせて戦線に復帰する。 それよりも上に逃げる奴らは請け負ったとばかりに、数枚の呪符を投げて式紙を招来させたのは、中空で立ち塞がるフツ。目には目を、鳥には鳥をとでもいった趣か、影で象られた鴉の一団をもって応戦。 巧みな槍捌きと合わせて、遠近対応で撃墜を狙う。 「……っと、流石に凍りつきはしないか。厄介な翼だな」 突き立てた槍の穂先の手応えが薄いことを確認すると、一旦距離を取る。 一歩退いたことで、複数体を視界に収められた。 「やっぱり氷には炎といくか! 南方を鎮めし四神朱雀よ、この北の地で再び燃え広がれ!」 メリュジーヌの助勢により満ちに満ちた気力から呼び寄せられた炎の化身は、初撃と何ら変わることのない凄まじき威力で、不気味なアザーバイド達を覆い尽くし、骨さえ残さず焼却した。 反転して逃れようとする個体には、杏が当たっていたが。 「あーもう面倒くさい。全部が視野に収まるまでなんて待ってられないね」 首の骨をコキコキと鳴らし。 「アタシの後ろには誰も控えてないんだよ。アンタらに分かるかね、この不退転の決意ってやつがさ」 煙草を口から離して、ヘッド部分の余弦に差し挟みながら、杏は口上する。 そしてゆっくりとギターのチューニングを合わせる。 その一音一音に呼応するが如く、背中の羽が電流で青白く発光し始めた。 「痺れて失せろ、この馬面!」 大きく腕を振り、耳を劈くような轟音が響いた刹那、ジグザグに進む雷撃が杏を中心にして放たれる。 最高潮のボルテージで。 無作為かつ無尽蔵、いっそ清々しいほどオーバーキル気味に、数十条の稲光がアザーバイドの頭上へと落とされた。 「逃げる奴らは概ね片付いた!」 その光景を眺めていたフツが、幻想纏いを介して皆に檄を飛ばす。 「後は……この場に残ってる連中だけだな」 数の上では一桁ほどしか残っていないとはいえ、戦うことを選択したクシャナバは、それだけ力に自信を持っているのか、いずれもが猛者揃い。攻撃ひとつ、疾駆ひとつ、あるいは纏っている雰囲気ひとつ取ってみても、その片鱗が窺えた。 闘志があるということは必然、相応の勘が働いている。 「――ッ!?」 戦況を掌握しているのは表立った攻撃役ではなく、その裏で支援に徹する沙希であることを本能的に見抜き、二羽同時に鬣を振り乱して飛び掛かる。 直接的な攻撃手段をほとんど持たない沙希には、集中攻撃に耐えられる保障はない。その危険性を把握しているのは本人だけでなく、他のリベリスタ達も同様である。 「沙希殿は絶対にやらせねぇ!」 アークリベリオンの二人が護衛に向かおうとするが、攻撃を仕掛けてくる別個体が邪魔になり。 他よりも離れた箇所に位置取りしている杏では届かず。 「急な心変わりはよして欲しいのだわ!」 呼吸を整えて、じっくりと狙いをつけるタイプのエナーシアでは間に合わない。メリュジーヌもまた、ライフルの照準が定まらずにいる。 「伏せろ、汐崎!」 今まさにフツが符術を用いようとした、その瞬間のことだった。 「魔風よ……濁流となりて……彼の者達を呑み込んで!」 一迅の風が吹いた。 風は渦となり、刃となる。それはまた仲間を守る盾でもある。 湧き起こった竜巻は飛行するクシャナバの組を飲み込み、恐ろしく細やかに切り刻んだ。 『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が、羽を広げて空に佇んでいる姿を、沙希は心底嬉しそうに見つめた。 「さっちゃんの元には……いかせません! 決して!」 強い覚悟を伴って、その台詞は述べられた。 逐一連絡を取りつつ、陰で味方を支え続けていたが、大切な親類であることもだが、それ以上に大事な仲間である沙希の危機に及んで、いてもたってもいられず飛び出した。 (空ちゃん、信じてたよ。大気の女神――『イルマタルの化身』なら出来るはずだって) くすりと笑う沙希。 ずっと昔から一緒だった幼馴染。だから、心を通じ合わせるのに言葉なんていらない。 窮地に陥ったらきっと助けてくれると信じていた。 暴風を止めたシエルは、今度は佐渡島の美しい大自然の意志に語り掛ける。 「大いなる癒しを、此処に!」 柔らかな光が辺りを覆った。 清純な活力を得たリベリスタ達は、大詰めとばかりにクシャナバ掃討に注力する。 「うおおおおおおおオオオ!」 これまでにない熱量。 それはただ体力に余裕が出来たという身体的な理由だけでなく。癒し手であるシエルの果敢な加勢に勇気づけられたことも起因しているのだろう。 「くだらない遊びは!」 アズマの刀は眼窩を抉り。 「終いなんだよ、ボケがッ!」 華の剣は顎を砕く。 「アークリベリオン……頼もしきことです」 紫の聖母は、胸に確かな安堵の気持ちを覚えた。支える心遣いと、支えられる信頼感で、これだけの相互関係を築いていけたことが、何よりも喜ばしかった。 「こっちも倒したよー! 残り一体!」 不利を悟って木陰に潜んでいたクシャナバを見つけ出し、撃ち取ったメリュジーヌが戦果を報告する。 最後の標的は、最も激烈な死を迎えることとなった。 「よくも私を出し抜いてくれたわね。その度胸だけは買ってあげましょう。ただ許すか許さないかはまた別問題。少々言葉遣いは悪くなるけれど」 エナーシアが鋼の銃口を、ぞっとするほど冷徹に向ける。 「皆殺しにしてあげるわ」 血飛沫が佐渡の山野に舞った。 「未確認敵性生物の気配なし。事前殲滅達成。任務完了、なのです」 硝煙の狂おしい香りを漂わせて、根源の信奉者は微笑んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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