●水棲エリューション、『ゴロニャンカ』。 「これは……なんだ」 キーロフ級ミサイル巡洋艦。重厚感あるその戦艦が飲み込まれていく様は不気味を通り越して喜劇である。砕氷構造を有する艦首から順に、むしゃりむしゃりと咀嚼されていくと、操舵環境に居た彼も、鳴り響く警告音の中、その最後を仕方無しに覚悟した。 「……覚悟?」 いや、まだ出来ることはある。 『話』にだけは聞いたことのあるこの種の怪物――一矢報いる術は、まだ残されている。 「置き土産だ。俺と共に沈みやがれ」 二番主砲塔が唸る。その砲身が、迫りくる異形の怪物に照準を合わせた。 その後、轟音と共に放たれたのは零距離射撃にも近い最後の悪足掻き。正面からそれを喰らった怪物は……。 「――化け物め!」 意にも介さず、そのまま操舵艦橋を飲み込んだ。 ●ブリーフィング 「日本付近を巡航していた他国の巡洋艦が敵性エリューションの襲撃を受けた。皆には、その対処を行って欲しい」 「海……?」 「ええ。凡そ十二海里、二十二・二キロメートル先、領海と接続水域の境界線上」 「それ……どうやって戦うんだ?」 リベリスタの困り顔に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は頷いた。 「幸い何とか日本内の事件発生だったから、『万華鏡』での感知に成功した。だから、『襲撃を受けた』というよりは『このままでは襲撃を受けてしまう』と表現した方が適切。どうやって戦うか?船で行って貰うしかないでしょ」 「ふむ。しかし、海中に潜られては手が出せない」 「完全に精確とは言わないまでも、探知レーダーからある程度敵の接近は読めるから遠距離攻撃等は有効でしょう。それに、今回の敵、コード『ゴロニャンカ』は……」 「……何だって?」 「『ゴロニャンカ』」 思わず吹き出しそうになったリベリスタのその顔を見て、イヴは不機嫌そうに眉を顰めた。 「真剣に聞いて」 「ごめんごめん。あまりにキュートなネーミングだったから」 「……それで、『ゴロニャンカ』は海中からの巡洋艦下部への攻撃よりも、海面から姿を現して艦其の物を咀嚼しようとするみたい。キーロフ級を丸飲みしようとするぐらいだから、巨大な体躯を有していて、横幅凡そ二十メートル、全長五十メートル程もあると予想されるエリューションね。 だから、海面から食いついてきたところを、前方の甲板で近接攻撃等により迎撃するのも有効と判断する。勿論、一回で倒せるほど弱くも無いでしょうけどね」 「ということは、フェーズは二?」 「と見積もられている。但し、強力な個体で、フェーズ二の中でも最上位の個体であると推測されているから、殆どフェーズ三であると言っても過言ではないよ。これが、『万華鏡』で感知した敵画像」 スクリーンに映し出されたのは巨大な鯨――但し妙に溶解した表面や、目の無い頭部、発達しすぎている口腔などは、常識的な鯨の姿を否定する。 「『アーク』から要請する比較的大型の輸送艦を派遣するから、それで現場海域へ向かってほしい。どうやら船舶全般に反応する見たいだから、その輸送艦も狙われる可能性がある。輸送艦上で迎え撃つか、救出対象巡洋艦へ移って迎え撃つか、或いは両者に分乗するかは現場の判断に任せる」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:いかるが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月18日(日)22:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「アズマさんっ!」 叫んだのは『ノットサポーター』テテロ ミスト(BNE004973)である。その目線の先には、常識的な生物としての容姿を逸脱した敵性エリューション、ゴロニャンカの、ただ暗闇だけが広がる巨大な口腔に飲み込まれていくアズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)の姿があった。 「……飲み込まれちゃった、の?」 ぽとり、と『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)の頬から汗が一滴流れ落ちた。羽海や『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)はその背に翼を有しているから抑々が足場の、詰まりは戦闘による艦の揺れとは無関係である。一瞬の内に体勢を崩したアズマを、ゴロニャンカは、あろうことか、嚥下してしまった―――。 ● 快晴の大海原。見渡す限りの深青色は、太古への回帰に由来する懐古と、広大な世界にただ佇む孤独感とを等しく感じさせた。『アーク』本部からの要請を受け、派遣された大型輸送艦に搭乗する八名のリベリスタ達は、その潮の匂いを鼻腔の奥に吸い込む。 ブリーフィング資料から鋭く察した『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の考え通り、救出対象のキーロフ級ミサイル巡洋艦は遥々ロシアからやってきた軍艦である。フォーチュナと『万華鏡』による非常に高い精度で与えられる予知は、もうすぐで此の軍艦が航行する―そしてゴロニャンカとゴローニャが棲息する―海域であることを示していた。 「人に仇なす以上、しっかりと対応しなければっ」 操舵室からの連絡が来ると、気合を入れるミストを始め、リベリスタ達は上甲板へと姿を現した。指示された方向を見遣ると確かに黒い艦影が見える。『龍の巫女』フィティ・フローリー(BNE004826)は近づく会敵の時をその肌で感じてフードの付いたコートを着込んだ。 (水を浴びるのも嫌だし、ね) フィティが内心で溜め息を吐くのと同時に、その横に立つ『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が口を開いた。 「そう言えば、こんな敵と戦うゲームがあったような気がしますな」 似非老人口調の言葉がその類似性を指摘すると、フランシスカが腕を組む。 「ゲーム? ゲーム、か。わたし、やってるとイライラして破壊しちゃうんだよね」 創作物より『本物』を斬り殴ってる方が楽しいや、と一人頷くフランシスカに苦笑しながら、『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が九十九に話の続きを促す。 「それは興味あるわね。戦闘のシミュレーションになるのかしら」 「実用性に関しては保証しかねますのう。名前は確か、モンハ……」 「百舌鳥さん」 舞姫がすっと九十九の腕に触れた。美しく瞳が閉じられたその小さな顔が左右に揺れると、九十九も何かに気が付いたかのように口を開け、こほんと一つ小さな咳をした。 「……おっと、そろそろ仕事の時間ですな」 凡そ七百名強を収容することが出来るその巨大な軍艦。此れを正面から『食べる』というのだから、ゴロニャンカのその耐久力と、何より大きさは、今回の仕事の難しさを明快に示しているだろう。 「海は広いな大きいなー」 陽気に唄う羽海の声は、けれど、そんな困難さを感じさせない。 「海で戦うの初めて。『アーク』に来てから初めてがいっぱいだなー」 その幼さと無垢さと爛漫さの中に、何処か掴み処の無い鋭利さがある様に感じるのは、アズマの思い過ごしであろうか。 「……ま、今回は大事な役割もある。 気は抜かないし関与しないつもりもないが、役割はしっかりこなさないとな」 ● 「それでは、一旦、離脱をお願いします」 彩歌からの連絡を受け、リベリスタ達を運んできた輸送艦は巡洋艦から徐々に離れていく。最大船速、時速にして凡そ四十キロメートル。一度離れてしまった輸送艦は有事の際にすぐさま駆けつける事は出来ない。そういう意味では、今、リベリスタ達の『運命』はこのロシア製の巡洋艦と共にある、と云っても過言では無かった。 「正に背水の陣という奴ですな」 潮風に飛ばされまいと左手で帽子を押さえた九十九の表情は、けれど、悲壮感の欠片も感じさせない。 「相手方との話し合いが終わりました」 甲高い音を立てて艦橋を降りて来たのは、これからの動き方についての最終確認を済ませてきた舞姫とミストである。今回、艦の操舵は船員が行う為、その点での連携は重要である。 ……そう。此れは、倒すための戦いである以上に、救う為の戦いである。其の為のリスクであるならば、其れを引き受ける覚悟がある。 「後は敵が来るのを待つだけ、だね……」 そう、覚悟はある。色々と思うこともある。だけれど、例えば其のStruct Blueの様に、戦うのを諦めたことは無い。フィティがその意味を声高に叫ぶことは無いだろう。それは共感して貰うべき類のものでも無ければ、きっといつか自分を構築する血肉の一つと成っていくものなのだから。 「ええ、そうですな」 「……って言ってる間に、敵さん来ちゃったかもだよ」 巡洋艦上を浮遊していた羽海の声が早速の会敵を予期させると、リベリスタ達の顔色も変わった。 「二時の方向に妙な複数魚影はっけーん!」 「サイズ的にはゴローニャ、でしょうかっ?」 「恐らくそうでしょう。ソナーの方は?」 「ビンゴね。比較的小型の魚群が、海中にも集まってきてる。百舌鳥さんの方も支持する結果ね」 彩歌の素早い返答に舞姫が頷いた。 「そんじゃ、バトルといきますかー」 フランシスカの口の端が歪む。最近はやや丸くなった所が無きにしも非ずと云った彼女ではあるが、その本質的な部分は変わらない。強い相手を求める、戦闘狂。美しい相貌と、華奢な体躯からは想像もつかない、その漆黒の靄―――。 アズマが一歩下がり、舞姫が一歩前へ出て、そしてミストが艦から飛び降りた。 そのまま彼は海面へと降り立つ。今回の依頼唯一のその異能活性は形勢を大きく有利にする力を秘めていた。 「ボクは海上から直接敵を叩きますっ!」 ―――アークリベリオン。『アーク』の次世代型戦闘形態は、これまでとは異なる展開を許容する。 「さぁて、化け物退治だ! 全力で行くよ!」 フランシスカの上機嫌な声と共に、ゴローニャが飛び跳ねた。 ● 「こいつらはわたしたちが引き受けるよ! 大丈夫、きっとこの艦護ってみせるから。そっちは姿勢維持に専念して!」 フランシスカは艦橋を背にして立ちはだかった。 (最近、今までに事例の無いケースの敵が多い気がするな) ゴローニャとの戦闘が始まった艦上。此度の作戦では、ミストや羽海同様にアークリベリオンの特性を生かした『回復役』を努めているのがアズマである。古風な容姿、古風な言葉回しの彼女は、よもや巡洋艦に乗ることになるなど夢想だにしていなかった。初めての現代軍艦の乗り心地は、正直、良くは無かった。 「敵を前にして引くのは趣味じゃねぇんだが、まあ仕方あるまい」 全体を万遍なく見渡せるように立つ彼女の前では、各々の攻撃が始まっている。 「なんとも気が抜けるような名前、だけど」 フィティが放つ遠距離射程の剣戟。手数の面で彼女を上回るのは舞姫くらいであろう。そして、ゴローニャ程度の相手なら、その一手一手が敵の致命傷になり得る。但し、ゴローニャは、数の点で大きく優勢であった。 「うみは撒き餌じゃないんだけどなー」 その敵勢をコントロールするのが、比較的若手の羽海とミストの役割である。そしてそれは、適役と云って良かった。 上方からは羽海が。海上からはミストが。其々、敵の集約と分散を効率良くこなしていく。 (さて、ゴローニャの掃討でどれだけノイズが殺せるのかな) 羽海が引き付けたゴローニャを更に自らを引き付ける舞姫。その回避能の高さを生かした戦闘スタイルは、いっそ舞踏の様である。デッキの上で不可視の斬撃を繰り出すその所作の後に、ゴローニャだったモノの残骸が打ち上げられていく。そして、それでも裁ききれずに艦上へ飛び込んできた個体を精緻にして極致の一糸で撃ち抜くのが彩歌の攻撃であった。彩歌のプロアデプト然とした戦い振りは、その深奥で並列的に状況を演算していることを思わせない、見事な其れである。 「そう簡単に近寄らせはしないぞっ、さぁこいっ!」 ミストの攻撃の前に、ゴローニャの一群は一見、戸惑っている様にも見えた。海中からの攻撃と云う位置的な利点を最大限活用してきたゴローニャ達にとって、ミストの存在は脅威に違いなかった。 大きな水飛沫が上がる。熱を身に纏うミストの力強い一撃が群像を押し退けるのと同時に、九十九の人差し指が引き金を引いていた。海上へと姿を現したゴローニャを斬るフィティらとは異なり、今この時に艦を襲うと目論む海中の敵を撃ち抜く未然の撃破。 「見えない敵を撃つと云うのは初めてではありませんが」 目を頼りに出来ないのは、やはり遣り難いものがありますのう、と続けた九十九だが、その照準に迷いは無く、彼の攻撃の後には海が赤く染まっていき、Eビーストも赤い血を流すのですなあと感心した。 「―――デカいのが、来てる」 巡洋艦の船員からその通信が来たのは、ゴローニャとの会敵が始まってからすぐ後の事であった。そして、此処からが本番に違いなかった。 ● 「大きい、というのはそれだけで脅威ね」 彩歌の呟きに、他のリベリスタも首肯せざるを得なかった。データで聞いて知っていたのと、実際に実物と接敵するのとでは、全く違う、とミストは思う。この巨大なキーロフ級ミサイル巡洋艦を正面から丸飲みしてしまう程の巨体。 「またえらくでかい化物よね。なんつーか、本当に天変地異でも起きる前触れなんじゃないの?」 「ほんとうに、ね」 フランシスカやフィティ程に『逸脱』との交戦経験があればこそ顔色の一つも変えはしないが、それにしても異常な大きさである。そして、一瞬、海面へと浮上したその巨大な灰色の一部が再度、消えたかのように見えた時、 「来ますぞ!」 九十九が声を張った。巨大に見えた表面はあれでまだ氷山の一角。その『口』は既に艦付近にまで迫っていた。 「ゴローニャはまだ数が居る、注意して!」 羽海が言った様に。この艦は撒き餌の様な物だ。遠く広がる大海の一点に浮かぶ撒き餌。そこに群がるのは、必然、『捕食者』達である。彩歌はその事を理解しているから、ゴローニャ処理に費やす手番を惜しまない。数で押し通されたら劇的に不利なのは、此方側なのだから。 ―――咆哮。 それは聞いた事の無い音だった。 鳴き声でも金切音でも無く、不思議に低く響く音。 「……っ」 九十九が放つ掃射はその勢いを削ぎ切れずに、巡洋艦の進行方向前方、丁度リベリスタ達の眼前に、信じられない程の大きさの水柱が立ち上がる。 姿を現したのは鯨の様で鯨でない何か。見ていて気持ちの良いものではないその悍ましい光景に、艦橋からその様子を見た船員達も息を飲む。そして、思わず速度を落とした。 「速度は維持して! 囲まれるわよ!」 叫ぶようにして彩歌が通信機に伝える。無理も無いと思う。リベリスタですら、この光景には驚きを隠せないであろう。 強い異臭が周囲を包み込む。ゴロニャンカの不気味な口が開かれ、其処に暗闇が出現する。何もかもを飲み込んできた異形の口腔が、その不自然さを露わにする。 「……うわー」 上空を舞う羽海も思わず口を閉じた。これは、一人でなんとかなるものじゃない。それに、ゴローニャは未だ多数で艦へと迫っている。ゴロニャンカを目前にして……其れに振り分ける人員が少なすぎた。 「弾幕を張れ!」 そんな中で響いたのは、通信機を握りしめた舞姫の声。 「階位障壁の無いフェーズ一なら、通常兵器でも傷ぐらい付けられる! 化け物どもに、キーロフ級の底力を見せてやれッ!!」 直後、始まったのは近接防御火器システムから対潜迫撃砲まで、あらゆる兵装を最大限に稼働させた最後の悪足掻き。イヴが見た予知では、ゴローニャ同様に階位障壁の無いフェーズ二のゴロニャンカにはその砲撃が有効では無かった。だが、ゴローニャ相手ならば―――。 再び船速を回復した巡洋艦の周囲を水飛沫が数多噴出する。甲板で戦うリベリスタらもその小さな土砂降りに体を濡らすが構っている暇は無い。船速を維持し艦を安定させた代わりに、その先には、本命が口を開けて待ちかまえているのだから。 「させませんっ」 ミストがその巨体を押し返すべく正面からその巨体へ斬りかかるが、流石に重い。ミストの顔も思わず歪む。 艦上からは、彩歌が遠距離射程の気糸を撃ちこみ、フランシスカがアヴァラブレイカーの振るう軌跡として生じる漆黒の弾丸を殴りつけ、九十九が弾幕を張った。 「――――」 極めてフェーズ三に近い個体と報告されていただけあって、堅い。態々自らの内部を曝け出しているというのに、ゴロニャンカは止まる気配を見せなかった。徐々に詰まっていく、互いの距離。 だけれど、それはむしろ好都合の距離。 「――今よ」 「うん」 彩歌に頷き返したのは、蒼髪を揺らすフィティ。その両翼では、舞姫とフランシスカが各々の業物を構えている。ゴロニャンカは、己が羽海とミストに『誘導』されて其処<艦首>に固定されていたことに、気が付いていただろうか? たん、と華麗に踏み切った先には、そのゴロニャンカの、恐らく頭部に相当する部分。フィティは華麗に其処へ着地すると、 「悪く、思わないでね」 近接距離からの本来の攻撃。フィティに斬られても無感情なゴロニャンカを、構わずフィティは斬っていく。 それだけではない。最早、接触寸前までに近づいたその無防備な口腔に刃を突き立てるのは、二名の剣士の影。 「お前は、」 舞姫が神速の刺突を繰り出し、 「ここで沈みな!」 フランシスカが、不吉の最後を撃ちこんだ。 「――――」 近くでゴロニャンカを把握している羽海にも、これは効いたことが其の様子から見て取れた。同時に、舵をきり方向を変えた巡洋艦を喰い損ねたかのようにその巨体を海中へと沈めていく―――。 「っ!」 その瞬間、衝撃が巡洋艦を襲い、大きく艦体が揺れた。……それは、足場対策に余念の無いリベリスタ達ですら、飛行能を有するフランシスカと羽海以外は、思わず膝をつかざるを得ない程であり、 「アズマさんっ!」 ミストの目前で、思わず体勢を崩したアズマが甲板を滑る。寸での所で、その端を掴み防いだかのように思われた時、 「……っ!」 そのまま、ゴロニャンカの口腔に巻き込まれ、その姿を消した。 「まあ待ちなさいな」 一つ。追い縋るように九十九の魔弾がゴロニャンカを撃ち抜く。 それは今までの掃射とはまるで性質の違う弾丸。一撃に精緻を込めた極限の弾丸。 ……さあて、私の銃は、対応よりも重いですぞ? 「待ちやがれ!」 ここに来ての、九十九の最高精度の弾丸にゴロニャンカの『鳴き声』が響き渡る。これが最後の近接機会。仲間を飲み込まれてそのまま見過ごしたとなれば、 「――名が廃る!」 黒く昏く墨く。 憑依した漆黒が相乗してフランシスカを更なる深淵へと近づけ。 「んにゃろうっ!」 飛び掛かるようにして一撃。 ダークナイト最高ランクの斬撃が、ゴロニャンカを貫いた。 「――――」 ミストにはそれが、のた打ち回っている様にも見えた。その度に巡洋艦も大きく揺れた。 「急いで大型輸送艦を呼び戻さないと」 そう言って彩歌がアクセス・ファンタズム越しに輸送艦へ連絡を入れようとした、 その瞬間。 今度は、叫び声だ。 今度こそは、最後の鳴き声に違いない。 彩歌の視線の先で、ゴロニャンカが内側から膨れ上がった。そして、フランシスカが切り裂いた結果の亀裂を元に、その一部が爆砕した。 ● 「……真面目に死を覚悟させられたな」 「無事で良かった、ね」 何より寒い、と海から引き揚げられたアズマは付け足した。流石に一度体内に取り込まれたダメージは大きく、彼女は自力で九十九が垂らした縄梯子も登れなかった為、羽海に肩を支えられながら、そして最後はフィティの手に引かれて甲板へと這い上がった。そのまま崩れるように横たえられると、ミストが急いで手当を始めた。 一面は異様な深紅の海。ゴロニャンカは大量の紅い体液を吹き出しながらも、その姿を海中へと消して行った。暫くは警戒していたリベリスタらも、ソナー・集音装置などの各種情報から、撃退に成功したことを確認し、張りつめていた空気が少し緩んだ。 「海は広いですからなー。確実に倒した訳ではないですし、こういう敵が一体とも限らないんですよな。 ……やれやれ、恐ろしい」 「んー確かに」 フランシスカと九十九は甲板のフチに腰かけ足をぶらぶらとさせた。 「でも、次あったら絶対に息の根を止めてやるのになー」 ちくしょー。フランシスカは一つ、大きな溜め息を吐いた。 「この艦って、狙われる心当たりあるの?」 彩歌と舞姫からの状況説明も終盤に差し迫った頃合い。羽海のその言葉に艦長も苦笑いした。 「……申し訳ありません、うちのが失礼な事をお聞きしました」 師匠に頭を抑え付けられた羽海は心外そうに「あれー?」と呟いた。 「心当たり――なんてねえ」 艦長である彼も彩歌に向かって首を傾げた。彩歌もそれに愛想笑いを返す。 「ある訳が、無いじゃないですか―――」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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