下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






誰そ彼


 夕暮れ時、部活帰りの沙代は急ぎ足に神社への坂道を登っていく。
 この時間人通りの少なくなるこの道が沙代は決して好きではなかったし、母や祖母からは人通りの多い大きな道を使えとは言われていたけれど、今日はどうしても見たい番組があり、神社を抜けるのが家への近道なのだから彼女にとっては仕方の無い事だったのだ。
 無論普通ならばだからと言って何も起こりはしない。
 けれど彼女は……、この日人生で最大の不運に見舞われた。この一日を乗り越えてしまえば沙代の残りの人生には幸福しか残ってないであろうと言う位の、どうしようも無い不運に。
 夕暮れ時、黄昏時、誰そ彼の時、そして逢魔時、大禍時。
 一瞬、歩く沙代の視界がくらりと揺れた。驚き、目をしばたたかせた彼女は、次いでもう一つ驚きに見舞われる。
 空気が、先程までとは明らかに違っていた。
 知っている場所の筈だった。知っている道を通り、知っている場所を目指していた。
 道に敷き詰められた石、生えた樹の形も知った物だ。
 なのに決定的に何処かが違う。気配が違う。
 ギャアギャアと何かが鳴いた。羽ばたく音、アレは烏だ。そうに違いない。
 沙代は所持していた、部活で使っていたラケット、バドミントンの其れが入った袋を強く抱き締め、歩く足を速める。
 怖かった。わけの判らぬ恐怖に包まれ、頼りないが武器となりそうなラケットを意識する事で少しでも恐怖を紛らわせようとしたのだ。
 その時、沙代は彼女が目指す、通り抜けようとする神社の方から、誰かが坂を下ってくる事に気付いた。
 あの服装は神主さんだろうか? 神主さんとは近所に住む沙代は当然の様に顔なじみだった。
 安心して小走りに近寄りかけた沙代は、けれどもふと疑問を抱く。
 本当にそうなのだろうか?
 あの服装は間違いない。安心したい沙代が言う。
 でも……。疑問を抱いた沙代が言う。
 でも、でもでもでも、影になって顔が見えない。何かが違う、怖い。
「だ、誰ですか?」
 黄昏時の語源は、暗くなって人の顔が判らなくなる時間帯、誰そ彼から来ていると言われる。
 だが幾ら暗くなったと言ったって、もう近くまで迫ったこの距離なら顔のわからない筈が……。
 いや、其れも可笑しい。あまりに近づいて来るのが速すぎる。あんなに距離があったのに、走った訳でもないのに、何故もう其処にいるの?
 恐怖が限界に達し、思わず踵を返そうとした沙代の手を、眼前に迫った顔のわからない誰かが掴む。
 彼女はこの日人生で最大の不運に見舞われた。この一日を無事に乗り越えてしまえば沙代の残りの人生には幸福しか残ってないであろうと言う位の、どうしようも無い不運に。
 そして勿論、沙代がこの日を無事に終える事は出来なかった。


「きっかけは、たった一つの石だった」
 召集されたリベリスタ達と『paradox』陰座・外(nBNE000253)を前に『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が口を開く。
 事件のあらましを語る彼の口調は、溜息の様に重い。
「その石は、恐らくは何の変哲も無い唯の無価値な石『だった』のだろう。元あった上位世界にとってはな」
 ある高位の世界から、この世界へと繋がってしまった穴に、一つの石が転がり落ちた。
 其れは不幸中の幸いだった。もしこの世界にやって来たのが単なる石ではなく、意思を持った上位世界の生物だったら、話はもっと難しい事になっていただろうから。
「だがそれでも、其れが唯の石に過ぎなかったとしても、この世界にとっては劇物だったのだ」
 この話をややこしくしたのは、その石が転がり落ちた場所だった。
 単なる道の真ん中にでも転がり落ちて居れば、多少の被害は出たかもしれないが同時に処理も早かった筈だ。
 抗体たる役割を果たすリベリスタの存在があるのだから。
「しかしこの石が落ちたのは偶発的に生まれた異空間、今回は便宜上『狭間』と呼称するが、……要するに諸君等に馴染みがある例えをすると陣地に近い性質の切り離された空間に其れは転がり込んだのだ」
 本当に偶発的にその異空間が石の落ちる先に生まれたのか、劇物を受け入れる事を嫌った世界が隔離場所を生み出したのか、或いはこの世界に来た石自身が異空間を生み出したのか、実際の所は判らない。
 いずれにせよ今ではその石が異空間の核となり、この世界の中に隔離された法則の異なる小世界を生み出してしまっている。
「先日一人の少女がその狭間に迷い込み、帰らぬ人となった。詳しく調べればその他にも行方不明者はいるのだろう。……放置は出来ん」
 狭間は黄昏時、日没後に赤みの残る、世界が切り替わる時間にのみ入り込む、迷い込む事が出来る。
 だが抗体たるリベリスタ、自らを滅ぼし得る存在の接近を知れば近寄らせまいとの抵抗がある事は想像に難くない。
「逢魔時、その時間帯はそう呼称されるが、その時が近付くに連れて狭間は諸君等を排除する為の戦力を吐き出すだろう。其れ等を討ち果たし、更には異空間の内部へ侵入して石を破壊して『生還』して貰いたい」


 資料

 状況
 日没後、狭間と世界が繋がりはじめた段階で、異空間側から戦力(エリューション)が排出される。
 人(リベリスタ)が通れる様になるにはそこから3分ほどの時間を必要する。
 穴の小さな始めの2分はまだ小物しか通れない為に烏や犬、或いは蛇等の動物のE・ビーストや風のE・エレメントが、ラスト1分は二体の狛犬のE・ゴーレムが飛び出してくる。
 狭間の内部に侵入すれば、樹のE・ビーストや、神主の服を着たノーフェイス、ラケットを握り締めた少女のノーフェイスは確実に迎撃に出てくるであろう他、何が居るかは詳しくは判らない。当然小物のE・ビーストやエレメントも残っていると思われる。
 石は狭間内のどこかに存在し、其の破壊自体は難しい事では無い。
 また異空間である狭間内で何が如何破壊されようと、現実世界に影響は無い。
 神社は小山程度の坂の上にあり、坂の途中から神社までの半径300m程が狭間となっている。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月11日(日)22:09
 成功条件は石の破壊。
 リベリスタ達は内部侵入後に一定時間経過で弾き出されるので時間をかけすぎると失敗です。

 詳しい探査が内部に及ばないので何が起きるかは判りません。色々想像してみてください。
 神社は普通の神社で、何かが封印されているとか、祟り神を祭り鎮めていたとか言う事はありませんので其処はご安心下さい。

 冒頭は一寸怖さを意識しましたが、リベリスタは打ち砕く力を持ってるのでホラーテイストにはなら無いと思います。
 ただし敵の数は多いと思われますので油断すると足元を掬われる事はあるでしょう。

 陰座・外が同行します。同行理由は狭間に興味があるから。
 可能な行動に関してはステータスシートのとおりで、式符・影人か陰陽・極縛陣を外せば傷癒術を持って行く事も出来ます。
 余程理不尽では無い限り指示通りに動きます。

 ではお気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
陰座・外 (nBNE000253)
 


■メイン参加者 6人■
アウトサイドデュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
ハイジーニアスデュランダル
★MVP
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
サイバーアダムクロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
アークエンジェソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)
メタルイヴダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
ハイジーニアスホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)


 赤。赤、赤、赤。
 遠き山に日は落ちて。
 されども星が空を散りばめるには未だ幾許かの時を必要とする。
 黄昏時、一日の終わり、夜の入り口。
 逢魔時、夜でも昼でもない隙間の時間は、魔が蠢き、大きな災禍を蒙ると信じられた大禍時。
「とおりゃんせとおりゃんせ」
 赤く、薄暗い世界では互いの顔も見え辛くて表情を確認する事は出来ないけれど、何処か楽しげな声音で『paradox』陰座・外が呟く。
 リベリスタ達の前で、空間が歪む。
 神社へと続く坂道の中腹で、異能の力を身に宿さねば見る事の出来ぬであろう歪み、扉がゆっくりと開いて行く。
「ここはどこの細道じゃ」
 嗚呼、そう、あるいは細道。
 まだ人が通れる程には広くないが、それでも中の異空間『狭間』から漏れ出す鬼気は寒気がする程に濃い。
 もう暫くもすれば鬼気だけでなく変異した内側で生み出されたエリューションが湧き出してくるだろう。
 けれどそんな空気を吸いながらも外は至って機嫌良く『剣龍帝』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)より預かった雷音ぬいぐるみ、ある少女を模った人形でつくった式神を、狭間へ向かって進ませる。
 竜一の、外は自分のパンダを危険に晒したくないだろうから代わりの人形を用意した気遣いは確かに必要な物だっただろう。
 もし代わりの人形を用意していなければ、竜一や『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が幾ら指示、或いはお願いをしようとも、恐らく外は渋って断っただろう。
 だってもう最初から結果は見えている。狭間に一歩足を踏み入れただけで、竜一の雷音ぬいぐるみは千々に引き裂かれて塵と化した。
「行きは良い良い帰りは怖い、怖い也にも……、さあどうぞ先輩方、とおりゃんせ? でもきっと今回は行きも大変だね」
 魔性の空気を胸に吸い込んだ外が、久方ぶりの和風怪奇の空気に陰陽師としての性を思い出し唇を歪めるのと時を同じく、ぬいぐるみを切り裂いた魑魅魍魎共が次なる獲物を求めて狭間より一気に溢れ出す。


 振りぬかれた刃が狭間より溢れ出た雑霊、風のE・エレメントの一体をサクリと切り裂く。
「ちっ、次から次へとキリねぇな……」
 容易く敵を葬りながらも『元・剣林』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は苦々しげに吐き捨てる。
 それは先程狭間に突入して切り裂かれた式神の元になったぬいぐるみが実は虎鐵の手製、彼の愛娘を模した物であった事も決して無関係では無かっただろうけど。
 数多いアークのリベリスタの中でもTOPクラスの攻撃力を持つ虎鐵にとって、湧き出る小物は取るに足りない程度の雑魚ばかり。
 だが幾ら斬っても尽きる事無く、虎鐵が刃を振るう回数をはるかに上回ってエリューション達は出現して来る。
 剣を振り切った虎鐵に対し、狭間より飛び出した大きく口を開いた蛇が喰らい付く。
 攻撃力に優れたるも防御には、特に回避には難のある虎鐵だ。喰らい付いた蛇をぶら下げて動きを鈍らせた其の刹那、野犬が大腿に牙を食い込ませ、風が刃と化して彼を切り裂いた。
 一つ一つは大した威力では無いとは言え、数は矢張り力であり脅威となる。
 けれどエリューション達ほどの数では無いとは言え、虎鐵は決して一人では無い。虎鐵の身体に喰らい付いたままの其れ等を巻き込んで、多くのエリューションを飲み込み喰らうは瘴気。
 狭間より漏れ出る鬼気、赤い薄闇よりも遥かに濃くて暗い、『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の放った暗黒が、赤を黒が塗り潰す。
 戦いの場では良くテンションを上げて奇矯な笑い声をあげる魅零だけれど、今日の彼女の表情はいつに無く真面目で、悲しみを湛えている。狭間に囚われてしまった少女、紗代を嘗て暗い牢獄に囚われた自分に重ね合わせて。
 沙代の死はもう取り戻せないけれど、それでも孤独に独りぼっちで現世から切り離されたままは可哀想だと。
「我儘かな? 外くん」
 せめて其の身体だけでも取り返してあるべき場所に返してあげたい。そう思ってしまう魅零は外に問う。
 其れは力を持つ者だからこそ言える、ある意味傲慢な発言で確かに魅零が思う様に我侭なのかも知れないけれど、其れは確かに、紛れもなく優しさだ。
「好きにすれば良いと思うよ」
 だから其の返事は素っ気無かったが、外はその顔に小さな微笑みを浮かべた。
 魅零の暗黒のみでは払い切れなかった雑兵を、彼女に倣って長期戦に備えての節約を止めた虎鐵の暗黒が更に覆って喰らい潰す。


 戦いの最中にも歪みは少しずつ大きくなって行く。狭間への道が人の通れる大きさになるまではもう少し。
 だが道が大きくなったなら、其処を通れる者の質も変わる。
 溢れ出て来る雑魚の量に変化は無いが、其れ等に混じって飛び出したのは明らかに格の違う2体のE・ゴーレム。
 神社の守り手たる石の狛犬、右の阿形と左の吽形、その2つの石像が命を宿して侵入者たらんとするリベリスタ達に牙を向く。
 とは言え其れは比喩表現で、実際に牙を剥くのは阿形のみ、吽形の狛犬はしっかり結んだ口を開きはしない。
 けれど其れは吽形の戦闘能力が劣ると言う訳では決してなく、石の姿には似つかぬ弾丸の様な勢いの体当たりは、実際の材質である石の硬さと質量が相俟って尋常ならざる威力を産む。
 グシャリと、吽形の体当たりを何時もの心算で受け止めてしまった『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)の左腕がぐしゃぐしゃに砕ける。
 本当であれば左手のグローブ、サルダート・ラドーニで攻撃をいなしてから右手の軍用ナイフ、カラテルでカウンターを見舞う心算だったウラジミールだが、今日彼が所持しているのは何時もの装備では無くAK-47・改、彼の祖国の傑作アサルトライフルを専用にカスタマイズした物だ。
 何時ものグローブがあったなら左腕の骨に罅程度は入ったかも知れないが、目論見通りにカウンターを叩き込めただろう。
 しかし咄嗟の、慣れた動きが今回は裏目に出てしまった。手痛い損傷にも眉根一つ動かさず、動揺した様子を見せずに引き絞ったトリガーにウラジミールのAK-47・改が弾丸を吐き出し吽形の狛犬の身体を叩く。
 一方阿形の狛犬は相対した『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)の速度と技量に圧倒され、其の動きをほぼ封じられた状態に在った。
 硬く鋭い石の牙も当たらなければ意味を成さない。セラフィーナは速度で阿形の狛犬の先手を取って舞う様な動きでまわり込み、相手の正面に決して立たない。
 振り向き様の咬み付きも、不自然な姿勢から繰り出された其れでは回避にも長けるセラフィーナを捉える事は難しい。
 そして極め付けは霊刀東雲を持って行なわれる神速の突き、光の飛沫が散るような瀟洒な刺突は攻撃を受けた者すら魅了する程に冴え、そしてそれがより一層阿形の狛犬の動きを封じていく。
 とは言えセラフィーナも全てに優れたる訳では決してなく、泣き所である威力の不足により硬い狛犬の身体を少しずつ削るのが精一杯だ。
 魅了による阿形の自傷も大した傷には成らず、ウラジミール、セラフィーナ、共に眼前の相手を倒すのにはそれなりの時間を必要とするだろう。……彼等が二人だけであったなら。
 虎鐵、魅零の暗黒は雑魚の処理をしながらも狛犬達も決して逃さずに巻き込み、
「海依音ちゃんお仕事にはセイジツです!」
 虎鐵の全身についた無数の傷や、ウラジミールの砕けた左腕を治癒するのは、悪く言うなら手頃な価格で癒しを売る商売女、善く言うならば仲間に必要とされるなら、仲間が必要としてくれるなら主義を曲げても癒しを施す、主の愛を否定するも愛を求める哀れな子羊、海依音。
 そして暗黒に怯んだ狛犬達を、
「ハッハァーーー!」
 呼気と共に二刀を自らの腕の延長の如く、嵐の様に振り回して巻き起こった激しい烈風、戦鬼烈風陣で叩き伏せる姿は正に剣龍の帝と呼ぶが相応しい威容の、結城竜一。
 

 神社の守り手はリベリスタ達の想像よりも少しばかり粘ったが、それでも力量の差は明白で、やがては原型を留めぬ砕けた石塊と化す。
 充分に開いた細道を踏み越え、踏み入るは魔の領域と化した『狭間』の世界。
 そこではリベリスタ達は異物だった。夏も随分と近づいたにも拘らず外とは違い此処は随分と冷える。
 何かが、四方八方から自分達を監視している。突き刺さる視線。
 木々のざわめきはまるで喚き立てる罵詈雑言の様に不快だ。
 胸に吸い込む空気すらがリベリスタを拒絶するかの如く、吸気の度に肺の内からチクリチクリと痛みを感じる。
 そして何よりも明白なのは、先程までよりも遥かに多い敵の数だ。
 振るう刃と共に放たれた生命力を変換しての瘴気、虎鐵と魅零の暗黒が雑霊、エレメントやフォースを飲み込み喰らう。
 だが其の攻撃でも滅し切れぬ数の雑霊は、回避に長けたセラフィーナですら避けるスペースが無い密度でリベリスタ達を襲い、其の肉を抉り取る。
 無論それだけでは終らない。此処は狭間、魔の領域にして、既に彼等の腹の中。取り込んだ異物を消化する手段は一つには限らないのだ。
 周囲の木々が、ざわめきだけでなく明確な意思を露わに動き出す。リベリスタ達を包囲し、磨り潰さんと。
「簡単にはいかせてはもらえないという訳か」
 しかし其の木々に対して引き寄せを図ったのはウラジミールだ。
 この狭間の中で一番拙いのは消耗戦を強いられる事だというのをリベリスタ達は理解していた。
 世界の全てが敵なのだ。如何に実力で勝ろうとも永遠に戦い続けれる訳では無い上に、此処に留まれる時間も限られている以上、尽きる事ない敵を相手にし続ける訳には行かない。
「自分が抑えている間にいってくれ!」
 AK-47・改の引き金を絞り、ウラジミールは死地へと留まる。
 其れは無謀だが合理的な判断で……、故に外もウラジミールと共にその場に残った。
 二人居れば此処なら仮にどちらかが倒れても未だ狭間の外へと撤退出来る。1人で残すよりも自分も彼も身の安全の確保が可能だと判断して。
「こっちだ!」
 ばら撒かれた弾丸に木々が怯んだ合間を抜けて、最初に駆け出したのは竜一。
 決して彼にも確信があった訳では無い。其の方向、横道に逸れる事無く神社を目指したのは半ば以上は勘働きである。
 しかし竜一は、彼の異能である超直観、優れた観の目は、虎鐵と魅零に散らされた雑霊達の密度が神社から押し寄せた物が一番濃く分厚かった事を見逃さなかった。
 行動の根拠は其れだけだ。だがのんびりと調べる訳にもいかない敵に追い立てられたこの状況で他に有力な情報は無い。
 剣を振るい、払い、或いは神秘の力をぶつけて雑霊を退け、リベリスタ達は坂道を駆け上がる。

 けれど坂道の終わり、神社に続く石段の麓で待ち受けるのは2人の人影。
 赤くて暗い世界で、顔の見えぬ神主と学校帰りと思わしき少女が、二人で並んでリベリスタ達を待っていた。


 だがリベリスタ達は止まらない。足を止める余裕は無い。
 気狂い染みた膂力で地を蹴り、仲間達を一歩置き去りに突撃した虎鐵の全身が、筋肉が膨張する。
 宙を飛んでの振り下ろしの一撃、人体の限界と言う言葉をどこかに置き忘れてしまったデュランダルの技、120%が左右に避けた二人の人影、神主と少女の間に叩き込まれ、とばっちりを受けた長い石段が1/3程まで破壊、或いは罅をいれられた。
 文字通りに切り開かれた道を、壊した石段の代わりに虎鐵を踏み台にした竜一、セラフィーナ、海依音が駆け抜ける。
「傀儡か、……大丈夫だ。今解放してやんよ」
 尋常ならざる武威を見せつけた、決して放置出来ぬ脅威で在る事を誇示した虎鐵が向き直るはその表情伺えぬ神主。
 成す事は先程のウラジミールと同じだ。立ち止まれば物量に呑まれてしまうから、誰かを抑えとして群れから切り離す。
 例え自分が倒れようとも、誰かが石へと届けば良い。
 そして虎鐵と共にこの場に残った最後のリベリスタ、
「沙代ちゃん……? 迎えに来たよ、此処から帰ろう?」
 魅零は顔の伺えぬ学校帰りの少女、狭間に迷い込み、取り込まれてしまった哀れな沙代の名を呼んだ。
 無論、沙代が其れに答える奇跡は起きやしないけれど。

 竜一の左右の剣が敵意を切り裂く。既に帯同するは自分も含めて3名のみだ。
 石段を上り切り、竜一は決める。次に足止めを行なうのは自分だと。
 目的地は直ぐ其処だ。もう見ればわかる。視界に入った神社の本殿には、天井に大きな穴が開いていた。
 成る程これほど判り易い目印は無いだろう。石は揺らぎ無くこの狭間の中心に、あの神社の中に在る。
 けれど、竜一は神社に背を向け振り返る。狭間の中の何処よりも高いこの場所に、空から大量の風のエレメントが降って来る。
 今までに無い密度の其れは、此れが狭間の全力なのだろう。移動中に襲われたなら3人ともがあっと言う間に引き裂かれてしまいそうな其れは、誰かが引き受ける必要があったから。
 竜一は足を止めて刃を翳す。

 虎鐵の刃を神主の箒が、少女の、沙代の振るうラケットを魅零の大業物が、其々受け止める。
 神主と少女、二体のノーフェイスはリベリスタ達が想像するより高い実力を持っていた。
 歴戦のリベリスタである虎鐵や魅零の武器と、箒やラケットで打ち合える事がまず異常極まる光景だ。
 しかし想像するより高い実力を持っていようとも、それでも彼等は虎鐵や魅零に及ばない。
 箒を膂力で弾き、超高威力の120%を神主に叩き込む虎鐵は一見容赦がまるで無い風に見える。
 だが其の行為の裏にあるのは、こんな事にならなければ幸せな人生、……リベリスタたる彼等には望むべくも無い普通の人生を送っていたであろう相手を哀れみ、悼む心だ。
「ねえ、帰ろう。きっとみんな心配してるから、ごめんねもっと早く気づけなくて」
 力任せに振るわれるラケットを切っ先で逸らす魅零の声も哀しげだ。
 高校生である沙代はもうすぐ大会が近かった筈。其の為に練習を積み、熱心にラケットを振るって居た筈なのに。
 スポーツに青春の一部を捧げた彼女が、其れすら忘れてしまっていて。
「ラケットは、人を痛める為のものじゃないでしょう、紗代ちゃん……」
 さくりと、魅零の刃が体制を崩した沙代の胸を貫いた。


 本殿への入り口を蹴り開ければ中央に鎮座するは一抱え以上はありそうな大きな石。
 己が意思は持たず、何の変哲も無く、けれどもこの狭間の中心に成り代わり、全てを歪めた異世界からの来訪者。
 或いは己の意思を持たなかったからこそ此処まで歪みを広めてしまったのかも知れない。
 恣意無く、唯己の存在の在るがままに。
 本殿内の澱んだ空気が敵意としてセラフィーナと海依音、此処まで辿り着いた2人のリベリスタに襲い掛かる。
 敵意と言うのは正確には正しくないかも知れない。
 其処に意思は無く、此れは己を滅ぼす敵に対しての反射的な防衛に、唯の拒絶反応に過ぎないのだろうから。
 吹き寄せる其れを焼くは閃光、海依音の放つジャッジメントレイ、神聖なる裁きの光が露払いとばかりに放たれる。
 そして飛び込んだセラフィーナは、最後の抵抗とばかりに彼女を切り裂いた雑霊達に運命を対価にした踏み止まりまでをも強いられながらも……、霊刀東雲、其の切っ先を全ての元凶である唯の石へと届かせた。

 ……外は既に夜だった。
 遠き山に日は落ちて、星は空を散りばめる。
 暗い赤ではなく、静かで黒く、けれど優しい世界。
 今日のわざを為し終えて、心かろくやすらえば。
 魅零が連れ帰った沙代の身体を抱き締める。心軽くなんて到底無理でも。
 風は涼しこの夕べ、いざや楽しきまどいせん。
 時は既に夜べになりしも、風が傷付いたセラフィーナの髪を揺らし吹き抜ける。

 哀しくても、傷付いても、世界は何事も無かったかのように、平和な時が過ぎて行く。



■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 雰囲気出ていたら嬉しいです。
 参加有難う御座いました。




 MVPはお気遣いの紳士(笑)に。