●ペリーシュ・ナイト バロックナイツ使徒第一位に『黒い太陽』の異名を持つウィルモフ・ペリーシュという魔術師が居る。 かの魔術師はその実力よりも、生み出したアーティファクトが有名である。使用者を(当人の主観はともあれ)不幸に追い込み、狂わせ、そして破滅させる。アークも何度か『W.P.』の刻印を持つアーティファクトの事件に関わっており、人間性の壊れた作品に嫌悪するものも少なくはない。 そして彼は新たなアーティファクトを生み出していく。一歩、また一歩先へと。その先に見える『究極』を目指して。だがそれには足りないものがある。 エネルギー。 神秘の力が篭った、膨大なエネルギー源。如何に天才とはいえ、アーティファクトを動かすのにはエネルギーが必要となる。永遠の命が存在しないように、永久機関など存在しないのだ。 故に、そのエネルギーを集める為にペリーシュは手駒を動かす。 ペリーシュ・ナイト。ペリーシュが自身の計画や目的の為に作り出した自律型アーティファクト。 革醒者に対抗すべく生み出された騎士は、様々なタイプが生み出された。そしてその中には『ただひたすらに戦闘力だけを求めた』騎士もいる。 血の池の中、騎士は進む。輸送車を守っていたリベリスタはナイトの魔剣に伏し、無残な骸を晒していた。 赤く光る魔力の結晶体。ペリーシュ・ナイトはそれを手にし、また歩き出す。 ●アーク 「イチサンサンマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながら、これから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「リベリスタ組織『ホワイトタイガー』の輸送車が襲撃を受けます。襲撃者の殲滅と輸送物の奪還をお願いします」 和泉の言葉と共に、モニターに映像が映し出される。輸送車の中から歩み出てくる黒い甲冑。大きさは二メートルを越すほどで、右手に盾、左手に剣を持っている。ファンタジーに出てくる『黒騎士』のイメージそのままの格好だ。 だが、輸送車の周りに転がる死体の数がその騎士が格好だけの存在でないことを語っていた。二十を超える革醒者を斬り伏せる実力はけして伊達ではない。 「襲撃者の名前は『ペリーシュ・ナイト』……かのウィルモフ・ペリーシュが生み出した自立型アーティファクトです。様々なアーティファクトの武具を終結させた戦闘特化型です」 幻想纏いに送られたペリーシュ・ナイトの情報。その量にうんざりするリベリスタ。 「……で、この大層な相手が持ち出したモノはなんなんだ?」 「『賢者の石』」 「……は? 賢者の石って、あの? いやちょっと待て。そんなものほいほい落ちてるものじゃないだろう!?」 色めき立つリベリスタ。アザーバイドともアーティファクトとも言われる賢者の石は、神秘世界の中でも飛びきりの存在だ。三ッ池公園の『閉じない穴』も、この賢者の石のエネルギーで開かれたものだ。 「何故『ホワイトタイガー』のテリトリー内に賢者の石があったかは不明です。『閉じない穴』が影響しているという推測もあります。ともあれ、日本が特異点化しているのは確かです」 特異点化。数奇な運命が集うということである。それは崩界が進んでいるということでもあった。 「彼らはアークに石を渡すために輸送中でした。そこを襲撃され、果敢に戦うも生存者はゼロです」 「とはいえ、多少ダメージは与えているみたいだな」 アークに比べて小規模とはいえ、『ホワイトタイガー』といえばそれなりに名の知れた武闘派集団である。それゆえに果敢に挑み、そして力尽きた。 「戦って勝つ。それだけといえばそれだけだな」 誰かが気丈に言い放つ。確かにそれだけの話だが、それが容易ではないことは誰もがわかっていた。 硬い表情を崩すことなく、リベリスタはブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月11日(日)22:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 黒鉄の騎士が歩く。 リベリスタが展開する。 事前準備の余裕など与えない。敵は単騎。されど配備されたリベリスタの数は十二人。 過剰とおもわれる人数配分が、むしろ妥当であったと理解したのは交戦してしばらくして。『ホワイトタイガー』交戦後であってもなお衰えぬのは、疲れを知らぬ道具ゆえか。 ● 「コレだけの人数で囲っても楽できないなんて、本当に怖いわ」 『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が呻くように呟く。その言葉はリベリスタ全員の代弁でもあった。『魔術教本』を広げ、呼吸を整える。静かに、だけど強く相手を見据え、魔力を尖らせた。 自分と相手を繋ぐ魔力のラインを生み出す。媒介するのはソラの視線。『見る』という行為に魔術的要素を足し、『見た者の力を奪う視線』に変える。夜の貴族、ヴァンパイアの特性の上位術。それは回復することすら奪う吸血の魔眼。 「ペリーシュ・ナイト、お前等の好きにはさせられねーぞ」 同じく魔術の視線で黒騎士を捉える『花染』霧島 俊介(BNE000082)。魔術の深遠を見る瞳と、卓越した魔力の知識。見て分かることを伝えるために、その形状を見やる。事前に『万華鏡』で聞いていたが、直で見れば何か分かるかもしれない。 結論から言えば、分かることは沢山あった。だが呪いの武器といえるアーティファクトはその特性上、深く知れば多くの『死』を見ることになる。『殺したくない』を信条とする俊介には、耐え難いほどの殺戮のイメージ。怒りで胃袋が爆発しそうになる。 「行くっすよ」 『ジルファウスト』逢川・アイカ(BNE004941)は拳を構え、ペリーシュ・ナイトに迫る。地面を蹴り、突撃力を武器とするアークリベリオン。一足で相手の間合いをつめ、そのベクトルをこぼさぬようにアイカは拳を突き出した。 突き出した拳は命知らずをあざ笑う盾により防がれる。だがアイカの拳は止まらない。半歩足を動かし、縦の内側にもぐりこむように体をひねる。強引に相手の間合を奪い取り、わずかな距離で拳を構えた。ひねりこんだ移動ベクトル全てを、黒騎士に叩き込む。 「これもペリーシュ・ナイトか」 『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は槍を構えて黒騎士を睨む。足元の地面をしっかりと踏みしめ、槍を構える。護ることこそが騎士の本懐。奪い、破壊し、殺す為の騎士に負けぬと意志を篭めてむ ユーディスは構えた槍を旗のように掲げる。穂先が白く光り、柔らかなぬくもりがリベリスタを包む。黒騎士の呪いを打ち砕き、傷を癒す聖なる光。刃を振るうことのみが戦いに在らず。 「気合入れて持ってきてくれた石、絶対に無駄にはしないから!」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は倒れ伏す『ホワイトタイガー』のメンバーに向けて黙祷し、そして気合を入れてトンファーを握る。炎のパターンが入った二本の破界器。それを手に、黒騎士に迫る。 一度右に跳び、そして左に。そのまま騎士の目前に迫った夏栖斗は、トンファーを鎧に押し当てるようにして足を踏ん張る。衝撃を相手の内に伝えることで、分厚い鎧の防御力を無にする打撃法。鎧の中にある存在に向かって、衝撃を伝えるため思いっきり破界器を突き出した。 「ペリーシュ・ナイトか。見方によればフィクサードよりも厄介な連中かもしれねェなァ」 手にした剣を振りかぶり『咢』二十六木 華(BNE004943)がペリーシュ・ナイトに迫る。フィクサードに恨みを持つ華だが、彼らは人間だ。だがペリーシュ・ナイトは違う。心無い道具なのだ。ただ命令されるまま、殺し奪う存在。 気合を篭めて剣を振り下ろす華。ギィン、と金属が激しくぶつかり合い互いの剣が交差する。華はそのまま黒騎士とにらみ合う。相手に眼球に相応するものはない。人間らしい感情は何もなく、ただ無機質に『敵』を見る視線だけを華は感じていた。 「全くだ! 俺にお前らの念仏唱えさせないようにしてくれよ!」 緋色の槍を構え、『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が騎士の動きに身震いする。フツは俊介よりも『死』を見ている。その上で呪いの武具の深淵をのぞこうとするが、即座に目を背けた。これは直視してはいけない部類だ。少なくとも戦闘で高揚しているときは。 振り切るように頭を振って、槍を持っていない手で印を切る。因と果を律する法則に干渉し、ペリーシュ・ナイトの空間を支配する。騎士の手首に見えないブロックを重ねるイメージ。気合と共に最後の印を切り、騎士の動きを封じ込める。 「んじゃま、いきますか!」 手に炎を宿し、『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が黒騎士に向かって歩を進める。剣と盾の動きや、多対一の対応力。なるほどたいしたものだと納得する。手ごたえありそうだな、と拳を強く握った。 よお、と友人に声をかけるように近づき、拳を構える。自然すぎる動作は、逆に言えば無駄のない動作。炎の拳が黒騎士の視界を奪うように兜に叩き込まれる。炎熱と衝撃。相手に心があれば屈辱を与えれただろう先制の一撃。 「他の場所もそうだが石の回収に人間の部下とかは一切出て来てないって事は……。ウィルモフ・ペリーシュって、あれだ友達いないんだろうなぁ」 『W.P』印のアーティファクトを知っている『足らずの』晦 烏(BNE002858)は、タバコを携帯灰皿に捨ててそんなことを呟いた。黙々と破滅的なアーティファクトを部屋に篭って作るイメージ。 そんな個人的な想像はさておき、烏は銃を構える。相手から届かない距離からの遠距離射撃。動き回る黒騎士の動きを見定める。体中にある幾つもの傷。『ホワイトタイガー』がつけた傷をえぐるように、烏は射撃を重ねる。戦い力尽きた者に対する弔いとばかりに。 「あるいは友達を戦場に出したくない友達思いなのかも知れないわよ」 背中越しに烏の軽口に答える『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)。そんなことはないのでせうけど、と心の中で結論付けて銃を構える。砲と見間違えるほど巨大なライフル。それを手馴れた手つきで構える。 銃と共にある人生。エナーシアにとって銃を撃つということは、自然な動作の一つでしかない。銃を構える、撃つ。砲撃ともいえるほどの衝撃を全身の骨と筋肉で受け流し、重心をずらすことなく再度撃ち放つ。それを鼻歌でも歌いそうなほどに体を脱力させ、行っていた。 「戦って勝てば良いのじゃ。悪意の塊のような状況よりずっとマシじゃよ」 ふん、とふんぞり返るように『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が破界器を構える。周りを飛ぶフィアキィは新たな式神。ラ・ル・カーナの力を得た瑠琵は陰陽と三つの月を組み合わせた術者。 瑠琵は後ろから皆を指揮しながら、符を取り出して印を切る。チャンネルを隔ててラ・ル・カーナから力が流れ込んでくる。それは癒しの力。フィアキィを通じてラ・ル・カーナの自然の恵みがリベリスタを癒していく。 「さぁ騎士の力を見せてもらおうか!」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)ガ騎士を前に巨大な鉄扇を構える。壊れず、砕けず。その一点に特化した破界器はシビリズの生き方そのもの。強敵を求め、劣勢を求め、されど砕けず。 味方に回復の付与を与えた後、回復を行う瑠琵を庇うようにシビリズは構える。黒騎士の意識がこちらを向く。思った時には衝撃がこちらに向かって呼び、貫くような一撃がシビリズを襲う。足を踏ん張り、力の向きを一瞬で判断し、払うように衝撃を逸らす。痛みが体に残るが、それでもシビリズは笑みを浮かべていた。 十二対一。数の上では圧倒的有利。 だがリベリスタは慢心しない。一手一手確実に、攻め続ける。 ● リベリスタは三組に分かれて戦っていた。 「オラテメェの大好きな戦闘だ! 乞食してる場合じゃねぇだろ!? なあ!」 「シンプルじゃん? 戦って勝つ! 僕らはペリーシュだって倒さないといけないんだ! こんなところで足踏みしてる暇なんてねーよ!」 「一発だけじゃ高ランクスキルには及ばないでしょうけど……二発連続で撃てるならどうかしらっ!」 夏栖斗、ソラ、火車、アイカ、華の五人は黒騎士を囲むように回り込む。火車は真正面に立って射線を塞ぎたかったが、相手は二メートルを越す存在。火車が如何に背が高くとも、その頭一つ高い相手の射線を潰すのは難しい。 「お前が殺すなら俺が生かす!」 「簡単には負けられないぜ!」 「私が皆さんを護ります」 「さて、おじさんは後ろからやらせてもらうよ」 後衛も二グループに分かれていた。俊介とフツとユーディスの班とその後ろに烏。 「勝利の女神は嫉妬深いわ。強さだけでゴリ押しするようでは愛想を尽かされてしまうわよ。黒騎士さん」 そしてエナーシア、瑠琵、シビリズの二班。騎士を貫く穂先の如く三角の陣形だ。 「効かない……どうやら防御型に移行したようだ」 「再生はさせてあげないけどね」 フツが手ごたえから封印術の効果が効かないことを察し、防御型に移行した手ごたえを感じる。そしてソラが重ねてエネルギーを吸い続ける事で、再生能力も奪っていた。理想の流れだ、とリベリスタたちは頷きあう。 「その一撃、通すわけにはいきません」 ユーディスは俊介を狙う闇の一撃を盾となって塞ぐ。庇っている間はなにもできないが、そうすることが自分の役割。纏わりつく闇を払い、槍を防御の形に構える。 「一気に癒すぞ!」 そしてユーディスに庇われている俊介が癒しの光を放つ。自分を護るために傷つく仲間に心を痛めながら、しかし臆することなく仲間を護るために魔力を放つ。癒すことこそが俊介の使命であり、そして生き方。 「ふむ。効き目がなさそうだな」 烏は時折ペリーシュの武具の装飾などを狙い撃ちして、相手の反応を見ていた。だが騎士の動きに全く変化はない。目に見えるところに弱点があるような武器が『戦闘用』として認可できるはずがない。むしろ問題は、 (……無駄弾を撃ったか) 弾丸を篭めながら、烏は冷や汗を流していた。 ペリーシュ・ナイトから放たれる貫く螺旋と悪意の高い一撃。それは俊介とフツとユーディスの班と組を狙っていた。 「危ない……!」 「こっち集中か!」 回復手を庇っていたユーディスとフツが闇の一撃を受けて、運命を燃やす。その傷を受けて英雄の剣と反英雄の盾が力を増す。 そして貫く攻撃は前衛も巻き込む。回転して対象が分散されているが、それでもダメージは蓄積していく。 「まったく……楽できないわね」 体力的に劣るソラと華がペリーシュ・ナイトの攻撃に膝を突きそうになる。運命を削り、何とか意識を保っていた。 「そんなに血肉が欲しいのかしら、英雄さん」 逆に狙われていないエナーシア側は、ほとんど無傷であった。騎士は回復と捕縛を行う班を集中して狙っている。エナーシアは相手に戦術を練るだけの知識があることを察していた。 「命をくらうのが英雄だなんて反吐がでる。英雄なんかじゃない! それはただの呪いだ!」 叫びながらトンファーを叩き込む夏栖斗。ペリーシュのアーティファクトの趣味の悪さは知っているが、改めて怒りを覚える。 「ただ当てるだけだからなぁ……軽くて良いだろ? ドンドン行こうかぁ!」 仲間と連携して火車は拳を放つ。前後左右。攻撃す津古とで相手の逃げ道を塞ぎ、追い詰める。時に自分が追い詰め仲間に打たせ、時に仲間に追い込ませて自分が打つ。途切れることのない攻撃の連鎖。息切れするなど惜しいほどの高揚感。 前衛は相手を囲むように派手に動き回り、一人一人のダメージを分散させるようにしている。それは被害軽減を狙ってのことだ。回りながら隙を見て賢者の石を奪おうとするが、盾が邪魔で奪うチャンスがない。 盾と剣の基本戦略は、古来より変わらない。盾で受け止め、剣で切る。何ゆえ変わらないかと言われれば、それが最も効率がいいからの一言に尽きるだろう。攻防一体。それは個人の戦いばかりではない。集団戦でも同じことだ。 繰り返そう。リベリスタはペリーシュ・ナイトを囲むように陣を組み、回るようにブロックを繰り返している。 それは逆に言えば、一方向に対する『盾』を広げて薄くしている行為と同じだ。一点を穿つ突破力があれば、突破される可能性がある。 そしてペリーシュ・ナイトは、隙を見出す知性と実力を有していた。 「……っ!」 華が攻撃を受けて、倒れ伏す。それに呼応してユーディスが接近しようとしたときに、 「速い……前の攻撃時に速度型に移行していたのか!?」 巨躯からは想像もできない俊敏な動きで、騎士が迫ってくる。振りかぶった夜の魔力を篭めた一閃が、既に運命を削っていたフツとユーディスの意識を刈り取る。 「包囲作戦が裏目に出たか……!」 臍を噛むリベリスタ。前衛は慌てて黒騎士を囲む為に移動し、倒れている仲間を後ろに下げる。その動作の隙を縫うように、ペリーシュ・ナイトは剣を振るった。 悪意の塊。ウィルモフ・ペリーシュの性格を示すように、黒騎士は攻めてくる。 ● 「誰一人として欠けさせる訳にはいかないんよ」 倒れているリベリスタを救うべく、俊介が仲間を抱えて後ろに投げようとする。だが、 (……重い……! いっせぇの、せっ!) 肉体的に秀でているわけではない俊介にとっては、それは楽な作業ではなかった。全身を使って一人どうにか後ろに動かすのが関の山だ。そしてそれはその瞬間回復が途切れることに等しい。 倒れている仲間を見捨てて非情に徹すれば、あるいは光明は見えたのだろう。 だが、リベリスタはそれを良しとしない。誰かの命を犠牲にしての勝利など、誰一人認めない。 「下がってろ!」 夏栖斗とアイカが後衛から吹き飛ばそうと技を放つが、盾に阻まれ一度では吹き飛ばない。何度か繰り返せば後衛から吹き飛ばせるだろう手ごたえはある。 「この出来損ないがぁ!」 「こいつ、明確に後衛を狙ってるわ」 「くそ! 僕らは眼中にないってか!」 火車、ソラ、アイカそして夏栖斗がペリーシュ・ナイトに攻撃を加えていく。それを無視するように後ろにいるエナーシアと、瑠琵を庇うシビリズ、そして烏を重点的に攻めていた。度重なる攻撃に、烏が運命を燃やすことになる。エナーシアが危険域に達すれば、シビリズは瑠琵のカバーをおきエナーシアを護る。 「これだけ腕に弾を当てても剣を落とさないなんて、どれだけ英雄さんは剣が好きなのかしらね」 「おそらくそういう呪いなんだろうね。破壊されるまで剣を握り続ける騎士。勤勉なのはよろしいが、労働基準法ぐらいは守って欲しいものだ」 エナーシアと烏が立て続けに弾丸を黒騎士に叩き込む。銃声が響き、騎士の鎧から火花が散る。確かにダメージを与えているのだが、倒れる気配はまるでない。 夏栖斗の一撃がペリーシュ・ナイトを吹き飛ばす。そのまま前衛が押さえ込みに入るが、騎士の生み出した闇は執拗に後方にいるものを襲い、俊介の運命を削る。 逆境に燃えるシビリズは鉄壁といってもいい捌きで背後にいるものを護るが、彼が一度にかばえるのは一人だけ。優先すべきは回復を行う瑠琵なのだが、大技を連続使用した瑠琵は息絶え絶えに黒騎士からエネルギーを奪っている。 「後は任せたわ……」 ペリーシュ・ナイトに肉薄して押さえ込んでいたソラとアイカが力尽きる。トドメを刺そうと振りかぶる黒騎士より先に夏栖斗と火車が前線から倒れた二人を遠のけた。 「めちゃくちゃ熱いのくらいやがれ!」 「俺ら無視して、無事ですむとおもうなよ!」 夏栖斗と火車が炎の武技を叩きこむ。夏栖斗の炎のトンファーが翻って炎をまわせれば、火車の拳がただただ真っ直ぐに叩き込まれる。円弧と直線。途切れることのない炎の演舞。熱波と打撃がペリーシュ・ナイトの体力を削っていく。 「動きが鋭くなった……。Dタイプに移行したか」 追い込まれたときに発動する逆境の魂。それが鎧の動きを鋭くする。一撃一撃が鋭くなり、身を守る盾がリベリスタの攻撃を弾いていく。 「チクショウ……!」 そして回復手の俊介が闇の螺旋に貫かれ、倒れ伏す。これによりリベリスタの回復量が大きく減じたことになる。回復は瑠琵一人となった。相手もかなり疲弊している。もう一押し攻めればいけるか……? 「撤退するわ」 迷うことなく判断を下したのはエナーシアだった。放たれた弾丸は『ホワイトタイガー』の輸送車を穿ち、爆発を起こす。炎の舌が黒騎士を包み込み、その視界を塞いだ。 その隙を逃さず、リベリスタたちは戦闘不能者を抱えて戦線を離脱する。誰かの命を犠牲にしての勝利は、認めない。その基準からすれば、この撤退は正しい判断だった。攻めれば勝てただろう。だが、死者は確実に出る。 危険の匂いをかぎ分けたのは、戦いの中生きてきたエナーシアの経験ゆえか。 生きていればリベンジの機会はゼロではない。拳を強く握り締め、敗北の味を味わっていた。 炎の中から、黒騎士が歩いてくる。 敵はもうどこにもいない。創造主の命令に従い、賢者の石を運んだ後に再び別の場所に向かう。 ただ戦闘力を求めて作られた人形は、命令に従い破壊と殺戮を繰り返す。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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