●マスドライバー出現 作戦室へと通されたリベリスタは、そこで何とも言えない表情をしている『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)を見かけた。依頼絡みで何かあったのだろうか。 真白イヴはリベリスタたちがやって来たことに気付くと、うさぎのポーチを揺らしながら、とことことリベリスタに近寄ってきた。 「今回の依頼は、フェーズ2のエリューション・ビーストの撃破だよ」 二歩ぐらい手前でブレーキをかけて、真白イヴはリベリスタの顔を見上げる。その表情はいつものものになっていた。 「状況は夜の駐車場。敵は一体。エリューション・ビーストについては――」 そこで言い淀む。どうしたのだろうかとリベリスタが覗き込むと、真白イヴはくるりと半回転し、小さな手でリモコンを操作し始めた。 「この映像を見て判断して」 モニターに映像が映し出される。 ●出世魚 それは川で発生した、魚を元にしたエリューション・ビーストであった。 エリューション化と呼ばれる現象によるものであり、そうして生まれたエリューションは異能の力を持ち、この世界のあらゆるものから抜きん出た存在になることを約束される。 しかし、このエリューション・ビーストは不幸であった。先にエリューション化し、力を蓄えていた捕食者が川の中に居たのである。実力差で言えばフェーズ1とフェーズ2だ。 なので、エリューション・ビーストは力を奮って支配者のように振る舞うことも、荒らし回ることもできず、逃げるしかなかった。この時に、弱肉強食ということをエリューション・ビーストは学んだ。上には上がいるものだ。しかし、心の中では「いつかビックになってやる」と思っていたのかもしれない。魚の思考なので、我々には分からないが。 さて、このエリューション・ビーストは逃げ回っている内に、自分の体に陸上へと上がるための手足が生えてきたことを知った。これもエリューション化による影響だろう。エリューション・ビーストはそれにギョッとしながらも、その能力に従うように陸上へと上がった。 当然、魚であったエリューション・ビーストは陸のことなど何も知らない。自分を狙っていた捕食者はもう居ないと考えたのだろう。エリューション・ビーストは陸に上がるとすぐに暴れ始めた。しかし――、 「ザッケンナコラー!」 「ッスゾコラー!」 そこに待っていたのはヤクザだった。無論ただのヤクザではなく、エリューション・ビーストとも対等に戦える力を持ったクリミナルスタアであり、暴れていたエリューション・ビーストは偶然出会った彼らによってボコボコにされる。 危うくオトシマエやケジメを付けられる所であったが、エリューション・ビーストは逃げ出した。どうも、逃げる力――つまりは足の力と走る力だけは強化され続けているようで、ヤクザの追撃もかわすことができたのである。 そうして、世界の広さを知ったエリューション・ビーストは隠れるようにしながら、とぼとぼと歩き続けた。 車のランプが流れる夜の街を見ながら、手足の付いた魚となったエリューション・ビーストはため息を付く。 走る力がある。だからどうしたというのだ。 そう思ったのかもしれない。 しかし、エリューション・ビーストは流れていく車を眺めながら、ひとつのことを思いついた。この車という機械は、走るのに適した形をしている上に、ぶつければ力になるのではないだろうか。 そう思ったエリューション・ビーストは、廃棄された車を見つけ、時間をかけて自身の体と融合させていった。この際、いつの間にか電気を操り電磁加速する力までも宿った。 そして融合は完了し、器用にも足のアクセル・ブレーキと腕のハンドルで電磁加速する車を動かすという奇妙なエリューション・ビーストが誕生することになった。 その名も、マスドライバーという。 このマスドライバーは高速道路を走り、各地で衝突により犠牲者を生むだろうということがカレイドシステムで分かっている。ならば、通る予定の高速道路に先回りし、このマスドライバーを三枚おろしにできるのは、リベリスタだけだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月09日(火)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●いぶし銀 高速道路の中にある駐車場……つまりは無人のパーキングエリアに、秋刀魚の美味しそうな匂いが漂っていた。これが普通の場所であるならば、大騒ぎになっていたところだろうが、時間は夜であり、結界の力が働いていたので、ただ美味しそうなだけであった。食の秘密は守られている。 「疾走する凶器と化した融合体エリューション・ビースト……犠牲者が出る前に何としても倒さねばなりません。それにしても、鮭が運転するとは……」 七輪の横に炭を置きながら、源 カイ(BNE000446)は今回戦うことになるエリューション・ビーストを思う。環境に適応する能力を持ち、進化を繰り返す厄介な相手。今は風に乗っているだけのようだが、放っておけば何を引き起こすか分かったものではない。カイは義手にググッと音が出るまで力を込める。 パキッ。 「……あ、炭を割ってしまいました」 柔和な表情を浮かべながら、いそいそと手のひらの中にある小さな欠片を七輪に放り込む。 「さすがは大人のじょせーなのだ。うっかりしたときのピンチもらくしょーだなー?」 それを覗き込みながら、『ひーろー』風芽丘・六花(BNE000027)は口元をお腹を空かせた猫のように開いている。つまりは、美味しそうな秋刀魚を食べようとしている。 「ははは、それほどでも……って、あれ?」 カイは先ほどの言葉に微妙な違和感を覚える。……大人の女性? 「んー?」 秋刀魚を口に咥えながら。ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにして、カイの元を去っていく六花。やっぱり猫のようである。フライエンジェだけど。 「陸に上がってきたら、怖い人が待ち受けてたなんて……可哀想に……。でも、だからといって大暴れされちゃ、たまらないわ ここで、三枚おろしにされていってね。来世では、鮭として一生を終えれるよう、祈ってるわ……」 七輪に向けて扇子をパタパタと動かしながら、『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166) 「それにしても……。くわわわ……」 顔の傷を撫でつつ、じーっと秋刀魚を見る。さっき立花が一匹目を取って行ってしまったので、二匹目だ。 「美味しそうだけど……。うぐぐぐ……」 首を何度も横に振って、思い直す。今は我慢我慢。せめて敵を倒すまで、できれば敵を倒して彼氏の前に行くまでは我慢しないと。 「……お腹すいたわ。帰っていくら丼食べましょっ!」 だから、これが精一杯の妥協点。 「よいしょ……よいしょ……」 そんな風に考えていたあひるの顔が突然照らされ、あひるはびっくりして左右にくるくると回り始める。でも、その照明の正体は、『幻惑剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が戦闘と準備の補助の為に用意したものだ。 「日本には……出世魚、なんていうのが、ありましたね……。ただの魚からエリューション化し、さらに車と合体進化……素晴らしい出世道、です……。ですが……貴方の、出世もここまでです……3枚おろしに、させていただきます……」 このゴスロリ少女は、そんなことがあっても冷静……と、いうというよりも、ただ淡々と準備を進めているだけであった。ここに来るだろうエリューション・ビーストへと向けた虚ろな目、つまりは虚空だけを見つめた目がそれを端的に示している。 彼女の長髪に光の影が落とされ、水色の髪色は深い藍色のように見える。そこを覗き込むことは――深淵を覗くということなのだろうか? 「……」 リンシードは自分の指で髪をすく。すると偶然にも夜風がなびいて、彼女の服と髪を撫でた。 それはまるで、一枚の絵画のようでもある。 「さて、そろそろでしょうか」 そんな彼女を見てから、『右手に聖書、左手に剣』マイスター・バーゼル・ツヴィングリ(BNE001979)は振り向いた。振り向いた先には、影に隠れている『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072)がいる。真っ赤なポニーテールが今か今かとふりふりしているので、マイスターは穏やかな気分になって、微笑んだ。 そうしていると、遠くから車のエンジン音が鳴り響いてくる。ただのエンジン音ではなく、爆音と言えるような大きな音であったので、リベリスタたちは確信をする。敵がやってきたのだ。 「神のご加護があらんことを」 祈りを捧げ、リンシードはローブ姿の自分を確かめる。彼女自身のこだわりで、戦いの時はこの姿で挑むからだ。 そんな風に、美味しそうな匂いの中、リベリスタたちは着々と準備を進めている。敵を三枚におろし、美味なる食料を手に入れるために。 ……あれ? ●ライトニングデリバリー それはまるで雷のような、凄まじい速度でドリフトをして、駐車場へと入ってきた。 ギュルギュルギュルと音を鳴らして、狙うはよく焼けた秋刀魚。 緩急を付けた自慢のテクニックで、奪い取るように秋刀魚を手に入れることに成功したそのエリューション・ビーストだが、気付いた時には既に囲まれていた。 「力が欲しくて欲しくて足が生えて機械と融合して、ギラギラぶっ壊したくて食べたくてたまらないとか、嗚呼なんて素敵に進化しちゃったのかしらぁん! だからぁ、当たってボコられて訴えて勝ってぇ。慰謝料はカラダで頂くわよぉ♪」 自身を懐中電灯でライトアップしつつ、舌なめずりするのは『メタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)である。そうしながらも、自分自身にオートキュアを使っている辺り、抜け目はない。 「ふぅーははは、よふがふごふががふごー」 そんなステイシーの真似をするように、六花は自身をライトアップしている。その口にはしょうゆで味付けられた秋刀魚。骨までバリバリ食べてます。 「さて、暴走車両か……。本当に鮭が運転しているとはな、興味深い」 さて、ライトアップされたエリューション・ビーストは本当に鮭が車を運転しているような姿だ。そんな奇妙な相手を見つつ、『ダークマター』星雲 亜鈴(BNE000864)は読んでいた本を閉じて、武器を構えた。あくまでも淡々と、処理をするように戦闘態勢へと変わっていく。 「さて……そろそろか。しばらく大人しくしてもらおう」 最初にエリューション・ビーストを襲ったのは、亜鈴のトラップネストだ。先にコンセントレーションを済ませたその一撃は正確に車の動きを阻害し、足を止めることに成功した。 しかし、流石は機会と融合したエリューション・ビーストといったところだろうか、すぐさまそれを解除して、動き出そうとしている。 「……なるほど。しかし……流石に、鮭の車に引かれるのは勘弁願いたい」 その隙に正面を避け、亜鈴は回り込む。この生まれた隙を逃すことは、冷静沈着な彼にとって許せないことだ。 そんな亜鈴とゴスロリ繋がりでもあるリンシードは、ハイスピードを使いながら包囲網を作り上げていっている。背中にはチェロケースだ。 「舞うように……。奏でるように……」 そして先のトラップネストで生まれた隙を狙って、チェロケースから素早く武器を取り出し、サイドミラーに向けてソニックエッジを放つ。 「これでもう貴方は安全運転できません……」 見事に割れたサイドミラーを片目にしながらも、リンシードは一旦引く。包囲網を作るためだ。 「魚らしく三枚に下ろしてやらーっ!」 そこで、背後に隠れていた斬乃がチェーンソーを片手に飛び込んでいく。低く構えたそれは、ギガクラッシュとなってタイヤを狙っていた。 しかし、それに対応してエリューション・ビーストも動き、タイヤには直撃させなかった。ボディーを盾としたのである。 「ちぇ。それなら!」 斬乃はとにかく接近して更に近接攻撃を仕掛けようとする。後衛には一切攻撃させまいという思いからの行動だ。 「とっこみをかけるのだー! んんー……みさいるぱんち!」 しかし、そこに六花がマジックミサイルと共に突っ込んでくる。パンチとマジックミサイルを合わせたまったく新しい後衛……ではなく、前衛の行動である。 補足するならば、六花自身の能力は後衛寄りだ。 「って、おいっ!」 「あっ! これ鱒じゃないのだ! 騙されたのだ!」 「そこじゃない! あたしも騙されたけど!」 ぎゃいぎゃい。と、そんなことをしている間に、エリューション・ビーストはエンジン音を再開させて、雷を纏い始めた。明らかに、電磁加速の前段階だ。 「来るか!」 斬乃は立ち向かうべくチェーンソーを大上段に構え、六花は頭にクエスチョンマークを浮かべながら手に炎を集めた。 そして、瞬時加速。火薬が大爆発したような音が辺りに響いたかと思えば、エリューション・ビーストの体は一気に斬乃と六花の体を跳ね飛ばしていた。 「予想以上に速い! だけど、これで!」 「にょわーっ!!」 跳ね飛ばされてHPが限界以上にまで減らされた六花はフェイトの力を使って空中で体勢を立てなおしてから着地。斬乃は跳ね飛ばされながらも何とか耐え、チェーンソーを地面に突き立てて勢いを殺した。 エリューション・ビーストはまだ加速した体を持て余しているのか、次の犠牲者を狙っている。しかし、斬乃のチェーンソーによる一撃と、六花のふぁいあーぱんちことフレアバーストがダメージを与えていた為、ボディーは凹んでおり、相手にもダメージが与えられていることを見て取れた。勝てない相手ではない。 「次はこっちかしらぁん? だったら――体同士、ぶつけあいましょう!」 エリューション・ビーストの体はステイシーへと向けられ、まだまだ高いスピードで跳ね飛ばそうと体当たりを仕掛けてくる。その体当たりは流石に速いが、ステイシーはフロントガラス目掛けて飛び込んだ! 「さあ始まるわぁん、エナジィとエネルギィの純粋なる。ぶつかり合いで愛し愛しあいましょうよぉぉぉんっ!」 着地した時に大きな衝撃とダメージを受けながらも、ステイシーは燃えていた。そして燃えているのは彼女の体もだ。機械部分をギャリギャリと言わせており、ニヤニヤした顔はどこか愉しそうでもある。 そして、自分と同じく機械の体を持つエリューション・ビーストに向けてオーララッシュを連打する。 叩く、叩く、叩く。力強く叩く。 そうすれば、割れる。 「あはぁん。丸裸ぁ」 フロントガラスが破壊され、剥き出しになった鮭は目に見えて慌て始めた。電磁加速は連続して使えない。故に、今の内に逃走ルートを探し始めているのだ。気弱かと思うが、これがエリューション・ビーストの生存術なのだろう。 「電磁加速が使えない今がチャンス!」 そこに、カイのギャロッププレイが撃ち込まれ、動きが一度止まる。しかし、先の様子を見れば再び動き出すことは間違い無いだろう。ならば、畳み掛けなければ。 「魚顔の女性も個性的で良いのですが、これも主の思し召しですね。せめて美味しく頂きます」 フロントガラスが割れたことによって、剥き出しになったエリューション・ビーストの顔を見ながら、マイスターは呟く。戦いの最中だったために、スルーされたが、何気なくすごいことを言っているんじゃないだろうか。 「魚と車の共通点って、何だか分かりますか? それは『遠くへ行く旅びと』ということ。ずっと遠くの海へ。遠くの街へ。でも。それが出来るのは、帰る故郷があるからなんです。故郷を忘れたら…空気と同じ。旅びとの自分も失ってしまう」 そんな彼女が使ったのは、ギャロッププレイによって停止したエリューション・ビーストへと向けたピンポイントだ。その一撃は割れたガラスの隙間を縫って、魚本体に突き刺さる。 「参ります、帰る場所を忘れた人魚姫。人も魚もとり食う漁師の力、教授してあげましょう!」 そして、ピンポイントによって与えられた怒りに対応するように、マイスターは自身の体に手を置いた。あなたを倒す人はここにいる、ということだろう。……つまりは挑発だ。 しかも手元にはよく焼けた秋刀魚。いい匂いだ。 これによってエリューション・ビーストは憤怒して、エンジンをかける。電磁加速ほどではないにしろ、体は加速する。 「いたいのいたいの、飛んでけ……っ!!」 その体当たり攻撃の前に、あひるの天使の歌が間に合った。傷ついていた斬乃と六花、それからステイシーの体力が治っていく。 そんなあひるはエリューション・ビーストが加速したまま逃げてしまわないように、入口を抑えていた。いざとなれば、と兩手と翼も広げている。 「あたいもいるぞ!」 同じく羽を広げ、手を広げているのは六花だ。この先は行かせない、という強い意志が決して折れない羽に宿っているようでもあった。 しかし、そんなあひるたちの心配をよそに、エリューション・ビーストは憤怒のままにマイスターを狙った。 「あ……あぶない」 そこをかばったのはリンシードである。防御力の低いマイスターがあの一撃を受ければ、ただでは済まないだろう。 だが、かばったリンシードもその体当たりをまともに受けきることは難しかった。 「うっ……ぐっ。……でも、みなさん、今ですっ……!」 フェイトの力を借りながら、ソニックエッジを叩き込む。そして、この一撃で確信できた、相手も余裕が無いと。 だから、味方に掛け声を飛ばしたのだ。 「自らに問う……死合う覚悟」 武器を構えて、カイは自問自答する。ステイシーのように加速を始めた敵に飛び込むことができるだろうか、という覚悟。 「悪いけど……ちょっと大人しく、しててよね……っ」 「止まれ。お前はここで終わる」 あひるのマジックアローと亜鈴のトラップネスト、カイの気持ちを援護するように飛んで行き、エリューション・ビーストの動きを止めていく。 「さーあ、さくっとやっちゃおうか!」 斬乃もそれに続いて飛び込み、チェーンソーによって車部分を解体していく。 「……行きます!」 そしてカイは飛び込んで、車体の上に転がり込む。衝撃から顔に苦痛を浮かべながらも、ハイアンドロウをエンジン部に叩きつけた。 ぐしゃり、と潰れるエンジン。止まる車。 「体を殺せても、魂を殺せぬ者を恐れるな。これで終わりです」 マイスターの杖が、残った魚部分に振り下ろされる。 ……この一撃で、奇妙なエリューション・ビーストとの戦いは終わりを告げた。 その体から取れた良質な魚やいくらは、リベリスタたちが持って帰って、美味しくいただきました。 「くわわっ。……おいしいっ」 そのいくらをつまみながら、あひるは感想を漏らす。彼に持って帰る前に、ちょっとつまんでしまったけど、これぐらいは約得だよね。……と、言い訳しながら。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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