●植物は生きている 時に、上位の世界からこの世界へと迷い込む者がいる。 意図せぬ来訪者……とも言える存在だ。迷い込んでしまった者の理由は各個千変あれ、その中に“悪意”無き者は数多く存在する。例えば、 『――♪』 山中において陽気に歌声を刻む彼女もそうだ。 全身が緑色、いや植物の色――と、少々抽象的ではあるがそう言った方が恐らく近いだろう。人型にして頭部に一つの花が咲いている彼女の種族は、アルラウネ。 いわゆる植物型の“生物”だ。数日前にボトムに紛れ込み、そのまま居着いてしまった存在。自然多き山中が気に入ったのだろうか。頂上付近。青き空を見上げ、独自の“音”を響かせ歌うは一点。 美しきこの世界に来られた、感謝の言葉を。 『……?』 だが。 ふと気付く。何かがいる。己を見ている気配がある。それも複数に。 後ろだ。振り返ってみるが、茂みが深くてよく見えぬ。紅き瞳に何も映らない――と思った、 瞬間。飛び出してきた影は巨大な狼で、風の如く瞬時に間合いを詰められて。 己を食らう、大きな口が眼前に見えた。 ●さぁ行け! 「ある山の中でアザーバイドとE・ビーストが交戦します。 ――と言ってもアザーバイドの方には戦闘力がないので、どうなるかは目に見えてますが……」 ブリーフィングルームにて語るは『月見草』望月・S・グラスクラフト(nBNE000254)である。 アザーバイド、もといアルラウネには戦闘力がほぼ無い。一般人よりは優れた体力を持っているようだが、それだけだ。それだけでは戦闘力と殺意ありしE・ビーストには打ち勝てない。精々逃げるのが精一杯だろう。 「アークとしてはアザーバイドの生死は問いません。 アザーバイドは居るだけで崩界を早めますから……仕方ないですね」 彼女の様な存在は悪意の有無に関係なく世界から排除せねばならない。 運よくフェイトを得られればその限りではないが……今回の彼女に関してはそのような未来は見えなかった。と、なれば排除か、送還か。どちらかの道しかなく、どちらでも構わないのがアークの立場である。 だがそれは“組織”として。“アークとしては”の話であって―― 「――でぇえええええも! 何の害も無い子が一方的に排除されるのはやっぱり納得いかないのでッ!! もうこの際だからE・ビーストぶちのめしてアルラウネちゃん助けてきてくださいよ! くーだ・さい・よー!!」 人としては助けたくなるのが人情である。 そも、先に述べたとおりアークとしては“排除”か“送還”かの道があるのだ。E・ビーストに関しては排除しかないが、アルラウネは元の世界に帰ってくれるならば必ずしも排除する必要はない。平和的解決の道も無論あるのだ。 だからごねる。望月はごねる。殺す必要などどこにも無いのだから、 「移動に関してはアーク所有のヘリで移動可能です! 今から行けば戦闘開始前に間に合います!! 敵は速度特化の大きな狼達ですが…… 皆さんならきっと! 勝てる筈です!!」 望みを託し、リベリスタ達を送り出す。 目標は二つ。E・ビーストの撃破と、アルラウネの――生存である! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月10日(土)22:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●一刻猶予なし アルラウネと大狼の距離はすぐそこだ。介入出来るかどうかギリギリのタイミング。故に、 「さぁ――行きましょうかッ!」 『御峯山』国包 畝傍(BNE004948)がカウンター気味に、接近せし狼に対して走り抜けた。 全力の移動だ。地を踏み締めながら握る刀に力を集中。放つ一閃が狼の顎元をかち上げれば、その身を強引に後退させる。 乱入者。狼側からすればそう判断し得るその者らに、アルラウネは一瞬目を丸くして、 「驚かせちゃった――かな?」 途端。驚くアウラウネに警戒心を与えまいと、微笑みながら『The Place』リリィ・ローズ(BNE004343)が言葉を紡いで、 「大丈夫。もう怖くないよ。 ボク達が君を、必ず護るから」 前に立ち、守護せんとする。 エクスィスの申し子たる彼女らは植物と心通わせる事が可能だ。なれば無論、人よりも植物に近いアルラウネに能力を活用し、意思を伝える事も容易い。少なくとも今回のアルラウネに限ればタワー・オブ・バベルと同等かそれ以上の効果が得られるだろう。 仲間に近い者がいる。それだけでアルラウネの心は安堵を得ていた。すぐ傍には凶悪な殺気を放ちし狼もいるが―― 「何してくれてんだこの犬畜生共ッ! とっとと彼女から――離れろ!!」 『咢』二十六木 華(BNE004943)が次いで。回り込みを行おうとした狼を弾き飛ばす。 進ませない。近寄らせない。可愛いものは正義だ。可愛いものこそ至上だ。 それを狼如きが食い破ろうなど断じて認めん。強き意思をもって彼は立つ。必ず、守り通すと。 敵は四体。巨大なる狼達。人など容易く食らい尽くす人外である。 「狼退治。獣から女性を護るは騎士の務め……てかぁ? ハッ。柄じゃあねぇが――行くぜッ!」 されど。臆さぬ震えぬ巨大なる身如何するものぞ。押して参る。 『暁』富士宮 駿河(BNE004951)もまた劣らぬ戦意がある。仮にアルラウネが死亡してもこの世界に全く影響がない事は頭で分かっている。分かっている、が。頭と感情は全く別物だ。直接的に害を成していない存在を一方的に排除するなど後味が悪い。 平和的に解決できるならばそうするべきだ。そしてそうする為に狼が邪魔ならば、 「まったく。弱い者いじめは、めっ、なんだよ。がおっー!」 「大丈夫――そうだね。護るから。安心して。見ていて」 皆と共に往くのみ。『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)に『空色の飢獣』スォウ・メモロスト(BNE004952)が更に、狼とアルラウネの間に塞がるように布陣する。 羽海が狼に対し、威嚇するかの様な声を放ち。スォウはアルラウネへと声を。 親近感の湧く存在だ。ある意味では己ら、ミステランの仲間と言える存在かもしれない。時が許すならゆっくりと触れ合いたい所だ。が、今はとにかく邪魔者である狼を排除せねばならない。 「おまじない、だよ。これで大丈夫!」 『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345) 狼達の主要技は全て物理攻撃。 なれば物理による攻撃そのものを無効化するこの付与は彼女の安全を保障したようなものだ。唯一懸念があるとすれば神秘による通常攻撃は通るという事だが――数で勝るリベリスタ達がその攻撃を簡単には通さないだろう。 そして。『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が、 「目標を確認した――任務を開始する」 冷静なる瞳で敵を見据え、ひたすらに目的へと邁進する。 異世界からの来訪者を、元の世界へ無事に還す――目的へと。 ●救える命 狼達は散開した。 奴らが如何なる存在であれ、我らの領域を犯した者を庇い立てるならば敵だ。 己が身を速度に委ね、昇華させれば四方より攻め入る。 全ての敵の喉笛を、噛み砕く為に。 「ここは、いきどまり!」 だがさせぬ。スォウがその内の一体をブロック。 狼の移動にも負けはせぬ。二十の距離を移動し、高速で引き摺る斧で、 土ごと抉りながら狼を一閃。そのまま後方へと押し飛ばす。 「ったく、無駄にデケー図体しやがって。せめてもうちょい纏まってくれれば楽だったんだがな」 続いて駿河。纏うは火炎。業火の勢い。 突貫だ。眼前、ブロックする敵を狙い定め、全身諸元穿ち放つ。 敵が散開したために範囲攻撃としての効率は落ちているが、それならそれで次からは別の技を使うのみだ。何も一つの技しか使えぬ訳では無い。アルラウネへの道を塞ぎつつ、敵を攻撃すれば、 「グ……ォォ……ッ、ガァァァッ――!」 狼が吠えた。 大気が震える。震動が体に響く。これは唯なる声では無い。力が宿っている。 威力自体はそこまで大したモノではない。が、広範囲に影響を渡らせる技は厄介だ。ある程度散開できる狼とアルラウネを護るべく展開するリベリスタとでは範囲技のやりやすさが違う。先の駿河の攻撃。今の狼の攻撃。範囲を効率よく打ち出せるのは後者である。 「ふむ。だが数はこちらが上。ならば幾らでもやりようはあるものだ」 瞬間。アルラウネに届きかけた振動をウラジミールが庇う。 そう、如何に闘いやすさの種類に違いがあれど数で有利なのはリベリスタ。ならば対応力では圧倒的に上だ。例えアルラウネを直接狙われようとも、彼が庇うのならば問題ない。エフェメラの付与も続いているのなら、彼が何かしらの要因で万が一引き剥がされたとしても万全である。 『……! ――!?』 「むっ? ああ、大丈夫だとも。お嬢さんが気にすることではない」 直撃する震動。己を庇ったことを、アルラウネは分かったのだろう。 されど心配する必要はないと、後方の彼女へ。言葉は通じねど送り届ければ。 己が心に。静かなる誇りを抱いて羽海が往く。 何が正しい。何が間違っている。誰なら倒してよく。誰なら保護してよいのか。 彼女には、羽海には分からない。生死の基準。その絶対点が。記憶失いし身には宿っておらぬ。それでも、 「ごめんね」 目の前に、命がある。 「悪い事、した訳じゃないんだろうけど。それでも、仕方ないことなんだ」 まだ救える命と。もう救うことの出来ない命が。 ならば己が手を伸ばすのは前者だ。踏み込む跳躍。迷わぬ意思。敵の意識を乱す突撃が、狼へ。 「ええ。救える命を救うことに、間違いなどありません。私はそう信じています」 さすれば続く。畝傍の一撃が、狼を裂く。 己の力は。己に宿った力の意味は、そうである筈だ。アザーバイドは基本的にこの世界から排除せねばならぬ存在であるが、敵意ない、善き隣人たりうる者ならば。彼女を救うことに一切の迷いは無い。自分の力は無差別の凶器に非ずなれば。 「近付かせはせんぞ……!! 彼女の元へは通さん!」 気と物を込めた居抜く一閃を華が放つ。 通さない。通してなるものか。一切合財防いでみせよう。彼の意思は非常に硬い。例えるならば、 諸君、俺は可愛いものが好きだ。 この地上に在るありとあらゆる可愛いものが好きだ。 道端ですれ違った女の子が可愛いと心が躍るし。 家に帰って飼っているわんちゃんが駆け寄ってきたら感動すら覚える。 異世界の子であろうとも可愛くてフェイトも持っていればたまらない。 そんな子を窮地から救えたら絶頂すら覚える。 アルラウネ! アルラウネ! アルラウネ! 万感の思い。天上なる世界に届けと謳い上げたい程に。 そのためならば戦争も問わない。無論エリューションと、であるが。それほどの意思なのだ。 「ああもうあちこちから……! こっちは来ちゃダメ――! あっち行ってッ!」 そして迫る狼を迎撃するエフェメラ。ブロックしている前衛をなんとかすり抜けようと狼はしている。だがそうはいかない。引き絞る弓から放たれるは火炎の矢弾。狼の身に降り注ぎてその俊敏なる付与を打ち消せば、 「あぶないから、待っててね? 大丈夫。彼と一緒に居れば安全だから」 リリィがアルラウネに声を掛ける。彼とは無論、ウラジミールの事だ。戦場から抜けるまでは彼と共に在り続けるのが最も安全な場所となるだろう。言葉告げ、狼に向き直れば心新たに。 「ボクは、キミを。キミ達を許しちゃいけないんだ」 ごめんね。とは心の中で。 どうあっても無理なのだ。エリューションたる彼らは救えない。どうあっても。 故に謝る。許せない。許せない。許すことが出来ない。だから申し訳ない。 「ティティ、行くよ」 共に在る。フィアキィの名を告げて、放つ冷気が敵を襲えば。 自身も往く。護る為。倒す為。救う為。 須らく、成す為に。 ●救えない命 ある狼は苛立っていた。敵が強い。 速度では決して負けてはいない。が、突破ができない。我らの領域を犯した者を庇い立て、立ち塞がり続けている。どころか、 「わわっ大丈夫!? 今、助けるね!!」 傷を癒す術を持っている者もいれば尚に硬い。 エフェメラだ。集中攻撃して一角を落とそうとしても、彼女が片っ端から傷を癒していく。 故に――次なる目標は彼女だろうか。 狼達の声ならざる声。合図。狙うは一点。癒し手。 だが攻撃を届かせる為にはリベリスタの前衛を突破せねばならない。だから、 「ォォォォォオオオッ!!」 二匹から放たれた、震わせる声が混乱を呼ぶ。それは狼達自身をも効果範囲に巻き込むが、なんとか直撃以上は回避した。そしてその瞬時。残りが一斉に狙う。全力なる移動。突き立てようとする刃の如き歯。 肉を食い破―― 「ッ……とぉ! ギリッギリ間に合った、かな!?」 ――られはしなかった。 エル・ユートピアだ。アルラウネに付与したモノと同じ、物理無効効果。 消費激しく、何度も使える代物ではないが、先に述べた様に狼達は物理主体だ。それを完全に無効化出来るユートピアは正に彼らの天敵。純粋な回避能力は低くなるものの、デメリットを上回る効果が得られるだろう。そして、 「非才のこの身なれど。やるべきことは、こなして見せましょう。 一つずつ歩みを進めていけば、いつかは手に届き救える命がある筈です……!」 畝傍が癒しの力を飛ばす。迸る生命力が、他者を癒している。 回復手は何もエフェメラ一人だけではなかったのだ。リベリオンたる彼も癒しの力をもっている。純粋な回復量で言えばエフェメラには及ばないが、一気に全体を癒すことの可能な彼の力は貴重だ。 命を救う。敵を倒す、ではなく重点すべくは命だ。 「誰かの命に体を張れる……私は、そういう男になりたいのですよ――ッ!」 ブロックを突破した狼を後ろから穿てば、狼が倒れて、 「中央にいる狼が指揮者だ! 奴が指示を飛ばしていた。間違いない!」 声が飛んだ。アルラウネを安全圏に送り届けたウラジミールが戦闘指揮持ちの狼を見抜く。 戦闘開始より敵を見ていた彼だ。他の狼と違う、僅かな挙動の違いが気になった故に、分かる。奴こそがこの場のリーダーだ。 走り抜ける。一刻も早く戦場に戻るべく。支援すべく。己がAK-47を手に、狼達に引き金を絞り上げるのだ。 「そう、か。指揮持ち、はアナタ、か」 斧を構えるスォウが見据える狼。ウラジミールが指揮者と断じた狼。 マント翻し、斧を持つ左腕に全力を。引き上げる。片手で円弧の動きを持たせ、勢い付けば両手を添えて―― 「邪魔、だッ!」 一閃。振るった瞬間にのみ凝縮させた気と力が狼を襲う。 震えるその身に帯同したのは電撃の類か。僅かに落ちた回避力。そこを、 「ここまでだな犬畜生。滅び砕けろ!」 「しゃあッ! あともう一丁、踏ん張ってみようかッ!」 同時。華と駿河が見逃さない。 左から華が。右から駿河がそれぞれ攻め立てるのだ。狙うは勿論指揮者の狼。 機を逃さずに落としに掛かる。この狼さえ落とせれば敵全体の動きが鈍くなるのだ。人の身を遥かに凌駕した狼が、今や倒れ伏す寸前だ。巨大なる身はもはや威厳なく、外見に反してある意味――小さく見える。 「ゴッ……ガッ……ガァァァァッ!!」 「ティティ……お願い。終わらせよう」 喉から絞り出すように放った狼の声。と、ほぼ同時にリリィが放つは冷気の力。 ぶつかり合う。お互いの攻撃を真正面から受け、過ぎ去り。それでも立っていたのは――リベリスタ達だ。 狼の身が沈む。その様子を見据え、リリィの心は静かで在り続ける。動きの見え辛い、心に抱くは果たして何か。 だがまだだ。まだ全て終わった訳では無い。 羽海の見る先。指揮官が居なくなったとはいえ、まだあと二体残っている。牙を見せ、戦意ある二体が。 倒しきらねばならない。何度も考え、思った事ではあるが。 彼らは生かせない。アザーバイドたるアルラウネとは、事情が違うのだから。 「……可哀想だけど、ばいばいだね。狼さん」 言う羽海の、構える茨が振るわれれば。もはや趨勢は完全に傾いて。 今ここに、陣取っていた狼達のテリトリーは失われた。 ●アルラウネ 戦いは終わった。 後はアルラウネだ。救える命ではあるが、送還せねばならない。 ただ。寸前でも話す時間程度は勿論ある。 「……元の世界に戻ってほしいんだ。 ボクはキミと友達になりたいけれど、キミが長くいればいる程この山にいる子たちは少し、困っちゃうの」 『……?』 話したのはリリィ。アルラウネの手を握り、頼みを告げる。 崩界が進んでしまうのだ。この山に例えるならば土が枯れる。壊れていく。先の狼の様な存在が増えてしまうと、簡潔に告げた。 さすればアルラウネは頷いてくれる。流石に一瞬戸惑いを見せた様ではあるが、己を救ってくれた者達が嘘をついているとは思えない。そして自身も、この素晴らしき世界を壊そうとは思わない為に。還る事を、決意するのだ。 ゲートまで歩く。その道中、話しかけた華が、 「……俺からは、ありがとうの言葉を。 君を救えた事で……箱舟に来て、本当に良かったって思えたから」 感謝を述べる。本来なら感謝は救われたアルラウネ側の言葉であろうが――彼にとっては、救えた事自体が嬉しかったのだ。それと、と彼は持ち合わせていた花をアルラウネへ一つ。手渡しする。 その花はブローディア。花言葉は“守護”である。 こちらの世界の文化だ。アルラウネが理解できるかは分からない。だが、感じるだろう。 彼の意思。彼の考え。彼の思い。伊達にアルラウネも植物の一種ではない。何か、思い抱くことはある筈だ。その証拠に、 『――♪』 微笑みかける彼女の顔に。意味が無いとは思えない。 「ホンット、異世界の連中って不思議だよなぁ。 こう、体の作りとかからして全然ちげーけど……独自の歌、だっけ? あれもすげーよな」 駿河が抱く、異世界の認識。 怪我が無いか改めて見れば見る程異世界の者は不思議だ。しかし、そんな彼らがこの世界を美しいと思ってくれるとは、 「まぁ、何つーか。俺達の世界を美しいって思ってくれて、アリガトな」 頭を掻いて、照れくさそうに告げる。 自分の事ではないが、悪い気分はしないものだ。生まれた世界を、美しいと思ってくれるのは。 「私、フォウ。アナタは、名前がある、の?」 フォウが聞くは、アルラウネの名前だ。あるならば聞きたい。 なければこの世界の花の名前でもプレゼントしようか。名前交換だ。そうすれば、 「別れても、ずっと、友達!」 そういう関係で、いられるだろうから。 『…… …… ……!』 答えたのか。何か、言葉ではないが、告げた何かがあった気がする。 恐らく解読はタワー・オブ・バベルでも無理だろう。それは言語ではない。想いだ。 何か名前……の様なモノはあるらしい。意味が伝わったか伝わらなかったか。それは、聞こえたフォウだけが知るだろう。 「あうう。ええとそのぉ――」 なんと言おうか。なんと伝えようか。羽海は言い淀む。 何か話したいのだが、どうすれば伝わるだろうか。言葉が無理なら……なんだろう。うむ、ええと。 悩むうちに体が動く。口が動く。漏れる言の葉が集いてリズムを作り、歌となる。 「――」 『……♪』 後は身振り手振りだ。歌に合わせておどけて見せれば、少しは伝わるだろうか。 共に抱く笑顔が。言葉は通ぜねど。意図が分かり、心が分かる。 浮かべる笑顔が感謝の意を伝えている。 ついぞ羽海はアルラウネを持って帰りたくなるが、寸での所で我慢。我慢。……がまんである! 「えへへ! ねぇねぇ君は、どういう世界からきたの? ボクはね、完全世界ラ・ル・カーナっていうチャンネルからきたんだ!」 リリィちゃんとフォウちゃんもそうなんだよ! とはエフェメラ。 親交深めたき彼女は積極的にアルラウネに話しかけていく。討伐の道にならず良かった、という安堵からの反動か。自己紹介を行って、 「さて、名残惜しいかもしれませんが……ゲートが見えてきましたね」 「そのようだな。……では、お嬢さん。達者でな」 畝傍がゲートを見つけ、ウラジミールはアルラウネへと見事な敬礼。律儀な所である。 アルラウネも見様見真似で。ウラジミールの真似をして、敬礼の様なポーズをとれば――ゲートへ入る。 手を振り惜しくも別れとなれば。無念ながら。無念ながら。超無念ながらも華が。そして畝傍がゲートを破壊して。 帰路に就く。迎えのヘリがそろそろ来るだろうかと。考えを巡らせながら――ふと、周囲の自然を見据える。 ああこの景色を見ていたのだろうか。アルラウネは。そして、歌っていたのだろうか。 この世界は――美しいと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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