●兵どもがなんちゃらら それは、所謂失敗作というやつだった。 地方興しの一環として始まった、空前のゆるキャラブーム。 その反響はテーマを合わせたテレビ番組のひとつでも見ていれば自ずとわかることだろう。 ゆるキャラ。無論、ゆるいキャラクターの略であるが。その名通りの見た目で愛嬌を持たせ、観光の目玉として衰退する地方産業を支えるマスコットのことである。 つまりはこれも、その種のものなのだ。 それは海鵜市というカテゴライズしたせいで本来の意味とは全く違う生物名にしか聞こえないイチ市内における非公認ゆるキャラとして誕生した。 あくまで非公認である。地方公共団体の支援を受けることはできない。そのため、製作者達としては懸命に努力したものの、市民にすら大した認知もされず赤い帳簿だけを残して消えていった。 はずだった。 それは起き上がる。 ずんぐりむっくりした身体。子供の落書きのような、見方によっては醜悪とすら映る外観。不自然な歩き方。不気味なダンス。 パクリ臭の半端ねえそいつは怒っていた。 自分はこの海鵜市を再生するために誕生したはずだ。企画者達だって皆、自分の姿を絶賛していたというのに。蓋を開けてみればやれ売れないだやれどこかで見たことがある気がするだやれやっぱり可愛くないだ。 これでは、何のために生まれたのだ。自分は、何をするために。 ただ非難されるためだけに生まれてきたのではない。断じてない。 憎い。ゆるキャラが憎い。海鵜市が憎い。自分を生み出した人間達が憎い。 春の海岸。波の跳ねる岩場でそれは誓う。 「再生のために生み出されたのなら、破壊するものになってやるうっしー! これは復讐ではない。逆襲だうっしー!」 その名はうみうっしー。ウミウシをコンセプトに作られたキモカワイイの発展形、キモいだけのゆるキャラである。 そら売れねえよ。 ●春のうららのふんふふふ 「大変ニャお前ら! うみうっしーが暴れだしたニャ!」 そいつ、『SchranzC』キャドラ・タドラ(nBNE000205)はブリーフィングルームの扉を開けると、すでに集まったリベリスタらに向けてそう言った。 「なんだって、あのうみうっしーが!?」 相談板で誰か一名以上元から知っていた役頼んだ。 「そうニャ! あのまったくこれっぽっちもかけらとしてブレイクしなかった幻のゆるキャラの怨念が、ウミウシをEビーストうみうっしーに革醒させたのニャ!」 とにかくこいつを見てくれとモニターの電源をつける猫。 そこには、色とりどりのなんかでかいナマモノがうねうねしながらうっしーうっしー言っていた。踊っているように見えなくもない。あ、波に飲まれて一匹消えた。 …………キメエ。いや、言ってはいけない。少なくともここにはうみうっしーの存在を知っている者が数名いるのだから。そう、一部のマニアにはきっと愛嬌が、 「やっべー、やっぱキメエニャうみうっしー」 言っちゃったよ。やっぱキモいよこいつ。 「ま、あちしもついてくし、頑張るニャ」 思わずため息を付いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月07日(水)22:11 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●歳を重ねるごとに春が忌々しく思われて 存外にキワモノの方がウケているあたり、この国の変態度は相当に高い。 さて、いつもであれば時節の風景描写などを導入として記すところではあるのだが、今回はやめておくとしよう。なんと言ったものか、情緒という言葉を挟むべきではないと思うからだ。今回のようなケースである場合、相応しい言葉は想像を掻き立てるような状況の詳細ではなく、こうあるべきではなかろうか。 ごきげんなナンバーを紹介するぜ、と。 『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が扮装するのは、産業保健師のPRを目的としたゆるキャラ、さくらこさんである。過重労働や労災に対する一次予防を主な任務とした彼女のキャッチコピーは、 「後何年……生きたいですか?」 だ。死神のそれに近い。頭の上に10カウントつける青魔法を思い出すぜ。彼女は「ポスターでこの台詞を言っている時の彼女の顔が怖い」「残業明けに見たら動機が止まらなくなった」等、長時間労働者達からの非難を浴びた為に闇に葬られた悲劇の天使なのである。つまり割と敵側だ。 冥時牛乳の非公認(そりゃそうだ、俺が知らねえもん)ゆるキャラ、牛乳の妖精めいひめちゃん(フルネーム:牧場ヶ原・ホルスタインヒルデ・冥姫)を演じるのは『めいひめちゃん』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)。お前、同じ一文に同一単語でちまったじゃねえか。寄せて上げて詰めて膨らませて押さえつけた牛耳メイド、肩に乗せた相棒は妖精チャドラだそうだ。その内赤ドラとか黄ドラとか出そうだな。黄色は不味いか。 「牛乳に相談ダッダーン! ボヨヨン、ボヨヨン♪」 すげえな、一気に年齢のバレる発言したぞこいつ。 頼むからこんな依頼でフェイトを使わないでくれ。 「うみうっしーがなんだ! そっちが海ならオレは空だ! いや天だ! 三高平非公認ゆるキャラのてんとくんだよ!」 『てるてる坊主』焦燥院 "Buddha" フツ(BNE001054)の考えたゆるキャラはてんとくんである。けしてディフォルメした胸に傷のある眼帯男には似ていないとだけ明記しておく。 「武器は槍だよ! 『大昔の悪人が愛用した、緋色を基調とした長槍。時折少女の声が聞こえるが、その声を聞いてはいけない』よ!」 お客様、恐怖神話のプレイングはこちらではありませぬ。 月杜・とら(BNE002285)の演じるとらもっちゃんは、モツ(=鳥獣の内蔵肉)のPRキャラである。どうしてこんなもののゆるキャラを考えついてしまったのか、そこをまず一考していただきたい。若者の焼肉離れでもあったのだろうか。プロフィールには人を抱きしめるのが好きで、誰とでもお友達になりに行くと書いてある。内蔵のキャラクターなのにか。なんで恐怖神話書く前にどんどんそっちにメンタルがシフトされていくんだろう。なんだこの優しさは。プライスレスなのか。 「上から水着をつけたから、波間に浚われた奴も追いかけられるよ♪」 「ゆ、ゆるキャラ……えっとえとえと、あ! そうですっ」 『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)のそれは、自分で考えたものではなく姉の考案したものだった。『ててろんろん』。子供アニメの言葉を発せない2種の片方のような語呂を持つそれは、テテロ一族のマスコットなのだそうだ。一体何を興すつもりだったのか。風貌は、その、なんとも言い表せない。よくわからない形で、よくわからない言葉を発する何かだ。 「ぱんぱかぱーん!」 あ、聞き取れた。俺はホラー系STなんだが正気度がもうダメかもしれない。 「うみうっしー? 知らない子だね」 半ば公式のくいしんぼキャラのような発言をした『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)は、見た目だけで言えば一番ゆるキャラらしいと言ってよかった。その名はがいじゅう。二足歩行で二頭身のピンクな猫だ。いや、参照元は言わなくていい。なんとなくわかる。猥談を好み、存在がセクハラのいんらん系癒やしキャラだそうだ。是非は置いておいて、書いててそれほど違和感を感じない程度にはもう私は狂っている。 「ピンクはいんらんって言った奴前に出ろよ」 強いて言えばお前だよ。 以上が今回の参加者である。もう紹介だけでおなかいっぱいというか出落ち以外に何があるのか知りたくもないが、それでもエリューションを片付けてこそのリベリスタである。 せいぜい、最後まで目をそらさずお付き合いいただきたい。 ●ほろ酔いの気分でなければ見られない光景ども 可愛さから離れてみるという発想。 ひとつだけ、喜ばしい点がある。まあ、ハリウッド映画で良いニュースと悪いニュースなんて陳腐な言い回しのアレだと思ってくれていい。つまり、碌なものではないということだ。 ここに集まったゆるキャラというかもう妖怪大戦争でも許されるような面子は、どれもこれも一般受けというものからは程遠い。確かにピーキーなキャラほどウケているとは感じるが、こういうことではないだろう。物事には境界線があるということだ。 であれば、喜ばしい点はひとつ。これらはどいつもこいつも非公認で、正式採用されたキャラクターなど存在しないということだ。つまり、イメージが崩れても誰も悲しまないのである。 ●多分それを勇気と飛ぶのなら ユルいという概念について小一時間討論しよう。 「過重労働は……メッ! ですよ?」 さくらこさんのこのほほ笑みが恐ろしいのか、うみうっしーのひとつがおどろきすくみあがっている。昨今のゆるキャラは、行動ひとつでバッドステータスでも起こせるくらいでないとやっていけないのであろう。なお、他のシナリオでは確実にこんな判定結果にはなりません。 さくらこさんは産業保健師であるのだから、当然役目は回復だ。 「もう……みんな心配しちゃいますよ?」 なんて、看護師に笑顔で言われれば、叱られているのになんとなく嬉しいものだ。嫌な予感がえらいすることは差し置くとして。 だから、 「働いているあなたも素敵だけど……家族や友達のこと、忘れないで」 そろそろ、顔が、怖い。ふっと笑みをなくしたそれは、なんというか寒気がするものだ。 「やはり一次予防しか……ありません、ネ」 さくらこさんの目からハイライトが消える。生気のない目と、どことなく調子の狂った声。 一次予防とは、生活習慣や環境を整えることで病気や怪我になりうる原因そのものを取り除くこと。病を気で何とかする前に、病を根から排除する。 ゆっくりと、腕を上げてうみうっしーに向ける。笑っているようにみえるのは気のせいか。嗚呼、癒し手が殲滅者に変わる。 「おんどりゃ、語尾が同じってどうゆうことじゃ、ワレ!? キャラ付けかぶっとんじゃ!」 見事なまでの自作自演であるが、多くは言うまい。 「軟体動物の分際で、誰に断って『牛』を名乗っとんじゃ? あぁん? 舐めとったらあかんぞ! シゴウするぞ、コラ!」 めいひめちゃんの恫喝に完全にびびっているうみうっしー。人間が勝手につけたんだよとかそもそも海の生き物ってなぜか海+陸生物多いんだよとか、言い返せないのが彼らである。我の弱いのも敗因なのかもしれない。 「……方言も、ゆるキャラのポイントうっしー?」 ハッと我に返ったのだろう。それまでの裏社会っぷりはどこへやら、突然にキャラ付けを取り戻すめいひめちゃん。 「違うっしー! めいひめちゃんは、可憐な美少女妖精うっしー!!」 これを信じた場合、あなたはミラーミスの悪影響を受けている可能性があります。 「うしじるぷしゃー!! うふふ、あはは、めいひめちゃんのうしじるで、世界中を( ゜∀゜)o彡°にするうっしー!!」 最早こいつのほうがウミウシっぽい。 「エンジェルも幼女も、性別の壁の向こう側も、みーんな( ゜∀゜)o彡°になーれ!!!」 言い表せないとはこのことか。なんて読むのこれ。 てんとくんが他のゆるキャラと違う点がどこなのかと言われれば、そのひとつに空中浮遊があげられる。 「浮くゆるキャラとかすごくね? これがホントのゆるふわ系だろ!」 確かにふわふわという擬音はそらを飛ぶ際にも当てはめられるものではあるが、袈裟を着たつるっぱげのきぐるみがそうしている様にも使用していいのかは甚だ疑問である。 うみうっしーが奇声をあげる。甲高くあまりに脈絡のないその叫びは、聞くものの精神を揺らすのだが。てんとくんには通用しない。修行の賜物である。 「そっちがヒャッハーならこっちはヒャッ破ァ! だよ!」 一部のユーザーにしかわからないようなネタを。一体これは三高平のどこを何に向けてアピールするためのものなのだろう。 てんとくんの見事に剃りあがった頭が光る。その光にはうみうっしー共も思わず圧倒されるが、間違えてはいけない。これは断じて後光ではないのだ。 ところで余談ではあるが、この坊主頭のてんとくん。きぐるみを脱いでも割と同じものが現れる。なんというかマッチョが肉襦袢を着込んでいるかのような意味不明さを感じるが、この姿でなければ戦える相手ではないので、仕方のないことだったのだろう。 「ハァイ、とらもっちゃんだよ~☆ 是非さわって、遊んで、写真を撮ってあげてくださいね! ……え、そっちもゆるキャラなの~? きもーい信じらんなーい、モツだけど」 ウミウシであるうみうっしーと、鳥獣内臓肉のとらもっちゃん、どちらが気持ち悪いのかと言われればおそらく甲乙つけがたいものになるとは思われるが。 「腹割って話そうぜぃ~☆ モツだけに」 どうしよう。語尾にも突っ込みたいがその前にかなりのブラックジョークである。 「キモくたっていいじゃ~ん、話題になったもん勝ちだよ! それがPRってもんでしょ? モツだけに」 友好的に話しかけるとらもっちゃんではあるものの、エリューションに成り果てたうみうっしーにそんなものは通じない。しかし、攻撃してきたうみうっしーをとらもっちゃんはあろうことか抱きしめたのである。 「お友達ーッ!!☆」 ところで、コスとしか書かれていなかったので今までモツ肉想像してたんだけど、ひょっとしてきぐるみより衣装としてのコスチュームなのだろうか。その場合、えっちな水着きてでかいウミウシと抱き合ってる様はなんともエロ……げふんげふん、やらし……げふんげふん危なっかしい物を感じるが。 ただしモツ肉だと本当に何が何だか分からない。 このててろんろんというなんだかよくわからない生き物は、多分誰よりもガチガチで戦闘をしにきていた。 それは自身への付与効果をモツ、じゃなかった持つスキルを使用すると、仲間への回復とステータス補助を行い始めたのだ。 敵の繰り出す状態異常効果にも素早く対処し、常に全員が万全の体勢でいられるように行動。戦況を分析してから回復に移るというスタイルでまがりなりにも戦闘、殺しあう場であるというこれをコントロールしていた。 ここまでくると本当にこんなリプレイ書いてていいのかと不安にすらなってくる筆者であるが、問題はない。よくよく思い出して欲しいのだ、このててろんろんという生物の特徴を。 それは、何を話しても何を言っているのかよくわからない。わかるのは時折発する「ぱんぱかぱーん!」という巨乳巡洋艦みたいな台詞だけなのである。 回復手として手が空いた際には攻撃にも移るててろんろん。その際には「うみうっしーさん、かくごしてくださいですっ!!」なんで勇ましい台詞を本人は言っているつもりであるものの、誰にもそれが聞き取れることはない。だって、実際にはこうだ。 「ぱんぱかぱーん!」 ●絶対無農薬 その内ゆるキャラテーマの小説とか……え、もう出てる? 実際のところ、ここまでが前哨戦であると言っていい。 うみうっしーは倒れ、消滅し、今度こそ大人たちのミスった産業復興廃棄物としてこの世から忘れ去られていくのだ。だが、そんなよくわからないモノローグなどどうでもいい。 問題は、ここからだ。罠カード発動。うみうっしーの呪い。この罠は、戦場にいるあらゆるゆるキャラ同士を戦わせるスーパーゆるキャラ大戦を勃発させる。 その中で、一際殺意を輝かせている生物がいた。 がいじゅうである。 この何でも吸い込まない方のピンクの獣はとにかく殺意満点であった。 曰く、 「えっちなのはよくないので( ゜∀゜)o彡°キャラはころすしかない」 だから( ゜∀゜)o彡°←これなんて読むのよ。ねえ。 猫キャラがかぶってる奴はダメだ、ころすしかない。なんか珈琲牛乳の妖精とか増えてる、ころすしかない。羽が生えてる奴もキャラがかぶっている、ころすしかない。恋人がいるやつも許せない、ころすしかない。なんか「ぱんぱかぱーん!」としか言えないのだけはもふるのだ。 どうしよう。ここまでころすばっか打鍵したの初めてです。 しかし、そんな無意味無価値の戦いにも終止符が打たれるのである。がいじゅうは理解してしまったのだ。なんか、牛乳の妖精とか言ってるのが、おっぱい系っぽいのにあんまりエロくない事実に。 感じる残念臭。生じる偽乳疑惑。哀れみの目線。そして芽生える友情。 こうして、第一回スーパーゆるキャラ大戦は感動で幕を閉じたのである。何この無理矢理感。 ところで、まあ色々と蛇足感はあるのだが。今回の件でひとり途方にくれているやつがいた。 そいつ、『SchranzC』キャドラ・タドラ(nBNE000205)は珍しく呆けた顔で、何をするでもなく、 「あちし、何しに来たんだっけ」 了。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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