●奇妙な鳴き声 てけり、り――。 古びた石造りの部屋に入った瞬間、奇妙な鳴き声が聞こえた気がした。 「須郷教授、なにか聞こえませんでしたか?」 語りかけた助手の言葉は、須郷正助の耳には入っていなかった。 「風の音ではないのか? そんなことより、この石棺だよ!」 日本アルプスで先ごろ発見された遺跡の調査に、須郷教授は並ならぬ意気込みを見せていた。 だから、山々の雪がようやく消えたばかりという時期に調査を行ったのだ。 それは日本史上に存在するいかなる建築様式にも類似していなかった。 「弥生時代のものだという推定が誤っていることは考えるまでもない。私の仮説が正しければ、これは少なくとも白亜紀以前に建築されたことになる」 「白亜紀以前にいったい誰が? 恐竜に建築技術があったとでも……」 助手の言葉に教授は首を横に振る。 「それをこれから調べるのだよ。この石棺を開ければ手がかりになるはずだ」 石の錠で固く封印の施された石棺。 事前の予測では、ただ開けるだけですら長い時間がかかると考えられていた。 けれど、隙間に鉄の棒をねじこむと、意外とたやすくそれは開いた。 あたかも、中に存在するなにかが自ら外に出ようとしているかのように。 『てけり、り――』 鳴き声のような音が再び響く。 それは確かに石棺の中から聞こえた。 須郷教授は気に留めることもなく……なにかに取り憑かれたかのような勢いで、石棺を覗き込む。 なにもなかった。 ただの暗闇だけが――いや、そこに黒いなにかがたまっていることに教授はすぐに気づく。 タールのように濃い黒をした物体は呼吸しているかのように泡立っている。 「く、く、くくくくく……」 笑いともつかぬ声が教授の喉から漏れた。 タールの中心に、腐った油のように濁った緑色の瞳が現れていたからだ。 そして、教授の喉に手を伸ばすようにタールが伸びる。 口らしきものがタールの中に現れる。 不定形の化け物は彼を呑み込み、さらには瞬く間に部屋全体を覆い尽くした。 ――しばし後、須郷教授と助手たちは部屋を出る。 『てけり、り……』 その口から、奇妙な鳴き声が漏れた。 ●ブリーフィングルーム フォーチュナである『ファントム・オブ・アーク』塀無 虹乃 (nBNE000222)は、アークのブリーフィングルームにてリベリスタたちに予知した状況を説明した。 「甲信地方にある大学の研究チーム5名が、日本アルプスで発見された遺跡を調査しに向かい、消息を絶つ事件が起こります」 どうやら、遺跡内にはアザーバイドが存在しているのだという。 須郷正助教授が率いる調査チームはアザーバイドが封印されていた石棺を開けてしまい、攻撃を受けてしまうのだ。 残念ながら調査チームはすでに出発済みであり、連絡を取る手段はない。 先回りして封印を解かせないようにすることは不可能だ。 できるだけ早く現地である山奥に到着できるよう、移動手段としてヘリの手配をしているが……彼らを救える可能性は低いだろう。 「アザーバイドはタールのような外見の不定形生物です。目や口などの器官は備えていませんが、必要に応じて発生させることが可能なようです」 おそらく、ほとんどの状態異常は効果がないと考えていいだろう。 最も脅威となる攻撃は近くにいる者を包み込んでしまうことだ。傷つくばかりか、動きさえ封じられてしまう。 不定形であるがゆえに、近くにいる者をまとめて呑み込んだり、あるいは触手のように伸ばして遠距離を攻撃することも可能なようだ。 「注意すべき点として、アザーバイドが行うすべての攻撃は受ければ体力やエネルギーを奪い取られるということです」 さらに冒涜的なその存在は触れた者の精神を乱す。リベリスタの能力で付与した効果は失われ、混乱状態に陥るのだ。 敵は単体だが非常に巨大な体躯を持っている。 石棺のある部屋全体を埋め尽くせるほど広がることが可能なのだ。 「部屋そのものは学校の教室ほどもあります。何もなければ皆さん全員が入るには十分でしょう……が、敵の体を削らないと入る余地がありません」 ちなみに、部屋に続く通路は2人ほどが並べる程度の幅だという。 また、敵の体力はサイズ相応に高いことはもちろん、回復能力さえあるようだ。 「正確には石棺から後から後から出てくるため、あたかも回復しているかのように見えるというだけのようです」 いったいどれだけの密度で石棺に詰まっていたものか。 ともかく、敵の体を切り開いて石棺を閉じることができれば回復は封じることができる。 もちろん、その行為に危険が伴うことは間違いない。 「遺跡は多少複雑な形状をしていますが、目的の部屋までのルートは万華鏡の力もあって判明していますので安心してください」 最後に、と虹乃は言った。 「アザーバイドは不定形の体を自分が殺した死体に詰め込み、自分の分身に変えることができます。調査チームの5名と遭遇しても、それがまだ人であるとは限りません」 分身は本体ほどに強力ではないが、人の姿をしていることに躊躇すれば痛打を受けることもある。 「――運命に見放されれば、皆さん自身がそうなる可能性もあります。仲間の死体と戦うようなことにだけは、ならないよう気をつけてください」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月16日(金)22:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●食われる瞬間 遺跡の入り口に降り立ったヘリから、リベリスタたちが急ぎ降り立つ。 「何処の誰だか知らぬが、大層なものを収めてくれたものだ。興味本位ではあるが、妾の知識を用いて遺跡を調べてみよう。何か分かるかも知れぬ」 深淵を覗く知識があれば、なにがしかわかるだろうか。遺跡の入り口を覗く『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE003862)の肌もあらわな衣装の下には、いくつかの文様が施されているのが見える。 だが、いずれにせよ調査は戦いが終わってからのことだ。 「多感な時期に読んだりしましたが……どう考えてもあれですよねえ。あの小説群の言う事は『余計な事に首を突っ込んではいけない』という事ですが」 黒衣に身を包んだ『カインドオブマジック』鳳 黎子(BNE003921)はかつて読んだかの伝奇の思い出していた。 「狂気山脈って南極だったよねー。こんな所にまで遺跡が有るってエルダーシングはずいぶんと野鯖ってたんだねー。おかげで日本アルプスでショゴスの相手とかどこのCoCのシナリオだよー」 茶色い髪をした愛嬌のある少女が言った。 快活そうな見目に反し、かの神話に語られてもおかしくないほど禍々しい見た目をした得物を手にしているのは『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)だ。 「まあ今更ですよ。我々にとってはね」 黎子が呟く。 敵はアザーバイド、異界よりの来訪者。強力なそれの一種が、一般人の世界でも有名だというだけの話だ。 声と、小さな音が響いた。 「う……」 遺跡内部を千里眼で見ていた『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)が思わず膝を突いていた。 女性に見間違われる中性的な顔が蒼白になっている。 吐き気も少し感じたのか、口元を押さえていた。 「大丈夫? なにが見えたの?」 『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)が問いかけた。 茶髪の少女は、自分より少し年上の青年を覗き込む。 「調査隊の人たちが分身にされるところが見えちゃった」 彼らは見る間に、生きながら黒い塊に体内を侵食されていった。 肉が食われて塊に置き換わっていくその様を彼は見てしまったのだ。 皮一枚の下は……いや、その皮すらも本当はタールの塊が形を変えているものなのかもしれない。 人が化け物に変わっていく様を目の当たりにするなど気分のいい光景ではない。 しかもそれが手の届きそうな距離に見えるとなれば――智夫は自分の正気が削られていく音が聞こえたような気がした。 「一般人も、助けられるなら助けたかったけど」 吐き気はしたが、曲がりなりにも彼はリベリスタ、どうにかそれを飲み込む。 「自ら求め動いた以上、どの様な結果でも自分のモノだわ。気を付けておくべきだったわね。パンは常にバターを塗った方を下にして落ちるのだわ」 冷たいとも取れる言葉だが、『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)を否定する者はない。 彼らが踏み込んでしまった場所がいかに危険なのか、リベリスタたちは身をもって知っていたからだ。 (「けど、学術調査に燃える意識、分からないではないんだよな。俺も、技術開発のための研究とか仕事で関わってるし、新しい何かを掴んだ時の喜びは、他に換え難い」) 口には出さないまでも、『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は先ほど死んだという者たちの気持ちが理解できるような気がした。 けれども、感傷にひたったのはわずかな時間のみ。 助けてやりたかった。 想いは心の底にに押し込んで、赤毛の青年は気持ちを素早く切り替える。 「感傷も探求も後でいい。まずは、これ以上の被害が出ない状況にする事だ」 分身たちが外に出ようと歩き出していることは、智夫の観察でわかっている。 奥を目指せば嫌でも鉢合わせすることだろう。 リベリスタたちはアクセス・ファンタズムからそれぞれの武器を取り出した。 「うねうねの怪物。人を食べるだけのケダモノかと思ったら、とり付いて操るなんて技も持ってる。怖くて、厄介な、人間の敵」 舌なめずりをしたのは、最年少の『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)だった。 紫がかったようにも見える大きな瞳の少女は、漆黒の巨大な三日月斧を構えて、無邪気に微笑んだ。 不吉を感じさせる漆黒の入り口へと、恐れることなく彼らは突入していった。 ●近づく分身たち 曲がり角の先から、彼らはゆっくりと歩いてきていた。 『……てけり・り』 鳴き声が聞こえる。 奇妙な鳴き声が、幾重にも重なるようにして彼らの口から漏れ出ている。 黎子は運命を司るルーレットを召喚すると、双頭の鎌を手に5人の研究者たちへと接近していく。 見た目には彼らは人のままだ。 けれど。彼らが人でないことはわかっている。 その口から漏れるのは、人ならざる異形の鳴き声。 「テケリ・リと離れているなら、好都合なのだわ。自分達で積んだBet(賭金)よ。自分達で受け取りなさい」 ライトをマウントしたエナーシアの銃が、連続して火を吹いた。 抜く手を見せぬ抜き打ちで、砲と見まごうほどの大口径の銃弾が遺跡の通路に撒き散らされる。 「さよう。気の毒じゃが、崩界因子は無に帰すまで」 シェリーが放つ魔法の矢が、アザーバイドの分身を撃つ。 「ま、もし中身が人間のままでも謝ればいいよね。イタダキマス」 真咲の斬撃には迷いはなにもなかった。 『……てけり・り』 表情を歪めず、ただ前進する分身たち。 「わかりやすいですね。惑わすような言葉を語ってこなくて助かります」 黎子は言った。 人の言葉を語るならばまだ生きていると考えるつもりだった。けれど、その口から漏れるのは奇妙な鳴き声。 開いた口の中に見えるのはどす黒い塊。 刹那的なステップが分身たちの間をすり抜ける。双身の鎌が踊り、犠牲者たちを切り裂くと、その傷口からは黒い液体が漏れた。 前衛のリベリスタたちの攻撃を受けながらも、分身たちはタールの塊を吐いた。 黎子や岬の体が黒く汚される。 混乱しながら振るった双身鎌とハルバードが互いの体を傷つける。 雛乃は大きく息を吐いた。 「まとめて片付けられたら楽なんだけど、下手なことすると仲間を傷つけちゃうのが厄介だよね」 本当ならば、得意の全体攻撃で一気に片付けてしまいたいところなのだが。 仲間たちを一掃してしまっては笑い話にもならない。 智夫が放った閃光で仲間たちは我に帰ったが、分身から受けたダメージよりも自分たちの攻撃による傷のほうが重いのは明らかだった。 カルラの握った拳から、魔力の炸薬が放たれて分身たちを削り取る。 「大惨事はごめんだし、近づかれる前にさっさと片付けるよ!」 六芒星の意匠を施した術杖を雛乃は掲げた。 体内に魔力が循環する。 混乱した前衛を尻目にゆっくりと近づいてくる敵の中心に、魔炎が点った。 炎に飲み込まれる分身たち。 「一発で終わりじゃないからね!」 連続で放った炎の中に、分身たちのうち3体までが倒れる。 そして、傷ついた残る敵に、混乱から復活した仲間たちが背後から迫っていた。 ●切り開け! 遺跡の最奥の入り口は、漆黒の闇によってふさがれていた。 それがただの闇でないことが、リベリスタたちにはわかっていた。 岬は迷うことなく、闇へ向かって歩を進めた。 「実物のショゴスの見た目はアンタレスほどSAN値下がりそうな感じじゃないねー。まーショゴスはCoCでもSAN値よりは物理的脅威に寄った神話生物だったしねー」 語る言葉は、おそらくはかの伝承を扱ったゲームについてか。 だが、少なくとも見た目の邪悪さならば、彼女のアンタレスはいかなる神話的な邪悪にも劣らぬ自負がある。 一眼のハルバードを携えた少女はタールの塊へとまっすぐに突っ込んでいく。 「だったら物理で殴ればよかろうなのだー。喰らい尽くしてやろうぜー、アンタレス!」 赤いハルバードにまとわりつくのは、彼女自身が放つ漆黒の気。 眼前でタールがうごめき、小さな体を飲み込まんと無数の口を形作るが、そんなもので怯む岬ではない。 数え切れぬほどの口を、暗黒の気と共に両断する。 嫌な手応えが確かに武器越しに手に伝わる。 黎子が切り開いた隙間に飛び込み、周囲にカードを舞わせる。 さらに、雛乃が放った爆炎も敵を焼く。 炎の中に岬は飛び込もうとした。 けれどその瞬間、ぞわり、とした感覚が彼女の下腹部から全身に走る。 先ほど叩き切ったはずの口が再び形作られ、そこから伸びた漆黒の舌が岬と後方にいる仲間を貫いていた。 「やーな感じ……だけど、結局は物理で殴り合いってことだろー!」 混濁する意識のままに、岬は前進する。 再び振るった邪悪なハルバードは、タールの体をさらに切り開いていた。 黎子と岬が部屋に入り込み、その後ろから真咲が続く。 狭い通路の中を一直線に伸びた漆黒の触手は、岬のみならず雛乃や智夫を貫いていた。 智夫は、自分の心をかき乱そうとする意志を感じた。 「深淵なんて理解できない! 理解できないから飲み込まれたりしない! しないったらしない!」 挫けやすい青年だが、しかし智夫は神秘の力に精神を冒されぬ術を心得ていた。 「ていうか僕しか治せないんだからくじけられないんだよ!」 やけっぱちな叫びと共に、もち肌の女顔が暗闇に輝く。 邪悪な力を打ち砕く光が惑える仲間たちに敵の姿を指し示す。 「なるべく一直線に並ぶなよ! それだけこやつが楽になろう」 「うん、シェリーさんの言う通り! なるべく……並ばないようにってまた来た!」 魔法の矢を放つ仲間の隣で、智夫は身をすくめて触手をかわす。 近づきすぎず離れすぎず、通路の中間地点に留まって、智夫は攻撃を受けた仲間を癒やし続けた。 エナーシアは智夫たちよりもさらに後方にいた。 「敵だけじゃなく、味方からも狙われる可能性があるのが厄介なのだわ」 曲がり角を遮蔽にしているが、結局は気休めだ。 それよりは、早いところ石棺まで削り取るのが先決。 カルラはエナーシアよりも先の、前衛の直後あたりから炸裂する魔弾を放っている。 「石棺は真ん中、しっかり弾を集めるのだわ!」 漫然と撃つよりも、きちんと狙い撃ったほうが削りやすい。 大口径の砲を撃ちながら、エナーシアが放つ神速の連射は、確実に敵の中心を狙っていた。 「ああ、わかった! 削ってやるぜ!」 カルラの魔弾も、エナーシアの言葉に合わせて確実にタールの塊を削り始める。 反撃とばかりに敵は黎子の体を飲み込んだが、運命の力が彼女を倒れさせはしない。智夫がすぐさま傷ついた彼女を癒す。 激しく蠢く不定形の肉体は、少しずつリベリスタの侵攻に押されていく。 ●石棺を閉じろ! 真咲は後から後から湧き出てくる塊に、舌なめずりをした。 「どんどん出てくるね。食べきれないくらいだよ」 敵対するものすべてを食らい尽くす漆黒の三日月斧が、アザーバイドの体を抉り取る。 「石棺の中に封印されてたのかな? でも普通に考えたら、こんなにたくさんあの中に入れるわけないし……なんだか、あの石棺が別世界に繋がってるんじゃないかって気になってくるね」 お腹いっぱいになって、なお尽きぬほどの敵。 その源がようやくわずかに見えてきていた。 エナーシアとカルラの銃が削り取り、岬や黎子の得物が引き裂く。 それの中身がどこかにつながっていようが、あるいはただぎゅうぎゅうに詰まっているだけだろうが、閉じればいいことに代わりはない。 真咲は余計なことは考えない。 ただただ、食らうだけだ。 敵を翻弄する幻惑の武技が果たして効果があるのか。 たとえ異形の存在であろうとも、この剣技の前には弱点をさらけだす。 「Rest In Peace! 部屋に残った方はちゃんと片付けておくから安心して眠ると良いわ」 エナーシアの狙い撃ちが石棺にはりついていたタールを確実に引き剥がした。 どれほど古いものなのか、想像もつかぬほど古い石棺がやがて姿を見せた。 落ちていた蓋を小さな手が持ち上げる。巨大な三日月斧を平然と振るう真咲の腕は、重たい石の蓋をどうにか持ち上げていた。 重い音を立てて蓋が閉じる。 「あとははみ出した部分を食べちゃうだけ。もうひとがんばりだ!」 少女が再び得物を握り直した――その瞬間、タールの塊が雪崩をうって彼女の上に振り注いできた。 カルラは真咲が飲み込まれたあたりへ、拳を向けた。 「増えなくなったから、俺たちを食って傷を治そうって魂胆か。そうはいくか!」 魔力弾丸を装填した手甲を、真咲が飲み込まれたあたりへと叩き込む。 針の穴を通すような一撃が漆黒の塊の中で炸裂する。魔力炸薬が爆ぜた赤い光の中に、漆黒の三日月斧が浮かび上がった。 智夫が駆け寄ってくると、癒しの歌が遺跡の中に響いた。 アザーバイドはさらに黎子や岬をも飲み込もうと試みてきたが、カルラは敵の中から仲間を確実に引き剥がし続ける。 「あいつらとは違うが――だが、害悪であることに変わりはない」 フィクサードたちのような損得勘定の入り込む隙のない、ただ純粋にすべてを食らおうとする悪意。 それで命を落とした者がいる。化け物に変えられて。 カルラ自身もまたタールに飲み込まれるが、彼はただ冷静であるよう言い聞かせる。 そして、拳を突き出し、カルラはひたすらに魔弾を叩き込んだ。 シェリーは飽くことなく魔法の矢を放っていた。 「なるほど、復活を防いでもずいぶんと体力旺盛なようじゃな」 「頑丈なのはこっちだっておんなじさー!」 岬が、アンタレスを振り上げる。 彼女は、抜け目なく石棺の錠前を探してかけ直していた。 だんだんと追い詰められている自覚がはたしてアザーバイドにあるのか否か……ただ、無数の口がタールの表面に浮かび、岬や真咲、黎子らへと襲いかかる。 シェリーはそんな敵へと、だ静かに魔力を紡ぐ。 「文字通り、『100発』撃ち込んでも、魔力にまだ余力が残るスキルじゃ。耐えきれるかの?」 焦点となるは、彼女自身の魔力を食らい、成長する――すなわち最高の力を秘めた魔杖。 雛乃もシェリーと同じく、力の続く限りに魔法の矢を放つ。 アザーバイドが欠片も残さず消滅するまで、果たして100発もの矢は必要なかった。 「しぶとい敵だけど、どうにかなったね」 「ゴチソウサマ。……けど、石棺の中にはまだ残ってるんだよね」 雛乃の言葉に、真咲が石棺へと手を合わせる。 「知識欲は妾にもある。興味本位ではあるが、妾の知識を用いて遺跡を調べてみよう 何か分かるかも知れぬ」 シェリーは石棺へと歩み寄る。 深淵を識る彼女ならば、これの本質をわずかなりと理解できるのだろうか。 「調べるのはいいけど、開けるのはやめてね。もういっぺん戦うのは勘弁だからね」 「釘を刺さずとも、妾もそれくらいわかっておるわ」 智夫に応じた瞬間――シェリーはなにかが自分を見ているような、視線を感じた。 再び視線を石棺へ落とす。 (……気のせい……か?) 岬がかけ直した錠は硬く石棺を封印していて、なにかが漏れる隙間はない。 ……少なくとも、見た目には、そう見えていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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