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「過去」が、運命の扉を叩く。


「最初は、怪文書として処理されるとこだったんだけど」
 まったく別の地域から、でもほぼ同時期に送られてきた文書は、同じ内容がしたためられていた。
『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、うんがらべえぇと表現不能のうめきをもらした。

 脅迫状だった。
 指定の日時に指定場所に来なければ、無関係の人々を殺す。

 アークにそんな怪文書が舞い込むのはいつものことで、四門にしてみたら日常業務の背景確認の一環だったのだ。

「よくもわたしのたいせつなひとをころしたな。おまえもころしてやる」
 それぞれの言語で書かれた内容を要約すれば同じことだった。

「これは、マジです。すっぽかすと、人が死にます。だから、行って来て下さい。人数は写真が送られてきた人と同じ数、同じ能力。それに傭兵がくっついてくるので、同じだけの能力の人についてってもらいます。現場は、ゴーストタウン。足元はアスファルト。遮蔽物など一切ない。戦いには最高のフィールドが用意されてるよ」
 四門は言葉を切った。そして、真っ直ぐリベリスタを見て言った。
「二度とこんなことが起こらないように、処置してきて」
 処理とは言わなかった。

「幾らなんでも時期が重なりすぎだし、気配が一緒だからね。調べたんだけど」
 モニターに出てきたのは、匿名掲示板。
「電脳って怖いねー。大抵、何やってきたか丸裸だよ。それで、仇探してた人達がヒットしたって訳だ。ちなみに、この掲示板に仕掛けてあったコンピューターウィルスがエリューションだったから、別チームがぶっ壊してきました」
 復讐者には革醒という名の武器を。ろくでもない未必の故意だ。 
「有名税って奴かな。みんな面割れするくらいには顔知られてるしね」
 悪名税と言わなかったのは、四門の5/8の思いやりかもしれない。

『フィッシュボーン』ラクーン、『バスタード』、キャロラインは名前はなく、写真が同封されていた。
 そして、美しい女の背中の絵葉書には、ルージュで丸が書かれている。
 曽田七緒・セルフポートレートとして、市販されているものだ。

「先に言っておく。掛け値なし、純度100%。水増し濃縮すり替えなし生粋の復讐心だ。神秘現象及び物理現象一切の関与なしで、君らは憎まれている」
 誰も、彼らに干渉してはいない。と、フォーチュナは太鼓判を押した。
「掲示板は、彼らに情報と君らを殺す為の武器を与えただけだ。無辜の民に武器を取らせたのが罪って言うなら罪だけどね」
 フォーチュナが無辜の民と言うなら、そうなのだろう。
 彼らが人を殺したせいで、罪人が増えていく。

『おれは、かあさんのくびをばすけっとぼーるみたいにてわたされたときのおもさがわすれられない』
『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は表情は変えぬまま、真っ青になってガタガタ震えている。
 洗脳されていたと言うのは、言い訳に過ぎない。

『わたしのほおには、わたしのおっとのずがいこつがくいこんだままです。とりだすつもりはありません』
『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)は、普段からは想像もできないほど顔を歪めている。
 そうしなければ生きられなかったなど、言い訳に過ぎない。

『わたしのいちぞくにつらなるゆいいつのみらいが、きまぐれなながれだまひとつでついえた』
『フロムウエスト・トゥイースト』キャロライン・レッドストーン(BNE003473)は、不愉快気に鼻を鳴らした。 そんなの知らない。というのは、言い訳に過ぎない。

「で。七緒さん、お心当たりは?」
「直接殺したのはいないけどぉ――」
 何しろ、彼女は表の顔を持っている。彼女のスタッフは優秀だ。叩いて出るほこりはとっくにクリーニングされている。
「身上潰れちゃったのを勘定に入れれば、心当たりがないとは言わないわよぉ?」
「七緒さんは、視線も言葉も凶器だからね?」
 フォーチュナはため息をついた。 

『おぼえているか、いないかは、もんだいではない。
 おまえたちをころしたい。
 そのためなら、じごくにおちたってかまわない』
 

 うさぎの肩が盛大に跳ねた。
 そっと背後から手が触れたから。
「逆恨み……じゃないんだな」
『欠けた剣』楠神 風斗(BNE001434)と、ひどく複雑な顔をして、確認とも独り言ともつかぬ言葉をもらす。
「彼らの復讐が正当だね。逆恨みや勘違いは皆無。確実にこの四人に引導を渡されている」
 四門は、にべもない。
 赤毛のフォーチュナと風斗は、友達だ。
 不器用同志がおずおずと結んだ友情をもってしても、その事実をあいまいにごまかすことは出来ない。
 これから命のやり取りをしにいく者への礼儀だから。
「復讐者に正義はない。説得も妥協も出来ない。彼らが自分達から刃を引くことはない」  
 四門は、うさぎらを四門の言葉の冷風からかばうように立つ『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)の顔を見、ぽかんとした顔をして固まっている『リコール』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)の顔を見た。
「ヘルマンさん、何か質問ありますか?」
 ヘルマンは、「あぁああああ」と唐突に声を上げた。合点がいったらしい。
 その途端に、考え込み始めたのを見て、四門は小さく頷いた。
「言っておくけど、どれほど改悛の情があろうとも、殺されてあげないでね。『アークの一線級のリベリスタが、一介の革醒者に仇討ちされる』 なんてことが成功されちゃ困るんだ。自分達が貴重な人的財産だってことを忘れないで」
 赤毛のフォーチュナは、時々ビジネスライクだ。
「アークには、君ら以外にも『かつての組織から足を洗って』 っていうのが山ほどいる。それでなくとも情が深いのを逆手に取られることもあるんだ」
 甘ちゃんのアークは、甘ちゃんでなくなったらおしまいだ。
「だけど。これで、君らが死傷してきたら、うちが煙たい組織は片っ端から『仇』 になりそうな人間探し出して、どうにかして革醒させて送り込んでくるだろうね。極端な話、騙りだって効果は同じなわけだ。身に覚えがまったくありません。なんて、口が裂けても言えないレベルで色々関わってるからね」
 君らじゃない誰かが死ぬから。やめてね。と、四門は釘をさした。
「組織としての体面もある。アークは、無差別殺人を放置できない。でも、復讐される訳にはいかない。人の殺意は容易には消えない。無関係の人間の命を天秤にかける輩、殺したってかまわない」
 七緒が、片眉を跳ね上げる。
「黒幕ぶるのも大概にしろ、小僧ぉ」
 と、クリミナルスタアはフォーチュナの後頭部を拳骨で殴った。
 リベリスタ達は、机の影に消えたフォーチュナが出てくるのを辛抱強く待った。
「――世界の屋台骨が揺らいじゃってる現状で、俺は声を大にして言う」
 フォーチュナのかばんから、どちゃどちゃと毎度おなじみのスナック菓子が転がり出てきた。
「ぐだぐだ悩む暇があったら、殺しちまった人の余命分、世界存命に尽くして、贖え」
 自分の手は汚さず人に殺させ続ける罪に震える夜にフォーチュナが唱えるお題目だ。
「罪悪感に潰されるのも、自分を偽善者と罵るのも、偽悪者を気取るのも、世界が救われる日まで戦い抜いてからにしてくれ。話はそれからだ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月06日(火)22:07
 田奈です。リクエストありがとうございます。
 カルマを精算する時がやってまいりました。
 難易度のノーマルは、あくまで彼我の戦力が拮抗していることを表します。
 
<重要>シナリオ内容を鑑み、判定は減点方式です。
 不用意な言動が仲間を窮地に陥れますので、ご注意を。

 先に言っておきますが、皆が幸せな和解エンドは存在しません。
 誰かの幸せは誰かの不幸です。

革醒者『復讐者』 「青年(うさぎが仇)」「未亡人(ユウが仇)」「老人(キャロラインが仇)」「娘(七緒が仇)」
*彼らは、連携していません。それぞれのターゲットにまっしぐらです。
*彼らは、それぞれターゲットと同じ能力を身につけています。(出発時のステータスと同じです)
*<重要> 彼らは、決して説得や懐柔に応じません。

革醒者「傭兵」×3
* 彼らは、『復讐者』 の目的が果たせるように行動します。
*能力は、「アンナ」「風斗」「ヘルマン」と同じ能力です。(出発時のステータスと同じです)
 
*曽田七緒について 
 *七緒のスキルセットに関して、【七緒スキル】として、相談掲示板に書き込んでください。
   最新のものを採用します。

*場所:ゴーストタウン・巨大駐車場
 *昼下がりです。明かり・足元・人目の心配は要りません。
 *広さは30メートル超です。ただし、周囲は3メートル以上の金網で囲まれています。

 成功条件
 *今後、類似の事態が起こらないようにすること。解釈、方法はチームに任せます。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
参加NPC
曽田 七緒 (nBNE000201)
 


■メイン参加者 6人■
メタルフレーム覇界闘士
ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)
アウトサイドナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
ハイジーニアスデュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ハイジーニアスホーリーメイガス
アンナ・クロストン(BNE001816)
フライダークスターサジタリー
ユウ・バスタード(BNE003137)
ジーニアスクリミナルスタア
キャロライン・レッドストーン(BNE003473)

●いささか皮肉な客観的視点
 指定場所は死んだ街だった。
 車は、とっくにエンジンもタイヤも剥ぎ取られて、ガソリンの一滴だって残ってはいないフレームだけ。
 何もかも風化した空間の中。
 死んだ者の名の元に人を殺す正義の人を殺す為に、無辜の人間を殺してなおも生きながらえようとしている人間がやってきた。

●とある傭兵とスクールガール
 視界が銃弾で埋まり、面子が分断された。
 それでも、まさか、一番最初に全ての攻撃がこちらを向くなんて思っていなかった。
 正直、返り討ちされるだろう敵討ちを「見物」 に来たのだ。気分的には。
 もちろん、もらった金額分はきっちりやるつもりだったが、それだって相場に比べれば微々たる金額だった。
 フィクサードを雇うって言うのは、それなりに金のかかる話なのだ。
 奴らは、自分達の「相場」 ってものをご存じない。
 復讐の牙とやらを研ぐため、現実の牙を研ぐことを忘れていた。
「おいおい、これは正義の敵討ちってやつだぜ。あんた達アークだって正義の味方なんだろ。悪党飼ってたって、後でごたごたになったらどうすんだよ。今の内に膿みは出しといた方がいいんじゃねえの」
 命乞いともつかない言葉が漏れる。
「……そうか。私の仲間が生きてる事に文句つけようってのかアンタ達は」
 スクールガールは、足を踏ん張り、声を上げた。
「あらゆる事情をぶっ飛ばして、ふっざけんな馬鹿野郎!」
 それは浄土から垂れる蜘蛛の糸だ。誰かが生きていいと言ってくれるなら、人はそれをよすがに生きられる。 
 金髪おでこのスクールガールは、地べたに伏せたままの「傭兵」の髪をつかんで引きあげた。 
「……『殺す必要のない』人間の範疇だから、帰すけど。そこ外したら、私じゃないし」
 現実逃避に傾いていた思考を、淡々と話す声がぶった切る。
 スクールガール――『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は、殺さない。それが前提条件だ。
「でも、二度とこの稼業出来ない程度のことはさせてもらうわよ」
 声も出ない。
 彼女は正気で、ホーリーメイガスで、能力者の回復について非常に詳しく、それゆえにどこをどういじったらどうなるのか熟知しているのは伝え聞いていたので。
『ソリッドガール』 は、その名に恥じない。
「金で雇われただけ? 馬鹿にするな。アンタ達が余計な茶々入れなければ、私達だって他の選択肢がとれたんだ。アンタ達がいなけりゃ、あの人達は生きて帰れたかもしれないのよ……!」
 つまり、このおでこちゃんは、これからあのかわいそうな四人を殺してしまうと言っているのだ。
「ちゃんと人としては暮らせるようにしておいてあげる。でも、もう呪文もスキルも使えないようにしてあげる。加減が難しいから、動くと失敗するわよ」
 正気だ。ただ、怒りに満ち溢れているだけだ。
「あんたの次はデュランダル。その次に覇界闘士。そこから先は、あんたには関係ない。せいぜい、どれだけ残ってるかわからない恩寵にすがって生きるといい」
 

●「未亡人」と鉄砲玉と六歳児
(世界が救われるその日まで。あるいはそんな日なんて来ないのだとしても、己の生きるうちはその足掻きが姑息に過ぎないのだとしても)
 自分が死んだ次の日は、誰もわからないのだから。
(「いつかは」約束の日が来ると信じて)
 その日が明確に来るのかなんて誰にもわからないけれど。
(ああ、なんて素敵な開き直り。嫌味じゃなくて、ですよ)
『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)の手の中には、汎用性を追求して可変する余り、時々もとの形に戻せなくなる銃が握られている。
 そう。可変が大切なのだ。
 命は1つしかないのだから、その時々で最適でないと。
 だから、時々、そのときどうだったかなんて分からなくなる。
 バーストモードにしていた銃を組み替えなおす。熱が冷め切っていない銃身は手袋越しでも熱い。

「妻」は、嫉妬深い夫に飽き飽きしていた。
 離婚手続きを始めていた。
 弁護士は動いていたし、莫大な慰謝料をもぎ取る算段もついていた。
 薬指の指輪をいつ彼の顔にぶつけてやるかのタイミングを見ていたところだった。なんだったら、その日の夕食の食前酒のグラスに落としてやったって良かった。
 ただ、その前に、夫の頭が砕かれて、彼女は莫大な遺産と共に『未亡人』 として、彼に永遠に繋がれてしまった。
 どれほど整形手術しても、元には戻らないひきつれた顔の傷跡と共に。
 遺産を蹴飛ばせなかった「妻」は、「未亡人」という名の復讐者になった。 

 ユウは、銃をライフルモードに組み替えた。
(私にヘッドショットを決めたいわけだ。仇を報じたいあの世の誰かさんと同じく。私が言われるまま散々ハジいてきた様に、骨片と脳漿をぶちまけたいわけだ)
『未亡人』 も、今頃どこかでライフルを抱えている。
 物陰に隠れたユウが少しでも存在を示すヘマをやらかしたら引き金をひける程度の距離にいる。
(横で嘆く者までは殺せなかったあの時の我が半端ゆえに、私はひと山幾らの鉄砲玉から脱しきれず使い潰され今ここに)
 もしも、あの時のユウに、男の頭を弾き飛ばしたついでに『未亡人』 の頭も割ってやるだけの能力があったら、彼女は離婚による新たな人生を夢見ながら土の下に埋もれることが出来たかもしれない。
(そして生き永らえた貴女は銃口をこちらに向けるわけだ)
 死んだ男に束縛される、彼女にとっては唾棄すべき余生。
 銃弾が、この先の未来をうがってくれるはずなのだ。どんな結果であれ。
「未亡人」の集中が上だったらしい。 
 バトルスーツに大穴を開けて、ユウのわき腹が穿っていく。
 音は後から来た。
 焼け付く痛み。
 毒の気配はない。致命の気配も。遠くから撃ってきている。
「超遠距離狙撃、来てますよ!」
 方向と角度から狙撃予測地点を叫ぶ。
 もう一発食らったら、飛ぶ。

 殺しに来ている。
「未亡人」 は、自分が狩られる側だと悟る。 
 仇討ちに付き合う気は向こうにはないのは、先に傭兵を倒した事からわかった。
 引き金を引き、着弾を確認したところで移動する。
 今の銃弾で向こうに場所を読まれる。
「あ、ユウさん、すごい。ぴったりでした」
 モノクル金髪執事服。
 足が腹に触れたと思った瞬間、口から色々ぶちまけそうな衝動が走る。
 狙撃メインのサジタリーに、近接戦に長けた覇界闘士は相性が悪すぎる。
 頼みの綱のデュランダルは、他の相手としのぎを削り、こちらを構う暇はないらしい。
 
 三歳と六歳の子では、まるで違う。
「ううん、そっか、かたき討ちかあ。そうかあ、そうですよね、そういうものもありますよね」
『リコール』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)は、しきりと大きくうなづいていた。
『未亡人』は、打たれた腹を押さえてうずくまった。
 きれいな人だな。と、ヘルマンはチラッと思ってすぐ忘れた。
「そういえば、わたくしって前は、ずっと前は、フィクサードがだいきらいだったんだっけ。ひとをころすなんて、なんて悪いやつだろうって……」
 六年前、白紙から始まったヘルマンは、その濃縮された人生と記憶を大事に抱えて生きている。
 でも、人は忘れるのだ。
「いつからだろう、お互い様だって思うようになったのは」 
 自分が、いつの間にか考えを変えているのだということを。
 それが、劇的に変わるわけではなく、気がついたらそうなっているということを。
「あなたは、あなたにとってのリベリスタなんですね」
 崩界の徒の尖兵だったユウを殺しに来ている「未亡人」 は、そう名乗ってしかるべきだ。
「わたくしやあの方々は、あなたにとってのフィクサードなんでしょう。それは否定しませんし、間違っているとも思いません」
 きょとんと自分に照準を合わせてくる紫色の目が、「未亡人」を責め立てる。
「でもわたくしの友達を殺さないで」
 ママ。今日の晩御飯はハンバーグにして。そんなことを言う子供の目だった。
「わたくしだって、自分が間違っているとおもうのならここに立ってません」
 子供は学んだ。
 正義は絶対ではなく、相対である。と。
「なん十人も人を殺しました。あなただってこれから人を殺そうとしている。フィクサードだろうが、人殺しだろうが、わたくしにとってはこのひとたちは立派なリベリスタです」
 だって、わたくしの友達だから。
「殺させなんか、しない」
 誰の世界だって、中心は自分だ。
 それが動くことによって、世界が始まる。
 同じ方向に動く心を通わせる誰かがいるのは、奇跡のようなことで。
 それを失わないためになら、時として命だって懸けていい。
 その肩越しから飛んできた銃弾が、「未亡人」に襲い掛かった。
 今度は、死霊になって現れるかもしれない。 
 彼女の骨と夫の骨が混ざって、どちらがどちらか分からなくなってしまったから。
 
●「老人」と笑う悪女
「旦那様」は、一族が選んだ女と子をなした。
 愛した女は、使用人だったので。
 子が成人し、家督を譲ったら、どこか遠い土地で愛する女と添い遂げよう。
 しかし、子は、流行り病で孫を残して死んでしまった。
 今度こそ。この孫を育て家督を譲ったら。でないと、雇い人皆路頭に迷ってしまう。
 愛する女は老いていく。それでも待つと言った。
 孫を育てさえすればいい。それだけ果たせば。孫は女をばあやと呼んだ。
 孫は死んだ。愛する女と一緒に、銃弾に巻き込まれて。
 あの時孫が走り出さなければ、それを愛する女が追いかけなければ。
 銃の乱射に巻き込まれることはなかったのに。
 愛する女を、愛していると世界に知らしめる前に死なせてしまった。
 しかも、「旦那様」は「ばあや」の死を悼んでも、嘆いてはならないのだ。
 彼が嘆いていいのは、「孫」の死だけだ。
「旦那様」は「老人」という復讐者になった。

『フロムウエスト・トゥイースト』キャロライン・レッドストーン(BNE003473)は、問う。
「あの国で、毎年いくつの命が銃で失われてると思ってんの?」
 手段が目的どおりに飛んでくれるケースだけならまだしも、人間だから、誤射とか流れ弾とか、とばっちりとか。
「私のコレは只の切欠よ。交通事故や天災と同じ、ハプニングって奴」
 罪悪感など、これっぽっちも。
 台風は、悔恨の涙に暮れたりしない。
「そりゃあ恨むのも分かるわよ。だから何?」
 悪女は笑う。
「もう一度言うわよ。『だから何?』 何が悪い?」
 老人は、キャロラインの手の銃を見る。
 まるであの国の化身のような美しく強く残酷な女。
 口元のほくろなんかそのものじゃないか。グラビアに載っていても不思議だとは思わない。
「ンー、そうね。貴方は復讐する自由があるわ。自由の国生まれの私が保証したげる。でも、果たせるかどうかは別問題よね?」
 微笑む女は、自分が死ぬなどとこれっぽっちも思ってはいない。
 ああ、勝てる訳がない。
 彼女はスターで、自分は彼女のささやかなエピソードに過ぎない。
 終わりにしたいのだ。だが、ただ死ぬのはいやだったのだ。
 せめて、夜中に悪夢で跳ね起きるようになって欲しいのだ。ああ、そうそう。呪いたいのだ。
「今の雇い主は無闇な殺しはお気に召さないの。でも自衛なら別。アンタか私か、西部劇風に決着でも付ける?」
 いいや。と、老人は首を横に振る。そんな、きれいな、後腐れがないような方法はいやだ。
 そして、キャロラインの顔を殴りつけた。
 ボスボス。と、老人の腹に銃弾が食い込む。
 それも老人の防弾ベストに阻まれて、致命傷には遠い。
 それでも老人は、無言でキャロラインを殴り続けた。
 事切れるまで。ひたすらに。キャロラインの顔だけを執拗に殴り続けた。
 キャロラインの意識が遠のく。恩寵を磨り潰して現世に舞い戻ったかのじょのリボルバーがおまけとばかりにぎりぎりの老人の最後の命の火を消し飛ばした。
「さよなら、爺さん。アンタが罪を犯す前に私が殺したげる。孫の待つ天国に行きなさい?」
 ジャラジャラ言うほどたっぷり弾丸を食らった老人は、回復請願によってみるみる美貌を取り戻す女の顔を見て、首を横に振る。
 どうせ行くなら、愛する女のいるところに行きたい。地獄でも構わないから。

●「青年」と元少年兵とその親友
 小さな酒場をやっていた母のところには、どこの誰とも知らない男達が来る。
 何日か街にいて、またどこかに行く。
 その間、母は家に帰ってこない。「息子」 は、同じ町の中にある祖母の家に預けられた。
 二度と来ない奴もいたし、子供の記憶に残る程度に何度も来る奴もいた。
 閉鎖的な田舎町で首を落とされた母の死は、ありえない痴情のもつれと処理された。
 どこかの子供がやったのだという「息子」の証言は、一笑に付された。 
 その子供は、その日午前中に「息子」と遊んで、お昼に母と顔見知りになり、夕方犯行に及んだなんて。
 そして、狼少年の「息子」は「青年」という名の復讐者になった。

『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は、えづいていた。
 腹の底から胃液がこみ上げてきて、食道をやいているのが分かった。
 喉の底から変な音が出る。
 手から染み出しているのは水分のはずなのに。
 ぬるついた手で、歯のないタンバリンが滑り落ちそうだ。
 体中から色々水分が吹き出しているのに、目だけ乾いているのだ。
 いっそ、ここで泣いて反省しているとでもいえば、戦闘を回避できる目側がわずかながらあるかもしれない。あるいは、相手の動揺を誘えるかもしれないのに。
 うさぎの目は乾いているのだ。
 答えは簡単。
 涙は、視界をにじませ、戦闘の阻害になるから。
 神秘戦闘は、視界をクリアにし、視線で相手を貫き通し、相手を殺す為のガイドラインを確率させなくてはならないのだ。
(無意識に己の命を優先している自分に絶句する)
 実際言葉も出ない。
「――。――」
『欠けた剣』楠神 風斗(BNE001434)が何か言っているのは分かったが、それが頭の中で意味を成さない。
 自分の中と向き合うのに精一杯で、処理速度が追いつかない。
「う。うあ。あ、う、う゛……」
 振り絞っても、喉からでるのは不快な音だけで。
(想定はしていた。自分が作戦で踏み躙った命の数が少なくない事は知っている。だって全部憶えているから。寧ろ今までこう言う事が無かった事の方が異常なのだと分かっている。だから覚悟だってしてた。筈、だった)
 ああ、現実はなんて優しくないのだろう。
『青年』 は、うさぎが考えていたようなまっすぐな眼をしていなかった。
「俺の母さんは、正義に加担していたからって悪い奴に殺されたんだよな」
(そうです。その悪い奴の手先が私です)
「流れ者の男にくびり殺されたんじゃねえよな」
 (もちろん、違います。彼女が流す情報で動く教職者達のつながりがとても邪魔だったから、見せしめとして……)
 言葉にならなかった。
 母親が死んだことで、自分の尊厳を踏みにじられた男がいた。
 彼にとっては、母の死がどう評価され、それが自分の人生にどんな影を落としたかが問題だった。 
 それはすすがれなくてはならなかった。
 そうしなければこの先生きていけない。と、訴えかけていた。
 青年の手に握り型の半月刀。
 ブレードが五つにぶれる。
 衝撃と不運と怒りと致命と必殺を以って、殺しに掛かってくる。
 死にたくない心が、刃をそらした。  
 緑色の布が、半月刀を柔らかく包んで、受け流す。
「……そっか」
 うさぎは、得心した。
 自分がどれだけ汚いことをしてきたのかぶちまけられて、うさぎの為に来てくれた人達の侮蔑を受けるのが恐ろしい。
 自分の死体を見下ろし、「死んで当然だ、こんな奴」といわれるのが。
 ああ、どうか。
 世界中の誰が罵倒してもいいから、あなただけはそれを言わないで。
 その危険を冒しても。
(私は、それでも――)
「うさぎ!」
 今度こそ、聴覚と理解の脳領域がシンクロする。
「お前は俺の親友だ」
 この先何が起ころうと、うさぎの席は風斗の一番近いところに空けられ続ける。
「俺は、お前の命の方が遥かに大事だ!」
 正しい復讐の成就より。分かりやすい正義より。
 だから、そいつを気にせず殺せと、風斗は言えない。
「――だから俺は、あんたたちを殺す。またあんたたちみたいなのが出てきたら、友人がまた苦しむことになるからな……」
 その瞬間、うさぎの目が見開いた。
「死にたくない」
(友達がいて、好きな人がいて、明日がある)
「生きていたいんだ――***さん」
 風斗の耳には聞き取れない異国の名前だった。 
「死ね」
 でないと、親友の手が汚れるから。
 褐色の頬を涙が伝う。
 55人の鬼が、「青年」を切り刻んだ。

●語られない娘と収集家
「終わりぃ?」
『死因は戦死以外』曽田 七緒(nBNE000201)は、体中を血でべとべとにして戻ってきた。
 眼鏡についた返り血を服の裾で拭いて、きれいにならないと眉をしかめている。
「浮世の義理って辛いよねぇ」
 そう言って、それきり黙った。

●いささか主観的な結果報告。
 かくして、アークのリベリスタは返り討ちに成功する。
 後には、死体。
 そして、いかに正義ぶっているアークが、実は情け容赦なく、悪辣で、身内びいきで、猟奇的で、高慢で、ひどい連中であることを語る口が三つ。
 それは、ほんのわずか神秘界隈を騒がせ、すぐに立ち消えた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 身にかかる火の粉は払わなくてはなりません。
 先に傭兵というのはいい判断でした。
 復讐者を餌に使おうという輩には、いい見せしめになったと思います。 

 これで、しばらくアークのリベリスタにこの手のことを吹っかけるものは二の足を踏むことでしょう。
 ゆっくり休んで、次のお仕事がんばってくださいね。