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Iron Guardner


「……ったく、夏だからってこんなボロボロの洋館で肝試しとか、ねぇだろ……!」
 打ち捨てられ廃墟となった洋館は、一歩奥へと進むごとに薄気味の悪い空気が肌に纏わりつくようで居心地は悪い。
 外で待っている仲間達へ軽く恨み言を零した少年は、懐中電灯で狭い回廊をの先を照らすと、『まだ先があるのか』と軽いため息を零した。
「鎧、気味が悪いね」
 少年の傍らで一緒に歩いていた少女が周囲を見渡せば、回廊の左右には西洋甲冑が回廊の先までずらりと並べられている。
「だな、この通路に入ったらずっとだろ……ここの持ち主って何考えてたんだ」
「アンティーク趣味だとは思うけど、ちょっと多すぎる気がするわ」
 この先には持ち主の大事な物でもあったのだろうか。回廊に並んだ西洋甲冑は、まるでこの先にあるだろう部屋を守るための衛兵とも思えた。
「まさかこの先の部屋にホントに宝でもあったりしてな?」
 ニヤニヤと笑いながら、男らしく見せようと余裕ぶって言う少年だが、実際彼も内心では少しびびってしまっているらしく、余り余裕はない。
 むしろ――。
「そんなのあるわけないでしょ、だったらこの家を捨ててどこかへ行くって事はないと思うけど」
 共に進む少女の方が豪胆だった。
 それもそうだと少年が頷きさらに一歩進んだその時、後ろから想像はしていても聞きたくはなかった音がその耳に届く。

 ガチャリ……ガチャリ……。

「なぁ、なんか変な音が聞こえねぇ?」
「……聞こえるわね。それも鎧が歩いてくるような音が」
 ここにいる2人が同じ音を聞いているのならば、それは幻聴ではないらしい。
「あいつ等の誰かが着てるのか?」
「それはないわ、私達より先回りして鎧を着るような時間はなかったはずよ」
 そうこうしている間にも、迫ってくる鎧の足音はだんだんと近付いてくる。
「おい、どうす――!」
「逃げるわよ、走って!」
 言うが早いか、少女は少年の手を取り奥へと駆け始めた。幸いにここは1F、変質者の類ならばこの先にある部屋の窓を突き破れば外へ逃げられない事もない。

 ガチャン、ガチャン、ガチャン!

「おい、足音増えてるぞ、千鶴!」
「気にしない!」
 バァン! と辿り着いた部屋のドアを開け放てば、彼等の眼前には月明かりが差し込む大きな窓の姿。
 後ろから迫る足音は何人ものモノとなり、考えている余裕もない。
「くそ、鍵が……」
「どいて」
 窓の鍵はすでに錆付き、開かずの窓になってしまっていた。ならば壊してしまえ。少女は近くに転がっていたボロ椅子を窓にたたきつけ……。

 ガシャァーン!

「……はぁ、びびった……!」
「足音も聞こえないわね。どうやら外に逃げて正解だったみたい」
 なんとか逃げおおせた少年と少女。だが恐怖心が際立ち息を荒げた少年とは対照的に、千鶴と呼ばれた少女は息も荒げず、冷静そのものだった――。


「こういう時って意外と女の子が冷静な場合もありますよね」
 それにしては少し冷静過ぎる部分もあるが、と付け加え、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタ達の顔を見渡していく。
 千鶴という少女は何やら場慣れしているというか、驚いていないと言うか――。
「それはさておき、これは西洋甲冑のE・ゴーレムですね。回廊に並んでいる甲冑の3体がエリューション化しているようです」
 左右あわせて40体ほどずらりと並んだ西洋甲冑の内、動き出すのは3体。どれもフェーズは2。
 回廊には昼間でもあまり光が差さないために視界も悪く、どの甲冑が動くかも近付いて動き始めるまではわからないらしい。
「しらみつぶしに破壊しながら進む方法もありますが……どうやら、並んだ鎧の中には価値のある甲冑も混じっているみたいなんですよ」
 楽な方法を取れば、貴重な物も破壊してしまうかもしれないだろう。しかし普通に対処すれば被害が大きくなる可能性もある。
「どうするかは皆さん次第ですけど、後味が良いのは破壊しないほうでしょうか」
 和泉のその言葉は、不利な戦況を覆して勝利を得られるはずだという信頼があるからこそ出たのだろう。
 だがフェーズ2が3体という情況を省みれば、安全に攻めた方が良いのも事実。苦戦必至な戦いの中で、戦闘の影響を受けて甲冑が壊れる事もあるかもしれない。
「なお、回廊へと進むルートは2つあります。玄関からの道と、奥の部屋の窓から侵入する道ですね」
 窓からの侵入を狙う場合は、先んじてエリューションと遭遇した千鶴達が破壊した窓から入る事になる。
 場合によっては二手に別れて回廊で落ち合うといった戦術も取る事は出来るはずだ。
 回廊自体は鎧が並んでいるため、それほどに広くはない。3人ほどが並ぶだけで精一杯の広さだと和泉は続けて言う。
「敵も相当に強く、戦場も細く長くとあまり戦闘に適してはいません。ですが……」
 再び和泉はリベリスタ達の顔を見渡し、凛とした声で言葉を紡ぐ。
「あなた達なら、きっと勝てます。頑張ってくださいね」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:雪乃静流  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月15日(月)23:25
 うだるような暑さで溶けました、雪乃です。
 今回の敵はフェーズ2のE・ゴーレムが3体、必要な情報は可能な限りOPに散りばめました。
 どう戦うかは参加される皆様次第ですが、採択できる戦術は数種類あるので色々考えてみてくださると嬉しいです。
 また鎧を破壊せずに戦闘が発生した場合は、初撃が不意打ちとなる可能性があります。

●エネミー詳細
 片手剣タイプ
 通常攻撃をブロードソードで行い、バックラーを装備しています。最も素早く動きます。
 ブロードソード(通常攻撃):近 威力:中
 シールドバッシュ:近(ショック) 威力:高
 シールドブーメラン:遠+範 威力:中

 両手剣タイプ
 バスタードソードによる重い一撃を得意とし、それなりに素早く動きます。
 バスタードソード(通常攻撃):近 威力:高
 振り下ろし:近(流血) 威力:激高

 ハルバートタイプ
 超重武器であるハルバートを振り回し、スピードは鈍いですが最も強力な一撃を繰り出します。
 ハルバート(通常攻撃):近 威力:高
 薙ぎ払い:近+範 威力:激高

 元々身を守るための鎧がエリューション化したため、3体ともが相当な硬さを有しています。
 攻撃力も相当に高いため、僅かでも油断があれば、一気に流れを持っていかれるかもしれません。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
ナイトクリーク
リゼット・ヴェルレーヌ(BNE001787)

セルマ・グリーン(BNE002556)
覇界闘士
★MVP
焔 優希(BNE002561)
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)
覇界闘士
浅倉 貴志(BNE002656)
■サポート参加者 2人■
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)

●鎧の並ぶ回廊の先に
「ここが回廊に続く部屋だな」
 窓が叩き壊された痕跡を残す部屋を外から覗き見た『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)は、侵入が容易になるようにと壊れた窓を大きく開け放つ。
 薄暗い室内を懐中電灯で照らせば、その先には黒くぽっかりと開いた穴のようにも思える、回廊の入り口が見えた。
「確かにいるわね……詳しく調べないと、どこにいるかはわからないけど」
 その回廊に続くドアを侵入者を飲み込む口のようにも感じ、『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は用意してきた光源をチェックし始めていく。
 口の中に並ぶ牙は3体のE・ゴーレム。
 とすると過去に訪れた千鶴には逃げられてしまったが、この部屋は獲物を追い詰める胃袋のようなものなのだろうか。
「気になるのは千鶴ですが……」
「それは戦闘の後よ、幸い時間的制約はないのだから、後でゆっくり調べるのが良いと思うわ」
 加えて、3体ものエリューションから逃げ切った千鶴の事も気になるのは『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)だけではないだろう。
 だがそれも、エリューションとの戦いに勝利した後でなければ回廊を調べる事も出来ないため、エナーシアの言葉には誰もが頷くしかなかった。
「まぁ、肝試しにしては思いがけないものと遭遇した2人が無事で何よりです。それにしても、あまり使えそうな家具は転がっていませんね」
 彼女の注意にそう答える一方で、部屋に転がっているものを見渡しているのは浅倉 貴志(BNE002656)だ。
「やんちゃなのは若さの特権ですね。今回の件はあまりにレアなケースでたまたま助かったというべきでしょう。これなら使えるかも……しれませんね」
 同じように家具を見渡した『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)は、これならば使えなくもないかと、古ぼけた額縁を手に取る。
「ドアも大きいですし、後はスワンボートでバリケードはなんとかでしょうかっ」
 回廊へと続く入り口に備え付けられたドアの大きさを確認した『イノセントローズ』リゼット・ヴェルレーヌ(BNE001787)の言葉によれば、どうやら家具やアーティファクトを使ってバリケードを設置する算段らしい。
 それは彼等としては、より安全に敵を迎え撃つための必要策という事だろう。
(そう上手く行くと良いがな……)
 しかし、フェーズ2のエリューション相手にコトがそう上手く運ぶのか――?
 最初からバリケードの設置には否定的だった翔太にとっては、それよりも大事な事があるのではないかと感じる部分もあるようだった。

「敵の位置は……ここと、ここ、それとここね」
 紙にペンを走らせ、用いられる手段を全て用いたエナーシアが、判明した敵の位置を詳細に記していく。
 どうやらエリューション達は回廊に入り込んで近付かなければ動き始めないらしく、ランタンを投げ込んだ音には反応すらしなかった。
「なるほど、後は前を防がれなければ、か」
 ならば入り口から部屋まで回廊を駆け抜ける役目を背負った『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が、無事に回廊を抜ける事が出来れば作戦はほぼ成功したと言えるだろう。
 問題はエリューション達が道を塞ぐ可能性がある事だが、
「何、その時は俺が援護するさ」
 それも援護を買って出た翔太や、入り口目掛けて弾をばらまこうと考えているエナーシアの攻撃で注意を逸らす事が出来れば、なんとかなる可能性も高い。
「後はどこまでやれるか、でしょうか」
「やれる事はやったはずですし、勝てると信じて頑張りましょう」
 後は、この作戦が上手く行く事を信じ、戦うのみという『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の言葉に、『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)がそう答えると、周囲の仲間達も一斉に頷いて応えた。

「じゃあ、行って来る」
 そう言い残した優希が館の入り口へと向かってから、何分程が経過しただろうか。
 準備が整ったら入り口からライトを照らして合図を送る――部屋に残ったリベリスタ達は、彼の合図が飛ぶのを、ただじっと待ち続けていた。
「無事に駆け抜けられると良いのだけど……」
 下手をすれば優希が敵に囲まれる可能性もある作戦に、『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(BNE002556)は僅かな不安を感じずにはいられない。
 だがそれでも、この部屋には自分を含め9人ものリベリスタがいる。
「大丈夫です、きっと。それにエリューションに襲われる人が出ないように、ちゃんと私たちで始末しましょう」
 そしてここでエリューションを撃ち漏らせば、何の力も持たない一般人がエリューションに襲われてしまう。
 力強く真琴がセルマを励ましたその時、回廊の先から飛び込んでくる一筋の光。
「来るわよ、皆、準備は良い?」
「ええ、最初は全力で攻撃できるように態勢を整えて……」
 確認をとったエナーシアに対し、事前に立てた作戦を思い返したカルナが間違いの無いようにと作戦の内容を口にする。
「そして焔さんが回廊を突破したらドアを閉めて、スワンボートでバリケードを張る、で間違いないですね」
 敵が飛び込んできたら、アクセス・ファンタズムからスワンボートを取り出す。
 自身の為すべき事でもあったせいか、カルナに続いたリゼットは『うん、大丈夫』と自分自身に発破をかけるように頷く。
「では、合図を返しますね」
 簡易的ではあるが残された家具によって作られたバリケードに身を隠すと、貴志は懐中電灯を照らして優希に合図を返すのだった――。

●全てを砕く鎧の剛撃
 仲間達からの合図を確認すると、優希は静かに回廊の前へと立つ。
 3体のエリューションがいる回廊を抜ける事に不安がないわけではない。だがそれ以上の信頼感が、彼の背中を後押ししていた。
『挟まれたら、俺が行く』
 別れ際に告げられた翔太の言葉を思い返すと、優希は向かうべき回廊の先を見据える。
「……いくか」
 今はただ、作戦の遂行だけを胸に。
 赤い髪をなびかせ、優希は力強く床を蹴る――。

 ガシャン……! ガシャン……!

(動いた……!)
 最初に聞こえた金属の足音が耳に届くと、ライフルを握るエナーシアの手に力が篭った。

 ガシャン、ガシャン、ガシャン!
 タッタッタッタッタ……!!

(足音が止まってない……挟まれてはいないようですね)
 優希の走る靴音もエリューションの足音に混じって聞こえてくるのは、無事に先を走ることが出来ている証拠だと確信するリゼット。
 ならば後は、彼が部屋に飛び込むと同時にドアを閉め、スワンボートを壁として取り出せば良い。
「優希、援護する!」
「ばら撒くよ、注意して!」
 そして優希がより安全に部屋に飛び込めるよう、彼の後を追うエリューションの先頭を走るハルバート鎧に天井を蹴った翔太が攻撃を仕掛けていく。
 と同時にライフルを構えたエナーシアが、弾丸をばら撒くようにライフルのトリガーを連続で引き、硬い鎧にいくつもの銃創をつけた。
「閉めますよ!」
 その攻撃にも怯まず突っ込んでくる3体の鎧を目にし、優希が飛び込むと同時に貴志の手により閉じられる扉。
「続いて、これでっ!」
 加えてリゼットがスワンボートをアクセス・ファンタズムから取り出し、ドアの前にその巨体を鎮座させてバリケードを完成させる。
「これで少しは時間が稼げるはずです、今の内に態勢を――ッ!?」
 だが、言いかけた貴志は直後に聞いた破壊音に、我が耳を疑った。
 轟音とともに崩れ去るドア、そして吹き飛ぶスワンボート……。埃と土煙が立ちこめる中、彼の目に映ったのは懐中電灯の光を鈍く照らし返す鉄の体だ。
「やはり止められないか……!」
 何の役にも立たなかったバリケードの姿に思わず舌打ちした翔太ではあったが、壊されてしまったものは仕方が無い。
 僅かでも足が止まれば良い、そう考えていただけのモノであったために、誰もが態勢を整えていた事だけが救いではあるか。
「抑えます、皆さんも攻撃を!」
 そして敵の前に躍り出た舞姫の思考は、目の前の敵を抑えて仲間達が攻撃するチャンスを作り出す事のみ。
「敵が少しばらけているけど、それでも……やれるだけは、やるわ」
「これは抑えるのは少し厳しいですかね……!」
 情況を冷静に判断したセルマの言葉の通り、3体の鎧はバリケードを突破した勢いのままに部屋の中で僅かにばらけて展開している。
 僅かな人数では抑えきれないと感じた孝平は彼女からオートキュアーを施されると、幻影の刃でハルバート鎧を翻弄しつつ、弱点らしき関節に鋭い斬撃を加えていった。
「なるほど、関節が弱点ですか」
「それだけじゃない、中身が空洞だからダメージが重なると動きが鈍っている」
 分析した孝平の隣で翔太が静かに指を差したのは、先んじて彼がつけた傷だった。空洞であるせいか、身体を構成する鎧は硬くとも、砕けばそれが大ダメージに繋がる――。
 この情報が、リベリスタ達にとっては最も有用な情報となったのは言うまでも無い。
「防御さえ突破できれば、って事ですね」
 しかし続いたカルナが聖なる光で敵を焼き払おうと追撃をかけてはみたものの、やはりその硬い金属の身体は生半可な事では傷を付けにくいのも事実だ。
 否、それだけではない。
「来ますっ!」
「く……やらせませんよ!」
 ブーメランのように投げられたシールドがその軌道上にいたリゼットに加えカルナを庇う貴志、無防備に突っ立っていたセルマに深い傷を残す事で、その攻撃力が恐ろしいものである事を知らしめたのだ。
「なら、その前にやるしかないな……っと! あぶねぇ!」
 高々と飛び、天井を蹴って落下の勢いも乗せた翔太がハルバート相手にさらに一撃を加えた直後、その頭上を掠めていく重たいハルバートの一撃――。
 運良く避けきった翔太ではあったが、横で自身と同じようにハルバートを抑えにかかっていた舞姫や優希が小さく呻き、片膝をついた様子を見れば、その威力は想像がついたことだろう。
「今、癒すわ!」
 しかし、ここで傷ついた身体を押して動いたセルマが傷を癒そうと前に出たのは間違いだったかもしれない。
「避けて!」
 後ろから真琴の声が飛ぶのと、セルマ目掛けて3体目のエリューションがバスタードソードを振り下ろすのは、ほぼ同時だった。
「確かに傷は癒えたけど……!」
 僅かながら引いた痛みと引き換えに舞姫が見たのは、崩れ落ちたセルマの姿。
 もしも薙ぎ払われた直後に他の鎧からの攻撃を受けたとしたら……。下手に攻撃を喰らうと余力があったとしても危険だと感じる現実に、そうではなくともリベリスタ達は少し浮き足立っていたのだろうか。
「落ち着いて対処していくわよ、まずはあのハルバートから!」
 弾丸をばら撒きいたエナーシアが仲間達に喝をいれれば、はっとしたようにその援護を無駄にするものかと、孝平に倣った舞姫が弱点である関節目掛けて戦太刀を振りぬいていく。

 バギィン……!

 何かが砕けるような鈍い音と共に右足が吹き飛び、バランスを崩したハルバートを優希は見逃しはしなかった。
「悪いが、これ以上は……な!」
 相手の硬さをモノともしない一撃を叩き込めば良いのは、先ほどの翔太の指摘ですでにはっきりしている。
 それを頭に置いた優希が凄まじい勢いで叩き込んだトンファーがハルバートの頭部を完全に打ち砕くと、しばらくもがくような動作を行った後にハルバートは完全に動きを止めた。
「後2体、油断は禁物ですね」
 ハルバートの撃破を確認し、カルナが透き通るような歌声を響かせて貴志や優希、舞姫の傷を癒すと、戦いは互いに1人を倒された状態で仕切り直す事となる。
 だがカルナの歌を受けても3人の傷が完全に癒えていない事を考えれば、長期戦は不利か。
「次はあの大剣から、いきましょう!」
 それでも、攻撃を仕掛けない事には終わりは見えない。先陣を切ったリゼットがバスタードソードへとライアークラウンのカードを投げつけ口火を切ると、最も傷の深い舞姫と交代するべく前に出たのは真琴と貴志だ。
「ボクが交代する、今の内に態勢を立て直して」
「盾持ちの方は私がいきます、非常手段を使わないようにはしたいですね……!」
 未だ無傷な事に加えて輝くオーラを纏った真琴と、傷を多少なりとも癒した貴志が前に出ることで、一時的にでも前衛が態勢を整える時間を作る事は出来るだろう。
「俺が援護する、舞姫は早く!」
 そこへ三度飛んだ翔太がバスタードソードの胸元に大きな傷を残し、その左腕は狙いを定めたエナーシアの銃弾に撃ち貫かれ、床にゴトリと転げ落ちていった。
 攻撃を叩き込むなら、今――!
 振り下ろされた大剣を何とか防いだ真琴がカウンター気味に一撃を加える一方で、その後ろからは孝平の一撃がバスタードソードをしっかりと追い詰めていく。
「これで、2つだ!」
 お膳立てがしっかり整っていれば、優希にとってはトドメを刺す事など造作もない事でしかない。
「まだ、まだ倒れられません……!」
 しかし残る1体に目を向けた時、片手剣タイプのエリューションの鋭い斬撃を受けて血飛沫を上げる貴志の姿が目に映る。
 倒れかける身体を気迫で立たせてはいるものの、彼の傷が相当深く、危険である事は誰が見ても明らかだった。
「貴志さんはすぐに下がってください! 皆さんは彼の援護を!」
 もうこれ以上、誰も倒れさせたくはない。そんな想いを乗せたカルナが癒しの息吹を彼に届け、最後の敵を倒す事を仲間達に願う。
 リベリスタ達の猛攻を受けつつも、それをシールドで何とか防ぎにかかるエリューションではあっても、その猛攻を完全に止める事など出来はしなかった。
 せめて、1人だけでも。
 最後まで攻撃を仕掛けようとシールドを投げつけて貴志を沈めたところで、エナーシアがばら撒いた銃弾がその身を蜂の巣にしていく。
「残念だけど、鎧は銃を前にして廃れていったのよ」
 銃口から登る硝煙を吹き消した彼女は、手にした勝利を胸に、静かに言った。

●砕けた鎧と朽ちた館は、黙して語らず
「……なんとか、か」
 ふうっと一息をつき、翔太は静かに攻撃の構えを解く。
 その硬い身体を打ち砕くまで攻めの手を止めようとしなかったエリューションを前に、リベリスタ達の受けた傷も決して浅いものではなかった。
「これだけの被害で済んで良かったのかもしれないですね」
 むしろリゼットの言うように、2人が倒れただけに留まったのは僥倖だったかもしれない。
「かもしれません……カルナさんを守りきれて、よかった」
「ありがとうございます、傷の方は今は応急手当だけですが、ごめんなさい」
 それもこれも、要であるカルナが無事だった事が功を奏したと言える。その意味では、カルナをしっかりと守った貴志の功績は大きい。
 やる事をやり遂げたと満足気な貴志は、先んじて倒れたセルマと一緒に後でしっかりとした治療を受ける事となるだろう。
「それにしても、千鶴の事が気になるな」
「そうね……この部屋にも、特に何かあるわけでもなかったし」
 一方で、優希とエナーシアが気になるのはやはり千鶴のことだった。
 エリューションだと気付いていなかった可能性もあるが、聞いた話を考えればあまりにも冷静すぎる。それが彼等にとっては、不思議で仕方が無いようだった。

 彼女はこの館の関係者なのか? フィクサードなのか、それともエリューションなのか? はたまた――。

「俺達と同じ、なのかね?」
 噂には聞いた事があると翔太が口に出したのは、アークに所属しないリベリスタの存在。
 だが、どこまで館やエリューションの破片を調べても、彼女に関係するような物が見つかることはなかった。

「2人の治療もありますし……片付けを済ませて帰りましょう」
 何時までも調査に手を割いてはいられない、千鶴の件に躍起になる仲間達を制したのは、リゼットのこの一言だ。
 こういう場所柄である以上、やはり一般人が肝試し目的でやってくる可能性も否定できない。
「とりあえず痕跡だけは何とか隠したいところだけど」
 吹き飛んだドア、砕けた窓。
(これはどう頑張っても隠し切れない……)
 あまりに激しい戦闘の爪痕に、思わず真琴の口から苦笑いが零れたのは仕方の無い話だった。

 新たなる心霊スポット発見!

 そんな情報が出回るのに、そう時間はかからないかもしれない――。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
まずはお疲れ様でした。
相談からしっかり眺めていましたが、最終的には上手い方向に纏まっていて良かったと感じました。
ただ、相談を活発に行った人とそうでない人で、やはり作戦の認識にズレが生じていた事は、少し残念に思います。
もう少し相談とプレイングがしっかりしていれば、被害は小さくなっていたかもしれませんね。

作戦については、バリケードを張らずに入り口で前衛がブロックに回っていた方が良い結果を生み出せていました。
この場合、大成功となる可能性も高かったりしました。
購買部で容易に入手できるスワンボートでエリューションの足を止めようというのは、少し認識が甘いと言えるでしょう。(個体の能力次第ですが)

【弱点】については、描写の関係上で今回は関節が弱いという形にさせていただきました。

最後になりますが、千鶴については今回はノーコメント。
それでは、次回も縁があればよろしくお願いします。