● 薄刃の騎士 傷つき、疲れ、逃げて来た。追って来る者がいるからだ。そのことごとくを退け、騎士は主を守り通した。 しかし、いつまでも逃げ続けるには限界がある。戦いを続けた代償か、最近は意識も朦朧としている。しかし騎士は、倒れるわけにはいかなかった。自分の後ろには、常に守るべき幼い主が居たからだ。 戦いに疲れ、体力も限界に近くなった頃。 主を追ってきた反逆者達も、最後の1隊まで減っていた。 だがしかし。 最後の1隊。反逆者のリーダーを含めた十数名。それだけを相手取る体力は、既に残っていなかった。 そんな時、騎士が見つけたのは異世界へと続くDホールだ。Dホールの先が、今自分たちの居る世界よりも、安全とは限らない。 しかし騎士は、一か八か、主を抱きしめホールを潜る。 そして辿り着いたのが、この世界だった。周囲に見えるのは、草原ばかり。 身を隠せるような場所は、遥か先に見えるキャンプ場らしき場所と、幾分前方に見える小川くらいだろうか。 『姫、こちらへ……。追手が来ます』 鎧の奥から零れるくぐもった声に促され、薄汚れたドレスを纏う少女は草原を進む。おぼつかない足取り、視線はきょろきょろと落ち着かない。怯えた表情と、震える身体がここに至るまでに味わった恐怖を物語っている。 『さ、姫。急いで』 騎士が、姫の背を押した。 その時だ。 背後に開いたDホールから、黒い外套を着込んだ男が2人、飛び出して来た。仮面を被っているため、その表情は分からないが、明らかな殺意が姫と騎士に向けられる。 『ここまで追って来るとは、よほど姫の命が欲しいと見える』 腰に下げた剣を引き抜く。まるで帯のように薄く、ひらひらと曲がる奇妙な剣だ。騎士の手の動きに合わせ、剣は蛇のようにのたうった。 殺意をぶつけあう騎士と追手の背後では、姫ががたがたと震えているのだった。 ● 騎士と姫とテロリスト 「この世界に逃げ込んで来たアザーバイド(騎士)と(姫君)、そしてそれを追って来る(テロリスト)が13名。現在こっちに来ているテロリストは2人だけだけどね」 そう言って『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はモニターの映像に目を向けた。草原の真ん中で対峙する騎士とテロリスト、騎士の背後に姫君の姿もある。時間経過と共に、他のテロリストもこの世界にやって来るだろう。 「騎士の体力は限界に近く、冷静な判断力を失っている。いわば一種の暴走状態。こちらの話を聞いてくれる保証はない」 しかし、だからといってこのまま悠長に事を構えているわけにもいかないだろう。アザーバイドは、この世界にとっては異質な存在。滞在を許す訳には行かない上に、Dホールも塞がねばならない。 「テロリストの残党が、時間経過と共に続々とこの世界にやって来ることでしょう。残り13人まで、騎士によって減らされたみたいだけど、それで相手もいよいよもって全力で騎士と姫君を始末しに来たみたい」 後がないのは、どちらの陣営も同じ。 姫君を始末すれば、テロリスト達の目的は果たされる。 一方、残り13人のテロリストを返り討ちにすれば、姫君も安心して元の世界へ返れるだろう。 「13人相手に立ち回るだけの体力が、騎士には残っていないけど。現場に着いて、即座にDホールを閉じてしまえば騎士と姫君、それからテロリスト2人を討伐するだけで事は解決するわ」 時間をかけ、アザーバイド達の事情に踏み込めば踏み込むだけ、こちらの世界が危うくなり、相手取る数も増えることになる。 「体力の限界とはいえ、騎士は強いわ。姫君のサポートもある。テロリストにしてもそう。残りの13人は皆、実力者揃い」 騎士やテロリストにとってこれは、最期の大勝負。 映画だったら、クライマックスシーンである。 そんな場面に偶然出くわしてしまうのが、リベリスタ達となる。 「アザーバイドをこの世界から排除。Dホールを塞ぐ。どうやって事態を収集させるかは、任せるから」 頼んだよ。 と、そう言って、イヴはモニターを消したのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月28日(月)22:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●異界の騎士と姫君と 朦朧とする意識の中、騎士の思考はある一か所に集中していた。それは、自分の背後で震える、まだ幼い姫君のことだ。彼女を護るために、自分は幾多の戦いを乗り越え、屍の山を築いてきたのではなかったか。 彼女を狙うテロリスト達から、彼女を護る。それが自分の役目だったはずだ。 こちらも仲間を多く失った。しかしおかげで、テロリストも残すところ十名そこら。 姫を護る者は自分しか居ない。 ならば……。 途切れそうな意識を繋ぎとめ、姫を護り抜くだけだ。 刃が薄く、鞭のようによくしなる自慢の愛剣を振るう。しゅる、と鋭い音がする。一閃。それだけで、眼前に迫るテトリストの片腕が飛んだ。 テロリストの背後に開いたDホールから、更なる追手がこちらを覗いている。 「まぁ健気だね、逃げんのも追っかけんのも……」 なんて、暢気ささえ感じる声がする。声の主は、ヘルメットを被った奇妙な男、緒形 腥(BNE004852)であった。一瞬、騎士とテロリストの動きが止まる。 腥の背後にも、数名の人影。 騎士とテロリストが殺意をぶつけあうその戦場に、更に8人の男女が姿を現した。 ●乱戦の草原 「映画なら無粋な乱入者はこちらですか」 さて、と懐から式符を取り出し『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)は戦場を見やる。腕を切られたテロリストは、たった今騎士の剣によって、切り捨てられその場に倒れた。 しかし、敵もさるもの。もう一人のテロリストが投擲したナイフが、騎士の肩に突き刺さっている。 その上更に、Dホールから5人、新たなテロリストが姿を現した。リベリスタ達の登場に警戒し増援を送ったのだろう。 騎士は怯える姫を護るように後ろに下がり、剣を構えた。テロリスト、及びリベリスタ達から距離をとる心積りのようだ。 「無益に争いを大きくしたくないけど……大丈夫かな……あの人たち」 心配そうに騎士に目をやる『儀国のタロット師』彩堂 魅雪(BNE004911)だが、騎士の傷を治療する暇はないだろう。6人のテロリストは、騎士とリベリスタの両方に敵意を向けているようだ。 「でもまあ、とりあえず襲われてる人を助けるのに理由はいらない。その人を処断すべきかどうかは助けてから考えるのも手です」 剣を構え、テロリストに向き直るのは『フュリエの騎士見習い』ヴェネッサ・マーキュリー(BNE004933)だ。騎士然とした彼女の姿勢を見て、騎士は僅かに姿勢を正す。 テロリスト達も同様に、警戒の色をより濃くした。今まで、多くの仲間が騎士の手で葬られてきたのだから、それも当然と言えるだろう。 テロリスト達は、視線で合図を送り合うと、そのうち2人がリベリスタ達へと切り掛かって来た。 「まー助けるのが嫌なわけじゃないっす」 向かってくるテロリストの懐に『ジルファウスト』逢川・アイカ(BNE004941)が潜り込む。 まっすぐに突き出されたナイフが、アイカの腕を深く切り裂いた。飛び散る鮮血で頬を濡らしながらも、アイカの拳は、テロリストの顔面を捉えた。 アイカの拳に伝わる、テロリストの顔の骨が砕ける感触。 「今っす!」 「へっ、悪いな……お前等に恨みはないが、相手させてもらうぜ!」 大きくよろけたテロリストの懐に、今度はアズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)が斬り込んだ。下段から、テロリストの首目がけて刀による一閃が放たれる。 アズマの刀が、テロリストの首筋を切り裂いた。それと同時、テロリストの放った気糸がアズマの首元を貫く。ごぽ、とアズマの口から血が溢れた。 テロリストが崩れ落ちると同時、アズマとアイカの治療をするために魅雪は2人に駆け寄る。 そんな魅雪の背後から、もう1人のテロリストが迫る。 「おっと……。そろそろ本気だすわ」 魅雪を庇うのは、腥だ。自身と仲間を守護結界で覆いテロリストの手を掴んだ。放たれた魔弾が、腥の胴を撃つが、彼はテロリストの手を離さない。 テロリストの真横から、ヴェネッサが剣と突き出した。テロリストは、ナイフでそれを受け止めて、腥を蹴飛ばし背後に下がる。 リベリスタ達から距離をとるのが目的だろう。しかし、彼の選択は間違いだった。 ザクン、と鈍い音がする。 テロリストの胴を貫いたのは、騎士の薄刃だ。血を吐き、その場に倒れるテロリスト。 その一瞬の隙を突いて。 3名のテロリストが、騎士と姫へと襲い掛かった。 騎士は、素早く愛剣を引き戻す。 しかし、間に合わない。テロリスト達の動きが速い。騎士は、姫の前にその身を投げ出し、テロリスト達の攻撃を、一身に受け止めた。 騎士はそのまま地面に倒れる。剣を手放さないのは流石だが、しかしこのままでは姫の命が危ない。 テロリストの投げたナイフが、姫の元へと迫る。 だが……。 「怪我はないですかね?」 オレンジの髪をなびかせて『三等兵』閂 ドミノ(BNE004945)が刀でナイフを叩き落す。 「異世界の姫君と、姫君をお守りする騎士……綾小路麗華の名において、二人を必ず元の世界に戻してみせますわ!!」 全力疾走からの、一撃がテロリストを斬り捨てた。『残念系没落貴族』綾小路 姫華(BNE004949)の手にした杖からは、魔力の刃が放出されている。 更にもう1人、テロリストがその場に崩れ落ちる。血の滴が飛んだのを視認した瞬間、姫華とドミノの身体に鋭い痛みが走った。何事か、と気付いた時にはもう遅い。 騎士の振り回す薄刃が、テロリストごと、2人の身体を切り裂いたのだ。 騎士からしてみれば、テロリストもリベリスタも変わらないのだろう。大事なのは、姫君の身の安全だけだ。 震えながら騎士は立ち上がる。敵意と殺意を周囲に向ける。囲まれているのだ。リベリスタごと、テロリスト達に……。 いつの間にか。 テロリストの残党が、全員この場に姿を現していたようだ。 戦闘の果て、テロリストの残りは6人にまで減っていた。 諭の召喚した影人を盾に、回復手段を持つリベリスタは長期戦に備えることができる。 しかし、騎士と姫はそうはいかない。 いくらリベリスタ達が、2人を助けたくとも、すでに意識が朦朧としている騎士がそれを許してくれないのだ。 蛇のようにうねる長く細い薄刃が、縦横無尽、手当たり次第に辺りの物を切り裂いていく。護るべきは、姫君と自分の身だけでいい。 否、自分の身すら犠牲にできる。意識は朦朧としていても、姫だけは護り抜くという強い決意のなせる技か。 防御など考えていない。 めちゃくちゃな軌道は、しかし、だからこそ読み辛いのである。 薄刃から逃れるべく、テロリストたちは騎士の攻撃範囲から外へと出ようとする。しかし、それを影人が阻んだ。酷薄な笑みを浮かべ、諭は言う。 「おっと、逃がしませんよ」 逃げ遅れたテロリストの背を、騎士の刃が切り裂いた。 もっとも、騎士の攻撃対象になっているのはテロリストだけではない。影人も数体、まとめて撫で斬りにされる。 暴走状態にある騎士より先に、正体不明だが敵対しているらしいリベリスタにターゲットを変更したようだ。地面を這うようにして、テロリストが1人、突破口を開くべく駆けて来る。 「……瀕死の奴から蹴ってトドメを刺そうと思っていたんだがね」 テロリスト目がけ、腥の足刀が放たれる。 テロリストの腕が、それを受け止める。 放たれた気糸が、腥の全身に巻きついた。テロリストが地面に倒れるのに合わせて、腥も地面に引き倒された。倒れた腥の首筋に、ナイフが迫る。 「これ以上乱戦にならなきゃいいけど……少しでも時間稼ぎ……じゃない、私たちでやんなきゃね」 魅雪の放った魔弾が、テロリストの持ったナイフを弾き飛ばす。 その瞬間、薄刃が迫りテロリストの首を切り裂いた。そのまま、返す刀で薄刃は魅雪へ。 回避は間に合わない。魅雪の周囲に無数の刀が召喚され、薄刃を弾いた。防ぎきれずに、魅雪の肩と脚が切り裂かれた。飛び散る鮮血の雨を浴びながら、ヴェネッサが騎士の剣を弾き返した。 「襲われてる人間を護るのも騎士道」 大上段から振り降ろされたヴェネッサの剣が、騎士の薄剣と打ち合い、火花を散らす。威力だけならヴェネッサの勝ちだ。しかし、騎士のほうが手数は多い。 拮抗していると言えるだろうか。 それを崩したのは、テロリストの放った魔弾だった。 「ぐふっ……」 ヴェネッサの脇腹を魔弾が撃ち抜く。 同様に、騎士の腹にも魔弾が命中したようで、その場に膝を突いている。それでも倒れないのは、騎士の背後に姫がいるからか。 乱戦状態を有効活用し、騎士とリベリスタ、どちらもこの場で撃ち倒すつもりだろうか。 「卑怯者っ! やると決めたら真っ直ぐです」 魔弾による追撃を放とうとするテロリストの元へ、アイカが駆けこむ。 アイカ目がけ、テロリストはナイフを振り下ろした。 低い位置から、打ち上げるように放たれた彼女の拳が、テロリストの意識を刈り取る。 意識が途切れてしまえば、そこで終わりだ。うねる騎士の刃が、その首を切り裂く。 「い、っつ……」 肩に突き刺さったナイフを引き抜き、アイカは素早く後ろへ跳んだ。僅かに間に合わず、アイカの脚を騎士の刃が裂いていく。 間合いは大きく、遠心力を利用した騎士の斬撃を防ぐのは容易ではない。 しかし、弱点もある。 何かを切った後、一旦引き戻し、再度勢いをつけるまでに僅かだが隙が出来るのだ。そこを狙って、2人のテロリストが騎士へと駆けよって行く。 そのうち1人が、騎士の剣へとしがみついたではないか。指が切れ、皮膚が裂け、薄刃を血が伝う。 その身を犠牲にしたテロリストの行動で、剣の動きが止まる。 「好きにさせるかよっ!」 アズマの放った一閃が、剣にしがみついていたテロリストの腕を切り裂いた。 腕を失ったテロリストが、鋭い蹴りを放つ。それを腹に受け、アズマはその場に倒れ込む。地面に倒れたまま、刀を一閃。テロリストの胸を切り裂いた。 残るテロリストは2人。剣を引き戻した騎士であったが、間に合わない。 至近距離から、姫君に向けて魔弾が放たれた。 目を見開く姫君の前に、騎士はその身を投げ出した。 愛用の剣を投げ捨て、姫を庇うことを優先したのだ。 魔弾が弾け、騎士の鎧が砕け散った。 ●姫の願い 『-----------!?』 幼い姫は、声にならない悲鳴をあげる。 砕けた鎧の破片が、辺りに飛び散る。 白金色の長髪を振り乱し、騎士はその場に倒れ伏した。意識はすでにないのだろう。指先すらも動かない。今までの戦いによるダメージが蓄積されていたのだろう。騎士の口元は、べっとりと黒い血で汚れていた。 「女性!? ……いえ、そんなことよりも、わざわざ異世界まで追いかけられたところで申し訳ありませんが、テロリストの皆様には此処が人生最期の地となりますわね」 戸惑いの声をあげる姫華。姫に向けて、テロリストがナイフを突き出した。 姫を庇うために、姫華とドミノが飛び出した。地面を蹴って、まるで矢のように。 姫華の進路を塞ぐように、最後に残ったテロリストが動くが、咄嗟に飛び込んできた影人がそれを阻む。動きの止まったテロリストの背後から、轟音が響く。 「歓迎の花火はお気に召しましたか?」 そう問いかけたのは、諭だった。 冷たい笑みを浮かべ、諭は言う。テロリストの眼前を、姫華が駆け抜けていく。もはや止めることは間に合わない。息絶える寸前、テロリストは諭に向けて魔弾を放つ。 震える手で魔弾を放つと同時、テロリストはその場に倒れ伏した。 魔弾は、諭の頬を掠めるだけに終わった。 ナイフが姫君の胸に突き刺さる、その寸前……。 「もうすぐ怖いのは終わるから待っててね」 ドミノの刀が、テロリストのナイフを打ち払った。風になびくオレンジの髪が、姫君の視界を覆う。 姫の視界が閉ざされた、その間に。 「っしゃ!」 姫華の刀が、最後のテロリストを斬り捨てたのだった……。 治療を終えた騎士が目を覚ます。 言葉は通じないようだが、こちらが敵ではないことだけは分かって貰えたようだ。 警戒の色は濃い。姫を背に庇い、騎士はこちらを睨んでいる。 だが、こちらに攻撃してくるつもりはないのだろう。或いは、姫君に止められたのかもしれない。 傷の手当てを終え、テロリストの死体をDホールへと送り返してから、姫と騎士もDホールへと歩いていく。疲労の色が濃い騎士を、姫が支えるようにして。 「ご武運を。ばいばーい」 ドミノがそっと、姫君に花を手渡した。 姫君は、遠慮がちに手を振り返す。 それを見て、騎士は僅かに頬をほころばせたのだった。 こうして姫と騎士の2人は、テロリスト組織の壊滅した、元の世界へと還って行った。 姫君が狙われた理由は分からない。 テロリストと姫君、どちらが正義であったのかも不明のままだ。 しかし、幼い命を救うことができた。 それだけが、確かな事実であった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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