●かつて 国内線飛行機がハイジャックされる事件があった。 「騒ぐなっつーの片っ端から殺すぞァア!?」 凶暴。凶悪。人の命をなんとも思わない輩共に飛行機が乗っ取られたのである。 彼らの正体は――裏野部。今はもう無い組織の残党達であり、国外逃亡すべくハイジャックを強行。多数の一般人を人質にし、同時。操縦室に押し入り進路を変更させる事態に発展させる。 変更先はどこでもいい。とにかくアークの手が届かぬ国外ならば、と彼らは考えて―― 「づォ!? なんだテメェら……まさか!」 瞬間。動く人影。響く怒号。放たれる銃撃。 ハイジャック現場に偶々紛れていたリベリスタ達が飛行機奪還に動いたのだ。地より離れし遥か上空。小さき箱舟の中で行われた戦闘は――長期化する。 リベリスタ達は初手を奇襲出来たものの、その後の詰めを誤ったのだ。流れ弾が飛ぶ度に一般人の血が流れ、パニックが増加し、機内は阿鼻叫喚。最終的にリベリスタ達はフィクサード達の排除に成功するが、パイロットも犠牲になってしまった。 結果、飛行はもはや困難極まりなく、偶然近場にあった三高平飛行場に緊急着陸する顛末となる。 この事件そのものは後にアークが手を回し、一時騒がれど事態の鎮静化は極めて早かった。事件に関係ない、騒ぎを聞きかじった程度の者達の中には忘れてしまった者もいるだろう。 されど、人の心に影響は残る。 そう。 かの事件に巻き込まれ、だからこそ覚醒果たした“彼女”も。 決して忘れることは出来ない。 「……あの時――」 どうすれば良かった、などというのは無意味であるが。 それでも。彼女は。 飛行機雲の残る、青き空を見上げては思い出す。 ●数日前 「ふむ――つまり、過去の“事件再現”を行いたいという事かね?」 アークの一室。睦蔵・八雲(nBNE000203)と話しているのは件の“彼女”。藤代 レイカ(BNE004942)である。 「ええ、あの事件では犠牲者も出たし…… 今後の教訓という意味も兼ねて、どうにか出来ないかな? VTSなら可能だよね?」 VTS。ヴァーチャル・トレーニング・システム。 アークが収集したデータを基に構成される一種のシミュレータである。仮想空間内で訓練できる代物で、たしかにVTSならば過去の事件再現も可能だろう。あの事件のデータを纏める必要はあるが、時間はかかるまい。 「どう、かな――出来るなら、やりたいのだけど」 「うむ……相分かった。VTSを動かす分に問題は無い筈だ。 手配してみよう。準備が整い次第、こちらから連絡を入れる。それで構わないかな?」 「うん大丈夫。こっちも人数は集めておくから、よろしくね」 言って、別れる。 これは教導である。かつての事件。あの時にこうすれば良かったかもしれないというIF。故にあの時参加していたリベリスタ達は見学として参加は確定だろう。後はこちらでその人数分誰を誘ったものか。VTSの準備が出来るまでに声をかけておこう、とレイカは考えて―― しかしこの時、あんなアホな事態を八雲が引き起こすとは考えもしていなかったのです…… ●VTS開始……離陸十分前 「さて諸君。VTSの手配は滞りなく進んだが、問題がある」 かつての事件。この時飛行機は満席であった。 VTSにおける設定を弄り、彼女達を事態対処に動いたリベリスタ達の代わりとして配置するのは簡単な事である。しかし今回は教訓も兼ねてその時の彼らもこの場に配置してある。つまり、彼らの人数に代わって――というシチュエーションがそもそも不可能なのだ。 ならば他の乗客の設定を弄り配置しようか? 否。否。それではダメだ。極力一般人の状況も弄りたくない。あの事件は一般人も多数いたからこその事態だったのだから。再現はなるべく正確でなければ。 故に、考えに考えた出した結論がある。致し方ない。全くもって仕方ない苦肉の策。それが、 「乗客が無理ならば――全員フライトアテンダントとして組み込めばよいと気づいたのだよ。 と言う訳で諸君らは皆フライトアテンダントに扮して状況を開始してくれたまえ! 以上ッ!」 「ちょっと待ッた――!! 以上、以上じゃな――いッ!!」 何故なのと葉月・綾乃(BNE003850)が申し立てる異議。 幾らなんでも他に方法はあっただろう。というか制服が用意済みなのはどういう事で、 「ええと……とりあえずこの服装でも弓は撃てるんですよね?」 「戦闘に支障はなさそうですけど、ええと、なんというか、その、なぜこのような事に?」 エリン・ファーレンハイト(BNE004918)に神谷 小鶴(BNE004625)が言葉を重ねる。 彼女らの服装は既にフライトアテンダントのモノだ。まぁ服装が違うとはいえ、戦闘に問題は一切ないだろう。その点に関しては心配なさそうだが。“仕方なかった”というのは嘘だろうと、セレア・アレイン(BNE003170)は見抜いて、 「で……実際なんなの。本当の理由は? ほらさっさと白状しなさい!」 「いや。何。嘘ではない。ただ、事件について調べていたら、かの飛行会社の制服が中々美しかったものでな――つまり」 つまり。 「ついうっかりやってしまった。正直反省していない。むしろ私の心は万感の思いに満たされている」 「よし、勝利条件を変更しましょう。一名、討伐条件を追加で。追加で」 「ストッープ! 一応ストッープ! もうすぐ開始だからやるならその後で――!」 剣を構えつつ、この場における唯一の“男性”。雪白 桐(BNE000185)が紡ぐのは物騒な言の葉で、ちょッ剣先近い近い近い! 似合ってる似合ってる問題ないから! 何も問題はな――え、そういう問題ではない? レイカが間もなく開始という事で一応止めるが、とにかく離陸までもう時間がない。腹を括ろう。 乗客が乗り込んでくる。 一般人の中に埋もれて。事件を引き起こしたフィクサード達も。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月02日(金)22:20 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●空 高く。高く。 飛行機が高度を上げて往く。仮想空間と言えど感覚は現実とほぼ等しい。前に進もうとする慣性を感じる程に。 やがて達するは高度の安定圏だ。ここまで動きは特にない。あるのは双方ともに“ここから”だ。 「やれ……やれ。飛行機に乗ったのは、これが初めてな気がしますね……」 慣れぬ体感。飛行機の圧にそう感じたのはエリン・ファーレンハイト(BNE004918)だ。 フュリエたる彼女は科学との関わりが薄い。故に飛行機に慣れていないのも当然である――が。まぁ先にも述べたようにここは仮想空間VTS内。“本物”の飛行機とは違うため、これが彼女にとっての初に当たるかはまた微妙である。 ともあれまずは捜索だ。敵を見つけねばならない故、千里眼にて敵のAFを捜索する。数多くの乗客の中から少しずつ探索していくのは中々骨であるが……見つけられぬ事は無いだろう。時間はさほど無いのがネックだが、 ――皆様、本日は時村航空をご利用頂き有難うございます。 飛行中。よく聞くアナウンス……を、言いたくてしかしなんとなく言い辛かったのは『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)だ。 飛行機の隅、人目に付きにくい場所にて彼女は大人しくしている。機内の様子を見ながらも積極的に客席を歩く気配はない。目立つ、という事自体は嫌いでないのだが、 「まぁ、なんというか……そう……ちょっと、ね!」 彼女もまた慣れぬのだろう。後方から奇襲出来うるタイミングを計っていることもある。 決してサボっている訳ではない。目立ってしまう可能性よりは目立たずに行動出来る選択を取った結果である。まぁ逆に、 「皆様、只今シートベルト着用のサインが消えましたが、飛行中は突然揺れることがございますので――ととッ」 神谷 小鶴(BNE004625)の様にあえて目立つ動きをする者もいる。 客席を歩き回る。犯人、の気配がする者達を探していているのだ。覚醒者かどうかは見れば分かる事である。探索しているエリンから連絡を貰えればそこを中心に観察することも可能であれば、彼女は“仕事に慣れていない”動きをしてみせて。犯人の気を誘う。いざ成る時、己を人質役にしやすいように。 ただ、逆に敵からしてもリベリスタを見れば分かる訳である。一般人が多く、リベリスタが紛れ込んでいる想定が敵側にそもそも無い。その為に“分かり辛い”事になっている故、あまり直接的な行動は幾らなんでもバレる要素に繋がりかねないのだが――幸いにして、敵はハイジャックのみに目を向けている。まだ気付かれている様子はない。 「何かお困りの方はいませんか? 毛布は宜しかったですか――?」 次いで17歳163ヶ月の『BBA』葉月・綾乃(BNE003850)も。合コンで鍛えた隠蔽術……もとい、鍛えた場に馴染む力……で、動く様は実にスムーズだ。本格的なフライトアテンダントの訓練時間など無かったのだから即興は仕方ない。 藤代 レイカ(BNE004942)から開始直前に幾つか機材の使用方法を聞いたのだけが頼りか。もっともそれも知識だけの範囲。いざ本番でどれだけ効果を発揮できるかは別問題だが、 「ま、動作はアドリブでも……ね」 呟きつつ、カートを押してレイカは通路を塞ぐ。 コックピットへの侵入経路を物理的に塞ぎ、心理的にも牽制する為に。音を立てずにカートを押せば、 巡るのはあの時の記憶だ。 誰がいただろうか。こんな場所だった。何をしていただろうか。 見える景色に違いはあれ、今、この瞬間は、あの日あの時の再現。 刹那の回帰である。 「――おい、邪魔だ」 故にか。タイミングとして寸分違わず“あの時”がやってきた。 カートがある事による心理的状況を彼らは無視。レイカに銃を突きつけ――行動を一斉に開始した。 ハイジャックだ。カートがあろうが関係なく動いたのは“彼ら”が血の気の多い、理性など捨て置いた方面に突出した“裏野部”だからだ。これが他の勢力ならばもう少し違っていたかもしれないが、言っても詮無き事。 邪魔があれば踏み潰す。己らの欲と目的を至上とする、阿呆共が各客席から立ち上がり即時行動。明らかにおかしい雰囲気に一般人達もざわつき始めて、 「ああ、もう――流石に思い通りにはいきませんか」 操縦席近く、レイカのカートに飲み物を乗せていた雪白 桐(BNE000185)は悟る。 もはやこれ以上の妨害は出来まいと。故に思考を高速。己が武器を取り出して、 「後でとっちめますから覚悟しといて下さいね」 トイレに入って、出てきた八雲の顔面に熱いスープを投げ付け跳躍。 往く。止めるために。防ぐために。勝つために。 乗り越えるために。 ●初撃 リベリスタ側の行動は後手であれど迅速だった。 元より戦闘を想定していた点を含めてもフィクサード達とは心構えが違う。一方的な蹂躙を行おうとしていた側。それを阻止せんと準備した側。最初手こそフィクサード側が取れるものの、後の先は譲らぬ。ただ、 「くッ――」 レイカが舌打ちする。残念ながら操縦室侵入阻止は出来なかったのだ。彼女としては入り込まれる前になんとかしたかった所であるが、事件再現の縛りがそこまでの妨害を許さない。申し訳ないが操縦席の侵入までは確定となる。 「ここは無理、でしたか。仕方ありませんね」 操縦室侵入阻止は不可能――ならば、と操縦室近くに居た桐とレイカは同時に行動に出る。 桐が客席側へ。レイカがそのまま操縦室内へ。別れたのだ。 多少の誤差があったのかもしれない。客席側をまず制圧するか、操縦室を制圧するかの心理の違い。これがどう影響するか、は捨て置こう。今は。 目を向ければ客席側だ。こちらに敵の戦力が集中している。四名と多く、早急に無力化せねば乗客に被害が出てしまうやもしれない。 「お客様、冷静に。冷静にお願いいたします」 だがまだだ。まだ本格的な戦闘は開始しない。綾乃はまず、言葉で乗客を落ち着けようとする。 とにもかくにもパニックになりフィクサードに殺害されてしまっては元も子もないのだ。ただ戦闘に勝つだけならばそう難しいことでも無いが、ソレはリベリスタの目的ではない。 気狂いの裏野部がいつリベリスタの存在に気付くか、あるいは痺れを切らして発砲するか分からぬが、今はとにかく乗客を落ち着けようと彼女は動く。己もまだ、認識上では“一般人”の枠ならば。 いざとなれば自分が人質に取られることも考えている。リベリスタならばなんらかの攻撃を受けても即死は無いだろう故に―― だが一つ誤解がある。 彼らはそもそも人質など取る必要がないのだ。 なぜならばこの“飛行機に乗ってる一般人全て”が人質の様なもの故に。彼らは飛行機内に“敵”の存在を認識していない。いるのは全て覚醒者以下の力しかない一般人だ。その状況下で人質を個別に取っても“敵”がいないのだから牽制の駒にならない。 故に人質という状況が成立するのは。 「づォ!? なんだテメェ……まさか!」 “攻撃”が発生した瞬間である。 フィクサードが叫んだのは、彼らにとって背後――飛行機の図面で言えば操縦席側から攻撃を受けたからだ。 桐である。敵がいないと思っていた油断を突いた全力の一撃。もっとも破壊力に長けた一撃を繰り出せば奇襲と成して、 「ガッ、ちくしょうが! だがこっちにはなぁ幾らでも“壁”が――」 言って、来た。何かがぶつかった、衝撃が。 鴉だ。正確には式神か。人質にと、掴んだ手の先は、仕事に慣れていない様子を先程見せていた筈の女で―― 「存外、露見も早かったですね……なら。もう遠慮することも、ありませんか」 「こ、のガキ!」 フィクサードの怒りが小鶴を向く。謀られた事にか、鴉の攻撃にか。 だがこれこそ好都合。一般人に気が向かぬのならばそれだけで楽になる。魔力の循環を身に施し、戦闘の体制を整えて。 「おぉっとお。それで全員だと思ったら大間違いなんだからねッ!」 セレアも動く。流れるは彼女の血を元とした黒鎖。 それは認識しうる敵のみを穿つ。伸びる鎖がフィクサード達の身に巻き付き、絡み取り、溺れさせる。本来なら高位魔術たるマレウスの方を放ちたかった所だが、飛行機の影響を考え、彼女は断念した。ちなみに撃っていた場合は恐らく鉄槌の威力……というより衝撃だけが敵に届くような形で表れていただろうか。恐らくだが。 ともあれ次々と現れる予想外の“敵”にフィクサード達は驚きを隠せない。まぁ、驚いているのはフィクサード達だけでなく、関係ない無辜の一般人もであるが、 「皆さん、落ち着いてください。私達が対処します」 そこはエリンがフォローする。神秘に触れえぬ一般人はパニックで、その言葉にすら恐れを抱くが、 「大丈夫ですよ、皆さんに危害は加えさせませんから。 椅子に座っていてください――それが安全です」 フライトアテンダントの制服を着ていたのが幸いしたのか。パニックの中でもその言葉を信じようとする者はいる。アクシデントに巻き込まれた者が警察を見かけると頼りにするように、制服というのはソレだけで意味があるものなのだ。後は幻視で耳を隠せていれば完璧だったかもしれないが。 弓を構える。後部座席付近よりフィクサードを狙い、 矢に込めるは呪いの力。撓るソレを離して放ち、空を裂いて一直線。 突き刺さる。肩に。見事に着弾。 そして操縦室では、 「――おおッ! 邪魔よ! ここから……出ていきなさい!」 瞬間加速。からの蹴りをレイカが繰り出す。 押し出しだ。操縦席から彼らを排除する目的で、レイカは攻め立てている。密閉された飛行機内の。更に限定された狭き場所で戦うは難しい為に押し出そうというのだ。 面接着の能力を駆使し、本来なら足場にならぬ場所を足場とし、利用。 跳ねて、整え、穿ち、押し出す。 一人で二人の相手はキツイ面があるが――それでも意地で。パイロットは犠牲にしない。 繰り返させぬ思いが彼女を押すのだ。あの時犠牲になった者に、 “次”は、無かったのだから。 ●NEXT しかし想いだけでは成せぬ事もある。 この局面、戦闘を行うだけならばさほど難しい条件ではない。難易度を引き上げているのは、一重に“一般人被害0”。これである。 密閉された空間の、一般人多数の場において、一般人の被害を抑えるのは非常に難しい。範囲攻撃を撃たれた時点で即ではなくともほぼ詰みだ。逆説的に言えば範囲攻撃さえなんとかなれば良い訳だが。 では誰から狙うべきだったろうか。ホーリーメイガスだろうか。支援特化のレイザータクトだろうか。 否。この場で最も優先的に倒す必要があったのはスターサジタリーのフィクサードだ。 イージスはジョブスキルだけなら範囲攻撃を持たない。ホーリーメイガスも“回復特化”ならば攻撃手段よりもそもそも回復手段のみが充実している。タクトはフラッシュバンがあるが“支援特化”の者ならば攻撃よりも先に支援の手を広げるのが道理だ。故に数瞬、余裕がある。 範囲攻撃系を、流れ弾が一般人に飛ぶスキルを持っている可能性が高いサジタリーを明確に狙って倒すべきだった。 結果として、犠牲になってしまう者がいる。 最初こそ無駄な“肉壁”を撃ち、威力を減衰させぬようにしていたフィクサードもなりふり構わなくなってきた。 「くっ――これは、間に合いませんか?」 「ああ、もう。敵も回復してくるのが鬱陶しいわね」 機内の中心付近。癒しの力を放つ小鶴が見据える状況は、芳しくない。 一人を鴉の攻撃による怒りで引き付けてはいるがそれも長く続くとは限らないものだ。引き付けるには再度攻撃せねばならず、それも絶対確実ではない。手間がかかる。 八雲も同様に癒しの力で支援するが、ここにて必要なのは回復できる火力。 敵が一般人を巻き込む前に即殺しようとする、瞬間攻撃力がむしろ必要だった。その点はホーリーメイガスに狙いを定めたセレアにあったと言えるが、今となってはサジタリーに狙いを定めたとしても間に合わぬ。 客席と操縦席の戦力分配。 初手の行動タイミング。 フィクサードの優先順位。 一つ一つは無視できる。だが、 少々、齟齬が重なりすぎた。上手く連携が出来ずして、果たせるほど易くはなかったのだ。 一般人の被害皆無は――残念ながら果たせない。 「それでも……貴方達は、倒します! そこに変わりはありません!」 だが、とエリンの一撃が尚もフィクサードを襲う。 そう。例え0が無理だからと言って何もかも諦めるつもりはない。例え仮想空間の戦いであろうともそこは変わらない。変えるつもりはない。 「しッかたないですね……! ちょっと巻き込むのは気が引けますが――!」 同時。綾乃が放ったのは、閃光弾だ。 発生する光が一般人諸共飲み込んで、一気に無力化する。 ダメージは無い。流石に一般人にはある程度痛みがあるだろうが、それは決して致命に達するモノではなく。その間を突いて、 桐の一撃がフィクサードを両断する。 反撃の銃弾が顔を掠めるが、些細な事だ。初撃の奇襲からここまで流れを掴んでいるのはリベリスタ達。縦横無尽――とは言い過ぎだが、小鶴より翼の加護の効果が行き渡れば動きやすくなり、有利となっている。 しかしフライトアテンダントの制服で戦っていると、こう、色々と際どい面もあるものだ。 パンチライベントに備えた小鶴の策によって、桐は特に危ない。下着を渡されていたのだ。どんな物なのか? 着用しているのか? それは本人のみぞ知るところだがとりあえずやくもゆるすべからず。 見えそうで見えない。おいこら何してるVTS!! もっと頑張りたまえよ!! 「……後で仕置要素を追加ですね」 睨み脅しながら言って、しかしまだ敵は殲滅しきれていない。 操縦席だ。客席側を全滅させた彼女らは即座に向かって、 「な、んだお前ら!! 客席の奴らは――」 問答無用。操縦室は客室よりも狭いため全員が一斉に入ることは出来ない。が、事ここにまで至ればもはや後は時間の問題であろう。なぜならば、 レイカがフィクサードを二人とも押し出しているからだ。 二人を一人で、は流石に時間が掛かったが。片方がサジタリーという遠距離型故に可能となった。押し出した後、中には戻らずそこからレイカを銃撃し始めたのだ。レイカの負担は大きくなるも、結果としては良き方向である。 操縦室内部でなければパイロットを考慮せずに済む。近接から、遠距離から。攻撃を重ね合わせれば数の論理で趨勢は決まる。最後に残ったフィクサードが悪足掻きに、強引に客席へ逃れようとして。だが、 「あたしは――貴方達の行動が原因で覚醒した」 レイカが往く。抱く思いは恨みか。怒りか。否。 「あの日は本当に何もできなかった。でも、今は違う! “次”を繋ぐために、“次”を作る為に私は――前に進むッ!!」 一閃抜刀。目に抱く気概は未来を見据えて。 過去の幻影を、一刀の元に切り飛ばした。 ●大空を舞う 「スタァ――プッ!! 待て! 落ち着け! 話せば分かる!!」 「ええ。大丈夫です。分かりますよ――ええ、離せば分かりますよね」 「字が違ァ――う!! 止めろッせめてパラシュ……」 「そう言うと思って既に用意していますよ。あれば飛ぶんですよね? ねっ?」 そういう訳では無、という声を無視。桐が押さえつけ、小鶴がパラシュート(細工済み)を八雲に(強制)装着し、準備万端とする。処刑の。 飛行機の扉を開き、強引に外に吹き飛ばそうとしているのだ。落ちれば間違いなく死に一直線だがここはVTS。扉開ける事も落とす事も大丈夫大丈夫問題ない。突き落とそう。 「VTSって便利よね。人一人突き落としても何も問題ないんだから」 セレアが薄く微笑みながら言い放ち。弄られるべし慈悲は無い、とにべもないのが綾乃。 「うん――何も全く問題ないわね。あ、扉の開け方なら知ってるからちょっと待って」 そしてレイカが手際よく扉を開放すれば、一斉に八雲を機外に蹴り棄てる。慈悲は無い! しすべし! そして同時。悲鳴一つと共にVTSが終了していく。 飛行機が、空が。データとして少しずつ消えていく。 完全な目的は成せねども、あの日と比べ、どうであったろうか。 「あぁ……」 瞬間。エリンの見つめる先には空があった。彼女の住んでいた世界とは違う、ボトムの空が。 見上げる。皆も。外を。天を――空を。 開いた扉から見えた景色は、あの日と同じで青かった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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