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<恐怖神話>網!


 最早人間に未練はない。私は、神を見た。

●網
 瞼を閉じる。すると、冥冥たる闇の中に、やがていくつもの奔流が浮かび上がってくる。
 あれは血管だ。
 我々はそれを、生まれ落ちてから毎日欠かさず見ている。
 しかし、我々はその網の目を、知ることはない。
 陽を透かして見れば、その脈々たる流れを、おぼろげに感じ取れるだろう。
 まして、我々の無意識に届かぬはずはない。
 心せよ。
 我々の心は、網の目に絡め取られている。

 夜ごと我々は、自らの拵えた闇を見詰め、自らどうすることもできない血管の錯綜に絡め取られて、夢を見る。
 あれは、網。
 我々を取り込め、離人症の暗がりにとどめおくための、網。

 我々は、その網から、逃れることはできない。

●ある終焉
 生臭い風が、砂浜を吹き散らしていく。
 ある海沿いの寒村である。
 海岸ぞいの廃倉庫に、どやどやと入り込んだのは、元チンピラ、現フィクサード、そしてやっぱりただのチンピラどもである。頻発するエリューション事件のあおりをうけて、半端に革醒を遂げたものの、その力をもっぱら私欲のためにしか使わない連中だ。
 その日も、心ある革醒者なら目を覆いたくなるような無残な技の使いっぷりで、私掠の限りを尽くしてきたところだった。
 一同、車座になり、さて今日の戦利品を……と、思ったとき。

 突如虚空から、彼らに網が浴びせかけられた。

 瞬時に『網』に絡め取られる彼ら。
 その瞬間、彼らの『人間』としての生は終焉した。
 始まったのは、まったくあたらしい、そしておぞましい生。

 網は彼らを絡め取り、青白く輝き始めた。
 それは、ずぐんずぐんと脈動する。
 不気味に赤、青と明滅する、女の髪のような網。
 やおら彼らは立ち上がり、ずるずると網を引きずったまま、動き始めた。
 規律を吹き込まれた軍隊のように、それは統制だっている。
 だが、網の目からのぞく彼らの瞳に、意志はない。

 壮絶な、血の祝祭の開始だった。

●アーク総本部・ブリーフィングルーム
「ろくでもないフィクサードが、暴れまわっているらしい。それだけだ」
 将門・信暁(nBNE000006)は、タブレットを操作しながらつぶやく。
「敵は全部で5人。しばらくはろくでもない盗みしかやっていなかったんだが、このところ急に犯罪が凶悪化している。とりあえずぶっつぶして欲しいんだが……」
 信暁はそう言って、言葉を切る。
「いや……なに」怪訝な顔をするリベリスタたちに、信暁は努めてなんでもないふうに答える。「俺があんまり予断を与えちゃまずいんだが……この仕事、やばいな」
 信暁はリベリスタを見て、比較的メンタルの強そうな面子に、タブレットの画面を見せた。
「普通の人間が、こんなに残虐な殺し方をするはずはない。よほどの狂気、憎悪か、さもなくば人知を超えたとんでもない意志かが、こんな殺戮を現実にできる。あきらかに、この事件、何か箍が外れてる」
 信暁は、首を振った。
「それから、このフィクサード共、なんだかおかしな恰好をしている。全身に『網』みたいなものを括り付けてるらしい。
 で、この『網』が、突然降ってくるかもしれない……っていう未来予知がある。アークのリベリスタなら、ちょっと注意すりゃ難なくかわせるだろうが……さっぱりわからねえ。『網』ってのは、突然降ってくるものなのか!?」
 信暁は、まっすぐリベリスタを見た。
「よくわからねえが、連中をブッ倒せば、なにか明らかになるだろう。気を引き締めて、事にあたってくれ」
 






■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:遠近法  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月03日(土)22:25
 遠近法(えんきんほう)です。
 とりあえず、信暁の言うとおり、仕事に集中してください。

●勝利条件
 敵フィクサードの殲滅。

●ロケーション
 夜の廃倉庫。海岸沿いにあり、年中湿った潮風が吹きつけてきます。内部はリベリスタ達が動き回るのに十分な広さがあり、障害となるようなものはありません。また、周りに第三者が現れる心配もありません。

●敵データ
・フィクサード
 デュランダル・覇界闘士・ナイトクリーク・ホーリーメイガス・マグメイガスの初歩的なスキルを獲得しています。それぞれの職業の代表的な戦い方で攻撃を仕掛けてきます。あまり強くありません。

 万華システムは、彼らが以下の能力を獲得していることを予測します。
・再生(神/自/付)鱗を生やすことでHPを回復。
・強化(神/自/付)指示により、人間の限界を超えた力を発揮します。

●『網』
 戦場では毎ターン、フィールド内のリベリスタめがけてランダムに『網』が落下します。アークのリベリスタ達は『網』に自我を乗っ取られるようなことはありませんが、回避判定に失敗した場合拘束を受けます。

 網が自律行動をすることはありませんが、不用意に動き回ると、絡め取られます。

 これ以上のことは、本シナリオでは発生いたしません。

 熱いプレイングを期待しております。




参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスクロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
アウトサイドホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
ノワールオルールスターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
ハイジーニアスクリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ハイジーニアスマグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)
ギガントフレームプロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
ノワールオルールダークナイト
七海 紫月(BNE004712)
ジーニアスアークリベリオン
閂 ドミノ(BNE004945)

●侵入
 生ぬるい、不気味な風が港から吹き付けてきた。
 夜半もとうに過ぎて、白濁した霧が押し寄せてくる。灯台の光すら、おぼろげにしか見えない。
 ――悪い風だ。
『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)はいまいましそうにあたりを眺める。
 フィクサードの撃退――いつもと変わらない依頼だが、今回は、いつもとようすが違っていた。
「空中から網が降ってきて、連中の意識が乗っ取られている」
 信暁の報告をまとめれば、そういうことになる。意味不明。
「虚空から網が来る。人が異形となり、正気を失う。神秘業界では結よくある気がしないでもない話ですね」『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が言う。あらゆる戦場を駆けてきた彼女の分析だ。
「残忍な殺人方法、人知を超えた何か……ああ、何時もと変わらない世界の神秘ですわね」ふっとため息を漏らすのは『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)。間断なく起こる異様な事件、それは彼女の繊細な神経を苛んでいた。「それにしても網が降ってくるなんて、風変りですね」
「この手合いは何かしらの発生源があるのがだいたいのパターンだが、大体ろくでもない結果になるのは目に見えている。神秘の関連なんざ大体そんなものだ」『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)が眉をしかめる。心底神秘の存在を嫌悪する彼は、雲間から顔をのぞかせる月の光に、あやしく全身を濡らし言い放つ。「加減する必要なんざ欠片もない。連中の命諸共、網とやらを引きちぎってやるまでだ」
「運が悪かったというべきか、報いを受けたというべきか、元々どうしょうもない人達らしいですが、さらに……ですか」まったく、とため息をつくのは『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)。「野放しにしておくわけにもいきませんし、お仕事しましょうかね」可憐な外見に似合わず、多様な経験をもつ彼女は、冷静に今回の仕事をこなそうとしていた。
 冷静になれぬ事情が、一同にはあった。
 ……エリューションともアザーバイドともつかぬ狂気の尖兵。最近そういう依頼が多すぎる。
『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は、白濁した世界をじっと見つめながら考える。
 彼女はそれらの事件から、ある一つの仮定を得ていた。あくまで仮定の領域で、口にするべきことではない。それでも、あばたの胸には確信めいた思いがあった。
 ……もし想像通りのものなら、奴らは我々が触れていい代物じゃない。
 ただならぬ相手。
 今までにない敵の到来を、全員がおぼろげに直感しつつあった。
『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE003862)もその辺のことは熟知しているのだろう。視界に入るすべてのものを、徹底して疑り深く観察している。海岸のようすも見逃すことはない。「一網打尽とはよく言ったものだ……何もないところから、網が湧いたり降ったりなど絶対にありえぬ」その原因の一端でもつかみとるまで、どこまでも食らいついていくという彼女の心づもりだった。
「……網がなんだかわからないけど、血が何かは知ってる」けむるような目をして、涼子は言う。「こんなイラつく日には、耳の奥から流れる音がする」
 涼子には自らのスタイルがある。それはいかなる怪異を前にしても、ゆるがせにしてはならないものだ。
「がんばります!」『三等兵』閂 ドミノ(BNE004945)は顔を上げる。アークリベリオンとなっていらい、凄絶な仕事に巻き込まれることの多い彼女だが、悪に対する怒りは変わらない。
 ――そして一同は、廃倉庫の巨大な鉄扉を押し開いた。

 最初一同は、相手が理性をもち、話が通じるようなら、何らかの情報を得たいと考えていた。
 しかし、倉庫のなかのありさまを見た瞬間、それは撤回された。
 網の侵食を受けた、五人のフィクサード。彼らはすでに終わっていた。
 メラメラと燃える熾火の奥で、彼らは網をかぶったまま、あやしげな祭祀にふけっているようすだった。
 異様な光を帯びた目。眼球がせり出し、猿じみた体躯に変貌しつつある。暗視を使用した涼子は、彼らの身体が鱗でおおわれ、ありえざる場所に筋肉が凝り固まっているのを感じた。
 すでに彼らは人間ではなく、何者かの尖兵と化していたのだ。
「UHURRRRRR……」人間の発声器官では不可能な音声を発しつつ、フィクサードたちはこちらを見る。
 それに応じ、シェリーは魔術の結界を発動させる。「おぬしらは悪因悪果だが、その網は悪逆じゃの」杖から放たれた魔弾が証明の役割をはたし、壁に血で書かれた異様な模様を映し出す。同時に結界がリベリスタ達をつつむ。
 涼子は、自らの矜持をオーラにして纏う。
 紫月は一同に飛行能力を付与する。全員の身体がすっと宙に浮かんだ。今回の敵のおぞましさ、不気味さは彼女の中二病的な美学にちょっとそぐわない。さっさと退治するにかぎる。
「いたずらに犠牲者を出されても面倒だ」櫻霞、そしてアラストールも術式をまとう。
 ドミノは戦場の確保、そして敵の情報を集めて帰るのが今回の任務だ。少しでも敵の姿を垣間見てやろう……「こういうものは見ないに限りますが、気になりますよね」
 フィクサードはそれぞれ、武器を手にリベリスタに向かい合う。互いの緊張がみなぎり、いつ戦端が開かれてもおかしくない。

●混戦
 ――ぱっ。
 その時、虚空に突然、白い網の花が咲いた。
 突然、そこに投網がかけられたというふうだった。
 宙に浮かんでいたあばたは完全に不意を突かれた。ESPと研ぎ澄まされた直感、そして彼女のリベリスタとしての練度が、常識では不可能な回避を可能にした。
 シェリーは慄然とした。彼女ほど、神秘の知識に通暁したものだからわかるのだ。
 この一帯が、神秘の支配する空間に成り果てている。
 内臓のどこから消化液が分泌されるかわからぬがごとく、その網がどこから湧き出てくるのか、知るすべは存在しない。
 可能にするのは、磨き上げた直感それのみだ。
「畜生!」涼子は吼え、敵に急降下を仕掛ける。十分回転を加えたストレートが、敵の鳩尾に決まる。確実にとらえた……と顔を上げる涼子の目に飛び込んだのは、網の奥に光る、フィクサードの瞳。
「RIIIII……」その口から、異様な声が漏れる。デュランダルの放った剣撃が、翼を消失させる。間違いない、敵は、自分たちを網で絡め取ろうとしている!
「どうせ碌な理性なんざ残っちゃいないんだ!」櫻霞は空中から二丁拳銃を速射する。淡く光を帯びた銃弾が、フィクサードを貫通していく。
 続いてシェリーが爆砕の術式を放つ。アラストールがオーラを燃え上がらせる間に、紫月は眼前のナイトクリークの懐に飛び込み、紫水晶の色をした輝線を、まっすぐ相手に向けた。
 相手の生命を吸い取る術式……吸血鬼でも上位のものしか使いきれぬその技を、深化を果たして間もない紫月は、すでにわがものとしているようだった。リベリスタ達は、戦いの中で自らを高めていく
「CHUUUU!」眼前のナイトクリークが、踊り狂うような連撃を繰り出した。人間の身体の構造を無視した、ありえざる動きだった。紫月は血を飛ばしながら、防御の態勢を取っていく。
「RIIIII!!」敵の覇界闘士が、満身の力を籠めてアラストールに一撃を加えた。防御を完璧にしているとはいえ、彼女とて無傷ではいられない。鎧をきしませ、真っ向受け止める。
「痛みを癒しましょう……」櫻子の祈りが、傷を負った紫月、アラストールに降り注ぐ。不測の事態が予想される今回の戦い、最終的には力押しになるだろう。となれば回復の主軸となる櫻子の存在は大きかった。応じて、一番奥まったところにいたひ弱そうなフィクサードが、回復の術式を解き放つ。
(奴だ!)
 その瞬間を猟犬は見逃さない。あばたが銃を乱射する間に、櫻霞、シェリーは標的をホーリーメイガスに向ける。
「切り崩すなら癒し手からか。まあ定石だな」
 言って櫻霞は、銃口をそいつに向ける。
 その瞬間、再び網の花が咲いた。
 ぱっ。ぱっ。
 同時に二つ。予期していたが対応が遅れた。唯一反応できたのは、網の駆除に専念していたドミノ。
 ひとつは紫月殿……そして、もうひとつは――あたしあたしあたしだ!
 ドミノは跳躍し、自分の網を弾き飛ばす。無我夢中で紫月のもとへ滑空し、自ら網に絡め取られる。大きくローリングしながら、ドミノはコンクリートの床に激突した。
 早くもドミノの皮膚と融合を開始した網を、あばたは無表情でべりべり引きちぎる。
 敵の攻撃を受け流しつつ、紫月はドミノを見やる。彼女はピクリともうごかない。
 ドミノは、天を凝視していた。
(あれは……)
 網に絡め取られる刹那、ドミノが目の当たりにしたもの。
 無理に顔を仰のかせ、網膜に焼き付けたもの。
 それは、ドミノの見たことのないものだった。
 深遠で、人の理性の光のとどかぬ、恐ろしくいとわしい意志。
 覚悟を決めて覗いてよかった。隙のある心で覗けば、自分の正気が焼き切れてしまったかもしれない。
 ドミノは戦場にあることも忘れ、放心する。
 そんな彼女の心を、ぴしりと鞭うつ鋭い声が上がった。
「回復なんてしたくないんでしょ!?」涼子はホーリーメイガスに向け、敢然と言い放つ。「殺してみなよ! いつもどおりに!」
 その『殺す』という言葉がトリガーをひいたか、それとも涼子のあまりにも『人間らしい』声が、何がしかの感応を及ぼしたのか、フィクサードはくるりと向き直ると、涼子めがけて突進してくる。
 涼子は鼻で笑って応じる。全力のアッパーが、フィクサードの顎に決まる。そこに櫻霞の銃弾が撃ち込まれた。戦闘不能に陥ったことを確認し、シェリーは白銀の弾丸のターゲットを、敵の魔術師へと切り替える。
 魔術師は今まさに、異形の者へと変化しつつあった。術式を組み立てながら、その漏れ聞こえる言葉は、喘鳴となり、叫びとなり、ひずんで増幅され、ついには人間の発声器官では不可能な音声になる。
 だが、圧縮されたシェリーの攻撃術式は、常識をはるかに凌駕した。長い光の尾を引いて、魔術の弾丸はフィクサードを貫いた。
 そのまま戦闘不能に陥った敵を、シェリーはむんずとつかみ、瞬時に様子を把握する。
「網は脳や神経に接続しているのか……この鱗の正体は……」
 シェリーは情報を読み取る。理解できぬ、ということが、たまらなくシェリーの闘争心を掻きたてる。一面子供じみた、おそるべき果敢さこそが、彼女の本分なのだ。

●決死
 そして網の花が咲く。今度の標的はアラストール! 敵の神秘をはぎ取る力を持つ彼女が網にとらわれては、絶望的な状況に追い込まれる。
 視界いっぱいに、網が広がる。そこに、影が飛び込んできた。
「アラストール殿!」ドミノは絶叫する。
 ドミノは屈しない。あるいは、涼子の行動に胸打たれるものがあったのだろうか。あれほどの脅威を垣間見てなお、彼女は網のもとへ走り寄り、そしてむんずと網を握りしめ、あろうことか虚空の主に向けて獅子吼したのだ。
「ええ、気になりますねぇ! 貴殿のこと!」
 そして、異界の存在を引きずりだそうとするかのように、力づくで網を引っ張った!
 ふつりと手ごたえは消えてしまった。ドミノはその場に崩れ落ちる。彼女の絶叫が、人間存在ならざる者への、手斧の一振りになりえたかどうかは、知る由もない。
「くたばれ糞野郎!」昂然と顔を上げ、涼子はフィクサードに言い放つ。その沸き立つ闘志は金色に煌めく。彼女の……リベリスタの闘志は何物にも屈しない。何物も、彼女のプライドに指をかけることはゆるされない。UNTOUCHABLE……触れてはならぬ者。
 その闘志そのままに、涼子の一撃がデュランダルを弾き飛ばす。
 紫月はドミノに回復の術式を飛ばす。麗しい天使の羽がふりそそぎ、ドミノに絡みついた網が蒸発した。
 紫月は直感する。網は、神秘に属する。解き放つのは容易。だが、深くそれにかかわってしまうと、恐るべき場所にまで引き込まれてしまう。「気持ち悪いですね」紫月は、率直な感想を口にする。
「あっ!」櫻子にふわりと、網が浴びせかけられた。絶対者たる彼女に、神秘の網は触れることかなわず、そのままドロリと溶けてしまったのだが、それは櫻霞の怒りに火を付けるのに十分だった。
「手を出すとはいい度胸だ」あくまで冷静に、むしろ冷酷に、櫻霞は黒と白の銃を抜き放つ。スライドさせると、薬莢の滝が二条生まれた。「足りなくなったら、補うまでの事」
 櫻子は櫻霞を見る。怒りが白々と、月光のように彼の全身をもやしていた。二つのチェンバーを銃把の根本に叩き込むと、ひどくゆっくりと、櫻霞はフィクサードに照準を合わせた。
 ゴォッ!
 弾丸の嵐が吹き荒れた。櫻霞の怒りをそのまま具現化したようなハニーコムガトリングは、一発残らずフィクサードたちに叩き込まれる。彼らが吹き飛ばされても、白と黒の颶風は止むことはない。
「そう易々と許す訳がないだろう」
 猛禽の二つ名そのままに、狩りとる者の目で銃を乱射する櫻霞。それはまるで破壊の大天使のようで、しかしそれを放つ彼の怒りは、まさしく人間のものだ。
 それを見た櫻子は、戦場に目を向ける。櫻霞の銃弾を受けてなお立ち上がるフィクサードは、二体。最早人間とは呼べぬ、異形の肉塊と化した化物だ。
「AAAHHHAAA!!」その化け物の手にした刃が、アラストールの肩をえぐった!
 血潮が吹き上がる。アラストールは引かない。
「力なら確かに強いが、ただそれだけだ」
 瀕死の状態で、それでもアラストールは言い放つ。あるいは彼女にとって、己の命のゆくえなど、二の次なのかもしれない。彼女はただ、祈るのみ。
「祈りこそ、わが存在」
 彼女は渾身の一撃をふるう。十字軍の名を剣技は、一瞬にして神秘の力をはぎ取っていく。
 櫻子は必死で回復術法を試みる。彼女の絶大な潜在能力は、アラストールの傷をみるみるふさいでいく。祝福により助けられたアラストール、だが二度はない。
 紫月は瞬時の判断で、神秘を失ったフィクサードへの攻撃を試みる。
 人間としての生を立ち止まった存在は、人間の姿に押し戻されて、その生命を無慈悲に吸い尽くされた。それでも、まだ人としての姿を保ったままで倒れることができて、幸福なのだろう。
 そして、完全に異界のものと成り果てたフィクサードを、あばたの狙い澄ました銃弾が、一撃のもとに打ち抜いた。

●中断
「結局、この網は一体何だったのでしょうか?」
 小首をかしげる櫻子。櫻霞は、嫌悪に満ちた目をフィクサードに向けた。
「いったい何のためにあるんだろうな」神秘を疎んじる櫻霞は、網に手を触れようともしない。
「そういうのは、みんなにまかせるよ」涼子も身づくろいをしながら言う。
「血管そのものでしょうか。私には、これがなんなのか知る術はないです」お願いします、シェリーさんと紫月が言うよりも早く、シェリーはフィクサードの一人をつかみあげると、大声で恫喝した。
「おぬしらの『強化』は誰の指示によるものか? あるいは『支持』か?」あらゆるものを震え上がらせるシェリーの凄烈さだった。「おぬしらの中に、神がおるのか!?」
 すると。
 ぴくりとも動かなかったフィクサードが、やおら目を開けた。
 それまで意味不明なうめき声しか洩らさなかった唇がわなわなと動き、ひどく明瞭な声で言った。

「もはや人間に未練はない。私は神を見た」

 それきりがくりと動かなくなる。これ以上聞くことなしと見るや、シェリーは網の採取にかかった。いまだ血まみれで息の荒いアラストールは休息してもらい、あばたはシェリーのたのみを受け、網の引きはがしにかかる。
「縛られるのがイヤでこのような生活を選んだんでしょうけど、縛られて生を終えるとは皮肉話ですわね」紫月が言う。
「フィクサードたちもアークに送還しておきましょう」ドミノがフィクサードたちを一か所に集める。「死体からも何かしら情報が得られるかもしれませんしね」
 そうしてドミノは、フィクサードたちの網が、薄い条痕を残して消え去っているのに気づく。あたりを見回せば、そこかしこにあったはずの網も消え去っている。
「あばた殿!」ドミノは声をかける。
「大丈夫」あばたは密封容器に入れた、網のかけらをかざした。「真白博士に渡したら何かわかるかも。真白博士が死ぬかも」
 そう言いつつ、あばたは戦いの中で至った、一つの結論を反復する。
 もしこれらが『想像通り』のものなら、我々が触れていい代物じゃない。
 だが、それを打ち破るのもわれらの権利。
 そう、人が人であることの尊さ、可能性。
 ――いずれ、戦わねばならない。
「人はみな、何かに縛られているのでしょうか」紫月がだれに言うとでもなく言う。「そう考えると何か、怖いような気がしますね」
 網のような血管。人はそれに縛られる。
 そこに流れるのは、血だ。
「手袋から臭う。撃てば流れる。それで、今も私を生かしてる」これも、だれに問うとでもなく、涼子が呟く。「そういうものでしょう?」

 夜、目を閉じる。
 すると、網が広がる。
 我々を離人症の暗がりにおいやる、網。
 だが、そこには血が流れる。
 我々は縛られ、そこから逃れようともがき、そうして生かされる。
 
 我々はみな、我々を縛るものから手をのばす。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 ありがとうございました! 熱い!
 じょじょに強くなっていく敵ならどうか、と思ったのですが、強くなる前にやられちゃいましたね。
 採取されたサンプル、得られた情報はアークの本部で解析され、これからに役立てられます。
 大変有益な情報を得たと言っていいでしょう。
 ちょっといい話。網の落下はゲームシステム上乱数で行ったのですが、この判定が寄った寄った。どんな結果になったかは、リプレイをご覧ください。
 ではまた、熱いプレイを!