●7:3 男は追いつめられていた。 背後には壁。正面には敵。 相手は大ぶりな刃を光らせて、じわじわ距離を詰めてきた。 苦い後悔が身内に滲む。自分の手にした、貧弱なナイフが視界に入った。 「7:3」 不意に、相手が言った。 「なぜ、7:3にしたんだ?」 相手の口調には、侮蔑と嘲りがにじんでいた。 「俺の言った通り、1:9にすればよかっただろ?」 そうだ。理屈から言えば、その通りだ。 「そうでなければ、5:5」 ああ……そうだ、そうすれば、自分と敵とは、文字通り五分五分。どんな結果になろうとも、己のプライドは守られた。こんな惨めな思いはしなくて済んだ。 「7:3.俺の力が7で、お前の力が3」 相手は刀を振り上げる。 「力の差があれば、こんなこともできる」 刀が宙を割いて、衝撃破が背後の壁を破壊する。 「こんなこともできる」 薙ぎ払った刀が電撃を生み、雷光があたりをまばゆく照らした。 どれも高位の戦士の技だ。 「なぜ、7:3などという、中途半端な数をぬかした! バカすぎるぜ!」 「1……」意識せず、男の口から言葉が滑り出ていた。 「お願いします。1:9」 「遅いよ」 嘲りの声とともに振り下ろされた一撃が、男の首を跳ね飛ばした。 不気味な沈黙を、男の哄笑が破った。 「どいつもこいつも、思った通りに死んでいきやがる! 笑わせる! 笑わせるぜ! くだらねえ!」 廃工場に響き渡る狂った笑い。 不意に差し込んだ月光に、血まみれの剣が、ぎらりと光った。 ●最後通牒ゲーム 「……二人の人間は『通告者』と『受諾者』に分かれる。目の前の10ドル、こいつを分け合うのだが、その権利は『通告者』にしかない」 『駆ける黒猫』将門 信暁(nBNE000006)は、デスクの上にコインを十枚並べる。 「自分が9でも、相手が1でも構わない。『受諾者』に選ぶ権利はない。彼に与えられているのは、相手の決定を受けるか、拒否するかの選択だけだ。受諾した場合、お互いはその取り分を得ることができる」 信暁は、リベリスタにコインを1枚放ってみせた。 「おたがい十分合理的なら、『通告者』と『受諾者』の割合は9:1になる。だが、けっしてそうはならない。これがこのゲームの面白いところだ。1と告げられた『受諾者』は、必ずその提案を拒否する。必ずだ。たとえその『1』が、そいつの1年分の給料だとしても、だ」 いい話じゃないか、と信暁は頷く。それが人間ってものだ。 「このアーティファクトは、二つで一組だ。持ち主は片方を相手に渡し、この通告をせまってくる。相手と、自分の力をどう配分するかを、相手に決めさせるんだ。そして、決めさせた力で圧倒し、最後には誇りさえ奪って、殺す」 信暁は一枚の写真を取り出した。大きさのバラバラな二組の剣。 「危険なアーティファクトだな。こいつに魅入られた野良フィクサードが、あちこちで狩りをやっているらしい。やめさせるのが俺たちの仕事だ……が」 そこまで言って、信暁は言葉を詰まらせた。全身を震わせ、嗚咽するように、声を絞り出す。 「だが、俺はこいつが心底気に入らねえ」 信暁は、写真を握り潰し、デスクを蹴っ飛ばした後、リベリスタ達をまっすぐ見た。 「こいつは、人間をゲームで追い込んで楽しんでる! いかに卑屈にして、クソまみれにして殺すか楽しんでやがるんだ! なんでもいい。どんなやり方でもいいから、こいつに『人間としての尊厳』ってやつを見せつけてやってくれ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:遠近法 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月20日(日)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 敵は敗北した。 ● 「説明はいらないっすよ。おおむね分かってるんで」 『ジルファウスト』逢川 アイカ(BNE004941)は、フィクサードをあしらった。 「……成程な」フィクサードは、魔具を片手に、不敵に笑う。 「こっちはお前の手の内はわかってるんだ」『咢』二十六木 華(BNE004943)が嘲笑した。「そこまでアホだと、逆に感心しちまうだろうが」 「ナメてると、痛い目見るよ? 1:9にしといたほうがいいんじゃないの?」月杜 とら(BNE002285)が言い放つ。 「いや、これで十分だ」男は、食用ナイフのような貧弱な魔具を見詰めて言った。 「自分で選んだ割合だから、文句などあるはずもない。だろう?」アズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)は、自分の魔具を見詰めた。伝説の英雄が使うような、見事な剣。黄金の柄を幾多の宝石がいろどり、流麗な螺鈿が施されている。見ているだけで、引き込まれそうだ。 「ふふっ、見ているだけでも楽しそうね。このゲーム」『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)が笑顔を向ける。「受けても提案でも楽しそう……まあ、今回は譲るわ」 「行くぜ」アズマはもとから所有者であったように、悠々とその剣を振りかぶった。 自分の力を、相手に決めさせる奇妙な魔具……それの使用者を倒し、破壊せよとの任務を受けたリベリスタ達の出した結論は「自分:相手」=「9:1」つまり、相手に最弱を常に選ばせるというものだった。 本来、人間の心理として「最弱を自ら選択する」というのははばかられるものだ。だがリベリスタ達は躊躇なく、その道を選んだ。 「1:9に決まってるじゃないですか」何を言ってるんですかね、と『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は、そのときの心境を語った。「我々の仕事は敵の駆除であり、スポーツや意地の張り合いではありません」 一見無愛想ではあるが、彼女の背後には確固たる意志が見えた。極東にその名を馳せる大企業、大御堂重工の代表取締役補佐兼局地戦闘兵器試作開発室室長という重責を、軽々とこなして見せる女傑。 「中にはその手の矜持に拘る方もいらっしゃいますが」少し間があって「少なくとも、私は違いますね」 彼女は、今回の事件に納得しているのだろうか? 「リベリスタらしくあれ、という思考は然程好きじゃないんですがね。どちらかと言えば、私個人の思想に近いんでしょう」 出入り口をふさぐような形でモニカは移動し、おもむろに殲滅式四十七粍速射砲を取り出す。マズルフラッシュが工場の闇を染めた。 「ハチの巣なんかにはなりませんよ。木っ端微塵ですから」 ほぼ同時に『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE3862)が、研ぎ澄ませた集中からの氷結の弾丸が放たれる。予め魔力を加速したうえでの一撃だった。常識はずれの破壊力を有する白銀の光弾が、フィクサードに襲い掛かる。「舌の根の乾かぬうちに、がっかりさせてくれるなよ」 「妾としては『0:10』でもよかったんじゃがの」シェリーはそう語る。相手の価値観で、完膚なきまでに叩き潰す。稀代の魔力を持ち、幾多の死線を潜り抜け、絶大な自信を持つ彼女ならではの言葉だ。「新米もいるし、無理はせぬほうがよい……と考えた。まあ、真剣勝負の刺しあいで、ゲームなど持ち込む者が愚かだろう」 魔道の研究者として魔具に興味はなかったか? 「……訓練用には向いておろうな。互いの力量を見極める洞察力も養える。もっとも、今回の使い手には、それはなかったようだがな」シェリーは嫣然と笑った。 「……わが魔力の胎動をみて、『9:1』などと申すのだからな」 ●9:1 魔具を託された代表者アズマは、戦いに気負いも何も感じていない様子だった。 「鍛錬だと思えばこそつきあうが……こういったゲームじみたことに、トンと縁がなかったものでね」 アズマの目は鋭い。今までの自分の力に満足せず、さらなる高みをめざし新たな力を得、それを極めようとしている彼女にとってみれば、ゲームじみた戦いなど慮外のものなのだろう。 「ゲーム? ……遊戯者の自己満足で終わるものなら、別に行う必要はないだろうな。まして、相手に不公平だと遠慮するなどと期待するなど、砂糖菓子より甘い。ましてこれは、オレと敵の交渉ではない。アークとの交渉だ。アークはお人よしだが、そこまで甘くはない」 彼女はそういいながら、あまたの先輩のことを思い浮かべているようだった。いずれ自分も、アークの一員として、より大きな敵の打倒に向かわなければならない。彼女の眼は遠くを見据え、そして彼女には、そこへたどり着ける天稟もあった。彼女は優秀なリベリスタになるだろう。 フィクサードの戦術は単純だった。多勢に無勢。ならば、体力の残る間に、力の未熟な者たちを集中的に狙う。 フサードは自らに力を付与する。小ぶりな刃が唸りをあげて、アズマに切りかかる。「お前らなんぞ、1の力で十分なんだよ!」 否定できない。敵は単体でも、ベテランである。及ばぬ相手ではなかったが、援護を受けても楽勝というわけにはいかなかった。 そこに割って入ったのは、華、とら、アイカ、そして『三等兵』閂 ドミノ(BNE004945)といった、経験も能力もさまざまな前衛軍団。アズマをかばいつつ、とらはフィクサードに言う。「多勢に無勢? 不要な犠牲を出さずに確実に相手を仕留める合理性だよ」 アズマへの集中攻撃をとらに阻まれ、フィクサードは思うように攻撃ができない。さほど高位ではない剣技であっても、数度当てれば致命傷にはなりうる。だが、それがことごとく防がれる。 「何その攻撃、カユーイ!」 敵の攻撃を研ぎ澄ませた体技でひらりとかわし、反撃する。 フィクサードは歯噛みする。 「どうしたの! とらだけを見てね!」とらの挑発を振り払おうとするフィクサード。 突っ込んでくるのは華。 「言いてえことがあるなら、今のうちほざいておけ! 命乞いをする時間はやらねえ! 自分で作れ! 事情があるなら詫びてみろ!」 絶叫の分だけ剣撃がうなりフィクサードを弾き飛ばす。 「お前が今まで殺した数だけ、俺の怒りは収まらない。俺は、フィクサードが嫌いだ!」 二十六木 華と、後述するティアリア・フォン・シュッツヒェン。 二人は、他のリベリスタ達とは若干違っている。 彼らはアークのリベリスタであるのと同時に、個人的な信念、思考を軸において行動をしていた。 「俺は、フィクサードが嫌いだ。一番嫌いな部類だな、こいつは。クソ野郎であることに間違いはねえ」彼は言った。フィクサードに蹂躙された過去を持つ彼は、挑戦し続けることを課している。二度と大事な人を失わないために。「フィクサードという時点で、こいつは詰んでるんだ。チェックメイトだな。ゲームだかなんだか知らねえ。人生なめてんじゃねえぞ」 怒りで全身を震わせながら答える彼は、もはや一流の猟犬だ。 「ちくしょぉぉぉ!」一撃一撃全力で打ち込む。「信暁! お前の怒りの分まで殴ってやるぜ! 歯ァくいしばれよ!」 乱打、乱打、乱れうち。「俺たちはまだリベリスタ見習いだがァなぁ、今日の剣は一味違ぇ事を其の身をもって知りなァ!」 吹き飛ばされ倒れるフィクサード。 歩み寄る影。フィクサードが顔を上げると、鉄球を抱えたティアリアの姿。 「割合を変更する?」優しい口調で尋ねる。「聞いてあげないけど。そうね、あなたが0で、こちらが10なら聞いてあげるけど。7:3なんて、そんな生ぬるいことはしないわ、わたくしは」 フィクサードだけではない、味方の血も凍らせる、それは宣告だった。 あくまで優雅な挙措を崩さず、ティアリアは言う。「当然、割合は9:1。それ以外は認めない。何故って、決まってるじゃない。その方が楽しめるからよ」読み違えがあったら困る、という理由もあるけど。そういって笑う彼女は、他者の苦痛に悦楽を感じる、真正のサディストだ。あらゆる人間の深淵、醜く弱い領域での覇者として君臨してきた……陽だまりの中が似合いそうな風情からは、とてもそんな様子は見えない。事実『先生』としての役割が板についてきてからは、本性を出すことはなくなっていた。 しかし今回「愚かな選択をした者が自滅する」という状況が、彼女のお気に召したらしい。久しぶりに仮面が滑り落ちた。 「フィクサードが今まで行ってきた報いだとか、そんなことはどうでもいいのよ。今、彼がわたくしを愉しませてくれる、そのことが大事なのだから」彼女はそう言って、童女のように笑った。 鉄球が唸りを上げ、床に激突する。振動。 「この鉄球は飾りじゃないのよ」ティアリアは笑顔を崩さない。「ただのホーリーメイガスが、あのようなこと言うと思ったのかしら?」再び鉄球が飛び上がり、旋回を開始する。 フィクサードは、ひきつった顔で見詰めた。 「普段相手に行っていることをやり返されるのはどんな気持ちかしら?」ティアリアの頭上では、鉄球がゴウゴウとうなり始める。「屈辱的? 悔しい? ほら、ちゃんと言ってみなさいよ」 そこにモニカの銃弾とシェリーの魔弾が放たれる。物理の弾丸、魔力の弾丸。 モニカは冷厳と銃を構える。その有様は銀色の焔のようだ。この先どのようなことがあっても、彼女はその銃で、道を切り開いてゆくのだろう。 「力弱くとも、わかるじゃろう……わが魔力が至るところを!」その言葉通り、極限まで魔力を得たシェリーが、昂然と言う。「是非曲直、今のおぬしはどうか?」 フィクサードは、半ば放心したような顔を向けた。自分の力であれば、最低の比率であっても、数ターンは持つ。そのあいだに精々アルティメイタムをふるって逃げ出すつもりが、あまりにも展開が早すぎた。 「そう、現実は優しくない」アイカが拳を構え、フィクサードに立ちふさがる。「受諾者側は目の前のやつぶん殴って総取り。それが必勝法でいいんですよね」 拳がシュウシュウと冷気を放ち始める。「ぶちのめさせてもらいますよ」 アイカはゲームに興味がない。困ったときは格闘技で物事を解決する以外は、いたって普通の女子高生だ。どこまでも、迷いはない。『現実は優しくない』彼女のよく口にするそれは、彼女自身がよく知り抜いていることで、だから彼女は優しくあろうとしている。現実をゲームの駒にする、という発想自体、彼女には一顧だに値しないことなのだろうか。 流麗な動きでフィクサードに拳が叩き込まれていく。激しいダンスでも踊るような、見事な連撃。鳩尾にのめり込んだ一撃で、フィクサードはどうと倒れた。 「1:9、してほしいんすか? こっちが1で、そっちが9。そうなら、ちゃんと言わないと」アイカはにやりと笑う。「だが駄目。現実は優しくない」 そしてアルティメイタムをかかえたアズマが、袈裟懸けに切りかかる。 「そちらが自分で選んだ割合だろう。文句などあろうはずもない。だろう!」 再び大きく跳ねるフィクサード。壁に激突し、ずるずると滑り落ちる。 「厳しかろう? そちらが1なら、日ごろ出せている力も出せまい。少しは懲りたか?」激情をはらみつつも威厳をもって、アズマは言う。「日ごろ相手にやっていることをやられて激昂するのであれば、ゲームをする資格は、そなたにはない。己が身の行いを省み、反省することだ!」 それが、最後通牒だった。 ●9:1 「わかった。ここまでだ」フィクサードは透徹した顔でうなずいた。「だが覚えておけ。お前たちはこのアルティメイタムに勝ったわけじゃない」 「物理的に破壊するまでです」モニカが冷厳と言い放つ。「貴方の心を折ろうが折るまいが、死んだ人間は戻ってきませんからね」 「違う。こいつは、必ずお前たちのところにやってくる。お前たちがより強い力を欲するとき、こいつは現れる。そのときお前たちは、俺のことを思い出す。『あのバカよりも、俺のほうが、うまくこいつを使ってみせる……』必ず、そう思うんだ。いつもこいつは勝利する」 「こんなん欲しい人、いませんよ」アイカが笑う。負け犬の戯言に、誰も耳を貸さないのだ。 「墓石に刻む、名を聞こうかの」モーガンが言う。 フィクサードの手に握られているのはアルティメイタム。 「自尊心くらいはくれてやろう、せめてもの手向けじゃ」 「いや、名乗る必要はない」フィクサードは言い放つ。「俺は勝った」 リベリスタ達は頷く。これ以上、話す必要はない。 (生殺与奪を握られる、ある意味、男にとっては最も屈辱的な状況か?)シェリーは考える。 アイカとモニカが無駄なあがきを警戒する。どうやらこのフィクサードは魔具と心中するつもりだ。そのあとで魔具は回収すればいい。 「さらばじゃ」シェリーの言葉に答えて、フィクサードが剣を振りかぶったその時……。 「投降してくれたら、無駄な殺生はしないよ」 とらが思いがけない言葉を口にした。 「何だと?」フィクサードがとらを見る。 「こうなると男は引っ込みがつかないだろーけど、どする?」 「……お前……」フィクサードは言葉を失う。 「カッコ悪い? つまんない意地はって、ここで死ぬのだって、そんな変わんないよ」とらは必死だった。軽薄さに隠された、それがとらの熱い思いだった。 「お前は何もわかっていない。このアルティメイタムが、いったい何なのか……」 「だったら、ことばにするのがヤなら、態度で示しなよ」努めて明るく、とらは言う。「簡単でしょ? その魔具を壊しちゃえばいいんだよ」 「!」フィクサードは、アルティメイタムを凝視する。 「ね? こっちで決めてあげてもいいけど……自分の事くらい、自分できめたいよね?」 「……」 「嫌な自分を葬れるのって、きっと自分だけだよ」 フィクサードは、まるで初めて見る者のようにとらを凝視し、 (お前はやさしいな)とでもいうように、ふっと表情を和らげ、 そして腹に、ゆっくりとアルティメイタムを 「1:9。こちらが1で、貴殿が9です」 ●1:9 一同が振り向くと、そこにはアルティメイタムの片割れを無心に見つめる閂 ドミノの姿があった。 「私も挑戦させて貰っても良いですか?」 ドミノが顔を上げる。その表情から彼女の本心をうかがうことはできない。 「いいですよ、1:9で」 「……いま、何て?」 「1:9で良いと言ったんです。いや、0:10は可能ですか?」 フィクサードは、びくりと体を震わせた。 「この魔具のフル出力を見てみたくなりました。貴殿は興味がありませんか?」 ドミノはアルティメイタムを掲げて見せる。 無音の、おそるべき静寂の時間が過ぎた。 誰一人、声を発することはなかった。 やがて、フィクサードは自らの腹部にのめり込ます筈であったアルティメイタムを、くるりとひるがえした。 「お……お……お……」からからに乾いた、干からびた声が漏れた。彼は一瞬にして、百歳も老いぼれてしまったように見えた。 その手のアルティメイタムが、金色の光を発する。 「おお……」思わずリベリスタから、感嘆の声が上がる。 もはや剣の形をなしてはいない、それは一本の柱であった。 ドミノは手中のアルティメイタムを、真正面に構える。 「今回の任務は、貴殿の打破ではない! この魔具の破壊!」そして、フィクサードに向けて言い放った!「打ち砕いて下さい! あなた自身の力で!」 「おおおぉぉぉおおお!!!」フィクサードが叫び、巨大なアルティメイタムを振り下ろす! 「ドミノ!」いち早く事態に対応したモーガンが、火球を放つ。 閃光が、あたりを白く包みこんだ。 彼女の姿は……あった。血まみれで。それでも、敢然と。 「圧倒的パワーっていうのは、気持ちのいいもんですね」 ドミノは笑いつつ、再びアルティメイタムを掲げる。 「じゃ、もう一発撃ち込んでみますか?」 フィクサードはもう何も見えていない。エネルギーを使い果たし、枯れ切った肉体で、再びアルティメイタムを構える。 バリィ!! 先ほどに倍する金色の光が、廃工場の壁を突き破る。そこから、大量の水がほとばしり出た。 ドミノは血ぶるいをした。 「ほら! やりきりましょうよ!」 「ああああああ!!!」 再び、極小の力と、極大の力が拮抗する。あたりを衝撃破がなぎ倒す。絡み合い、渦を巻き、膨れ上がる力と力。 「なんだ、私一人倒せないじゃないですか!」 「あああああああ!!!」 「まがいものの勝利は、楽しいですか!」 「わああああああああ!!!」 悲鳴のような声が頂点に達し、光が膨らみ、そして。 ――。 額から血を流したドミノが、どさりと倒れる。 それを抱え上げたのは、とらだ。 彼女は瞳を閉じたままのドミノを抱きしめ、天を仰いだ。 「この子は俺だ! この子は俺だ!」 冷たい雨が、とらの熱い頬を濡らす。 ショートした配電盤が、青白い火花を散らした。 とらは思い出したのだ。悲惨な生い立ちを送った自分。リベリスタとなり、それでも力が足らず、いつも悔しがっていた自分。それでも自分を貫き通そうと、戦場に立ち続けていた自分。 リベリスタ達も、それぞれ胸に去来するものを感じ、言葉を失う。 ドミノの右手がぶら下がる。その手にアルティメイタムはない。 次第に強さを増していく雨の中、とらの哭泣だけが、いつまでもやむことはなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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