●しんでしまうとは なさけない ばしーん! ゆうしゃAに850のダメージ! 『くぁっ』 『ああ! ゆうしゃA!』 『ふはははは おまえらのちからはこのていどかー』 『ほ、ほざけ! みんながんばるぞ! とにかくたたけばたおせるはずだ!』 『えっ』 『えっ?』 『そんなさくせんでいいのか』 『そんなさくせんって』 『まてまてお前らの目は節穴か? 今まで何を見てきたんだ? 今までわしの頭の上に「1」しか浮かんでないのだぞ? それで倒せると思ってるのか?』 『なんでおれたち まおうにツッコまれてるんだ? しかもわりとマジに』 『そんなこともわからんやつらは こうだ!』 ばりばりばり! ごごー! ゆうしゃAはしんでしまった! ゆうしゃBはしんでしまった! (以下10名省略) 『のうしてんのうや』 『なんでしょうまおうさま』 『わし たかのぞみしてるのかな? わしなんかに ゆめみるしかくはないのかな?』 『そんなことはございませんとも! まおうさまはごりっぱであらせられます! われらのじまんのまおうさまです!』 『あなたさまののぞみはまおうさまとしてとうぜんのものです! あのゆうしゃどもがふがいないだけです!』 『そっか……でもやっぱりわしせつない』 『まおうさま なかないでくださいまし! ああどうしよう』 『しんかんどの! まおうさまにはんかちを!』 『はっ ただいま』 さめざめと涙を流す物凄くごつい魔王をひたすら慰める5人の側、十数名の勇者たちの屍が物言わず転がっていた。 ●旅立て! 勇者たちよ! 「王道は好きか?」 今日も今日とて依頼の為にブリーフィングルームに集まるリベリスタ達の眼前、うず高く積まれた本たちに囲まれ『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はそう言って表情を上げた。 唐突な言葉に理解が遅れたのか怪訝そうな表情で見返す彼らに、伸暁は先程から目を通していた本のブックカバーを外して意図を示す。 黄ばんだ表紙に並ぶタイトルは―― 「『エンドレスクエスト』……随分昔に流行った漫画ですね。典型的な魔王と勇者の……」 そこまで口にして漸く先程の伸暁の台詞の意味を知り、しかして今度はその台詞の行き着く先を理解しかねた様子でお互い顔を見合わせる。 「依頼と何か関係が?」 「まあ、そうじゃなきゃいきなりそんなこと聞いたりしないよな。お前達にはその王道を演じきった上で魔王…アザーバイドを倒し、囚われた一般人を救出して欲しい」 「やること多いですね! 演じることで倒すんですか?」 「ああ、いや、少し違うな。『演じないと物凄く強い』んだよそいつ。 その代わり演じてりゃ口からでまかせだってなんだっていいんだ。お前の装備が伝説の勇者の装備だってことで大ダメージを想定すりゃその通りになるかもな」 一部リベリスタが面倒くさそうに眉をひそめる中、別の一部は目を輝かせ始めた。 「その世界の中心には禍々しい塔がたっている。最上階には魔王がいて、彼にたどり着くまでの道のりには四天王と悪の神官がまっている。 正直いって四天王と神官は弱い。さくっと先に進んでしまえるんだ。だがこの魔王がなぁ……一癖あるというか、むしろ律儀で生真面目なのかしらないけど、『魔王として格好良くやられる』事を理想にしすぎてるみたいでね。 それを求めて鍛えている内にそういう攻撃以外受け付けなくなったらしい。酒に酔いつつ延々と部下に愚痴ってた」 この伸暁の説明に対しても、聞き手の反応は様々である。感極まって涙ぐんでいるものもいる始末。 「そしてそんな日々の中、運悪くリンク・チャンネルが繋がっちまったんだな。そして迷い込んじまった一般人の女子高生を見て魔王はこう思った。 『見慣れぬ装いに立ち振る舞い、彼女は異世界から召喚された巫女か姫に違いない! そうだきっと姫だ!』……ほら、王道好きだからさ」 「あながち間違っちゃいないですねそれ」 「まあな。そして魔王は彼女を自分の塔に軟禁すると、今度こそ、彼女を助ける為物凄く格好良い勇者が現れ、これまた物凄く格好いい方法で自分を倒してくれると思って期待に目を輝かせながら玉座で待っている」 「目を」 「案外つぶらで澄んでる」 そこまで必要な情報ではなかった。 「とにかく、だ。双方の利害は一致するだろ? 派手な設定で派手に暴れて、大ダメージ食らわせて倒して姫奪還! でHappy Ending」 「成程、ある意味シンプルですね」 だが仮にとはいえ相手はその世界に住む魔王、その一帯の支配者だ。舐めてかかれば必ず痛い目にあうだろう。 「それとな、王道展開を披露するのはお前らだけじゃないってことも覚えておいてくれ」 「ええ、じゃあつまり敵も何かそういう流れをもってくるんですか?」 「『敵側としての』王道展開を、だろうけどさ。四天王達は弱いからいいが、魔王に関してはそのへん良く考えたほうがいいかもしれない」 ひとしきり説明し終わったのか、伸暁は手にしていた漫画を音を立てて閉じ、積まれた本の山の上に重ねる。 それを見て今まで黙って何かを考えていた一人が手を上げた。 周囲に無言で促され、 「例えば事前に死亡フラグを立てての特攻攻撃とかもありですかね?」 「ありなんじゃねぇの? 魔王の判断にもよるだろうし、やる側もただじゃすまないだろうけど」 おお、と何故か嬉しげに漏らす。 「でもそういう展開ってその後が二分されますよね。全然効いてないか、あるいは確実な撃破につながる一撃か」 「『どこでその演出を入れるか』にもよるんじゃないか? 序盤なら……」 にわかに相談で盛り上がり始めるリベリスタ達の様子にふつりと笑みを零し、伸暁は一人腰を上げる。 楽しげなその笑みにはきっと目の前にいる彼らに対しての信頼も含まれているのだろう。 「『運命』を得てるお前たちなら多少の無茶もできるだろうし、それで踏める王道もあるんだろう」 そして、周囲に積まれた漫画やゲームの攻略本の類をずいっと押し出して彼は言った。 「資料は存分に用意したから使ってくれ……それじゃ、頼んだ、勇者さまご一行。無事お姫様を救ってくれな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:忠臣 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月12日(金)22:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●いざ挑め、魔王の塔! ~小物四天王VS忍者~ ――魔王は世界征服を企み姫をさらい、勇者はそれに抗う人々の希望である。 16歳で旅に出た勇者、『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)の旅の終着点が目の前にあった。 今日に至るまでの道のりは、長く険しく、喜びと共に悲しみも多かった。具体的には余り思いつかないが。 「でもそれも今日で終わり」 不吉に渦巻く紫の雷雲を背後に、そびえる黒く長い影。頂上に求める勝利と、助けるべき存在がいるはずであった。 「ここが、例の魔王のいる塔か……」 「気を引き締めていきましょう」 共に見上げる『ごくふつうのオトコノコ』クロリス・フーベルタ(BNE002092)やフィオレット・フィオレティーニ(BNE002204)の言葉に頷くものは多い。 そう、ここまで来てしまえばもう彼らには前進あるのみだ。杏も頷きを加えたのち、仲間に向き直って言う。 「さあ皆行くわよ!」 かくして唐突すぎる最終決戦が始まった。 塔の内部は見かけに負けず劣らず重苦しい雰囲気につつまれており、迷路の様に入り組み様々な仕掛けが施されていた。 だが雑魚敵が一切いない分突破は楽だったといえよう。あっという間に一行は4階まで辿りつく。 そして、唐突に開けたスペースに彼がいた。 「あぁれぇほんとに来たのー? 異世界の? 勇者? よっしゃ、じゃーさっそく戦おうぜ?」 いちいち首をぐりんぐりんひねりつつ、小物臭漂わせる男が四天王第四位、ペイン(自称)。 けれどこの事態はカレイドとフォーチュナのお陰で予測済みだ。 打ち合わせ通り、真っ先に『勇者のお供の影忍』黒部 幸成(BNE002032)が前に出る。 「勇者を無事魔王の元へ送り届けるのが我が役目……ここは任せて先に行かれよ!」 「んだぁ? 俺をお前一人で? 上等じゃねーか」 その流れに疑問一つ挟むことなくペインが鞭を構えて応じた。 形式の一つとして認知しているのか、それとも単純に馬鹿なのかは定かではないが、何にせよ面倒が少ないのは良い事だ。 「また後で……必ず!」 「ふっ……必ず追いついてみせるで御座るよ。心配召されるな。」 涙をぬぐい上を目指す仲間の背に一声、幸成も小太刀を手に姿勢を整えた。 睨み合う。ジリジリと間合いを詰めていく。 僅かな油断も命取りになりかねない。 刹那、お互いの一撃が交錯―― 暫し攻撃を放ったそのままの姿勢で沈黙を保っていたものの、ゆらりと体を揺らし、二人同時に地へと倒れ伏す。 だが『本当に』倒れているのは片方のみだ。 「やっぱ俺このキャラ向いてないよ魔王様……」 倒れたまましくしくとペインが嘆く側、幸成は迫真の演技で這い蹲りながら階段を目指した。 「皆の元へ……」 何か縋るものを求め、幸成の手が伸びる。 「行かね、ば……」 呟く声を残したまま、指は空を切り、落ちた。 ●マッドサイエンティストVSパラディン 幸成がペインと死闘(?)を繰り広げ終わった頃。 階数を数え登ること更に2階分、 「ペインはやられたのか」 また開けたスペースの中央で、眼鏡を指で押し上げながら機械と試験管類に囲まれた男が一瞥をくれながら言った。 事前情報を参照するなら、この男こそが四天王第三位、シモンだろう。 「まあいい。あいつは四天王の中でも最弱……あれ位は軽く倒せて貰わねば此方としても面白くない」 走った緊張は誰かが噴きだすのを懸命にこらえた結果だろうか。 否、 「だがこの私の毒からは逃げられのわー!?」 それは勇者勢の中から飛び出し早々にロングスピアの一撃を食らわせたフィオレットの物。 防御する間もなくひっくりかえって薬品をあちこちぶちまけるシモンの前に仁王立ちになり、勇者達を先へと促す。 「ここは私に任せて先へ!」 「何をする貴様!私の繊細な作業が台無しになふぎゃー!」 「せぇいっ!」 「ひぃい痛い!」 有無をいわさぬ全力攻撃。 最早薬品を扱うどころか試験管一本拾う暇すら無い。 ぶちまけた薬品に危険なものでも混じっていたのか刺激臭が漂い始める中、友情を育み始める(予定の)二人をその場に残し、上階へと進んでいった。 ●セクシー大魔導師VS武闘派異界の姫 ばいん。 効果音としてはその三文字が実に相応しいあれやらそれやらを揺らし次に立ちふさがったのは四天王第二位ことイザベラである。 「魔王様から聞いたわよぉ、あんた達一対一の勝負にして切り抜けてるんですってぇ?」 キセルのようなパイプをくゆらせ、イザベラが楽しげに笑う。 「まあそれもそれで面白いわねぇ。それで? あたしのお相手はどなた?」 「それじゃあお言葉に甘えて! ここはワタシに任せろー!」 彼女の前に立ったのは『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)である。 「あら女の子ぉ? 魔王様みたいなイケメンがよかったわぁ」 まあどうせいないみたいだしいいけど、と肩をすくめ、彼女はひらひらと階段を示すように手をふった。本当に通してくれるようだ。 若干の警戒を交えながらも先へ進む仲間を見送って、明奈は改めてイザベラに向き直る。 そして鋭く指差し―― 「知ってるかい? ジョシコーセーは強いんだぜ!」 「……ジョ? 何?」 「それに……そのないすばでぃ、許せねー! 秘訣を教えろ! 勝ったら!」 明奈の台詞に思わず体型の差を見比べ、 「勝ったら、ね。その身にくらいなさい、あたしの氷結魔法を!」 四天王第二位は全力で調子に乗った。 これみよがしにセクシーなポーズをとると、全身から冷気を伴う濃霧を発生させ、明奈へぶつける。 しかし。 神々しいオーラを見に纏いながら、彼女の魔法をものともせずにずんずんと歩み寄ってくる明奈。 その光景は残念な勇者ばかり目にしてきたイザベラにとっては未知の物。ジョシコーセーはきっと彼女の辞書には相当恐ろしいものとして登録されたはずである。 「この世界の理で紡がれた魔法が、通用するとでも思ったか!」 限界まで体を押しつぶし、その力をバネに踏みきり、スカートを翻して飛翔――下降。 「ワタシのぉー……勝ちだっ!」 明奈の靴底は吸い込まれるように肩口を捉え、見事にイザベラを吹き飛ばしたのだった。 勝利したあと場を立ち去る際、本当に秘訣とやらを教えて貰えたのかどうかは本人のみぞ知る。 ●黒騎士&闇の神官VS騎士と姫 続く障害――四天王第一位のフレドリックと神官のセイレムもまた、聞き分けよく階段前をあけた。 あまりに良すぎる気もするが、久々に然と向き合って貰える『敵』を得て、彼らも彼らなりに嬉しかったのかもしれない。 「我々を足止めしようという者以外は行くがいい。魔王様がお待ちだ」 「ですが我々をも一人で相手するつもりではございませんな? それはあまりに無謀というものですぞ」 彼ら二人の値踏みするような視線に答えたのは、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)と『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)。 「アラストール様、必ずや、皆と共に姫を助けるのですぅ……!」 「ああ、勿論だ」 軽く背をかばい合うように並んで対峙、アラストールがブロードソードを抜いてみせる。 「信頼し合うのは貴公等だけではない」 その姿はまさに姫と騎士。 相手側もそれを見て取ったのか、感嘆の息がいずれかから漏れた。 そして、それ以上言葉を交わすこともなく二組は動く。 アラストールが先陣をきってフレドリックに迫る、と見せかけて脇をすり抜け、セイレムを捉える。 そのアラストールの影から飛び出したロッテが狼狽えたフレドリックの隙を正確につく一撃を放つ。 完璧な連携に翻弄された彼らに対処の暇はない。 なかった筈だが。 「私は少し休めば大丈夫だ、ロッテ嬢、先に……」 「ふふ……わたしも、力使いきっちゃったみたい……」 無事撃破したにも関わらず、二人が二人、膝をついた。 凭れかかった壁からずるりと身を倒す背には、赤。 それを顧みもせず、アラストールは目を閉じる。 辺りはそうして無音となった。 ●魔王VS勇者と賢者と光の神官 最上階への道のりは今までの(思いつかない)道のりをも凌駕して長く、険しく感じられた。 勇者を辿り着かせるためだけに一人、また一人と仲間は数を減らしていき、最終目的地に辿りついたのは、杏とクロリス、『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)の三人だけ。 そして目の前に、玉座に座した魔王が居る。魔の者といえどその堂々たる態度は君主としての誇りを感じさせるものだ。 その口が重々しく開く。 「全てを賭してここまできたか。その覚悟、敵ながらに賞賛に値する」 「別に何も賭けちゃいないわ。皆のこと信じてるもの」 「ふ……さすがは勇者ということか」 妙にダンディーな笑みを一つ、動きにくいマントと肩当を玉座に残して腰をあげる魔王。 それだけで、ただその場に立っただけで視界が魔王で占められるような錯覚が襲うのはその体が全体的に大きいからだろうか。 だがひるむ事もなく、三人はしっかりと武器を握った。 「さあ、お前の悪行もここまでよ! 異界の姫を返しなさい!」 その声が、合図。 「二人は倒れさせないよ…!」 クロリスの『歌』が響く玉座の間、 「さあ、飛ばしていくわよ」 「きさまのために練り上げた技よ! 受けとれい!」 二人のフライエンジェの翼がはためき、眩くも破壊的な光線が二条、魔王を捉えて爆発を引き起こす。 勇者と賢者の合体攻撃……を、想定した別々の技だ。 けれど直に受けた魔王は低く呻いている。 いける、と三人で頷きあった。 怒涛の勢いの攻撃が始まる。 死んだはずの父から受け継いだものだと語り武器や技を小道具も交えてふるえば、相手はその一撃一撃を意味あるものとした。 個人で用意していないものにも、賢者役のウルザがアドリブ解説を挟んでいく。 流石に技の質自体を変える事はできなかったが、威力の底上げは確実に実を成し魔王の体力を削る事に成功した。 勿論魔王からの攻撃がないわけではないが手数でも何倍も勝っているし、クロリスの回復もある。これなら『この後の演出』も必要ないかもしれない。 そう思いかけた思考は、突然含み笑いを漏らし始めた魔王の様子に中断された。 「異界の勇者はかくも素晴らしきものか」 くつくつと喉を鳴らし、魔王が俯き、次第に前かがみになっていく。 負けを認めるか? それはあるまい、この魔王が―― 「こちらも本気を出さねばならないようだ……!」 「え?」 聞き返すよりも早く、幹に近い枝がおれるような、太くも乾いた音がした。 似た質の音が次々と連鎖し、膝を折った魔王の背が内側から勢い良く膨れ上がる。 そうして先ほどまでの『大きい』とは根本からして次元が異なる巨大が場を支配した。 空気が震え、足場が揺れるほどの咆吼を上げ、灼熱の炎を纏う一体のドラゴンがそこにいた。 ●決戦! ドラコー8世 「変身、した……?」 「これくらい魔王として『普通』であろう」 ふすー、と鼻から高温の煙を吐いて誇らしげにする魔王。 「さあどうする。今大人しくわしに従うなら、この世界を手中に収めた暁にはお前らにも分け前をやるぞ?」 典型的な台詞だがこの姿をもって述べられれば説得力はある。 しかし、勇者とその仲間たるもの頷く訳にはいかない。それを態度で示すため新たに攻撃を重ねれば、魔王は耐えるように顔を歪めつつも呵呵と笑った。 「実に良い! 素晴らしいぞ勇者達よ! 『それでこそ』宿敵!」 そして、体を震わす。歓喜か、それとも恐ろしい何かか。 「だがこれまでだ! 久しぶりに楽しませて貰った礼に一撃で塵も残さず葬り去ってくれようぞ!」 後者であったようだ。 魔竜の口が大きく開き、中に光が収束し始める。 「ああ! 魔王様が在りし日の邪悪さに……!」 「もう本当より弱いふりをしなくてもいいんだ! 演説を交えて相手に時間をやることもないんだ!」 「普通に優しいんじゃないのそれ!?」 いつの間にか復活して様子を見に来ていた四天王達が感涙に咽び勝手なことを漏らしているので思わずツッコむがそれどころではない。 覚悟を決めたクロリスが杏を庇うために前に立とうとし、 「ん、あれ?」 『四天王が、様子を見に来ていた』事に気づき思わず後方を二度見する。 と、いうことは。 「あ……!」 クロリスが視線を戻した先、そこに彼らがいた。 「待たせたな!」 魔王との間に、影が4つ。 「何!? お前達は倒れた筈では」 「私達はそう容易く倒れんさ」 小柄ながらも凛と前を向く騎士アラストール。 「ここからは俺達のターンだ!」 武器を構えにっと笑みを浮かべるパラディン、フィオレット。 「プリンセスは遅れて登場するものですぅ!」 自信満々に胸をはるロッテ姫。 「負けないよ! みんなの力を合わせて、魔王を倒すんだからな!」 横で明奈姫もそれに倣う。 「本当の力をまだ見せきっておらんのはこちらも同じだったということじゃよ」 そして合わせるウルザの視線の先に、もう一人。 「な……!」 「勇者殿、皆の勇気を一つにして力と成すので御座る……それこそが勇者の最強魔法……」 漸く気づいたのか身を揺らす魔王。その背にしがみつきながらも穏やかに語る幸成の顔は、最早良く見えない。 手元には膨れるエネルギーの塊――『死』を前にした忍の姿は、仲間にはどう映っただろうか。 「然らば、自分はこれにて御免……! 自爆忍法・微塵隠れの術!」 誰が手を伸ばす暇もない内に事は動く。 閃光。 爆音。 技は発動し、爆発に巻き込まれた柱や天井が砕けて砂塵と化し視界を埋める。 煙が晴れたとき、そこに幸成の姿はなかった。 「幸成……!」 魔王の向こう側にでも落ちたのか、彼らしき影は見当たらない。 「ぬ、ぐぁ」 幸成の渾身の一撃を受けた魔王が鳴く。 倒れはしない。見た目すら殆ど変わらない。だがその一撃は、確実にダメージとして彼に伝わっていた。 巨体が大きく姿勢を崩す。 この瞬間を逃せばもう同じような機会は巡ってこないと誰もが知る。 魔王さえも。 だから、 「もう一押しみんなの力が必要なの、お願い力を貸して!」 「各々がた!いまですぞ!」 「みんなの力を結集するのよ!」 杏の元に仲間が集うのを前にして、魔王は膝をつくことも防御へ走る事もなく、踏ん張っての正面衝突を選んだ。 全力対全力。 『それでこそ』――それこそが。 「幸成の思いを無駄に出来るか! 受け取れ勇者!」 「ここで、一気に決めちゃえ!」 「決めちゃえー! ですぅ!」 「いっけぇーっ!」 演出も兼ねた、各個の放つ光が、オーラが、『勇者』に寄り添う。 実際に今から放たれようとしているそれはたった一つ、杏の攻撃でしかなかい。 けれどそれに全員の、全身全霊がこめられているのは端から見ていた誰もが理解しただろう。 お、と。杏の喉から漏れでた一音を、腹の底からの雄叫びが追う。 「 !」 それを上回る轟音が広い玉座の間を満たした。 『8人分』の雷撃がうねる様はそれ一つが生き物の様である。喩えるならば、竜に相対する、龍。 地面すれすれをのたくって突き進み、一足遅れて放たれた魔王のブレスを切り開き、喰らい、そして。 そして、 全てが光に飲み込まれた。 ●Happy Ending? 「討て。わしの負けだろう」 「それはしないよ、殺していいのは生き物の命を貰って飯を食う時だけだから」 「異界の勇者にとっては討つ価値もないか」 「そ、そうは言ってないよ?」 「……まあいい。わしは負けた。姫は返そう。それでよいな」 「? あ、うん……」 魔王撃破は、成った。あの一撃が全てを決めたのだ。 倒れこんだ時点でこっそり回復していた幸成は、『様子を見に来た仲間の涙で復活』した。 誰も欠ける事無き勝利。案内役を任されたフレドリックも賞賛しきりであった。 ――そうして紆余曲折を経た先、漸く辿りついた一室。 ロッテからの空気が一段冷えるレベルの『豪華』を現実にしたような部屋の中央に、ブレザー服に身を包んだ至極普通の少女がいた。 あまりに当たり前に普通が故周囲からの浮きっぷりが半端ないが、本人は気にした様子もない。誰が声をかけるよりも先に少女がこちらに気づいて席を立ち、すたすたと歩み寄ってきた。 「貴方達が『勇者』? そろそろ夢から覚める時間?」 成程、と一種の理解が仲間に広がる。彼女は一連の事態を現実逃避的な解釈で混乱を避けていたらしい。 勇者一行――もとい、リベリスタ達は顔を見合わせる。 彼女が自らそう思い込んでいるならばそれも良いだろうか。 「……ええ、そうですよ」 「もうっ! 二度とこんな奴らに捕まらないでよねぇ! わたしの役目なんだからぁ!」 「え? あ、はい。すみません」 我慢できずに尖った口で言うロッテにも、素直に頭をさげる女子高生である。これ以上事態をややこしくする事もない。 「さあお姫様、元の世界に帰りましょう?」 帰りましょう。重なる声。 差し出された手に少女は目を落とし、軽く躊躇いを挟んでから握り返した。 そうして勇者達は姫と共に凱旋した。 不服そうにしていた魔王が気になる者もいたようだが、杞憂に過ぎなかったのだろうか。 少なくとも新たに『姫』がさらわれたという話は、今のところ、ない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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